仮面ライダーワルキューレ Mission20 |
Mission20「狂気のライダー・ディオネ」 もはや訳が分からなかった。茉莉は必死で今の状況を何度も頭で理解しようとしたが、どうにもこうにも思考がまとまらない。自分たちをヤミーごと吹き飛ばし、今もなお大型ナイフの武器、ディオネブレードでライムフォームに斬りかかり、ライムフォームを助けようとしたシェリーフォームをライムフォームを蹴りつけた反動で振り返り大ぶりにブレードで切りつけていく謎のライダー。 茉莉「・・・ちょっと蒼真さん?これ、どう説明してくれるわけ?」 通信部にいた蒼真ももう普段の飄々としている様子はなく、予想外の事態に驚きを隠し切れていない。 蒼真「あれは、アスカから連絡を受けていたディオネシステムのライダー、仮面ライダーディオネ!!!システム上も何にも問題はなかった!!なのに、どうしてこんなことになってやがる?というか、テメェ誰だ!ディオネシステムの適合者、つまり紋章の持ち主なら分かるはずだろうが!!同じ紋章を共有しあう仲間なら!!お前たちは戦い合う敵同士なんかじゃねえんだよ!!仲間同士でやりあうんじゃねえ!!」 しかし、ディオネから帰ってきた返事はあまりにも抑揚のない低く冷たい、地の底から響くような静かな声だった。 ディオネ「・・・・仲間?・・・・・虫けらと一緒にしないで下さい。反吐が出ます」 蒼真「なっ、テメェ・・・!!」 ディオネ「私は争いをこの世からなくしたいだけですよ。その為に、争いを引き起こす存在をライダーも・・・怪物も・・・・・全てこの手で浄化しなくてはね・・・・」 真夜「・・・・・・・・・・・!!」 通信が切れた。あまりにも狂気に満ちた返答。最後には笑みさえ浮かんでいるように見えた、あまりにもおぞましく吐き気さえ感じるような蕩ける甘く、それでいて何が何でもやり通す信念で凝り固まった、まだうら若い女性の声。 蒼真「くそっ!!!翠たち、急いで合流してくれ!!!緊急事態だっ!!!」 一方で蒼真の後ろで真夜も怒りで顔を紅潮し、身体を震わせていた。先ほどのディオネの言葉はかつての怨敵がよく口にしていた言葉を彷彿させるからだ。 真夜「・・・・・・・・どうやら、ディオネシステムは渡ってはいけない人物に渡ってしまったようですね・・・・正義正義謳えば何をやっても許されると・・・?」 ガゴンッッ!!!!! 蒼真が後ろから響いた大きく鈍く重い音に驚いて振り返り、そこで見たものにさらに驚いた。壁に思い切り拳を叩きつけてまるでハンマーで叩きつけられたかのように壁一面に亀裂が入っており、そこには拳を壁にめり込ませ、憤怒の形相を浮かべた真夜の姿があった。その姿にグリフォンイマジンの姿のイメージが浮かび上がっている。・・・本気で怒っている。蒼真は血の気が一気に引き、逆に冷静さを取り戻したが今度は別の意味で混乱した。 真夜「・・・・・・・・・・・・・ふざけんな・・・・・・・・・!!!」 後に蒼真は語る。 「嫁さんが本気で怒ったら、怒らせたヤツはその日が命日確定だと思う。だから、俺は絶対嫁さんを裏切るようなことはしまいとメイド喫茶通いも夜遊びも自粛するようになった」と・・・。 真墨「通信部からの通信が途絶えた・・・!くそっ、こうなりゃ現場で現在の状況をどうにかするしかねえか!!」 翠「さっすが現場歴長いだけあるね!!急ごう!!」 蒼真の通信が途中で途絶え(真夜が通信システムのケーブルの一部を壁ごと破壊したため)←バカかテメェはああああああああああああああ!!!(by暁) バイクを駆りだし、ショッピングモールの中に乗り込み、二人が同時に変身アイテムを構える!! 「「変身!!」」 二人が変身し飛び込んだ異次元空間の先には、ボロボロになったテティスたちを尚も甚振るように痛めつけている赤い見たこともないライダーの姿。 ブチブチブチブチッ!!!!!!(一気に血管がキレた音) ファング「テ・・・テメェ、俺の仲間に何してくれやがった・・・・!ああ、もう答えなくていい。とりあえずぶっ殺すってことでいいよなァ?もう、キレちまったからよォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」 怒りの咆哮を上げて目にも止まらない速さでファングが飛び出し、あっという間に赤いライダー・ディオネの間合に入り、拳を振り上げるかと思うと、身体を素早く動かす。攻撃を身構えたディオネは不意を突かれた!フェイントだ!!左わき腹に拳が突き刺さる!!息が止まり、一瞬動きを止める。しかしすぐさま前にはもう一発繰り出そうとするファングが殴りかかっていく!! ファング「嫁入り前の女の子、キズモンにすんじゃね――――――――よっ!!」 思い切り握りしめた右拳を本気でディオネの顔面に向けて放つ、しかし両肩のアーマーによってその拳が右肩でめり込む。あまりに重い一撃にライダーの装甲でも耐えきれず、ディオネは戦慄する!そして本能的に銃を構えてファングに至近距離で撃ちだす!! ファング「がはっ!!!」 ファングから離れるとディオネは地面から黒い闇のような霧を噴き出し、視界が見えなくなる。そして姿が見えなくなった。 ファング「・・・・・ちっ!!茉莉!!瑛子!!美子!!しっかりしろ!!」 ファングが真墨の姿に戻ると、そこには見るも無残な姿に変わり果てた3人の美少女達の姿があった。アスカの改良した最新のライダーの装甲の防御力によって奇跡的にも傷つけられたのはアーマーのみであって無傷ではあったが、精神疲労と脱水症状を引き起こしていた。 ファング「翠!!お前はこの近くにいるヤミーを追え!!俺はこいつら一旦本部の救護室に連れて行く!!あのライダーの方は追うな!!いいな!!」 ワルキューレ「了解!!!」 ワルキューレがストームチェイサーにまたがりヤミーを追跡する!! 星見市内 ファミリーレストラン アベル「・・・・・おい、一体どうなってやがんだよ。あの赤いのもライダー・・・だよな?」 