綺麗な緑色に光る葉をつけた木。
静かに鳴く虫。
サラサラ流れる、ちいさな河原。
葉の間から太陽の光が落ちてきて、キラキラと眩しい。そんな景色に似合う、とんでもない大きさの屋敷が、どっしりとした存在感を放ちながら建っている。
都会からバスで50分。真っ白な外壁に囲まれた、でかい家。
思わず帰ろうかと思った。だってこんな家のどこに居るっていうんだ、男のデリヘル頼むような奴が。
「……うおおっ!」
思わずそのデカさにビビって動きが止まっていた。こんないかにも日本って感じの家、今までテレビ位でしか見た事ない。行き場のないまましばらく屋敷の前をうろうろしてから、重苦しい面構えの門を眺める。時代劇かなんかかこれ。
でも確かに、俺を呼んでいる客はここにいる。門の柱に、不釣り合いに取り付けられたインターホンを眺める。とりあえずこれで、中と連絡を取ろう。それで、少しでもハァ?みたいな態度が返ってきたら帰ろう。ゆっくりとボタンを押すと、ピンポーン、とまた不釣り合いな近代的な音が鳴った。
『はい』
「あ、俺……」
落ち着いた声だ。男だ、と思った。いや待て、こんな家だ、お手伝いさんがいるかもしれない。店の名前と俺の名前を告げると、入ってくれ、と言われると同時に門が開いた。おいおいどういうカラクリだ?まあ当然機械なんだろうが、これにはちょっと心躍った。
庭というには広い敷地を、どう見ても場違いな俺が歩いてる。庭も外見を裏切らない日本の造りだ。道に石が並べて埋め込まれていて、カコン、と聞こえた方を見ると、竹から水が流れ、石の受け皿に溜まって池へ落ちている。これよく見るな。
門を通ってでかい屋敷の入り口に着けば、そこにも重々しい木造の扉があった。ここにはインターホンがなかったので、木の格子部分を、コンコン、と叩いてみる。
カラカラと音を立てて開いた引き戸の向こうに、和服姿の男が立っていた。
髪が赤い。俺とは違って、髪の先まで鮮やかな赤。左右の目の色がはっきりと違う。なぜかそれに、渋い色合いの着物がよく似合っていた。この屋敷には、まさにこんな感じの男が合ってる。
不思議だ。身長は俺より低いのに、まるで上から見下ろされてるみたいな威圧感を放っている。こいつただもんじゃねえ、そう分かる。
「やあ、君がカガミだな」
「はい」
「僕が君を呼んだアカシだ」
アカシさんは、俺を見て笑う。それは歓迎というより、不適な笑みに似ていた。思わずごくっと喉が鳴る。ただ挨拶されただけだ、なんで俺が圧倒されてるんだ。
「上がるといい」
石が敷き詰められて磨かれた玄関に、草履や下駄が並んでいる。俺も習うように靴を脱いで揃えた。いつもはそんな事気にしないのに、なぜかそうしなければいけない気がした。
アカシさんが俺を通した先は、屋敷に似合う広い畳の部屋だった。でかい木の机の上には器に入った菓子と、渋い湯呑みに茶が入っている。その向こうに見える開け放たれた障子から、先ほどの庭が見えた。
いかにも日本、といった家。思わず、ぐるりと周りを見回す。
「座って」
「は、はい。それで俺、どうしたらいいですか」
「お茶でも飲みながら菓子でも食べてくれ」
へ?疑問符を浮かべまくった俺を置き去りにして、アカシさんは側にあるゆったりした椅子に座って本を読み始めた。
そういえばマニュアルにあった。このデリヘルを頼むやつってのはセックスしたいやつばっかりじゃなくて、ただ話し相手やデート相手、一緒にいてくれる相手がほしいだけの場合もあると。
このアカシという男もそれなんだろうか。茶飲んで菓子食っとけって、そういう事なのか。肘掛けに頬杖ついて本を読んでる横顔からは、何も汲み取れない。それが逆に、なんだか不気味だ。
