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 マルクク愛の劇場(?)
  scene 16 「お菓子のように簡単に 前編」
  scene 17 「お菓子のように簡単に 後編」
  scene 18 「意外とロマンチスト?編」
  scene 19 「ちょっと切なめクリスマス特別編」
  scene 20 「バレンタインの戦い−2008−編 その1」

 

 

 ***「お菓子のように簡単に 前編」



 ある秋の夜のこと。
 一緒に風呂に入っていたリュウが、私に向かってとんでもないことを言い放った。


「ねえ、マルチェロ。ククールが浮気したらどうする?」


 おかしいとは思っていたのだ。
 その日のリュウは、やたらククールについて問いかけていたから。
 「昔のククールはもてたのか」とか「マルチェロ以外他に好きになったひとはいたのか」とか。なんでそんなことを私に聞くのか理解できなかったので曖昧に流していたのだが……そこで出たのが例の言葉だ。
 さすがの私もその言葉には動揺した。(が、顔に出てたかどうかは定かでない)

「なんだ、突然」

 呆れ顔で答えを返してみるが、リュウの表情が暗いままなのが少々気になる。まさか思い当たる節でもあるというのか。
 こういってはなんだが、あれが私以外の男に現を抜かすというのは想像できない。昔からの口癖といえば「兄貴がカッコ良すぎて他の男なんか色褪せて見えるね」ときたものだ。そんな台詞を言い続けて十余年、とうとう私の伴侶になったのだから本当に見事な意志の強さだ。
 だが、逆を返せば……私はククールの言葉や態度に胡坐をかいていて、努力(?)のようなものを怠っていたかもしれない。
 私が持っていないものを全て持っているような男がいれば、ククールといえど心を動かされてもおかしくはない。まあ一般的には、だが。

「実はね、幼稚園のお父さんの一人がククールのことを好きみたい」

 ―――ほう……。コブ付きでうちのを口説くとはいい根性をしてるではないか。

「今まで年少さんに通っていたレナちゃんのお父さんなんだけどね、奥さんと離婚しちゃって親権?とかいうのを争ってたんだって。それが最近裁判?で負けちゃったっていってた」

 ―――このような重い話、4歳児に聞かせる話ではないだろう! どうなってるんだ昨今の幼稚園教育は! ……って、そんなことよりその男はバツイチ独身ということか。……チッ。

「それでね、レナちゃん今日が幼稚園最後の日だったんだけど、その時にお父さんがククールに言ってるのを聞いちゃったんだ。ククールったら今日うっかりバスを逃して僕たちのことを園まで送っていったからさ」

 ―――あの馬鹿め…。タイミングが悪いことこの上ない。

「ふたりで何か話してるから何だろうと思って覗いてたら『とうとう一人になってしまいました。ククールさん、これからの新しい人生を一緒に歩んでくれませんか』って」

 ―――口説き文句としては三流だな。というか、人のものを勝手に口説くな愚か者め!


 湯船にアヒルのおもちゃを浮かべて遊びながら、リュウは淡々と説明していく。
 酷く神妙な顔をしているが、このリュウのことだ。”私とククールどちらについていくのか”にまで思考を巡らせていても不思議ではない。

「正直さ、僕もマルチェロ以上の男はなかなか居ないだろうと思って高をくくってたんだよね。でも、今回はちょっとマルチェロ苦戦かもしれない。マルチェロはベホマも使えないしさ」
 それとこれとは関係ないだろう。そう突っ込みたかったが、とりあえずやめておく。 
「背も高いし、頭もいいし…。まあこの辺はマルチェロといい勝負できるか、ちょっと相手が劣るくらいかな。あ、職業はお医者様だってさ。
 たださ、歳がククールよりひとつ年上。若いよー。―――ま、それより何より問題は性格なんだよね。優しくて笑顔が似合う好青年。いつも眉間に皺が寄ってるようなマルチェロじゃ勝負にならないもん」

