RUMOR 01





どの雑誌を買えば良いのか判らなかったら、遠野に一緒に来て貰ったのは、正解だった。
学校から一番近い場所にある本屋に入ると、彼女は真っ直ぐに雑誌コーナーへ向かい、一冊の音楽誌を手に取る。




「はい、緋勇君」
「ありがとう」




渡された雑誌の表紙を飾っていたのは、顔を真っ白にして、目元に黒い縁取りをした六人の男性バンドだった。
インディーズバンドを取り扱った音楽雑誌である。

パラパラとページを捲って間も無く、龍麻は目当てのものを見付けた。




「凄いね、京」
「まあねー」




新曲の発表に合わせ、宣伝も兼ねての“神夷”の特集。
一ページをメンバー揃ってのカット、それから三ページに渡ってインタビューと前回のライブの様子が掲載されている。


一ページ目のカットは、正面向きの京子を前衛に置き、吾妻橋達は扇状になって半身に傾けて前方を見ている。

京子は暗いグレーのダメージジャケットに、インナーは赤黒のボーダーシャツ、腰には三重にベルトを回していた。
ベルトからチェーンが零れ、黒いボトム、ブーツと言う井出達だ。

ロックスタイルの彼女に比べ、後ろに控える舎弟達はシンプルで、それぞれ整えられてはいるものの、京子の引き立て役と言う風が目立った。


載せられた写真の幾つかには龍麻も見覚えがある、龍麻が京子と初めて出会った日のライブだろう。
ステージ間近で撮影された彼女は、ベースを鳴らしながら、叫ぶように歌っている。
その周囲を固めているのが吾妻橋、キノコ、押上、横川の四人で、彼らは常に京子を中心に据える。

あの日、龍麻が目の前で見た光景が綺麗に切り取られて其処に存在していた。



龍麻がインタビューに意識を向けた所で、隣にいた遠野が一歩離れる。




「あたし、ちょっと色々見てくるね。緋勇君、此処にいる?」
「うん」
「じゃ、また後で」




ひらひらと手を振ると、遠野は早足で音楽雑誌のコーナーを離れた。
向かった先にあるのは週刊誌コーナーで、右往左往しながらじっくり本を吟味し始める。


龍麻はコーナーの前に立ち尽くして、また雑誌に視線を落とす。





-- 初のバラード曲について。

京子『あんまりバラードって好きじゃないな。ガンガン煩いのが好きだから、バラードとかスローな奴は眠くなる。今回は、出来上がった歌詞がどうしてもバラード以外合いそうになかったから、苦肉の策と言うか』
吾妻橋『そういう裏事情はバラしたら駄目ですって(笑)』
横川『でも、そのお陰で色々挑戦できたって感じっスね。バラードとなると、今までと勝手が違うから、改めて色々練習したりして。今までやらなかった事やったりとか』

-- 具体的には?

キノコ『一番大きいのって、ポジション替えか。今回はアニキ(京子)が完全にボーカルに専念するんで、吾妻橋がベース弾いて、ギターは俺一人。なんか落ち着かねーなーって気分』
押上『俺は今まで通りーって言いたいけど、今までガンガン鳴らしてる曲ばっかりだったから、やっぱ勝手が違うかな。横川も新しい音の組み合わせを試してたりとかしてた』

-- 作曲、練習中に京子さんは中間試験があったそうで。

吾妻橋『ああ、あったあった。ものすげーイライラしてる時期が。試験が終わった後も補習があって、曲もまとまらないしで、俺達かなり八つ当たりされました』
押上『椅子が二個ぐらい成仏したっけな』
京子『どうせボロかったんだから良いんだよ、それは。買いなおす目処にもなったし』





インタビューでも、京子の傲岸不遜振りは相変わらずのようだ。


龍麻と京子が出逢って間も無く、真神学園では中間テストが行われた。
京子はちゃんと全教科出席していたのだが、結果は殆どが赤点となり、暫くの間放課後を補習に当てられた。
その間も京子は新曲の作成・練習があり、これに専念できない事にかなり苛立っていた。

