仮面ライダーセレナ第壱拾八話:中-1「ホイールアタック・リターンズ/黒と青」
 コレまでの仮面ライダーセレナは


セ『もう作者も忘れてますよ』
鷹「と言うか、私の出番はいつになるの…」
ク『もう無理して入れない方が良いんじゃないかな? かな?』


***







 旗岬町の海沿い、そこの旧工場地帯にあるとある倉庫にレインコートの少女は立っていた。

「……」

 天井に空いた大穴、と言うよりも最早天井の殆どが吹っ飛んでいると言った方が良いような大きさの穴、そこから雨が倉庫内に降り注いでいる。その雨が降る曇天を、彼女は何をするでも無く、雨に濡れもせずにただ立ち尽くして見上げていた。

「…――」

 その視線がふと大穴の端に向く。穴の“断面”は何かに溶かされたかのような状態に成っており、その周りはよく見ると火にでも炙られたかのように焦げていた。まさか雨風で腐食して自然に開いた物ではあるまい、鉄をも一瞬で蒸発させるような超高熱を持った炎の柱に貫かれたらこう成るのではないか、見る人が見ればそう想像できる様な穴だった。
 彼女はその断面を凝視しながらぽつりと言葉を吐く。

「会いたいなぁ…」

 誰に向けて放たれた訳でもないその声は、雨の音に紛れて消えて―――



「やっぱりお前だったのか」



「っ!」

 声のした方向、倉庫の入り口に彼女が振り向くと、そこには雨に降られるままにずぶ濡れになった赤毛の少年が彼女の方へ歩いてきていた。

「久しぶり…だな」
「あ…」
「まさかそっちから来るなんて思って無かった」

 歩みながら喋る少年の声に混じるのは、平静を装いながらも隠しきれない憂鬱さと苛立ち、そして僅かな喜びだった。

「俺が倒されて以来か、もう何年になるんだか」
「あ、あぁ…」
「俺はこの数年間、色々やってきたよ。お前とまた会う為に」

 一方、やや暗い声で話し掛けられている少女は、少年の姿を目を見開いて凝視していた。
 そしてその顔を僅かに紅潮させ、身体を小刻みに震えさせ――

「なぁ、お前はd「灰くんッ!!」おごぶっ!?」

 荷物を放り出しながら残像が見える程の速さで少年の腹部に向かって頭から吶喊、そのままもみ合うように二人一緒にゴロンゴロンと転がり、二人して水浸しになりながらも離れない、と言うより少女の方がもの凄い力で少年にしがみついているようだ。

 やがて転がる勢いは弱まってゆき、最終的に少女を上にして二人は止まった。

「灰くん…灰くん、灰くん灰くん灰くん灰くん灰くん灰くん…」
「うっ…いっ、つつ…いきな…り」
「灰くん灰くん灰くん灰くん灰くっ…うっ、ひぇ…うぐ…やっと…やっ、やっどぉ…あ゙え゙だよぅ」
「……」

 退けられたフードの中から出てきたシャギーの入ったおかっぱの髪、それを振り乱しながら少女が顔をぐりぐりと押し付けて来る腹部に、雨の冷たさを押しのけてじんわり広がる温かさ。
 お○らし…ではなく少女の涙がシャツにジワジワと染み込んで広がっているらしいと少年は理解する。

「ひくっ、ひっ…ぐしゅ」
「……」

 言いたいこと、確かめたいこと、すべきだと決めた事、色々有ったが、今はとりあえず

「……はぁ」
「ひぐっ…灰、くん? 灰くん灰くんっ、うじゅ…ふぇぇぇ…」

 頭を撫でてやることにした(思考停止とも言う)。





「なぁ、幾つか聞きたいことがあるんだが」

 頭を撫でること数分、突然少年から発せられた問いに、少女は顔を上げた。
 丁度馬乗りになっている体勢だ。見た目的にヤバイ事この上ない。

「まずはだ、何でこの街に来たんだ?」
「…灰くんに会い来た」

 平坦な声で答える少女の表情はいつの間にか無表情に戻っていたが、その顔は目元を中心にまだ少し赤みがかっている。
 一方の少年の方はその答えを聞いて僅かに身体を硬くし、続いて問いかけた。