 言いたい放題言ってくれてるが、リュウにここまでの評価をさせる男は珍しい。リュウ自身も「もしかして」という気持ちがあるからこそ私に告げたのだろう。
 だが、歳は今更どうすることもできん。問題の性格とやらも、私が優しくしてやったり毎日笑顔を絶やさなかったりしたらククールが熱を出して寝込みそうだ。
 もしもあれが私以外の人間を選ぶとしたら、それは……。

「その時はその時で、仕方のないことだ。人の感情を思いのままにすることなど不可能だからな」
 表情ひとつ変えずに言う私に憤慨したのか、リュウが顔を真っ赤にして反論してくる。
「そんなに簡単に負けを認めるの?!」
「ほらほら、そろそろ逆上せてきたのだろう。もう出なさい」
 抱き上げて湯船から出してやると、リュウは「話を逸らすな」だの「男らしく勝負しろ」だの喚きながらも渋々脱衣所に去っていった。
 ひとり風呂に残されて息をつく。それからやっと、相手の告白にククールが何と答えたのか聞くのを忘れていたことに気付いた。

「ふん……。くだらんな」

 普段通りに吐き捨てたつもりだったが、声にいつものような嫌味の色も横柄さもなかったこと。そんな現実に自分自身気付いている。




 それから私はたっぷり20分ほど湯船に浸かってしまい……半分逆上せながら出て行くと、ゼシカとリュウは既に床についていた。
 廊下で偶然ククールに遇ったので風呂に入るよう促す。ククールは素直に頷いたが、なぜか私と視線を合わせようとしなかった。……非常に嫌な予感がする。
「あのさ、マルチェロ…」
 リビングに向かおうとする私を引き止める声。その声音が普段と違っていたのでますます嫌な予感がした。

「オレが風呂から出るまで寝ないで待っててくれる? 話したいことがあるんだ」

 嫌な予感が…なんてものではない。
 これは間違いなく何かのフラグが立っている。

「分かった。リビングにいるから声をかけなさい」
 胸中穏やかではなかったが、なんとか平静を装って返答した。
 何を言われるかは理解していたし、どんな結末になろうと仕方ない。
 たが……本心では。

 ―――いますぐ世界を滅ぼしてしまいたい。

 そんな物騒なことを考えていた。



 後編(下の記事)につづく





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 ***「お菓子のように簡単に 後編」



『ああ、このまま時間が止まってしまえばいいのに』

 テレビドラマの女優がそんなことを言っている。
 大して興味もないものだったが、今日ばかりは”時を止めるどころか息の根を止めてやってもいい”と心の中で突っ込みを入れた。

 ”マルチェロは祈りを込めて十字を……”

 私の下のほうに流れている謎のテロップ。
 心の中だけのつもりだったが、無意識にグランドクロスを発動しそうになっていたらしい。やれやれ、もう少しで新しく買ったばかりのテレビを潰すところだった。

 不承不承立ち上がって冷蔵庫の中から新しいビールを出す。すると、ちょうどその時ククールがリビングにやってきた。

「もう3本め? 飲みすぎじゃねえの?」
「話とは何だね?」

 引き伸ばしても仕方ない。単刀直入に切り込むことにした。
 時は金なり、だ。無駄なことに時間を費やす気にはなれない。さあ、矢でも鉄砲でも持ってくるがいい。今の私はゴルドを崩壊させることだって出来る。その程度にはイラついているのだ。

 とことん開き直ってソファに腰掛ける。と、ククールは何かを小声で呟きはじめていた。
 何事かと思って耳を澄ます。そして同時に生命の危機を感じて蒼くなった。
 ああ、確かに私は矢でも鉄砲でも持って来いと言った。だが……


 いくらなんでもザラキーマはないだろう!? 


