-堕-
帰りたい。一人が唇を噛み締め、一人が重たい溜め息をついた。あれから、此処に来てから何日経ったのだろう。何時になったら解放されるのだろう。アイツが飽きるまで?飽きるのは何時?もし、永遠に飽きなかったら?飽きたとしても生きて帰してくれると言う保障はあるのだろうか?そして襲う絶望感に心が軋む。軋み、狂いそうな胸を押さえながら隣を見ると、目に涙を溜めた早坂が小さく震えていた。
「…今日も………来るのかな…」
「多分な。…いや、99.9%来るだろ」
数日の間に刻み込まれてしまった体内時計が知らせる。もうすぐ、彼らが来る。陵辱と言う苦痛の時間を提供する迷惑な連中が来る、と。
正確な体内時計の知らせの通りに階段を下りる複数の足音が聞こえ、鉄の扉が開く重たい音が続く。その音に過剰に反応した早坂の肩がビクンッと大きく跳ね、望月は無言でその肩を抱き寄せた。
地下室の上部に設置されたビデオカメラのレンズの先には男に組み敷かれている二人の少年がいた。片方の下半身から聞こえるのは濡れた何かが身体を撫でる音。
「や……だっ…嫌………!」
早坂が視線を向けている先で男が広げられた両足の中心部を舐り続ける。数え切れぬほど蹂躙された箇所を舐られる感触に早坂は首を激しく振り続け、涙の粒を振り撒いた。
「何だよ、人が折角濡らしてやってんのに“嫌だ”はねぇだろ?」
「でも……そんなッ…とこ………ひゃうっ…!」
息を荒く吐き続ける口から高い声が漏れる。例の箇所を刺激する物が舌から太い指に変わっていた。指は唾液で濡れた蕾の中で上下し、早坂の口から嬌声を吐き出させる。
「ヘヘッ…もしかして舌よりも、こっちの方が良かったか?」
顔を歪ませ、舌なめずりをした男の指が動く度に肉擦れの音と水音が響き、早坂の両足がビクビクと陸に上げられた魚のように跳ねた。
「はぁ……あっ………ぅんっ…!」
首を横に向けて喘ぎながらも、手首を縛られた両手は快楽を求めて密かに自分の屹立に近付き、触れて包み込むと同時に上下し始める。自分でもはしたない姿だと思ったが快楽を優先している本能はその行為を止める事が出来なかった。だが。
「誰が一人でヤッて良いって言った?」
他の男が無理矢理両手を引き離す。男の掴んだ手首の上の手が何かを求めて苦しそうにもがいた。
「ハハハッ……やっぱ途中で止めるのは苦しいよな。可哀相だから入れてやれよ」
「分かってるって」
二つの笑い声が混ざり合い、濡れた箇所に濡れた先端が接触して小さな水音を立てる。あっ…と不安げな声を漏らした次の瞬間、早坂は硬く眼を閉じた。
「んんっ……!!」
唇を噛み締めるが耐えるべき苦痛は瞬時に快楽に変わり、口を開かせる。開いた口からは艶めいた嬌声が漏れ始め、力の抜けた身体は快楽の元である熱いそれを躊躇無く受け入れる。
「もうココもすんなり入るようになったな。お前は本当に飲み込みが早いから嬉しいぜ」
流石は進学校の秀才と笑い飛ばしていると、横から仲間の声が聞こえて来た。
「チッ…俺も先にそいつヤりゃ良かったな。こっちの方は全然駄目だ。ちっとも上手くなりゃしねぇ」
舌打ちをする男の視線の先には交わる準備の為に一物を口で咥え込んでいる望月がいた。彼なりに必死に舌を這わせ、先端を咥えているのだが、その努力は認めて貰っていないらしい。その証拠に男は再度舌打ちをした。
「お前、何度もやってるけどちっとも成長しねぇな。ちょっとお友達の真似したらどうだ?時々アイツにして貰ってるからどう言う風にしているか分かるだろ?」