「俺がこの街に居るってのは何処で?」
「…人に聞いた」
「それは………」
「灰くん?」
「…それは、CCC団の関係者から…か?」
「……」

 問いの意義が分からなかったのか、少女は戸惑うように視線を泳がせる。

「どう、なんだ?」
「…綺稲は、CCC団の一番偉い人だって言ってた」
「そうか」

 そう一言吐き出すと、少年は少女を押しのけて立ち上がった。そしてくるりと背を向けると、そのまま歩き出す。

「灰くん、待っ――」
「俺はさ、色々やってきたんだ。本当に」
「灰……くん?」
「情報を集める為に組織に所属して、思い出すのもバカらしい、言えないようなことも、命令されればやった。この…力を使ってさ」

 足は止めないまま手の平を何かを乗せるように開くと、そこに雨に打たれているにも関わらず火が点る。

「今更言い訳する気もない。沢山踏みにじって沢山奪ってきた。後悔しなかった訳じゃ無いけど止めようと思った訳でもない。俺が選んだ道だ」
「…灰くん、何を言ってるの?」
「ああ、訳分からないよな。全部俺の都合だ。俺が勝手に馬鹿やって、俺が勝手に悩んで、俺が勝手に愚痴ってるだけだから。でも―――ごめんな」
「……」


 謝罪と共に手の平の中の火を握りつぶし、立ち止まる。


「俺は―――」


 言葉と共に右腕に巻き付いたリストバンドが光と放ちながら形を変え、呼応するように全身彼の全身が燃え上がった。


「お前を―――」


 炎の勢いは見る見る強くなり、彼の姿を完全に覆い隠す程にまで大きくなると、弾けるように消える。


「―――例外には出来ないんだよ」


 炎の中から現れた“フレイムファクター”は、震える声でそう言い放つと右の拳から人の頭程の大きさの火球を生み出した。

「え? 灰く、ん…」
「頼む……恨んでくれ」

 生み出された炎はフレイムファクターの意志を受け、加速、真っ直ぐに遊希と呼ばれた少女に向けて牙をむく。

「…あ」

 一瞬の後、少女は無防備なままその姿を巨大な爆炎の中に消した。

















 雨の中、赤々と燃える火が曇天で薄暗い空を照らす。
 己が起こした光景を見ながら、フレイムファクターは唸るような声を吐いた。

「―――何でだ」

 強い炎とは言えこの雨の中、可燃物もない状態でそう長く燃え続けはしない。直ぐに火は小さくなり、やがて覆われていた部分が露わになる。

「……」

 現れたのは尻餅をついた体勢の少女。レインコートがあちこち焦げ気味な事と長靴が片方脱げていることを除けば目立った怪我は見当たらない。代わりにその直ぐ前のアスファルトに大きな焦げ目がついている。それを見てフレイムファクターは拳を音が鳴る程に強く握りしめた。

「何で、動かなかった!」
「……」
「逃げようともしない、避けようともしない。表情も変わらない。何でだ、おかしいだろ。俺は! お前を! 殺そうとしたのに!!」

 何も言わない遊希にフレイムファクターはますます激昂してゆく。
 横に跳んで軌道上から避けるか死なないように防御する、その程度のことは出来たはずだった。

 しかし現実には彼女はまるで動かず、ソレを瞬間的に見て取ったフレイムファクターは自分でも分からないうちに炎弾の軌道をねじ曲げ、挙げ句、着弾した時の爆炎の操作までして避けさせてしまっていた。
 あんな思わせぶりな前置きをしておいてこの体たらく、彼が己に憤るのには十分すぎた。

「何で! …何で…避けようとしてくれなかった」
「………」
「お前が拒絶してくれなきゃ、俺は…俺は…っ!」
「……良いよ」
「?」
「灰くんが私に死んで欲しいなら、灰くんが手を下してくれるなら、私はそれで良いよ」
「! な、何を言って――」
「…ん…あれ…あ、水が解けてる」

