迷い猫、二匹 3


 両の掌で包んだ肉棒を、上下に扱いて刺激する。
ドクン、ドクン、と脈打つそれが硬さを帯びて行くのが判った。

 何処を刺激すればどう反応するのか、どういう事に繋がるのか、思い出しながら刺激する。
ペニスの裏筋をなぞり、カリの窪みを爪先で掠めて、先端を指の腹でぐりぐりと押す。
ペニスはその度にピクッ、ピクッ、と震えて反応を返したが、見上げた先にある男は、眉一つ動かさずにじっと此方を見下ろしている。

 遮光カーテンが引かれ、電気もついていない部屋の中は薄暗がりになっていたが、レオンやスコールには大した障害にはなっていない。
耳の形や、長く細い筒型の尾を見れば判るように、二人の遺伝子には猫のものが混じっている。
だから二人の目の働きは、人間よりも動物の────猫の働きに近い為、暗闇でも十分に視界を確保する事が出来る。
施設を逃げ出して、暗い山の中を走る間は、その機能にとても感謝していた。

 けれど、目の前にあるグロテスクな生き物の有様など、見たくはなかった。

 出来るだけ余計な考えないように、早くこの生々しい感触を手放せるように、終わらせる事だけを考えながら手を動かす。
けれども、ペニスはある程度大きくなるて頭を持ち上げると、それ以上は変化がなくなってしまった。
レオンは、半ば自棄になりながら手を上下に動かしていたが、


「それしか出来ない訳じゃないだろ?」
「………」


 単調さに飽きたとばかりに言うクラウドに、レオンはどうしろと、と眉根を寄せる。
何かやり方があるのかと、本やデータや映像や───与えられた知識を端から端まで浚い出して探す。


「………っ」


 口を開けて、舌を伸ばす。
スコールが息を飲む気配がした。


(見るな。見るな。頼むから)


 レオンが詳細な性知識を与えられたのは、今のスコールよりも、もう少し幼い頃だった。
男として持ち得ておくべき予備知識から、女児に関わる事も覚えたし、それは本からであったり、映像からであったり、実際に目の当たりに見たこともあった。
目の前で行われる性交渉の光景に、一番最初に覚えたのはおぞましさだった。
生き物として、種の存続として、必要な行為である事は判っていたけれど、人間同士が絡み合って肉欲を貪る様は、まだ成長途中の幼い心を残していたレオンにとって、酷く意地汚いものに見えたのだ。

 必要な知識を持っていたレオンでさえ、拒絶反応を起こしたのだ。
何も知らないスコールが見たら、何を思うか────それを考えると、レオンは全身から血の気が引いて行く。

 それでも、今はやらなければならない。
この男の欲望を満足させなければ、あの地獄に戻る事になる。


「っは……ん……」


 持ち上げたペニスの裏筋に舌を這わせる。
映像で見た、女が男に奉仕している様を思い出しながら、真似をする。


「根本からだ。ちゃんと舐めろよ」
「ん……っ」


 陰嚢をぶら下げている根本から、ゆったりと舐め上げて、亀頭の形をなぞるように這わせて。

 ツンとした匂いが鼻をついて、呼吸をするのが嫌になる。
それを必死で堪えながら、玉袋を片手で揉み、竿を何度も舐めて、唾液を絡めつかせていく。
ちゅぱ、じゅる、と言う音が鳴るのが、レオンの羞恥心とプライドに障る。


「スコール」


 弟を呼ぶ声は、自分のものではなかった。


「こっちに来い」
「な……!」
「見せないと性教育にならないだろ?ほら、来い」


 後ろでゆっくりと動く気配があって、ちゃり、と鎖の鳴る音がした。
そのまま気配は暫く立ち尽くしていたが、クラウドが一本の鎖を引っ張ると、蹈鞴を踏んだのが判った。

 レオンの直ぐ傍に────顔が見える場所に、スコールが座る。
二人並んだ猫を見て、クラウドが笑みを深めた。


「続き。咥えろ」


 ペニスを突き付けて言う男に、レオンは雫の滲んだ瞳で睨んだが、結局、言うことを聞く以外に選択肢はない。

 あ、と大きく口を開けて、亀頭を咥内に入れた。
そのまま頭を前後に動かして、舌を絡めながら竿をしゃぶりながら、包んだ片手で扱いて行く。
レオンの思考の傾向は、動物よりも人間に近く、理性も強く発達していたから、性器を口に含む事への抵抗感は酷く強かった。
喉奥から胃液ごと吐き出したくなるけれど、今此処でそれをぶちまける訳には行かない。

