パタパタと軽快な足音が後ろから近付いてきて、一斉にジョミーとリオを取り囲んだ。 「Trick or treat!」 差し出されたいくつもの小さな手に、ジョミーは微笑んでマントの下を探ってキャンディーを取り出す。 「はい、お菓子をあげるから、悪戯は勘弁してくれ」 魔女に妖精に狼男に包帯を少し巻いただけのミイラ男とさまざまな扮装をした子供たちは、上から降らされた飴に歓声を上げた。 「ありがとうジョミー!」 「どういたしまして。どうだい、戦果は上々かい?」 ジョミーが首を傾げて訊ねると、子供たちはそれまで船を巡ってもらった数々のお菓子をジョミーに見せた。 「しばらくおやつには困りそうもないな。食べすぎにだけは注意するようにね」 「はーい!」 みんなよい返事を返してきたと思ったら、妖精の格好をしたニナがジョミーの手を引いた。 「今からちょっと一休みねって話をしていたところなの。ジョミーも一緒にお菓子を食べましょうよ」 「ええ?でもぼくは」 『いいんじゃありませんか?一段落ついたことですしお呼ばれされてこられても』 にっこりと笑顔でリオが勧めたことで、子供たちはジョミーが休憩に入っても問題ないのだと判断したらしい。 「ね、一緒に行こう!」 「行こう、一緒に!」 「ま、待って待って。分ったからそんなに引っ張るなよ」 楽しそうな子供たちの様子に、顔を綻ばせたジョミーはそこでリオと別れ、手を引かれるままに広場へと移動することになった。 広場の東屋でジョミーとのおやつの時間を一通り楽しんだ子供たちは、これから後半戦だと再びおやつか悪戯を求めて軽やかな足取りで駆け去った。 それをベンチに座って手を振って見送ったジョミーは、子供たちがいなくなって静かになった東屋で軽く息をつく。 「さて、と。ぼくもそろそろ……」 リオのところに戻ろうと、ベンチから腰を上げたところで後ろから聞き慣れた、耳に心地の良い声が聞えた。 「Trick or treat」 どうしてこんなところでと慌てて振り返ると、藤色のマントを翻して四方にある東屋へ上がる階段のうちのひとつをゆったりとした足取りで、青の間で休んでいるはずの人物が上って来る。 「ブルー、こんなところまで出てきていいの?」 「Trick or treat、だよ。ジョミー?」 腰の辺りまである東屋を囲む壁に手をかけて、にっこりと微笑んだブルーにジョミーは呆れた顔で軽く息をつく。 「あのね、それは子供のセリフでしょう?三百歳にもなって何言ってるんですか」 「では、僕にはお菓子はくれないのかい?」 「当たり前です。あなたはお菓子より、まず普通の食事をしっかり取ってください。それにぼくにはもう手持ちのお菓子はありませんよ」 軽く両腕を広げ、何も持っていないと示したジョミーは踵を返した。 「ほら、部屋まで送りますから」 「つれないな。もう少しくらい付き合ってくれてもいいのに」 「だって、付き合うも何も、だからぼくはもう……」 「君だって、まだ子供だよ。特に僕にとってはね」 軽く片目を閉じて言われた言葉に、ジョミーは肩を竦めて東屋の天井を見上げる。 「じゃあ、ブルー。Trick or treat!」 そう言うからには、ブルーはお菓子を用意しているのだろう。少し付き合えば満足してくれるだろうと、けれど本当は少しくすぐったい気持ちでブルーの要望に応えて手を差し出すと、思ったとおりブルーはキャンディーをいくつか取り出して見せる。 「ありが……」 キャンディーを受け取ろうと差し出したジョミーの手を避けて、ブルーは包みの一つを開けて自分の口に放り込む。 まさかそんなことをするとは思っていなかったジョミーが唖然としていると、にっこりと微笑んだブルーは空いていた僅かな距離を詰めて、そのまま軽く身を乗り出し唇を重ねてきた。 「え、ちょ……」 思わず逃げ腰になって後ろに下がると、すぐに東屋の壁が腰に当たる。