『女優』でいつものメンバーと従業員と、いつものように過ごしていたら、物凄い勢いで扉が開けられた。
何事かと一同が振り返れば、新聞部の編集で一人学校に残っていた、遠野杏子が立っていた。


店内の中心のソファ周りに、鬼退治部と従業員。
窓際のテーブルには賭けトランプをしている墨田の四天王。
そして出入り口ドアに遠野。

そのまま、数十秒ほど店内の時間は止まり─────




「……どしたの? アン子」




小蒔が至極当然な質問をして、ようやく時間は動き出した。




「……ふっふっふ」
「…何?」
「……気持ち悪ィな」




低い声で笑い出した遠野に、小蒔と京一が顔を顰める。
龍麻、葵、醍醐も顔を見合わせて首を傾げ、アンジー達や墨田の四天王も同じく顔を見合わせる。


カツカツとローファーの硬い足音を鳴らしながら、遠野は一同の輪の中に加わる。
眼鏡が照明の光を反射し、彼女の目元が見えないのが、どうにも遠野の不気味さを煽る。

遠野が立ち止まった時、彼女は京一の真正面に立っていた。
どうにも嫌な予感がして、京一は露骨に顔を顰める。
睨んでいるようにも見えるのだが、其処は相手が遠野だ、これで応える程柔な神経はしていない。


にやり、遠野の口元が不気味に歪む。
その醸し出す雰囲気たるや、京一を身構えさせる程だった。

遠野はスカートのポケットに入れていた手を引き抜いて、一枚の写真を突き出す。




「じゃーん!! 秘蔵写真ゲットー!!」
「………〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!!!」




なんだ? と覗き込んだのが数秒。
その顔が真っ赤になって、物凄い速さで手が伸びる。

が、予測していたのか、その手は空振りして、遠野は体格の大きな醍醐を盾にしていた。




「な、なんだ?」
「てめぇ、アン子! ンなモンどっから持って来やがった!!」
「教えなーい! すっごい難しかったんだからね、これ手に入れるのッ」
「知るか! つーかなんでそんなモンがあるんだ!!」




醍醐を押し退け、逃げる遠野を追い駆ける京一。
ドタバタと騒ぐ二人を見る龍麻達には、何がなんだか判らない。




「何? なんなの? 写真がどうかしたのかな」
「多分そうだと思うけど……アン子ちゃん、何の写真を手に入れたのかしら…」
「京一の反応も可笑しかったな」




右へ左へ駆け回る二人の会話に耳を澄ませてみると、




「京一、こんな趣味あったんだ〜!」
「ンな訳あるか! そりゃ無理やり……」
「吾妻橋〜! すっごいの見せてあげる!」
「へェ?」
「見んな! 見たらブッ殺す! マジで殺すからな!!」




遠野はともかく、京一は物騒な台詞ばかりが飛び出てくる。


五分強もかかって、京一はようやく遠野を捕獲した。
後ろから羽交い絞めにすると、小柄な遠野では逃げられない。

それでも手に入れた“秘蔵”の写真を奪われまいと、じたばたと暴れている。
純粋に力では勝る京一だが、全力で暴れられると案外と取り押さえるのは難しい。
とにかく、写真だけでも奪ってしまおうと手を伸ばすが、遠野はその手に噛み付いたりして、とことん抵抗している。


二人が其処までするような写真とは、一体なんなのか。
京一の反応からして、彼が恥ずかしがるような内容である事は予想できる。

……となると、悪戯心が沸いてくるのが小蒔であった。




「もーらいッ」
「なッ!? 小蒔、テメェッ!!」




小蒔の手が素早く伸びて、遠野の手から写真を掠め取る。
直ぐに京一が追いかけようとしたが、逆に今度は自分が遠野に抱きつかれる形で邪魔される。

やめろ見るな捨てろ! と騒ぐ京一を意に介さず、小蒔は手に入れた写真を見た。
小蒔の表情はわくわくとしたものから、きょとんとしたものに代わり─────やがて、にんまりと笑う。




「葵〜! 見なよコレ、すっごいよ!」
「え?」
「こンの! 放せ、アン子! 小蒔ーッ!!」




ひらひらと写真を翳しながら、小蒔が葵に駆け寄る。
差し出された写真を、葵は怒鳴り続ける京一を気にしつつも、結局受け取る事となった。

見て見て、と繰り返す親友に、葵は眉尻を下げたまま、京一に申し訳なく思いつつ写真に目を落とし、




「……………この子……京一君?」




ぱちくりと瞬きしながら写真を見下ろして言った葵。
龍麻と醍醐も、彼女の肩口から写真を覗き込む。


──────其処に写っていたのは、もこもこのウサギの着ぐるみを着た、小さな少年だった。







2011/02/21

色々あって途中まで書いたまま放置してたものです……(汗)