■□ ささやかな悩み □■
×ロクス ED後 性的表現あり
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…眠れない。
シルマリルは泣きそうな顔のまま、しかし泣くことなくベッドの上で壁に背中を預けてひざを抱え、天使の頃には見せたことも浮かべたこともない表情でその美貌を翳らせていた。
月が細くて闇の中を漂っていたかと思えば朝が近づきわずかに紫色に染まり、じきに東雲色に染まる寸前、彼女のこの表情の原因になった男の目と同じ色の紫が部屋中に満ちて、シルマリルはとうとう涙を一筋こぼした。
悲しいのではなく悔しい。心と体が切り離されてしまって、確かに昨夜は求めたくても求められずに我慢を続けていたロクスの気持ちに応えたかったのは嘘じゃない。なのに体はふるえてしまい、彼は怒った顔を見せないように背中を向けてベッドに横になった。
大人になりたくても大人になれない子ども、大人の男性のロクスの隣にいてもいいのかとずっと迷い続けていたことがとうとうはっきりと形を持った。
天使の頃はそれでもよかった、けれど翼を返して人間の少女になったらそうはいかないだろう。
『5年、いや3年もすれば時効か』
あの時、最初の夜彼が口の中で言った言葉の意味がやっとわかった。彼は自分が大人になるのを待とうとしていたのだ。
しかし待ちきれなくなって自分をその言葉でごまかした、ロクスはシルマリルを16、7と外見年齢で見ているけれど、その中身はもっと幼いかも知れないことを気づいていた。
彼が起きたらどんな顔をすればいいんだろう? 消えてしまいたいとはこのことか。
しかしもう帰る場所などないシルマリルだから、どうすればいいのかわからなくて眠れないままでいる。
「…もう朝だぞ。いつまですねてるつもりなんだ。」
紫色の空気に溶けそうなほどに静かな声に、シルマリルがびくんと肩を跳ねた。
その声は今の今まで眠っていたような声ではなくて、背を向けたまま眠っていたはずのロクスがその声と同じに静かに床から身を起こす。
眠れないのはロクスも同じで、男の生理にいらついてふて寝してみても眠れなくてずっと数を数えていたんだけれど、そのうち数はわからなくなりけれど背中の向こうからベッドに潜り込む音が聞こえないことが気がかりで結局眠れなかった。
シルマリルにとってはこれからの自分のすべてがかかっているほど深刻な悩みだったのだけどロクスからしたら「すねてる」ようにしか見えなくて、けどそのくらいだろうと大事なシルマリルが落ち込んでいることで眠れないほどだと言うことを、自分の不幸でいっぱいになっている彼女だけが気づかない。
ロクスは身を起こしベッドに腰掛けると自分の隣を2、3度叩いて顔を上げようとしない彼女を呼ぶんだけれど、殻に閉じこもって卵になりたいシルマリルは首を横に振ろうとすらしなかった。
ロクスはそれでようやく彼女がかなり参ってることに気づいた、背中を丸めて頬杖をついて静かなため息、そして意を決したように立ち上がり、自分からシルマリルのベッドに歩み寄り彼女のそばに腰を下ろした。
それでも壁際から背中を外さない彼女との間には、溝のような隙間がある。
「…何でも話せなんてとても無理な話だ。隠したいことがあるなら気が済むまで隠しておけばいい。
でもな、言ってくれなきゃわかんないぞ。僕はこの通り勝手に解釈する癖がついてるし、けど君はちょっとしたことで飲み込むし。
君が何を思ってるか読めだなんて無理難題押しつけないでくれ。…ただでさえ僕は肉親以外の誰かを本気で愛した記憶が君以外にはないんだから。」
悩んでいるのはロクスも同じで、未だにこの少女の扱い方に戸惑っている。
越えられない壁を承知の上で距離を置いてつきあっていけばよかった頃はもう戻らない。憧ればかりではどうにもならないことはロクスの方が感じているはず。
手のひらからすべてをこぼしていた自分が初めて自ら望みつかんだ存在、なのにそれで彼女を追いつめてしまったと思い知らされてずっと距離の取り方ばかりを考えていた。
だから彼女の嫌がることは堪えきれる限り堪えていたし、優しい顔を見せるようにと心がけていた。
どこでどう間違ってこんなに離れてしまったんだろう? まるで手をほどいてしまったみたい。
けどこのまま離れてゆくのはお互いにもっと耐えられない。
「…この僕に愛しているなんて言われても信じ切れないってのはわからないじゃないけど………!?」
彼女に向き合うことも出来ずに、自分をあざ笑うみたいに唇の端だけを笑う形に歪めて消え入りそうにそうロクスが口にする。しかし最後まで言わずに、最後は驚いて息を呑んだみたいな言葉にならない声で終わった。
「信じてます…信じたから私は全部捨ててここにいるんです!