シエル「そうみたいだね。ヤミーの様子見にいってみればこうなってるわけだ」 アベル「何でライダー同士でやりあってんだよ?!あいつ俺たちもライダーも全員倒すことが正義とかヌカしてたよなぁ!?そりゃどういう意味だよ!!」 シエル「そんなのつい今さっきのことだって言うのに分かるわけないだろ、まあ、ボクが考えるならば・・・第三者の勢力が動き出したってことか、もしくは、ゼロが動き出したか、かな」 カブキ「・・・・ゼロ・・・・怖い・・・・嫌い」 アベル「・・・・・・・ゼロか・・・・・・やばいな、それ」 シエル「まあ、ね。しかも、今のボクら、ゼロからすれば任務失敗ばかりのお荷物状態じゃん。キールの動きがなりを潜めているのもライダーの正体や動きを探っているからだからみたいだし。でももうここまでくれば自分が動いた方がマシ、そうなったら無能な部下は切り捨てるに限るって考えるんじゃないか?」 アベル「それじゃあ、なおさらライダーたちぶっ潰してメダル取り戻さなきゃ・・!」 シエル「・・・・それも怪しくなってきたんだよね」 シエルが一旦言葉を切り、黙る。アベルとカブキはシエルの様子に一種の嫌な予感を感じた。 アベル「・・・おい、それってどういうことだよ」 シエル「・・・・・うちら、メダルもし全部手に入れたとしても、アイツが、ゼロがボクたちの願いを叶えてくれるのかってこと。それどころか、メダルを全部手に入れることがアイツの目的なのだとしたら、ボクらの意思が宿っているコアメダルもそのうちの一つなんじゃないかってこと、集めるだけ集めたら・・・・ボクらがメダルとして回収されるんじゃないかって可能性もなくはないってこと」 アベルとカブキが言葉を失った。シエルもこの考えはあまりにも極端すぎる話ではないかと最初は鼻で笑っていたが、彼女の「ギャンブラー」としての危険を察知する能力がゼロの条件、キールがアベルたちがやられても手を貸さないこと、そしてなぜか表舞台に出なくなったキール、そして猜疑心の強い性格が一つの絶望的な未来に思いついたのであった。しかしそれはありえなくはない話であった。 シエル「少なくとも、ゼロの目的が何なのか、ボクらも知る権利くらいはあるよね。でも知ってるのはキールのみ・・・・」 アベル「上等じゃねえか・・・・!!」 アベルが乱暴に立ち上がり、机をバンと叩いた。怒りで顔を真っ赤にして全身が小さく震えている。 アベル「オレがアイツ締めあげて聞き出してやんよ!!!ゼロの目的をな!!」 そう言って、アベルが返事もしないうちに店を飛び出していった。 シエル「カブキ、アベルを追って!!アイツ一人じゃ何やらかすか分らない!!」 カブキ「シエルは!?」 シエル「ここの会計済ませてから後を追うよ!!見失わない内に早く!!」 そしてカブキがアベルを追いかけて出て行った・・・その後。 シエルは・・・・何故かソファに座り、大きくため息をついた。 すると、そこへ、一人の女性が向かいに座ってきた。その女性の姿を見て、シエルは眉間に皺を寄せつつ、鬱陶しそうな態度を隠さないで彼女を見る。 「・・・本当に単純なワンちゃんだこと。貴方の言うこと何でもハイハイ聞いちゃうんだから」 シエル「・・・・・・わざわざアベルの悪口言いに来たのかい?」 「違うわよ。私だってそんなにヒマじゃないわ。でも貴方があのワンちゃんにゼロ様の崇高で素晴らしい存在を汚すような暴言を例え芝居とはいえ、吹き込んだせいで、今の彼女は、カブキちゃんを守るためなら、何だってやるわよ?多少の無茶でもね」 シエル「宛てもないのに飛び出して、一人になったところを、仕留めるって話か。こんな陳腐な作戦、アイツくらいバカでない限り引っかからないよ。本当にバカだよアイツ」 「冷たいわね。昔はお友達だったんでしょう?」 シエル「・・・・・・・・・・・・・・・・事情が変わったんだよ!前にも話したはずだ!!それにお前にだけは言われたくないね。お前だって今の立場じゃ嘘だらけで大変なんじゃないのかい?キール・・・・いや・・・・」 目の前にいたのは。 銀色のウェーブがかかったロングヘアを黒いリボンで縛り上げ母性と上品さがあふれる美しいルックス、そして抜群のプロポーション、そしてセント・ローゼリア学園の制服に赤いバラのブローチ・・・!! そう・・・・・! シエル「・・・生徒会長、蘆瀬朱美。赤薔薇様?」 そう呼ばれ、朱美は普段の表情とはまるで別人のような冷たく相手を見下すような視線をシエルに向けながら、クスリと妖しく不敵な微笑みを浮かべていた・・・・。 キール(朱美)「ウフフフ・・・・・さて・・・・これからが面白くなるわ。そしてこの町の人間どもが絶望という名の地獄に叩き落として、欲望で埋め尽くされたこの町を、ゼロ様に捧げ、永遠の神になられる約束の日が楽しみだわ・・・・・ウフフフフ・・・」 その狂気をはらんだ笑みは見ただけで心臓をわしづかみにされそうな冷たくどす黒い微笑み、地の底から響く亡者の怨念の声のようにも聞こえてきた。シエルも冷汗をたらし、言葉を失っていた。その時携帯が鳴った。キールのものであった。それを取る。 キール(朱美)「誰よ・・・もしも・・・す、す、すすすすすすすすす翠ちゅぁわああああああああああああああああああああああああああん!!?わわわ、わわわわわわわわわ私の携帯に、ついに愛のラブコォォォォオオオオオォォオォオオオオォオオォオルをぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!?」 シエル「・・・・・・はい?(゜-゜)」 キール(朱美)「・・・怪我人が多数!?保健室使おうにも保健委員の菫谷さんがどこにもいないからマスターキー貸してほしい!?いいわよ、翠ちゃんのためなら例えカギだろうと全財産だろうと私の花の操だろうと全部捧げるわぁああああああああああ!!!!今すぐいくわぁあああああああああ!翠ちゅわん、待っててね!!!!」 