『システム正常に稼働中』TNG、Data&Lore、シリアスのつもりですがギャグかもしれない#11『アンドロイドの裏切り』より 男性同士の性描写(?)やや有り ラブ描写少なめ、ローアの意地悪メイン 2003.02.02 Fuyuhiko Mazawa(epiq) |
「ロ……ロー…ア、何、を…?……」 声をかけられた本人は愉快そうに持ち上げたグラスを見つめている。データは机に手をつき、なんとか直立姿勢を保とうとしたが、バランスを崩して床に倒れた。 「あの人にも感謝しなくてはな。…スン博士に。人間が熱望しているものをくれたのだから。奴にも感謝しなければ…」 彼の言葉を聞き、意味を理解できるまで、何故か奇妙なタイムラグが発生した。回路はつながっているはずなのに何故。 ローアはデータの側にかがみこんで囁いた。 「想像できるか?この船の全員の生命の謝礼は何かな?」 ローアの言葉は聞こえていたが、データにはどうすることもできなかった。シャンパンに「何か」が混入されていたのだ。一刻も早く摂取した成分を分析して中和しなければならないのに、システム全体の動きが鈍く、次の行動が起こせない。 「運動機能の出力に制限がかかるだろう?平衡感覚も正しく感知できないはずだ。安心しろ、30分ほどで薬効成分は崩壊する」 ローアはそう言うとデータの首を撫でた。そして何か気付いた様子でうなじのあたりで指先を止めると、しばらくそこを凝視し、爪で軽く引っかけた。 首の後ろ側の皮膚が、1センチばかりめくれて内部構造がむき出しになる。彼らの体に数多くあるアクセス用パネルのひとつだ。点滅する信号を目にして、ローアにふと悪戯心が湧き起こった。 「おまえのこれはずいぶん体表近くに付いてたんだな。博士の数少ないマイナーチェンジか?」 そう言うと、データのうなじに出来た隙間に指を突っ込み、明滅するケーブルを注意深く避けて基盤をつついた。爪の先で小さなスイッチをはじくと、データは困惑したように睫毛をかすかに揺らした。廃熱システム調整をオフにされたのだ。ローアが指先で基盤の横にケーブルを行儀良く揃えると、アクセス経路は遮断されてしまった。 「絶対零度でもおまえさんが凍らないようにって親心だな。博士はあらゆる場面を想定していた」 声帯を震わせ唇を動かすことだけでも一苦労で、データの声はきしみながら途切れがちなものになる。 「し…かし、なぜ、いま」 「そうだ、室温が人間どもに快適な温度である以上、この設定は間違ってる。しかもおまえの飲んだ薬は出力機関に抵抗をかけるタイプだから、可動部全てが必要以上の熱を発生する。近い内におまえ、大変なことになるぞ」 「メルトダウン…させ…るのですか?何故僕…を破壊…」 「壊すつもりはない。ただ少しばかり楽しませろ。おまえは大人しくしていればいい」 神経回路がひとつの信号を送り出すだけでも熱は発生する。フィードバックがあれば尚更だ。触媒による内部機関の熱処理がストップしてしまった所為で、データの体温はみるみるうちに上がっていった。事態に対処しようとするものの、薬品の効果は彼の動きを制限したままで、腕をわずか数センチ動かすのに10秒近くかかる有様だ。ローアはそんな彼の努力を見おろしてげらげら笑った。 「大人しくしていろって言ってるだろ?動いたら余計熱が発生するぞ?『熱い』ってわかるか?センサーは停止してないんだ、必要以上に体温が上がってることは理解してるよな」 「理解…し…体温…機能…アクセス…冷却…」 「じたばたするな、優しいお兄様はおまえの願いを聞いてやるよ。放熱するには体の回りに空気の層を作るこの制服は邪魔だ、そうだろ?」 確かにそれは事実だった。彼の問いかけにデータはぎこちなく頷くような動きを見せる。ローアはかがんで、データの制服のファスナーを引き下ろして手際よく彼を裸に剥いた。 白い肌はその内にある熱を全く感じさせなかったが、もはや人の手が触れることもままならないほど加熱している。データは自分が体温調節システムの存在を認識できないことに戸惑ったが、単独の機能だけでも利用することにした。 彼は全身の汗腺を機能させて体に「汗」の膜を作り、蒸散熱放射で対応しようとする。しかしそれどころでは追いつかず、「汗」は染み出すそばから水蒸気になった。データは空気を求めて喘いだが、気まぐれに伸びたローアの手に口を塞がれ、彼は唸ることしかできなくなった。 呼気からの熱放散も制限されてしまい、彼はいよいよ進退窮まった。アンドロイドとはいえ、過熱状態の継続はヒトと同じく危険なことに変わりない。あらゆる部位で機能不全が起こり、体を形成する組織は融解する。その結果は「機能停止」ひらたくいえば「壊れる」のだから。 信号を遮断しているケーブルを取り除く事さえ出来れば全ては解決するが、彼はそこまで手を持っていくことが出来ない。体をわずかに揺らすことが限界だった。ローアはデータの耳元に唇を寄せて嗤った。 「はは。必死だな。どうする?このままじゃオーバーヒートしちまうぞ?」 ローアの手を押しのけることもできず、データの呻き声にはノイズまで入り始めた。もはや体内の液体成分は冷却用とはいえないほどの高温で、循環させても効果は望めそうにない。データはその液体を体表に分泌する方法を選んだ。 データは「汗」だけでなく、両目から「涙」をこぼし始めた。そのほとんどは頬を流れる間に、彼の思惑通りわずかに熱を奪って蒸発した。しばらく彼が「泣く」様子を面白そうに眺めていたローアは、思いついて涙のあとを舌でなぞった。