溶けて消えてしまえばいい

証拠も記憶も、泡沫に

















Erasure 前編



















切欠は多分、クスリでイった顔をした男だった。




日に日に募り、吐き出してはまた暴れる苛立ちを持て余して、何処にも自分の居場所がなくなったような気がして。
『女優』にいれば心配するように見つめる瞳に耐えられなくて、いつしか其処にも戻らなくなった。
他に自分の居場所があるとも思えなかったのだけど、それでも、戻る気になれなかった。


唯一の戻る場所を自らの意思で失ってしまえば、京一に帰る場所などもう存在しなかった。
実家に帰ると言う選択肢は今更浮かばず、結果、いつかの幼い日のように、高架下や路地の隙間で過ごす時間が増えた。

それでも時折、屋根の下で雨露を凌ぐことは出来た。
今までに負かしたチンピラや、用心棒として手を貸した店に泊まらせて貰う事はあった。
けれども、其処に滞在する事はなく、繁華街をただ点々としていた。



その内、思いつく場所を回り切って、その日はもう歩いて次の場所を探す気力もなくて。
腹も減っていたが、残飯漁りはする気がしないし、カツアゲなんて真似も嫌で、取り敢えず寝てしまおうと何処だったか高架の下に蹲っていた時。

そろそろ寝落ちようかと言う頃合で、その男は声をかけてきた。





─────綺麗な顔してるね。





始めは、無視するつもりで黙っていた。
腹も減っているし、もうすぐ眠れるのだから、一々相手にしても疲れるだけだ。
暫くすれば男も何処かに行ってしまうだろうと思っていた。

しかし予想に反して、男は何度も京一に声をかけてきた。





───此処ら辺で時々見るけど、近くに住んでるの?
───学生だよね、その制服は新宿のかな?





返事をしなければ、延々此処で喋り続けるだろうと予想するまで、約一時間。
眠れそうだった筈なのに、耳障りな声の所為で睡魔はすっかり遠退いてしまった。

深々溜息を吐いて、なんだよ、と顔を上げれば、明らかに正気ではない目の男がいて。





───やっぱり綺麗な顔してるねェ。
───こんな所でどうしたの、風邪ひいちゃうよ?
───家出かな?





あれこれと聞いてくる男の顔から、嫌な匂いがプンプンして来た。
それが薬のものである事は容易に気付けて、こういう手合いはまともに相手するだけ無駄だと踏んだ。
適当に話を合わせて、相手の気が済むのを待つか────手っ取り早く殴り飛ばすか。

しばし考えている時に、男が京一の顎を掴んで、上向かせた。
座っていた所為で見上げる形になったのが酷く腹が立って、やっぱぶっ飛ばすかと木刀を握る手に力が篭って、





───いいねェ、好みだ。





じゅるりと舌なめずりをして呟いた言葉の意味に、数瞬、理解に時間を要した。

醜悪に歪んだ顔から目を逸らせば、今度は男の股間を見てしまった。
げぇ、と内心で嘔吐を漏らしていると、男のそれがテントを張っている事に気付いた。



そっち系か。



その手合いに言い寄られることは、何度かあった。
殆どは用心棒家業や、『女優』の伝手で知り合った人達で、冗談地味た台詞であったが、一部は本気で口説いて来た。
その度にそんな気はないと袖を振ったが、しつこい者はいるもので、判り易く下心丸出しの輩もいた。

目の前の男は、ひょっとしたら薬でイカれてるだけかも知れなかったが、それは京一にとってどうでも良い。
男相手にマジで勃つ奴がいるんだな、とぼんやり考えていた程度だ。





───時間ある? 暇ならちょっとどうかな?





その言葉の意味が判らない程、この繁華街に馴染んでいなかった訳ではなく。
言葉の裏に何を誘っているかも、京一には判っていた。


馬鹿馬鹿しい。
野郎相手で何がいいんだ。
どっちの役にしろ、御免だ。

……それが常の返答で、それでも言い寄ってくるなら、腕にものを言わせる。
そうして、無理やりにでも手篭めにしようとする輩も、京一は蹴散らして来た。




けれど、何故だろうか。






───そこにさァ、いいホテルあるんだよ。
───安いしさ、男同士でも入れるんだ。





冬が近付いて、寒かったからかも知れない。
眠気が消えて、忘れるつもりだった空腹が限界を訴えていたのかも知れない。

……幼い頃のような、単純な好奇心ではなかった事は、多分、確かで。






───お小遣いもあげるよ、だからどう?






