真夏の夜の悪夢から一ヵ月後、『月刊 空手道』編集部。

「今月号の売り上げもなかなかいいようだな」

編集長がゴキゲンな様子で言う。

「そりゃあやっぱり・・・・ この効果でしょ」

そう言いながら厚木が最新号の見開きグラビアページを開いた。
その右ページでは凛々しい胴着姿で優勝トロフィーを掲げて満面の笑みを浮かべ、
そして左ページでは紺のトンボ柄の浴衣にオレンジ色の帯を締めてややはにかんだ
笑みを浮かべている蘭の写真が並んでいた。

「だから言ったじゃないですか、編集長。この娘(こ)は絶対に当たるって。
何てったって可愛いくて華があるし、それに父親があの名探偵の毛利小五郎、
母親が法廷のクイーンこと妃英理とくれば話題性も抜群ですから」

編集長は満足気に頷きながらもいかにも残念そうに言った。

「それにしてももったいないよな。この子、結局全国大会は辞退なんだよな。
どうせならそこでも優勝してくれれば盛り上がってよかったのにな」
「それは無理っすよ、編集長。だって・・・・」
「ああ、わかってる。それ以上は言わなくていい」

編集長が一転して不機嫌な顔になり、厚木もまた黙りこくった。
関東大会の夜、蘭があの病院に運ばれてきた理由を何とか知ろうと、
厚木は手当たりしだい医師や看護師に訊いて回ったが、病院関係者の口は堅く閉ざされ、
それは明らかにならなかった。
しかたなく明け方近くになってようやく到着した海老名の家族と入れ替わるように
東京に戻ったのだが、その翌々日、新聞の地方欄の片隅に載ったある記事が目に
留まった。
それは関東大会が行われた都市近郊の田舎町で集団レイプ事件を起こした男達が
一斉に逮捕されたというものだった。
この事件は常に刺激的・煽情的な話題を渉猟する低俗マスコミの格好のターゲットとなり、
その後1週間以上にわたって、ワイドショーや週刊誌などで大きく取り上げられた。
それらの報道によれば、彼らは「狩り」や「イベント」と称して若い女性を次々と
拉致監禁して輪姦し、そのレイプシーンの撮影を繰り返していたのだという。
そして主犯格の男の部屋からはその犯行の一部始終を撮影したDVDが多数発見され、
証拠品として警察に押収されたが、それらの一部は既にアンダーグランドに流出し、
高値で売買されているという未確認情報も垂れ流されていた。
初出の新聞記事を見た直後、厚木の脳裏にあの夜に運ばれてきた蘭の姿とこの事件が
すぐに結びついた。

「(まさか・・・・な)」

半信半疑ではあったが、たまたまその事件を大きく報じている週刊誌の記者として
働いている大学時代のの後輩に連絡を取り、最後の被害者の名前を尋ねた。
その後輩もさすがに最初は言葉を濁していたが、厚木は執拗に問いただして、
ようやく最後の被害者が蘭であることをにおわす言質を取ったのだ。

「それにしても集団レイプした上に、そのシーンを撮影して保存しているとは・・・・
人間のやることじゃねえな。今時の若い奴らはホント何を考えてるのか分からん、
怖いよ、まったく」

編集長の声に我に返る厚木。

「ええ、それに例の陵辱ビデオが流出して裏ルートで売買されてるっていうのも
どうやら本当らしいですよ」

そこでいったん言葉を切り、蘭のグラビア写真を指差して言った。

「まあ、この子のやつは流出する前に地元警察に押収されたらしいですけどね」

編集部内に重苦しい雰囲気が漂い、誰もがやりきれないといった表情で沈黙した。
だが若手の編集部員の1人は蘭のグラビアを見つめながら、全く別のことを考えていた。
このはにかんだ笑顔を見せている浴衣姿の美少女が、その数時間後には獣欲に
駆られた男達に蹂躙の限りを尽くされたあげく輪姦されたのだ。
一糸まとわぬ姿にひん剥かれ、必死に泣き叫んで助けを求める美少女の身を散々
いたぶり弄び、次々と己の肉刃で刺し貫いていくケダモノ達・・・・

「(ゴクッ・・・・)」

思わずそのシーンを想像して生唾を呑み込み、下半身が熱くうずき始めるのを感じていた。

「(この子のレイプ映像かあ・・・・ それはぜひとも拝んでみたいもんだけど、
警察に押収されたんじゃあ絶対無理だよなあ・・・・)」

そう、警察に証拠品として押収された蘭の凌辱映像は決して世に出ることはない・・・・
はずであった。

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「まったく馬鹿なやつらだ。もっとうまいうやり方があっただろうに」

