どれ位経っただろう。少し前まで淫らに乱れていた犬は息が整う毎に一人の純朴な青年に戻り、無言で項垂れたまま主君に背を向けた状態で衣の襟を静かに整えた。
「良かった、ぞ。利家。うぬの獣の乱れ、勝家に見せてやりたかったわ」
「……」
背後から聞こえた台詞に漸く振り向き、無言ながらも非難と懇願が入り混じった複雑な視線を送ると、信長はクッと小さく笑って頬杖を突いた。
「そのような眼で見るな。案ずるは皆無よ」
「…絶対に、言わないでください」
弱々しい声で言って再度目を逸らし、相手の視線を背中で感じながら整え直した髷を金紐で丁寧に結わえる。部屋に入る前の姿に戻った利家はゆっくりと立ち上がり、笑みを崩さぬ信長を一瞥して障子戸に手をかけた。
「じゃあ、俺はこれで……」
小さく礼をし、戸を開ける利家の背中に向かって信長は例のいやらしさを感じる声で言った。
「利家。うぬの肉体気に入った、ぞ。信長に捨てられる前の初々しい子犬も良かったが、今の盛りの付いた雌犬であるうぬで興じるのも悪くない」
「…………」
「この意味が分かるか? 今後もうぬの肉体を愛でてやろうぞ。信長が愉しみたくなった時…昼も夜も、うぬの身体も心も関係なく、な。昔を思い出すであろう? 犬千代。……フハハハハハ!」
「…っ!」
笑い声を背中で浴びつつ障子戸を勢い良く閉める利家だったが、その身体は小刻みに震え、瞳にはこんもりと涙が浮かんでいた。
奥歯を強く食い縛り、頬を紅潮させながらドスドスとわざと足音を立てて陣屋を去る利家を物陰から一つの影が見送り、彼が離れていくのを確認すると影は入れ違うように陣屋の入り口へと向かった。
己の部屋へと近付く足音が耳に入って来た時点で魔王は笑っていた。
先程の利家の荒々しいそれとは違う、落ち着いた、だが重さを感じる音。
敢えて背を向けた状態で待つ信長の後ろに音の主が静かに立ち止まるのは数秒後の事だった。
「勝家か」
「はっ。何の伝えも寄越さずに大殿の元へ参じたご無礼、お許しあ」
「余計な挨拶は良い。何用ぞ」
其処まで来て勝家は黙り込んだ。
手の中には先程から持ち歩いている酒があるが、何故か頭の中で思い描いていたような動きが出来ない。
何をしておる。大殿に酒を勧めぬか。祝杯を挙げるべく参ったと言わぬか。
そんな勝家の心中を既に感じ取っているのか信長は嘲笑を漏らし、振り向き様に勝家の動揺の理由を躊躇い無く口にした。
「利家を…うぬが子を辱めた信長が憎いか」
「!」
信長の言葉に動揺は強まり、自然と勝家の瞳が見開かれる。
普段は滅多な事では心乱れぬ鬼の人間臭い反応に魔王は笑い、勝家の手から徳利と杯を奪って酒を注ぎつつ続けた。
「だが、うぬも聞いていたであろう。利家のあの卑しい声を。…うぬは利家を何も知らぬ純粋な子供だと思っておるかも知れぬが、それはうぬの甘い願望に過ぎぬ。あれは結構な淫奔よ。最初の方こそ拒んでおったが、最後には狂ったように悦がって卑猥な言葉を吐き、自分から腰を振って求めておったわ。ククッ…まさに犬よ」
杯を煽り、新たな酒を注いで微動だにせぬ勝家に突き出すが、無言不動を維持するその姿に信長は早々に杯を己の口に当てた。
「信じられぬと言うなら、うぬの眼前で利家と繋がってみせようか。利家はうぬに見られるのも知られるのも恐れておったが、どうせ途中からうぬに見られていると言う事に余計に昂ぶって乱れるのが目に見え」
「利家が…」
信長の言葉を断ち切るように勝家の低い声が響く。突然の事に口を止めた魔王の前で勝家は恭しく跪き、搾り出すように言った。
「利家が…あの子が大殿に抱かれて悦んでいたと言うならば、わしは何も言いますまい」
「……ククッ…フハハハハハハハ!!」