とりあえず、器に盛られたお菓子を摘んで食べてみる。あんまり甘くなかったけど、まあまあ美味かった。
器の菓子も早くに空にしてしまい、どうしたらいいのかわからずにアカシさんに視線を送っていると、本から目を離してくすくす、と笑った。
「そんなに見られていると穴があいてしまうな」
「ええ?!穴、あくんすか」
「もののたとえだよ」
俺が見すぎて穴があくなんて事があるのかとびっくりしたが、日本には特殊な言い回しや表現が多すぎる。そんな俺を見て、アカシさんがまた笑った。笑い方まで、静かで上品だ。
「このままゆっくり過ごすのもいいかと思ったが……では、おいで」
「はい」
アカシさんが座る椅子の近くまでいくと、すっと手を取られる。促されるままにアカシさんの正面に座った。こうしていると、主人と従者になったみたいな気分になるから不思議だ。アカシさんにはこう、人に逆らわせない何かがある。
アカシさんが、着物の合わせ目をずらして、足を開いた。小さくてしなやかな指が下着から性器を取り出すのを見て、ぎょっとする。
「カガミ、男のこれを口で慰めた事は?」
「ない……」
「教えてあげよう」
遠くの方で、かぽん、と竹が石に当たる音が聞こえた。
「ん……」
「そう、歯を立てないように……上手だ」
アカシさんの言われるままに、性器を口の中に入れ、刺激する。もともと男の性器に嫌悪感なんてなくなった俺にとっては、その行為に抵抗もなかった。たしか、キセさんも俺のをくわえてくれた。それを思い出しながら、アカシさんの性器を愛撫する。
だんだん顎が疲れてきて、歯を立ててしまいそうになる。亀頭から垂れる苦い液が口を伝って喉を通るのが変な感じだ。
アカシさんはこんなので気持ちいいんだろうかと思って顔を見上げると、少し赤くなった顔とかちあった。目が合って嬉しそうに息を吐く。
「気持ちいいよ、カガミ」
ドキッとした。だってこの人、性的なものとは無縁そうだから、そのギャップに。少年にも見える顔をしていても、やっぱり俺より大人なんだ。
アカシさんが何も言わずに俺の手をとって、自分の性器に添えた。手も使ってみろって事だろうか。確か黒子は、裏筋をこそぐようにしたり、手を筒みたいにして上下させていた。見よう見まねでやってみる。
「は……いいな。すぐにでもいきそうだ」
よかった、と思いながら、先端をちゅうっと吸う。先走りの量が増えてきている気がする。もっと飲みたい、と思った。いっそ、口の中にぶちまけてほしい。
まただ、俺の身体はどんどん変になってる。自分でもどうしようもない早さで。
「カガミ、もういい」
出して欲しいと思った矢先だったから、不服そうな顔をしてしまったかもしれない。口を離して先走りを喉に通した俺を見て、アカシさんがするっと顎を撫でた。
すっと性器を着物で隠すと、立ち上がって俺の手を引いた。大きな襖をたん、と引くと、そこには二組の布団が用意されていた。隙間無くくっつけられた布団がなんだか恥ずかしくて、部屋に足を
「う……」
「カガミ?恥ずかしい?」
「うう、えーっと……」
「仕方ないな」
とん、と足のどこかに何かが触れた、とわかった時には、俺は布団の上に転がっていた。何が起きた?なんで俺は倒れてるんだ?とりあえず、アカシさんが何かしたっていうのは分かる。
「我慢などしないよ、僕は」
見上げるアカシさんは妙な迫力があって、冗談じゃなく俺は竦み上がった。アオミネさんに無理矢理突っ込まれた時も力ずくだったけれど、あの時とは違う完全に征服されてしまった、という敗北感。