 早く、早く、終わらせて。
何も知らない、純真無垢な弟に、こんな汚い姿を、これ以上見せたくない。

 じゅぷ、じゅちゅ、と口の中で卑猥な音が鳴る。
口一杯に含んでいる男根が、更に大きくなって行くのが判って、亀頭を咥えているのが精一杯だった。


「う、ん……んんっ…!」
「ほら、ちゃんと両手使え」
「ふ……ふぁ…ん、…っ」


 膝立ちの体を支えていた手を床から放し、男の男根に両手を添えて持つ。
倒れる躯は、男の股間に縋り付くように身を寄せて支えた。


「んっ、んっ……ふ、んっ、んっ…!」


 先端に舌を絡ませて舐めしゃぶり、根本からは指で裏筋をなぞったり、表面全体を撫でるように愛撫する。


「喉で咥えればいいんだよ」
「お、ぐっ…!」


 後頭部を押さえつけられて、ペニスが喉奥へと突き付けられた。
息苦しさと喉への圧迫感で、ペニスを咥えたままで咳き込んだが、それを見たクラウドがくつくつと笑う。


「咳すると喉が締まって気持ち良いぞ。ほら、このまま続けろ」
「ふ、っ、ぐ、んぐっ…お、ふっ…!」


 意識して出来る限り口を開けて、喉も開くように努めながら、男のペニスを受け入れる。


「…ふ、…っく、……うぅっ、ふぅっ、」


 苦しさと悔しさで、目尻に涙が滲むのが判った。
れおん、と弟の呼ぶ声が聞こえる。
その声が聞こえると、彼に見られているのだと言う事が思い出されてしまって、体が震えて動けなくなる。


「……この調子だと、駄目だな。お前も弟も、やっぱり捨てるか」
「待っ……」
「じゃあ真面目にやれ」


 ペニスから口を放し、縋る表情で見上げたレオンに、クラウドはきっぱりと言った。

 形振り構ってはいられないのだ。
あの終わらない地獄に戻ってモルモットとして生き続けるか、此処でこの男の性欲処理道具となって生きるのか。
どちらを選んでも、結局、自分が願った世界など手に入らない。
それなら、せめて弟が壊れない世界の方が良い。

 もう一度ペニスを口に含んで、今度は大きく頭を動かして、咥内で舌を激しく動かし、男根を一心不乱にしゃぶり始める。
じゅる、ちゅぱ、ぬぼぉっ…と言う音が鳴って、レオンの息も上がって行った。


「出来るじゃないか」
「ん、ん、……っは、ぷ……んぁ、…!」
「スコール、ちゃんと見てるんだぞ」
「……う、……ん、…」


 隣から突き刺さる視線を感じながら、レオンは無心になって奉仕した。
ぬぽっぬぽっと男根が兄の口から出入りするのを、スコールがじっと見詰めている。
彼がどんな表情をしているのか、確かめるのが怖くて、レオンはずっとペニスだけに集中した。

 口を放して、亀頭の窪みを指先でごしごしと扱くように刺激して、先端の穴に舌を伸ばす。
尖らせた舌先で穴を押すと、ぴくん、とペニスが小さく跳ねたのが判った。
跳ねるのを捉まえて、尖らせた舌先でぐりぐりと抉ってやれば、頭上で一瞬息を詰めたのが判った。