恐らく本当は血が噴き出る思いをしているのであろう己の感情を封じ込めて深く頭を垂れる勝家に信長は哄笑し、一頻り笑った後に改めて杯を突き出した。
今度は素直に杯を受け取り、無表情で酒を口にする勝家を見る信長の頭に浮かぶのは非情な計画。
やはり、この男の眼前で我が子のように溺愛する利家を苛烈に辱めてやろうか。父の如く慕う男に見られながら自分に貫かれて泣き叫ぶ利家をこの男はどのような表情で見るのだろう。
色々と想像を巡らせてニヤリと笑いながら、魔王は得意の一言を口にした。
「で、あるか」
先の雨の影響で水量が増え、流れも激しい川辺に利家はいた。
幾度も川の水を掬って顔を洗い、口内をすすぐが、頬や舌にこびり付いた精の感触は中々取れそうになかった。やけくそを起こしたかのように丸ごと川に頭を突っ込んだかと思えば、雫を辺りに散らしながら忙しく顔を引き上げ、雨に濡れた犬の如くブルブルッと左右に激しく振った利家は髪や顎から水滴を落としながら頭を垂れた。川の水とは違う滴りが目元から零れる。
ガサッ。背後から聞こえた茂みの揺れる音に心臓が跳ねる。
恐る恐る音のした方を振り向くと同時に利家は落胆と安堵が入り混じったような何とも言えぬ溜め息を大きく吐いて、川の方へ視線を戻した。
「…秀吉か」
「……」
柴田殿でなくて悪かったのう、と言う台詞を心中で留めさせたのは小さく萎んだ利家の背中。正直、それを見た瞬間に自分の悪い予感が的中してしまった事を悟ったのだが、秀吉は敢えて明るい声を出し、何も知らぬ振りをして利家の隣におどけた態度で歩み寄った。
「いやー! 探したぞ利家! ついさっきまで祝宴をやっておって、ワシの猿踊りがこれまた大評判でのう! お前にも見せてやりたかったわ!」
「……」
普段の利家ならここで興味深そうに目を輝かせて、自分も行きたかったとか今此処でその猿踊りをやって見せろとか言って食い付いてくる所なのだが、今回は全く反応を見せずに無言のまま流れる水を凝視している。秀吉は一瞬苦笑を浮かべたが、すぐに人懐こい笑顔を取り戻して利家の肩に腕を回した。
「そう言えば利家、信長様に褒美を貰うたんじゃろ? 羨ましいのぅ! 何を戴いたんじゃ? わしにも見せるって約束だったじゃろ!」
「……お前、知ってたのか?」
「え」
友の絞り出すような声に思わず身体を凍らせた秀吉の瞳に利家の顔が映った。
「俺が信長様のトコ行く時、何か変だったよな。…お前、気付いてたのか?」
一度口火を切ると止まらない。利家は唇を戦慄かせ、瞳に涙を湛えながら秀吉の胸倉を掴んで喚き散らした。
「気付いてたンだろ! 信長様が俺を辱めるつもりだった事を知ってたンだろ!! 何で言わなかったンだよ!!」
「ち、違うんじゃ利家! 確かに悪い予感みたいな物はしたが、それは気のせいだと思いたかったし、お前があんまり喜んでおったから…だっはあーっ!」
最後まで弁明する事すら許されず、秀吉の小柄な身体が川に突き飛ばされて派手な飛沫をあげる。
浅瀬とは言え、流れが強くなっている水の中で一頻りもがき、何とか身体を起こした時には幾度も目元を腕で拭いながら走り去る利家のすっかり小さくなった背中が夜の闇へ消えていた。
「お、おい! 利家! 利家ーっ!! 待つんじゃ、うあっ!」
犬を何とか追おうとバシャバシャと水を蹴散らすが、それを嘲笑うかのように川石にこびり付いていた藻に足を取られた猿は、再度すっ転んで水の中へと顔を突っ込んだ。
灯りが乏しい陣屋の自室の真ん中を陣取って腕を組み、瞳を閉じる勝家の耳にこの部屋へと近付く足音が飛び込んで来る。その瞬間、確かに胸の鼓動が速まるのを感じたが、表面上は何時もの厳格な男の顔を作って障子戸を一瞥すると見慣れた体格の影が映っており、それは暫し迷った素振りを見せた後、戸を開ける事で正体を現した。
