明青学園高等学校3年生の平野敏和はこれまでずっといわゆる「優等生」で通してきた。
裕福な家庭の長男に生まれ、教育熱心な両親に大きな期待とともに育てられた敏和は
小学生のころから手のかからない真面目な子供といわれ、親からも学校の先生からも
一目置かれる存在だった。そして名門明青学園に進学後も学業優秀・真面目で品行方正と
まさしく絵に描いたような優等生だった。
だが、敏和本人はずっと忸怩たる思いを感じてきていた。
小学生の頃は放課後に塾通いなどせず、他の皆がやっているようなボール遊びや道草などに
明け暮れてみたかった。
また中学になってからは同級生達がひそかに回し読みしているポルノ雑誌にも興味はあったし、
また異性の目から隠れて交わされる卑猥な猥談にも加わりたかった。
だが周囲の、特に両親が自分に期待する理想像を裏切れずに、そういうものに目をそむけて
非の打ちどころのない優等生を演じ、そして高校進学後もそれを通し続け、3年間ずっと
クラス委員長をつとめ、また常に学年の3番以内という優秀な成績を収めてきた。
その甲斐あってか、すでに都内の一流私立大学への推薦入学もほぼ決まり、あとは残された
学園生活を謳歌するだけとなって、今から受験本番を迎える同級生達に羨ましがられていた。
だが、敏和は自分がクラスメイトの男子からは「面白みのない堅物」と陰口をたたかれ、
女子からも「真面目な人だけど・・・・ちょっとね」と敬遠されていることも知っていた。
そして何よりこれまで周囲の期待に合わせて、優等生を演じ続けてきた自分自身に嫌気が
さしていたのだ。
だが、だからと言って今更そんな自分を変える覇気もなく、どこにもぶつけようのない
いらだちとストレスがたまっていく、そんな毎日を過ごしていた。
そんなある日、敏和は学校近くのスーパーに何気なく立ち寄り、お菓子売り場に置かれていた
板チョコを手に取るとさりげなくポケットにそれを沈め、そのまま代金を支払わずに出てきた。
「万引き」──別にそのチョコが欲しかったわけではない。ただ一瞬のスリルを求めての
衝動的な犯行だった。そしてそれは発覚することなく成功し、その時に得たスリルと成功感に、
敏和はこれまでに味わったことの快感を感じて病み付きになってしまった。
以来、敏和はストレスがたまるたびにこの悪癖を繰り返すようになっていた。
初めはかなり緊張もしたが、慣れてくると、まるでゲーム感覚でより大胆な犯行を繰り返すように
なっていった。それでもそれはけっして露見することなく、敏和にとってはまさしく格好の
ストレス解消になっていたのだ。そう、あの時が来るまでは。
その日も敏和は万引きに成功し、帰宅しようとした時、突然背後から声を掛けられた。
「おい、オマエ、ちょっと待てよ」
振り返ると、そこに立っていたのは自分とほぼ同年代の制服姿の男3人。
その制服を見て敏和は動揺した。
それはこの近辺では俗にいう底辺校であり、素行の悪い連中が集まることで有名な
粕谷工業――通称カス校――の連中だったのだ。
「オマエ・・・・ その制服は明青学園だな」
瞬く間にその男達に囲まれた敏和。身長が170センチに満たない小柄な敏和は
全員180センチ近い彼らに囲まれただけで萎縮してしまう。
「オマエ、今ぎってたよな」
『ぎる』──その言葉の意味は知らなかったが、直感的に何を意味しているかは分かり、
顔から血の気が引いていった。
男の一人が敏和をじろりとねめつけ、もう一度言った。
「お前、今、ぎっただろう。万引きだよ、万引き」
「そ・・・ そんなこと」
顔を真っ青にしながら否定した敏和だったが、男の次の言葉に愕然とした。
「嘘はダメだぜ、嘘は。しっかり現場はこれで撮っているんだよ」
そう言って、ポケットから携帯電話を取り出しさらに続けた。
「名門の明青学園の生徒があんなことをしちゃあいけねえな」
がっくりとうなだれた敏和。男達は罠にかかった獲物を見るような勝ち誇った笑みを
浮かべながら続けた。
「まあなんだ、話の続きはもっと静かなところでしようか」
男達に囲まれるようにして連れて行かれる敏和。そしてこれが彼にとって終わらない悪夢の
発端となった。
※
その日以来、敏和は彼ら3人──阿倍野正義・都島透・住吉輝樹──の金づると化した。
彼らは敏和から小遣いを巻き上げるだけでなく、さらにコミックやゲームソフトなどの
万引きを重ねさせ、それを新古書販売店などで換金させてそれも巻き上げるようになっていた。
それから1か月も経ったある日、男達がいつものように敏和を公園に呼び出し、
さらに恐喝を重ねると、敏和は力なく首を振った。
「勘弁してくれ。もうアンタたちには50万近く渡したんだ。これ以上金はない。
本当に限界なんだよ」
「金がないならいつも通り、万引きして金に換えればいいだろうが」
3人の中のリーダー格の阿倍野がすごむ。敏和は泣き出しそうな顔になった。
「もうだめだよ。あんなこといつまでも続くわけがない。いつか捕まっちゃうよ」