 ぴくっぴくっ、と震えるペニスに、そろそろか、と見当をつけて、レオンはペニスの先端に吸い付いた。
じゅるっ、ちゅるるっ、と音を鳴らしながら吸引すると、頭を押さえていた男の手に力が篭る。


「ん、ぢゅっ、ふ、じゅるっ…!」
「く……出すぞ!」
「─────ぅあっ…!」


 びゅるるっ!と精液が吐き出されて、レオンの咥内や口の周りに飛び散った。
ねっとりとした液体が放つ、人間の体液よりもずっと据えたような匂いに、レオンは顔を顰めて咳き込む。


「は、はぁっ……こ、これで、もう……」


 良いだろう、と言おうとして、強引に顔を上げさせられて、またペニスが口の中に押し込まれる。


「ふぐっ…!」
「まだだ。溜まってるって言っただろ。一回ぐらいで終わる訳ないじゃないか。ほら、舐めろ」
「ん、んーっ……!」
「やらないなら俺が動く」
「ふっ…!」


 ぐっ、と頭を掴んで固定される。
そのままクラウドが腰を動かし始め、レオンの咥内でペニスが激しく抽出を繰り返す。


「んっぐっ、ふっ、ふぅっ!おっ、ふ、んぉっ、」


 苦しげに呻くレオンに、スコールが見ていられないと目を逸らすが、クラウドはスコールの鎖を引っ張ってそれを諌めた。


「見てろ。兄貴が駄目だったら、お前もするんだから」
「ん、んんっ!」
「お前一人で二人分って言うのが、出来なかったらの話。お前が真面目にやれば、スコールはしなくて済むんだ」


 自分でそう言っただろう、と言われれば、レオンには抗う術はない。
クラウドの腰の動きに合わせて頭を動かせば、更に深くまでペニスを咥える事になる。
喉奥を突き上げられる度、餌付いてしまいそうになるのを耐えて、レオンはもう一度クラウドを絶頂へ導こうとする。

 射精したばかりだと言うのに、クラウドの欲望の復活は早かった。
あっと言う間に膨らみと硬さを取り戻し、レオンの口の中を一杯にする。


「は、はっ……ん、ふ…」


 顎が辛くなって、口を放す。
自分の吐く息が酷く臭くなっているような気がして堪らなかった。

 亀頭を指でぐりぐりと押しながら、ペニスの根本に舌を絡める。
裏、横、表……丹念に舐めて、敏感な性感帯を探しながら位置を変える。


「え、ふ……っ、ふ、えぅっ……んちゅ、ふ…ぅんっ…」
「やっぱり猫だな。舌、ざらざらしてる」


 クラウドは、ペニスに触れる柔肉の感触が、人間の物とは違う事に興奮していた。
ざらり、とした感覚が性感帯を這う度、背中をぞくぞくとしたものが駆け上って来るのが判る。
此処にいる生き物は、見た目だけで言えば、耳と尻尾を除けば人間とほぼ同じような形をしているのに、獣を犯しているような倒錯感があった。

 ぴちゃぴちゃとペニスを舐めるレオンの口の隙間から、時折、獣特有の尖った牙が除く。
噛み付かれる、と言う可能性については、クラウドは考えていなかった。
この猫は頭が良いから、此処でクラウドを無為に怒らせる行為をしても、逆効果にしかならない事を判っているのだ。
故にレオンはクラウドの言葉に従順であり続けようとしている。

 中々二度目の絶頂に行き付かない事に、レオンは少しずつ焦れ始めていた。
早くこの男を満足させないと、スコールが。
そう考えて、もう一度、躊躇わずにペニスを口に招き入れた。