思いがけなく冷たい舌の感触に彼を見上げたデータは、潤んだ目で解放の必要を訴えた。 押さえつける掌はそっと離された。しかし呼吸を許されたデータの口は強引な動きで捕らえられる。ローアはデータの唇を奪い、その熱さを堪能した。ようやく解放された唇はやっとの事でこれだけの言葉をこぼした。 「……助…けテ…くダさ…」 続けて「ピー」と警告音。発声もままならず、彼は切れ切れにかすれたような声を上げた。ローアは大げさに眉を上げて彼の顔を覗き込んだ。 「アラート!口から陽炎が出てるよ。人間だったら火傷じゃ済まないな」 まだ涙を流し続けるデータは「冷却素材」を求めて、ほとんどまともに動かない体でローアに縋り付いた。摂氏30度前後の低温に設定されたローアの舌に、熱い吐息と共に高温の舌が絡む。ローアは彼の襟元にかかったデータの手をうるさそうに払ってから言った。 「どうして欲しいのか言ってみろ、なんだってしてやるぜ?」 「……れい…却…ロー…ア、接…触……て、くだ…さ」 加熱したポジトロニックブレインは「アクセスできない廃熱システム」を無視することにしたらしい。解決にほど遠い方法を泣きながら懇願する「少佐どの」を眺めることで、ローアの嗜虐心はある程度満たされた。 「お願いされちゃ仕方無い」 そう言うとローアは身につけていた作業着を滑り落として、自分の冷たい体をデータにぴたりと添わせた。 「だが触媒が少なすぎる。俺の体くらいの冷たさじゃ間に合わないのに、馬鹿だなお前。でも皮膚接触は嫌いじゃないよ」 それに、「おまえの泣き顔」なんて珍しいものを見られただけでも、この試みは正しかったな。データの首の開口部を軽く撫でつけて、ローアは意地悪く微笑んだ。 データはじっとして大人しく彼に抱かれていたが、「停止」状態でない限り全ての機関は活動して熱を作る。彼の言葉の通りデータの体温上昇は抑えきれず、そのために機能はあらゆるところで異常を起こし始めた。そのたびに不随意に痙攣するデータを、ローアは律儀に抱きしめてやった。彼の耳元でまたアラートサインが鳴る。 「!エらー……ヂヂヂヂ…キキッ…36個…発…セ」 雑音混じりのデータの声は、終いには多重共鳴を起こした。 「ハウリングか?音声シミュレータも、もう滅茶苦茶だな。そんなに心配するな、おまえは壊れやしない。何故だかわかるか?」 人で言うなら「息も絶え絶え」といった風情で、データはそれでもローアの言葉を認識して首を横に振ろうとした。答えは言葉にならず、ただ空気を取り込み内部の熱と共に排出する。彼は酸素を必要としないが、その様子は酸素を求める人間の行動そのものだ。しかしその行為さえ、熱量発生に荷担していた。 データの体は今すぐ宇宙空間に放り出してやった方が良さそうなほどに熱い。ローアの体もデータのせいでかなり温度を上げていた。彼の熱放散システムは正常に機能していたが、暴走する弟と自分の二人分にはいささか足りない。しかし彼はこの事態の結末を知っていたので、まだ弟を離さなかった。 「…じゃあ教えてやろう。『このプログラムは』」 彼が口を開くと、データはほとんどノイズだけのような悲鳴を上げた。こめかみからはじけた火花が頭のまわりをぐるりと走る。次の瞬間、データの目は焦点をなくし、がくりと体から力が抜けた。仰け反ったままのデータの首を軽く唇で撫でたあと、ローアは冷却システムの一環で薄く汗の浮いた自分の額を手の甲で拭い、ニヤリと笑ってこう言った。 「『不正な処理を行ったため、強制終了』されるのさ。こんなふうにね」 ******************************* あのスン博士が、アンドロイド自身が融解するような高温を許す設計をするはずがなかった。幾つかある強制終了パターンのひとつが実行されたのだった。 ローアはケーブルを元の位置に直し、うなじのパネルを閉めた。少なくともヘッドが適正温度まで冷却されれば、自動的に再起動がかかり、チェックをしてエラーを修正し、通常通りに動けるようになる。プロトタイプのローアにしてみれば、そんなことは自分で実験済みだ。念のため背中のスイッチを押してデータを確実に停止させると、彼は立ち上がって腰に手を当て、横たわる弟を見下ろした。 ローアはデータから剥ぎ取った制服を身につけた。制服は室内にこもる水蒸気の所為で少し湿っている。船室のコンピュータに空調の指示を出し、彼は自分自身の体温設定を摂氏70度ほどにして着衣の乾燥を早めた。自分の身支度を一通り終えると、彼は作業服を自分と同じ程度に「冷えた」データに着せつけた。これでよし。 「馬鹿な人間共には俺とおまえの違いも分かりはしない。じゃあ俺はこれから一仕事してくるから、大人しくおねんねしてな」 そう言うと彼は壁面のパネルを操作してチャンネルを開き、結晶生命体に通信を始めた。 ・・・終・・・ |
後書き及び言い訳 …とまあ、ストーリーの裏ではこんな事が起こっていたのでは? などとこじつけてみたり。データがちょっと情け無くてすみません。 オーバーヒートにブラックアウトで「見ようによってはかなりエロ?」 作動中の機械って熱くなるものだし。システムに関しては 完全に私の妄想です。本当にこんなじゃ危なくて艦隊で働けない(^_^;) 表現の仕方のせいで一歩間違えば(違わなくても?)ギャグですが 機械萌えゆえ書いてる本人は大変楽しかったです(^^ゞ 普通の方は「なんじゃそりゃ!」って引かれたと思いますゴメンナサイ 2003年2月2日にこっそりUPしていたイラストはこちら。 |