男達は舌打ちした。まあこれまでで十分巻き上げたし、確かに前回は万引きの際に
危うくつかまりかけた。それにあまり追い詰めすぎるのも危険だ。下手に開き直られて
警察にでも行かれたりしたら元も子もない。もういい潮時かもしれない。
だが、それでもやはりこのおいしい金づるを手放すのは惜しかった。
「そうか分かった。じゃあ、あと1回だけで許してやるよ。今回が最後だ。
それならいいだろう」
「それは・・・・」
言葉に詰まりうつむく敏和。その時、男達の背後から声がかかった。
「平野君、平野君でしょ。こんなところで何をしてるの?」
「えっ?」
敏和が顔を上げ、男達が声の方に振り向くと、明青学園の制服を着た男女が立っていた。
上杉達也と原田正平、そして浅倉南の3人だ。
「えっ、いや・・・・」
口ごもる敏和。都島がぶっきらぼうに言った。
「あんたらにゃあ、関係ねえよ」
だが、どう見てもただならぬ様子に原田正平がぬっと進み出た。
「平野、今日は俺達と約束があっただろう。こんなところで何してたんだよ」
もちろんそんな約束はない。だがそれでも原田は強引に男達の中から敏和を引っ張り出した。
「何だ、きさま!」
色めき立つ住吉と都島。だが阿倍野がはっと何かに気が付き、それを制した。
「やめておけ。そいつが誰だか知っているのか? 相手が悪い」
「えっ、どういうことだよ、それは」
「それにあっちを見てみろ」
阿倍野が顎でしゃくった先には偶然通りかかったパトロール中らしき警察官が不審げに
こちらの方角を見ていた。
「おい、行くぞ」
男達は舌打ちしてその場を立ち去ると、南が敏和の顔を覗き込む。
「平野君、いったいあの人達は何なの?」
「えっ、いや、別に何でもないんだ」
「何でもないってことはないだろ。あいつらカス高の連中だよな。どう見ても絡まれてるか
脅されているって感じだったぜ」
達也が図星を突いた。
「それは・・・・」
敏和は一瞬、すべてを話してしまいたい衝動に駆られた。
おそらくその場にいたのが原田と達也の2人だけだったら、恥を忍んで事態を打ち明けて
いたかもしれない。
しかし、浅倉南の存在がそれをためらわせた。なぜなら敏和はクラスの副委員長でもあり、
今年のインターハイの新体操で優勝して今や学園のマドンナともいうべき存在の彼女に
密やかな好意を寄せていたからだ。そんな相手を前にして、どうしても自らの恥を晒す
ようなことはできなかった。
だがそんな敏和の気持ちも知らずに南が心配げに訊いた。
「本当に何にもないの? 私達にできることだったら協力するわよ。
ねっ、タッちゃん、原田君」
頷く2人。だが逆にその言葉に追い詰められた敏和は
「だ、だから、本当に何でもないんだって」
いたたまれなくなってその場を逃げ出そうとした敏和の手をぐっと原田が掴んだ。
「あいつにかかわるとろくなことはない。悪いようにはしないから話した方がいい。
あいつらと何があったんだ」
原田は阿倍野正義のことをよく知っていた。その名前とは裏腹に、中学時代から素行の悪さは
折り紙つきの不良だ。もともと原田自身が中学時代はかなりの不良だったせいもあって
彼の悪い噂は腐るほど聞いていた。
「話してみろよ、平野」
再びすべてを告白したい衝動に駆られる敏和。
だが、それは今までの自分をすべて否定し、周囲の期待も裏切ってしまうことになる。
それに何より、そんな自分の醜態を南だけには知られたくはない。
「何でもないってっ! いいから放してくれよっ!」
敏和は原田の手を振り払い、逃げ去るようにその場を立ち去ってしまった。
顔を見合わせ、肩をすくめる原田と達也。
「本当に大丈夫かしら、平野君」
心配げな南。だが達也はあっさり言った。
「何にせよ、あいつが話してくれないんじゃあしょうがないだろ」
「そんな言い方冷たくない? タッちゃん」
「でもこれ以上詮索するのは返って余計なおせっかいかもしれないぜ」
「それはそうかもしれないけど・・・・ 原田君はどう思う?」
「あっ、いや・・・・」
確かに平野が何らかのトラブルに巻き込まれている可能性は高いが、達也の言うように
本人がそれを認めないのではしかたがない。それより原田には先ほど阿倍野が見せた
態度が気になっていた。
原田が阿倍野のことを知っていたように、阿倍野もまた原田のことを知っていたようだ。
そしてそれとは別に阿倍野は南を見て明らかに何かに気づいた様子で、何やら意味ありげな
笑みを浮かべ、去り際にも何度も何度も振り返ってこちらを確認していたのだ。
インターハイでの優勝が大きくマスメディアに取り上げられたことで、今や南は全国でも
屈指の有名な女子高生といっていい。もちろんそのことに気づいただけなら問題ないが、
あの奇妙な笑みの裏に隠された意図がどうにも気にかかる。だが、今こんな漠然とした
不安を彼女に話してもしょうがない。単なる自分の思い込みかもしれないのだ。
「どうしたの、原田君?」
南が原田の顔を覗き込む。