電話を切るや否や、キール・・いや朱美は突然飛びあがり身体を回転させて踊りだし意味不明の歌を歌いながら店を飛び出した。あまりの変りぶりにシエルがついていけず茫然と見送っていた。 キール(朱美)「翠ちゃ〜ん、やっぱり私と貴方は小指と小指に結ばれた赤い有刺鉄線で惹かれあう仲だったのねぇ〜ん♪結婚式の準備もしなくちゃ〜♪あ、それと同時に真墨の葬式もついでにやっておきましょ〜♪その為には、結婚式の前にはまずアイツを殺らなきゃ・・・・ウフフフフ・・・イヒヒヒヒヒヒ・・・ウヒョヒョヒョヒョヒョヒョヒョ〜♪」 決して糸ではないらしい。翠もとんでもない怪物に目をつけられていた。しかしその様子を見ていて、シエルは何かを思いついた。 シエル「・・・翠・・・大友翠のこと?あのやたら馴れ馴れしいガキか。ああいうの大嫌いなんだよね。希望だとか幸せだとか目指して頑張るぞって青春しちゃってる暑苦しいバカ・・・・いや・・・・・使えるな。ボクの願いを叶えるためなら、何だってやってやる。仲間を裏切ろうが、人を利用しようがな・・・・キール・・・・せいぜい今のうちいい夢見てな・・・!!」 学校 朱美(キール)「翠ちゅわぁあああああああああああああああああああん!!!鍵持ってきたわぁぁあああああああああああ・・・・・・・ん?」 そこにいたのは不機嫌な表情で立っている真墨だった。携帯電話片手に頭を抱えている。 真墨「・・・・まさか本当にきやがったとは」 朱美「翠ちゃわぁああああああああああああああああぁああ『どうかしたんですか?赤薔薇様?』え?」 後ろから翠の声がした。しかし振り返るとそこには真墨がいた。喉をトントン叩いて真墨が言葉を発する。 真墨(翠)『バ――――――――カッッ!!』 それを聞いて朱美は茫然とする。そうそれは真墨の声色だったのだ。真墨が傷ついた仲間を保健室で治療しようと連れてきたら今日は日曜だったため、学園全体が閉鎖されていて、さらに保健室の鍵を持っている菫谷もどこかに行ってしまっていて行方が分からず、マスターキーを使うしかないと考えたのだが、真墨の願いを朱美が素直に聞くはずがない。そこで今ヤミーを追いかけていて不在の翠に代わり、真墨が双子の特典を活かして声色を変化させて朱美を誘いだしたというわけ。(どこぞのバカシスターが怒りに任せて壁に八つ当たりしてくれたおかげでイージスの救護班への連絡回線までぶっ壊してくれたから救護室パニックになってたんだよっ!!by真墨)朱美は顔を真っ赤にして鬼気迫る表情で襲いかかってきた!! 朱美「ケキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――――ッ!!!」 真墨「ほい、鍵借りましたよ・・・・あとは・・・・百合の楽園でも逝って一生乳くりあってろ、バカヤロ――――――――――――――――ッ!!!!!」 朱美がどこからか包丁を取り出し振り回してきたので手首を抑えて落とすと、そのままブンブン両腕を掴んで大きく回転して、一気に投げ放った!! 朱美(キール)「マワルワ!マワルワ!チキュウハ回ルノヨ〜キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!!」 学園の裏の森の奥まで吹き飛んでいくのを確認し、真墨はふうっと一息ついた。 真墨「さて変態も消したしこいつらの治療しねぇと!!」 そういって、3人を保健室まで連れて行った。無論3人同時に背負って・・・である。 茉莉「・・・あ、あのさ、大丈夫だよ。もう、大丈夫」 真墨「・・・・怪我してるんだ。大人しくしておけ。すまねえ。俺がもっと早くきていれば・・・」 瑛子「お前が謝ることはないさ。私たちがまだ実力も弁えずに勝手に飛び出して返り討ちにあった。情けない話だろうが。笑ってくれよ」 美子「・・・まだまだ、身の程知らず・・・だったんだよ、ねぇ」 真墨「・・・あの商店街はな、この町の多くの人たちが毎日生活用品や食材を買いに来てる。屋内の遊園地ではガキどもが楽しそうに遊んでるし、俺らみたいな若いのも買い物したりダンスしたり好き勝手やってる、そんないつでも俺たちを受け入れてくれる居場所なんだよ。お前たちは俺にとっての一つの「居場所」を必死で守ろうとしてくれた。他の誰かがお前らを笑うなら、俺がそいつをぶん殴る。身の程知らずというならボコボコにシメ上げる。俺はお前らに、本当に感謝してる!お前らがいなかったらもっとひどいことになってた!お前らが戦ってくれたから!あそこは、守れたんだ!!心のあり方はもう俺たちにも引けはとってねぇ!あとは体を鍛えればいい。そのくらい付き合ってやるよ。だから、自分なんかなんて、言わないでくれ・・・!!」 “暁”にすっかり戻り、後ろに背負った3人に最後まで逃げずに戦い、商店街の被害を必要最低限まで抑えたことを心から感謝し、強くなりたいなら手伝ってやるとまで言ってくれている。美子の目から涙が流れて暁の右肩を濡らしていた。茉莉も小刻みに震えて必死で浮かんでくる涙がこぼれおちそうになっていた。そして瑛子も涙を流し、 瑛子「・・・・・やっぱり、選んで間違ってなかった。貴方こそ、私と・・・永遠に添い遂げたい真の強き男だ・・・・・!!」 美子「・・・さ、さとる、ちゃぁああん・・・・・・」 茉莉「・・・・参ったねェ、本当、青春ドラマじゃないんだけどさ、胸にぐっとくる言葉が・・・・合うんだから。ありがと・・・暁」 一方。 エビヤミーを追いかけて走ってきた翠は逃げ込んだ中央公園の広場までやってきた。日曜で露店も開いており、親子連れや友達、恋人たちでにぎわっている。この幸せなひと時をヤミーが現れて、顔を奪われたりでもしたら大混乱と化すだろう。そんなこと起こさせるわけにはいかない!!翠も焦りでどう動けばいいのか髪をバリバリかきだす。 翠「一体、どこに隠れたっていうんだ・・・・!」 その時であった。 後ろから誰かがぶつかってきて、翠もよろける。振り返るとそこには栗色の髪の毛をリボンで結んだ可愛らしい小柄な女の子がいた・・・・・・。 