「…っく……ゃ…だ………やだ…よぉ………」
無理矢理四つん這いにされて泣きじゃくる早坂の髪を後ろから掴み、粗暴に陵辱するその姿は畜生の繁殖行為を思わせたが、望月は構わずに腰を突き出して小さく笑った。
「口じゃ嫌がってるけど、本当は嬉しいんだろ?お前、痛め付けられて喜ぶタイプだもんなぁ?」
親友を汚す事によって感じる快楽の中で、何故か覚える奇妙な苛立ちが残酷な言葉を紡ぎ、己を深く飲み込んでいる肉付きの良い其処を強く打って赤い手形を貼り付けると、早坂は激しく首を振りながら泣き叫んだ。その素振りが余計に望月の苛立ちと加虐心を強める事も知らずに。
「…何だよ……何時もみたいに喜んで腰振ったり、声出したりして安っぽいエロビデオみたいな反応しろよ!」
「!!!」
泣き叫んでいた表情が凍り、シーツを引っ掻いていた指が動かなくなる。今……何て言った………?僕は…君にはそう見えていた訳?
「……駿君……僕の事…そんな眼で見ていたの…?」
シーツの方に向けていた顔を漸く相手に向け、唇を震わせながら問うと、望月は一瞬胸の中に小さな針が刺さった事を感じたが、口からは苛立ちの感情が生み出す台詞しか吐く事が出来なかった。
「あぁ、そうかもな。今日のお前は感度最悪だぜ。声は出さない、自分から動こうとしない…一人で腰振ってるこっちだって疲れるんだぜ?」
「………レイプされて感じる訳ないじゃないか!!」
「!?」
思わぬ言葉に今度は望月の表情が凍りついた。レイプとセックスは違うよ。何時か聞いた台詞と、その時の早坂の細められた目が脳裏に蘇る。だが、その記憶は歪んだ欲望を静めるには存在が弱すぎた。瞬く間に凍り付いていた表情は苛立ちと自暴自棄に似た何かが全面に現れたそれに変わる。
「…あぁ、そうか。ま、俺は別に構わねぇけどな。要は俺が気持ち良けりゃ良いんだから」
「……なっ…何…それ………そんな事……っ!!」
突然の突き上げが息を詰まらせ、言おうとした言葉を封じてしまう。腰を高々と掴み上げられ、欲望任せに突き入れて来る痛みに新たな涙が溢れ、皺の刻まれたシーツの上に水玉を描いていった。
部屋の外が薄暗くなる頃、望月は大きな溜め息を一つ吐き、拒絶の言葉をうわ言のようにブツブツと呟きながら身体を震わせる早坂の両膝を掴んで大きく左右に広げた。
「…い…嫌っ………!!」
「何嫌がってんだよ。俺のを溢れ出させて…お前にはお似合いの姿だ」
何度も飲み込んだ其処を濡らす白濁を眺めながら、そっと手を伸ばして触れたのは、結局一度も達するどころか硬くなる事も無かった早坂の本体だった。
「にしても、お前一回もイかなかったみてぇだな。病気じゃねぇか?」
「………!!」
バシッ!耳元に大きな音が入ったかと思うと、右頬に熱い痛みが走り始めた。唖然とした顔で熱くなった頬を押さえながら顔を上げると、涙で赤い顔をグシャグシャに濡らし、唇を噛み締めて肩を震わせている早坂がいた。
「最っ…低!!」
硬直した望月を突き飛ばしてベッドから降り、散らばった制服を着ながら頬を押さえたままの望月をキッと睨みつけて言い放った。
「僕は君が良く分からないよ!!」
「…な…何だよ…俺だってお前が分かんねぇよ!!一体、お前は何を望んでるってんだ!!」
「言うもんか!言ったって…今の君には絶対分からない!!」
「勝手に決め付けるんじゃねぇ馬鹿!!」
望月の言葉を最後に部屋の中が静まり返り、興奮している二人の荒い息遣いのみが部屋を包み込む。緊迫した空気の中で、先に動いたのは早坂だった。