「あっ、いや・・・・ 何でもない。確かに気になるけど、上杉の言うように平野が自分で
話してくれなくちゃどうしようもないと思う」
南が不満げな顔を達也に向けた。達也は頭を掻きながらやや言い訳がましく言った。
「わかったよ。明日にでももう一度平野に訊いてみるさ。それより早くいかないと
おじさんが待ってるぜ」
今日は南の父が経営する喫茶店『南風』の新装開店準備のために3人は放課後アルバイトとして
かりだされたのだ。
「あっ、うん。じゃあ行こう」
南は先頭を切って歩き出し、あとに続く達也と原田。
だが不幸にも原田の不安は的中することになる。
そう、この時の彼らとの邂逅こそが、のちに彼女の運命が大きく狂わせ、凌辱のヒロイン・
浅倉南誕生の契機となってしまったことなど、今の彼女に知る由もなかった。
※
もうもうと紫煙が漂う6畳の部屋の中に阿倍野・都島・住吉3人の姿があった。
阿倍野がいったん窓を開け、籠った煙を追い払ってから窓を閉めた。
「ちぇっ、今日は余計なところで邪魔が入ったな」
タバコの火を灰皿でもみ消しながら都島が舌打ちし、大きく住吉がうなずくと、
それに阿倍野が応じた。
「しかたがねえよ。それにしてもまさかあの原田正平が明青学園なんておぼっちゃま高校に
いるとは意外だったな」
「その原田ってのはそんなに有名なのかよ?」
都島と住吉がそろって訊く。
「そうか、お前らは別学区から粕谷(うち)に来たんだっけな。アイツは中学時代から
この辺では知らない奴がいないってくらい有名な不良で、特に喧嘩では負け知らず、
当時から高校生だって歯が立たなかったくらいさ」
「へえ、そんなヤバいやつなのか。あともう一人の男もどこかで見たような気がするけど
誰だっけな?」」
「ばか。あいつは上杉達也だよ。今年の夏の甲子園の優勝投手さ。本来だったらこの前の
ドラフト会議でプロから上位指名されてたはずだぜ」
「ああっ! そうか、それでどこかで見たことがあった気がしたのか。でも指名されてた
はずってのはどういうことだよ?」
「ああ、甲子園で無理をして肩を壊したらしくて本人がドラフト前に指名を拒否したらしい。
何でも大学に行ってリハビリに専念するって聞いたな」
「へえ・・・・ お前よくそんなこと知ってるな」
「ばか、お前らがモノを知らな過ぎるんだよ」
阿倍野がそこで身を乗り出すようにして言った。
「そんなことよりもお前ら、あの女のこと気付いたか?」
「ああ。すっげぇ可愛かったよな。明青っていやあ女のレベルが高いってことは有名だけど、
それにしてもあんなに可愛いのがいたとはねえ。ありゃあちょっとしたアイドル並みだぜ。
だけど、あの女もどっかで見たことがあるような気がするんだよな」
都島が首をかしげ、
「そうそう、俺もそう思った。どこで見たんだっけなあ・・・・」
住吉と互いに顔を見合わせると、阿倍野が呆れたように言った。
「何だ、お前らあの女のことも知らないのか? ホント、モノを知らなやつ奴らだな。
超がつく有名人なんだぜ」
「へっ? 有名人?」
「ああ、名前は浅倉南。今年のインターハイの新体操で優勝した女だよ。新聞にもでかでかと
載ったし、テレビでもスポーツニュースで取り上げられた。それに・・・・」
阿倍野は本棚の中から一冊の週刊誌を取り出し、目当てのページを開いた。
「あった、あった。これだよ、これ」
それは『週刊ドキュメント』というゴシップ誌だった。
阿倍野が指し示したページにはリボンの演技をしている南のレオタード姿の写真が載っており、
その横にはでかでかと「新体操界期待の新星! 浅倉南の妖艶な舞」というキャプションが
ついていた。
しかしその写真は意識的にローアングルから撮影され、大きく開かれたレオタードの股間部分を
わざとらしく強調した煽情的なショットになっていて、記事自体も演技の内容などより、
彼女の容姿についてをやたらと強調していて、読者の意識をどこへ誘導しようとしているのかは
明らかだった。
都島と住吉が一斉に声を上げた。
「うわっ。マジかよ、マジ。こりゃすげぇや。このレオタードの食い込みがたまんねえ。
そそりまくりだぜ」
「ああ。さっきの制服姿もいいけど、このレオタードはヤバすぎるだろ。いいね、いいね、
同じ明青ならあんな情けない野郎より、こういう女とお近づきになりたいもんだ」
「それだよ、それ」
阿倍野が我が意を得たとばかりに言った。
「えっ?」
「まあ今日は残念だったが、あの平野って野郎もさすがにこれ以上絞ったらまずいことに
なりそうだし、このへんにしておいた方がいいと思わねえか」
「何だよ、じゃあ、あのいい金づるを手放しちまうのかよ。もったいねえ」
「だから言ったろ。あんまりやりすぎて開き直られて警察にチクられても困るしな。
何事も引き際は肝心、いい潮時さ」
そこで阿倍野は南のグラビアを指さし、卑猥に笑った。
「あんな情けない野郎のかわりに、今度はこの期待の新星様と親しくなりたいと思わないか?