…………金なんて、いらなかった。
ただ寒いだけなんだと内心で呟いて、重かった腰を上げた。










後は男の好きにさせた。



流石に学生服はまずいからと、上着のブレザーを脱がされ、ネクタイも解かれ、代わりに男の薄汚れたパーカーを着せられた。
木刀も置いていけと言われたが、それだったらさっきの話はナシだと言ったら、せめて目立たないように隠してくれと言われ、ブレザーを袋代わりに巻きつけた。

それで漸く、男が示したホテルに行った。



チェックインを男が済ませ、当てられた部屋に向かう為にエレベーターに乗った。
その狭い箱の中で男は京一の腰を抱いて、一瞬殴り飛ばそうかと思ったが、止めて置いた。
此処で騒ぎを起こすと、外で喧嘩をするより面倒になりそうだった。


部屋に入ると、風呂に入れと言うから、入った。
初めて入った其処は案外に広く、此処でもヤれるようになってんだろうな、とぼんやり分析して。
それでも久しぶりにゆっくり入れば、少しスッキリしたような気がした───何がかは知らないが。

腹が減ったと言ったら、男は風呂に入るからその間に食べていてくれと言った。
適当に注文して、程なく運ばれてきた食事を空にした頃、男も風呂から上がって来た。


それじゃあ、と妙に意気高揚して馬乗りになった男に、「オレが下?」と問えば、男は挿れたいんだと言った。
した事がないと言ったら、今度はやけに嬉しそうにして、じゃあ教えてあげると言い出した。

────よく判らなかったが、喜ばせたらしい事は判った。




童貞はとっくに捨てていた京一だったが、まさか後ろの処女まで捨てることになるとは思わなかった。
…女ではないから、“処女”と言うのが正しいのかは知らないが、それは置いておこう。




はっきり言って、痛いし苦しいしで、散々だった。
師から散々打ち負かされて痛い目は見たつもりだったが、それとは違う。
あらぬ場所から侵入するものは、自分のものと同じ筈なのにグロテスクで、気持ちが悪かった。

痛いと言えば男は嬉しそうにしたし、やっぱり嫌だと暴れれば深く突き入れられて息が詰まった。
手は無意識の内に常に握っていたものを求め、彷徨った。

──────………最初の内は。


余りに京一が痛いと喚いたからだろうか。
男はローションを取り出して、京一の菊門に塗りつけた。

それも最初は気持ち悪くて暴れた。
しかし解されていれば次第に痛みは和らいで、今度は別の感覚が湧き上がってくる。
それが快感だと知ったのは、全てが終わった後の事だ。



その後の事を、京一はよく覚えていない。
トんだのか、覚えていたくなくて自分で蓋をしたのか、それは判然としなかった。




目が覚めた時、男は最初よりも焦点を取り戻していたが、やはり何処か可笑しかった。
京一を女のように扱って話しかけたり、自分と同じ一物がついていることを不思議そうにしていた。
その割りには具合が良かったとか、また頼むとか、まるで愛を囁くようにベタベタしながら話していた。


どれ程かの時間が過ぎると、男は仕事があるからと部屋を出て行った。
宿泊代は頼んだ食事分と、ついでにまた一食分を上乗せして払って置くから、のんびり過ごして良いと言って。

……頼んでもいない、10枚の札を置いて。






散々な目に遭ったが、それでも京一はまぁいいかと思った。

何故なら、其処には温かい布団があって、飯も食えて、周りの目も気にしないで済んだからだ。
ついでに生理現象の処理も出来た(イった事が若干ショックではあったが)。
冬の高架下で蹲って過ごすことを思えば、格段に快適だったのだ。