「!!」
男の一言に望月は硬直し、早坂の眼は見開かれた。二人の反応に周りの男達はゲラゲラと笑った。
「お前ら時々夜中にヤッてるだろ。そのシーンも全部ビデオカメラが収めてくれてたぜ。気付かなかったのか?」
「……………………」
望月はポカンと口を開いた。早坂は見開いた瞳から涙をポロポロと零した。まさか、夜中までビデオ撮影が行われているとは思わなかった。互いに陵辱の傷を舐めあうように行うそれを撮られているとは思わなかった。
「お前ら夜中に二人でヤッてる時は本当に気持ち良さそうだよな。…俺達の時も同じように反応しろよな!」
「んうっ!!やっ……ぃやだ…ぁ…!!」
破壊目的を思わせる突然の突き上げに早坂の身体が大きく跳ねた。喘ぎながら上半身を横に向けていると、まぁ良いじゃねぇか、と言う声が真正面から聞こえて来た。
「確かにあのガキとヤッてる時よりは反応悪ぃけど、コイツはかなりの素質があるからな。中々の掘り出し物だぜ?」
片膝を突いて赤く染まった早坂の顔を舐めるように見ていた男が自分の興奮を鼻先に突き出すと、突き出された方は眉を顰めて小さく首を横に振った。
「やっ…やだ……ぅんっ!!」
残酷な相手は拒否する事も許さずに髪を掴んで無理矢理口内に捻じ込む。一瞬目を見開き、即座に硬く目を閉ざした早坂の顔を男は満足げに眺めた後、その視線を望月に向けた。
「ほら、良く見ておけよ。お前のお友達の御手本を」
「うるせぇっ!!良ちゃんを離……っ!」
立ち上がり、男に食って掛かるつもりだったが突如襲った激痛が行動を妨げた。激痛の感じる箇所の方に恐る恐る振り向くと、予想通り準備の整っていない其処に別の男の本体が深々と突き刺さっていた。
「うぁっ…あぁっ………!」
「お?さっきまでの元気はどうした?」
身体を小刻みに震わせ始めた望月にからかうような笑顔とおどけた口調を返したかと思うと欲望に任せて腰を揺らし始める。準備が整っていない所為か何時も耳に入る水音は余り聞こえなかった。
「くっ……そんっな………まだ…濡らして…いないのにぃ……!!」
「おかげでこっちも痛い位だ。ま、たまには良いだろ?すぐに俺がお前の中まで濡らしてやるさ」
「嫌だ……やだああぁっ!!」
鈍い肉擦れの音と滑りの悪い事で生じる激しい痛みに望月は泣き叫び、床に爪を立てた。涙でぼやけた視線を動かすと線のハッキリしない視界の中で早坂も涙を流しながら喘ぎ、もがいていた。
「りょ…良…ちゃん………」
何とか親友を救おうと皮が剥けて血が滲んだ指先を伸ばすが、数メートル離れている其処まで手が届く訳が無かった。空しく空を切る手を相手の男が押さえ付ける。
「心配するなって。アイツはアイツで楽しんでるんだからよ。お前は素直に俺の相手をしておけば良いんだよ」
「あっ……うああぁぁっ!!」
接合部を軽く撫でた後、ゆっくり引き抜きかけたかと思うと一気に貫く。未だに濡れていない其処を容赦無く襲う衝撃に喉の奥から悲鳴が飛び出た。苦痛の余り、意識を手離そうとする望月の耳に遠くからボンヤリと男の声が聞こえて来る。
「ヘヘッ…締まってやがる。…このガキは本当に成長が早ぇな。初めて来た時とは大違いだ。……お前、もう充分“売り”で食っていけるぜ」
「そんなのっ…そんなのやっ………ぅんッ…!」