野郎と違って、女なら色々と楽しめそうだしよ」
阿倍野は「色々」に卑猥なアクセントを加えて下卑た笑みを浮かべた。
「親しくなって『色々』とねえ・・・・」
都島と住吉も同じく淫猥な笑みを浮かべる。
「そりゃあ、こんないい女とお近づきになれるなら、あんな野郎なんかどうでもいいが、
だけど明青の女が俺達なんか相手にするかよ。それともこの女にもあの野郎みたいに
何か弱みでもあるのかよ」
「さあな」
「さあなって・・・・ まともにいったら俺達なんか相手にしてくれるわけないだろ」
「そうだろうな。だけど別にそれならそれでいいさ。最初(はな)からまともにいこうなんて
考えてねえよ」
阿倍野が口の端をゆがめてにやりと笑い、都島が真顔になって言った。
「まともじゃないって・・・・ じゃあお前、この女もこの前の女子大生みたいに
犯っちまおうっていうのか」
阿倍野がぐっと身を乗り出した。
「ああ、そうさ。それによく見てみろよ。何ともそそる身体をしてるじゃねえか。
こいつを素っ裸にひん剥いて、たっぷりと可愛がってやりてえと思わないか?
それに天王寺さんも言ってたよな。普通ならやれそうにない上玉を犯るのが最高だって。
こんな条件にぴったりの女はめったにいないぜ」
2人はグラビアに視線を落とし、南の肢体を穴が開くほど凝視し、生唾を飲みこんで
喉奥を鳴らした。
「(脈ありだな・・・・)」
ほくそ笑む阿倍野。おそらく今彼らの頭の中では、一糸まとわぬ姿にひん剥いた南を
繰り返し刺し貫く妄想をめぐらしているに違いない。そう、これまで自分が何度も
そうしてきたように。
彼がこの『週刊ドキュメント』を偶然手に入れたのは一か月ほど前だ。
そしてこのグラビアを一目見た瞬間から南に対して激しく劣情を催した。
もともと『週刊ドキュメント』は読者の、特に男の情欲をとことん煽る下世話なネタと
猥雑な写真を売りにしている雑誌だ。その南のグラビアも明らかにその種の効果を狙って
意図的に掲載されたものであり、彼同様の思いを抱いた男は日本中でごまんといただろう。
だが彼のその思いは異常と言えるほど強烈だった。
それ以来、数えきれないくらいそのグラビアで淫らな妄想を膨らませ、その中の彼女を
刺し貫いて自らの慰めの糧としてきた。だがその強烈な欲情はしだいに自慰だけでは
到底満足できなくなり、自身でももてあましかけていた頃、あの女子大生輪姦事件が
起こったのだ。
あの夜、阿倍野は自ら彼女を犯していた時はもちろんのこと、他の連中に彼女が輪姦されて
いた時すらも、泣き叫ぶその姿を南に重ねてより激しく情欲していたのだ。
以来、「浅倉南を犯したい」――その一度湧き上がったそのどす黒い欲情は日が経つにつれて
一層強固なものとなり、そして今日はからずも南本人を目にしたことでその思いが頂点に達した。
何としても浅倉南をこの手で犯し、そして輪姦される様を見てみたい。もはや後には引けない。
そのためには何としてもこの前の仲間を集めて実行あるのみだ。
3分近くは考えていただろうか、ようやく都島が顔を上げて言った。
「そりゃまあ犯るのは悪くないと思うけど、天王寺さんはどう言うかな?」
「実はもう連絡してあるんだ。そろそろ来るころだよ。それに旭も呼んでおいた」
「何だずいぶんと手際がいいじゃねえか。もう犯る気満々って感じだな」
5分ほどして天王寺が現れた。一斉に頭を下げる3人。
天王寺が気が急いたように訊いた。
「何かいい獲物を見つけんだって? だけどこの前以上の上玉じゃないと俺は納得しねえからな」
「それは折り紙つきですよ。天王寺さん、浅倉南って知ってますか?」
「浅倉南・・・・ いや、どこかで名前は聞いたような覚えがあるけどな」
「これですよ」
阿倍野が『週刊ドキュメント』を該当ページを開いて渡した。
天王寺はしばらくその記事を読んでいたが、顔を上げてると下卑た笑みを見せた。
「なるほど、『新体操界期待の星』か・・・・ さすがだな、阿倍野。こりゃ確かに
この前以上の上玉だ。これなら文句なしだ」
「じゃあ、犯るってことでいいですか?」
「ああ。それにしても、この女も明青学園で、その上野球部の元マネージャーとは驚いたな。
それともわざと狙ったのかよ?」
「へっ? 『この女も』ってどういう意味ですか?」
「何だ、お前ら知らないでこの女を選んだのか。この前、輪姦(マワ)した女子大生、
名前を憶えてるか?」
