偽りの悪徳
バレンヌ帝国帝都アバロン。一見、平和なこの街にも闇の部分は存在する。それを知るのは、貧しき者と悪趣味な道楽を求める貴族位だが。人々が平穏に暮らす町の片隅に薄暗い通路があり、其処を通ると一つの小さく、荒んだ街が存在する。そして、深夜の其処は別の意味で盛り上がりを見せていた。酒に酔い、互いを殴りあう喧嘩等は可愛いもので、麻薬を求めてやって来る貴族、濃い化粧をした女性を肩に抱きつつ宿に向かう男、人をボロ毛布の上に座らせて物のように売り捌く奴隷商人。それらの声がアバロンの闇の一面を賑わせていた。
「…………」
一人の少年が街の明かりの中、人待ち顔で立っている。顔は何処かあどけなかったが、獣のような目がこの世の全てを憎んでいるかのように輝いている。髪は赤。月夜に浮かぶ満月のような、燃え盛る復讐の炎のような、滴り落ちる鮮血のような、赤。そんな少年に赤ら顔の男が近付き、開口一番
「…幾らだ?」
「…………」
少年は顔を上げ、赤ら顔の男を見た。年の頃は30前後と言った所か…。何にせよ“客”が来たのである。
「1200」
ポツリと値段を言う少年に男は怪訝そうな顔を見せた。“売り”の値段にしてはあまりにも安過ぎる。もしかして、コイツは何も知らないガキなんじゃ…。そう思い、心の中でニヤリと笑いながら男は顔を覗き込んだ。
「高けぇなぁ。桁が違うじゃねぇか。普通は250位なんだぜ?」
「……えっ…」
男の勘は当たったらしく、少年は戸惑いの表情を浮かべ、そのまま顔を俯かせて250で良いよと口篭った。
「決まりだな」
少年の肩を馴れ馴れしく抱き、町を歩く。目指す場は少年の“仕事場”。道中で彼は少年の名を聞いた。少し空を見つめた後で、少年は自分の名前を口にする。
「……カキア…」
一瞬空を見たのは口にした名が本当の名前ではなかったから。己を偽る事に一瞬の抵抗を感じたから。彼の真の名前は“ハンニバル”。だが、彼はそれを口にする気などない。
辿り着いた先の安宿の一室に入った途端、少年は突き飛ばされてベッドに沈んだ。衝撃に目を瞑ってしまった時、上に男が圧し掛かって来たのを感じた。そのまま唇を吸われ、酒の臭いが少年の鼻を刺激する。
「……んぅ…っ………!!」
思わず抵抗するべくもがいてしまうが、何故か力が上手く出ず相手のペースに巻き込まれていく。服の前を掴まれ、そのまま開かれた時、少年は硬く目を閉じた。
「何だ?…お前、まさか………初めてか?」
「…………悪いかよ……」
頬を赤く染め、心なしか瞳を濡らしながら目を逸らす少年に、男はニヤニヤ笑いを絶やさずに首を振った。
「いや、悪い事はないぜ?寧ろ、大歓迎だ……」
服をスルスルと器用に脱がせていく手の動きから、男の方は経験豊富らしい。少年の方はと言うと緊張している所為か身体が強張っており、身を縮こませていた。
「あんまり緊張しない方が良いぞ?…ま、初めてだから人の前で裸になるのも抵抗あるってか?」
抱き寄せて耳元に口元を近付けながら、そっと手を少年の両足の間に忍ばせると、身体がピクンと反応した。
「は……あっ……あぁ………」
両足の間の手を動かし、太股の内側や誰にも触れさせた事が無いであろう箇所を丁寧に擦るとアッサリと震えた声を漏らし始める。男と初めて会った時に見せた獣の瞳は怯えの感情を表し、涙を溜め始めていた。
「……そんなにビクビクしなくても良いだろ?…俺にとっちゃ、そう言う顔された方が燃えるけどな。どうだ?自分でヤるより他人にヤッて貰った方が良いだろ?」
「ふあっ……やっ………やあぁっ…!!」
丁寧に擦ってきた手が突然、逸物を掴んで乱暴に扱き上げてくる感触に少年は身体を震わせながらも、今まで感じた事の無い快感を受け止めていた。相手の言う通り、男としての本能のままに自分で自分を慰める事はあった。しかし、その時の快感とは比べ物にならない、他人に支配されてしまっているような快感に思わず呼吸が荒くなり、過剰反応する本体は露を滴らせて男の手を濡らして行く。
「ハハッ、すげぇ量だな。やっぱりヤりたい盛りのガキだからかな?」
「はぁっ……はぁっ…お、御願いだから……こ、このまま…イカせ………」