 遊希返答にフレイムファクターが愕然とする前で、彼女は立ち上がろうと腕に力を込めるが、その試みは失敗して再度尻餅をつく結果となった。その行動を見てフレイムファクターはあることに気付く。

「お前…足が…」
「うん、また(・・)歩けなくなっちゃった」
「何で……奴等(・・)に操られてた時は…」
「正気に戻された後、前みたいに足が動かなくなった」
「でも、さっきまで立って…」
「それはコレ」

 彼の疑問に答えるように遊希の周りの地面を濡らす雨水の一部が不自然に蠢き始め、ベルト状に形を成して蛇のように彼女の足に巻き付きながら上って行く。やがてそれが脚全体に完全に巻き付くと「んしょ」と短い掛け声をかけながら立ち上がった。

「灰くんに会う為に、一生懸命練習したんだよ」
「……」
「私は、灰くんが居ないと何も出来なから、何処にも行けないから」
「っ!」
「ねぇ」
「……」
「灰くんが私の為に在ってくれたように、私も灰くんの為に在りたい。だから灰くんがそうしたいなら、それで良いよ」

 薄く微笑みながらそういう少女の目を、フレイムファクターは直視できなかった。

「…訳、分かんねぇよ…」

“ギュオォォォォ―――――…”



「何でお前はそんなっ  “ズゴォン!!!” ぐぬわ――――――っ!!?」



「灰くんっ!?」

 唐突に猛烈な勢いで横から突っ込んできた黒い影にフレイムファクターがはね飛ばされた。
 その巨体は10M以上も吹っ飛び、天井の無い倉庫の入り口を潜り抜け、更には反対側の出口をも超え、その向こうの海の上にまで辿り着き―――




“ドッボォ――ン!”



「か、灰く――――ん!!」



―――落ちた。







“ドッドッドッドッドッドッドッド…”



「えーとこれは……なんつーか…」
『前回と全く同じだな』

 唖然としてフレイムファクターが飛んでいった方を見ていた遊希は、その声の方へとぐりんと頭を向ける。

「で、アッチの方は…」
『間違いなく反応の片方だ、油断すべきではないな』

 そこに居たのは今もアイドリング音を響かせる黒いバイクに跨った黒いヒトガタ。顔まで覆う黒いアーマーに赤い複眼。まさしく『仮面ライダー』
 『仮面ライダーフォルテ』――彼が今の現象を起こした下手人であった。

「でも今襲われてたよな」
『知らん相手の都合なぞ、それこそ知らんな』
「いや、そう言ってもよ…おい、一体何が「……くも…」え?」
「…よくも…灰くんを」

 静かに、しかし威嚇するような声でそう言われ、フォルテがバイクの上で身構えたその時……

『主!』
「っ!」“ギンッ”

 相棒の声に咄嗟に顔をガードしたフォルテが感じたのは、腕に感じる衝撃と金属を引っ掻いたような甲高い音。その腕には傷こそつかなかった物の、うっすらと湯気が上がっており、それを成したであろう眼前の少女の手には、いつの間にか口から水を垂らすペットボトルがまるで振り抜いた刀の如く握られていた。

「今のは…」
『主! 警戒を解くな!!』

 続いて起こった現象は更に不自然克つ広範囲に及んだ。突然フォルテに降り注いでいた雨粒が無くなり、同時に周りの地面が波打ち始める。いや、波打っているのは地面を濡らしている水だった。

“ザザザザザザザザザザザザザザザ!”

 周囲のあらゆる『水』が、蠢き、泡立ち、渦巻きながら、遊希の姿を覆い隠すようにして不透明な丸い塊を形成する。

 そして水の玉がぶるりと一度震えると、その正中線に裂け目が入り、次の瞬間、飛沫を撒き散らしながら開いた(・・・)




「オオオオオオオオオォォォォォォォォ――――――――!!!」




 響く咆吼。
 中から現れたのは一言で言うなら『ドラゴン』
 透明感のある蒼い装甲を纏った女性の上半身、双角を生やした兜を被ったような頭部に、長く鋭い爪を持つ両腕。更に特徴的なのは、背中から広がる透明な翼と、人間とは全く違う、伝説上の怪物“ラミア”の如き丸ごと尾と化した下半身。