鷲尾と烏丸が持ち込むレイプ映像をこれまで高値で仕入れていたAV業者の男は
店内の控室で集団レイプ魔の特集を組んだ週刊誌を広げながら口惜しげにぼやいた。

「アイツらの持ち込む素人レイプモノは品質が抜群によかったから、
ホントもったいないよなあ・・・・」

そのぼやきを聞きつけ、彼の上司である店長が週刊誌を覗き込んだ。

「アイツらって、例の集団レイプ魔か?」
「ええ。本当は最後に輪姦(まわ)した、女子高生の録画DVDを持ってきてくれる
はずだったんですけどね。その直前に警察(さつ)に捕まっちゃって、それは警察に
押収されちまったらしいんですよ。アイツらの口ぶりじゃ、今まで持ち込んだ中でも
最高傑作が撮れたって言ってましたよ。何でもほら、あのアイドル凌辱モノにも
匹敵するとか大見得を切ってたくらいだから残念ですよ」
「ああ、あの速水玲香のやつか。そりゃまた大きく出たもんだな。もしそいつらの
言っていたことが本当だったとしたら、俺もぜひ見てみたかったよ」

その時、来客を知らせる呼び出しベルが鳴った。

入り口前の防犯カメラの映像で客の身元を確認した店長がやや驚いたように
男を振り返った。

「おっ、噂をすればそのアイドル凌辱モノを持ち込んださっちゃんが来たぞ」
「えっ? マジですか」

『さっちゃん』とは彼らの間で警察関係者を意味する隠語だ。もちろん警察の俗称・
サツからとっている。来店した客は、たびたびここへ映像を持ち込んでは、
いつもかなりの高値での取引を強要する悪徳刑事だ。厄介な取引相手ではあるが、
最上質の映像を持ち込んでくる大切な上客でもあり、無碍な扱いはできない。
男は客を部屋に招きいれ、タバコを勧めて火をつけてやった。

「ようこそ。久しぶりですね、△△さん。今日は何か?」」

客はソファにどっかりと腰を下ろしてしばし煙をくゆらせると、おもむろにバッグから
一枚のDVDを差し出した。

「素人女の輪姦凌辱モノだ。中身は保証する。この前持ち込んだやつに比べても
遜色ない。せいぜいいい値をつけてくれよ」

男がラベルに書かれていた文字に目を走らせ、声に出して読んだ。

「『真夏の夜の悪夢 The 輪姦 引き裂かれた格闘天使』ね。それじゃあ
一応内容を確認させてもらいますよ」

男はデッキにそのDVDをセットすると、スタートボタンを押した。

3時間後、客が帰った後、男と店長は興奮した様子で目を輝かせた。

「こりゃあ、おそらくさっきの・・・・」
「ええ、まず間違いなく、あの連中に最後に輪姦された女子高生のやつですね。
確かにこりゃあ極上もんだ。まず何つっても犯られてる女子高生がいい!
ルックスもスタイルも一級品で下手なB級アイドルよりずっと上玉ですよ。
それに何より犯られてる時の反応が抜群だ。泣き叫ぶ声も、イッチまって喘ぐ響きも
そそりまくりですよ。あいつらが言っていた通り、あの速水玲香のヤツにも匹敵、
いや、レイプ映像というだけならそれ以上の価値はありますよ」
「ああ、そうだな。あの強欲刑事に随分と吹っかけられたが、これなら十分元は
取れるな」
「ええ、100倍は楽に稼げると思いますよ。それにこのタイトルも刺激的でいい。
このまま使わせてもらうとしますか」
「よし、それじゃあ早速商品に仕上げるんだ。あのレイプ魔達も最後にいい置き土産を
してくれたもんだぜ。こいつは大ヒット間違いなしだ。何つっても男のレイプ願望を
ビンビンに刺激するからな」
「わかりました。最高の出来に仕上げてみせますよ。でも・・・・」

そこで、男は言葉を切り、卑猥に笑った。

「一回これで抜いてきていいですか? いやあ見てたらもう我慢できなくなっちゃって」

こうして決して流出するはずのなかった蘭の陵辱映像がアンダーグラウンドの世界に
出回ることになったのだ。
 


さらに3ヵ月後。米花市内のとあるアパートの一室に3人の男がたむろっていた。
この部屋の主である鴇田和也と、その悪友である鳩山睦夫に雉川晴彦だ。
いずれも米花大学4年生で鴇田は空手部、鳩山はアメフト部、雉川はレスリング部に
所属している。
鴇田がカバンからややもったいをつけながら一枚のDVDを取りだし、デッキにセットした。