「叔父貴…」
「……………」
此処に来る途中に何処かで転んだのだろうか顔から膝の辺りに至るまで泥で無残に汚れ、髪や顎の先からポタポタと水滴を垂らしている。何時もなら、この時点で“何じゃその姿は”と怒鳴る所なのだが、今回ばかりは流石に説教をする気にもなれず野太い掠れ声で促した。
「何を突っ立っておる利家。用があるなら入らぬか」
「え? あ、あぁ…」
覚悟をしていた怒鳴り声が無かった事にやや驚いた様子を見せつつ利家は部屋に入り、静かに障子戸を閉めると後に続いたのは長い沈黙。
蝋燭の灯りが二人の顔をボンヤリと照らす中、若い方が漸く口を開いた。
「叔父貴…お、俺、あの…」
「わしの所に泣きに来たのか」
「!」
図星をさされて眼を見開く利家の頬に勝家の腕が伸び、無骨な親指が泥を擦り落としていく。そのまま太い指は利家の目の真下へと進み、それに続くかのように勝家の目と利家の目が絡み合った。
「わぬしが何を理由に泣きたいかは聞かぬ。良いから今宵は思う存分泣け。…これを此度の戦で功を上げたわぬしへのわしからの褒美としよう。それで良いな? まったく……今泣かずに耐えようものなら壊れてしまいそうではないか」
「うっ…」
勝家の父としての優しさに触れた瞬間に利家の瞳から大粒の涙がボロボロと零れ、食い縛った歯から耐え切れぬ泣き声が小さく漏れる。
利家。優しく名を呼ぶ勝家の両手が利家の両肩をふわりと掴んだ途端に耐え続けていた感情が弾けて慟哭と化した。広い胸に飛び込んで勝家の服を掴んで深い皺を刻みながら利家は激しく泣き、汚れた顔を幾度も胸元に擦り付けた。
「ひっく、うえっぐ、お、叔父貴……俺…俺ぇ…うああぁあああーーっ!!」
何故勝家が自分の涙の事を知っているかは冷静さを失っている今の利家には分からず、今はただ勝家の言葉に甘えて泣き叫ぶ。
…嫌だった。これからは問答無用に信長に辱められるであろう日々を送る事になるのが。自分が酷い目に遭う事をうっすらとながら勘付いていたのにその事を言わなかった秀吉が。そして、何よりも自分自身が嫌だった。陵辱されているにも関わらずに呆気なく快楽に堕ちて犬のように悦がった自分が、良かれと思って自分が信長の元へ行く事を止めようとしなかった秀吉に対して怒鳴り、川に突き落として八つ当たりをした自分が、泣き続ける自分の背中を擦ってくれている父には純粋な男を演じておきながら実はその身体を自らの意思で汚してきた自分が嫌で嫌で仕方なかった。
黒くて重い、このまま放って置けばアッサリと自分を押し潰してしまいそうな自己嫌悪を涙と叫びに変え、少しでも発散してしまおうと周囲の事なぞ考えずにひたすらに号泣を続ける利家の背中を勝家はただ無言で擦り続けていた。
野良犬の日々の終わりはいつ何時飼い主に辱められるか分からぬ飼い犬の酷な日々の始まりでもあった。
<END>
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<後書きと言う名の無駄語り>
何だか大変な事になってしまいました。
数年ぶりの新作&新ジャンル!
しかもこのサイトには珍しくメジャージャンルであり、CPも決してマイナーではない!(と思う)
……えーっと、数年の間に何があったんでしょうか自分。
数年前までひとりエッチをカタカナ4文字で表す単語を小説内で書くのを恥らって
部屋の中を無意味にウロウロしていた日々は何だったんでしょうか。
な、何と言うか、無性に書きたかったんですよ。
エロ単語を派手に絶叫しながらアンアン悶えるエッチが!!
