それを、真に望むのであらば。

















鎖に繋がれた天使の行方



















乱れた褥の中で、少女は目を覚ました。
茫洋とした頭で、此処が何処であるかを、ゆっくりと思い出そうとする。


白亜の天井。
照る人工灯。

床を埋める畳板。
恐らく、本来はフローリングなのだろう。
それを、部屋の主が己の趣向に当てた結果だ。

けれども、褥は和式ではなく洋式のベッド。
パイプベッド程味気ないものではないけれど、飾り気のない、これも白亜の地味なもの。




………男の部屋だ。
いけ好かない男の。




起き上がり、少女───京子は辺りを見回した。
物が少ない部屋の中で、存在している有機物は彼女しかいない。

部屋の主の姿は、今は見られなかった。


シーツを手繰り寄せ、素肌に巻き付けて、ベッドを降りる。
腰が少しばかり痛んだような気がしたが、無視して窓辺に歩み寄った。

目を覚ました時から、薄らとノイズのようなものが鼓膜に聞こえていた。
締められていたカーテンを開ければ、案の定、雨が降っている。
にも関わらず、鍵を開けて閉鎖を解き放つと、冷たい風が滑り込み、京子の頬を撫でて消えた。


京子は、そのまま窓の桟に腕を乗せて、其処に頭を乗せ、停止した。
寝起きと判る瞼は持ち上がり切っておらず、雨のフィルター越しに見る彼女の姿は、儚さと艶やかさを醸し出している。

しかし、そんな事は京子にとってどうでも良い事であったし、そもそも自覚がない。

彼女はただ、熱の残骸を宿した肌を冷ましたかっただけだ。
その結果、シーツ一枚のみを纏い付けた身に何某かが起こったとしても構わない。
寧ろ、いっそ頭から冷水のシャワーを被ってしまおうかとさえ思う。




静寂と雨のノイズと、吹き抜けていく雨空から降る肌寒さ。
それだけが京子の世界を支配していた。


─────それを破ったのは、ドアを開ける音。




「ああ、起きたんだね」




締まる音とほぼ同時に聞こえた声に、京子は振り返らなかった。
咎めるような声はなく、代わりにゆっくりとした足取りで近付いて来る気配がある。

途中、金属が小さく鳴る音があった。
続きに衣擦れの音があって、布の束が床に落ちるような、とさりと言う音。


それから、京子の体に覆い被さるように男────八剣が背から抱き込んできた。




「冷えるよ」
「知ってる」




雨空から降る寒さに当てられた京子の肌は、男の肌よりも冷たくなっている。
男の体温は決して高くはなく、常ならば京子の方が彼に対して冷たさを感じる筈なのだが、今ばかりは逆であった。

節ばった八剣の手が京子の頬を撫で、それに一瞬温もりを感じた自分に吐き気を覚える。
相手がそれを知っているかは京子の定かではないが、どちらにしても八剣の行動は変わらないだろう。
悪戯に我が身を苛めるかのような行動を取る京子に対し、彼は何処までも寛容を示し、真綿で包み込もうとする。
それをナイフで玩具のように切り裂いて、京子は同じ行動を繰り返し、彼もまた、同じ行動を繰り返していた。



頬を滑る八剣の手は、雄の昂ぶりを暗示させるような動きをする事もあれば、ただ愛でているように見えるようにも動いた。
京子は何も言わずに好きにさせ、時折、くすぐる指に反応を示すように身を捩る。

……見るものが見れば、恋人同士の睦言遊びにも見えるだろう。
しかし、そうと言うには京子の表情に感情はなく、八剣もまた、慈しむ顔は見せながらも、瞳の奥は酷く冷たい。
二人の間にある空気は、飯事遊びにすらならなかった。


八剣の手がもう一度京子の頬を撫でる。
その時感じた香りに、京子は顔を顰めた。




「臭ェ」




突き放すような一言に、八剣の動きが一瞬止まる。
が、直ぐにそれは再開され、京子の唇の形をなぞるように遊んだ。




「お仕事、済ませて来たからね」
「ん……ふッ…」




くすぐる感覚に震えた唇。
薄らと空いたその一瞬を逃さず、男の指は少女の咥内へと侵入した。

京子の舌を弄ぶように、指先が踊る。
京子は息苦しさと、むず痒さに似た感覚が背を昇るのを感じて、艶の篭った吐息を漏らす。




「本当に、京ちゃんはこの匂いが嫌いだね」
「ん、ん……ふくッ……んん…」
「今回は被っていない筈なのだけど」




ちゅく、と口の中で水音が鳴る。

自分の咥内を好き勝手に漁る指を追い出そうと、舌で押し出そうと試みる。
しかし二本目の指が入り込むと、二本の指は抵抗を示した舌を摘み捉えてしまった。
くん、と外に無理やり引き出されて、京子は舌を突き出す形になり、その様はまるで喘ぐ雌のようだった。