 それが宙に浮かびながら天に向かって叫んでいた。

「くっそ! 結局こうなるか!」
『何らかの逆鱗に触れたようだな…竜だけに』
「なに『上手いこと言った!』みたいな雰囲気出してんだよ!! つーかコイツは…」
『ああ、私も覚えてるぞ、アクアファクターだな。やや語呂が悪い気がするな…』

 やや場にそぐわない事を(のたま)う彼らの前で、水の柱が何本も立ち上がった。

「いいっ!?」

 それらは大蛇の様にうねると、一様にその先端をフォルテに向ける。

「くっ、うおおおおぉぉぉぉっ!!」

 すぐさまバイクのアクセルを全開にして急発進。直後、彼らの居た場所を水の大蛇が打ち貫く。目標を外して地面に当たった水蛇はその身を衝撃で飛び散らせるが、その飛沫が無数の矢となってフォルテに襲いかかった。

『横に!』
「ちぃっ!」

 強引にハンドルを切りそれも何とか躱しつつ倉庫の中に入り込み、ターンしつつ急停車、アクアファクターに向き直った。

「…許せない…許さない」

 ブツブツを呟きながら翼を広げるアクアファクター。そこへ周囲の水が集まり、翼の面積を数倍に拡大させた。それだけでなく、余った水も無数の水球に成って浮かぶ。その数も雨によって水が幾らでも供給されるせいか、空から舞い降りるようにどんどん増えて行く。


「灰くんを傷付けるヤツは―――」
「やべぇ!」



「―――私がぁ、潰してやるッ!!」



 フォルテがハンドルを切ってオルタチェイサーを急発進させるのと、水達が一斉に動き出すのは同時だった。水球から変化した矢・弾丸・砲丸、翼から伸びる槍、それらがフォルテを狙って飛来する。

「――――っっ!」

 それらを間一髪回避しつつ、出口の外にいるアクアファクターからは見えない位置に入り込んだ。しかし水達は倉庫の壁を粉砕しながらフォルテを追いかける。

「くっ」

 倉庫の中だけで逃げ回る訳にも行かず、ウィリーで持ち上げた前輪で前方の壁をぶち破りながら脱出。そこには―――

「げぇっ!?」

 前右左上、辺りを埋め尽くすあらゆる形状の水の群。それらがコチラに気付いたナニカの群れの如く、一斉に動き出す。フォルテがしまったと感じるよりも早く最小ダメージで済むコースを導き出した『フォルテ』からの声が彼の思考に割り込んだ。

『主、11時の方向に!』

 反射的に視界に表示されたサインに従ってハンドルを切り、姿勢を低くしながら水の群れの一角に全速力で突っ込む。けして軽くない衝撃を全身に受けながらも、何とか包囲網の外に出る事に成功した…と思いきや今度は何故か辺りが心持ち暗くなった。

『上だ!』
「ぬ、ぬおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



“ッゴッオォォォォォォン!!!!”



 上空から振ってきた巨大な水の分銅を、ヤケクソ気味にアクセルを全開にして間一髪振り切り、砕け散った分銅が撒き散らした大量の水にバランスを崩しそうになりながらも何とか立て直す。

『この雨の中ではヤツの補足からは逃げられない、もう一度何処かの倉庫に入れ』
「だなっ!」

 水を司るエレメントシリーズであるアクアファクターに取って、この雨も、地面を濡らす水も、全てが手足であり感覚器。今は走り回っているから辛うじてどうにか成っているだけだ。人間だってハエや蚊が手の届く範囲に居ても飛んでいるのを捕らえるのは骨なのと同じである。しかしだからこそ、こんな状況で足を止めればそこでお終いになるだろう。

(いや、近くに海があるなら、それを使ってここら一帯を纏めて押しつぶすことも出来る筈だ。そうなりゃ俺がどう逃げてようが関係無いはず。何でしない?さっきはねたヤツが海に沈んでるからか?)