「ええと、確か・・・・ 西尾・・・・ 佐知子でしたっけ?」
阿倍野がおぼろげな記憶を頼りに自信無さげに答える。
「ああ。実はあの女、明青学園の野球部の前監督の娘で元マネージャーだったんだよ」
「ええっ、まじっすかっ!」
「ああ、俺は元々野球部で明青とも対戦したことがあったしな。それにあの女は明青の
美人マネージャーってことで野球部の連中の間じゃあ結構有名な存在だったんだよ。
まあもっとも、俺も犯ってる時は気付かなかったんだけど、後で旭が撮った映像を
見返しているうちに思い出したんだよ」
「へえ・・・・ それは偶然っすね」
そこへ、その旭が現れた。
「ちわっす。先輩」
軽い調子で入ってきた旭だが、そこに天王寺の姿を見つけると、直立不動になって敬礼した。
「て、天王寺先輩。お久しぶりです」
天王寺は鷹揚に手を上げて軽くうなずき、改めて男達を見回した。
「よし、これでメンバー全員そろったってわけだ」
その言葉で旭はこれが何の集まりなのかすぐに察し、緊張の面持ちになった。
「また・・・・ 誰かを犯るんですか?」
「ああ、阿倍野が特上の女を見つけてきた。これだよ、これ」
天王寺に渡された『週刊ドキュメント』のグラビアを見たとたん、旭は素っ頓狂な声を上げた。
「うわっ! これ浅倉南じゃないですかっ! マジに浅倉南を犯る気ですか」
一斉に頷く男達。旭は一瞬絶句した後、興奮を抑えきれない口調になった。
「いやあ・・・・ 今度もレベル半端ないっすね。だけど、いい、いいっすよ。浅倉南とヤレる、
いや浅倉南を犯れるなんて、マジ最高っ、男のロマンっすよ」
「そうだな。それにこの前のオマエが撮った映像はなかなかグッジョブだったぞ。
だてにAV監督志望ってわけじゃなさそうだな。今度も極上のやつを頼んだぞ」
「それはもう任せてください。それに浅倉南の生レイプ映像なんて、ヘタなAVなんかよりずっと
抜けますよ。これこそ撮影者冥利に尽きるってもんだ。ばっちり激写して見せますよ」
そこで阿倍野が天王寺に向き合っやや言いにくそうに切り出した。
「それで天王寺さん、ちょっとお願いがあるんですけど」
「何だよ、お願いってのは」
「この女を犯るための下調べや準備なんかは全部俺がやりますから、だから・・・・」
「だから、何だよ」
「こいつをマワす時は最初に俺に犯らせてくれないですか?」
都島・住吉・旭が驚いたように一斉に阿倍野を見た。
天王寺がじろりと阿倍野を睨み付け、タバコに火をつけてゆっくりとふかすと、
わざとらしく煙を阿倍野の方へ吐き出しながら言った。
「じゃあ何か? お前は俺にお前のザーメンが吐き出されたこの女のお〇〇こに後から
ぶち込めっていうのか?」
阿倍野は一瞬うなだれたが、それでも顔を上げて食い下がった。これだけは譲れない。
浅倉南を最初に刺し貫き、処女──阿倍野は根拠もなくそう確信していた──を散らすのは
自分でなければならない。
「お願いします。この浅倉南だけは、俺が真っ先に犯りたいんすよ」
天王寺は黙ったままだ。重い沈黙が部屋中を支配したが、すぐにそれが意外な言葉で破られた。
「わかった。いいだろう。この女はお前に真っ先に犯らせてやる」
「ええっ! マジにいいですかっ!」
「ああ。いいさ。それでいったいいつ、どこでこの上玉をマワス気なんだ」
阿倍野は天王寺の気が変わらないうちに計画を話し出した。
「今ちょうど明青の野郎一人を脅して金づるにしてるんですが、どうやらそいつが
この女の知り合いらしいんで、まずはそいつから情報収集ですね」
天王寺は時計をちらりと見て立ち上がった。
「分かった。俺はちょっと今から用があるし、一週間ほど東京を離れなきゃならないから、
後はすべてお前に任せる。実行日が決まったら連絡をくれ」
※
敏和は下校途中、大きなため息をつき、重い足取りで歩いていた。
昨日は偶然原田達に助けられてその場は凌げたものの事態が好転したわけではない。
自分が万引きした証拠写真は相変わらず彼らの手にあり、さらに脅されて犯罪行為を
積み重ねてしまっている。この泥沼から抜け出す方法は一つ、すべてを打ち明け警察に
訴えることだが、それは自らの犯罪行為を認めることであり、当然大学への推薦入学も
駄目になるだろうし、何より今まで積み上げてきた自分の全てを否定しなければならない。
とても選べる選択肢ではなかった。
「(何で・・・・ 何で、こんなことになっちまったんだ)」