金については、特に何も思わなかった。
数日間の食事が出来そうな分だけ抜いて、後はゴミ箱に捨てた。





男に掘られるなんて、死んだ方がマシだと思っていた。
だって自分は男なのだから。

だけれど、そんな事態になってみると、意外に頭の中は落ち着いていて、特に傷付いてもいなかった。
































誘い易い場所、誘われ易い場所と言うのはあるらしい。

ぎらぎらとネオンの輝く場所は、女達は目に付くが、男はあまり好まれないようだ。
日本がその手の事に対して偏見があるからだろう、少々薄暗い程度の方が都合が良いらしい。


私服か制服かと言う選択肢は、京一にはなかった。
基本的に着の身着のままで、それが制服だった。

日々の喧嘩や生活の所為で既にボロボロの制服だったが、それでも何処かに泊まった時に洗わせてもらえれば随分まともに見違えて、そうでなくとも京一は私服を買うつもりはなかった。
安い値段でも馬鹿に出来ない生活で、服なんかよりも食事代の方が大事だ。
それでも下着やインナーウェアぐらいは、量販店で安く買って、少ない数を気回ししていたが。



その内、京一の事は一部の間で噂になった。
片や“歌舞伎町の用心棒”であるのだから、無理もない。

噂を聞いた人間が面白半分に京一を探している事もあれば、京一が負かしたチンピラも寄って来る。
相手を選り好みする気はない京一だったが、腹の立つ言動をする輩はやはり我慢できずに殴り飛ばした。


提示される金額ではなく、あくまで自分基準で、京一は相手を決めた。
その態度を気に入らないと強引に連れ込もうとする輩は、やはり殴り飛ばして終わりだ。
あくまで相手に従う態度は取らなかった。

相手が捉らない時でも、京一は気にせず、高架下で寝て過ごした。
朝になれば知り合いのいる所に赴いて、適当に何か奢って貰う、そんな生活だ。





特定の場所に立つ方が誘われ易いとは思うが、居場所を知られて付き纏われるのは御免だ。
だから京一は、その日その日で気紛れに場所を変えた。


ネオンが煌く大通りから、一本離れた路地。
所々に寝転がる人間がいる、灯りと言えば小路の隙間から差し込む零れ灯と切れ掛けの街灯。

何処ぞの暴走族か誰かがペイント落書きした壁に背を預け、京一は立っていた。




一人の男が声をかけてきたのは、其処に立って一時間も経った頃だった。





「幾らだ?」





ストレートな問い掛けに、京一は俯けていた顔を上げた。

ブランド物の黒いスーツに、傷だらけの顔。
堅気ではないだろう雰囲気と、スーツに隠れた盛り上がった筋肉を京一は気付いていた。




「そっちで決めてくれりゃいいぜ。宿代やらはアンタ持ちだけどよ」




壁に寄りかかったまま姿勢を変えず、京一は答えた。
明滅する明かりに逆行になった男の顔は見え辛かったが、口角が上がったのが判る。


それじゃあ行こうかと馴れ馴れしく肩を組まれた。
睨み付けると、ああ悪い悪い、と放されるが、どうせまた後で組まれるのだろう。

男は酒の匂いも、薬の匂いもしなかった。
代わりに、鉄の匂いが京一の鼻腔を擽って、一瞬吐き気を覚える。
明後日の方向を向いて、男にそれが見えないようにした。



スーツに負けず劣らず、男は上等な貴金属を身に着けている。
時計、ネックレス、ピアス……指輪も(本物か偽者か知らないが)宝石が埋め込まれていた。

多分、それなりの金額は期待できるだろう。
こんな事をしなくても、暫くは高架下での寒空を逃れられるようになる。
……その為の、今日は穢れの日。


それでも逃げられる事は時々あるもので、以前に一度、ホテル代も踏み倒された事がある。
以来、なるべく前払いの宿に入って、食事も頼まない事が増えた。
本当は腹が減っていても、雨露が凌げるだけマシだと思う事にした。
上手く行って金が手に入れば、大手を振って食事にありつけるのだから。