 疑問を抱きつつも、周囲に向けて張った気もハンドルを握る手も弛めない。
 “バン!バシャン!ドンッ!バンッ!”と切れ目無く響く破裂音や破砕音。
 後ろから追いすがってくる水の群れを振り切り、際どい位置に降り注ぐ物の合間をかいくぐり、時折進路を塞ぐように展開される物は強引に突き破りながら走り続けていた。


 そこへ警告が挟まれる。


『もうすぐダメージレベルがイエローゾーンに入るぞ!』
「チッ!」

 エレメントシリーズの支配下にあるとは言え元は水。特別な効果が付与されていない物を一発や二発食らった所で致命傷には成らない。しかし数十と水の弾丸を食らい続けたフォルテの全身の装甲はヒビだらけになっていた。

「何か切り返す手段は―――っ!!?」

 そこで突如地面からボンッと破裂音が響き、フォルテの身体はオルタチェイサーごと空中に跳ね上げられる。

「ぬあぁっ!?」
『まさか…地面の水をっ!』

 更にフォルテを360度あらゆる方向、角度から包囲するように集う水、水、水…。
 数十どころか数百、或いは千に届くだろうかと言うそれは皆、一様に空中のフォルテを穿たんと待ち構えていた。慣性で前方に進んでいるとは言え、空中ではハンドルを切っても方向は変えられない。フォルテには姿勢制御用のバーニアが有るが、それもこの包囲を抜ける様な動きを実現するには程遠い。
 そもそも抜け出すような隙間がないのだ。しかも現在の全身にダメージを受けたフォルテでは、この百は下らない数の水の脅威に晒されれば防御しようとも大破は免れないだろう。だが…

『まだっ! オルタチェイサー:エアフォースシフト!加速(アクセラレイト)っ!!

 『フォルテ』の声と共にオルタチェイサーが飛行形態(・・・・)へと形を変え、その身をフォルテの盾にしながら水の群の一角へと突っ込んでいった。当然、水の弾丸はオルタチェイサーに当たってバシンバシンと音と衝撃を残して弾けて行くが、やがてその音に破砕音と金属が軋む音が混じり始める。

「――くっ…」

 更に耐えること数秒、周囲が暗く成ると同時に衝撃と音が止む。そこでオルタチェイサーは力尽きたように揚力を失い、地面に落下していった。

“ゴシャン!”「ぐうっ!!」

 墜落の衝撃でフォルテの身体は投げ出され、オルタチェイサーと共に“ガリガリ”と音を立てながらコンクリートを数メートル程滑って行く。








「………つ、お…」
『主、大丈夫か!?』
「あ、ああ…思ったより痛かねぇがクラクラすんな…そっちの調子はどうだ?」
『機能チェック…装甲部のダメージは軽くないが…機関の稼働に問題は無いな。修復も滞りなく始まっている』
「そうか、オルタチェイサー(コイツ)のお陰かね…」

 そう言ってフォルテは飛行形態のままのオルタチェイサーに手を当てる。フォルテの代わりに水を一身に受けた代償だろう、ウイングは片方が半ばから折れ、ボディにはあちこちにヒビが入り、煙すら噴いていた。

「コイツの修復は?」
『エネルギーはまだ余裕が有るから修復自体は可能だ。だたし再稼働までに約450秒かかる』
「なら、この戦いじゃもう使えねぇか」

 そう言ってフォルテは億劫そうに立ち上がり、辺りを見回した。どうやら倉庫の中にいるらしい。突然暗く成ったのは入り口に飛び込んからのようだ。また、水の弾丸も止んでいた。

「小休止…か?」
『確かに外に比べて水が少ない此処なら多少は補足しにくくはあるだろうが…』

 一端言葉を止めて、一息ついてセリフを繋げた。

『…まさかそう甘い相手でもないだろう』
「まぁな―――ッ!」

 軽く相棒に答える彼だったが、突如ぞわりとした感覚を首元に感じ、咄嗟に地に伏せる。

『主?どうした』
「何だか嫌な予感がして……えっ!?」

直後、上の方と直ぐ傍の地面から連続で“ジャジャジャギッ!”と何かを削る音が連続で響く。

『今のは…』

 何かに気付いたような声を『フォルテ』を出すが、フォルテが身を起こす前に今度は彼方此方から“ズッ”と思い物が動く音が聞こえ始めた。そして続いて起こった現象に彼らは度肝を抜かれる。