彼らから金を要求されるたびに、両親に適当な嘘をついて小遣いをもらってきた。
それまで優等生を演じ続けていた彼を信用している両親はその要求に何の疑問も抱かずに
応じてくれた。だがそれももう限界にきていた。さすがに両親も相次ぐ要求に不審を
抱きはじめたようなのだ。
「はあ・・・・」
大きくため息をついた時、背後から声がかかった。
「よう、優等生のひ・ら・の・く〜ん」
このふざけた言い方。誰なのかは振り向かなくても明らかだった。
ゆっくりと背後を振り返ると、案の定、阿倍野・都島・住吉の3人がにやにやと笑いながら
立っていた。
「今日は邪魔の入らないところへ行くぜ」
3人に囲まれた敏和に拒否する権利はなく、昨日とは違う人気のない公園へ連れて行かれた。
また金の要求かと覚悟した敏和だったが、そこで阿倍野が意外なことを言った。
「安心しろって、今日は金じゃない。ちょっと聞きたいことがあるだけだ。それがすんだら
お前と縁を切ってやる」
「ほ、本当なのか・・・・・」
「ああ、約束する。ただし、俺達の満足する情報を教えてくれたらな」
「な、何を聞きたいんだ」
阿倍野はすぐには答えず、急に平野の肩を抱いて急になれなれしい口調になった。
「まさかオマエがあの浅倉南の友達だとは思わなかったよ。そういう大事なことは
真っ先に教えてくれないだめじゃないか」
「えっ、じゃあ訊きたいことってのは浅倉のことなのか」
「ああ。まずあの女の家がどこなのか教えてもらおうか」
下卑た笑みを浮かべる男達を見て沈黙する敏和。直感的にまずいことになると感じたのだ。
だがためらう敏和の腹に都島の拳がめり込んだ。
「うぐっ!」
「素直にしゃべるんだ。痛い目にあいたいのか」
それでもしゃべらない敏和の腹に今度は住吉の膝が食い込んだ。
その痛みと恐怖に屈した敏和は苦しげにしゃべりり出した。
「○○町の・・・・ 『南風』っていう喫茶店だよ」
「それで家族構成は?」
「確か・・・・ 父親と2人暮らしだったと思う」
その後も敏和は南のことについて知っていることを洗いざらいしゃべらされた。
「それであの女はすいぶんと男にモテるだろうな? あんなに可愛いんだからよ」
「そ、それはまあ・・・・」
恐らく明青学園の中だけでも南に好意を寄せている男の数は両手の指の数では足らないだろう。
もちろん自分も含めてだ。それが表情に出たのか、阿倍野が鋭く言った。
「なるほど、お前もあのかわいこ子ちゃんに惚れてる一人ってわけだ」
「い、いやっ、そ、そんなことはっ!」
敏和はむきになって否定したが、その態度が返ってそれが図星を突いたことを証明していた。
「それで、あの女には特定の彼氏がいるのかよ」
「彼氏?」
「ああ、男だよ男。どうだ、いるのか? いないのか?」
一瞬躊躇して敏和は答えた。
「昨日一緒にいた上杉と・・・・ 付き合っているって噂だよ」
顔を見合わせる3人。阿倍野が得心したといった表情で言った。
「なるほど、甲子園の優勝ピッチャーと新体操期待の星。美男美女のお似合いカップルって
わけか。そりゃあお前みたいなダサい野郎が入り込む隙はねえよな。クックックッ」
顔をそむける敏和。言われるまでもなく、いくら自分が南に想いを寄せようと、しょせんは
高嶺の花だということは分かっているのだ。
「それで、あの2人についてもっと詳しい事を教えろよ。いつ頃から2人は付き合ってるんだ?」
「いつ頃から付き合ってるかなんて言われても・・・・ だいたいあの2人は元々幼馴染で
家も隣同士なんだ。家の中庭に共同の勉強部屋まであるって聞いたことがあるし・・・・。
もっとも浅倉は最初、弟の方と付き合っていたらしいけど」
「うん? 弟の方ってどういうことだ?」
聞き捨てならないといった感じで阿倍野が問い詰める。
敏和は達也の双子の弟である和也のこと、その和也が2年前の甲子園予選都大会決勝の日の朝に
交通事故で死んだこと、そのあと達也が野球部に入って明青学園を甲子園に導いたことまで
自分の知っていることをすべてしゃべった。
「ああ。そういやあそんな話を聞いたことがあるな。事故で亡くなった双子の弟の遺志を
受け継いだ兄が甲子園で優勝したってわけだ。なかなか泣ける美談じゃねえか」
そこで阿倍野はいったん言葉を切り、やや意外そうに言った。
「でもじゃあ、あの女は付き合っていた弟が死んだら、さっさと双子の兄の方に乗り換えたって
わけか。何だ、清純そうに見えて案外尻軽じゃねえか」