「…………もう…いい……。………大っ嫌い!!」
バタンッ!と壊れんばかりに乱暴に扉を閉め、階段を駆け下りて行く。玄関の扉が閉まる音を聞いた瞬間に望月が窓から外を見ると、袖で幾度も目元を拭いながら駆け去って行く早坂の背中が見えた。
「……………はぁ…」
溜め息を吐いてカーテンを閉め、すっかり炭酸が抜けてただの砂糖水と化した温いコーラを飲み干しながら、未だに痛む頬を押さえる。さっきまでのベッドの上での興奮は工場跡でのそれと酷似していたが、行為を終えた後の空しさも同じだった。最低。大嫌い。普段は理知的で難しい事ばかり言う彼が、子供のように浮かんだままの感情的な言葉をぶつけると言う事は完全に傷付き、怒っている証拠だった。
「……本当に…最低だな…」
小さく呟いてベッドに腰掛け、茶色がかった前髪を両手で掻き上げる。嫌がっていたのに、押さえ付けた。感じていないと言うのに陵辱を止めなかった。涙する早坂に無神経な言葉と妙な苛立ちをそのままぶつけ、余計に傷付けた。本当は、こんなつもりじゃなかったのに。もう少し、ほんのもう少しだけ寛容になって早坂の言葉を受け止めていれば、最悪でもこんな事にはならなかっただろうに。
「…良ちゃん……ゴメン………ゴメンな…」
自然と涙が溢れ、頬を伝わずに直接床に落ちて行く。陵辱の感触も、終わった後の空しさも、そしてその後襲ってくる津波のような後悔も、全てが初めて早坂を陵辱したあの時と同じだった。何もかもが…あの時と同じ……
「!!」
その感触にハッと顔を上げる。このまま進めば…近い内に良ちゃんが……。頭に浮かぶのはある一つのサイクル。早坂が自分を避け始め、そんな早坂を陵辱し、それに自分が後悔する。以前も同じようなサイクルがあり、自分が後悔すると言う過程の後、早坂が監禁されると言う事件が起こった。もし、同じようなサイクルを今もまた繰り返しているのならば………
「良ちゃん…!」
早坂とは気まずい状態である事は充分に分かっていたが、それでも望月は居ても立ってもいられなくなり携帯電話を手に取った。
自室の扉を力無く閉め、フラフラとベッドに近付いてへたり込む早坂の頬には涙の線が何重にも描かれていた。
「……うっ……く………」
眼を硬く閉じると一向に止まる気配を見せない涙が頬を伝い、小さなシャックリを繰り返して肩を揺らす。このまま、思い切り泣こうと大きく息を吸った時、鞄の中からお気に入りの洋楽のメロディーが聞こえて来た。
「………………」
床に無雑作に置いたままのそれを引っ張って中を探り、音楽を流し続けている携帯電話の画面を見ると望月からの電話である事を伝えていた。
「………!!」
頭で考える前に身体が動き、鳴り続ける電話を壁に投げ付けてしまう。派手な音を立てた後、床に落ちたそれは暫く音楽を奏でていたが、突然プツッと切れてしまった。
きっと…さっきと同じような事を言って僕を苦しめるつもりなんだ。勝手に思い込むと同時に胸が締め付けられる。安っぽいエロビデオのような反応――要は俺が気持ちよけりゃ良い――お前にはお似合いの姿――病気じゃねぇか?――俺だってお前が分かんねぇ――ぶつけられた非情な言葉が次々と蘇り、それは刃物と化して早坂の胸を抉って来る。抉られた傷は痛みと共に、ある不安を早坂に抱かせた。
「……駿君………僕の事…嫌ってたのかなぁ…」