八剣が纏っているのは、人の、生き物の体内を流れる液体の匂い。
鉄分を多く含んだそれは、独特の匂いを醸し、京子はそれが嫌いだった。




「でもねェ。この匂いがする時の方が、京ちゃんはとてもよく鳴いてくれるんだよ。知ってたかな?」
「知ぁ…ね……ん…ッ」




舌の先端、感覚神経の敏感な部分で八剣の指が遊ぶ。
逃れる術は簡単である筈なのだが、その選択肢は京子の頭には浮かばなかった。

今はただ、男の好きにさせる以外、京子が選べる道はないのだ。


指が京子の舌を押して、諸共に再び咥内へと侵入した。
京子の咥内を犯しながら、八剣は空いていた手を彼女の胸部へと移動させて行く。

顎を捉えられたまま、京子の柔らかな乳房が男の手によって形を変える。
鼻にかかったような甘い声が京子の喉奥、咥内を弄ぶ指の隙間から零れた。




「ん、んふッ、ふぅん…」
「それに、とても敏感でね……ほら、もう乳首が固くなってる」
「んふぅッ…!」




固く勃起した乳房の先端を摘まれて、京子の躯が跳ねる。
その様にクスリと笑みを漏らし、八剣はそのまま、コリコリと京子の乳首を刺激してやる。




「んッ、んッ、ふぅんッ…!んぁ、あぅ…ッうぅん…」




口の中から指が出て行く。
つぅ、と銀の糸が伸びて光った。

京子の唾液で塗れた指を、八剣は見せ付けるように、彼女の眼前に掲げて見せた。
それを前にした京子の頬には、羞恥によるものか、赤みが浮かぶ。
擦り付ける様に頬へと指を押し付ければ、京子は嫌がるように目を閉じて、小さく震えた。


そのまま指は粘り気を纏ったまま、シーツの上からもう一つの胸の頂を摘む。
両の乳首を攻められて、京子は身を捩るが、逃れる事は出来ない。




「あッあッ、やッ!あん…!ふ、う、んやぁ…!」




ヒクン、ヒクンと跳ねる躯に、八剣は気分が良くなった。
掴み所のない笑みを浮かべていた表情の奥、瞳の底に澱んだ気配が滲む。

きゅう、と。
予告もなく、八剣は京子の乳首を強く摘み、持ち上げる。




「はぁんッ!」




たわわに育った乳房は、柔らかくはあるものの、重みは十分にある。
その重みに逆らうように、乳頭だけを摘まれて持ち上げられれば、当然京子とて痛みに顔を顰める事になる。

思わず口を突いて出た悲鳴のような声に、八剣はクスクスと、京子にも聞こえるように笑い、




「あまり声を上げると、隣の部屋に聞こえるよ」
「あッ、あうッ…!痛……ぁ、んん…!」




開け放った窓辺に凭れかかっているのだから、八剣が言う事は当然だ。
京子は唇を噛んで、声を殺そうとする。

出来る事なら、情けなくても良い、両手で口を覆ってしまいたかった。
けれども背中から抱くように胸を攻める八剣は、京子の胴体諸共に腕まで拘束している。
こんな状態で腕を上げた所で、精々胸元までしか持ち上げることは出来ないだろう。


声を抑えようとする京子に対し、八剣は自らそれを忠告しながら、彼女のプライドの壁を崩そうとする。


摘んでいた乳首を解放すると、京子の躯から痛みによる強張りが緩む。
足元が千鳥のようにふらついて、濡れた窓の桟に寄り掛かる事になる。

固くシコリになった乳頭は、吹き込んでくる冷たい風にさえ反応する。
それから隠すようにシーツを手繰り上げようとすると、節ばった手がそれを掴んで妨げた。




「京ちゃんは痛い方が好きだね」
「……違ェ」
「違わないよ」




否定する京子の顎を捉えて、八剣はくつくつと笑う。
京子は無言でそれを睨み付けた。




「違うなら、どうして腰が揺れてるのかな?」




指摘されて、京子はハッとなる。

与えられた痛みと享楽で、京子の官能のスイッチは既に入っていたのだ。
目の前の男によって快楽に餓えるようになってしまった躯は、彼女の自意識とは関係なく、刺激を欲してしまう。
乳房を攻められていた時も、咥内を弄ばれていた時も、京子は男を強請って腰を揺らしていたのだ。