「落ち着け、ククール! 話せば分かる」
「これが落ち着いていられるかよ! 問答無用だ」

 大暴れするククールをなんとか押し倒して床に縫いとめる。
 すると、あれはふっと力を抜いて私に抱きついてきた。
 とりあえず一安心……ホッと息をついたのも刹那のこと。何気なく視線を後方に向けてみれば左手に地獄のサーベルときたものだ。慌てて身を翻して避け事なきを得たが、ククールはすかさずバギクロスを発動してきた。―――腕を上げたものだな……。なんて、今は感動している場合ではない。

「ククール……! これはどういうつもりだ」
「うるせえよ! 自分の胸に手を当てて考えてみやがれ」

 手を当てるなら自分のではなくククールのでお願いしたいところだが……いや、そんなこともどうでもいい。
 とりあえず本気で私を殺そうとしている目の前の人間を何とかするのが先だ。

「ククール、落ち着け! この前の外食代は私の奢りにしてやる」
「そんなもんで騙されるかよ!」
「では、新しい服を買ってやる。今なら靴もつける」
「もう一声!」
「くっ……! ククール、私から何もかも奪いつくすつもりか!」

 そんなこんなのドタバタを超え、なんとか私はククールを落ち着かせることに成功した。
 身体的にも金銭的にも痛い目をみたが……それは致し方ない。まずは、なぜククールが私を闇に葬ろうとしたのかを問い質さねばならないだろう。

「いや、その……つい、うっかり」
 でへへ、と笑いながらククールが言った。
 うっかり者めvと言ってやれるほど出来た人間ではないのでメラをお見舞いしておく。
「痴情のもつれ……?とか」
 なぜ疑問系なのだ。
 もつれる前に襲い掛かってきたのは間違いないのでメラミをくれてやる。
「別れ話がこじれて……」
 ワイドショーのトップニュースか何かか。
 こじれる前にザラキーマだったのは事実なのでメラゾーマで締めておく。

 私の攻撃に手早くベホマをかけてククールは立ち上がる。いつも思うが、これの打たれ強さは大したものだ。
 回復を終えるまで待ってやって(これは私の優しさだ)尚も詰問すると「うーん」と呻ってからやっとククールが結論を出した。
「じゃあ、やっぱり……”ついうっかり”かなぁ」
「なるほど。まあいいだろう」
 何かが間違っているような気がしないでもないが、この際どうでもいい。

「何か私に言うことはないのかね? ククール」
「ついうっかり殺意が芽生えてごめんなさい。許してくれる?」
 両手を合わせて上目遣い。あまりの可愛さに溜め息が漏れる。
「仕方のないやつめ……」
 こちらもついうっかり絆されて、これまで何度許してやったのか数えるのも嫌になってきた。(ちなみにこれで15795回めだ)

「で、本当の理由はなんだ。言ってみろ」
 当然先程の答えで納得できるはずがない私が少し厳しい口調で問いかけると、ククールは少し躊躇いながらも事の次第を話し始める。あれも服とバッグと靴の誘惑には負けたらしい。誰に似たのかモノで簡単に釣れすぎだ。

「マルチェロが綺麗な女の人と密会してるって。背が低くておとなしそうな……マルチェロより3歳年下の賢い女性だって聞いてさ」
 ―――ばかばかしい。くだらん伝聞に惑わされおって。
 呆れてものも言えないが、どうやら不安にさせたらしいので今回は下手に出てやることにする。
「噂に翻弄される前にすべきことがあるのではないかね? まずは私に事実を問うこと……なぜそれが出来んのだ」
 しゅん、とした表情でククールが小さく謝罪する。
 素直に謝ることができたので、褒美に頭を数回なでてやった。

「残念ながら、私に付き合えるような物好きな人間はお前以外にいないのだ。長い付き合いなのだから、その辺りは解っていてもいいのではないか?」
「うん……。疑って本当にごめん」
「分かればよろしい」

 色々あったが何とか事の収束をみることができたらしい。
 それにしても散々な夜だった。ありもしない浮気の疑いをかけられ、ククールを口説いている男の存在を知り……。今日はもしかして仏滅なのかと何気なくカレンダーを見る。

 ”10月31日 赤口”

 なるほど、仏滅に負けず劣らずの大凶の日だったか……。と訳のわからない納得をした私だが、もうひとつ書いてあった文字を見て愕然とする。同時にある可能性に気がついて肩を震わせた。

