「君にならできるよ」 にこにこと、まるでそれが不変の真実だというような笑顔で、悪びれもせず。 いつものようにいつものセリフを繰り返す人に、ジョミーは溜息をひとつ零した。 「あなたっていつもそれだ。できるって言うだけで、根拠がないんですよ」 「おや」 ジョミーが不満を漏らせば、ブルーは意外なことでも言われたかのように綺麗な弧を描く眉を少し上げる。 「根拠なんて。ジョミーがジョミーであることがすでに証明になっている」 「なってません」 ジョミーは二度目の溜息を零した。 別に卑屈になっているつもりはない。「ソルジャーとして落ち着きが足りない」なんて説教ならもう耳にタコができるほど聞いた。今更それくらいで落ち込んだりするものか。 「ソルジャー・ブルーを見習え」 それはソルジャーを継ぐと覚悟を決めた当初から言われ続けた言葉で、最初はジョミーも殊勝にもその通りだと頷いて努力をしようとした。 ブルーは最初からジョミーの思うようにやりなさいと、そのことには否定的だった。 ブルーが正しいとジョミーが実感したのは、それから割りとすぐのことだ。 ソルジャー・ブルーのようなソルジャーになるなんて、ぼくには無理だ。 早々に諦めたジョミーに、長老たちは努力が足りないと爆発したがブルーは手を叩いて喜んだ。 「そう、その通りだジョミー。僕と同じでは君に託した意味がない。僕は失敗した者だ。三百年、結局この惑星を周回しながら現状を維持することで精一杯だった。そんな真似をしても、なんの発展もない」 「そういう意味で言ったんじゃありません」 ブルーの三百年を否定するような、そんなことは一度も思ったこともない。現状を維持するだけというが、それが一体どれほど困難なことか。その『現状』をもブルーが皆と手を取り合って作り上げた努力の結晶だということを、ジョミーだって分かっている。 「経験とか、能力とか、そういう足りないものの問題だけじゃなくて、根本的に、性格が違うってこと」 「正しく真理だ」 ブルーは我が意を得たりとでも言いたげに深く頷いた。 「僕は君を、僕のコピーとしたくて惹かれたわけではない。むしろ、絶対に君ならそうならないと思うからこそ君に惹かれた。ジョミーはジョミーの考え方でやっていきなさい。長老たちのことなら、どうせ長い付き合いになるのだから、好きに説教ておけばいい」 三百年の歴史の一面が垣間見える言葉をさらりと紡いで、ブルーは嬉しそうな微笑みでジョミーの頬を撫でた。 「僕は大胆だと言われながら、実は迂遠なやり方しかできなかった。君は、君の思う通りに、ジョミー」 あれから数年。 「それが間違っていたかい?」 軽く首を傾げるブルーに、ジョミーは緩やかに首を振った。 「いいえ。ぼくがあなたのような指導にはなれないことも、ぼくはぼくのやり方でやっていくしかないことも、その通りだと思います。けどね」 ジョミーはいつの間にか上から重ねてきていたブルーの手を払いのけて、軽く息を吐く。 「ぼくならできるって言う、それがあなたのただの口癖だって、最近気づいただけです」 ジョミーがジョミーらしくやっていくと決めたことがブルーのせいだと言うつもりは毛頭ない。 ただ、背中を押してもらえた気分になっただけのことだ。ブルーに背中を押されなくても、恐らくこの結論に達していたには違いないが、きっと遠回りをしていた。 その分、ジョミーは理想のソルジャー像であるブルーに近づけないということに対してまで落ち込む羽目になっていただろう。今だって、ブルーみたいに上手くできないことに歯噛みしていることには変わりないけれど。 「口癖だなんて。僕は心から言っているのに」 心外だと大袈裟に息を吐き首を振るブルーに、ジョミーは肩を竦めた。 「そうでしょうね。あなたはきっと、心からそう信じてる。それでぼくは、それがただの親バカ心理だって気づいたんです。それだけの話」 「親バカ……」 赤い瞳を瞬かせたブルーは、ジョミーを手招いて自らも軽く身を乗り出す。 仕方なくジョミーもベッドに手をついて身を屈めるようにして耳を近づけると、手招きをしていたブルーの手がするりと首に絡みつく。 「なに……」 疑問を口にする間もなく、ぐるりと視界が反転した。 瞬きの間に、ジョミーは押さえつけられてベッドから流れ落ちてくる銀色を見上げる体勢になる。 「親子では、こういうことなんてしないと思うが、どうだろう?」 「誰が親子って言いましたか。いいですよ、別に孫バカでも恋人バカでも後継者バカでも、いっそジョミーバカでも、意味は一緒。あなたはぼくを無条件で信じすぎって言ってるんだから」 「それはお互い様だろう。君だって僕を無条件で信じすぎている」 「ぼくはいいんです」 「どうして」 「だってブルーだから」 赤い目が丸く縁を描くように見開いて、それからゆっくりと微笑むように細められた。 「それは君が、恋人バカで先代バカで、ブルーバカだと宣言しているのかい?」 「そんなつもりはありません」 「素直な君は可愛いね」 否定しているのに、どこが素直なんだ。 降りてくる口付けに、目を閉じながら恋人を引き寄せるようにその背中に腕を回した。 |
「オオバカモノ・ポルカ」
配布元:Seventh Heaven
memoからの転載。 なんの捻りも無くスタンダードに。 ブルーは昏睡設定ではありません。 が、特にそれは話に関係なく(^^;) 何が書きたかったのか我ながら不明……。 |