でもあなたにそんな風に思われて…私はどこにも帰れないのに!」
今の今まで、ほぼ一晩中動かなかったシルマリルが大きく動いた。ロクスの背中にしがみついて子どものように涙をこぼし、帰る場を持たない不安をようやく彼にぶちまける。
ロクスもそれはよくわかっていたつもりだけど、彼の想像よりも彼女の不安は遥かに大きくて、ぶつけられて初めて気がつかされた。
逃げているふりをしながら同じ場所へと帰れるロクスとは違って、シルマリルにはもう彼しかいない。彼女の存在意義からしてロクス以外を彼の代わりに選べるはずもない。
彼の背中に顔を埋めて、彼の腕にすがりついて――――すべての感情が穏やかだったシルマリルが初めて激しく感情を露にした様子に、ロクスは言葉もなく彼女の嗚咽を聞いていた。
「…来い。」
そしてロクスは何を思ったのか背中にしがみついていた彼女を突然引き寄せ抱きしめてそのままともにベッドに倒れ込んだ。細い手で押し倒したシルマリルの涙に濡れた頬を愛しげに撫で、一瞬躊躇して
「どこに帰る必要があるんだ、一緒にどこまでも逃げてくれるんだろ?」
いつか見せた鋭い視線でシルマリルを貫いた。
「僕をがんじがらめにした癖にしおらしいこと言うなよ。…たまんないだろ。」
この男の柔和さは見掛けだけでその中身はエゴイズムや毒の割合が高くて、聖職者を演じるただの男に過ぎない。昼間他人の視線がある場での穏やかそうな彼も当然彼なんだけど、包み隠さぬ姿と言ったら彼の場合は夜のそれ。
見つめて視線を絡めてキスを交わすという恋人同士の睦み合いをすっ飛ばしてシルマリルの白い首筋に吸いついて、見える場所にいくつもいくつも紅い花びらを散らして――――ちくりと刺すみたいなわずかな痛みにシルマリルがきゅっとまぶたと唇を結ぶんだけど、彼に告げたとおり、「嫌じゃない」。
すすんで求めるわけでもないけど、彼だろうと許せないほどの嫌悪も恐怖もない。
誘われている通り越して挑発され続けていたロクスが我慢できるはずもまたなくて、でもこの前も少し乱暴に扱ってしまったしと葛藤しているけれど結局はここでやめられるはずもない。ロクスの不実な唇が、散らした花びらを舌先でなぞりまた同じ場所に口づけて赤を強くし、シルマリルのあごを長く細い指で捕らえて順序を飛ばしたはずのキスを奪うみたいにまだ泣いている彼女に与える。
堪えるとその間抑圧されたすべてが爆発して乱暴になるんだというのはお互いに、特に爆発する側のロクスは頭ではわかっているのだけれど、しかし二十歳すぎの男としてまだまだあどけなく幼いシルマリルの顔を見ると多少のことなら、我慢が出来る間は飲み込んでしまう。
今だって自分からどうすればいいのかなんてわからないシルマリルは泣きじゃくりながらもおとなしく、まるで男に乱暴されているみたいな様子すら見せている。
「…本気でまだ嫌なら、僕だって考える。
どうなんだ? これ以上したらもう止まらないぞ?」
男に手慣れた酒場女とばかり見せかけの駆け引きを繰り広げていたロクスだから、こんなに初でこわれやすそうな脆さが危うい少女と、駆け引きではないやりとりなんてしたことがない。小娘には興味がなかったし自分に興味を示さない女にもまた興味を示すことはなかった。
そう、彼は聖職者。女性が眉目秀麗な彼に興味を持とうと「あの方は聖職者だから」、それから先には繋がらない。
不実な男は自分のすべてが揺らいでしまうほどの異性に出逢ったことなどなかった。
「なあシルマリル…僕は夜が来るたび君のことばかり考えてしまうほどなんだ。
何日か前の話のはずなのに、君の感触をもう思い出せなくなってる。
君に怒られるから言わなかったけど、男なんてそんなものなんだよ。
特に僕は、…君以外の女性をやたら知っているだけにな。」
「あ、ロクス」
「痛いのが怖いのか? ならば心配いらない、女が血が出るほどに痛いのは最初だけだ。
後は多少痛いかも知れないが、そのうち慣れてゆく。」
何度も口づけを交わしながら、その合間にロクスが時間稼ぎのレクチャーをシルマリル相手に繰り広げる。細いけれど大きな、絶えないぬくもり宿す手でシルマリルの金の髪をかき乱し唇を重ね強く緩く吸い、男の肌に慣れさせる時間を稼ぐやり口は男ずれした女との駆け引きで何度も使った手段。
体と本能に刻んだ交渉術を無意識下で使いながら、男に慣れていない少女を少しずつ女に変えてゆく。
彼女に意志確認をしたように見せかけて、実は探りを入れただけ。シルマリルの言葉に偽りはなくて、ただ恐怖と羞恥心が彼女を強く抑圧していていい返事を返してくれそうにはない。
「君はどのくらい人間の生殖について知っているんだ?