布団の上にバカみたいに転がっている俺に、ゆったりとのし掛かかり、キスをされる。そのキスがまた、今までの誰よりも巧みで、舌の根まで溶けてしまいそうだ。こわばっていた身体が、どんどん力を抜いていく。完全に布団の上に横たわるまで、時間はかからなかった。
「たくさん可愛がってあげるよ、カガミ」
俺の口からアカシさんの口へ唾液が伝って、キラリと光った。
「ん、あぁっあ、あっ」
そこからはもう、なんというか、快楽地獄だった。乳首を微妙な加減で弄られ、期待した所で強く吸われ、脇腹にいやらしく触られる。アカシさんは俺の感じる所を知ってるみたいにそこばかり、しかも緩急をつけて攻めてきた。それだけじゃなく、膝で痛みと気持ちよさの間くらいの強さでぐりぐりと性器を潰される。
「ひぐぅっ!あ、あっ」
「いい声だ、カガミ」
「ん、ああぁっ」
気づけば布団の上で裸に剥かれて、玉の汗を掻きながら頭を振り乱していた。気持ちよすぎて死ぬ、わりと本気でそう思った。
「や、いやだ、はぁっ」
「いやだ?こんなに感じておいて」
「ひぎっ!」
ぎゅうっと遠慮なく性器を掴まれた。恥ずかしい事にもうしっかりと上を向いて、アカシさんの手に余るほど大きくなっている。白くてしなやかな手に、俺の性器がアンバランスだ。
「カガミは、ここも好きなんだろう」
「いあああっ、や、ああっ」
細い指が、ぐりぐりと入ってこようとしているみたいに尿道口を穿る。激しい痛みに汗がまた吹き出た。
先走りでぐちゃぐちゃになった指をすっと眺めたアカシさんが、俺の足をぐいっと抱えあげた。あの華奢な身体のどこにそんな力があるんだろう。
待ちわびた所に触れてもらえる。セックスを知った後孔は、もう解れて柔らかくなっているだろう。
「ん?ここは……もう、緩んでいるな」
「ん、ぅんっ……だからぁ」
「いいや、だめだ」
「ひ、い!」
アカシさんが、俺の尻に顔を埋める。にゅるっと入ってきたのは、恐らく、アカシさんの舌だ。
ミドリマの時みたいな、中をほぐすだけの動きとは違う。舌が、俺の気持ちいい所に届かないギリギリの肉を擦る。
「いああっ、あ、アカシさんっ」
「ん、届かないな……もう少し」
俺のいい所を知っているみたいな口振りで、また舌を突っ込まれる。今度は指も一緒に入れられて、結構な大きさまで広げられた。
きゅうっとすぼまった中の肉厚にアカシさんの唾液が落ちて、くちゅんといやらしい音が鳴る。舌先が前立腺まで到達して、直接舐められる度に腰がふるえた。
「ふあぁっ!あ、ああ、あっ」
全身の骨が折れそうな痙攣と一緒に、性器がぶるっと揺れて、トロトロと精液を垂らす。ああ、まただ。頭がぶっとんでしまいそうなドライオーガズムに、意識が朦朧とする。
「あ、あ……」
「ドライで達するなんて、やっぱりカガミはそういう男なんだな」
俺の尻を散々虐めた後、笑いながら覆い被さってきた。といっても体格さがあるので、俺の腹の横に手を付いた姿勢になっているだけだけれど。
「そういう……?」
「男に抱かれるための男、という事だよ」
「え、んっ……あ、うううっ」
ぱくぱくと埋めるものを欲しがっている後孔に焦れるようにゆっくりと熱くて硬い肉を埋められる。
ムラサキバラさんのように、大きくも太くもない。でも、前立腺を集中的に擦ったり、そうかと思ったら違う肉を抉られたりと様々な方向から中を攻められて、すぐに何度もいかされる羽目になった。
やっぱりこの人、すごい。
「ぁあんっ!あ、アカシさん、すごぉっ」
「ふふ、嬉しいな」
「ひ!だめ、触ったら、んあう!」