翠「す、すみません!」 カブキ「あ、あうー、カブキ、大丈夫。ごめんね、知らない子―」 翠が少女の手を取ろうとした時、彼女の小柄ながらも抜群のプロポーションを持つ体つきに言葉を失った。頭に稲妻が落ち、全身が打ち震えるほどのショックだった。 翠「(こ、こ、小柄なのに、おっぱい、大きい・・・・ボ・・・・ボク完璧負けてる・・・・これが所謂・・・・ロリきょぬー?うううう・・・・・)<ドイツ語です>何でボクの周りにはこうも胸が大きい子しかいないの?というか大きすぎる子しかいないのよ!?胸が大きけりゃいいってもんじゃないでしょ・・・そうでしょ・・・不公平よ神様・・・・」 ドイツ語でもはや言いがかりに近い恨み事を口走る。抜群のプロポーションの持ち主は急に発狂したかとも思われる鬼気迫っている翠に首をかしげる。 カブキ「ご、ごめんなさい、知らない子―。カブキ、アベル追っかけてたら、いなくなっちゃって、さがしてたの」 翠(だいたい女の価値は胸だけじゃないんじゃ、ゴルァアアアア・・・・ふえ?カブキ?アベル!?ま、まさか、この子!?) 翠の危険信号がすぐさま正気を呼び戻し、彼女から飛びあがって距離を保とうと思わず後ずさる。緊張のあまりに汗が流れる。まさかここでグリードと出くわすとは思っていなかったのだ。アベルの人間体の顔は以前のボクシング部の事件でおぼえている。そして今回はカブキ。しかしまだ「シエル」「キール」「ゼロ」がいる。迂闊に変身したら自分の正体まで相手に明かしてしまうことになる。そうなると後後かえって不利だ。ここで戦うことはもろ刃の剣。どうする・・・? その時だった!! ゴオオオオオオオオオオオオオオッ!!!! 緑色の風が翠を包みこみその場から翠が消えていった。カブキは目の前から翠が消えたことに目をぱちくり見開いていた。 翠「め・・・・メイ―――――――――――――――――――――!!助けにきてくれてありがとうううううううううううううううううううううううううううう!!」 メイ「全く無茶し過ぎだ。私も遅れてすまなかったけどな。こんな風に何が起きているのか分からない時こそ、自分自身が何をやるか、するべきことだけを考えるんだ。他人のためじゃない、自分のために何をやるのか、何をしたいのか、集中しろ。落ち着くんだ」 そういって、飛びながら野菜ジュースを翠に渡してくれた。翠がジュースを飲む。甘くほろ苦い野菜と果物のジュースが喉をうるおす。 メイ「ヤツは廃墟となった結婚式場に身を隠している。そこには奪ってきた顔もある」 翠「もうそこまで分かったの!?」 メイ「シエルのヤミーは寄生した人間の欲望を最も力強く映し出す。つまりそいつがなぜそこまで強く願うのか、過去の思い出とか経験とか反映されることも多い。今回もそのケースだ。あの寄生された女子高生は――――――結婚式場で自分の母親が父親を殺している現場を目撃してしまったんだ」 保健室 茉莉「茂手木美奈子は昔父親を亡くしてから、母親の女手ひとつで育てられてきたみたいね。彼女の母親はそこそこ名前が売れていた女優。お手伝いさんに任せきりでなかなか会えることが出来なかったけど、彼女は美奈子を愛していたし、美奈子もいつも美しく綺麗でカッコいい母親に憧れていた。ところが二度目の結婚を迎える結婚式当日に、新郎の男には別に愛人がいて、そこで浮気していたところを母親に見られたわけだ」 美子「それで、愛人の女が散々自分をなじる言葉をぶつけてきて、それを新郎だった男はニヤニヤ笑っているだけ。そう、最初っからその男は母親の持つ財産を自分に貢がせるだけ貢がせて、全部愛人にやっていた。そしてあろうことか美奈子のことまでバカにした。それに怒った母親が愛人と新郎を殺害し、自殺した・・・・ひどい・・・・ひどすぎるよ・・・・!!」 瑛子「それを見てしまい怒り狂った母親の姿が今まで抱いていた綺麗で美しい母親ではなくなってしまい、彼女の中での美しさの象徴が歪んでしまった。自分もいつかあんな風に醜く歪んだ顔をして死んでいくのか、年老いて骨と皮だけになって死んでいくのか、そう考えると彼女はもう自分の美貌を何が何でも美しく保たなければいられなくなった。それで必死でダイエットをして、メイクや美顔にこだわっていたのか」 あまりにも悲しく残酷な展開だ。彼女は気丈に振る舞いながらももう精神的に限界まで追い詰められていたのだ。そんな思いをヤミーに利用され、自分の美貌を永遠に保つために、今もなお女の子たちの顔を奪い続けている。 真墨「顔を奪っているのは、取り換えが利くようにするためなのかもしれねえな」 茉莉「・・・・・・・おそらくね」 美子「他人の顔なのに!?」 瑛子「・・・・・・・いや、もうアイツにとって奪った顔はもう自分の顔としか思っていないんだろう。醜くなった、汚くなったと思ったら取り換えればいいと・・・」 真墨が舌打ちをして、短くため息を吐く。生まれてついた自分だけの顔、誰でもない自分だけの大事なものであるはずなのに、彼女は自分自身の一部でさえもメイク用品のように他人の顔を被って偽りの美しさを取り繕って生きていくことが幸せだというのか。 真墨「・・・・・・・・終わりにしてやる。こんなの・・・続けたって・・・・意味ねえだろうがよ・・・・・」 真墨が保健室の扉に手をかける。 真墨「・・・すまねぇ。翠一人じゃ危ない。かならず戻る」 茉莉「・・・暁、アタシたちの分も・・・頼む!」 瑛子「無事を祈る・・!」 真墨「・・・・ありがとうよ。お前らのその言葉、心強いぜ!お前らの敵、俺たちが必ず討ってやるからな」 美子「気をつけてね!」 真墨が保健室を飛び出していった。 廃墟と化した結婚式場。その貴賓室の一室の中、茂手木美奈子は魂が抜けた虚ろな瞳で壁にかかっている無数の仮面のような「人の顔」をうっとりとながめていた。「顔」はまるで眠っているように白く無機質な彫刻のように壁にかかっている。20くらいはあるだろう。