「んっ、んっ…ふっ、ふぐっ、…ふぅっ……んん…」
「……どうにも乗らないな」
「んん……っ」


 不服そうに溜息を吐いたクラウドに、レオンは縋るように目を向けた。
その青灰色に理性の色が強く残っているのを見て、成程、とクラウドは勝手に納得する。


「お前も乗ってないから、いつまでもそんなに単調なんだな」
「ん…はっ……んんっ!」


 後頭部を押さえられて、喉奥までペニスを咥えさせられる。
かと思ったら、首輪が強く引かれて、ペニスが口から離れて行った。


「げほっ、げほっ…!」
「ほら、咽てないで足開け」
「は……?」


 落ちて来た言葉に、レオンが顔を顰めて見上げるが、クラウドは冷淡に繰り返すだけだった。


「聞こえただろ?足開け。お前のちんこ見せてみろよ。それでオナニーして見せろ」
「……!」
「何恥ずかしがってるんだ?別に初めてじゃないだろ」


 クラウドの言葉は、レオンとスコールが性玩具として飼われていたと勘違いしている為のものだった。
しかし、環境や理由は違えど、レオンは人前でオナニーした事がある。
精子の接種だの、他種との配合実験だの、生殖能力のデータ採取だのと、何かと理由をつけては白衣の人間達の前で自慰をした。

 最初の頃は、下肢から湧き上がってくる激しい劣情感に怯えたものだったが、少しずつ、自慰行為の知識やそういうものである事を知った後は、言い付けられた時に機械的なオナニーをするようになった。

 レオンは両手を体の後ろについて上体を支え、クラウドの命令通りに足を左右へと開かせた。
露わになったレオンの性器は、完全に萎えて頭をくたびれさせており、性的興奮の兆しもない。


「早くしろ。それともマグロだったのか、お前」


 クラウドの言葉の意味はレオンにもよく判らなかったが、暗に馬鹿にされている事は、ニュアンスで理解できた。

 右手でペニスを包んで、上下に扱く。
ぞくぞくとした感覚が背筋を昇ってきて、レオンは唇を噛んで、喉から零れそうになる息と音を殺す。


「ふっ…うっ……ん……っ、っ……!」


 自分が何をしているのか、今どんな状況なのか、見る勇気がなくて、レオンは固く目を閉じた。
そうすると、手の中で己の欲望が少しずつ形を変えていくのがまざまざと感じさせられる。

 昂っていく感覚が、レオンは何度感じても苦手だった。
頭の芯がぼやけて、思考回路が溶けて、自分が何をしているのかも判らなくなるからだ。


「んっ、んっ……!く、ふ……うぅっ…!」
「閉じるな」
「……く、ぅ……!」


 びくっ、びくっ、と太腿が脊髄反射で閉じようと動くのを、クラウドの命令に従って耐える。
漏れる吐息に艶が篭って、レオンの整った眉がきゅうと潜められ、半開きになった青灰色には明らかな熱の気配。
それに当てられたように、スコールがこく、と唾を飲み込んだのが聞こえた。


「ん、ぅっ…はっ、あっ……んんっ、んっ、んっ、」
「イきそうか?」
「…う、は……っ、あ、ん、…う、ぅうんっ…!」


 クラウドの言葉に、レオンは手淫を続けながら頷いた。
高まって行くに連れ、あちこちの筋肉が痙攣を起こしているような気がする。


「じゃあ、その辺でストップだ」
「はっ…あ、な……」
「聞こえなかったか?オナニーは止めろって言ったんだ」


 レオンの手の中で、彼のペニスは完全に勃起していた。
後少しで絶頂を迎えられると言う所だったのに、こんな所で止められては辛いだけだ。

 知らず、先を求める表情で見上げていたレオンに、クラウドは自分の下肢を指差して言った。


「俺をイかせた後で、イかせてやる」


 クラウドを満足させれば、この体内で燻って暴れる熱を吐き出す事を赦される。
オナニーによって強制的に興奮状態に高められ、思考の融解が始まっていたレオンにとって、クラウドのこの言葉は苦々しくも甘美な誘いとなっていた。

 痛い程に張り詰める下肢を庇うように、レオンは腰を引かせながら、四つ這いになってクラウドの下肢に縋り付いた。
半勃ちで留まっていたクラウドのペニスを持ち上げて、裏筋を根本から何度も上下に舐める。
陰嚢も甘噛みするように口に食んで、もごもごと転がしてやった。