「…ったく……ちょっと弄っただけで、すぐそれかよ。客は俺の方だぞ?」
抱き寄せていた手を解除して、そのまま突き飛ばすと少年はベッドに倒れながらも自分の手で処理してしまおうと、そろそろと自分の手を濡れた逸物に近付けていた。勿論、それが許される筈が無い。男が素早く手を掴み、行動を妨げると少年は涙に濡れた顔を上げた。
「お前一人だけでイッてたら身売りの意味がねぇだろ?…ほら、俺の方もどうにかしろよ」
ベルトの音を上げながらズボンの前を開き、己の興奮を引っ張り出して少年の頬に擦り付けると少年の涙に濡れた頬に男が垂らした先走りが滴った。その感触に、視界に飛び込む男のそれに恐怖を覚え、思わず拒絶するように身を捩ると、男の舌打ちが聞こえ赤い髪を掴まれた。そして
「んぐっ……!!?」
だらしなく開けていた口を咎めるかのように中に捻じ込まれた物は、咥えると言う想像さえも出来なかった男の逸物だった。口の中に侵入して来た途端に広がった苦味に吐き気を催し、顔を顰める。
「…歯を立てたり吐いたりしたら……どうなるか分かってるよな?……ほら、咥えてるだけじゃ気持ち良くならねぇぞ。さっき俺がお前をイカせる直前まで御膳立てしてやった礼をしてくれよ」
「ぐっ……うぅっ………うぇっ……」
何度も襲う嘔吐感に必死に耐えながら奉仕するが、その手に関する知識などまるで持っていない少年の事。それは奉仕と言うには余りにも拙かった。奉仕特有の快感も大して感じない男は忌々しそうに舌打ちをし、少年の額を押して無理矢理突き放した。
「もう良い!!このヘタクソめ……」
「……………………」
止め処なく涙を流す少年は口から流れ出る唾液を手の甲で拭い取りながら、男に視線を送った。その瞳が未だに熱く疼く体の解放を求める事を訴えている。男はその瞳にニヤケ面を取り戻した。再度少年を抱き寄せ、頬に流れる涙を舐め取る。
「口が駄目だったら…もう本番に行くしかねぇよな。良いだろ?」
「えっ……?あっ………ぅああぁぁっ!!!」
“本番”と言う言葉の意味を考えていた少年の瞳が大きく見開かれる。彼を襲ったのは侵入して来た男の太い指。侵入だけでもかなりの激痛であるのに、入れた方は容赦なく内側を掻き回すように指を動かす。
「やっ……嫌あぁ………っ!!」
開きっ放しの口から唾液が流れ出すが、手の方はシーツを硬く握り締めていて拭い取る事も出来ない。小刻みに震える身体。止まらない涙。後ろを幾度も襲う激痛。それでも熱くなり、ジンジンと湿り気を帯びてくるように感じる身体の中。その熱と湿り気は一気に下半身に移り、解放を求め続ける本体を刺激する。その刺激に本体の方は触れられていないにも関わらず震えだし、口から流れる唾液と同じようにだらしなく露を滴らせ……
「んうっ……ぁ……ああぁぁああっ!!」
身体が数回大きく跳ねるとベッドシーツに少年の欲情が散り、男はニヤリと顔を歪めながら少年に視線をやった。
「お前…素質あるぜ。初めての癖に指だけでイケたんだからよ」
「…そ、素質なんて………そんな……ぁあっ!」
激痛が強くなり、頬を赤く染めていた少年は大きく仰け反った。後ろを弄っている指の数が増えたらしい。さっきとは比べ物にならない圧迫感が少年を陵辱する。それでも男の言う通り、彼には“素質”があるらしい。解放されたばかりのそれは新たな快楽を受け止めて屹立していた。まるで指以上の何かを求めているかのように。
「思ったより…やらしい身体してるんだな、お前……。もう回復したのかよ」
「………くっ…うぅぅ…………」
男の一言が少年に恥辱を与え、その痛みに泣きじゃくる。身体が痛い。心も痛い。想像以上の痛みに涙が止まらなかった。それでも相手は躊躇せず、楽しそうに少年を観察している。勿論、その間もじっくりと初物の味を楽しんでいるらしく、水音が部屋に響き始めた。指を引き抜き、飛び散った精を拭い取った後にまた少年の中に侵入して丁寧に塗り込んで行く。交わる準備は着々と整っていた。
「さて、と……そろそろ坊やを大人にしてやろうかな?…指入れただけで食い千切られそうだったんだ、すげぇ締め付けなんだろうなぁ」