聖職者は知識も求められるから、僕は当然必要以上に知ってはいるが。」
何もかもが手探り、子どもかと思えばシルマリルはその立場故に驚くようなことを知っていたりするし、しかしそれを理解しているとは思えない節も多々ある。
たとえ間抜けな個人授業だろうと、まさか向き合って1対1で淡々と出来るはずもなく、ロクスは口からは真面目な話を、しかしその手は女の体をまさぐりながら、時折講義をしている唇でシルマリルの肌に触れながら、と、なんとまあ忙しいことだろう。
「僕らは子をなすためには体を重ねなきゃならない。それでも授からないこともある。
でもな、子どもを授かるための行為に、君の上司は素敵なおまけをつけてくれたんだ。」
「んっ」
細い指が寝間着の中に滑り込む。
「快楽と一体感…こうして触れているだけでも僕はおかしくなりそうなんだ……」
「あ、ロクスっ」
そして指先がシルマリルの蕾に触れた。弄ぶようにじんわりと蠢く力加減などは女ずれしている不実な男ならでは。
「感じてるんだな、ほら、こんなに固くして…」
「やっ!?」
「痛くはないだろ?」
ロクスの手が薄い寝間着の釦を外して白いふくらみを露にし、その頂の紅い蕾を指先で軽くつまんでこねる。彼の手首をシルマリルが思わずつかみ爪を立て押し戻すんだけど、この男はその体つきの割に腕自慢でもあり力で勝てるわけがない。
「小柄な割に大きいな。僕の手にもあまるなんて。」
つまむのをやめたかと思ったら今度はやわやわとふくらみを揺らし揉みしだき、けれど人差し指の先で紅い蕾を弄ぶことはやめない。白い肌をほんのりと薄紅色に染めしっとりとわずかに汗ばませて、シルマリルは相変わらず蒼い瞳を潤ませてロクスの愛撫に翻弄されるばかり。
「あ、あ、許してっ」
「嫌だ。前も言ったろ、ゆっくり色々教えてやる、って。」
「でも…なんかへん…体が変なんです…」
「感じてるだけだって。おかしくなるってのがどういうことか、じっくり教えてやるよ。」
ただただ崇拝するしかなかったシルマリルが、翼を失っただけでこんなにも愛らしく純粋だとは想像を大きく裏切られてしまったロクスにとって人の悪い笑みを消せないほどのことで、彼の愛撫に身悶える彼女にこもる熱と同じに、いやもっと大きな欲望の熱量を募らせていたロクスがそれを解放しようと己の寝間着の喉元の釦をふたつ、みっつと外し胸板を露にした。そして汗ばむ白い腹を指先で撫でながら、手を胸から下腹部へ。
びくんと跳ねた彼女の反応は男から見れば愛らしいだけで、ロクスは遠慮なく薄い下着の中に細い手を差し入れた。そうそう、やわらかな淡い茂みの感触、そしてその向こうは弾力ある幼い谷間――――少しずつではあるが思い出してきた。
すでにロクスのレクチャーは途切れている。
「どうだ…僕は君に触れてる場所すべてがゾクゾクしてるよ。
君も嫌じゃないはずだ。ほら、ここ…こんなにして。」
「っ!」
「こんなにヌルヌルにして…この前とはずいぶん違うじゃないか。」
時間をかけた成果がこれで、幼いはずの谷間で蠢く細い男の指がなめらかに動いている感触に、シルマリルが耳まで紅くなって頭を大きく左右に振る。
「ロクス…ロクスっ、いや…私、わたしっ……あっ!」
谷間をまさぐっていたロクスの指先が、せまい蜜壺にわずかにうずめられる。それはさしたる抵抗も受けずにシルマリルの中へ、小刻みに抜き差しされながら奥へと進むそれに、シルマリルの腰は引けてしまっている。
「指一本でもきついな。ほら、逃げるな。」
シルマリルの寝間着は全部釦を外されて薄紅色の痴態が惜しげもなく晒されている。下着の中にはロクスの手が、じたばたと暴れるシルマリルの脚をロクスは空いた手で軽く押さえて開かせて、手の向きを変えてリズミカルに抽送を始めた。