敏和は沈黙した。南は男女問わずに人気が高い。だがごく少数ではあるが、やっかみ交じりに
そうした陰口をたたき、南のことを忌み嫌っている女生徒がいるのも事実だ。
「それじゃあ、最後の質問だ」
そこでいったん言葉を切り、一瞬間をおいて続けた。
「あの女は・・・・ 浅倉南はまだバージンなのか?」
「ええっ! そ、それはどういう・・・・」
「だからその双子の兄弟のどっちか、もしくは両方とセックスしたのかどうかって聞いてるんだ」
「そ、そんなこと知らないっ! 知らないよっ!」
阿倍野が敏和の襟首を掴んで引っ張り上げた。
「じゃあ、オマエはどっちだと思うんだ」
「よ・・・・ よくわからないけど・・・・ おそらくまだ・・・・」
足をばたつかせながら苦しげに答える敏和。それは彼自身の願望でもあった。
阿倍野が口の端を歪めて卑猥な笑みを浮かべた。
「そうか、浅倉南はまだバージンか。そうか、そうだろうよ。クックックッ・・・・
そりゃあお楽しみが増えたってところだな。とりあえず聞きたいことはこれだけだ、
ありがとよ」
敏和を解放して立ち去ろうとする3人。だが、敏和が阿倍野の服の袖を掴んだ。
「あ、浅倉に何をする気なんだよ」
阿倍野が振り返ってうそぶいた。
「別に何でもねえよ。ま、俺達も新体操の期待の新星様とは仲良くなりたいからな。
それで色々と聞きたかっただけさ」
そんなわけはない。それならどうして南の性体験についてまで尋ね、バージンと聞いた
とたんにあんな卑猥な笑みを浮かべるというのだ。この男達が南に対して明らかに
性的な興味を、それもかなり邪な思いを抱いているのを敏和は確信した。
「た、頼む。あ、浅倉には・・・・ 妙なまねをしないでくれ」
阿倍野の表情が変わり、再び敏和の襟首を掴んですごんだ。
「何だオマエ、妙なまねってどういう意味だよ。ええっ!」
「そ、それは・・・・ だから・・・・」
口ごもる敏和。もしこの男達が今自分が想像しているようなことを南に対して行おうと
しているのだとしたら、それだけは何とかして止めなくてはならない。
ありったけの勇気を振り絞って言った。
「まさか、あんたら、あ、浅倉に・・・・ ら、乱暴しようとか・・・・」
その瞬間、強烈な膝蹴りが彼の鳩尾を直撃し、身体をくの字に曲げて呻き倒れる敏和。
「めったなこと言うんじゃねえよっ!」
阿倍野は敏和を引きずり起こして脅した。
「いいか。俺達が今オマエに訊いたことは絶対誰にも言うんじゃないぞ。浅倉本人だけじゃなく、
上杉や原田にもだ。もししゃべったら・・・・ 分かってるよな」
力なく頷く敏和。今の一撃で振り絞ったはずの勇気はあっという間に雲散霧消していた。
「それでいい。おい、いくぞ」
3人が立ち去り、取り残された友澤の脳裏に浮かぶ起こってはならない最悪の想像。
それは彼らに襲われて一糸まとわぬ姿に剥かれた南が組み敷かれ、相次いで犯されながら
泣き叫んでいるその姿。敏和は慌てて首を振った。
「そうさ・・・・ そんなことあるわけが・・・・ ないさ」
否定の言葉を口に出し、その最悪の想像を無理やり押し込める敏和。
だがその時、彼の下半身は明らかに充血し、漲り立って怒張していたのだ。
※
3人は夜になってから敏和に教えられた南の自宅へと向かった。今日はとりあえずの偵察だ。
時刻はすでに10時を回り、『南風』は閉まって看板の灯も消えていた。
裏に回ると両家の共同の中庭に建てられた小部屋に灯がついているのに気が付いた。
「おい、あれがあの野郎が昼間話していた勉強部屋ってやつか」
「ああ、そうだろ。灯がついてるってことは中に誰かいるみたいだな。
ちょっと様子を見てこようぜ」」
3人が足音を忍ばせて中庭に侵入しようとしたその時、部屋の扉が開いて2つの人影が現れた。
3人は慌てて生垣の陰に身を隠した。
「おい、あいつら・・・・」
「しっ!」
部屋の灯がちょうど逆光になってわかりにくかったが、どうやら南と達也のようだ。
3人はじっと息をひそめて様子をうかがう。
そんな事とは知らず、達也と南はドアのすぐ外で二言三言会話を交わした後、
南が家に戻ろうとした。
――じゃあタッちゃん、おやすみなさい。
軽く手を振って去ろうとした南を達也が呼び止めた。
――南っ!
振り返った南に達也が近づく。
――何、タッちゃん?
達也は何も言わずにそっと南を両腕を掴んで引き寄せぐっと抱き締めた。
――あっ!
