握り合ったジョミーの手を、そのまま自分のコートのポケットに招き入れたブルーはご満悦の様子で、苦手なはずの人込みの中でも笑顔を振り撒いている。
ここは人込みの中で、手を取り返そうと暴れたら周りに迷惑が掛かる。
ジョミーはそう自分に言い聞かせて、がっちりと握られた手を振り払うことを我慢した。それにカイロの入ったコートのポケットの中はとても暖かいし。
「ジョミー、ジョミー」
「なんですか」
「甘酒だ」
ブルーが指を差した茶屋の表には、甘酒ありますの紙がひらひらと冷たい風に煽られて揺れていた。
「順番が逆ですよ。先にお参りでしょう?」
「どうせ飲むなら一緒だよ、行こう。身体が温まるよ」
人の流れを縫ってまで店に向かうブルーに、ジョミーは引っ張られるままに諦めて進んだ。


だが。
「む、前生徒会長と新人ダメ生徒会長ではないか」
「あ、お前は!」
「キース・アニアン。君も初詣に来ていたのか」
店の軒先で、両手で甘酒の入った器を手に啜っていた相手にジョミーはあからさまに顔をしかめて立ち止まり、ブルーは目を丸める。
「機械が絶対のお前が神様に詣でるなんてね。意外と機械への信頼は薄いんじゃないの?」
「儀礼は儀礼だ。だからこうしてマザー二号も一緒に連れてきている」
キースの後ろの影にいたマザー二号を示されて、ジョミーは溜息をついた。
「人込みの中にこの箱持ってきて……迷惑だな」
「ヒトツノポケット、フタツノテ。ソッチコソメイワクヤナイノー」
「え?あ!う、うるさいなっ」
こんな恥かしいことを機械に突っ込まれるなんてとジョミーが慌ててブルーの手を振り切ってコートのポケットから手を引き抜くと、ブルーもポケットから手を出して、空になった手を見て眉を寄せる。
「ジョミー」
不満そうに手を差し出されて、ジョミーはその手を叩き落した。
「もうしません!」
「なんだ、小銭泥棒でもしたのか?」
「するか!そんなこと!」
小銭を返せと手を突き出してきたわけじゃない!
そう叫んだものの、マザー二号でさえ気づいていることに気づいていないキースに安心するような、不憫なような。
ちらりとキースを伺い、マザー二号に視線を落としたジョミーは思わず目を擦ってしまった。
「……キース」
「なんだ」
「マザー二号の防水加工は」
「なんだいきりなり。むろん完璧だ。以前温泉にも連れて入っていただろう」
「内部も?」
「なに?」
胸を張って答えたキースの眉間に皺が寄り、足元のマザー二号に目を落とした。
ジョミーとの話に気をとられている間に、手にしていた甘酒のカップにマザー二号の口(?)がつけられている。
「マ、マザー二号!?」
「ブンセキ、ブンセキ。ブンセキケッカ。ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB5、ビタミンB6、アミノサン、ブドウトウ、ヲ、ケンシュツ」
紡がれた機械音の言葉に、焦りの色を見せたキースの様子が落ち着きを取り戻す。
「……見ろ、ただの分析だ」
「でもなんか急にロボットらしい喋り方になったぞ?」
ジョミーが首を傾げるのと、マザー二号の分析の続きはほぼ同時に告げられた。
「ビリョウノ、アルコール、モ、ケンシュツ。ミセイネン、ハ、コレヲ、キンジマス」
「え……?」
「ハイジョシマス」
マザー二号の胴体部分の蓋が開き、そこからドリルだのハンマーだの、さまざまな工具を先に取り付けたアームが飛び出す。
「ま、待て、マザー二号!」
甘酒のカップを手に、間一髪でその一撃を避けたキースは慌てて片手を前に突き出す。
「甘酒は本来アルコール飲料ではない!先程インプットしたがばかりのことを忘れたのか!」
「ミセイネンノ、インシュハ、キンシ、キンシ」
「やめろ、マザー二号!やめないかーっ!」


器用にも手にした甘酒を零さずに、繰り出される工具の攻撃を避けながら遠ざかって行くキースの背中に、ジョミーは軽く頭を掻いた。
「………行こうか、ブルー」
「その前に甘酒を……」
「マザー二号が戻ってきたらどうするんですか」
「でもジョミー」
ぐいぐいと引っ張って歩き出すと、名残惜しげに指でも咥えそうな様子で茶屋を返り見るブルーに溜息をつく。
「そんなに甘酒が飲みたかったら、ぼくが作ってあげますから、もう行きましょう」
マザー二号もだが、またキースが戻ってきたら厄介だ。
ブルーはぱちぱちと目を瞬いて、それから頬を緩めて再び上機嫌な笑みを見せる。
「それは、僕の家に来てくれるということかい?それとも君の家に呼んでくれるのかな?」
「どっちでもいいですよ」
ブルーが喜んでいるは、甘酒を飲めることなのか、それともジョミーとともに過ごせることなのか。
どちらなのかは恥かしいので聞かないことにした。






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大晦日のそのまま続き。
関西弁のマザー2号が大好きです(笑)