「ククール、お前……私が密会してるとかなんとかの話は一体誰に聞いたんだ?」
 きょとんとしながらも、ククールは質問にあっさり答える。
「え? ゼシカだけど?」
 それが予想通りの人物で、思わず私はうな垂れた。

 そうだ、今日は”ハロウィン”だ。
 お菓子くれなきゃ悪戯するぞ!と、子供が脅迫や強盗まがいのことを認められている”その日”だ。
 確かに私たち夫婦はリュウとゼシカに菓子をくれてやることはなかったが……悪戯にしては少々度が過ぎているのではないか。というかむしろ、あのふたりは「Trick or Treat」のひとことすら言わなかったではないか!



 翌朝、私はリュウとゼシカに大量の菓子をくれてやった。
 ゼシカは「あら、1日遅れのハロウィン?」などと言っている。やはり昨夜のことは、子供たちの”私とククールに対する悪戯”だったのだと確信した。
「……菓子ならいくらでもくれてやる。今後は度の過ぎた悪戯は控えなさい」
 怒りを抑えつつ、そして内心悪戯だったことにホッとしつつ私が言う。が、ゼシカとリュウはその辺の子供よりも性質が悪かった。
「私もリュウもお菓子なんて要らないわ。ただ、悪戯がしたかっただけよ。だからハロウィンに乗じてやらせてもらったってわけ」
「ゼシカ、お前……」

 今まで何度も言ったことだが、あえて今日も言わせてもらいたい。
 私は子供たちの育て方を間違った。
 我々を悪戯で翻弄し、結果的に大量の菓子をも奪っていった。昨日今日との二日間、私のダメージは計り知れない。金銭的な面では多大なる損失を、そして身体的、精神的な面では厳しい打撃を充分すぎるほど頂いた。(なんせ私はククールに殺されかけている)

「あとでククールには事情を説明しておきなさい」
 そう言うのが精一杯。ゼシカは素直に「はぁい」なんて返事している。
 勿論私としてはリュウの謝罪と説明も欲しいところだ。一時はテレビを破壊しそうになり、更には世界を滅ぼそうというところまで行ったのだ。謝罪もなしに許せるかと無言の訴えをリュウに向ける。
 だが、出てきた彼の言葉は意外なもので。

「僕は何も言うことはないよ」
「……なんだと?」
 飄々と言い放つ息子を睨みつけてやったが、そんなものはお構いなしでリュウは満面の笑みを浮かべる。
「ゼシカがククールに言ったことは全部嘘だけど、僕が言ったことは全部本当だもん」



 なんだと!?



「沢山お菓子をもらった御礼に教えてあげるね。ククールはちゃんと断ってたよ。『申し訳ないけど、オレには大切な人がいるから』って。
 良かったねマルチェロ。でも、今回は事なきを得たけどこれからはどうだか……。努々油断しないようにね」

 油断も何も……。あれが私以外の人間に心を動かすことなどあるものか。
 今回は”ついうっかり”疑ったが、ククールは絶対に私の傍から離れはしまい。
 ―――だが、しかし。

「リュウ」
「なに?」
「昨夜の発言は撤回する。もし、その時が来たとしても……私が簡単に負けを認めることはない」
「そうこなくちゃね」

 アドバイスはありがたく頂戴しておく。
 あれは私のものだ。
 子供に菓子をくれてやるように簡単には渡せないのだと……ハロウィンの夜に改めて知った。





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 ***「意外とロマンチスト?編」



 気がつけば11月よ。だいぶご無沙汰してるような気がするわ。
 季節は秋から冬になってきてる。朝とか寒くて嫌になるわよね。

 今日ビアンカさんに聞いてきたんだけど、もうすぐ結婚記念日なんですって。
 11月22日。いい夫婦の日なんて、本当にお似合いの日だと思うわ。現在喧嘩なんかやらかしてるどこかの夫婦とは大違いよ。

