「おいコラ。満足か、手前ら」




乱暴の言葉を吐いたのは、幾重にも重ねられた単衣を着込んだ、京子だった。
それを目にした途端、仲間達の───主に女性陣から───感嘆の悲鳴が上がる。




「すっごーい!」
「うわー、違うもんだねェ」
「化けるじゃねーか!」
「素敵ですわ、京子様」
「ふふ、良かったわね、京子ちゃん」




遠野、小蒔、雪乃、雛乃。
それから着付けを手伝った葵が、京子の後ろからそう声をかける。

苛立った目でそれらを睨み付ける京子の頬は、判り易く朱色に染まっている。
それは照れているとか言う可愛らしい感情の表れ────ではなく、屈辱から来る羞恥心と見て間違いないだろう。



場所は如月骨董品店。
京子はつい先ほどまで、その店の二階に葵と共に篭っていた。
恐らく店の商品であろう、十二単を着る為に。

事は雛祭りが近い事に端を発し、商品の雛人形の宣伝用ポスターを作る為であった。
メンバーの内の誰かがそれぞれ男雛と女雛の格好をし、撮影する事になったのである。


人形を売るのだから、素直に人形をポスターにすれば良いだろうと誰もが思ったが、最近はそれでは中々目に留まらないらしい。
一応店主である如月は、この売り上げに生活がかかっているので、出来るだけ販売を促進できる方法を取りたいと言う。

なんだってお前の生活苦にオレらが生贄にされなきゃならんのだ、と言ったのは京子であったが、目に見えて協調性を壊す性格をしているのが彼女一人であった為、少数意見として黙殺されてしまった。

よりにもよって、そんな京子がコスプレをする事になったのは、純粋なアミダ籤による結果だった。
最初は無難に葵や雛乃がすれば良いと言う話になっていたのだが、ポスターにされるとあって、二人も躊躇った。
用意された華やかな十二単を見た時、小蒔と遠野も一回くらいは着てみたいと思ったが、やはり宣伝用に使われるのが引っ掛かる。
雪乃は京子と同じく、最初から撮影も着用も拒否しており────すったもんだの末、運任せの人選になった。


結果、運がなかったのは京子で、珍しくテンションが上がってノリノリになった葵に化粧まで施され、今に至る。



二階にいる京子と葵の下へ、小蒔達が駆け寄る。




「すっごいキレイじゃん、京子!」
「嬉しくねェ。クソ重てェんだぞ、これ。面倒臭ェったらありゃしねえ! 化粧もなんかベタベタするしよ」
「ねえねえ、ここどうなってるの? 見せてよ」
「ああああもう! くっつくな引っ張るな! 帯締まってんだよ、暑苦しいっつの!」




もみくちゃにされる京子は、単衣の重みの所為か、まともに身動きが出来ない。


きゃあきゃあと賑やかな女性陣に続いて、龍麻・醍醐・如月・雨紋も二階に上がる。
普段は殆ど上がる人間がおらず、倉庫と化している店の二階が、今日だけは随分と華やかだ。

単衣を着ている京子の眉間には、大きな皺が谷を作っている。
それなのにいつも程凶暴性を感じられないのは、着物で動けないからか、葵が施した化粧の所為か。
何れにしても、確かにこれは化けたものだと、いつもの彼女を連想しながら思った。




「いいじゃねえか、蓬莱寺。別嬪さんだぜ」
「死ね、雷野郎。」




ニヤニヤしながら言った雨紋は、明らかに面白がっている。
京子は米神に青筋を立てて、雨紋を睨んで吐き捨てた。




「で? 内裏の方は誰がやるんだよ」
「僕」




四人の男を睨んで言った京子に、龍麻が手を上げた。




「そりゃそうだよね〜。京子がやるってなったら、緋勇君しかいないよねェ」
「……ンだ、そりゃあ」




小蒔の言葉に眉根を寄せた京子だったが、同時に、まぁそれもそうかとも思う。
と言うか、龍麻以外と並んで写真を撮るなぞ、そもそも御免であった。

撮影プランは既に決まっていて、ポーズ────と言うか、配置なども既に決まっている。
男雛役と女雛役が並んでいるのは勿論、向かい合った図や、寄り添う図も撮影すると言うのだ。
そんな事を龍麻以外の人間とやるなんて、京子の(色々な)我慢が最後まで保たれるとは思えなかった。



龍麻が如月に連れられて、店の奥へと消えた。
それを見送る事もせず、京子は近くにあった低い和箪笥に腰を下ろす。




「京子、それ商品なんじゃないの?」
「知るか。立ってられねェんだよ、重いから」




呆れた口調で諌める遠野だったが、京子は意に介さず、憮然とした態度で言い切る。


引き摺らざるを得ない裾を、葵と雛乃が持ち上げて寄せる。
その一旦を雪乃が摘んだ。




「しかし、よくこんなモン置いてたな、如月の奴。って言うより、人間サイズの雛人形の衣装があるのが不思議だぜ」
「本物なのかしら……凄く綺麗な朱銀だし、撮影用だけなんて勿体無いわね。売り物にするにしても、凄く高そう」
「どうでもいい。さっさと終わらせてくれ……」




胡乱な目をして言う京子に、仲間達は顔を見合わせて苦笑したのだった。







2011/03/03

なんか今年に入ってからコスプレネタばっかやってるような。