胸の痛みと、望月の非道な扱いに不安が口から漏れ、声に出した事でそれは急速に膨張していく。そうだ、きっと僕の事…前から嫌ってたんだ。何時も友達に囲まれてる彼と違って、僕は小さい時から人見知りが激しくて一人になる事が多かったから、気を使って今まで一緒にいてくれたんだ。あぁ…きっと、そうだ。彼は…そんな僕の事……内心で鬱陶しいと思ってたんだ。でも、駿君は優しいから…その気持ちをずっと隠してて…それが、今日になって爆発してしまって………
「…そっ…か………僕…彼に嫌われてたんだ………」
小さくハハッ…と笑うが、強い不安から生じた誤解が無理矢理作った笑顔を泣き顔に歪ませる。涙をポロポロと零し、一頻りしゃくりあげた後、早坂はそのままベッドに突っ伏して慟哭した。
「うぅぁ…あ……うわあああぁあああーーーっ!!」
泣き叫びながら、早坂は後悔する。何で、今日彼の部屋に行った時に本心を伝えなかったのだろう、と。こんな最悪な結果になる位なら、彼が優しく抱きしめてきた時に腕の中で本心を伝えれば良かったのだ。言えば、彼は戸惑うかも知れなかったが、今よりはずっとまともな結末を迎えた筈だ。…それなのに僕は子供みたいに拗ねて、癇癪を起こして彼の優しさを受け入れなかった。僕が…子供みたいな事をしたから…こんな事になったんだ……。僕が…全部悪いんだ……!
「そんなお前が鬱陶しかったんだよ」
「!!」
耳に聞こえて来たその言葉は己の被害妄想が生み出した幻聴だったが、今の早坂にはそれを幻聴と理解する余裕さえも無く、ゆっくりと立ち上がって机に近付き、その上に置きっ放しにしていたカッターナイフを左手に持って右手の首に刃を押し当てた。左手を動かすとその動き通りの線が手首に浮かび、線の所々に赤い半球体を作ったかと思うと細かい線となって腕を伝っていく。赤い血の線を早坂はボンヤリと見詰めていたが、突然何かが弾けたかのように再度刃を右腕に当てて、繰り返し切り付け始めた。浅く、深く、短く、長く。左手が動く度に右腕に様々な傷が作られていく。既に血塗れになっている腕を斬り付けながら友の名と謝罪の言葉のみを口の中でブツブツと呟く早坂の虚ろな視線の先には写真立ての中で笑う親友と自分の姿があった。
駄目か。望月は口の中で呟くと携帯電話を机の上に置き、そのまま視線をある物に動かした。机の片隅に立てられた写真立て。その中には馬鹿みたいにピースをして歯を剥き出しにして笑っている自分とその隣ではにかんだ笑顔(自分の頭の悪いポーズを見て恥ずかしいと思っているのかもしれない)を見せている親友がいる。ここ数週間の間、余り見ていない早坂の優しい笑顔が其処にあった。
「……もう…良ちゃん、俺には笑いかけてくれないのかな…」
ポツリと口にした瞬間、かぁっと頭が熱くなる。アイツの笑顔を奪ったのは俺じゃねぇか。俺が援交なんて馬鹿な事して、それをアイツに口止めさせてから全てが狂い始めたんじゃねぇか。俺がアイツを滅茶苦茶にしたんじゃねぇか。ついさっきだって、嫌がるアイツを無理矢理ヤッて傷付けたじゃねぇか。そんな俺に…笑顔なんて…見せる訳……
気が付けば目を大きく見開き、少し散らかっていた机の上の物を床に激しく払い落として派手な音を響かせた。落とす物が全て無くなると獲物を求める獣のような眼で部屋を見回し、目に入った本棚の本を引っ掴んで床に叩き付けていく。普段は余り目を通さない辞典がテーブルにぶつかり、甲高い音を立ててガラスのコップが欠片を飛ばした。
「はぁ…はぁ……はぁ……」
激しい苛立ちと遣る瀬無い怒りを真正面からぶつけられて荒れた部屋の中で、肩で大きく息をする望月の頬には何時の間にか涙が伝っていた。