 そういえば……マルチェロとククールの結婚記念日っていつなのかしら? 私の記憶ではお祝いしたことなんて一度もないのよね。ビアンカさん夫婦を見習ってふたりで食事に行ったりすればいいのに。
 本当、世間の常識から外れている夫婦だと思うわ。
 特に思うのが結婚指輪のことよ。普通は左手の薬指にするじゃない? マルチェロはそうしてるけど、ククールは何故か右手の薬指にしてるの。
 一度聞いてみたら、
『オレは左利きだろ? 家事をしたり字を書いたりするときに邪魔になるからさ』
ですって。それでもやっぱりおかしいわって首を捻ったんだけど……
『おかしくなどない。昔、ある国では右手の薬指にしていたという話もある』
とかなんとか、マルチェロの援護まで入ってしまってそれ以上問い詰めることが出来なかったの。
 大体こういう逃げ方をするときは、他に何か理由があるときなのよ。絶対に謎を解明してやるんだから!


 そんなこんなで、この意気込みをリュウにも説いてみたわけ。
 そしたらね、リュウったら言うのよ。「僕はその理由を知ってるよ」って。
「一体なんなのよ」
 私だけが知らなかったのかと腹が立って、ついつい厳しい口調になる。でも、リュウはククールとマルチェロ本人に聞いたわけじゃないみたい。はっきり言って予想にしか過ぎないんですって。
「でも、絶対当たってると思うよ」
 にっこりと笑ってリュウが言った。我が弟ながら本当に食えないヤツだわ。それに、随分自信満々じゃないの。聞いてやるから言ってみなさいっての。

「ゼシカ、マルチェロとククールが手を繋いでるの見たことある?」
 それが何なのよ!と言いたいのを我慢して、とりあえず私は頷いた。
「何度かあるわ。ただ、私が見たのは繋いでるってよりも引っ張られてるって感じだったけど」
「それじゃ、あのふたりがいつも指輪をしてる方の手を繋ぐのも知ってた?」
 ……それは知らなかったわ。この子って意外と観察眼があるのよね。

「僕、指輪はお互いのことを表してるのかと思った。いつも右側、左側にいるよって」

 すごい考察だわ……。
 でも、あのふたりがそんなこと考えるかしら?


 それでも何となく納得しちゃったのよ。
 利き腕を空けておくのが、あのふたりっぽいじゃない?
 手を繋いでても戦えるって素敵じゃないの。
 一般的な常識からは外れてるけど、それがマルチェロとククールなんだわ。
 あのふたりにとっては、結婚指輪も結婚記念日も大した意味なんて持たないのかもしれない。それ以上に大事なものがきっとあるのね。

 だから、いい加減に夫婦喧嘩はやめてくれないかしら。
 今日の喧嘩の原因は”コーヒーが温かったから”らしいけど、私が新しいのを淹れ直してあげてもいい。
 とりあえずサーベルはしまって、指輪のあるほうの手を繋いで……利き腕でカップを持てばいいわ。





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 ***「ちょっと切なめクリスマス特別編」



 気がつけば、もうすぐクリスマスらしい。
 リュウとゼシカが意気揚々と私の元にやってきて、今年サンタに貰うのだというプレゼントを報告してきた。
 どうやらゼシカもリュウもDSというゲーム機が欲しいようだ。

 先にも言ったかもしれないが、私はゲームの類は好まない。
 しかし、うちのククールがあれでは仕方ないのかもしれないと、最近では諦め始めている。
 誕生日にうっかりゲームソフトをプレゼントしてしまったこともあり(「あなたの為に生まれてきました編」参照)ククールは”私がゲームを認めた”と解釈してしまったようだ。先日あれに出してやったボーナスで速攻PS3を購入してきた時には、もう叱る気にもなれなかった。
(ちなみに私は夏と冬にボーナスと称してあれに多めの小遣いをくれてやっている。勿論生活費とは別に、だ。こんな偉い夫は見たことがない)

