宿路にて




帰り道に気をつけて、と折角言って貰ったのに。
それでも、こうなる事はやはり避けられなかったか。




「あ、の……?」
「下がって、美里さん」




葵は、自分達を取り囲む男達に、困惑していた。
何か御用ですか、と前に出ようとした彼女を、龍麻は自分が前に出る事で制した。

背後の葵が不安そうにしているのが判る。
龍麻とて荒事は決して好きではないが、こうなってしまっては仕方がない。
二、三人をしのいで、とにかく宿屋まで走らなければ。


にやにやと悪意と判る笑みを浮かべる男達。
人数は六人、やってやれない数ではなかった。

半歩踏み出して、ローブの下で拳を握った龍麻に、男が一人、掴みかかる。




「野郎に用はねェ! どけやぁああああッッ!!」
「………ふッ!!」




息一つ、踏み込んで、拳を突き出した。
どッと分厚い感触が返って来る。

龍麻の二倍はあろうという男の体が吹っ飛び、軒先にあった木箱の山にダイブした。
がしゃんどしゃんと煩い音を立てて、男は木箱の下敷きになる。


葵は突然始まった争いに目を丸くしながらも、なんとか現状を把握出来たらしい。
手に持った杖をぎゅっと握り締め、身を守るように体の前で斜めに構えた。

次に誰が向かってくるかと、龍麻は目線をぐるりと巡らせた。



動いたのは、龍麻の背中、葵の正面を陣取っていた男だった。




「おらぁッ!」
「…ッ!」




乱暴に振り下ろされた棍棒に、葵がぎゅっと目を瞑る。
背後に感じた緊張に、龍麻は葵のローブのフードを掴み、自分と位置を入れ替えた。

続け様にまた背後────また葵の正面から雄叫びが響く。




「うらッ!!」
「きゃ…!」




龍麻は掴んだまだったフードを力任せに下へ引っ張る。
がくんと葵の体のバランスが崩れ、彼女は地面に座り込んでしまった。

ガッと鈍い音が自分の頭部で鳴ったのを感じたが、気にしてはいられない。
緋勇君、と葵に名を呼ばれたが、やはり返事をする余裕もなかった。


三本目の腕が葵に伸びる。
龍麻の両手は前後の男を抑えていて、もう空いていない。

どうする、と自問している暇はなかった。
棍棒を掴んでいた手首を捻り、力任せに奪い取って、その力をそのままに腕を振るう。
棍棒の先端が男の横腹を突いて、男は地面に落ちてもんどりうった。


次はどれだ。
龍麻が意識を尖らせた、その瞬間、




「何やってんでェ、お前ェら!!」




広くはない道に反響した声。
その途端、男達の体が竦み上がったように動きを止めた。

龍麻と葵も振り返ってみれば、其処には半身に大きな裂傷を持った男が腕を組んでいる。
それと並んで逆立った金髪で小柄、団子のように丸い体、頭に包帯を巻いた男と続き、合計で四人。
何処かで見たような、と数瞬考えてから、ああさっきの酒場だと思い出した。


裂傷の男がずんずんと此方に歩み寄ってくる。
二人を囲んでいたゴロツキ達がうろたえたように後ずさった。




「アニキがいねェからって、好き勝手やんじゃねェよ。ブッ殺されてェか」
「る…るせぇ! 単なる取り巻きが偉そうにほざいてんじゃねェよ!」
「そんじゃあ一発やるか? 俺らは構わんぜ」




パキ、ポキ、と裂傷の男の手が不穏な音を立てる。
同じく、他の三人も同様に物騒な雰囲気を醸し出していた。




「此処でさっさと帰るんなら、アニキにゃ言わないでおいてやるぜ」
「…へッ、結局あのガキに頼るんじゃねえか。四天王が落ちたもんだな」
「そんじゃ、この場でお仕置きした上で、アニキにご報告させて貰うとするわ。あ、アンタら、邪魔だからあっち」




くるっと裂傷の男た龍麻に向き直り、一本の路地道を指差す。

明かりがなく暗い道に、葵が不安そうに龍麻の腕を引いた。
しかし龍麻は躊躇わず、示された道に踏み出す。




「緋勇君、」
「大丈夫。ほら、あそこ」




不安そうな葵に、龍麻は路地の向こうを指差した。

ほんのりと明かりが落ちている其処に、先程覚えたばかりの人影がある。
アンジョリーナであった。


ひらひらと手を振るアンジーの下に、龍麻と葵は足早に近付く。




「ごめんなさいね、遅くなって。ケガはないかしら」
「はい、ありがとうございます」
「一先ず、こっちにいらしゃい。今晩はもう危ないから」




そう言って促すアンジーに背を押され、龍麻と葵は暗い道を逆走して行った。






2011/08/13

ねえこれホントにファンタジーパロ??(爆)