美和子と澄子ただちには警察病院に送られて治療を受けた。
幸い2人とも命に別条はなかったが、澄子はもとより美和子までもが相当な精神的ショックを受けており、
到底事情聴取ができる状態ではなかった。
勝俣以下の3人は西多摩署の刑事が取り調べ、被害者側で唯一事情聴取可能な高木については
特別に目暮が担当することになった。
白鳥は勝俣の取り調べの立会いを希望したのだが、彼と澄子との関係から冷静な対応が
できないと判断されてそれは許されず、結局懇願の末、取調室の隣の部屋のマジック
ミラー越しに様子をうかがうことだけが許された。
勝俣は素直に犯行を自供した。いや正確に言えば現行犯逮捕なのだから供述したと
言うべきだろう。
勝俣は美和子に対する怨恨と自らがすでに重度の肝硬変で死期が近いことも告白し、
それが今回の犯行の動機であることも認めた。さらに澄子が間違えられて拉致された事情、
そして美和子を幼児連続誘拐事件の情報を餌に呼び寄せて拉致したことなど全てを話した。

「それじゃあお前は逆恨みしていた佐藤刑事を幼児連続誘拐事件の偽情報でおびき出し、
凌辱したってわけだな。彼女については分かったが、小林先生は全く関係ないじゃないか」

取り調べに当たった担当官が問い詰めると、勝俣は悪びれもせずに言った。

「そうだな。さっきも話した通り、あの先生はちょっとした偶然から佐藤と間違えて
拉致してしまったんだよ。まあ運が悪かったとしかいようがないな」

担当官が激怒し、勝俣の胸ぐらをつかんだ。

「運が悪かったって・・・・ きさまっ、どういうつもりだっ!」
「もう誰が犠牲なろうがどうでもよかったのさ。罪は全部認めてやる。
だが裁判が終わって収監される頃には俺の命が終わってるかもしれないな」

そして、マジックミラーの方向を向き直ると、突然叫んだ。

「聞いてるんだろ、白鳥警部。お前の恋人はなかなかいい身体してやがったぜ。
俺は犯っちゃあいないが、あいつらが犯るたびに歓喜してやがったからな。
それに犯られながらお前の名前を必死に泣き叫んでいたのには健気でそそったぜ。
まあもっとも、最後にゃイッチまってあんあん喘いで腰を振ってやがったけどな」
「きさま、黙れっ!」

再び胸倉をつかみあげられながら、勝俣は平然と言った。

「そうそう、いいことを一つ教えてやるよ。あの先生を犯したのは3人だけじゃない」
「何だと、じゃあやっぱりお前も犯したのか?」
「違う違う。俺は最初(はな)っから佐藤しか犯る気はなかったんだ」
「じゃあ、どういう意味だ? まさかまだほかに仲間がいたのか?」

勝俣は刑事を馬鹿にしたように嘲笑した。

「馬鹿か、お前。あそこには俺達のほかにもう一人男がいただろう。
素っ裸の情けない姿のな」
「何っ・・・・」

その言葉の意味することを知り、刑事は愕然とした。

「ま、まさか・・・・ 高木刑事が・・・・」
「まあ、無理やりインサートさせてまぐわせてやったんだけどな。
でもあいつはあそこをしっかり立たせていやがったぜ。それに最後は中出しまでしたんだから
犯したのと一緒だろうよ」

愕然として腰を落とす刑事を尻目に椅子にどっかりと腰を下ろす勝俣。
そんな彼の耳には隣の部屋で絶叫する白鳥の叫びが確かに聞こえていた。
さらに勝俣が取り調べの刑事に思いもよらぬことを言った。

「そうそう、さっきあんたは俺が佐藤を幼児連続失踪事件の偽情報でおびき出したって
言ったがな、あれは違う」
「違う? どういうことだ」
「俺は本当にその情報を持っているんだよ」
「何だとっ! そ、それはどういうことだっ!」
「言葉通りの意味さ。だが俺はもうこれ以上喋る気はないからな。押収された証拠品を
よく調べてみるんだな。面白いものが見つかるかもしれないぜ」
「何っ!」