龍麻は八つ当たりされた記憶はないが、バンドメンバーであり舎弟である彼らは、きっと大変だった事だろう。



インタビューの最後は、ファンへのメッセージの他、来月の頭に開催されるライブについて宣伝していた。
大手のプロダクションが毎年開催している大きな音楽イベントで、“神夷”も出演するのだ。




京子『暇なら見に来い』
吾妻橋『またそういう言い方!』
キノコ『無理してまで来なくていいって事ですね』
京子『そんな事言ってないだろ』




最後まで同じ調子でぶっきら棒にしている京子に、龍麻は小さく笑みを漏らす。

一通り読み終わった本を閉じて、龍麻はレジに向かうのだった。





基本的に女王様気質(笑)。




RUMOR 02





本屋を出た龍麻の手には、生まれて初めて買ったインディーズバンドの音楽雑誌。
その隣にいる遠野は、新聞に週刊誌に漫画の新刊と、多種多様の本を抱えていた。


遠野がじっくりと本を吟味していたので、店の外はすっかり暗くなってしまった。
これで遠野を一人で帰らせるのは忍びなくて、龍麻は彼女を家の近くまで送る事にする。
遠野は夜に出歩くなんていつもの事だからと言ったが、龍麻もはいそうですかとは言えない。
幾ら遠野が慣れていると言っても、都会の真ん中では何が起こるか判らないのだ。

しばらくお互いに「大丈夫だから」「気にしないで」を繰り返し、最後に折れたのは遠野だった。




「ありがとねー、緋勇君」
「ううん」




信号に引っ掛かった所で言われた言葉に、龍麻は微笑んで首を振った。

既に龍麻のアパートに行く道は通り過ぎている。
しかし歩いて五分もない程度の差であるから、気にする必要はなかった。




「僕の方こそ、ありがとう。京が出てる雑誌、僕だけじゃどれだか判らなかったから」
「雑誌って一杯あるもんね。あたしも明日その雑誌買おうっと」




遠野は、京子が載った雑誌は常にチェックを入れている。
仲の良いクラスメイトがインタビューを受けているとなれば、やはり気になるものである。

しかし京子の方は、赤の他人やファンに読まれるのは平気でも、クラスメイトに見られるのは恥ずかしいらしい。
原因は、インタビューで答えた言葉をネタにして揶揄われる事があるからだ。
特に小蒔などはよく食いついて、子供のようなケンカになる事も珍しくないと言う。



交差点を通り過ぎて、住宅街に入ると、居並ぶ建物の明かりがあちこちに零れている。
街灯もとっくに点灯しており、車一台分の広さの道を照らしてくれた。




「それにしてもさァ、なーんか今日の京子、変だったわね」




暗くなった空を仰いで呟いた遠野に、龍麻も空を見上げる。




「なんか、機嫌が悪い感じだったね」
「やっぱり緋勇君もそう思う?」




確証得たりとばかりに言った遠野。
龍麻が頷けば、やっぱりね、と顎に手を当てて考える。




「もう直ぐライブがあるから、気が立ってるのかと思ったんだけど。そうでもない感じなのよねー…」




遠野の言うライブとは、雑誌でも宣伝していた大きな音楽ライブイベントの事だ。
来月の頭と言う事もあって、最近の京子は曲順やアレンジに余念がない。

普段の練習ではなく、ライブの練習となると、“神夷”のメンバーの気合も一層高まる。
だから遠野もライブ前の時期は京子を追い掛け回したりしない。
龍麻も、先日まで当たり前になっていた放課後の誘いを受けないようになっていた。


─────いや。
京子が龍麻を放課後の練習に突き合せなくなったのは、この二、三日の話ではない。
もう二週間前になる、あの廃ビルで見た京子の激昂の日以来、彼女は龍麻を誘わなくなっていた。

