欲しいのは。
欲しいのはおれを欲しがるお前なんだ。




Night Light




「・・ッ!あッ、あッ、んんッ!も、もおや、だあッ!」

月明かりが差し込む部屋に満ちる、悲鳴のような嬌声と粘着質な水音。
軋む寝台に顔を埋めて、猫が伸びをするような格好をしたポップ。
身に付けた夜着は上しかなく、それもかろうじてひっかかっているという状態だ。
その剥き出しの双丘に顔を埋めるヒュンケル。
ヒュンケルは舌を指を含ませた蕾に這わせ、唾液を送り込む。
指はゆっくりと優しく、けれど粘着質な動きでポップを翻弄する。
触れてもいないポップの自身からぽたりぽたりと蜜が滴り落ちる。

「んんッ!んぁッ!も、やめ・・・、ひあッ!」

2本だった指を3本に増やされ、ポップの身体がビクリと反応する。
握り締めたシーツはたわみ、波のような波紋を描く。

こんな夜は、初めてではない。
何度も何度も過ごした。
ただただひたすらにヒュンケルはポップへと愛撫を施す。
優しく甘く、ただポップを蕩かすように。
まだ幼い身体が快楽に溺れるのにはそう時間はかからなかった。
その愛撫に優しく追い詰められ、甘く蕩けさせられ、そして。

けれどそれだけなのだ。
ポップに触れるだけ。
ヒュンケル自身が快楽を得るような、そんな行為は欠片もしない。
ポップだけがいつも乱されて狂わされて。
あの甘い、眩暈の園へ連れて行かれるだけなのだ。

「あッ!そ、そこ、やだッ!や・・・ッんッ!」

ヒュンケルの指が前立腺に触れる。
そこを筋張った指の腹で優しく撫でられて、もどかしそうに腰が揺れる。
前に触れてもらえずなかなか達する事ができない身体は焦れ、なけなしの理性は食い破られていく。
ポップの眦は涙が溢れて真っ赤だがそれにヒュンケルは気がつかない。
自分の身体の反応に戸惑っているのか、一人乱されている事への悔しさなのか。
ポップ自身にもわからずに、涙はシーツの波間へと吸い込まれていく。

「んッ!あ、あ!やー・・・ッ!」

ヒュンケルの指が、すこし強く前立腺を潰すように愛撫した。
途端、ポップの内壁がきゅうと収縮し、ヒュンケルの指を締め付けて。
ポップは触れられないままの自身から蜜を零しながら果てた。





力尽きて、寝台へと倒れこんだポップの髪を優しく梳きながら頬へと唇が落ちる。
唇は涙の後を辿り、まだ瞳の端に残っていた涙を吸い上げた。

「ヒュン・・・、」

「もう、休め。」

優しい笑みを浮かべながらヒュンケルがポップへ告げる。
焦らされて、触れられもせずに達した身体は確かにダルいし、睡眠を訴えてくる。
でも。

ポップは寝台を下りようとするヒュンケルの上着の裾を掴んで、それを阻む。
きっとまた汚れたポップの身体を清めるために、タオルを用意してくるのだ。
そして暖かいそれでポップの身体を労わるように拭いて、宝物のように抱きしめながら眠るつもりなのだ。
それが嫌なわけではないけれど。
いつも自分だけなのは。

「ポップ・・・?」

「お前、は・・・」

まだ、だろ。
そう告げればヒュンケルは苦笑を浮かべて頭を撫でてくる。

「オレはいいから。もう眠いだろう?」

「良くない!いっつもそうじゃん!おればっか・・・」

ぐす、と鼻を鳴らしながらポップが食い下がる。
乱されて蕩かされた脳は感情をうまく制御できず、涙が零れてきてしまう。
泣きたいわけじゃないけど、泣きたい気持ちではある。

「ポップ」

「だってこんなの対等じゃねーじゃん・・・。
そりゃおれはまだガキで、お前と対等でいたいなんておこがましいかも知れねーけど!」

本当は自分なんて好きじゃなくて。
ただ快楽を与えていればこの子供は黙るんだろう。
なんて思われているんじゃないかと、ヒュンケルのいない夜にそう考えて眠れなくなる事もあった。
ヒュンケルがそんな人間だとは思わないけれど、一度浮かんだ疑惑は消えずポップを蝕む。

「・・・それとも、本当はおれなんていらない?」

「そんなわけないだろう・・・?」

「だったら!」

むずがる子供を宥める瞳なんてしないで欲しい。
自分が欲しがるように、求めて欲しいと思うのはいけないことなのだろうか。

ポップの隣に座り、優しくポップの髪を梳くヒュンケル。
欲しいのは、そんなのじゃないのに。
欲しいのは。

「ポ・・・ッ」

最後まで言わせずに唇を塞いだ。
触れるだけの幼いものだったけれど、ヒュンケルを驚かせるには充分だったようで。
隙をついて、今まで自分が押し倒されていた寝台に押し倒した。

もう一度口付ける。
深い口付けはできないから、何度も繰り返して。
頬や額や瞼や鼻、顔中にキスの雨を降らせて。
ヒュンケル自身に、衣服の上からだったけれど、そっと触れた。
そこは酷く熱く、驚いたポップは思わず手を離してしまう。
そして先ほどからなすがままのヒュンケルの顔を見れば。

「ヒュ」

「・・・いいのか?」

ヒュンケルの上に乗り上げたポップの髪に大きな手が差し込まれる。
そのせいだけでなく、ポップはヒュンケルの瞳から目が離せなくなっていた。

いつも、ヒュンケルに与えられる快楽でどうしようもなくなって、顔を見ることができなかった。
いつも、その瞳がもし冷たい色をしていたら、と怖くて見ることができなかった。

その瞳が。
自分と同じだろう、情欲に濡れた色をたたえていて。
いつもこんな瞳で見つめられいたのかと思うと、悪寒ではない何かが背筋に走った。

「・・・いいとか、駄目とかじゃ、なく、て・・・」

髪に差し入れられた手に力がはいり、惹かれるように唇にふれる。
ポップからの触れるだけの口付けは、離れないように更に力の込められたヒュンケルの手によって深いものになってゆく。
口付けだけで蕩けてしまいそうな、そんなキス。

「・・・そう、だな。」

いいとか駄目とかじゃなくて。
お前が欲しい。

そう耳元で囁かれて、自分からもう一度口付けた。


欲しいのは。
欲しいのはおれを欲しがるお前なんだ。










NEXT













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ちょっと長いので分けてみました。

さあこれからってところなのにね!




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