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***「変わらぬ君の想いに赤いバラの花束を編」
早いものでもう7月だ。 雨が多くて腹立たしいが、仕方あるまい。梅雨時期に雨が降らないことには話しにならんしな。
ゼシカも小学生になって4ヶ月目。随分と慣れて友達も沢山できたようだ。 何……? 一年前も一年生だったと? 黙らんか。そういった細かいことを気にするようでは私の妻は務まらんぞ? うちのククールを少しは見習いたまえ。
さて、そのククールなのだが、最近どうも挙動不審なのだ。 ゼシカとふたりでコソコソどこかに出かけたり、部屋にこもって何かしていたりするのだ。 気にしていないふりをしながら色々探っているのだが、リュウも何をしているのか知らないらしい。
状況は芳しくないかと嘆息するも、私があるものを見つけたことで状況は一変する。 リュウのモンスターバトルロードのファイルに見覚えのないカードがあったのだ。それもドラゴンライダー(レアカード)3日前にゲームに連れて行ったときにはなかったものだ。 察するにククールあたりがリュウを懐柔するために与えたのだろう。
そうと分かれば後は簡単だ。 リュウを脅しても言うことを聞くわけがないので(あれは或る面誰よりもたちが悪い)予てから欲しがっていた鉄球魔人のカードをちらつかせて取引することにした。 見事リュウはこちらがわに寝返り、知っていることを全て話すと言う。
「それがさ、僕も詳しいことは分からないんだよね。なにやら”イリエ”とかいう男のことで盛り上がってたのは耳に入ったりしたんだけど」
イリエ? 人の名前のようだが……。 やはり男か……? またおかしな男に口説かれているのか!? あの愚か者め(「お菓子のように簡単に」編参照) いや、ゼシカの方とも考えられる。バレンタイン事件という前例もあることだし……(ちなみにバレンタイン編の完結はまだ書いていない) 何にせよ、そのイリエというのが何者なのか分からない私には分が悪い。
「ねえ、マルチェロ」 ひとりで思案に暮れていると、まだそこにいたらしいリュウがのんびりとした口調で私に問いかけてくる。 「なんだ?」 「男の人が女の人と浮気してる時に証拠となるものを隠す場所ってどこだか分かる?」 「生憎私は浮気などしたことがないのでね。そのようなことは分かりかねますな」 嫌味がましく答えてやると、リュウは鼻で笑いやがった。 「そう? じゃあ覚えておくといいよ。男はね、よく自分の車の中に隠すんだよ? トランクのシートを剥がしてスペアタイヤの隙間とか、工具箱の奥とか……普通だったら見ることがないようなところにね」
「……なるほど」 などと素直に納得している場合ではない。
リュウよ、お前はなぜそんな男の事情を知っているんだ!
私はそう叫びたかったが、その時リュウははぐれメタルもびっくりの速さで逃げ出していた。 逃げ足の速さはククールにそっくりと言うわけか……。成長したものだな。ひとしきり感動してから、私は気を取り直して先ほどのリュウの言葉を思い出す。 「ふむ……。中々興味深い発言だ」 あの息子は性格が悪いが基本的に私の味方だ。何の意味もなく語っていったとは考えられない。
決断力がある私は開き直りも早い。当然のように私はククールの車のトランクを漁り、リュウが言ったとおりの場所から納戸の鍵を見つけ出した。そして、納戸の奥から出てきたもの。それを見たときに、思わず絶句してしまったのだが。
結果を語る前に、ひとつ昔話をしなければならないだろう。 私がゲームの類を嫌っていることは既に知っているかもしれないが、実は漫画というものも好きではない。 小学校の高学年くらいだったろうか……ククールが漫画を見ているのを発見して叱り付けた記憶がある。 当然ながら、この家にも漫画は一冊も存在しない。ククールも院に居たときは持っていたかもしれないが、あれは私の「私にはもう何もない。だが、お前ひとつだけ持ってまた始めるというのも悪くない」という言葉を真に受けたのか、身一つで嫁いできたからおそらく処分したのだろう。
今思えば本当に昔のククールは可愛かった! 基本的には私のいうことを聞いていたからだ。 それが今ではどうだ? 結局ゲームを容認させ、その上……。 くそっ! 私がククールに甘くなったということか? 認めん、絶対にそんなことは認めんぞ!