 彼らが今いる倉庫、それが外から巨大なナイフで滅茶苦茶に切り分けたかの如く裂け目が刻まれた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)からだ。

「はいいっ!!?」
『これは…ウォータージェットか。水圧カッターとも呼べる物だ。もっとも、本来ここまで遠くまで届く物でもないんだがな、そこは流石エレメントシリーズと言ったところか』
「こ、こんな技、前に倒した時は使ってなかったぞ!?」
『洗脳から解放された事で能力を応用する事を覚えたのだろう。機械的で無くなった分、精密性は落ちている様だが』
「ちっきしょー!! 復活一戦目は不具合付きで二戦目は相手がエレメントシリーズとか、何だこの罰ゲーム!」

 線に沿って音を立ててずれ、やがて崩れ始めた倉庫から退避する為に出口に向けて走り出そうとするが、その足は数歩で止まった。

「! クソが…」

 彼らが足を止めた理由、その目に映る物、それは出口は塞ぐように群れる水。見れば窓や他の出入口からも水の群が見える。この崩れつつある倉庫は、いつの間にか周りをグルリと取り囲むように囲まれていた。

『暢気に相談している場合では無かったか。済まない、主』
「付き合った俺も悪い、気にすんな。それよりコレを凌ぐぞ! っと、こりゃ丁度良いか」

 そう言ってフォルテは視線を天井に向けて、落ちてきたコンクリートを拳で粉砕。同時に迫ってきた鉄骨をキャッチして、それを棍の様に振り回しながら次々と落ちてくる天井の部品や資材を弾いて行く 同時に瓦礫の合間を縫って飛来してくる水弾も捌いて行くが、そっちは弾く度に爆散する水に姿勢を崩される。

「ああくそっ!遊ばれてんのかこりゃ!?」
『いや、これはどちらかと言えば――』
「―――っ!」

 瓦礫や水弾の群れ。フォルテの周りを囲むその向こうに待ち構えるモノを見て、彼らの背筋に冷たい物が走った。それは回転する巨大な水の槍。ドリルと言うよりは竜巻に近い規模のそれは、先端をフォルテに向けてどんどん大きさと鋭さ、回転速度を増していた。

「足止め、かっ」
『とにかく回避を!』
「ああ…っ!?足が!?」

 最早是非も無し、水弾のダメージ覚悟で逃げようとするが、しかし足がコンクリートに突っ込んだかのように動かない。見れば足元が膝の辺りまで浸水していた。遮蔽物に四方を囲まれている訳でもないこの場所が自然にこんな状態に成るはずがない。

『…やられた』
「いや、俺等が迂闊だっただけだ!」

 渾身の力で片足を引き抜くが、もう一方を引き抜こうと今あげた足を下ろした所でその足は再び水の中に沈んで固定されてしまう。どうやらこの水の床は、内から出るのは阻み、外からは普通に沈むという、何とも都合の良い性質を持っているようだ。つまりこの拘束から逃れるには両足を同時に引き抜いて飛び出しつつ、そのままの勢いで水の範囲外に脱出しないといけないと言う事である。だが見たところ水は倉庫(跡)全域、約200M四方に広がっており、現状 (・・)のフォルテにはそこまでのパワーはない。
 畢竟、ここで取れる選択肢は

「受けるしかねぇ、腕を開けるぞ、チャージを頼む!」
『諒解した』

 水弾を弾き続けて少しでもダメージを減らした上で、その装甲で耐える事のみ。
 そうフォルテ達が決心したのに反応したのか、回転するだけだった水の槍が身じろぎするように動くと、フォルテに向かって一気に加速した。

“ギュゴォゥ!!!”
「まずは!」

 風を巻き込み、音を立てて向かってくる暴威の穂先に向かって手に持っていた鉄骨を突き刺すように突き出す。

“ギャギリリリリリィンッ!!!”

