力なく床に投げ出された手足。

この体を貪りたがる自分。

「ん、あ…!」

もっと叫ばせたいと思う自分。

ピチャ、と音を立てて舐める、吸い付く…歯を立てる。

もっと、もっと深く、触れていたい。





◆◆◆ ことば -Side ZORO- ◆◆◆





キッチンでまた顔を合わせた夜。

いつもより熱いまなざしで見つめられて、息がつまった。
ただでさえ、欲望に濡れた瞳には追いつめられてしまうのに。

いつものように最初の合図をしようと手を伸ばす。
自分が少なからず動揺しているのは、濡れた瞳のせいにしようとして。 ひたむきに自分を見つめるまなざしに気がつかなかったフリをして。

頬に触れた手はその心をありのままに映してしまったけれど。

その時。

サンジが少しだけ眉を震わせたかのように見えた後に。


「抱いてくれよ」


初めて、ことばを、聞いた。



驚きが去ったあと、感じられたのはどうしようもないほどに上がった自分の体温。
この熱をどうにかしたくて毎夜のようにぶつかり合っていた相手が、今、目の前で、自分を見上げている。

その表情を変えないように、頬に触った。
自分の熱をうつさんとばかりに、サンジの顔を余すところなくなでていた。
瞳を閉じたその顔に、見とれてしまう。

いつも、自分の欲望のままに扱っていたサンジの体。

今更優しくするとか、大事に扱うというのもおかしいけれど…
今は、自分がそういう風にしてやりたいと思うから。

抱きしめた。

サンジの肩口から、嗅ぎ慣れた香りがする。
慣れ過ぎて忘れそうだったコイツの匂い。
コロンの香りのような、料理の湯気の匂いのような。

いつもなら為すがままになっているサンジの腕が、両肩に回されて、ぎゅ、と力がこもる。

あぁ…そうか、俺達にはこういう接触が全くなかったから。
いつもいつも、勢いに任せて即物的な触れ合いをしていたから。
やっと、物足りないと思っていたものが、満たされた気がする。

今までの足りなかった部分を埋めるようにずっと抱きしめていたら、サンジがふ、と笑って体の力を抜いた。
無駄な力が抜けて、より柔らかくサンジと体が密着した。

不思議な心地よさに浸っていた意識が、いきなり現実味を帯びてこの男の体を感じ取る。

また熱が高まってきた。

だから、サンジの体を抱く力を強くして、言った。

感じ易い耳に、息を吹き込むようにして。

「抱いてやる」

そしてサンジの体を押し倒した。




Next

Back