男の声に混ざるのは親友の悲痛な声。語尾が篭ったのは別の男に口淫を強要されたからか。助けないと。離れようとする意識をどうにかして引き止めようとするが、幾度も襲う陵辱の痛みが無理矢理意識を引き離そうとする。既に霞んで来ている視界の中で早坂の身体を弄んでいる男達の動きが急激に速くなり、あっ…と望月が思った時には硬く目を閉ざした早坂の口から、後ろからは白い体液が溢れ出て床に零れ落ちていた。
「…もうイカされちまった。すげぇよ、このガキは」
「あぁ…これも調教の成果って奴か?それともコイツが天性淫乱なのか…」
絶頂を迎えた男達が息を弾ませながら感嘆の溜め息を吐き、小さく痙攣しながら床にくずおれた早坂を見下ろしていると周りに複数の男が群がって来た。
「次は俺だ。もう待てねぇ」
「俺が先だ!」
「まぁ、落ち着け。時間はたっぷりあるんだ。皆で思う存分犯ってやろうぜ」
群がった男達が早坂の腕を掴んで無理矢理起き上がらせる。その光景を何重にもぼやける視界の中で見た望月は声を必死に絞り出した。
「やっ……やめ…ろっ………!」
殆ど言う事を聞かなくなってしまっている身体を動かし、震える腕を必死に伸ばすが勿論それは救いの手にはならない。小刻みに震える指の先で早坂が新たな嬌声を吐き始める。生々しい性交の音が聞こえて来る。
「…良ちゃん………良ちゃ………っ!!」
涙混じりの声で友の名を呼び続ける望月の言葉は途中で打ち切られ、その身体は一度大きく跳ねると共に床に倒れる。焦点の定まらぬ目が微かに眼球の中を彷徨ったかと思うと瞼が薄く閉じられていく。どうにか持ち堪えていた意識が何かによって完全に引き離された証であった。
「チッ…気絶しやがった」
望月を玩弄していた男が舌打ちをして身体を離す。その身体の後ろからは失神の原因であろう白濁がトロトロと溢れ出て床を濡らしていた。
下校時間を知らせるチャイムが鳴り響く中、数人の男が校門前で恭しく礼をした。その男達にあぁ、と軽い返事をし、近くに止められたリムジンに乗り込んだのは藤堂護。周りの生徒の視線を浴びながら出発した車の窓から外を眺めていた藤堂に1人の男が護お坊ちゃまと声をかけた。
「中々面白い物が手に入ったのですが……」
「うん?」
振り向く藤堂の顔の前に差し出されたのは何かの書類が入っているらしい封筒。無表情でそれを受け取り、中に手を突っ込んで数枚の書類を取り出す。軽く書類の文字を目で追う藤堂の無表情は微かな驚きに変わり、瞬きをする間に満面の笑顔に変わった。
「確かに…これは中々面白い物だよ。ハハハハハッ!!」
書類を丁寧に封筒に戻し、男に返す藤堂の高笑いが黒い高級車の中で響いた。
コツン…コツン…。上の方から聞こえて来る音に望月と早坂は数回瞬きをし、音の方へと瞳を向けた。段々と大きくなって来たそれが止んだかと思うと、次は鉄の扉の開く音が耳に入る。再度高い足音を立てて近付いて来たのは、帰って来たばかりなのか未だに制服姿である藤堂護であった。
「やぁ、楽しんでる?今日は君達に面白い物を見せてあげるよ」
「…………?」
ガラス越しに笑いかける藤堂を睨み付けようとした二人の目が丸くなった。面白い物?片方が首を傾げる。…どうせ、彼の事だから僕達にとっては面白くない物だと思うけど。片方が内心で深い溜め息を吐く。周りの男達も藤堂の言う“面白い物”に興味があるらしく、陵辱の手を休めて藤堂から視線を外さないでいる。自分自身に注がれる視線に一種の優越感を感じた藤堂は満足げに笑みを浮かべ、脇に抱えていた封筒からゆっくりと数枚の書類を取り出した。
「…………あっ……!!」