 だが水の槍は電動エンピツ削りの如く鉄骨をねじ削り、殆ど勢いを弱めずにフォルテを襲う。

『エクステンション』 “ガシャッ!”
「ふんっ!」“ゴウッ”

 それを見たフォルテも全く怯まず、蒼く輝き始めた拳を槍の先端へと叩き付けた。
 同時に両の拳から放たれる光が水を蒸発させ、押し退けて行く。

“ゴバアッ!!!”
「くっあ…」

 しかし、膨大な質量の水全てを防げるはずもなく、水の槍はフォルテの目論見通り(・・・・・) “鋭さ”という脅威を失いながらもその漆黒の体躯を丸ごと呑み込んだ。





「う…ぐ……ぎ…こ…なくそっ」
『ココまでは上手く行った。――…ダメージレベル、予測範囲内…とは言え長い時間は持たんかっ』


 己の体躯を押し流し、押し潰そうと荒れ狂う水の奔流中でフォルテは必死に耐えていた。セレナと違うフルフェイスタイプの頭部装甲のお陰で窒息こそしないが、渾身の力で踏ん張り続ける事で疲労は見る見る溜まり、全身から聞こえるミシミシギシギシと装甲が軋む音や、時折混じるメキメキと何かが壊れつつあるような音、ディスプレイに表示されるジリジリと変化して行くコンディションが焦燥を誘う。そんな中、彼は有る事に気付く。

「くぅ…そ……? おい、水の流れが…」
『ああ、こちらを中心に渦を巻き始めている』

 彼らがそう認識するのとほぼ同時、その周りの無数の影が飛び交い始めた。
 先程切り刻まれた瓦礫。それらが渦巻く水流に流され、それらが螺旋を描いてフォルテへと殺到して行く。

「ぐあっ!…っぐ…」

 勿論、そこらの瓦礫如きがフォルテの装甲より硬いはずもない。しかし自身が砕ける程の勢いで間断なく襲い来るそれらが生む衝撃は内蔵されている吸収機構 (アブゾーバー)でも殺しきれず、それに加えて全方位から押し潰そうとしてくる水によってアーマーに蓄積してゆくダメージをリカバリーする暇もなかった。


 その時、身を固くしながら防御越しに見上げたフォルテの視界、渦の中心線上遠方に小さな影が映る。最初は瓦礫の一つかと思われたその影は見る見る大きくなる――いや、水流に乗って加速しながら此方に向かってきていた。

『! 警こ』“ゴッ!!!”「っ!!!!…」

 それが何であるかを認識するより早く、斜め上から真っ直ぐ突撃してきたそれに真っ向から撃ち抜かれ、砕けた胸部装甲の破片を水中にバラ撒きながら、フォルテは背中から地面に叩き付けられた。


“ザザアアアアァァァァァ―――――”


「…げほっ、かはっ」
『ザッ…ガガ……胸部:エナジーダクト及び第二次装甲まで全損、オーラアブゾーバー変換効率77%までダウン、トータルコンディション:レッド…』

 役目を終えたせいか水の結界が流れて行く音をBGMに、フォルテは咳き込みながら自身の状態を読み上げる相棒の声をボンヤリと聞いていた。読み上げられる物以外にもモニターに並べられて行く諸々の損害。正直7割程度しか認識していないがそれだけでも惨憺たる有様なのは分かる。

「……硬いね、まだ壊れないんだ」

 そう呟くのは、彼の胸部に水を纏った爪を突き刺している蒼い龍人アクアファクター。
 彼女は龍の面の奥から冷たい眼光でフォルテを見下ろしながら、もう片方の爪に水を集めて行く。

「でもいいよ。壊れてないなら」

 そしてその集まった水でドリルを形成すると




「壊れるまでやるだけだし」




 フォルテの砕けた胸部へと、殺意を込めて突き下ろした。





…To be Continued
@PF
2012年09月03日(月) 01時04分19秒 公開
■この作品の著作権は@PF さんにあります。無断転載は禁止です。
■作者からのメッセージ
っべー。マジやっべーわ
何がやべーって前回投稿したのが一年と三か月前、この本分も殆どは大体一年前に書いてあった物なんだけど…
まぁ別の所で現実逃避気味にちょこちょこ活動してたりしてるんですけど、今読み返すとこの時の私と今の私で結構書き方の癖とか変わってて不思議な気分でごぜぇますだ