その一つ一つを愛おしそうになでたりなめるように見ている。 美奈子「私の顔・・・・永遠の美貌・・・・・ああ・・・素敵・・・」 その時だった。貴賓室に足音が聞こえて、3人が乗り込んできた。翠とメイ、そして真墨だった。 翠「悪いけど皆の顔、返してもらうよ!」 真墨「もうこれ以上あんたの好き勝手やらせるわけにはいかねぇ・・・止めさせてもらうぜ」 それを聞いて、美奈子の表情が憤怒で歪んだ。そしてその姿にエビヤミーの姿が重なる。 エビヤミー「どうして・・・どうして邪魔するのよぉ!!お前らの顔も奪ってやる!!」 翠「兄さんの顔はボクのもんだ!!誰にもやるかい!!変身!!」 真墨「何でお前のなんだよ!?俺ンだろうがよ!?変身!!」 翠の相変わらずのブラコン爆発発言に突っ込みながら、二人が同時に変身した! 同じ頃。 キールの匂いをかぎつけて、アベルが、ワルキューレたちが戦っている結婚式場の玄関に乗り込んできた。戦いが始まったのか、奥の貴賓室から甲高い音がけたたましく鳴り響き、武器と武器が激しくぶつかり合う轟音が聞こえてくる。 アベル「・・・・この奥にキールがいやがるのか!?」 その時だった。そこへ一人の少女が静かに歩いて入ってきた。菫色のロングヘアを風になびかせて目に映るものをまるで嘆くように、悲しむように、その瞳を深い悲しみと憂いを帯びているその表情は、廃墟と化したこの空間に響く戦いを嘆いているようだった。それは・・・菫谷霧子(青薔薇)であった。 アベル「お前は・・・?ここから先は危ねぇぞ、今すぐ引き返しな!」 アベルの注意にも耳を貸す様子はない。そしてバッグからあるものを取り出す。それは赤いライフルのような形をした巨大な銃器。楕円形をした特殊なトリガーの形、その形には見覚えがあった。それは今朝見かけたあの赤いライダーの・・・! アベル「お前、それ・・!」 霧子「・・・・・・貴方はこの世界が滅びたがっているように思いませんか?だから、いつまでたっても戦いは終わらない・・・・・いくら平和や安らぎを追い求めても争いの戦火が踏みにじり焼き尽くしていく・・・・でもそれが神様の意思ならば・・・その意志を聞き遂行することこそがこの世界の逝くべき末路というのかもしれません」 アベル「・・・だから、お前は何がやりたいんだ!?」 霧子「・・・・・哀しいですけど、戦いを終わりにします。戦いを起こすものも、戦いを引き起こしてしまう世界も、何もかもを終わりにしないといけないんです・・・」 マガジンの形をしたメダルホルダーに「ナパーム」を模した赤色のメダル、「ヘルズ」を模した紫色のメダル、そして翼竜「ケツァルコァトル」を模したメダルホルダーを右手に持ち、それを持ったまま手首を返してホルダーを見せるように返す! 「トリニティ!!ナパーム!ヘルズ!ディオネ!!」 霧子「・・・・変身!」 メダルホルダーを銃のマガジン部分にスライドして装填する!!そして両手を頭の上でクロスして一気に横に振り下ろす!!すると、ナパームの魔法陣とヘルズの魔法陣が重なり合い、第3の魔法陣が霧子を包みこみ、その姿を赤き太古の翼竜をイメージした戦士・仮面ライダーディオネへと変身を遂げていく!!背中から赤い炎が翼のように噴き出し、それを右腕で大きく斜め上から下へと振り下ろすとそれが吹き消される。アステカでは神の使いとも言われている獰猛な瞳を司る翼竜を模した仮面の双眸からは彼女の感情をうかがい知ることは出来ない。しかし次の瞬間ディオネが静かにディオネドライバーと呼ばれるライフルの銃口を静かにアベルに照準を構える!!アベルもその場を飛び上がってその場を離れると同時だった!! ドン!ドン!ドン!! 火炎弾を次々と目にも止まらない速さで乱射し、アベルを狙ってディオネが攻撃を仕掛けてきたのだ!!その正確無比な射撃はアベルの急所を確実に狙ってくる!それを犬系動物の王たる驚異的動体視力を生かして銃弾を次々とかわしていくが、銃弾は途切れることなくアベルに襲いかかってくる!!その無駄のない動き、正確な射撃、確実にこいつは自分を殺しにきている。それを確信する。 アベル「どこのどいつだか知らねぇが・・・俺はここでくたばるわけには、いかねぇんだよっっっ!!!!ウオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」 アベルの全身から黒い炎が噴き出し、火炎弾を薙ぎ払うとそのまま高速で飛びかかり、大剣を取り出してディオネに切りかかっていく!!すると、ディオネもディオネドライバーの持ち手を変えると、腰に取り付けていたもう一つのパーツを取りつける!!するとディオネドライバーが大剣の形に変わり、それを構えてディオネがアベルを迎え撃つ!黒い炎を帯びた大剣と赤い炎を帯びた大剣が激しくぶつかり合い、火花を激しく部屋に散らせる!! 一方。 エビヤミーの放つ泡を避けながら、ワルキューレ・ストームフォームが高速回転するランスを次々と突き出し、その背後から挟みこむようにエビヤミーにファングがファングバスタードソードで切りかかっていく!!息の合ったコンビネーションにエビヤミーも翻弄され泡を次々と放出するもそれをランスの突風で吹き飛ばしながらファングが飛びかかっていき大剣で切りつける! エビヤミー「くらぇえええええええええええええええええええ!!」 ワルキューレ・ストーム「このままじゃキリがないよ!」 ファング「翠、メダルチェンジだ!!上半身だけ変えれるか!?」 ワルキューレ・ストーム「・・・・なるほど!メイ!ホウセンカのメダル、ある!?」 メイ「そういうことか!ああ、あるぞ!!」 メイが投げたメダル、アンキロ・コアを取り、そこへホウセンカ・コアを入れる!!すると上半身だけがライトニングフォームに変わり、銃器と化した腕を突き出し電撃弾をマシンガンのように発射してエビヤミーを攻撃する!!槍との応戦で一瞬のスキをつかれたエビヤミーの上半身に電撃弾が炸裂し、エビヤミーが電撃でしびれながらよろける!! ファング「今だ!!