黒子から、毎日連続で指名があるなんてすごいですね、と言われた。
マニュアルを読んでわかった事だが、デリヘルで働いている人の中には1ヶ月指名がない人もいるらしい。そういう場合はその月の最低給は振り込まれるものの、次の月にまた指名がないと辞めさせるとか。まあひと働きもしないヤツに払う金もないよな。とりあえず、俺みたいに始めてすぐ毎日指名があるのは珍しいと黒子は言っていた。やっぱり素質があるんですね、と何やら嬉しそうにもしていたが。
それで俺は、今日もありがたく指名が入ったので、相手宅に来ているわけだ。重厚そうなドアの前に立ち、表札と部屋番号を確認してからインターホンを押す。
「は〜い」
気の抜けた声でドアを開けた男の、肩あたりがどんっと見えた。俺の身長ではあまりしない、上を見上げるという行為。首を動かせば、おとなしめの紫に染まった長い髪と、垂れ目があった。紫色の目が、正面を向き、少し下を向き、俺と目が合う。
「……どちらさま?」
「あ、俺、カガミです。ムラサキバラさん、ですよね?」
「そうだけど……何?」
警戒してる空気が伝わってきたので間違えたのかと思ったけれど、表札にもムラサキバラ、と書いてある。いまの返答だと、この人は確かにムラサキバラさんで、今日俺を指名したお客様だ。それにしては、本当になんで俺がここにいるのか分からない顔をしている。店の名前や、デリヘルだという事を伝えても、釈然としていない様子だ。
「家族とか」
「俺ここに一人暮らし」
「……」
「……」
黙り込んだままお互いをじっと見る。なんだこの時間。なんだこの空間。
「……ほんとに、ムラサキバラに用事?」
「は、はい」
「心当たり、あるかも」
「へ?」
「俺の先輩が、前に俺の性欲がどうとかもっと遊べとか言ってた気がする……」
で、俺の店で俺をムラサキバラの名前と住所で注文したと。なるほど、それならムラサキバラさんが知らないのも頷ける。さしずめ俺はサプライズといったところか。
「でも君、男だよね?」
「はい」
「……俺、ホモじゃないんだけどなぁ」
そんな変な顔して俺に言われても困る。まあ俺みたいなガタイの男がデリヘルで来たっつったらそうなるか。俺ホモだからってバカにされた?そういえば俺ってホモなんだろうか。男同士のエッチが気持ちいいのって、ホモなのか。
ムラサキバラさんの先輩とやら、この様子だと深く考えずに俺を選んだらしい。
「キャンセル、すか」
「んー……キャンセルしたって知ったらまた同じ事されそうだし……」
口に手を当てながら、ムラサキバラさんが上から下までじろじろと俺を見る。品定めされているようで、少し居心地が悪い。
「カガミ、だっけ。君、何かいい特技とかないの?」
「あ、えっと……料理とか」
「へえ、じゃあお腹空いたしなんか作って。そしたら帰っていーよ」
俺の返事を待たず、玄関先に突っ立った俺を置いて家に入っていった。
俺の四人目のお客さん、ムラサキバラさん。こうして俺は、はらぺこの彼の為に腕をふるう事になったのだ。
--
「よし、と」
エプロンありますか、と聞いたら出してくれたグレーのエプロンをして、キッチンに立つ。使われていないことがよく分かる、綺麗なキッチンだ。こんなに充実してるのに勿体ないな。
冷蔵庫の中はほとんど何もなかったけれど、かろうじて卵と野菜があったので、オムライスにする。ご飯も冷凍があったから、電子レンジに放り込んでおく。
「オムライスでいいすか」
「うん」
俺がばたばたしているのを、リビングからムラサキバラさんが見ていた。まいう棒をくわえて、器用に上下にぴこぴこと動かしている。
「ふ〜ん、すごいね」
「え?何が、ですか?」
「料理。人の手料理久しぶりかも」
まっすぐに誉められると、なんだか照れる。はあ、と曖昧に返事をした後、向き直ってまた準備を始めた。まな板もボウルも、新品みたいだ。ていうか全然使われていないんじゃないか?
