「ブルー、今日はよいお茶が手に入りましたの」 「おお、フィシス。素晴らしい!玉露か……しかも本当にいい茶葉のようだ。さぞぬか漬けが合うだろう。これは経費で?」 「ええ。ですがタイムサービス特売品を買ってきましたので五十パーセントもオフだったのですよ」 「さすが僕の女神だ!なんと賢い買い物だろう!」 「今更言うのもあれなんだけどさ」 向こうのテーブルから聞こえてくる会話は聞かないようにして、ジョミーは書類を捲りながらつまらなさそうに頬杖をついて呟いた。 「この学校って生徒会長は……」 「生徒会長ではありません。ソルジャーです!」 すかさず入る訂正に、溜息を堪えて代わりに眉間に皺が寄る。 「……ソルジャーはなんで指名制なの?普通生徒会なんて選挙で決めるものじゃないの?」 隣の机でなにやらレシートを見ながら電卓を叩いていたリオは、意外なことを言われたように顔を上げた。 「いいえ、以前までは選挙制でしたよ?」 「え!?だったらなんでぼくはブルーの一存でソルジャーやらされてるの!?みんなそれでいいのかよ!」 「ブルーが仰ることですから、みな納得していますよ」 にこにこと笑顔で、快活な返答を得てジョミーの眉間の皺がますます深まった。 「玉露は熱すぎるお湯では風味が損なわれてしまいますから……」 「む、さすがフィシスだ。熱過ぎずぬる過ぎず、ちょうどよい湯加減。はー、生き返る」 「……あれのどこにそんなカリスマが」 風呂にでも入っているのかと言いたくなるような感想で緑茶を愉しむ元生徒会長と副会長を見て、ジョミーは溜息を零しつつ首を振った。 「じゃあひょっとして、指名制になったのは、ぼくから?ブルーは選挙で選ばれたの?」 「そうです。正しくは選挙というより信任投票でしたけれど。ブルーが立候補した時点で、他の候補者がみな辞退したので。全票信任で可決投票でした」 「どうしうて辞退したんだ……いや、辞退しなくても結局ブルーが当選したのか……一体どうなってるんだ、この学校の生徒の思考回路」 リオから聞いた話では、ブルーもジョミーと同じく一年生の頃から生徒会長を務めていたという。なぜ一年の立候補者に譲る気になるのか。そしてアレを信任しようという気になったのか。 頭を抱えて机に突っ伏したジョミーのすぐ頭の傍で、ことりと陶器の音が聞こえた。 「ジョミー、なにか煮詰まっているね。少し休みたまえ」 その言葉だけ聞くと、とても優しい。 ジョミーが目を細めて顔を上げると、緩やかな湯気を昇らせる湯のみが傍に置いてある。机の前には見るも爽やかな笑顔。 そう、ブルーは表面上はとても優しい。 「そう思うなら手伝ってくださいよ。なんで引退したのに生徒会室に入り浸って、なんで生徒会の備品で寛いで、なんでここにいるのに遊んでばっかりなんですか、あなたは!」 「おお、ジョミー……」 ブルーは額に手の甲を当てて、僅かに後ろによろめいた。 「僕はもうすぐ燃え尽きる」 「今日はもう疲れたので手伝えないそうです」 「またそれか!しかも何にもしてないのになんでもう疲れているんですか!」 「ジョミー、もう放課後だ。何もしていないなどと……授業があったではないか」 「それはぼくもリオも同じだけど!?」 机を叩いて怒鳴りつけても、目の前の男はまるで堪える様子も反省する様子もない。 もっとも、こんなことくらいで反省してくれるようなら、ジョミーの今の苦労もありはしないのだが。 「大体、立候補したなら任期を最後まで真っ当すればいいでしょう。体を壊したって言っても、病院に行ってる素振りも見えないのに」 「僕は確かに立候補したが、元々は推薦を断れなくて仕方なく立候補したのだよ?」 「え!推薦!?あなたを?」 一体誰がこんなちゃらんぽらんを推薦したんだ! ブルーの立候補による他の立候補辞退というだけでも驚きの話ではあったけれど、その立候補が推薦によると知ってますますこの学園が分からなくなる。 「そう……だから他者からの期待に応えてソルジャーとなったという点では僕と君は同じなんだ。ああ、まるで運命のようだね、ジョミー」 「運命もなにも、ぼくを一方的に指名したのはあなたで、しかもあなたは最終的に自分で立候補したんでしょうに」 「君という後継者を得て、僕の心は歓喜に絶えないよ。僕のジョミー」 「勝手にあなたのものにしないでください!」 本当に話の通じない人を相手に、ジョミーの疲労は深まる一方だった。 |
ところでこの生徒会、会計がいないんですが、未登場なのか 会計がいないのかどっちなんでしょう? (そんな生徒会あるのだろうか^^;) |