翠、決めろ!!」 ワルキューレ・ストーム「了解!!」 ステゴ・コアの光が輝きだし、彼女の両足から風がステゴザウルスの棘のように噴き出し、鋸のように高速回転して唸り声を上げる!! ファング「オラアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」 ファングが大剣で吹き飛ばし、エビヤミーが空中に舞い上がると落下地点にいたワルキューレが巨大な緑色のオーラを放つ風のギロチンと化した右足を一気に振り上げて、落ちてきたエビヤミーの身体を両断した!!! ワルキューレ・ストーム「セイヤ――――――――――――ッ!!!」 エビヤミー「ギャッ、ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 エビヤミーが爆発し、そこから茂手木が投げ出されると大量のメダルが散らばった。茂手木を抱き上げると、息はある。命に別条はないようだった。そして壁にかけてあった顔も元の持ち主の元へと戻っていったのか、消えていった。 ファング「・・・はー、これで一安心か・・・・」 ワルキューレ・ストーム「・・・何だろう、そのはずなんだけど・・・」 ファング「・・・・みなまでいうな。俺も何だか嫌な予感がするんだよ。さっき、俺達以外で魔力を発動させていたヤツがいる。この近くで俺達以外誰かが戦っている」 メイ「・・・・気配が近づいてくる!?」 ファング「・・・メイ、お前は茂手木連れて逃げろ。この様子、ただ事じゃない。一般人まで巻き込むわけにはいかねえ・・・!」 しかしその時であった。貴賓室のドアが爆発によって吹き飛び、もうもうと立ち込める黒煙の中から地面に投げ出されるようにアベルが傷だらけで地面を転がってきた。もう満身創痍でボロボロであった。手に持っている大剣も刃が所々折られ無残な姿となっている。 アベル「・・・があっ・・・・・ああ・・・・・・・・!」 ファング「アベル!?お前何があった!?」 ワルキューレ・ストーム「気をつけて!!何かが・・・来る!!」 その殺気は黒煙の中から現れた。その殺気を放っていた主、仮面ライダーディオネの姿を見たとき、ワルキューレは驚きで目を見開き茫然と立ち尽くし、ファングが怒りで全身の血液が沸騰し今にも襲いかからんばかりに怒りのオーラを発する。そしてメイは見たことのない新しいライダーの存在、そして彼女の存在を気配で危険と察したのか、冷汗が流れ落ちた。 ディオネ「・・・・また、戦いの場に貴方たちがいるのですか。これからもずっとそうやって戦い続けるのですね。貴方達さえいなければ戦いもなくなる。貴方達がいる限りこの町に平和は訪れない。貴方達が争いを、災いを呼んでいるのですね・・・・」 ファング「・・・・・何寝言こいてやがる」 ワルキューレ・ストーム「君に関しては何で茉莉ちゃんたちにあんなことしたのか、聞きたいことがたくさんある。大人しく本部に来てもらうよ」 しかし、ディオネがディオネドライバーの銃口を静かにワルキューレたちに向ける。その瞳に映っているものが見えた。殺意と憎悪に満ちた炎が噴き出し紫色の双眸が静かにかつ苛烈に冷たく負の気が噴き出さんばかりに怒り狂っているのが感じられる。そのただならない様子にワルキューレもファングもメイも、瞬間的に彼女たちが自分たちを殺そうとしていることを本能で危険を察知した!! メイ「まずい、逃げるぞ!!」 ファング「ちっ!!」 次の瞬間、彼女の前には無数の赤い魔法陣が浮かび上がり、燃え盛る炎の矢が無数魔法陣から召喚されていた。その数はもはや数えきれないほどの量であった。 ディオネ「・・・・・主よ。争いを呼び災いを引き起こす悪魔の子らに地獄の業火を以てその魂の汚れを浄化し救済を与えたまえ。“ジャハンナム”!」 ためらいもなくトリガーの引き金が引かれると、炎の矢が一気に解き放たれる!!無数の炎の矢は目の前にいるファングとワルキューレたちの前に巨大な炎の弾幕と化して揺らめきながらも物凄い速さで迫ってきている!!押し寄せてくる大量の炎の矢を容赦なく自分たちに向けて発射したディオネの行動の意図が読めず目を見開いた。無数の炎の矢が大雨のように降り注いでくる!!確実にこの部屋にいる人間もグリードも全て討ち滅ぼすことも厭わない、常軌を逸している全体攻撃であった!! ワルキューレ・ストーム「きゃ、きゃああああああああああああああああっ!!」 ファング「ちっ、うわあああああああああああああああああああああああっ!!」 メイ「ぐああああああああああああああっ!!」 貴賓室から巨大な炎の塊が噴き出し、けたたましいガラスが割れ壁が吹き飛び崩れ落ちる轟音を上げて貴賓室内で次々と爆発が起こり、その都度炎の塊がそこら中から爆炎を舞い上げる。部屋中の調度品も、壁も床も天井も、ありとあらゆるものを飲みこみ溶かして灰へと変えていく赤い悪魔の怒りのダンスはさらに激しさを増し、貴賓室を火の海の地獄へと変えていった。 その様子を翠、真墨、メイが茫然と離れたところから見ていた。あの赤いライダー・ディオネは自分たちをも一緒に倒そうとした。躊躇いもなく必殺技を発動し、ヤミーやアベルごと無数の炎の矢で射殺し、貴賓室ごと火葬に仕上げようとまでしたのだ。人を殺す、そのことに何のためらいも感じず、むしろ自分の欲望に酔いしれているかのような先ほどのこの世界全てに絶望し、絶望そのものをまるで楽しむように話していた彼女の常軌を逸している言動や行動に言葉を失っていた。 翠「・・・・・何なの、一体、これ、どうなってるの!?」 真墨「・・・・・・分からない。ただ、あのライダーは、完全にイカれてやがる・・・」 メイ「・・・・ディオネ、か。何が目的なんだ・・・?」 その頃・・・・。 火の海と化した結婚式場。その中を、カブキが噴き出す炎を必死でかき分けながら誰かを探していた。この結婚式場からアベルの気配を感じたのだ。根拠はないがアベルがここにいる。