意識していなかった自分の行動と、指摘された事への羞恥に、京子の顔が真っ赤になる。
その様を楽しそうに見下ろす男に、京子は目尻を釣り上がらせた。




「放せ!」
「嫌だね」




怒鳴った京子に、八剣は平静と返す。
掴まれたままだった腕を捻って抵抗するが、八剣の手は離れない。

それどころか、八剣は京子の腕を引くと、ベッドへと突き放してしまった。




「─────ッ!」




上質の綿に受け止められた京子の表情は、苦虫を噛み潰したような色をしていた。
巻き付けていたシーツが肌蹴て、ベッドの上で散らばる様に無造作に広がった。

其処に八剣が覆い被さるようにベッドに登って来、京子は慌てて八剣の肩を押す。




「やめッ……さっきやったじゃねェか!」
「ああ。でも、あれは前金分。報酬はこれからだ」
「………ッ」




口端を上げて言った八剣に、京子は瞠目して言葉を失う。
まるで裏切られたとでも言うような表情をするする少女に、八剣は笑みを深めた。
その顔こそが見たかった、と。



八剣の顔が近付く。
京子は、自分の顔を背けて、それから逃れようと試みた。

無駄だと、意味がないと、そして結局、逃げる事が出来たとしても逃げないだろうと、自分自身で判っている。
だが、だからと言って大人しく男の行為を甘受するのは、京子自身のプライドが許さなかった。
せめて抵抗して、これは自分の意思の範疇ではないと────そうして自分に言い訳をしないと、自分を見失いそうだった。


嫌だと、全身で訴えるように暴れる京子を、八剣は咎めない。
その代わりに、逃がす気も許す気もなかった。


背ける京子の顎を捉えて、八剣は強引に口付けた。
嫌がって引っ込んでいく京子の舌を捕まえ、絡め、舐めしゃぶる。
京子の手が助けを求めるように宙を掻いたが、八剣はそれを見なかった。

やがて、その手は数回彷徨う仕草をした後、ぱたりとシーツの波に落ちる。
手繰ったシーツを強く握り締めて、固く瞼を閉ざし、京子は男によって与えられる快楽の愛撫を受け入れる。




「ん、ん……んふ…ふぅん…ッ」




息苦しさからか、それとも別の感覚に我慢できなくなったのか。
京子の腰がもぞもぞと動き、太腿を擦り合わせるように下半身を揺する。

八剣の手がシーツの隙間からその中へと潜り込み、京子の腰を撫でた。
ゆったりと形を確認するようになぞる手付きが嫌で、京子はいやいやと頭を振ろうとするが、止まぬ口付けによって弱々しいものとなってしまった。
男の手から逃げるように京子の腰が身動ぎしたが、その程度で逃げられる訳もない。


シーツに隠れて明瞭には見えないと言う様が、また見る者の想像力を掻き立てる。

薄い一枚布の下でゆらゆらと揺らめく細い腰、疼きを隠そうと躍起になっている下肢。
その股の間の潜められた蜜園。

これで興奮しない男は、同性愛者か枯れているかのどちらかだと、八剣は思う。




「んふッ…うん…んぁ、あ、ぅうん……」




次第に京子の方も口付けに答え始め、ちゅ、りゅく、という水音が聞こえるようになる。

京子の顎を捉えていた八剣の指に僅かに力が篭り、彼女の口を半ば強引に開かせた。
無防備に晒された咥内を、八剣は思うままに蹂躙する。
京子の舌はそれに翻弄されて彷徨い、まるで彼女の方から口付けを強請っているようにも見えた。




「あはッ…ふ、あはぁ……んん……」
「いやらしい顔をしてる。一度、鏡で見てみると良い」
「あ……や、ぁあ…はぁん……」




双眸を細めて見詰める八剣に、京子は身を震わせて首を横に振る。




「恥ずかしがらなくていい。とても可愛くて、卑猥な顔をしているから」
「………変態……ッ」




睨みつける京子の言葉に、八剣は哂う。
それでも、冷たい色と男の情欲を隠さない瞳に、京子は戦慄いた。




「ほら、此処も」
「──────あッ!」




辛うじて京子の肌を男の目から隠していたシーツが取り払われる。
一切の衣類を失って、咄嗟に足を閉じようとした京子だったが、八剣の躯がそれを邪魔をした。

両腕で自分自身を抱くように、京子は身を丸めて縮こまる。
だが下肢は、秘められた部分は露にされたままで、八剣は湿り気を帯びた其処を見下ろして笑った。
指先でその形をなぞる様に撫でれば、京子の腰が逃げるように僅かに後退する。