取り出された書類に貼られた写真を見た早坂が息を呑み、硬直した。アレは自分が持っている生徒手帳に貼られているのと同じ、制服を着た無表情な自分の顔写真。…まさか……まさか………。
「どうやら早坂君は分かったみたいだね」
口を開けて微動だにしなくなった早坂の反応に藤堂はニッコリと笑う。口元を押さえて震え始めた親友とクスクスと笑う藤堂の間を望月の戸惑いの視線が行き来した。何なんだよ。一体、藤堂の野郎は何を持って来たってんだよ!その答えは即座に藤堂の口から発せられた。
「これは君達の御家族からの捜索願いだよ」
「!!」
漸く藤堂の書類と早坂の反応の意味を理解した望月は目を見開き、無意識にガラスに両手の平を付けた。
「悪いけど捜索とかされると色々面倒だから、警察の方にも手を回してたんだ。…こっちが早坂君ので、こっちが望月君の」
「…………………」
書類をピラピラと振る藤堂に対して二人は何も言わなかった。何も言えなかった。ただ、ひたすらガラス越しに見える書類を凝視していた。自分の名前、写真、身体的特徴、家族の名前……
「…うっ…………」
篭ったような声を出してへたり込み、下を向いた早坂はそのまま肩を震わせて啜り泣き始めた。左手で幾度も目元を拭うその姿を藤堂が屈み込んで覗き込む。
「泣き虫な所はお母さん似かな?…君のお母さんも届を出す時に泣いていたらしいよ。大切な息子を探して下さいってさ」
笑顔から発せられる言葉の一つ一つが早坂の胸に突き刺さり、流れる涙の量を増加させる。泣きじゃくる為に歪んだ口からお母さん、と弱々しい声が漏れた。
「てめぇ、好い加減にしろ!!」
激昂し、様々な意味の涙を目に滲ませた望月は声を限りに叫びながら早坂の肩を守るように抱き寄せた。
「この悪趣味野郎!人を苦しめて喜びやがって……!苦しめるなら俺一人にしろ!良ちゃんまで巻き込むな!!」
「フッ…笑わせないでくれよ。早坂君を巻き込んだのは君じゃないか。君が彼に口止めをして、彼を犯して………」
「うるせぇ黙れっ!!」
藤堂の台詞を拒むかのように目を瞑って首を幾度も振り、叫び声で全てを掻き消そうとする。その姿があまりにも滑稽だったのか、藤堂は吹き出し、そのまま神経を逆撫でするような高笑いに繋げた。
「ハハハハハッ…そんなに怒る事無いだろう?」
一通り笑いながら前髪を掻き上げ、肩をすくめた後、突然藤堂はピタリと笑うのを止め、ガラスの中にいる二人の少年を舐めるように見た。
「…ま、何にせよ君達は家に帰れないよ。警察も動かないからね。警察が動かないと言う事は……」
一度言葉を中断し、奇妙な間を作る事で地下室内が静寂の空間となる。そして
「あぁっ!!」
藤堂の手が紙と静寂を引き裂き、早坂の悲鳴に似た声が続いた。悲鳴も怒号も口に出せずに唖然とする望月と震えながらガラスに張り付く早坂の目の前で細かい紙切れが吹雪となって舞った。
「どうしたんだい?二人とも、そんな顔して……。警察が動かないんだから捜索届なんかあっても仕方が無いだろう?」
手の中で細かく千切った吹雪の残りを辺りに散らしながら藤堂はニッコリと微笑み、ガラスに背中を向けた。
「それじゃあ皆頼んだよ。その二人はもう帰れないんだ。その辛さを忘れさせてやってくれたまえ。…快楽でね」
「ハハッ、任せとけよ」
男達が笑う。藤堂も背中を向けたままフフッと笑う。笑っていないのは“その二人”だけ。二人はもう涙を流さなかった。流すべき涙はもう枯れ果てていた。絶望。ただそれだけが二人の心を支配し、二人の身体を石化させていた。