「で? 今度のそれはいくらしたんだよ?」

鳩山が訊くと、鴇田は一瞬黙り込んでから、やや声を低めて答えた。

「10万・・・・ ってとこだな」
「10万! それはいくら何でも高すぎだろ」
「いや、絶対そんなことないって。それだけの価値はある映像さ。逆に10万なんて
返って安いくらいさ」

力説する鴇田に鳩山と雉川は苦笑しつつ揶揄した。

「だけどオマエ、ホントその手のエロDVDが好きだよなあ。いつも金欠でピーピー
いってやがるくせに、そういうものだけには金をかけやがる」
「そうそう、それもレイプとかSMとかそんなのばっかだし、ホント変態野郎だぜ。
だからオマエは女にもてねえんだよ」
「うるせえよ、余計なお世話だっつうの。女にもてないのはお前らも一緒じゃねえか。
それに今回のはマジ特別なんだよ」
「はあ? 特別ってどういう意味だよ。そりゃまあ10万もしたんだからただの
エロDVDじゃないってのは想像できるけな」

鴇田はやや自慢気に語りだした。

「お前ら、4ヶ月くらい前に捕まった集団レイプ魔の事件、憶えてるか?」
「ああ、そういやあそんな事件あったな。確かにあんときゃ週刊誌とかでばんばん
書かれてたけど、最近はみねえな。だけどそれがどうしたんだよ」
「いいか、これはその集団レイプ魔が最後に輪姦した女子高生を撮影したモノホンの
生レイプ映像なんだよ! それも女の顔にもあそこにもモザイクなしの超ハード、
スーパープレミアもんなんだぜ」
「嘘くせえ〜。オマエだまされてんだよ。そんなのどうせあの事件に便乗して作られた
フェイクさ、フェイク。よくある話じゃねえか。ほら、あのスーフリ事件の時だって、
その手の映像は出回ったらしいけど、みーんなガセだったって聞いたぜ」
「そうそう、そんなものに10万も払ってばかじゃねえの」

2人の揶揄に鴇田は色をなした。

「これは絶対に間違いないって! 何てったって出所が速水玲香のやつと一緒だからな」
「えっ! あの速水玲香のやつと・・・・ マジかよ、それ?」
「ああ、そうさ」

鳩山と雉川は急に黙りこくった。

速水玲香とはかつてそこそこ売れたアイドルグループのメンバーの一員で、
正統清純派として名を売り、時折テレビにも出演するなど活躍していたが、
突然芸能界を引退して消息不明となった。
しかし2か月ほど前、彼女がアダルトビデオに、それも超ハードなレイプ物に
出演しているという噂が流れ、さらに噂だけでなくその映像と称されるものが
ネットに上に流出したことによって週刊誌やワイドショーが一斉にその話題に
飛びついた。
彼女の所在は彼らによってすぐに突き止められ、事の真偽を執拗に追及された。
もちろん当初は事実を全面否定したものの、厳しい追及にあって、ついには映像は
彼女本人のものであることを認め、さらにあれはアダルトビデオなどではなく、
当時所属していた芸能プロダクションが暴力団とのトラブルの代償に自分を彼らの
生贄として差し出し、そこでレイプされた本物の映像だと爆弾発言をして大騒ぎとなった。
もちろんその芸能プロダクションは全面否定したものの、一躍時の人となった玲香は
芸能界の内幕と自身の半生を赤裸々に綴った自叙伝まで出し、それがまた爆発的な
ヒットとなって予想外の大金を掴んだのだ。
そして鴇田は巷で話題になる前から速水玲香の本物の凌辱映像と言われていたDVDを
入手し、鳩山と雉川にも見せていたのだ。

「お前らは速水玲香のヤツもそっくりさんの偽物だって言ってバカにしてたけど、
本物だったじゃねえか」
「そりゃそうだけど・・・・ でもなあ」

旗色の悪くなった2人が顔を見合わせると鴇田はやや機嫌を損ねたように言った。

「じゃあ、オマエらは出てけよ。オレ一人で見るから」

2人が慌てたように言い繕った。

「まあまあ悪かったよ、悪かった。そう邪険なこと言うなよ。せっかくなんだ、
とりあえず一緒に鑑賞しようぜ。それで本物かどうか判断すればいいことじゃねえか」
「ちっ、調子のいい奴らだな。まあいい、じゃあ始めるぜ」

鴇田がデッキのスタートボタンを押し、映像がテレビ画面に映し出された。

3時間後、3人はじっと黙り込んでいた。揶揄していた2人がようやく口を開いた。

「こりゃあ・・・・ マジ本物かもしんねえな?」
「ああ、すげぇリアルでヤラセとはとても思えねえ。絶対本物の生レイプだよ。
もしこれが演技だっていうならヤラレ役の女はアカデミー賞ものの名演技だぜ」
「ああ、それに何てったて可愛いし、すげぇそそる身体してるよな。あれじゃあ
男なら誰だって犯りたくなっちまうぜ」
「それに喘ぎ声もすっげぇ色っぽいぜ。ホント、あの声だけでも一発抜けそうだ」