直感のみを頼りにここまでやってきた。そして、カブキは貴賓室の壁が崩れて瓦礫がいくつも積み重なった山の下に、ある人物が横たわっているのを見つけた。駆けつけると、それはアベルだった。そして横たわっていたのではなく下半身を瓦礫の山に飲みこまれ、メダルと化していた。もう彼女のコアメダルは限界を迎え、ひびが入り割れていた。もう人間の姿を保つことも出来ない。身体が少しずつメダルへと崩れおちていく。カブキがアベルのもとへ駆け寄る。 カブキ「アベル!!アベル―――――――ッ!!」 アベルがうっすらと瞳を開けた。目の焦点は定まっておらず宙を泳いでいるが、カブキの姿が視界に入り、唇をパクパク重そうに開く。もう話をする気力すら残っていない。 アベル「・・・・・か・・・・ぶき・・・・・」 カブキ「アベル!!今すぐ、助けるから!!」 カブキがアベルの下半身を覆っている瓦礫を凄まじい力で退けようとする。アベルが止めようとするが、瓦礫がどけられる。そしてそこに飛び込んできた光景を見て、カブキが言葉を失う。 カブキ「・・・・・・あ・・・・・・べ・・・・・る?」 アベル「・・・・・・・もうオレは助からない。メダルやられちまったからな。オレはもう、元の死体に戻る時が来たんだ・・・・・」 メダルで構成されていた下半身が粉々に砕かれ、メダルが散らばっている。そして身体が少しずつメダルと化して崩れ落ちていく。これがグリードの末路、コアメダルを砕かれたらもう存在さえ保てず消滅する・・・。 カブキ「・・・嫌、嫌!!嫌だ!!カブキのメダルあげるから!!カブキのメダル、全部あげるから!!!だから、消えないで!!死なないで!!!アベルがいなくなっちゃうなんて・・・・嫌だ・・・!!嫌だ嫌だ嫌だ・・!!!」 床を這って気が狂ったように泣き叫びながらメダルを必死でかき集めるカブキ。自分の体からメダルを取り出し、それを添える。しかしもうそれはアベルの身体を再生することはない。なぜなら出来ない。コアがもう完全に打ち砕かれているのだから。 アベル「・・・カブキ・・・・・もう・・・いいんだ・・・・もう・・・・いいんだよ」 カブキ「嫌だ・・・いやだ・・・・・アベルがいなくなっちゃうなんて・・・・嫌」 カブキが涙を流してアベルにすがりつくように両手でアベルの右手を握りしめる。アベルが左手を上げて、カブキの頭を優しく撫でる。いつもお腹が空いた時や、ワガママを言った時、いつもこうして自分の行動をたしなめて、止めてくれた。アベルの左手のぬくもりにカブキがアベルを見る。アベルの表情は、死を前にしているというのに、どこか安らかに笑っていた。そして泣きじゃくるカブキを慰めるように頭を何度も撫でてくる。 アベル「・・・・・泣くなよ。お前に泣かれるのって・・・一番心にこたえる・・・」 そういって、右手を自分の胸に突き刺すと、そこから黒く光る「オオカミ」「シェパード」「リョウケン」の3枚のメダルを取り出して、カブキに与えた。 アベル「・・・・お前にやるよ」 カブキ「・・・・・アベル・・・・!」 アベル「・・・・強くなれ、カブキ。お前は・・・・優しいから・・・・争いごととか嫌いだから・・・・正直戦いに向いているとは・・・・思わない。・・・・でもな、お前もいつか、自分のために、ゆずれない何かをかけて、戦わなきゃいけない時が・・・必ず来る。・・・・その時、何もかも諦めて投げ出して・・・・・逃げるというのも・・・一つのやり方かもしれないし、楽かもしれない。でもな・・・・いつまでも逃げ続けていると・・・・あとで自分が落としてしまった大切なものを・・・・取り戻したくても・・・もう取り戻せなくなっちまう・・・・・そこで自分があの時逃げなければ、立ち向かっていればって後悔しても・・・・・遅いことだってあるんだ。お前は・・・オレみたいになるな。お前が今・・・・どうしたらいいのか分らないのだとしても・・・お前が逃げずに目の前の問題と向き合って戦いを挑み続ければ・・・必ずその先にお前が求めているものが・・・きっと・・・見つかる。だから・・・もうここから先は・・・・自分で選んで進め・・・・自分がやるべきことを、自分が進むべき道を、お前が見つけ出せ」 アベルが最後の力を振り絞ってカブキに語る。カブキの瞳から涙がぽろぽろとあふれ出て、頬を伝って流れていく。カブキがアベルの手を両手で強く握りしめる。そして涙を拭いて、力強く頷く。 カブキ「・・・・うん・・・!!分かった・・・・!!カブキ・・・・強くなる・・・!!強くなって・・・・・逃げないから・・・!!だから・・・!!アベル・・・死なないで・・・!!」 その言葉を聞いて、アベルが安心したように笑った。 アベル「・・・・・約束だぜ?」 カブキ「・・・・うん!!」 そして、風が強く吹いた。 ―ありがとう、カブキ・・・― 最期の言葉、それと同時にアベルがメダルとなってくずれおち、そこには、犬飼美鈴だった白骨がメダルとともに床に散らばっていた・・・。握りしめていた手が骨となってくずれおち、カブキの手からすべりおち、乾いた音を立てて地面に落ちた。 カブキ「・・・・・・アベル・・・・・・?」 骨と化し、メダルの残骸のみが散らばっている。アベルの亡骸を見て、カブキが力なく声をかける。しかしもうアベルは笑わない。もう、いつものように微笑んでくれない。あの強気で乱暴で、口は悪いけど、それでも、いつでも自分を大切に可愛がってくれたアベルは・・・・もういない。 カブキ「・・・ああ・・・・ああああ・・ああああ・・・・・イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」 カブキが気が狂わんばかりに身体を大きくそり上げ、両手で頭を抱えて叫んだ。涙を両目からあふれんばかりに流し、喉が張り裂けんばかりに、全身の力を振り絞って激しく慟哭し、泣き叫ぶ。その時だった。アベルの身体を作り上げていた大量のセルメダルがカブキの放つ強力な欲望に反応し、ゆっくりと動きだしカブキの周りで取り囲みだしたのだ。