横に移動する前に、ジョミーを囲うように東屋にブルーが手をついて、階段から逃げることも阻まれる。 「ん……っ」 結局逃げ切れず、吐息が重なった。 こんな、いつ人が来るかも分らない様な場所で、こんな昼間からキスなんて! ブルーの肩に手をついて、引き離そうとしたジョミーの口に、何かが押し込まれた。 一瞬で口の中に甘いイチゴの味が広がる。 「あ………んんっ……っ」 そういうことか! わざわざハロウィーンのお決まりのセリフを要求したのは、これがやりたかったからか。 イチゴ味のキャンディーを押し込んできたブルーの舌はそのままジョミーの口腔に入り込み、歯列を辿り、舌を絡め、間に挟んだキャンディーをジョミーの口の中で転がす。 甘いのか、息苦しいのか、気持ちがいいのか。 ジョミーの口の中で、文字通りふたりで一緒に甘いキャンディーを食べるという行為に、呆れているはずなのに抵抗しきれない。 結局、その長いキスは口の中のキャンディーが小さく溶けてブルーの舌が見失うまで、一度も離れることなく続いた。 「―――はっ……」 ようやくまともに息を吸えて、ジョミーは喉の下を押さえて大きく呼吸を繰り返す。 「……もう!あなたって本当に突然だ。もしかして、これがぼくがお菓子をあげなかったことへの悪戯?」 「いや?これはあくまで君にお菓子をあげただけだよ。僕の悪戯はこれからだ」 「え……」 まだあるの?と開きかけた口を急に引き結び、ジョミーは顔を赤く染める。 「……ちょっと……どこ触ってるんですか」 「君の可愛いお尻だね」 「どうしてそう、悪びれも恥じらいもなく、そんな風に返せるんですか!」 信じられないとブルーを押し返そうと、肩に当てた手に力を入れると、マントの下で蠢いていた掌は撫でていたジョミーの双丘をぎゅっと握り締める。 「え、あの……」 柔らかく円を描くように撫でていたはずの手は、いまやジョミーの尻を掴み、いつの間にか足の間にブルーの膝が割り込まれている。 「さ、さすがに悪ふざけが過ぎるんじゃ……」 「ジョミー、ハロウィーンの悪戯は、悪ふざけなものだよ」 膝頭でぐっと押し上げられて、一瞬息を飲んだ。 「こ……ここをどこだと思っているんですか!さすがに怒りますよ!」 ジョミーは眉間に皺を寄せてブルーの肩を掴んで、後ろに思い切り押した。 ブルーの上半身はそれには逆らわず後ろへと反ったが、下半身は動かない。結果的に、腰を突き出す形で押し付けられたそれに、ジョミーは一気に頬を染める。 「う………そ……ま、ちょ……な、なんで硬くさせてるの!?」 「それは君、そうでなければ一緒に気持ちよくなれないだろう?」 「こんなところで!?い、嫌だ!絶対に……っ」 「そんなことを言いながら、君のここも少し硬くなってきているようだが?」 膝頭でまた押し上げられて、ジョミーは顔を真っ赤に染めた。 「それは……っあ、あなたが変な挑発をするから……」 ブルーはまたキャンディーを一つ取り出すと、端を捻った包装の一端を口に咥え、もう一端を指先で引いて今度は黄色いキャンディーを唇に挟み、またジョミーに口付けを施してくる。 「ブル……んんっ……」 今度はレモンの香りが混じり、甘くて酸っぱい味がジョミーの口の中を満たす。 「ふ………はっ………ぅんっ」 肩を掴んで引っ張ろうと押しのけようと、ブルーはまったく動じない。 これはさっさとキャンディーを溶かしてしまったほうが早いと、今度はジョミーからも積極的にキャンディーを舐めようと舌で転がす。 口内でキャンディーを取り合うような舌の動きは、結局激しく絡み合うものとなり、飲み切れなかった混じり合った唾液が口の端から漏れて零れる。 これはキャンディーを食べているのか、それともブルーに食べられているのか。 唇を重ね口内で遊ぶ奔放なブルーの舌へ向けられていた意識が、胸を撫で下ろした掌の感覚で一気に引き戻された。 「え………っ」 ぎょっとブルーを押し返すと、二人の舌に絡め取られていたキャンディーが床に落ちて転がる。 