少年の白濁液と粘液が絡み合った指が引き抜かれ、光る糸を作る。頬に糸を擦り付けられ、そのままベッドにうつ伏せに押さえ付けられたかと思うと、背中に回していた手は忙しく腰を掴み、掴んだ部位だけを引き上げた。自ら求めているような体勢と、これからの行為に気が付いた少年は僅かに抵抗するかのように濡れた目を男に向けた。その瞳も男の欲望を掻き立てる事しか出来なかったのだが。
「ひうっ………!」
後ろに指とは違う熱い圧迫感を感じ、小さく悲鳴を上げる。まだ諦める事が出来ず、ゆっくりと身体を前に進めたが進んだ距離よりも下がった距離の方が長かった。進もうとした時には腰を引き寄せられ、そのまま勢い任せに貫かれていたから。肉が裂けるような音が耳に飛び込むと同時に言い様のない激痛が襲って来たから。
「―――――――っ!!!!」
瞳と口を全開にするが声は出なかった。ただ喉の奥から、かはっ…と咽るような音が漏れただけだった。声も出せない位の衝撃と内臓が攀じれるような圧迫感。無理矢理抉じ開けられ、捻じり込まれた箇所からは鮮血が流れ落ち、白いシーツに赤い小花を咲かせる。
「……や…だっ……痛い…………!」
辛うじて喉の奥から声を絞り出しながら嗚咽を漏らすが、男にとってはそれも“初物”ならではの反応に過ぎないらしく、残虐な笑みを浮かべながら腰を掴む手を強めた。
「大丈夫だって。誰だって最初は痛えんだ。慣れちまえば最高に気持ち良くなるんだぜ?…特にお前は……こう言う事の飲み込みは早そうだしな?」
「ひあぁっ!!!い…痛い………壊れるから……抜いてぇ…!!」
愛も優しさも無い欲望と勢いに任せた律動を加えられた少年は子供のように泣きじゃくりながら懇願するしかなかった。叫びながらシーツに皺を刻み、思わず口元のシーツに歯を立ててしまい、苦痛しか感じない行為にもがき続ける。痛くて、熱い。このまま死んでしまうかも知れないと言う恐怖まで感じてしまう。それでも、後ろの男の動きは止まらず、それどころか動きを大きく速めている気がする。
「壊れるも何も……言っとくがちょっと裂けてるみたいだぜ?まぁ、初めての奴は大抵そうなるんだ。気にする事はねぇけどな」
ハハッと呑気に笑いながら少年の耳に舌を這わせ、腰に回していた手を前にある塔に移動させて軽く握ると、下に居る身体が上下した。
「あっ……んっ…………やぁ……っ!」
後ろは激痛に襲われているにも関わらず、前の方は快楽として受け止めているような形を作って新たな露を滴らせている。はぁはぁと口を開いて呼吸を繰り返す少年は身体がぶつかり合う音に水音が重なり始めると同時に身体の中がじわりと熱く湿って来るような感触に気が付いた。さっき男に指で陵辱されたのと同じ…それ以上の熱い湿り気。身体の中で何かが沸騰している。気が狂いそうなまでの熱を押さえる方法は本能が知っている。理性が働く前に少年は、シーツを掴みながらも男の律動に合わせて腰を揺らし始めていた。
「ほら…気持ち良くなって来たんだろ?自分で腰振りやがって……。今の内に自分の性感帯でも探しといたらどうだ?手伝ってやるからさ」
「……はぁっ…ああぁっ………」
男の手と少年の手が下に居る身体を撫で回していく。それなりに快感は得られるのだが、何処か物足りない。自分の淫らさに情けなさを感じつつも、少年の手は自分の性感帯を捜し求めていた。
「あっ……あんっ…!!」
突如、少年の身体が跳ねる。彼の右手は胸の辺りを撫で回していた。恐る恐るその手の指を硬く突起物に当て、力の限りに抓ると激しい快感の波がゾクゾクと全身を貫いた。抓ったまま離す事が出来ない指を見た男がクスクスと笑い出す。
「何だ、もう自分の性感帯が分かったのかよ。……胸で感じるとはな…」
背中や項を舐め回されながら、無骨な指が発見された少年の性感帯を無遠慮に抓って来る。痛い筈の行為も、今の少年には快感として受け止める事しか出来ないらしく……
「ぅンっ………もっと…強く………」
「強くって…どっちをだよ。胸の方か?それとも………こっちの方か?」
「あぅっ……!!す、凄い………!」