年は取りたくないモンですな。
しかも新技術(と言うほど大それた物ではない)ハートマーク降臨。
でも、これって「Symbol」と言うフォントが入ってないと何ともアレなエロシーンになってしまうんですよね。
えぇ、ハートマークが半角の「ウ」になって、アホみたいに唸る内容になってしまいます。
もしも、利家がハートマークで悦がるどころかウーウー唸ってたらゴメンなさい。
※後日、別ブラウザ(Google
Chrome)で何となく確認してみたら、見事に利家がウーウー唸ってる事が判明。
…と言う訳で、結局ハートの画像を貼り付ける事にしました。完。
さて、本題に入って(前置き長いよ)新受けキャラ利家さん登場です。
彼は元々好きなキャラではありましたが、正直な話エロに関しては完全ノーマークであり
「戦国無双は兼続受けをいつか書きたいと思う!」状態だったのですが
無双3Zの余りにも自分のツボを突きまくるルックス(コス)&ストーリー&ムービーで一気にロックオン。
私的に(現時点で)兼続を越える萌え受けキャラと化してしまい
コッソリ地味にちょっとずつ書いてた兼続受け小説を放り投げて、ガーッと一気にこの小説を書いてしまいましたとさ。
短期間集中で小説書き上げるとか何年ぶりなんだろう…って位のハマりっぷりです。
で、相変わらずのキャラ崩壊です。
ゲーム内では事ある毎に「男上げるぜ!」と無駄に熱くたぎって戦う又左さんですが、出ちゃいました。
管理人の受けキャラ名物「子供っぽい」。そして例によって淫乱。
いや、自分の所の利家って基本純粋なんですよ。
ただ、身体がそれ向けと言うかHによる快感に著しく弱いと言うか、一度Hに突入したらAVモード突入すると言うか。
まぁ、簡単に言えばこのサイト的にはお馴染みなタイプの受。感度良好・隠れ淫乱。
あ、浪人時代に売春してたと言うのは私的設定であり、この小説の中だけ(…の予定)です。念のため。
にしても彼の「犬千代」って幼名、反則ですよねぇ。犬扱いせざるを得ないではないですか。
今回は「とにかく利家をエロい目に遭わせたい!」と言う欲望のままに書いたので、まー荒い荒い。何時もの事ですか(完)
何か叔父貴はこんなにヘタレ(?)じゃないと思うし、実際は利家に何処まで甘いかが分からなかったりする…。
と、とりあえず、このサイト内の叔父貴は利家の事を内心で可愛い息子同然と思ってるって事で(逃げ)
信長様は元々のキャラがアレなので、基本的に鬼畜魔王って事で良いですよね(良くねぇよ)「で、あるか」の便利さは異常。
利家のキャラもちょっとブレ気味ですよね。
つまりは「何だかんだで、レイプされても感じて悦ぶ自分が嫌過ぎる」って事だったんですけど。
相変わらずの説明力・表現力の無さに涙。
今まで露骨なエロ系単語は伏字とか「―――」で表現していたのですが
えっと、その、楽しかったです。受けが伏字なしエロ単語羅列しながらエッチを実況する小説。
今回は、まぁ軽いアップ感覚で、その時代に使われてたであろうエロ系単語を使っていやらしさ半減(?)でしたが
少しずつ「その言葉は戦国時代じゃまだ使ってねぇだろ!」的単語(平たく言えば、今のエロマンガとかに羅列されるアレ)も
利家やら他の受けにガンガン叫ばせたいです。えへ。もう駄目だ自分。
実は「陰間」も戦国時代には無かった(と思う)単語なんですけどね。
一回はっちゃけちゃうと、もう怖い物なしですな。
それとも、今までみたいに「やってる事は何かエグいけど、台詞に関しては控えめな(?)エッチ」の方が良いのかな。
と、とりあえず、利家受けエッチは今回の小説のノリで書いていきたいのは事実です。
今回は信長×利家だったけど、勝家×利家のラブラブとか慶次に翻弄される利家とか色々書きたい!
一応、この話はこれで完結…と言う事にしていますが
この話から派生した話も書きたかったり。
売春してた頃の話とか、信長様の「勝家の目の前で利家を犯そう…ぞ☆」計画実践とか。
まぁ、まだ脳内で妄想しまくってる状態なので実際に文章化するかは不明です。
どちらにしても利家がエロい事に変わりはない。放送禁止性的用語連呼&実況しながら悦がる利家萌え。ただの変態です。
今までとはちょっと違うノリの話になってしまいましたが、読んで下さって有難うございました!
数年ぶりの新作であり、その間にサイトを閉鎖してみたり復活してみたりとグダグダ運営である上に
現時点ではサーチ登録もしていない完全引き篭もり状態なので
この文章を読んでくださる閲覧者様さえいるかどうかが大変微妙なのですが…。
にしても、つくづく自分は売春ネタが好きなんだなぁと実感。
サイト内の受けの数人は売春経験あるし。
何なんだこのサイト。