 クラウドをイかせれば、この行為は終わる。
体に燻る熱からも解放される。
スコールがこんな事をしなくても。

 ────レオンは、どの理由が今、自分の中で一番の領域を占めているのか、最早判らなくなっていた。
何れにしろ、この支配者を満足させる事が唯一の選択肢である事には変わりない。


「は、んっ…れろ……んちゅ、んっぷ、ふ…っ」
「さっきと違って大胆になったな。そんなにイきたいのか」
「んぁ……」


 大きく口を開けて、竿の横からペニスを食む。
尖った牙が必要以上に当たらないように、出来るだけ口を開けたつもりだったが、やはり先端が時折竿を掠めてしまう。
咎めるようにダークブラウンの髪が強く掴まれたが、レオンはペニスから離れようとしなかった。
代わりに牙の当たった場所を舐めて労わる。


「ふ、ん、ん……くふっ…ふ…ん……」


 意識してペニスに舌を押し付けて、根本から先端まで丹念に舐めれば、ざらざらとした舌の感触を受けたペニスが頭を持ち上げて行く。
支えなしでも勃起するようになったペニスから手を放すと、レオンは亀頭部分を口の中に含んで、吸い上げた。


「んぢゅっ、ちゅっ、ふっ、…う、うぅんっ…!」
「く……っ」


 絶頂を堪えるように眉根を寄せるクラウドの顔を見て、レオンはもう一度強くペニスを啜った。
ぢゅるるるっ、と音がする程に吸引すると、ペニスが咥内でビクッビクッと跳ね上がり、


「─────んんんんっっ!」


 びゅくっ、びゅるぅっ!

 吐き出される粘液を嫌って離れようとしたレオンだったが、クラウドの手に押さえつけられて叶わなかった。
どろりとした液体が口の中に一杯に溜まって行く。
息苦しさと嘔吐感で、けれどもそれも耐えねばならないと、レオンは息を詰めて射精が終わるのを待ち続けた。


「んっ、んっ、んぶっ…!ふ、ぐ……んぉ、ぁ……」


 びくっ、びくん、とレオンの肩が跳ねる。
ねっとりと濃い粘膜が口の中で広がる感覚が耐えられなくて、レオンはペニスを咥えたままで咳込んだ。

 ようやく射精が終わって口の中からペニスが出て行くと、蓋を失った液体がどろどろと溢れ出して床を汚す。


「げほっ、えっ、うえっ……お、ごほっ、はっ、う……!」


 喉を押さえて、注ぎ込まれた液体を吐き出そうとするレオンだったが、喉に張り付いた粘液は、しつこく其処に留まっている。


「普通は飲むものだろ」
「げほっ…し、らなっ……ごほっ、げほっ…!」
「ま、良いか。ほら、お前もイっていいぞ」
「………っ」


 そんな事を言われても、レオンの性的興奮はもう完全に波が引いていた。
苦しさと、口の中にまとわりつく気持ち悪さで、意識は完全に理性を取り戻したのだ。

 口の周りについた精液を拭いながら睨むレオンに、クラウドが眉根を寄せて、鎖を掴んで持ち上げる。
力に逆らえないレオンは、膝立ちになって喉の圧迫感に耐えた。


「…どうした?萎えてるな」
「んっ……!」
「ほら、イっていいんだぞ」


 クラウドの手がレオンのペニスを包み込んで、手淫する。
他者にあらぬ場所を触れられる事に、レオンは眉根を寄せて腰を引かせたが、クラウドはそれを咎めるようにレオンのペニスを強く握った。


「いっ……!」
「逃げるなよ。折角優しくしてやろうと思ったのに」
「う…ふっ……!」


 滲む涙を拭う事も出来ず、レオンはクラウドにされるがまま、手淫を甘受する。
実験で性器を弄られた事は何度かあったけれど、明らかに性感帯を刺激されるのは初めてで、自慰とは違う感覚が湧き上がって来る事に、レオンは戸惑いを覚えていた。