そろそろ覚えて来た、現在地から最寄の宿。
これも幾つか目星をつけて決めていた。



今日は学生服について頓着されなかった。

宿に入ると、チェックインは必ず相手にさせる。
京一は先ず未成年であるから、ややこしい事を避けてのものだった。


男が前金を払って、キーを渡される。


エレベーターに乗る直前、ガラス張りのカウンターの向こうから視線を感じた。
これはよくある事で、京一が学生服の時に起こる事が多い。
しかし結局何も言われなかった。

哀れんでいるのか、嘆いているのか、莫迦な子供だと嘲笑っているのか。
聞こえない雑言を想像する事は出来ず、故に、腹が立つ事もなかった。





今日の宿はシンプルな作りで、外観の看板を見なければ、ビジネスホテルのようにも見える。
しかし棚の引き出しを開けてみれば、コンドームやローションがごろごろ転がっていた。




男が先にシャワールームに入った。

シャワールームから聞こえる音に欠伸を漏らしつつ、京一はベッドの上に寝転がっていた。
何をするでもなく、ただ木刀だけはまだ手放していない。



自分がこんな事をしていると知ったら、『女優』の人々がどんな気持ちになるのか。
幼い頃から散々世話になった人達は、もしかしたら生んだ親よりも京一にとっては大切かも知れない。
それ程に温かく接してくれた人達は、今の京一を見て何を思うのか。

一度も考えなかった訳ではないけれど、最後は「どうせ帰らないから」と言う結論に行き着くのが常で、それは多分、本当は自分の中に後ろめたさがあるからなのだろう。
彼女達はきっと責める事もなく、ただお帰りなさいと笑って、大袈裟に寂しかったと泣いて抱き着いて来るのだろうけど─────それが返って、今の京一には酷く辛かった。


最初から綺麗でなどなかった躯だが、こうして穢れて行く度、また彼女達に合わす顔がなくなって。
顔面がグチャグチャになって原型がなくなっても、もう戻れないような気もして来た。




シャワールームから男が出て来る。
京一が起き上がって、早速するのかと思ったら、男はハンドバッグから煙草を取り出した。




「お前も入って来な。埃臭ェ」
「………あんたはキナ臭ェよ」




京一の言葉に、男は笑った。
そりゃそうだろうなァ、と。




制服も下着も、備え付けられた洗濯機に纏めて放り込んだ。
この洗濯機も場所によっては設置されていないから、あればいつも纏めて洗濯をする。
何せ着の身着のまま、京一は制服しか持っていない。

適当に洗剤を入れて、スイッチを押せば洗濯機は稼動した。
乾燥も出来るようだから、このまま放っておいて良いだろう。


シャワールームはシンプルで狭かった。
アメニティも必要最低限しか置かれていない。

それでも、急かされる様子もなかったから、京一は比較的のんびりと湯に当たった。



盗られるものは何もないから、こういう時は気が楽だ。
唯一、手放すことのない木刀は、こんな時でも手元に置いていた。

こんな薄汚れた棒切れを欲しがる人間はいないだろうが、それでも京一の獲物である。
これがなくても多少の相手を負かす自信はあったが、それとこれとは別だった。
京一にとって、この木刀だけは切り捨てられないものだったから。



シャワールームから出ると、適当にタオルで身体を拭いた。
一瞬、バスローブに手が伸びたが、どうせ脱ぐんだと結局着なかった。

腰にタオル一枚を巻いただけの格好で、部屋に戻る。





「ほォ、綺麗な顔してんじゃねェか」





煙草の火を消しながら男が言った。

自分の顔の何が綺麗か、京一はよく判らないが、男受けする顔だと言う事は覚えた。
それでも、そうか? と言ってみれば、何故か男達は嬉しそうに笑う。
多少莫迦な振りをした方が、大抵の相手は喜んで機嫌を良くした。



男がベッドに腰掛けると、京一はローションを取り出してから、男の足元に跪いた。

この時、相手は“歌舞伎町の用心棒”を己の支配下に置いているという気分になる。
誰にも媚びない、誰にも従わない用心棒を、自分が従わせているのだと錯覚する。


バスローブを捲れば、グロテスクな形の性器があった。





(……でけェ)





男のそれは、体躯に見合った大きさだった。
これは下手を打つとこっちの方が痛い目を見兼ねない。



しな垂れるそれに、躊躇わずに舌を這わした。
イカ臭い匂いは嫌いだったが、痛い思いをするより断然良い。


過去に行為を重ねた輩の中では、妙にあれこれと教えてくる奴もいた。
学校教師のように一つ一つ、それこそ手取り足取り腰取りで。
その時は鬱陶しい奴だと思ったが、負担軽減に関することだけは多いに感謝している。