そこから先は、刑事がどんなに問い詰めようと勝俣は貝のように口をつぐんで一切何も
喋ることはなかった。

同じ頃、別室で目暮から事情聴取をされた高木は自分の知っていること、見たこと全ての
ありのままを話していた。だが、彼自身が無理やり澄子の中にインサートさせられた挙句に
放出して澄子を穢したことだけは、何度も話そうとしたがどうしても言い出せずに躊躇していた。
だが、そんな挙動不審を目暮に見とがめられた。

「高木君・・・・ 君はまだ何か話していないことがあるんじゃないか?」
「そ、それは・・・・」

うつむいた高木に、目暮は優しく言葉を選びながら諭すように言った。

「佐藤くん、いや、婚約者が目の前であんなひどい目にあわされたんだ。話したくないことが
あるのはしかたがないかもしれない。だけど今は全てを話してもらわなければいけないのは、
君も刑事なら分かるだろう」
「・・・・」
「高木君」

重い沈黙が2人の間を支配した。高木はその重さに耐えきれなくなったようにうつむいていた
顔を上げた。

「話してくれるんだね?」

高木は小さくうなずくと、苦しげに話し始めた。

「目暮警部、実は・・・・」

意を決して全てを打ち明けた高木。

「なっ・・・・ 何だって! それは本当なのかっ!」
「はい・・・・」

信じがたいその事実に愕然とする目暮。再びうつむいた高木がしばらくして顔を上げて
絞り出すような声で訊いた。

「私は・・・・ どんな罪に問われるのでしょう?」

目暮はその答えを持ち合わせていなかった。ただ、勝俣の犯したこの淫惨非道な犯行によって、
2人の部下の刑事生命が同時に絶たれてしまったことを知ったのだ。

                    ※

勝俣の供述に従って所轄署員が押収されたノートパソコンを調べてみたが、どうやら
現場突入前に全てのデータを削除したらしく、最初は何も見つけることはできなかった。
もちろんただ削除しただけなら復元するのは簡単だが、どうやら専門の消去ソフトを
使用したらしくその復元には時間がかかった。
そして復元された画像データを見て、警察関係者は息を呑んで目をそむけた。
そこには美和子と澄子が相次いで蹂躙・凌辱されてまさしく性奴隷と化していく過程が
余すことなく撮影されていたのだ。
さらにメールソフトに届いていた勝俣宛てのメールを読み、添付された画像データを見て
声を失った。そこには全く別の凌辱の宴の様子が克明に記録されており、美和子同様に
一人の若い女性が、複数の男達に蹂躙の限りを尽くされて輪姦されていたのだ。
それを見た若手刑事が声を上げた。最近墨東署から西多摩署に転属してきた塚原である。

「これは小早川っ! ま、まさかっ! い、いやっ・・・・ でも・・・・」

それを聞きとがめた相模警部が訊いた。

「塚原君、君はこの女性に心当たりでもあるのかね?」
「えっ、いや、はい・・・・ お、おそらく前に自分が勤務していた墨東署の交通課に
属するこ、小早川巡査ではないかと」
「何だってっ!」

その時、同じ映像を見ていた別の刑事が声を上げた。

「これはっ・・・・ 警部、指名手配中の男ですっ! それに、後ろに少女らしい姿が
映っていますっ!」
「何っ!」

相模がもう一度映像を確認し、問題の部分を拡大すると、確かにそこには現在指名手配中の男と、
その背後に猿轡を噛まされた少女らしい姿が確認できた。

「勝俣(やつ)が言っていたのはこれのことだったのか。至急墨東署に連絡しろっ!」

そう、復讐の淫鬼による鬼畜の宴の餌食とされたのは美和子達だけではなかったのである。



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