「あっ、あーっ! いや、熱い、熱ぅい…!」
「静かにしろ、何時だと思ってるんだ。
あんまり騒ぐとその口ふさぐぞ。」
言うが早いかキスが早いか、ロクスは喘ぎを堪えきれないシルマリルの唇を己の唇でふさいで唇をこじ開け舌を絡みつけた。この前の、彼女の様子をうかがいながらの深いキスではなく、遠慮容赦なくねっとりと求め貪って、蜜壺を責めていた指をそこから抜いてぷっくりと顔を出した女のもっとも弱い場所を擦っている。
鋭すぎる肉欲が与える快楽の大波に男をほとんど知らない幼い彼女が耐えられるはずもなく、ロクスに唇をふさがれたまましがみつきながらびくびくと絶頂の前触れを彼にもわかるように見せる。
「おっと。いくんだったら僕のでいけ。
二度目だから楽しみだよ。」
腰を絡めて。己の体で彼女の絶頂を味わうためにロクスが一息で逞しい彼自身を小さな蜜壺に突き込んだ。根元までくわえ込ませた直後シルマリルが初めての絶頂を迎え、ふるふると身をふるわせる様子を、強く男を締めつける感触を、余すところなくロクスが全身で味わう。
あまりにも激しい快楽の大波に呑まれて溺れそう、シルマリルは茫然とロクスにしがみついたまま、揺れ始めた彼の緩く波打つ髪に指を絡めすがりついて頬を合わせる。
ロクスは昼の柔和さなどどこかに置き忘れたような様子で激しく彼女を揺さぶり、ベッドは彼女の代わりに悲鳴を挙げ続ける。顔を見せようとしないのは最初の夜と同じ、けれどそれでも構わない。
シルマリルは自分の内側で荒々しく息づいているロクスの存在感を微塵も疑うことはない。
自分はこの男だけの天使になった。この男のすべてを暴けるのは自分だけ。
ロクスも同じことを考えて舞い上がるばかりで、どんな形だろうと日々がとにかく幸せで仕方がなかったのだけれど、シルマリルは不安が勝ってしまって頑なになっていた。
シルマリルはロクスが自分の中で果てる瞬間を感じ、理由のわからない微笑みを唇に浮かべた。
それは天使の優しげなそれではなく、妖艶な女の微笑だった。
「こんなだととても聖都になんか帰りたくないな。
君がいて邪気のない人々がいて僕の役目だってあるし、やっぱりこの生活は聖都での23年より重いなぁ。」
甘いはずのピロートークなのに、ロクスはやることやってしまうといつもの軽口を取り戻した。寝間着だけは着たけれどまだ朝も早いからせまいベッドにふたり横たわり、シルマリルは彼に寄り添いその軽口を聞いている。
「でもその23年があって君が舞い降りたんだから捨てられるとか思ってないけど、悪いがもうちょっと聖都の連中にはおとなしくしててもらいたいことだ。
ま、それまでに新しい教皇候補が現れてくれるように祈っとくか。」
「ロクスったら」
「そうすれば僕は辺境の、教皇庁の連中の目の届かない場所で、君と生きて行ける。
そうだなぁ、未開の地と六王国連合の境目あたり結構気に入ってるんだが。
森も海もあるし気候はいいし、機会があったらそっちに行ってみようか、シルマリル?」
「…状況を楽しむ癖は相変わらず抜けないんですね。」
「悲観してもしょうがないだろ。…ふわぁ………」
「あ…結局、私のせいで寝てない……」
「一晩中しただけさ。大したことじゃない。
一晩の徹夜ぐらいどうってことないだろ、きみは若いし、僕も夜通し遊んだことがないわけでもなし。
朝食を済ませたら市場をひやかしに行こう。」
ロクスは軽口を叩きながら、細い手でシルマリルの髪を撫で続けている。
窓の外は確かに清浄な朝の光に満ちているけれど、まだ人の声が聞こえるような時間ではないらしくただ静かだった。
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