男が悦ぶやり方も、言葉選びも、覚えたくもないのに覚えて、使い分けるようになった。
そうした方が自分の負担は減らせて楽なのだから、使うに越した事はないのだ。




「ッん、ん……っは…」




巨根と言って申し分ない性器は、かなり慣らさないといけない。
勃起させる為の刺激よりも、京一は濡らす事を優先した。

感じるだろうポイントは敢えて避けて、とにかく隈なく舌を這わして唾液で濡らした。
自分の指にも唾液をつけて、その指で男の性器を刺激する。
時々相手の様子を伺うのも忘れない、機嫌を損ねたら面倒だ。


木刀は、座る時にベッドの下に滑り込ませた。
今なら手を伸ばせば直ぐに掴める距離。
男が無理やりと言うプレイに奔ろうと言う気配を見せたら、即座に叩きのめす予定だった。

あくまでリードは京一にあると言うのが、京一と一夜を過ごす為の絶対条件だ。
それを破った者は、行為の最中であれ後であれ、一週間は立てない身体となる。



男はニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて、奉仕する京一を見下ろしている。
京一の後頭部には男の手があったが、それは添えられているだけで、押さえつけてはいなかった。




「…ん、ぅ……」




男の一物を口に含んで、その中で舌で転がした。
それと同時に、自ら後ろの穴にローションで濡らした手を伸ばし、その入り口をノックする。

幾ら目の前のそれを濡らしても、それだけで男が男を容易く受け入れられる訳がない。
自ら其処に触れることに未だ多少の抵抗はあるが、此処でもやはり、負荷の軽減が優先だと選んだ。



自分の雄を奉仕しながら、自らの菊門を弄る京一に、男は明らかに興奮を覚えていた。




「んッ、ふ……むぁ……んぐ…」
「上手いな……流石だ」




その“流石”が何を示すかは知らないが、京一は褒められたお礼と言うように一物を強く吸い上げた。
びくりと男の巨漢が跳ねたのが少し面白かった。



咥内でムクムクと大きく膨れ上がる男根。
硬さも長さもあるそれを、全て含み続けるのは無理だった。


結局、途中からは含み続けて刺激できるのは先端のみとなった。
黒ずんだグロテスクな性器は、全て呑み込もうとすれば喉奥を突いて京一の方が嘔吐きそうになる。
苦しくなって目尻に涙が浮かぶと、また男は嬉しそうに口角を上げた。

男はそのまま、京一が苦しむ顔を見ていたいのだが、あくまでリードは京一である。
京一が口を離しても何も言わず、男根を舐める姿をそのまま見下ろし続けていた。




「っは……んぷっ……ん、んぅッ…」




弄り続けていた菊門が僅かに開き始めていた。
指を濡らして、今度はゆっくりと挿入すると、気色の悪い異物感と同時に、確かに快楽が湧き上がってくる。




「すっかりケツ好きか?」
「………ッ」
「いッ……!」




明らかな嘲笑を含んだ男の台詞に、京一は目の前の一物に歯を立てた。
硬く勃起したそれに大した意味はないと思ったが、意外にも男は顔を顰め、悪かったよと謝って来た。

噛んだ場所を舐めてやる。
勃起した雄はぴくぴくと動いていて、先端をつつくとまた震えた。
男が時折、耐えるように眉根を寄せているのには気付いていたが、京一は知らない振りを続けた。


秘孔は少しずつ潤んでおり、やがて人差し指を呑み込んだ。




(……どんだけ解せってんだよ)




眼前で怒張している雄を見ながら、京一は内心で思っていた。


どれだけ解しても、どれだけ濡らしても、足りそうにない。
それ程に男の巨根は大きかった。

同じ男としては羨ましいのが半分、腹が立つのが半分。
挿れられる身としては、はっきり言って面倒臭い事この上ない。
これで痔になるのも嫌だし。



秘孔に中指を挿れる。

指全部を入れても、足りないような気がする。
そもそも、見て判るだけでも質量が違う。





「ん……っは…ぁ……はッ…」





腹を括った方が早い。
下手にズルズル前戯を続けるのも、疲れるだけだ。