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瞬間移動の呪文を使って降り立った町は、当然ながら初めて来た場所ではなかった。先に訪れたのはもう何年前のことだろうか。久しぶりに袖を通した旅服、それは以前この地に足を踏み入れた時と同じものだ。大切に保管しておいたものを、今日、久しぶりに引っ張り出してきたのだ。
こんなことを考えると叱られるかもしれないが、やはり自分にはこの服が一番合っているとリュウは思う。現在のものにも慣れてきた筈だが、どうしても違和感が拭いきれない。それでも自分は愛する女性のために今の道を選んだのだ。後悔はしていなかった。
懐から手紙のようなものを取り出して、リュウは現在地を確認をする。店の名前、街の風景……大体合っているようだ。
木々が生い茂った小さな道。これで商売が成り立っているのか、客足のないさびれた道具屋。その近くにある何かの慰霊碑。「彼」との待ち合わせ場所はこの辺りに違いない。
ほどなくして、木陰からひとりの男が現れた。
フードで顔を隠した背の高い男……それは、リュウが予想した通りの人物だった。顔を見なくてもわかる。その物腰や歩きかたには特徴があった。
「……ご無沙汰してます」
微かな笑みを浮かべてリュウは口を開く。表情はよく見えないが、男は笑ったようだった。
「あまり驚かないようですね」
「ええ、まあ」
「どうして私であると分かりました?」
言いながら、男は頭と顔半分を覆っていたフードをとった。艶やかな黒髪と翡翠の瞳が陽の元に晒される。―――リュウに匿名で手紙を寄越し、この場に呼び出したのは”やはり”マルチェロだった。
「手紙の筆跡で。以前マイエラを訪れたとき…あなたの執務室に伺うことがありましたよね? 卓上にあった書類、その筆跡と同じだなと思ったんです」
「―――驚いたな。見事な観察眼、畏れ入ります。トロデ王があなたに目をかけたのも分かるような気がする」
「煽てないでください。本当、なんとなくだったんですから」
本当に困ったようにリュウが言うので、マルチェロは可笑しくなった。この青年は昔もやはり「自分は普通です」といった顔をしていたが、見事にドルマゲスや暗黒神ラプソーンを倒して見せた。己の力を認め、もう少し傲慢になっても良いと思うが……それは生まれ持った性格なのかもしれない。トロデーン次期国王という立場になった今でも、人を安らがせる穏やかな空気を纏ったままである。
「ところで…僕を呼び出した理由を聞いてもいいでしょうか?」
躊躇いがちにリュウは口を開いた。
その声に、マルチェロは軽く首を縦にふると、
「そうですね。ここでは何ですので場所を移しましょう。この先にとても景色のいい場所があるんですよ」
小道の先を右手で示してから歩き出す。
しばらくして、ふたりは新緑と海の蒼が広がる丘に辿り着いた。
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