下駄箱を開けた途端に、ザー、と音を立てて溢れ出して来た。
それを見て最初に思ったのは、相当の物好きがこの学校には多数存在する、と言う事だった。




「凄いね」




京子の下駄箱から溢れ出して来たものを見て、龍麻が言った。

よくもまぁ、暢気にそんな台詞が出て来るものだ。
流れ出たもので滅茶苦茶になった足元を見下ろし、京子は溜息を吐く。


京子の下駄箱から溢れ出して来たのは、一言で言うなら贈り物─────プレゼントの山。
綺麗にラッピングされたものよりも、シンプルなものが目立つ。
しかしそれを贈られるような覚えは、京子には一つも、全く、欠片もなかった。

唯一思い当たるものがあると言ったら、今日が3月14日のホワイトデーだと言う事だ。
その行事に便乗するような切欠となる出来事は、まるでないのだけれど。



溜息を吐いて、仕方なくしゃがんでプレゼントの山を拾う。
面倒臭いが、これの中身がほぼ食べ物で占められているのは確かで、それをゴミ同然にするのは勿体無さ過ぎる。




「今日ってホワイトデーなんだね」
「ああ。その所為だろ、これも」




飴やらガムやらの詰め合わせの袋を拾って、眺めながら呆れた顔。
その隣で龍麻もしゃがみ、床に散らばったプレゼントを拾い集めた。

手に取ったプレゼントの一つに、メッセージカードが挟まっているのを見付ける。
“食べて下さい”とシンプルに書かれたものに、言われなくても食うに決まってる、と胸中で呟いた。




「京、凄いね」
「何回言う気だ」
「違うよ。これの事じゃなくて」




腕から零れそうなそれらを、急場しのぎに鞄の中へと移す。

違うって、何が違うのか。
強引にぎゅうぎゅうと鞄に箱を詰め込みつつ、京子は龍麻を見遣る。
答えを促す眦が尖っているのは、彼女にとっていつもの事だ。




「こんなにお返し来る位、チョコあげたんだね」
「ふんッ!!!」




立て掛けていた木刀を持つなり、京子はあらん限りの力でそれを振り下ろした。
がん、と固い音が龍麻の頭から鳴り響く。

拾っていた箱をバラバラと落とし、龍麻は頭を抱えて蹲る。




「痛い……」
「自業自得だ、この馬鹿。誰がンな金の無駄遣いするかッ」
「……だよね」




人に恵むような裕福な生活はしていないし、懐に余裕も無い。
立ち上がって木刀を肩に担いで宣言する京子に、龍麻も納得して頷いた。




「オレぁもう行くからな」
「まだ全部拾い終わってないよ」
「後はお前が拾え」




いつもよりも重くなった鞄を手に、京子はすたすたと下駄箱を後にする。



残された龍麻は、京子の言葉通り、残ったプレゼントを回収する。
周囲には一連の様子を見ていた生徒達がおり、相変わらず自由な京子に振り回される龍麻に苦笑していた。
手伝うことをする生徒がいないのは、この二人の遣り取りに限っては、他人が下手に手を出すと火傷する可能性があるからだ。

着火から爆発までが早いのは、言わずもがな京子なのだが、実は龍麻も中々の火薬を抱えている。
問題なのはその火薬が何を原因に着火するのか判らない、と言う事だった。
だから殆どの生徒は、温かい───一部は生温かったりする───目で見守るのだ。


だが、介入できる人間が全くいない訳ではない。
それが龍麻、京子の両名と仲の良い葵や小蒔、醍醐、そして遠野のいつものメンバーだった。




「相変わらず大変ねー、緋勇君」
「手伝うわ」
「あれ、去年より少ないなァ……」
「先に蓬莱寺が持って行ったんじゃないか?」




後で分けて貰おう、とか。
美味しいのあるかな、とか。

無邪気に話す四人の傍らで、龍麻は一つの箱を手にとって固まった。






添えられたメッセージカード。

其処に、ささやかな愛を囁く言葉が綴られていた。









うちの京ちゃんは結構モテます。男でも女でも、隠れファンが多いのです。