僅かに空いた隙間に視線を落とすと、キスに夢中になっている間に上着の前ははだけ、インナーのシャツのジッパーも下げられて、白い胸が露にされていた。 「なっ………!ブ、ブルー!本当に怒りますよ!こんなところでっ」 「ジョミー、食べ物を粗末にすることもいけないよ?」 眉を吊り上げて今度こそ本気で睨み付けたというのに、ブルーは床に落ちたキャンディーに目を落としてわざとらしい溜息をつく。 「誰のせいですか、誰の!こんな」 「せっかく一緒に食べていたのに、僕を押し返したのは君なのだから、君のせいだろう?」 冗談混じりにからかうようにでもなく、それを本気で信じているように言われて、二の句が継げなくなった。 そんなジョミーの様子は見えているだろうに、ブルーの温かい掌はいとも簡単に開いていたインナーシャツの下に滑り込んで、胸の頂を指先で摘みあげた。 背筋に微弱な電流を流したような感覚が走り、ジョミーはブルーを押し返す手に力を込める。 「や……っちょ、だ、だ、だめっ」 「どうして。ここも硬く尖ってきてるよ。僕とのキスが、気持ちよかったんだね?」 信じられないことに笑顔で指摘されて、ジョミーはかっと頬を染めて唇を噛み締める。 胸を撫でる腕を掴んで、インナーシャツの下から押し出そうとしても、ブルーの手はそこを刺激することをやめようとしない。爪先で硬く尖った先を軽く引っ掛かれたときは、強く擦りあげられたときよりも顕著に震えてしまった。 「あ……っ!」 思わず漏れた甘い声に、ブルーがくすりと小さく笑った声も相まって、ジョミーは泣きたくなるほどの羞恥で悪戯を施してくる相手を睨みつける。 「君は焦らされるほうが好きだったかな?だからかな、焦らすのも上手いのは」 「ブ、ルー……いい加減に……っ」 『ジョミー、そちらですか?』 届いた思念にジョミーはその場で飛び上がるように肩を跳ね上げた。 ブルーを押し返そうとしながら首を捻ると、東屋を囲む木々の合間からリオが姿を現す。 「リオ……っ」 助かった、これでさすがにブルーももう悪戯をやめるだろう。 そう思ったのに、ブルーはリオのことなんてまるで気にした様子もなく、胸をまさぐっていた手を、さらに滑り降ろしていく。 「ちょっ……」 『ソルジャー!?どうしてこちらに!』 リオには背を見せている状態のジョミーの前に立っているブルーに驚いて、リオが慌てたように駆け寄ってくる。本当なら青の間で休んでいる人なのだから慌てることもよくわかる。 けれど、慌てたのはジョミーも同じだ。 あられもなく上着の前をはだけさせて、ブルーに散々弄られたせいで赤い胸の頂はぷっくりと腫れ上がっている。 露になっていたそれを隠したくても、きちんと服装を整えるだけの時間も余裕もなくて、ジョミーはインナーはそのままにとにかく上着の前合わせだけを重ねて握り締めた。 「うん、今日は気分が良くてね。ハロウィーンで楽しんでいる子供たちの思念に誘われたんだ。せっかくだから、僕もジョミーに付き合ってもらって、ハロウィーンを満喫しているところだよ」 キャンディーを乗せた片手を掲げるブルーに、リオはおやおやと穏やかに笑う。 ジョミーはそれどころではない。 東屋の壁でリオには見えていないだろうけれど、ブルーの手はもはや下半身にまで下りていて、服の中で窮屈に硬くなっていたジョミーのそれを直接にやわやわと触り始めていたからだ。 止めたくても、今上着を押さえた両手を放せば、前合わせが開いて、ブルーの掌で散々弄られた……逆に言えば、掌だけでここまでされた肌が露になってしまう。 それにしても、信じられない。 ブルーはリオと穏やかにいつもの調子で会話を交わしながら、ジョミーの下肢を愛撫し、弄ぶ。 人差し指と親指で作った輪に根元をぎゅっと締められて、ジョミーは思わず息を詰めた。 『ジョミー?どうかしましたか?』 ジョミーの様子がおかしいと気付いたリオが、東屋に登ろうと階段の方へ迂回しようとする。 