人参の皮を向きながら、ちらっと家の中を眺める。小ぎれいで機能的なマンションだ。ムラサキバラさんはここに一人で住んでいるんだろう。俺を指名した先輩の計らいから見て、恋人もいないんだろうな。
背だって高いしルックスだっていいのに、なんでなんだろう。なんとなく、無気力っぽいからだろうか。
とにかく、ホモじゃないって事は、今日はセックスなしか。ご飯だけ作って帰るのは、ちょっとだけ残念だ。だってムラサキバラさん背も高いし体力ありそうだしきっと……きっと、なんだ。なんだって言うんだ俺。最近自分がそっちの事ばっかり考えてるみたいでおかしい。苦し紛れに、卵をかき混ぜる速度を上げた。
「あの、砂糖」
「ここ」
後ろから、ぬっと影ができた。俺の身体にかぶさる影。顔の横から出た手が、脇にあった容器を取る。
「これ」
「あ、ありがとう、です」
「へんなの」
ふふ、と笑う声が聞こえて、エプロンの中に腕が入ってきた。太くて逞しい腕に、ぎゅっと抱きしめられる。大きな体のせいで、包み込まれてるみたいだ。うわ、あったかい。
「わ」
「遊びたくなっちゃった」
ぴったりと背中に身体をくっつけられたまま、ぷちぷちとシャツのボタンを外される。驚いている間にボタンを全部外されて、ひょいひょいっと腕を動かされてシャツを脱がされた。大きな手が、今度はズボンのゴムにかかる。
「ひゃ、な、なにすんだ、ですかっ」
「裸エプロンだよ〜。はい、脱ぎ脱ぎ」
強く抵抗できなくてもどうにか抵抗する俺を気にもせず、ズボンもパンツも下ろされて、さっとエプロンだけの姿にされてしまった。この人すごく器用だ。
はだか、えぷろん。まさに裸にエプロンだけの姿だ。どうして急に、ホモじゃないって言ってたのに。
「はい、それでお料理」
「あーっと……服は」
「お料理」
どうしてこんなよくわからない展開に。男に裸にされるのは慣れたとはいえ、ちょっとだけ泣きそうになった。
俺があまり身体を開かないように動きながら料理している間、ムラサキバラさんはキッチンの壁に寄りかかって嬉しそうにそれを眺めている。
視線が痛い。エプロンから出ている肌を、じわじわと触れるか触れないかのところでじらされているみたいだ。羞恥を頭を振って振り払い、料理に集中する。オムライスを作るのは初めてじゃない、いつも通りにやれば大丈夫だ。じっと見られながらの作業は緊張があったものの、オムライスは綺麗に出来上がった。自分の目から見ても満足な仕上がりだ。
「完成です」
「はーい」
こっちを舐めるように見ていたムラサキバラさんが、また俺に覆い被さるようにしてオムライスをのぞき込んだ。さっきからこの人、近い。でかいから、ちょうど耳に息が吹きかかる。わざとか?