「私はね、ピンクのDSが欲しいってお願いしたのよ」
 嬉しそうな顔でゼシカ。
「僕は水色! 白でも良かったけど、汚れが目立つかと思って」
 年少児とは思えない先を見た発言をするのはリュウだ。

 それにしてもハードだけを貰ってソフトをどうするつもりなのだろう?
 私は疑問に思ったが、そんなことは子供たちも分かっていたらしい。
「ねえマルチェロ。DSはサンタさんに貰うから、マルチェロはソフトを買ってちょうだい」
「僕ね、マリオが欲しいの。みんなで対戦するの!」
 あっさりと言い放たれて、私は思わず頭を抱える。
 そう……このふたりが私のところにやってきたのも、ソフトを調達するためだったのだ。結局出所は同じだというのに……ククールは止めることができなかったのか。後できつい仕置きが必要だ。

 そんな物騒なことを心の中で決意していた私だったが、豪くはしゃいでいたはずのゼシカとリュウがふと真顔になったことに気付いた。
 差し出された一枚の封筒を見て、私は不審を感じずにはいられない。
「なんだ、これは?」
 うさぎだか犬だか分からないキャラクターの封筒には「サンタさま」と書かれている。サンタへの伝達は毎年ククールに任せているはずだし、先程頼んできたと言っていたからこれは無用のものであるはずだ。

「ねえ、マルチェロ。小さい頃、マルチェロにはサンタがきた?」
 ゼシカの問いかけ。一瞬、言葉につまる。
 幼い頃……もう30年以上前の情景が脳裏に浮かんだ。
 少し間をおいてから、私はふたりに「ああ」と肯定の返事を漏らす。
 そう、裕福ではなかったが、母は私に精一杯のことをしてくれた。他の親がするように、私が幼い頃はサンタの真似事もしてくれた。サンタの正体を知った私が『プレゼントはもう要らない』と言うまで。その、ほんの僅かな期間ではあったが。
 過去を思い出して、ふと微笑が漏れる。しかし、そんな感傷も次のゼシカの言葉で一気に吹き飛んだ。

「さっきね、ククールに同じことを聞いたの。そしたらね、ククールにはサンタが来なかったんだって」

 ―――心臓が跳ね上がった。

「どうして?って僕が聞いたら、ククールは笑って『なんでだろうなぁ? オレが悪い子だったからだったからかな?』って冗談ぽく言ってたけど……」
 そう言うリュウは既に涙目になっている。
 言葉に詰まった弟の代わりに、ゼシカが真っ直ぐな瞳で私を見つめ訴えてくる。
「マルチェロは小さい頃のククールも知ってるんでしょう? 本当にククールは悪い子だったの? だからサンタが来なかったの?」


 ……どう答えればいいのか、私には分からなかった。


 確かに、院にいたククールにはサンタなど来なかった。
 ククールを含め、事情があって預けられた子供たちは妙に世間に敏感で……サンタクロースを信じる心の余裕もなかっただろう。

 院の子供たちの多くは片親だけでも残っていたり、養育は出来ないにしても保護者と呼ぶべき親類がいた。
 しかし、親や親類からプレゼントが届くことはあっても、”サンタクロース”がプレゼントを届けにくることなどなかったのだ。
 あの院の中で本当に親がいなかったのはククールだけだった。
 それでも、私がククールだけ特別扱いすることができなかったこと。


 ―――『僕はサンタがいてもいなくてもどうでもいいや。お兄ちゃんがずっといてくれれば』


 今更ながら、後悔が募る。

「詳しくは言えない。が、ククールは……悪い子ではなかった。それだけは言える」
 そう答えるのが精一杯だった。
 曖昧な私の言葉に、子供たちが不満を感じても責められないだろう。更なる詰問があっても致し方ないと諦めかけていた。
 しかし、リュウとゼシカは笑って「良かった!」と言ったのだ。

