墨田の四天王は、よく真神学園の校舎屋上に待機している。
京子が呼んでいるのか否かは定かではない。
多分、自分達の意思で其処に屯している、その可能性の方が高いと思われる。

そんな訳だから、校舎の屋上は専ら京子と墨田の四天王の溜まり場になっていた。
お陰で一般生徒が近寄る事は稀で、結果、鬼退治部の集まりにも使われる事が多いので、これについては助かっている。


だが、そうでなくとも屋上は京子の二番手の昼寝スポットだ。
昼休憩ともなれば、昼飯である購買の焼き蕎麦パンを手に此処に昇る。
そんな彼女とほぼずっと一緒にいる龍麻も、やはり此処を昼の常駐場にしていた。



いつものように屋上に赴いた二人を、空の下で出迎えたのは、いかつい男の四人組。
それは常と同じなのだが、出迎え方が少々変わっていた。




「「「「お待ちしておりやした、アニキ!」」」」





ドアを開けるなり、スタンバイしていたのか、四色の声が混合して空に響き渡る。
予想だにしていなかった出来事に、京子も、龍麻でさえも呆然として瞬きした。




「お、う…?」
「ささッ、アニキ、此方へどーぞ!」
「龍麻サンもどーぞ」
「うん」




エスコートでもするかのように、吾妻橋は京子を促して屋上の端へと案内する。
なんだか仰々しいその姿に立ち尽くしていた龍麻を、押上が促したので、龍麻は言われるままに歩き出す。


案内されなくても、恐らく此処に辿り着いただろう、いつものフェンスの前。
どうぞお座り下さい、等と言われて、京子は胡散臭さを感じて顔を顰める。
しかし舎弟達から悪意は感じられず、益々頭は混乱してしまう。

取り敢えず腰を下ろして胡坐を掻くと、その隣に、また促された龍麻も座った。
この時点で、多分自分はおまけなのだろう、と龍麻は予測する。




「なんだよ、お前ら。気持ち悪ィぞ」
「こりゃすいやせん。いや、ちょいと良い事を聞いたモンで」
「良い事だァ?」




絵に描いたようなひょうきん者を演じるように頭を叩いて言う吾妻橋に、京子は眉根を寄せた。
どう考えても嫌な予感しかしなくて。




「いえね、今日ってホワイトデーって奴じゃねェスか」
「お前らにゃ関係ねェだろ。バレンタインも関係ねェし」
「いやいやいや! バレンタインは確かに関係なかったっスけど、こっちは関係アリアリですよ!」
「そうですぜ、アニキ! これこそアニキの為にあるような日だ!」




何か、色々勘違いをしているような気がする。
傍観する龍麻がそう思った時には、京子の瞳は胡乱になり、まるで可哀想なものを見詰めるような目で吾妻橋達を見詰めていた。
恐らく、京子の龍麻と同じで、眼前で盛り上がる舎弟達の勘違い度数を計り兼ねているに違いない。




「今日は俺達舎弟が、アニキのような強く素晴らしいお人に感謝と敬意を払う日! 正にアニキの為の日って事っスよ!」
「……ドコ調べの情報だ、それは」
「アニキ達のお友達の巫女の姉御さんからお聞きしやした」
「織部神社の雪乃さんだね」




案の定間違えまくった情報と、それを教えた仲間と、本気で信じている舎弟四人と。
何処から突っ込んでやろうかと頭を抱える京子に、龍麻は苦笑するしかない。



それから四人は、京子の為に買ってきたと言う昼食を山のように出してきた。
コンビニで売られている焼き蕎麦パンは勿論、カツサンドやミックスサンド、ボリューム満点のハンバーグサンドなんてものもある。
丁度昼休憩前の四時間目が体育だったので、空きっ腹には嬉しい事だが、それらを揃えてきた理由を思うと、京子はなんだか頭痛がして来る。

これもどうぞこれもどうぞと差し出される昼食メニューの中から、京子は取り敢えず、カツサンドを手に取った。
四人それぞれに買い揃えてきたのか、先ず選ばれたキノコがガッツポーズを取る。
それを眺める京子の双眸が呆れに細められているの事は、彼らには見えていないらしい。


続けてペットボトルのスポーツドリンクや果汁ジュース、炭酸水などが差し出される。
体育の後と言う事もあって、選んだのはスポーツドリンクだった。
今度は吾妻橋が喜びの雄叫びを上げる。




「……馬鹿ばっかだな」
「あはは」




呟いた京子に、龍麻は笑う。

次はあれをいやこっちを先にと、いつもよりも大きなレジ袋の中から競り合って取り出そうとしている四人。
それをフェンスに寄りかかって眺めつつ、




「皆、京に喜んで欲しくて一所懸命なんだね」
「いつもとやってることまるで同じだけどな」




特別にいつもと違う事をやっている訳ではない。
いつもより昼食の選べるメニューが多くて、暇つぶしのアイテムが増えただけ。
今日限りで用意したものがある訳でも、なんでもない。

感謝と敬意を払う日だと彼らは豪語したけれど、それらしい事なんて何も無い。
────改めて言葉で述べられたり、大仰な事をされても、はっきり言って退いただろうし。




「アニキ、お次はこいつを…!」
「いや、アニキ!」
「アニキ、是非ともこれを…」
「いやいや、あっしのを!」

「喧しい!! ちったぁ静かに飯食わせろ!!!」







いつもならば身を固くするだろう怒鳴り声も、今日は全く通用しない。

だって、紅くなった顔ではまるで怖くもなんともないのだから。









阿呆な墨田の四天王が好きです。
たまには良い思いさせてやろうかと思って考えたんですが、結局いつもと同じテンションですね(笑)。
まぁこいつらはこんな感じで丁度良いでしょう。