(※幻の冒頭部分)

 宛内高校の授業の間の10分間休み。
 次は国語なので予習に慌てることもなく、皆がまったりと過ごしていた。
 テツもまた、クラスメートたちと話をしている。
 いや、これは正確な表現ではない。
 何人にも席を囲まれ、したくもない話題を強要されていたのだ。いまいましい、あの侵略者の話。おかげで非常に不機嫌になっている。
「…だからなんで俺があいつのこと答えにゃならんのだ!」
「だって同じ所に住んでるだろ。おまえに聞いた方が早いから」
「勝手に居着いてるだけじゃ!くっそー、いつか絶対追い出してやる」
「それでどうなんだよ、14日。アリスちゃん、空いてんの?」
 今月は2月。バレンタインデーまで残りわずかとなっている。街のあちこちにもフェアだのなんだのと宣伝広告が出ている。
 予定があるかどうかは、すなわち特定の相手がいるかどうか。特別な日を前にして落胆する結果となるかもしれないが、もし空いているなら今のうちになんとか印象付けておいてバレンタインに約束を取りつけたい、という魂胆だろう。
 まったく、くだらねーことに巻き込まれたな……
 テツはうんざりしてめんどくさそうに答えた。
「知るかよそんなこと。どうせ暇なんじゃねぇか?いつも鉄瓶と遊んでいるか、世界樹の所にいっかのどっちかなんだから。もういいだろ。俺はこれ以上関わらんからな」
 こんな答えでも満足したのだろう。男たちはそれぞれ固い決意を瞳に秘め、テツの席から離れていった。
「大変だな、桜……」
 栗斗が隣の席に座って、彼らの行動の同調具合いに感心しながら言った。
「最近慣れてきちまってるのが余計腹立たしいわ……」
 大きく溜息をついて机に突っ伏した。
 さすがにこれが毎度毎度だと同情してしまう。
「ところで桜。おまえはどうなんだよ?」
「んあ?その日はずっとバイトだが?」
「そうじゃなくて。出井からはもらったりしねーの?」
「あー、富良兎か?一応毎年チョコなり何なり俺によこすけど」
「おまえにだけか?」
「んーまぁそんなとこ……」
「それって本命ってことじゃねーのか?いいなー。やっぱおまえらただの幼なじみじゃねーじゃん」
 テツはまったく嬉しくないという表情をして、手を横に振り否定した。
「本命とか義理とかいうレベルならまだいいんだがな…あいつが俺に物よこすのは交換条件のためだよ。ホワイトデーのな」
「ホワイトデーってお返しの?」
「そうだよ。んな余裕、俺にはないっつーのに……」
 ぶちぶち文句をたれるテツに対し、栗斗は少し横へ視線を落とした。
「それでも羨ましいってやつ、いると思うぜ?」
 ちょうどそのセリフと同じタイミングで、鐘が授業の始まりを告げた。



…栗斗→富良兎をやりたかったんです。あとは“ホワイトデーのお返し”への前振り。
だってテツだけもてるの癪だったから……富良兎の方がもててなきゃ嫌だ。学校の中にも密かに富良兎を慕ってる人達がいるんだ…でも紀世能が圧力かけてる(変な虫がつかないように)から表立って言えないんだ……なんて部屋の隅っこで体育座りして呟いている管理人。
タイトルと比べるとつくづく関係のない部分だね。あ、でもちょっとだけあるか。





何も見なかったことに…