龍麻が行っても良いかと聞けば頷くが、彼女から積極的に声をかけてくる事が減った。
それには遠野だけでなく、葵達も気付いているようだが、ライブの件もあって仕方がない事と認識しているらしい。



だが、今日の学校で見た京子の不機嫌さは、明らかに迫るライブだけが理由ではないように思える。




「緋勇君、何か知らない?」
「ううん」
「そっか……やっぱりライブなのかなあ…」




真神学園の学校の掲示板にも張り出されていた、音楽イベントのポスター。
学園在籍の京子が率いる“神夷”に興味を惹かれている生徒は、決して少なくはない。
彼女の出演に期待を寄せている生徒も多数だ。

それがプレッシャーになって───と言うのは、京子に限ってないだろうと龍麻は思う。
彼女は周りを楽しませたいと言うよりも、自分が楽しみたくてバンド活動を続けているように見えるのだ。


ならば、そのライブ以外で京子が気を引くようなものは何か。
それも楽しいとか嬉しいとか、彼女が喜びそうなものではなくて、もっと別の琴線に触れるようなものは、




「……ね、遠野さん」
「何?」




ふ、と。
龍麻は、二週間前に見た京子を思い出す。



突然の電話と、苛立ち「帰れ」と突き放した少女の背中。
冷たいコンクリートに叩きつけられた携帯と、散らばってしまった電池パック。
黙して見詰めていた舎弟達。

あの場にいながら、龍麻は明らかな部外者だった。
何も知らない、傍観者としてすら、存在を許されなかった。


バイクの後部で聞いた話は、第三者として聞けば、決して悪い話ではなかっただろう。
けれど。




「京がプロになるかも知れないって、知ってた?」





相手が京子だったら、そんな心配もあんまりしないんですが(笑)。
京ちゃんでなければ、龍麻は女の子に結構優しいです。ってか、京ちゃんに対してだけああなんですね。




RUMOR 03





龍麻の言葉に、ああ、と遠野の反応はシンプルなものだった。
驚く訳でもなく、流す訳でもなく、他の噂話を聞いた時のように簡素。




「知ってるわよ。結構凄い所から声かけられてるのよね」
「みたいだね」
「うん。でも京子はその気ないみたいだけど」




やはり情報通の遠野はよく知っている。
“神夷”をネタに記事を書く事も多いから、おのずと情報の一部として聞いたのだろう。

遠野はスカートのポケットからメモ帳を取り出し、ページを開いた。




「えーっとね……サイクスってレーベル、知ってる?」
「うん」
「京子を引き抜きたがってるの、そのサイクスなんだけど」




音楽に疎い龍麻でさえ知っている事務所の名前だ。
芸能界の中でも一、二位を争うプロダクションで、此処に所属するアーティストが出した楽曲は軒並みヒットチャート入りすると評判だ。
他にもドラマ、バラエティと多種多様なタレントを輩出していると聞く。

そんな事務所に声をかけられるなど、プロを目指すバンドマン達からすれば、喉から手が出るほど羨ましい事だろう。
だが、京子は頑として誘いを蹴り続けていると言う。




「これ、オフレコにしといてね」
「オフ……?」
「内緒ってこと」




口元に人差し指を当てる遠野に、龍麻はこっくり頷いた。




「サイクスってね、大きい分だけあって、結構怖い所もあるのよ」
「……怖い所、」
「あたしも噂で聞いたぐらいなんだけど、売り出し方が結構エグい所があるんだって」




そう言った事は決して珍しくはない。
龍麻に取っては初めて聞く話だったが、言われれば納得出来ないでもなかった。
綺麗な分だけ、ドロドロしたものだってあるのだと、判らない程に子供ではない。




「スカウトされて事務所に入れば、確かに成功する。でも、蹴ったり移籍したりすると、全力で潰される事もあるって」
「……じゃあ京、危ないんじゃないの……?」
「うーん、其処ンとこどうなんだろ? 京子がサイクスに最初に声かけられたのって、京子が中学生の時なんだけど」