「それならきっと大丈夫よね!」
「うん、きっとサンタさんも聞いてくれるよね」
 呆然とする私を尻目にゼシカとリュウは盛り上がっている。
 それから、ふたり同時に向き直った。
「マルチェロ! さっきソフトが欲しいって言ったの嘘だから」
「そう、その手紙に書いてあるもの。それが僕たちの欲しいものだからね。ククールには内緒でサンタさんに渡しといて!」
「ちゃんとやるのよ、マルチェロ!」
 謎の言葉を残して姉弟仲良く走り去っていく。
 なんだったのだ!? と叫びたくなるのを必死に堪えて、私は先程受け取った手紙を開いた。
 流石は私の娘、もう字が書けるようになっていたかと感心してみる。

 しかし、そこには更に感心すべきことが……。
 今まで散々「育て方を間違った……」と頭を抱えていたのが嘘であるかのような事実が待っていた。


  サンタさん。
  わたしたちきょうだいは、ことしプレゼントなんていらないです。
  そのかわり、ククールにプレゼントをあげてちょうだい。
  いちどもあげないなんて、そんなのひどいわ。
  わたしたちばかりもらってるのはずるいでしょ?



 12月25日の朝。
 枕元で小さな包みを見つけたらしいククールは、健やかに眠っていた私を揺さぶり起こして
「マルチェロ! あんたアホか!? 間違ってるってば!! プレゼントは子供のところに置けって。オレの枕元に置いてどうするんだよ!」
と、動揺しまくっていた。
「朝から何事だ……。私は何も間違っていない」
 とりあえずしらばっくれてみるが、ククールは納得できなかったらしい。慌てて(それでも忍び足で)隣の子供部屋に入っていった。

 そして数分後。ククールは首を傾げながら戻ってくる。
「おかしいなぁ……ちゃんとふたり分あったよ、プレゼント。それじゃこれは何なんだろう?」
 間抜け面がおかしくて、私は苦笑してしまった。
 それで気付いたのか、ククールが私の顔をじっと見て
「これ、あんたか?」
と、問い詰めてくる。

「さあ……? サンタクロースとやらが間違えてお前の分まで置いていったのではないか?」
 惚けてみたものの、当然ククールには通じない。更に憤慨して私の胸倉を掴んできた。
「んなことあるわけねえだろ! っていうか、なんでオレの分まで? どういう風の…」
 そう言いかけたところで、押し倒してやる。


「サンタも数十年越し遅れてやってくることがある。それで納得したらどうだ?」


 諦めたようにククールが息をついた。
 笑いながら、「ちょっと遅すぎねえ?」とひとこと漏らす。
 それから、私の耳元で小さく何かを囁いた。

 ―――なあ、オレのことであんたが傷つかないでくれ。頼むから……



 余談だが、ククールには子供たちと色違いのDSをくれてやった。
「良かったね、ククール!」
「良かったね!」
 自分たちのプレゼントも喜んでいたが、ククールにプレゼントがあったことを何よりも喜んでいるらしい。
 本当によく出来た子供たちだ。

 そんな健気な心など露知らず……ただひとり不服そうなククールは「どうせくれるならゲーム機とかじゃなくてさぁ」などと”サンタ”に対して小声で文句を言っている。

「来年もオレにサンタが来ると思う?」
 私の耳元で、ククールが問いかけてくる。
「……さあ、どうだろうな。欲しいものでもあるのか」
「うん、あるよ。オレのサンタにしかプレゼントできないものが」
「ほう? それは何なのか興味があるな」
 私が色好い返事をしたことに喜んだのか、ククールが更に小さな声で耳打ちしてきた。  



「………」



 調子に乗りすぎているので、一発拳骨をお見舞いしておいた。





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 ***「バレンタインの戦い−2008−編 その1」



 早いもので、もう2月。
 暦の上では春と言ってもまだまだ寒い。普通に雪も降ってるしな。


 それはある日曜日のこと。買い物から帰る途中で、偶然ビアンカさんに会った。
 ビアンカさんもご主人に子供を預けて買い物をした帰りだったらしい。そんなことなら一緒に行けばよかったなー。そう呟くように言ったら、ビアンカさんも同意してくれた。

「そうよね。バレンタインの買い物だったからククールさんの意見も聞きたかったわ」


 バレンタイン!?


