わざわざ喧嘩を吹っかけに来たのか、嫌味を言うだけ言ったキースがいなくなり、フィシスが磨いた壷をリオに運ばせて、生徒会室には二人きりになった。
だというのに、ブルーは落語の練習を辞めようとしない。
「あそこの長屋の親父ときたら、宿六と言われてへぇと笑ってやがる。それというのも―――」
身振り手振りを交えて小噺をするブルーは本当に活き活きとして楽しそうではあるが、それを眺めているジョミーは面白くない。
決して落語が面白くないというのではなく……。


ジョミーは手にしていた、クラスや部活や、あちこちから出された申請書の分厚い束で机を叩いた。
大きな音にさすがに驚いたのか、ブルーが誰かの肩を扇子で叩いたような振りをした格好のままで目を丸めて動きを止める。
「どうしたんだい、ジョミー?」
「どうして落研の発表会の練習を生徒会室でしてるんですか。部活の練習は部室ですればいいでしょう!」
「部室だとジョミーがいない」
「はあ?」
正面を向くように座り直すと、眉をひそめるジョミーに真剣な眼差しを向けてブルーは同じことを繰り返した。
「部室だとジョミーがいない。ジョミーがいないと僕は動悸息切れ眩暈に頭痛と様々な持病が併発して……」
「はいはいはいはい」
無駄なことを聞いたと手を振って話を終わらせようとしたジョミーは、その手を扇子で止められてブルーに視線を戻す。
「文化祭当日、君は忙しい。きっと僕の勇姿を見ることもできない。だから今のうちに見て欲しいだけだよ。君のためだけの寄席を」
「そ………」
言っていることは感動するものでもなく、むしろ呆れ果てるような内容なのに、その赤い瞳をまっすぐに向けられて、甘い微笑みをのせた顔で言われると、どうにも文句が引っ込んでしまう。
「………ブルーの出番って、何時頃?」
「寄席は午前と午後と二回同じ噺をする。僕はトリを務めるからそれぞれ終わり頃だね」
「ふぅん」
ふいと顔を背けて気のなさそうな返事を返したのに、小さな笑い声が聞えた。
去年まではブルーがソルジャーをしていたのだから、ソルジャーの仕事のひとつに、見回りがあることなど分かっているに違いない。


膝に乗せていた手を上から握られて、ジョミーの手がぴくりと震えた。
片手は頬杖をついたまま、膝の上の手をそっと開く。
するりと指の間に入ってきた長い指に指を絡めたジョミーは、不機嫌そうな表情のまま、頬はほんのりと赤く染まっていた。






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シャングリラ学園第5話からの小ネタ。
で、見回りに行ったらブルーはあんな調子で、
結局勇姿は見せられない、と(笑)