「な……なんでもない!あ、あの、ぼく、ブルーのハロウィーンに付き合ってて、だからもう少し休憩が欲しいんだけどっ」 とにかくリオを止めたい一心で、『これ』がハロウィーンの遊びだと、肯定するようなことを言ってしまう。けれど今はとにかく、リオを東屋に上げてはいけない。 首を捻って会話をするというおかしな体勢も良くないと、もう一度片手で力を込めてブルーを押し返す。 今度は拍子抜けするほどあっさりと解放された。 ブルーの両手がジョミーの身体から離れて、幸いだと前合わせを握り締めたまま身体ごと振り返った。マントで半ば前を隠すようにして、前合わせは握り合わせているだけだということを、見えにくいようにする。 このまま東屋から駆け出せばきっと逃げ切れるけれど、ブルーの手で昂ぶられた硬く立ち上がったものがそれを阻む。 まさか服から引き出されたまま、リオの前に出るわけにもいかない。 まるで、心臓が耳の横に移動したかのようだ。 もしも、もしもこんなところで、こんなことをしていると、リオに気づかれたらどうしよう、どうなるだろう。 そう思うと、緊張で意識が遠のきそうだ。 震える膝にどうにか力を入れて、叫び出したい衝動に唇を噛み締める。 ブルーの手が、後ろから腰に回って抱き寄せるように力を込める。 膝が震えて今にも折れてしまいそうなジョミーは、それを忌々しく思いながらブルーにもたれ掛かることでどうにか座り込まずに耐えることができた。 僅かに涙が滲んだ目ですぐ傍の顔を睨みつけても、ブルーは涼しい顔でにっこりと微笑むだけ。 『そうですね……今日は、一年に一度のハロウィーンですからね、少しくらいなら、長老方も大目にみてくれると思います』 壁の下がどんなことになっているかなんて知りもしないリオは、互いに寄り添うように立っているジョミーとブルーを、微笑ましいと思っているような柔らかい笑みで頷いた。 震える唇を噛み締めて、どうにかリオに笑い返そうとしたのに、ジョミーは再び悲鳴を上げかけて息を飲む。 「……っ……!」 腰を抱き寄せていたブルーの手が前へと回りこみ、後ろからジョミーの立ち上がったものを擦るようにして撫で上げてくる。 リオが目の前にいるのに! 『ジョミー?』 「じゃ、じゃあ悪いけどリオは、ゼル老師にお願いしてきて!」 様子がおかしいと、リオが疑問に思う前に追い払わなくてはいけない。何をしているか、東屋の壁に隠れた部分がどうなっているのか、リオに気づかれる前に、早く、早く! ジョミーが必死になればなるほど、当然ながらリオは気にする。 もういっそ、気を失えばこんな酷い状態から解放されるのではないかと、煮え立つようにぐらぐらとする思考でふらついたジョミーに、ブルーがくすりと笑った。 「無粋だよ、リオ。せっかく短い二人きりの時間を楽しんでいるところだ」 涼やかにそう話す下でブルーの手はいやらしくジョミーに絡みつき、擦り上げては握る角度を変えて刺激を与え続ける。 ジョミーは堪えきれずにブルーの肩に顔を埋めて藤色のマントを噛み締めて声を殺す。真っ赤に染まった顔なんて見せられない。リオの視線に耐え切れない。 リオから目を逸らし、前合わせが解けないように震える手できつく上着を握り締めるジョミーの姿がどう映ったのか、リオは軽く息を吐いた。 『分かりました。それではジョミー、私はこれで。ソルジャー、あまりジョミーをからかわないであげてくださいね』 リオが、こんな状態を知っていたはずがない。 そんなはずはないのに、それはまるで見透かされたかのようで、ジョミーは強く目を瞑る。 リオが広場を出て行くまで、嗚咽とも嬌声とも付かない声を堪えることしかできなかった。 |
青………まあ、そういう話です。 それ以外言葉が見つからない 元期間限定話でしたが、移転時の裏の寂しさに再アップ。 裏ページが寂しくないくらいに話が増えたら再削除します。 (いつになるのか……) |