壊さんばかりの突き上げも快感になってしまう程、少年の身体は“出来上がった”のか天性の淫らな素質があるのか。それは男にも本人にも分からなかった。今はただ、何処か熱の篭った小さな部屋にあるベッドの上でお互いの欲望をぶつけ、ぶつけられるだけ。汗や体液で濡れたシーツの上で二つの身体が絡み合う。
「なぁ……このまま…中で出して良いか…?割増にして良いからよ……!」
急激に速くなる律動に少年の視界が大きく揺れ、涙で視線の先のベッドシーツの皺が霞む。このまま男の望みを叶えれば、自分の身体は汚れる事になる。だが、本能は中に注ぎ込まれる事を望んでいる。相手も言っているじゃないか。割増にして良いと。純潔を維持するか、快楽と金を取るか。……純潔?そんな物とっくの昔に奪われた。それに、この“仕事”はこれからも続ける事になるのだから今更汚れたくないとか言うのは頭が悪いとしか言い様が無い。金目当てで始めた仕事だ。そして、身体の方も妙な疼きが暴走している。だから、答えはアッサリと決まった。
「はぁ…はぁ………い…良いから……あっ……こ、このまま…全部、中に…ぃっ………!!」
シーツを掴んで目を瞑り、無意識に後ろを締め付けると自分の腰を掴んでいた手の力が一気に強くなり、トドメを刺すかのように突き上げて来たのを感じた。男の低い呻きと同時に奥まで侵入している状態で放出された欲望。その熱さに体が震え、注ぎ込まれた欲望の熱が移ったかのように少年の方も前を小さく痙攣させ始めたかと思うと、腰を掴んでいた男の手が軽くそれを扱き上げるだけで叫び声を上げ、シーツの上に盛大に男と同じ欲望を散らしてしまった。
「……んっ……はぁ………はぁ…………」
力無くベッドに沈む少年に目をやりながら、男は財布から数枚の紙幣を抜き出した。
「確か250の約束だったよな?…まぁ、さっき割増の約束しちまったから…400位出してやるよ」
ベッドの横にある小さな棚に紙幣を置きながら少年の方へ目をやると、少年は丸い目で紙幣を眺めていた。割増とは言え、一気に400に跳ね上がった事が信じられない。そう訴えている目だった。
…馬鹿なガキだ。騙されている事も知らないで。本当はお前位の初物のガキ抱くには3000は要るんだぞ?込み上げて来る笑いを押さえながら、男は再度赤毛の少年を眺めた。年もそこそこに若く、顔や曲線も上玉の部類に入る。そして何よりも……かなり感度が良く淫らな身体の持ち主らしい。ちょっと、仲間にも教えてやるか。情報料を貰ってな。
男は少年に近付き優しい声色を作って話し掛けた。
「お前……名前は何だったっけ?」
「……カキアって言ったじゃねぇかよ」
「あぁ。そうだったな。…カキアか。一応覚えておいてやるよ。お前も客足が途絶えると困るだろ?」
馴れ馴れしく少年の赤い前髪を指でサラサラと梳きながらニヤリと笑いかけると、少年の殆ど黒に近い蒼の瞳は迷いの感情を表したが、結局あぁ、と小さく答えながら頷いた。頷きながらも、その手は無意識の内にシーツを握っていたのだが。
部屋のドアが閉まる音が響き、男が去った事を確認すると、少年はさっきから落ち着かない後ろの方に手をやり、流れ出ている何かを手で拭い取った。
「……………っ!」
息を呑むと同時に涙がブワッと溢れ出る。眼前の手の平には大量の精と血が混ざり合った鮮やかなピンクが広がっていた。あぁ、俺…汚れちまったんだな……男が汚れるとか言うのはおかしいかも知れねぇけどよ。瞳からポロポロと零れ落ちた水滴が手の平のピンクの上に落ちる。覚悟はしていたが、矢張りショックだった。小さく肩を震わせながら少年は泣いた。ぼんやりと霞む視界に入って来るのは手の平のピンクとシーツに散った体液と鮮血の花。それから目を逸らすかのように視線を上げると、棚の上の紙幣が目に入った。
「……………………」
手の平を何度もベッドシーツに擦り付けて汚れを拭き取った後、ゆっくりと手を伸ばして紙幣を握り締め、そのままギュッと抱き締める。自分の身体と引き換えに手に入れた金。これさえあれば、これが無ければ………。
少年は握り締めた拳で流れる涙を拭い取り、振り落とした。顔を上げた少年の瞳は赤くなってはいたが、全てを憎むような瞳の色を取り戻していた。そして、何事も無かったかのように汚れたベッドから離れた。