「ブルーって」 まだ息も整わないジョミーは、掠れた声で拗ねたように唇を尖らせた。 「こんなときでも、補聴器を外さないんだ?」 「こんなときだからこそだと思うが」 ブルーは髪を掻き上げながらジョミーの上から身体をずらして隣に横たわった。それでもまだお互いに肌をぴたりと重ね合わせる。 少し汗ばんだ肌が、逆により合わせた箇所を馴染ませて心地いい。 「ジョミーの可愛い声がよく聞えるようにね」 「また……そんなことばっかり言って!」 ジョミーが頬を膨らませて手を伸ばしても、簡単にブルーに捕まれて二人の間に挟みこまれてしまう。 「思念で補完できるんでしょう?」 「できても、やはり肉声を聞きたいじゃないか。では逆に訊ねるが、ジョミーはどうしてそんなに補聴器を取りたがる」 「だって声……恥かしいし……」 「おや、だがそれこそ補聴器を外しても思念で筒抜けだが」 にこにこと笑顔で指摘するブルーに、ジョミーはかっと頬を染めて捕まれていない方の手を身体の下から引き抜いて伸ばした。 「だったら取ってもいいじゃないですか!」 「だから聞えてはいても思念と肉声ではまた違う心地があるのだと」 「ブルーなんてぼくの身体を隅から隅まで見てるのに、ぼくだけブルーの耳を見たことがないなんてずるいっ!」 隅から隅まで。 赤裸々に大声で怒鳴られた言葉に、ついブルーの動きが止まってしまう。 言われなくとも先ほども堪能したばかりだ。 思い出した肢体に気を取られた隙に、少しの衝撃と共に耳が外気に触れた。 「ジョミー」 ほとんど聞えなかったのはその一瞬で、すぐに思念で聞えない部分を補う。ジョミーも補聴器を取るからには自分の思念を閉ざすつもりはなかったのだろう、考えていることが筒抜けだ。 そうして、ブルーと同じく一瞬だけ呆けていたジョミーが目を輝かせて何かを話した。 唇の動きを見ている限り、心で思ったことをそのまま口にしている。 『耳を出したブルーって可愛いーっ』 感激しているのは分かる。喜んでいるのも分かる。 だが可愛いと言われて、後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃に見舞われた。 「………可愛い……」 『だって、ホント、なんでだろう?すごく若く見える!えー、ブルーってこんなに可愛かったんだー』 赤子の頃から見守って、いまや恋人となった相手から可愛いと連呼されて嬉しいだろうか。 否、嬉しいはずがない。 格好いいとか頼りになるとか、そんな言葉なら大歓迎だが。 「返しなさい」 手を伸ばすと、ジョミーはそれを避けるようにして補聴器を自分の後ろに回す。 「ジョミー」 取り返して、そして二度とジョミーの前で補聴器は外さない。 可愛いといったことでブルーにそんな決心をさせたことなど気づきもせずに、ジョミーは補聴器を遠ざけると、さらにブルー自身を補聴器から遠ざけるように肩を掴んでを押し返す。 『素顔のブルーを見れたようで、なんだかちょっと嬉しいな』 「顔ならずっとさらしているだろう」 『でも、補聴器を外したところは、近しい人じゃないと見れないでしょう?』 なるほど、そういうことか。 ジョミーが外させたがっていた理由はそのあたりにあるらしい。 納得はしたが、それでも可愛いといわれるのはやはり本意ではない。 「ジョミー……」 『ブルーの耳って形がいいんだね』 恐らくは補聴器を取り返すことを邪魔したかったに違いない。だが上にのしかかるようにして、ジョミーはブルーの耳を唇で軽く食んだ。 「柔らかい」 まったく聞えないわけではない耳は、そんな風に耳元で囁いた可愛い声を拾うことは出来た。 そして感覚までなくなっているわけではない。 柔らかな唇、吹きかけられる吐息、まだ先ほどの情事の余韻を残す汗ばんだ肌が擦れて……。 「……そうかジョミー。ではもう少し頑張ろう」 「え?」 目を瞬いた、その身体に手を回し、ジョミーの足の間に膝を割り込ませながら身体を反転させる。 『え、ちょっと……まっ……?』 「待たない。誘ったのは君だ」 『誘ってないーっ』 喚きながら押し返そうと胸に手をつくジョミーに唇を落としながら、手を伸ばして補聴器をベッドの端から拾い上げる。 「ん……ふ……ぁ……」 重ねた唇の端から漏れる小さな吐息が、補聴器を付け直した耳にはしっかりと聞える。 満足の笑みを浮かべて重ねた唇を離すと、赤く熟れた唇を尖らせて、潤んだ瞳でジョミーが頬を膨らませた。 「誘ってないし、補聴器戻ってるし」 「これはね、君の小さな囁きまで拾うために必要なものなんだよ」 そう言って、もう一度唇を重ねて、ジョミーの肌に触れる手を滑らせた。 |
無防備すぎます、ジョミー。 |