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空はどこまでも蒼く、海面は陽の光に照らされて金色に輝いている。
背の低い草の上に座り、ふたりは暫し無言でその風景を見つめていた。
(まさかこの人とこんな風に並んで座るなんて…あの頃には考えられなかったな)
リュウがしみじみと長い息をついてしまうのも、致し方ないことではある。マルチェロとは過去数回逢う機会があったが、それのどれも良い思い出とは言えなかった。敵として戦ったこともある。もしかすると、こんな穏やかな雰囲気は彼の弟であるククールでさえ経験のないことかもしれない。
―――ククールか。
瞬間、マルチェロの気配が変わったことにリュウは気付いた。
どうやら口に出してその名を呟いてしまっていたらしい。
恐る恐る隣を見遣れば、マルチェロは厳しい視線で真っ直ぐ前を見つめている。しまったな、と思いつつもリュウは敢えて何も言わず場を流すことにした。
「リュウさんは、”銀髪の天使”というものをご存知ですか?」
唐突に言葉を放ったマルチェロに驚きながらも、リュウは首を横に振る。銀髪、で或る人物を思い出しはしたが、ここは何も語らないでいるのが最良の選択だと思った。無言で相手の出方を待つ。
「……一部の旅人の間で噂になっている人物です。魔物に襲われて傷付いた者を癒し、名も告げずに去っていく。その見目麗しさから銀髪の天使という呼び名がついた」
「それって……もしかすると」
「おそらくね。大分美化して語られていたので笑ってしまいましたが」
その時のことを思い出したのか、マルチェロの顔に苦笑が浮かぶ。
しかしそれも一瞬のこと、すぐに笑顔を剥いで再び口を開いた。
「どうやらその天使さまは人捜しをしているらしい。2年以上も、根気強く。―――その意志の強さで、彼はいつか捜し人を見つけるでしょう」
「そうなればいいと……僕も思います。彼は”そのひと”に本当に逢いたがっていたから」
それきり黙りこんでしまったマルチェロに、リュウは少しばかりの非難を含んだ視線を投げかける。
この男はククールに逢うつもりはないのだ。
そして、その現実と自分が呼び出された理由が無関係ではなさそうなことに、リュウは薄々気付き始めていた。
「リュウさんは”黒髪の聖騎士”について聞いたことが?」
今度の問いかけには首を縦に振る。
「ヤンガスから聞きました。パルミドの辺りで噂になっていたらしいので」
マルチェロの応えはない。少し躊躇ってから、リュウは意を決したように続けて言った。
「……ヤンガスは、それがあなたなのではないかと僕に言っていました」
マルチェロはしばらく無言だったが、やがて諦めたように深い息をついた。荷物から水を取り出して口に含むと、皮の水筒をリュウに勧める。せっかくの申し出なので、遠慮なくリュウは受け取ることにした。生ぬるい水が喉を通っていく。それが胃に収まる頃、マルチェロは重い口を開き始めた。
「少しばかり、その”聖騎士”は有名になり過ぎたようだ。直にその正体に気付き、口に出す者が現れることでしょう。ヤンガスさんがあなたに言ったようにね」
それは、歓迎せざる真実の露呈であった。
ニノ法王の温情によって、マルチェロは死んだことになっていた。彼が教会の裁きを受けぬようにである。
もし彼が生きていると認知されれば、それはマルチェロ自身にとっても、そして彼を庇ったニノ法王にとっても立場の危うい状況となる。兄を慕い、案じ、捜し求めているククールも然り。
「リュウさん、私は旅をやめて定住しようと考えています。今回無礼にもあなたを呼び出すという暴挙に出たのは、あなたの力をお借りしたかったからです」
マルチェロの翡翠の瞳が、微かに揺らめいた。
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