興奮して話している鳩山と雉川をよそに、鴇田は映像が消えたテレビ画面をぐっと
睨みつけるようにして黙り込んでいる。

「おい、どうしたんだよ。急に黙り込んじゃって」

怪訝に思った鳩山が訊くと、鴇田が重い口を開いた。

「オレ・・・・ この犯られてる女のこと知ってるぜ」
「ええっ!」

鴇田はおもむろに立ち上がると本棚から『月間 空手道』のバックナンバーを
取り出した。

「あった、あった。こいつだよ、こいつ」

ページを開いてみせ、一斉に覗き込む2人。

「おおっ! こりゃ確かに似てる・・・・ っていうよりクリソツだぜ。
『降臨、格闘天使』か・・・・ でも、こいつ誰だよ?」
「帝丹高校空手部の女主将、毛利蘭さ。記事にもそう書いてあんだろ」
「おいおい、帝丹っていったらすぐ近くじゃねえか」
「ああ。こいつ、女だけど滅茶苦茶強くて関東大会でも優勝したしてるし、
その上このルックスだからちょっとした有名人さ。この辺で空手やってて
この女を知らないやつなんかいねえと思うぜ。それにDVDのタイトルに気づかなかったか?」
「え? タイトルって?」

鳩山が慌ててパッケージを裏返してタイトルを声に出して読んだ。

「『真夏の夜の悪夢 THE 輪姦 引き裂かれた格闘天使』・・・・ あっ!」
「なっ、犯られてるのはこの女さ、絶対に間違いない。それにこっちも見てみろよ」

鴇田はさらに別の『月刊 空手道』を取り出し、見開きのグラビアページを開いて
指差した。

「よく見てみろよ。犯られてる女の着ていた浴衣とこの写真の浴衣がそっくりだろ」
「えっ?」

2人は急いでDVDで確認し直し、素っ頓狂な声を上げた。

「おおっ! ホントだホント! 確かにこりゃ間違いないぜ、マジ本物だ!」
「すげぇよ、すげぇ! じゃあこれはこの蘭って娘(こ)がマジ犯られちゃってる
輪姦映像ってわけだっ!」

繰り返しDVDを再生し、3人は異様に盛り上がった。そして興奮がようやく収まり、
しばしの沈黙の後、雉川が切り出した。

「で・・・・ この女が誰だかわかったからってどうするんだよ?」

鴇田が2人を見回し、淫猥な笑みを浮かべた。

「これを使えば・・・・ ちょっと面白いことになりそうだと思わないか?」
「おいおい、まさかこれでこの女を強請ろうとか考えてんのか?
オマエいくら金がないからってそれは・・・・」
「いや、そうじゃねえ。オレが言いたいのは、こいつを使って脅せば、
今度は俺達がこの女で同じように楽しめると思わないか? ってことさ」
「ええっ! お前マジかよ? だってこの映像を撮った連中は警察に捕まってるんだぜ。
いくらなんでもまじいよ、それは」
「捕まったのはあの連中のやり方が下手だっただけさ。オレ達ならもっとうまく
やれると思わないか。それに・・・・」

鴇田はDVDを再現し、連続ファックで犯され続ける蘭を映し出した。

「よく見てみろよ、これだけの上玉の女子高生を好き放題に犯りまくれるチャンスかも
しれないんだぜ。それに一度輪姦された女なんだ。それが二度になろうが三度になろうが
別にどうってこたあねえだろ。このとびきり犯りがいのありそうな上玉を性奴隷にして
飼うってのも悪くないと思わねえか」

一瞬間が空き、奇しくも鳩山と雉川が同時に答えた。

「それは確かに・・・・ 悪くねえな」

3人が顔を見合わせニヤリと笑い、彼らの暗く淀んだ瞳が怪しい光で爛々と輝いた。
鴇田がおもむろに立ち上がった。

「よっしゃ、そうと決まれば、後はどうやるかだな。とりあえずこの格闘天使様の
つらを一度拝みに行ってから、じっくりと計画を立てるとしようぜ」

3人の男、いや、狂ったケダモノ達が動き出す。
そして2ヵ月後、彼らの悪辣な罠に落ちた蘭は、再び凌辱のヒロインへと祭り上げられ、
今度はコナンではなく新一自身の目の前で『真冬の夜の悪夢』の主役を演じることに
なるのである。





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