二年も声をかけられ続けて、彼女はずっと断り続けているのか。
その間、“神夷”はずっと活動を続けてきて、京子自身に───多少の嫌がらせはあっても───表立った被害はないと言う。

声をかけられるのが京子だけと言うのは、少なからず遠野は納得している。
“神夷”の人気の殆どは京子に寄せられる人気であって、吾妻橋達は彼女の引き立て役だ。
彼らにファンがいない訳ではないが、花形である彼女に偏るのは致し方ない。
そして、プロダクションが欲しがるのが京子一人だと言う事も。

潰される気配がないのは、相手が京子の根負けを期待しているのか、高校生だから容赦をしているのか、それは遠野には判らない。
だが何れにしても、京子にとってこの誘いの件は煩わしいの一言であると言う。




「……京は、“神夷”がなくなるのが嫌だから、誘いを断ってるって聞いたけど」
「ああ、うん。そう、そうみたいなのよね。でも、“神夷”として誘われても絶対断るって言ってた」




遠野のその言葉に、龍麻は首を傾げる。
“神夷”に固執するなら、メンバー丸ごと率いて行けるのは嬉しい事ではないだろうか。




「だから多分、本当の理由はサイクスの方にあるんだと思うの」




怖い所だって言ったでしょ。
そう続けて、遠野は見下ろしていたメモ帳を閉じた。

……恐らく、今言わなかった事もあのメモ帳には書いてあるのだろう。
京子本人に聞いた話も、自分の足で調べた情報も。
それを見せてくれと言える程、龍麻は図々しい性格をしていなかった。


龍麻は、無意識の内に、閉じられたメモ帳をじっと見詰めていた。
遠野はポケットにメモ帳を戻し、龍麻も黒々とした瞳を見返す。




「サイクスってね。物凄く色んなところに顔が利くの。怖い人の所にも」
「京は、それを知ってる?」
「みたいだった。ひょっとしたら、あたしより詳しいかも。京子は中学生の頃からずっとバンドをやってるし。サイクス自体大きい事務所だから、音楽仲間から何か話聞いてても可笑しくないし」




プロになるのが嫌、というよりは、サイクスの誘いだから断っている事か。
それなら彼女の言動には、幾らか納得が行く。

清濁併せ持つ器量がなければ、プロになんてなれない。
斜に構えているように見えて真っ直ぐな一面を持つ彼女の事だ、そんな事務所は御免だと思っても不思議はない。



さて、と遠野が声をかけて一つ手を叩く。
龍麻がそれに顔を上げて見れば、『遠野』と表札のある一軒家があった。




「見送りありがとね、緋勇君」
「ううん。こっちこそありがとう」
「帰り道、気をつけてねッ」




ふわり、スカートを翻して、遠野は玄関の扉を開けた。
ただいま、と元気の良い声が響くのを聞きつつ、龍麻は来た道を逆に歩き出したのだった。





華やかな世界に、濁った毒。

…事務所の名前に何か使えないかと思ったけど、何も思いつかなかった…




RUMOR 04





ちかちかと、雑音を鳴らして点滅する街灯の下で、龍麻は足を止めた。

脳裏に蘇るのは、二週間前に吾妻橋から聞いた言葉。




『“神夷”は、アニキにとって形見みてェなモンなんです』




それはつまり、京子にとって“神夷”が何にも代え難いものであると言う事で。

何物にも代え難いそれを、彼女は失いたくなくて。
けれど、京子を欲している事務所が、遠野の言っていた通りなら────このままでは、結局彼女は“神夷”を失うことになるのではないだろうか。



……京子の執着は、もっと別の所にあるような気がする。


遠野も吾妻橋も、それを知っていて、口にしないようにしている。
その事そのものがまるでタブーであるかのような。

だからきっと、龍麻は其処に立ち入るべきではないのだろう。
どんなに彼女が龍麻を受け容れてくれても、それは彼女が扉を開いてくれている場所までの話。
そして、その境界はあの時「帰れ」と言う言葉と共に明確に線が引かれてしまった。