小さな声を上げ、一瞬抗うそぶりを見せた南だったが、すぐに達也に身を任せた。
2人の視線が交錯し、達也はそっと南の顔を上げさせると彼女と唇を交わした。
30秒ほどのキスを終え、達也は南に言った。
――南、愛している。
南は小さく頷くと、踵を返して自宅へと向かっていった。
※
30分後。再び阿倍野の部屋に集まった3人。都島が興奮を隠しきれない様子で言った。
「やっぱり、あいつらできてやがったんだな。それにしても見せつけてくれたよな。
あの場ですぐにでもあの女を襲いたくなっちまったぜ」
それに住吉も応じる。
「ああ。でもあの上杉って野郎は弟が死んでくれたおかげで野球部のエースになって、
甲子園で優勝して、その上あんないい女をゲットできたんだろ。羨ましい野郎だぜ」
阿倍野がそこで言った。
「なあ、あの女を犯る場所でちょっと考えがあるんだけどよ」
「それならこの前、女子大生を犯った音楽スタジオでいいじゃねえか。あそこは潰れたも
同然で人の出入りはないし、防音設備が完璧だからどんなに騒がれても外には漏れねえ。
その上、バス・トイレまで完備してやがる。あんなにいい犯り場所ねえよ。学校帰りにでも
拉致って連れ込んじまえば、あとは犯りたい放題だろ」
都島がこともなげに言ったが、阿倍野は思いがけないことを言い出した。
「俺もそのつもりだったけど・・・・ それよりさっきのあの部屋で犯っちまうっていうのは
どうかな?」
「えっ! それはちょっと危険じゃねえか? 家があんなに近いんだし、それにあそこは
住宅街だから大声で叫ばれたりしたらまずいだろ」
「大丈夫さ、そんなのはやり方次第でどうにでもなる」
自信満々に言い切る阿倍野。
「でもなあ・・・・」
「そ、そうだよ、やっぱ危険じゃね?」
不安が先に立つ都島と住吉。だが阿倍野は強い口調で続けた。
「大丈夫だって。それにいつ、どこで犯るかは俺に全て任せると天王寺さんも言ってたじゃねえか」
都島と住吉は互いに顔を見合わせた。
「まあ、お前がどうしてもそうしたいってならそれでいいけど」
勢い込んでさらに阿倍野は続けた。
「それともう一つ提案があるんだ」
「何だよそれは?」
阿倍野がぞっとするほど残虐な笑みを浮かべた。
「どうせ犯るなら・・・・ あの上杉っていう野郎の目の前で犯るってのはどうだ?」
「ええっ! それはいくら何でもまずいだろ。あの女だけならサツに訴えられないように
できるかもしれないけど、男まで現場を見られたら絶対にばれるよ。俺達はあいつとも
顔を合わせているんだしよ」
「そうだよ。それは絶対にまずいってっ!」
猛反対する2人。場所については消極的ながら阿倍野の意見に同意したが、そのあまりに
危険すぎる提案にはさすがに納得できなかった。
「会ったっていっても1回だけだ。顔は覆面かなんかで隠しておけばわかりゃしねえよ。
それにあの女が恋人の前で犯されて泣き叫ぶ様も見てみたいじゃねえか」
なおも主張する阿倍野。しかし今度ばかりは2人は強硬に反対した。
「それは絶対にまずいって。ただでさえ輪姦(まわし)なんてヤバい橋を渡るんだ。
それなのにわざわざ目撃者を作るような真似できっかよ」
「そうそう。何もそんな危険犯さなくても、あの女を犯れるだけで十分だっつうの。
女を犯るのはいいけど、手が後ろに回っちまったら割が合わねえよ。俺も絶対に反対だ」
阿倍野もこうまで強く反対されては、提案を撤回せざるを得なかった。
恋人である達也の目の前で南を散々いたぶり嬲って恥辱を極めさせたうえでその処女を
刺し貫く――そんなシチュエーションを実現したかったがこれは仕方がない。
「分かったよ。じゃあそっちはあきらめる」
都島がほっとした表情になったが、すぐにまた顔を曇らせた。
「そんなことより、あの野郎は大丈夫かな?」
「うん? 誰だよ、あの野郎って」
「あの平野ってやつだよ。あの野郎、俺達があの女を犯るつもりなことを薄々感づいているようだし、
チクったりしないだろうな」
「脅しといたらか大丈夫さ。例の写真もあるし、あの男に俺達に逆らう度胸はねえよ」
「でも、万が一この女を犯ったあと、野郎にサツにでもチクられたらまずいだろ」
阿倍野は少し思案していたが、急に捕まえたネズミをいたぶる猫のような表情になった。
「あの野郎はどうやらこの女に惚れているみたいだよな?」
「ああ、そんな感じだったけど、それがどうしたんだよ?」
「じゃあ、こんなのはどうだ。あいつに絶対チクらせない方法がある」
2人に耳打ちする阿倍野。それを聞いて都島と住吉は一瞬驚いた表情を浮かべたが、
さらに阿倍野が説明すると納得したようにうなずいた。
「なるほどな。そりゃいい考えかもしれないな」
「それじゃあ、これから具体的に計画を詰めていこうぜ」
3人の男達の淀んだ瞳に宿る暗い光。
そして2時間後、部屋から3人が現れた。
「じゃあ決行は来週末連休初日の夜。ターゲットは新体操界期待の新星・浅倉南。
そして目的は・・・・」
そこで3人の声がそろった。
「あの女を犯って犯ってやりまくることっ!」
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