「今更、恥じる事もないだろう。何せ────何回目だったかな?」
「知るかッ!」
「そうだな。そう言う位には、もう君を抱いている」




反抗の意思で返した叫びで逆に言い切られる形になって、京子は悔しさで涙が滲む。





「泣く必要はない筈だよ。言い出したのは、京ちゃんの方だからね」




その言葉に、京子は唇を噛んで目を逸らす。
ベッドの敷布を握り締める手は、皮膚が白む程の力が込められ、羞恥か怒りか判然としない震えを帯びている。

放っておけば唇を噛み千切りそうな京子。
泣き出す一歩手前と判る表情は、常の彼女だけを知っている者が見たらなんと言うだろうか。
例えば緋勇龍麻とか─────そんな事を考えるだけで、八剣の興奮は更に高ぶって行く。
親友、相棒と言って憚らない彼さえも知らない顔を、自分だけが知っているのだと思うと、それだけで。


繰り返し形をなぞって遊んでいた指が、肉壁を押し広げ、侵入する。
異物が潜り込んで来る感覚は、何度経験しても慣れなくて、京子は高い声を上げた。




「あ、あ、……あぁ…ひ…ッ!」
「此処ももう痛くないだろう?」
「ひぃ、うッ!あんッ…!」




ゆっくりと奥へ奥へ、締め付ける壁を擦りながら進んでいく、長い指。
ぞくぞくと背中を駆け上がっていく確かな快感に、京子は吐き気を覚えながら、逆らえない。




「やぁ、ああん!ひッ、は、あぁ……!」




頭を振って目尻に雫を滲ませ、悶える京子。

時折、内部で悪戯に指が折り曲がり、ポイントを突く。
その都度、京子は腰を戦慄かせて男を悦ばせる。




「やめッ…あ、あッ!そこ、やぁ…はぁんッ!」
「ほら。此処を突く度に、いやらしい液が溢れてくる。判るかな?ほら、こうすると……」
「ひッい!あッあッあッ、や、だぁ……!」




耳元で囁かれる卑猥な言葉と、殊更に弱点を攻める指に、京子は拒否を示して腕を伸ばす。
圧し掛かる男を押し退けようと八剣の肩を押すが、無論、効果がある訳もない。

赤子が親に反抗するよりも弱々しい抵抗に、八剣は喉を震わせて笑った。
そうやって抵抗する様さえも、目の前の男を愉しませる情景でしかないのだと、京子も覚えている。
暴れれば暴れてみるだけ、男は益々享楽を求め、快感で京子を脳まで犯していくのだ。


最初は一本だった指が二本に増え、三本に増えて。
それらは京子の内部を縦横無尽に蠢き、肉に爪を尖らせて掻き、遊ぶ。

ぐちゅぐちゅと、溢れた蜜を内部で掻き回されて、京子は喉を仰け反らせる。




「あ、らめ、やめぇ……!ひッ、あふッ、あんッ!そこッ、そこはぁあ…!」




責め苦に悶えて身を捩り、鳴き喘ぐ京子だが、八剣は指を止めない。
どころか、更に鳴かせようとして、ウィークポイントを狙って指を抜き差しする。




「あッあッ、あッ、あッ、あん、あッあッ!」




あられもない声をあげる京子の喉。
差し出すように晒された喉に、八剣はねっとりと舌を這わす。


爪先を立たせ、京子は腰を浮かせて、指の抜き差しに合わせて腰を揺らしていた。
そうするように躾けられた躯は、本人の意思など最早とっくに放れている。
己の躯を支配する快感と、その快感を与える男によって、彼が好むように仕立て上げられたから。

それが京子にとって酷く屈辱で、悔しくて、人生の汚点と言っても過言ではない。
だが────彼が言っていたように、この関係を最初に持ちかけたのは、京子であった。




「最初の頃は痛がって泣いてたのにね」
「あうッ、あんッ!はひッ、ひぃッ…あ、あぁあ!」
「今は気持ち良くて泣いてる」
「ち、違ッ…違う……あぁあん!」




囁かれる声を否定する京子に、八剣は「そうかな?」と呟いて、京子の膣から指を抜いた。
突然の異物からの解放に、京子は悩ましい声を上げて、腰をベッドへと落とす。

京子の蜜液に塗れた八剣の指が、彼女の蜜壷をなぞる。
与えられていた快感が抜け落ち、喪失感に苛まれた其処は、ヒクヒクと収縮を繰り返していた。
指先が秘孔の口を何度か突いて、期待するように肉壁が掴まえようと蠢く。