 彼女の台詞に驚き、オレは段差もない道でコケそうになった。
 なるほど……ビアンカさんはご主人にあげるチョコレート(とプレゼントもか?)を買いにいったのか。
 参考までにオレが今日買ったものだが、リュウとゼシカの洋服とオレの服……あとはリュウに頼まれたモンスターバトルロードのオフィシャルカードアルバム、ゼシカに頼まれた36色のマーカー、内緒で買ったゲームソフト……その他諸々。
 マルチェロのものなんてひとつもありやしねえ。

 その事実に気が付いて顔が引きつる。しかしそんなオレの焦りなど知らぬビアンカさんは、なおも花のように笑って続けるのだ。

「バレンタインには毎年チョコレートケーキを手作りするの。それは決まってることだから良いんだけれど……やっぱりプレゼントは悩んじゃうのよね。今年も凄く時間がかかっちゃったわ」

 そうなんだ。偉いなービアンカさん。
 きっと誕生日も同じようなことをしてるに違いない。手作りのケーキに心のこもったプレゼント……いつまでも恋人気分を忘れない夫婦って素晴らしいね。
 そこでオレは自分自身について……つまり去年のマルチェロの誕生日を振り返ってみた。

 『あ、もうすぐマルチェロ誕生日だろ? 何が欲しい?』
 『いらん』
 『まあまあ、そう言わずに』
 『では、スペクテット社のテレビでも貰おうか』
 『………。去年はレッドサイクロン社の洗濯機、一昨年はメタルキング社の掃除機だったような気が。―――なんつーかもう少し何か』
 『私が欲しいと言っている。何か問題あるかね?』
 『ありません』

 ―――色気もなにもあったもんじゃねえ。
 オレの中で、マルチェロの誕生日はそろそろ「電化製品を買い換える日」に認定されそうになっている。
 ちなみに今度の誕生日は何も聞かずDVDレコーダーを買おうとしていた。

 なんつーか歳の差がありすぎるせいかね。
 マルチェロからは”貰うこと”が当たり前になっていて、自分から”贈ること”っていう認識が薄いんだよな。
 それにさ、相手はあのマルチェロだぜ? 下手なもの贈って文句言われたりしたらたまったもんじゃねえよ。
 だから先に何が欲しいか聞くわけだ。そうすると↑みたいなことになっちゃうわけ。どうしようもねえ……。

「ククールさんはバレンタインに何をプレゼントするの?」
 キラッキラの瞳でビアンカさんに問いかけられ、オレは言葉に詰まる。ここは何とかお茶を濁したいところだ。

 実は、オレはマルチェロにチョコを贈ったことが一度もない。
 というか、バレンタインなんて恋人同士のイベントをしたことがない。
 オレにとってのマルチェロは兄から恋人を飛び越していきなり夫になってしまったので、そんなものは考えたこともなかった。
 それに、だ。
 物心ついたときには”兄が大量のチョコを持ち帰り、げんなりとしている姿”を見ていたオレ。
 兄からチョコを分けて貰って食べていたオレとしてみれば、その日は”大量にチョコが食える日”くらいの認識にしかならなくても仕方がないだろう。

 どっちかっていうとチョコをあげる日というより、チョコを貰う日って感じなんだよな。オレ自身も中学高校と女の子から沢山チョコレート貰ったし。

 とりあえずオレは「秘密ですよー」なんて適当なことを言ってその場をやり過ごした。
 バレンタインの話はこれで終わり。ビアンカさんとの会話もすぐに忘れて、例年通りバレンタインをスルーすることになると思ってたんだ。
 思ってたんだけど……。


 しかし、その2日後。
 とんでもない人物が”それ”を思い出させてくれることになる。





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買ったばかりで壊されそうになっていたテレビ(ハロウィン編参照)は、スペクテット社製、そしてマルチェロの誕生日に買われたものだったらしい。(どうでもいいことです)


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2007/11/01〜2008/02/11