ぱんぱんと腰を当てられながら、アカシさんが俺の亀頭をぐにゅぐにゅと揉む。こんなにいいのに同時に攻められたりなんかしたら、おかしくなってしまいそうだ。ただでさえ、ずっとイき続けているようなものなのに。
「ああ!あ、ああーっ!だめ、だめっだ、あっ」
「いい声だ、もっと聞かせてくれ……」
汗だくで裸の俺と違って、着物を着たままで少し汗をかいたアカシさんが、熱にのぼせたように笑った。きゅん、と中がアカシさんの性器を締め付ける。
「中で出していいか?カガミ」
「だ、出して、出してっ……」
この人の精液がほしい、と思った。
どうかしている。はらめもしないくせに。女でもないくせに。俺はこの人の言うように、男に抱かれるための男なんだと思った。
でなきゃ、こんなに胸が高鳴るわけがない。
「あ、あーーっ!!」
腹を満たす精液に、確かな矯声を上げたのは、紛れもなく俺だった。
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「恥ずかしい?」
「……」
顔から火が出そうだ。
あれから3回も抜かずに出されて善がりまくった俺は、気こそ失いはしなかったものの身体が言うことを聞かず、アカシさんに引きずられるようにして風呂に入った。自分で洗おうとしても力が入らず、結局アカシさんに全部させてしまった。これなら、気絶してしまった方がマシだったかもしれない。
くつくつとアカシさんが笑う。
「ごめん、なさい」
「なぜ謝るんだ?僕は嬉しかったし楽しかった」
楽しかったって。これってアレだ、穴が合ったら入りたいってやつだ。俺は入れられる方か、ははは、くだらねー。
「夕飯も食べていくといい」
「そ、そんな、俺腹減ってねえ、です」
「そう言わずに。甘えてくれ」
アカシさんがあんまり楽しそうに言うから、結局夕飯まで一緒に食べてしまった。
「はー……うまかった」
バス停までの道を歩きながら、腹をぽんぽん、と叩く。遠慮しなくていいって言われたから遠慮せずに食べたら、ご飯を作りに来たお手伝いさんがすごく張り切ってどんどん継ぎ足してくれた。お陰で腹いっぱいだ。
日が落ちた外はもう涼しくて、昼間とは違う虫の声が聞こえる。もうすぐ本格的に暑くなって、夏になるんだろう。
そして今日も、アカシさんからチップをもらってしまった。茶色い封筒に包まれた、まるで映画に出てくる賄賂みたいな厚さだ。断っても断っても、アカシさんは折れてくれなかった。
どんなに楽しく過ごしていても、あくまで相手は俺の客であり、金で繋がった身なのだ。今までのお客も同じで、もう知り合う前には戻れない。淫らな関係を持った、誰にも言えない間柄だ。
キセさんも、ミドリマも、アオミネさんも、ムラサキバラさんも、アカシさんも、もしも同じ歳で、同じ趣味が合って、知り合っていたなら、仲良くなれた気がする。黒子だってそうだ。
けれどもう、俺はきっとこの仕事を辞められない。お金なんてもう俺の中では些細なオプションだ。男に抱かれ、見下ろされ、突っ込まれて喜ぶ。そういう男なのだとアカシさんも言っていたし、他の客にも似たような事を言われた。もっと、もっと抱いてほしい。そう疼く身体を、金の為だという隠れ蓑でごまかしているようなものだ。
また、指名してくれないだろうか。あの人たちなら、自分を上手に慰めてくれる。快感につき落として、なにも考えられなくしてほしい。
バス停で立っていると、電話が鳴った。黒子、と暗闇に浮かび上がる表示に、思わず喉が鳴る。
次はどんな人だろう、俺を抱いてくれるのは。
→20130710
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