だが、八剣が触れたのは、膣ではなく。




「はひッ!ひ、ぃ、あ!らめ、駄目ぇえええッ!」




皮に隠れていたクリトリスを摘んで、指先がクニクニとそれを弄ぶ。
最も敏感な場所を攻められて、京子は身悶えた。




「やめッ、いや、やぁあ!だめ、やだぁ!」
「何が嫌なの?」
「そこッ、そこぉ!触ッ、ん、ぁああ!」
「其処、じゃ判らないよ?言っただろう、ちゃんと何処がどうなって、どうなるのか、詳細に…って」
「ひッ、ひッ、らめ、だめ、や、ああ!放しッ、放せ、んぁ、あッ!」
「今までは出来ていたじゃない。ほら、ね?」




引き攣るほどに足先を爪立たせて喘ぐ京子は、八剣が言わんとしている事を理解していた。
彼の言葉に従わなければ、このまま地獄の責め苦が続く事も。
容易く屈服してなるかと、生来の高いプライドが、今は彼女を追い詰めている。




「やッ、いやッ、ああ!んッあッ、はひッ、ひぃん!ふぁ、らめぇえ…!」
「判るよね、京ちゃん。其処、とか、それ、とか。あいつ、とか、そいつ、なんてものじゃ判らないよ」
「もう、もッ…だめ、放して…!や、あ、あんッ、んん!」




全身を震わせて、襲い来る激しい快感に耐えようとする京子だが、限界が近いのは目に見えている。

包皮を攻められながら、京子の膣口からは濃い蜜液が零れ落ち、シーツに沁みを作っていた。
喘ぎっ放しの口端から唾液が漏れて、視線は宙を彷徨い、全身は緊張して強張っている。


八剣は京子の耳元に、吐息がかかるほどに顔を近付けて囁いた。




「ほら。ちゃんと言えたら、止めてあげても良いよ」
「は、放して、放せぇ…!ダメ、やッ、あッあッ、放…あぁん!」




京子が言うまでは止めない。
八剣が告げる言葉は、はっきりとそんな意図を含んでいた。



負けたくない。
屈したくない。

これ以上、恥の上塗りはしたくない。


こうして何度も肌を重ねる度に、その都度こうして意地の悪い仕掛けで遊ぶ男に、京子は何度もそう思った。
だが強過ぎる快楽は、脳の正常なコントロールを失わせ、理性を置き去りにさせる。
そうなった京子は、最早“歌舞伎町の用心棒”と言う異名など捨て去った、ただの雌でしかない。

自分にこんな一面があったなど、京子とて知らなかった。
この男によって暴かれるまでは。




「だめッ…もう、も、あぁああ!」




尚も執拗に攻める指に、京子の我慢は限界を超えた。




「や、なのぉッ!クリ、ト、リス…ッ気持ちいいのぉッ
「気持ち良いのに嫌なの?」
「やッやッ変に、なるッ!頭、おかしくなるぅッ!」
「だから止めて欲しい?」
「クリ、触んな、いでェ!ひッ、お願ッ、早く…!や、あ、あぁあ!」




羞恥をかなぐり捨てて叫ぶように哀願した京子だが、八剣の悪戯は終わらない。
包皮を脱いで顔を覗かせたクリトリスを、指先で摘弾く。
引き攣った呼吸と嬌声とが京子の口を突いて出た。




「やめ、早く、早くッ…あッあッ
「うん?」
「早く、やめ……!」




自分の股間で遊ぶ指。
京子は手を伸ばして、とにかく放そうと、男の手を掴まえる。

しかし、それさえも嘲笑うように攻められてしまえば、彼女の手は単に添えられただけのものにしかならない。




「勘違いしてるよ、京ちゃん」
「んぁ、あッ はひッ、ひぃッ…らめ、もう、もうッ……」
「止めてあげても良いと言っただけで、止めるなんて一言も言っていない」




曖昧な言葉のニュアンス。
訂正された所で、だったらどうしたら良かったのだと、京子は蕩けきった思考回路の隅で思う。
どうせどんな選択肢を選んだ所で、所詮は彼の手の平で────指先一つで、踊らされているだけなのだ。



固くなってシコリになったクリトリスを、指の腹で押えられる。
それだけで京子は歯を食いしばって耐えなければならなかった。

押える指が離れれば再びクリトリスは勃ち上がり、それを摘まれて擦るように刺激される。


迫るオーガニズムの感覚に追い詰められて、京子は頭を振った。




「ダメ、らめッ、イくぅッ クリ、弄られてッ…イくぅぅぅうッッ!」




ビクン、ビクンと四肢を躍らせて、京子は果てた。