「おおー。おいしそう」
「良かった」
「よくできました」
ムラサキバラさんが、俺の頭をいいこいいこって撫でた。子供扱いみたいだけど別に嫌ではないのでされるがままになっていると、裸の尻に堅いものが当たる。俺を引き寄せているせいでムラサキバラさんのズボンのジッパーあたりが当たってるんだな、と思ったけれど、それが心なしか、盛り上がっているような。そこまで考えて、ひっと息を飲んだ。
「む、ムラサキバラさん」
「ん?」
「当たって……」
「すごいね、俺ホモじゃないのに。見てたら勃った」
やっぱり!なんだかムラサキバラさんのズボンの中のアレ、ズボン越しでも分かる位でかいような気がする。はあ、はあ、と耳元で荒い息が聞こえて、尻には切っ先を押しつけられて。俺は今から、ムラサキバラさんに犯されるんだろうか。心臓が、喜んでるみたいにドクドクとうるさい。
「そこ、持って」
言われたとおりに、キッチンの縁を両手で掴む。そろそろと尻を突き出せば、ムラサキバラさんが俺の腰をしっかりと掴んだ。
「慣らしたりしなくていーの?」
「準備はしてきて、るんで」
「ふーん」
戯れに、後孔をとんとんと指で叩かれて、期待に身体が疼く。数回ノックされれば、従順な穴はひくつきながら口を開いた。早く、早くそこに欲しい。あの大きなもので、中をみっちり埋められたい。
「足、震えてる」
ムラサキバラさんがくすくす笑いながら言った。後孔の入り口の襞に亀頭が当たって、柔らかい粘膜同士がちゅっと音を鳴らす。
「あ、ああぁっ……!」
「ん……うっ」
ずぶぶ、と音を立てて入ってくるそれは、やっぱりすごく大きくて、太い。凶悪な存在感に、体中の筋肉がぶるぶる震えるような衝撃を受ける。中を広げた性器の浮き上がった血管がドクドク脈打つ。肺まで押しつぶされてるみたいに、呼吸が浅くなる。
「あ、ああ、あ、ひ、うっ」
「久しぶり……」
ムラサキバラさんが急に腰を動かしたもんだから、性器の張り出した部分に中の肉を乱暴に抉られる。
「ひいっ!」
「アナルってこんないいの?それとも、カガミだから?持ってかれそう」
「は、はあっ!い、あ、あぁっ」
ガンガン突きまくられながら、大きすぎる快感は逃がせずにどんどん溜まっていく。既に俺の性器は勢いよく射精する事を諦め、ぽたぽたと精液を垂らしながら痺れるようなドライオーガズムを繰り返す。息継ぎの仕方まで分からなくなってきて、目の前がぐらっと揺れた。
死んでしまう、素直にそう思った。セックス良すぎて死ぬとか、バカじゃないのか。
「うぐっ!ま、待て、やめて、やめてくれっ」
「やだ。良さそうじゃん、カガミ」
ムラサキバラさんが身体を折り曲げて、耳をねっとりと舐める。汗で滑りそうになっている手を上から包まれて、この人手も大きいな、とぼんやりと思った。
「ぅ……んっ!う、あ、ああああっ」
俺の背中にぴったりと身体をくっつけた状態で、性器を奥に押し込んだままそこだけを擦るようにゴツゴツと動かされる。奥はダメだ、そんな、今まで開かれた事のない奥まで。
「ああ!あ!あっ!がぁっ」
「っ締めすぎ……っ」
ビュルルルッと腹の奥で熱い飛沫を感じる。勢いのいい精液は止まらない。中を熱く満たした後は、だらしなく緩んだ後孔からだらだらとこぼれ落ちた。
「うあ、あぁ……」
「わ、まだ出る」
随分と長い時間腹の中に射精されてから、ごぽっと腹が鳴るのを聞いて、そのまま意識を手放した。
--
「ありがとう、でした……」
「うん、俺も。オムライスも」
またセックスの最中に気絶して、客に後始末をさせてしまった。ムラサキバラさんはそんなのめんどくさがるかと思ったけれど、きちんとやってくれたらしい。穴はまだ緩んでるけど、違和感はもうない。作ったオムライスは、俺が起きる頃には綺麗に平らげられていて、やっぱり嬉しかった。
アオミネさんの時も気持ち良すぎて気絶して、家の近くまで車で運んでもらってしまった。家に上げろと脅迫みたいに言うアオミネさんから逃げるのは大変だったけれど。
「カガミ」
「は……」
頭を上げた俺の髪をくしゃっとなでながら、キスをされた。唇が離れた後も、なでなでと撫でられる。
「またおいで」
ムラサキバラさんが手をひらひらと降った。またおいでもなにも、呼んでくれたら行くしな……。はあ、とため息を付きながら駅までの道を歩いていると、ズボンのポケットの中に何か入ってるのに気づく。取り出してみると、それは二つ折りにされた厚い札束だった。
それを見た途端さっきまでの事を思い出してしまって、濡れもしない後孔がだらしなく濡れた気がした。
→20130705
←back to top