取り敢えずちょこちょこ改稿して投下した物の、こっから先は一応の話の流れの構想は有るんですが、それを料理するのにまた時間が掛かりそう(泣)
新しい学校もこれからガチで忙しくなる時期らしいので、次回もこれと同じ位空くかもなー(チラッ
それでも力の限り妄想し続けるつもりですので、変な所とかあったらご指摘、お願いします


まぁ、読んで下さる人が居るなら、の話ですけどねー(遠い目)

あ、レス返しは、また今度させて貰います。

NGシーン

「なぁ、幾つか聞きたいことがあるんだが」

 頭を撫でること数分、突然少年から発せられた問いに、少女は顔を上げた。
 丁度馬乗りになっている体勢だ。見た目的にヤバイ事この上ない。

「…灰くんになら何でも教えるよ?昨日何回おトイレに行ったかとか、今のスリーサイズとか、週に何回一人でシテるかとか」
「……あ…えー…じゃ、じゃあスリー…いやいやいやそうじゃないだろ俺!お前もいきなり下ネタは反応に困るから止めろ!」
「聞きたくないの?」
「………」
「………」
「……ん、んーコホン…よし、まずはだ、何でこの街に来たんだ?」
「…灰くんに会い来た」


流石にこれは悪ふざけしすぎたなァって事でw

この作品の感想をお寄せください。
セレナ、キターーーーーーーッ!
と、次々と作家様方がフェードアウトされていく昨今、久々に新作に巡り合えた僥倖を噛み締めつつ感想遅れてゴメンナサイ。…いや、テストのクソ野郎がですね。就活しなくていいのはいいけどテスト多過ぎだろ…
とまぁ個人的な事情はさておき、いつもニコニコあなたの隣に這い寄る感想失礼します。

>コレまでの仮面ライダーセレナは
前のお話から一年くらい間空いてたんでこういう時って便利だなこのコーナーとか思ってたら
>セ『もう作者も忘れてますよ』
思いっきり投げられたー!?という訳でセルフ復習してきました。さてさてグラサンフォルテお兄さんは灰君から8875円を無事奪い返す事ができるのか。ちゃっかり自分の分の会計も混じってる気がするけど親方日の丸(?)の灰君なら支払余裕だよね(ぇー
関係無いけどゴーバスターズのお陰でグラサンが物凄いかっこいいアイテムに思えてきた今日この頃。

>ヤンデレ水子ちゃん
一途すなぁ……。
灰君以外どうでもいい的な思考回路の方なんでしょうけど、こういうキャラって自分が悪いことしてる自覚が無い分一方的に敵として倒してしまうのは心証的にちょっとアレですな。

>灰君
今回悉く空回ってる気がするw
シリアスで決めていきたいのに周りがそれを許してくれない、苦労人の気質があるような。

>接触事故
何故轢いたし
まぁ水落は特撮では生存フラグなんで大丈夫ですよね!…でもそういや炎属性のキメラ的に海水ダイブってどうなんだろう。遊希ちゃんのマジギレ具合からして相当ヤバかったりしたらどうしませう

>フォルテさん貞操の危機
やばい!僕らのフォルテさんが!ドリルで!掘らr(ry

ってこの引きでまた間が空いちゃうなんて…ひでぇよ、これが人間のする事かよ!
しかしながら学校が忙しいんならしゃーなしだなってなもんでお互い頑張りましょう!(←現在再々試絶賛引っ掛かり中の人間の台詞)

それにしても
>NGシーン
初見本気で「何処に問題が?」と思ってしまった僕の心は穢れきってますね。比べて【鉄】八話の下書き見てみたら下品過ぎたので反省w心が荒んでる時に物書くもんじゃありませんな

それでは今日はこの辺りで。次回も楽しみにさせていただきます。
50 トレハ ■2012-06-09 19:18:30 pd82b4e.mie-nt01.ap.so-net.ne.jp
合計 50
お名前(必須) E-Mail(任意)
メッセージ


<<戻る
感想記事削除PASSWORD
PASSWORD 編集 削除