「将棋がやりたい?」
きょとんとした蒼葉に頷くと、笑いながら前は俺がお前に色々教えてもらってたのにな、と言った。
この姿になってから、蒼葉は俺に色んな事を教えてくれた。自分がオールメイトだった頃は頭脳がネットワークと繋がっていたのでさほど苦労しなくとも知識を手に入れられていたけれど、実際にするとなるとこうも違うとは思わなかった。たどたどしい俺を、笑いはするが呆れることなく根気良く教えてくれる。ボードゲームも、その一つだ。
現代主流である電子ゲームも嫌いではないが、俺はどうやら台と駒を使う古風なゲームの方が性にあっているみたいだ。自分で考え、自分の手で駒を動かすのがおもしろい。
「お前って、そういう昔のゲーム好きだよな」
「おかしいか?」
「ううん、お前が好きなもの、もっと増えればいいと思う」
蒼葉の言葉に、胸が温かくなる。お前はいつもそうやって、俺を認めてくれる。しかもそれが、本心からの言葉だと分かるから尚嬉しい。だから俺は、蒼葉の前では我儘を言ってしまうのかもしれないな。
「ちょっと待てよ、こないだ掃除したから……」
蒼葉がしゃがんで、目の前の押入を開けて中にある棚を探し始める。がちゃがちゃと音を立てて物が飛び出して、これでは捜し物というより荒らしているみたいだ。
こういう可愛い所があるな、蒼葉は。胸がふわっと暖かくなってから、しばらくかかりそうなので床に腰を下ろした。
そこで、俺はとんでもない情景に出会う。
「んー、確かここの奥に……」
俺の目の前で、蒼葉が棚に顔をつっこんでいる。形のいい尻が、ジーンズに包まれて揺れていた。
息を飲んだのは一瞬だ。蒼葉に気づかれてはならない、とっさにそう思った。この状況をもっと見ていたいと本能的に声を出さなかった。蒼葉が棚を探るたびに、目の前の尻が動く。当たり前の事だが、たまらない。蒼葉が俺になんの警戒もなく尻を向けているのだ、しかもこんな近くに。
おかしい。お互い身体を合わせる時は全裸なのに、もちろんその時も蒼葉の尻は興奮するし好きだが、なぜ普段の風景にとけ込んでいるだけでこんなに危ういのか。
イケナイ気持ち、というのはこういう事なのか、と思った。
「ん、あった!よいっしょ!」
ああ、蒼葉が体勢を直してしまう。その前に少しだけ、もう少しだけ待ってくれ。
焦った俺は思わず手を出して、尻をむにゅっと鷲掴んでしまった。
「!」
あ、と思ったのは多分同時だ。盤を引っ張り出そうとしたであろう蒼葉の身体がぴくっと止まる。のが、手から伝わってきた。
「……蓮?」
「……ええと」
まさに、こういう時どういう顔をしたらいいか分からない状態だ。蒼葉も多分信じられないんだろう、蒼葉も黙って尻を触られるほど抜けていない。
必死で言い訳を考えようとしても、頭がうまくまとまらない。ああくそ、柔らかい!
「蒼葉っ!」
「わぁっ!」
太股を抱きしめるようにして、尻に顔を埋める。前の方でごつん、と鈍い音が鳴った。多分俺が飛びかかった拍子に、蒼葉が棚にでも頭をぶつけたんだろう。
「いって……て、蓮!お前何やってんだ、どけよ!」
「蒼葉、もう少しだ」
「何がだよ!」
蒼葉が暴れ出したので、ぐっと腕に力を込めて太股ごと尻を固定する。鼻を割れ目に埋めれば、頬に尻たぶが当たる。気持ちよくて、思わずぐっと鼻を押さえつけてしまう。ああ、気持ちいい。幸せだ。
そのままくんくんと嗅ぐ。蒼葉の匂いと汗の匂い。いい匂いだ、好きな匂いだ。ジーンズの匂いが邪魔だ、と思った。
「れ、蓮ばか!放せっ……!」
「んっ、蒼葉、はあ……」
「嗅ぐなぁ!」
棚から這い出て突き飛ばそうとしたんだろうが、俺の太股を拘束した腕がほどけないのでより俺の顔に尻が密着する。
興奮していく身体を止められない。ズボンと下着の下が疼く。このまま蒼葉の尻の感触を楽しみながらいけそうだ。
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