けれど、このままずっと知らずにいたら、引かれた線はきっと一生越えられない。




龍麻はアパートに続く道を通り過ぎて、大きな道に出た。
立ち並ぶビルにかかる看板を見上げて、龍麻は細長い一本のビルに入る。


エレベーターが上昇し、到着の音を鳴らしたそのフロアには、小ぢんまりとした喫茶店があった。
幾つかのテーブルが並べられた向こう、壁際のテーブルにパソコンが設置されている。
以前、遠野の探し物にいつものメンバーで付き合った時、一度此処に来た事があったので覚えていたのだ。

利用料金の先払いとワンオーダーを済ませ、龍麻は指定されたパソコンの電源を点けた。
インターネットなど殆ど使った事はないが、遠野がしていた事を思い出しつつ、クリックを押す。




(……普通に入力すればいいのかな)




ホーム画面の検索バーに“神夷”を入力し、検索ボタンを押す。
画面が切り替わり、一番最初にヒットしたのは、やはり“神夷”のオフィシャルホームページだった。

開いてみると、電子関係に弱い彼女達が作ったとは思えない、凝った作りのページが開く。
メンバー紹介、発売された曲の一覧、ライブの日程の他、ブログなどもある。
ブログの方は更新日がまちまちで、面倒になったのか写真画像だけが掲載されている日もあった。


ページを戻って、他のヒットしたページを開いてみる。
殆どがファンのブログ日記やホームページで、龍麻が思うような情報はない。




(…遠野さん、他に何か知ってないかな……)




多分、知っている。
勝手ながら、革新的に龍麻はそう思った。

けれど、今日話してくれなかったと言う事は、少なくとも今はまだ聞かせてくれないと言う事で。


一つ溜息を吐いて適当にクリックを押すと、交流掲示板らしきものが開かれた。
なんとなく目で追っている中に、龍麻は一文に目を留める。




『やっぱ二代目すげえ』

『初代が一番』

『二番煎じなんてこんなもの』

『初代越え!』

『十年前と今と一緒にするのがそもそも駄目だろ』




好き勝手に書かれている中、何度も繰り返される『初代』『二代目』の単語。

途中からケンカになっているその掲示板を閉じて、龍麻はもう一度検索バーに文字を入力する。
『神夷 初代』と入れて検索ボタンを押すと、少しの間停止してから、画面が切り替わる。



……自分のやっている事に、後ろめたさがないと言ったら嘘になる。
隠しているなら、きっと触れられたくない事なのだと言う事も判る。

判るのに、知りたい気持ちは止められない。
彼女と自分の間にある明らかな溝を埋めたかった。


泣き出しそうな顔で壁を睨んでいた彼女に、触れて、笑った顔が見たくて。




(─────………あ、)




幾つかのページを開いては閉じてを繰り返した後。

見つけたのは少し古い日記ページで、もう何年も更新されていない。
其処に彼女のバンドと同じ名前と共に添えられていた、色褪せた写真の画像。





『引越しの整理をしていたら、随分懐かしいものを見つけた。折角なので載せておこう。

今から十年ほど前に、私は大学時代の友人達と共にバンド活動をしていた。
神夷と言う名前で、いい年をした大人の、いわゆる、親父バンドという奴だ。
ジャズ、ハードコア、ロック、ハウス、ユーロビート。仲間が好きな音楽ジャンルはなんでもやった。節操がなかったな。
特にロックが多かったように思うのは、多分、度々スタジオにやって来た子供のお陰だろう。


今でもあの日々は、私の一生の中で一番輝いていたと思う。
惜しむらくは、二度と彼の音を聞ける日が来ないと言うことか……。


どうか、あの出来事があの子の傷になっていない事を願う。』





懐古の想いと共に載せられた写真。
其処には五人の男性に囲まれた、小さな子供の姿が其処にあった。






君に伸ばした手を拒む壁。
こっちを向いて笑って欲しいから、ごめんね、君の傷に触れるよ。




→STANDBY