そしてさらにカブキの持っていたアベルのコアメダルも光りだし、それがカブキの全身を覆いつくしていく!! カブキ「ああああああああああ・・・・・・アア・・アアン・・・あぁああ〜ん・・・」 カブキの声が徐々に大人の女性のような艶っぽい声に変化していく。そしてメダルが全て吸収されると倒れこんでいたカブキがゆっくりとメダルの山の中からかき分けるように出てきた。しかし、そこにいたのは、もうあどけない少女の姿ではなかった。 ブロンドのウェーブがかかった栗色のロングヘア、そして長身で抜群のプロポーションを持つ褐色の肌のナイスバディを持つ扇情的な雰囲気を纏った美女・・・・・。 そして瞳には金色の光が妖しく光り輝いていた。そう、それはカブキが大量のセルメダルとコアメダル、そしてあまりにも激しい感情の高ぶりにより、自身のコアメダルをも強力な欲望を持って「進化」させて、大人の女性の姿に急成長した姿だった・・・。 カブキ(大人)「・・・・・・アベル・・・・貴方のことを襲った奴らは絶対許さない。・・・・“私”、逃げないよ。逃げないで正面からどんな手を使っても、必ず仇をとってあげるわ・・・・例え誰だろうと・・・・・・とことん追い詰めてあげる・・・・ウフフフ・・・・アハハハハハ・・・・アアン・・・・興奮してきちゃったぁ・・・・・」 もうそこに無邪気な少女の姿はない。そこにいるのは怒りと悲しみ、それらが入り混じり、自身の親友を倒した相手をどう惨たらしく処刑してやろうか狂的な笑みを浮かべながら獲物を狩る狩人とかした妖艶かつ獰猛な美女、カブキであった。 カブキ「アハハハハハハハハ・・・・・キャハハハハハハハハハハ・・・・」 涙を流しながらも歪んだ笑みを浮かべて、ゆらゆらと静かに歩きだした。地獄の業火の中、絶望から生み出された狂気の狩人が凶暴な牙をむき出しにして、戦場に放たれた。 一方、アベルを不意打ちで打ち倒したディオネは変身を解除し、霧子の姿に戻っていた。そしてカブキが去った後、アベルの亡骸を見下ろして、彼女の瞳に何か光るものがあふれてこぼれ落ちた。それは涙。しかし、その表情は・・・・あまりにも禍々しく唇を吊上げてニヤリと常軌を逸している微笑み。それは狂人のような狂った微笑みであった。 霧子「殺した、私が殺した、うふふ、これでまた一つ、魂の、救済を、しましたわ。キャハハ、さあ、もっと、もっと、殺さなきゃ。もっともっともっと救われない人たちを“救済”しなくちゃ。皆、死ななきゃダメなんですから、ライダーも、グリードも、皆死んじゃえば、いいんです。そうすれば、戦いは、終わるんだから・・・・」 霧子が涙を流しながらカラカラと乾いた笑みを顔に張り付けておかしくてたまらないといったようすで身体を震わせて笑いだした。もはや彼女は正気ではない。心から湧きあがるどす黒い欲望が彼女を突き動かしていた。 続く |
鴎
2014年07月15日(火) 10時17分16秒 公開 ■この作品の著作権は鴎さんにあります。無断転載は禁止です。 |
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本当にお久しぶりです! 物語の更新をお待ちしていました! リアルの方で色々と大変だったようで……本当にお疲れ様です!!m(_ _)m 新たに更新された【仮面ライダーワルキューレ】の物語ですが…… 暁(アスレイ) 「……本当に、凄い感じに出来事が起こっているな、オイ…;」 クリス(アスレイ) 「霧子さんこと『仮面ライダーディオネ』の歪んだ“正義感”にアベルさんの退場……そしてアベルさんの想いを受け取り、彼女の仇討ちの為に“狂気”の道を歩むカブキちゃん……。本当に凄い展開になってきましたね」 翠(アスレイ) 「ついでに、爬虫類グリード『キール』の正体が赤薔薇様こと朱美さんだったって言うのも驚きだね。何気に納得がいくところもあるけど……」 蘭さんがシエルさんに“ヤミー”を寄生させられた際、彼女の料理を食べて品詞の状況になっていた生徒会メンバーの中にキールさんが居たとシエルさんが言っていましたから、誰なのかと考えていたんですけど、物語が進んでいく中、既に蘭さん、茉莉さん、霧子さんがそうじゃないということが判明しましたもんね。 星(アスレイ) 「……しっかし、普段の『朱美』としての“顔”とグリードの『キール』としての“顔”を使い分けているようだが……翠(W)の名前を聞いたとたんに百合馬鹿モードになるって……;」 フェザー(アスレイ) 「……どうしてそうなっているのでしょう?」 本当に……とんだ人物ですよ、まったく……。 蒼真(アスレイ) 「そんでもって、何気に【ワルキューレ】の真夜がディオネこと霧子ちゃんの傲慢な考えに対しての嫌悪感から怒りが爆発し、通信に必要な機械をうっかり壊してしまったシーンもあったわけだが……」 真夜(アスレイ) 「……怒る気持ちはわかりますけど……やってしまった後、色々と後悔したんでしょうね……///」 でしょうね(苦笑) ……そして、『エビヤミー』こと美奈子さんが“美しさ”に拘る理由が語られていましたけど……。 クロキバT世 「……まことに……複雑な物であるな……。母親の死の原因が発端になっているとは……」 本当に……とんでもないですわ。 明久(電王) 「……それにしても……“相容れることの無い思い”……か。【ワルキューレ】の暁達にとって、過去最大級の試練になりそうだね」 雪奈 「……本当に、どうなっちゃうんだろう?」 総ては物語の流れの中に……。 一同 『色々とお忙しいでしょうけど、どうか今後も頑張って物語を書いていってください!!』 〜……時と次元を越え……己の限界すらも超えて、推して参る!!〜 |
30点 | 烈 | ■2014-07-15 13:37:32 | i121-118-209-14.s10.a044.ap.plala.or.jp |
合計 | 30点 |