納戸に隠されていたもの。ここまで言えば大体分かるかもしれないが……。 それは十数冊の漫画と、同じ題名のDVD。 ククールとゼシカはそれらを買い集めるためにコソコソと外出し、家でこっそり楽しんでいたのだろう。 とすると、イリエというのは漫画の登場人物か? まったくそのようなもので盛り上がるとは低俗にもほどがある。
私の知らないところで漫画に興じていたククールにはきついお仕置きをしてやらなければなるまい。 大体ゼシカを巻き込むとは何事だ! ゼシカはまだ1年生、少女漫画など10年早いわ!
私が押収した品を抱えて廊下を歩いていると、神出鬼没のリュウが現れて「見つけたんだー」などとニコニコ笑っている。(ちなみにククールとゼシカは電車で隣町まで買い物に出かけていて不在だ) その子どもらしい笑顔がふっと消えてあくどい笑みに変わる瞬間は、我が息子ながら誰に似たのかと頭痛がしてきた。 「忘れてないよね?」 「鉄球魔人だろう。既にオークションで入札済みだ」 「さすがマルチェロ。仕事が速いね」 どこかの悪代官と悪徳商人の会話のようだが、こんなことは今始まったことではない。 今の私はどうやってククールを苛め抜くか……あれこれ考えるのに忙しいのだ。リュウに構っている暇などない。 もの言いたげな視線を無視して大股で彼の隣をすり抜ける。しかし、私の思惑などお構い無しで背中に飛んでくるリュウの言葉。
「ねえ、マルチェロ。せっかくだからさ、それ、読んでみたほうがいいよ?」 誰が少女漫画など。くだらない。 「確かにくだらないかもしれないけどさ」 漫画を読むのも嫌だが、私は人に心を勝手に読まれるのも不快だ!
「ククールが、マルチェロの言葉に反してまで読みたかったものだと考えると興味が湧かない?」
その夜、ククールが私に叱られることはなかった。 漫画とDVDも、元の場所に戻しておいた。 ククールとゼシカが浮かれて部屋に篭るのにも、黙って口を出すことはなく。
「なあなあ、ゼシカ。やっぱり入江君ってマルチェロにそっくりだと思わねえ?」 「そうかしら。入江君の方が男前じゃない?」
ちょっとだけ漏れてきた会話にも色々突っ込みどころはあったが、聞こえないふりをした。
『ねえ、ククール。漫画なんて読んでたらマルチェロに怒られない?』
『リュウ、頼むから黙っててくれよ! お前の欲しがってたドラゴンライダーのカード買ってやるからさ。 オレさー、この漫画、小学生の頃に最初の方だけ読んでたんだけどマルチェロに怒られてから読んでなかったんだよね。だからこの前本屋で偶然見つけたときにどーしても気になっちゃってさ。 なんか、このヒロインが他人のように思えなくて……。 良かったよなー! 結局オレも琴子ちゃんも幸せになったじゃん!』
こんな会話があったことを、リュウから聞かされたら……見ないふりをしてやるしかないではないか。
「ククールの誕生日には2人っきりでディナーしてケーキ食べて、赤いバラの花束でも贈ってあげたら?」 苦虫を噛み潰したような顔で漫画を読む私に向かってリュウが言った。
これでも私は毎年ククールにプレゼントを贈っている。 入江とかいうヤツと比べられるのは心外だったが。 たまには花でも贈ってやるのも悪くはないかと考え直していた。
真っ赤なバラの花束を、ククールの歳の数だけくれてやる。
-------------------------- その漫画とは「イタズラなKISS」だったり。元ネタ知らない人にはごめんなさい。 冷たくてイジワルな入江君を琴子ちゃんが6年も一途に追いかけて片想いして幸せになるというお話。ツンデレな入江君に何度も泣かされて不安になって、それでも入江君大好き!なわけですわ。 原作は作者急逝で未完だったのですが、DVDの方で完結したんですね。最後の方の入江君はすげー優しくなってて「あんた誰!?」って驚きます。 いやー私も昔少しだけ読んでたんですが、まさか結婚して幸せになってるとは思わなかったよ! あの2人がなんとなくマルとククっぽくね? とか思っちゃったりして。 特にこのパラレルのマルククに(笑)
一途な想いが通じてくれると嬉しいっすよね!
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