「ん、ぅっ…ふっ……くぅ……っ」
「腰、前に出せ」
「……う…、う……っ」


 クラウドの膝を掴んで支えにしながら、言われた通り、腰を突き出す格好になる。
萎えかけていたペニスが、また勃起し始めていた。


「う、んっ…!く、…うぅん……」


 ヒクヒクとレオンの腰が戦慄いて、零れる声に悩ましさが灯る。
そんな声を自分が出しているのが受け入れられなくて、レオンは血が滲む程に強く唇を噛んだ。

 目尻に涙を滲ませながら快感に耐えるレオンだったが、クラウドの親指がペニスの先端をぐりぐりと押すように刺激すると、はく、と口を開いて体を震わせた。


「あ、は…!ひ、ひぅっ!う、ん…!」
「此処、好きみたいだな」
「や、う……う、うぅ……っ!」


 頭を振って否定、拒否をするけれど、クラウドの手は離れない。
それどころか、面白がるようにしつこく先端を捏ねられて、穴口の縁に爪を立てられる。


「…っあ、うぁ……く、う、う……っ」
「イきそうだな。ほら、我慢しなくていいんだぞ?」
「い、やだ……う、あっ、んんんっ!」


 下肢から急速に昇ってくる違和感に耐えようとしたレオンだったが、ぎゅうっ!とペニス全体を揉むように握られると、ビクンッ!と腰を震わせて熱を吐き出した。

 かくん、とレオンの膝から力が抜ける。
クラウドが持ち上げていた鎖を手放すと、レオンはそのまま床に倒れ込んでしまった。


「レオン!」


 スコールが床に伏したレオンの肩を揺さぶる。
大丈夫、とレオンは小さく答えたが、起き上がる気力もない。

 でも、これで────そう思っていたら、突然、足首を掴まれて持ち上げられる。


「あ、何っ……ひ!」


 掴まれた足を逃がそうと暴れようとするが、開かれた足の間から、逆らう事を赦さない碧眼が此方を見下ろしていた。

 思わず息を飲んだレオンに、クラウドはどろりとした粘液をまとわりつかせた手を掲げてみせる。
その粘液が自分の吐き出したものであると気付いて、レオンの顔が羞恥心と屈辱で真っ赤に染まった。
更に、その指が自分のあらぬ場所────アナルに触れているのを感じて、蒼白になる。


「何して……っ!?」


 つぷ、と埋め込まれる異物感に、レオンは息を詰めた。
異物を追い出そうと窄まる穴口に、クラウドが眉根を寄せる。


「何嫌がってるんだ?今までだって咥えて来たんだろ」
「…ひ、い……う…っ!」


 ぐりゅぅうう……と強引に指が奥へと進められていく。
レオンは床に爪を立てて全身を強張らせた。

 痛い、痛い、痛い。
劇薬やメスで皮膚を割かれるのとは違う、圧迫される痛みと嫌悪感。
けれど、身体や心がどれだけ拒絶反応を示しても、支配者には逆らえない。


「あ、ぐ……う、うっ……!」
「も、止めろ。止めろよ」


 痛みを堪えて顔を顰めるレオンに、耐えられなくなったのはスコールだった。
クラウドに縋って解放を求めるが、クラウドは聞こえていないかのように、レオンのアナルに二本目の指を挿入させる。


「ぃあっ……!」


 上がりそうになる悲鳴を、レオンは手の甲を噛んで堪えた。
ぶつり、と牙が皮膚を破って血の味がしたが、そんなものよりも、下肢を襲う異物感の方が酷い。

 二本になった指がバラバラに動いて、秘孔内を掻き混ぜる。
指を汚していたレオンの精液を、潤滑剤の代わりにするように擦り付けながら、クラウドは指を更に奥へ奥へと埋めて行く。


「う、う…っくぅん……!あ…!」
「力抜けよ。入らないだろ。それとも、慣らされないまま挿れる方が好きか?」
「ひ…っく、ふ…ふぅ、んっ……!」


 クラウドの言葉の意味はよくよく理解できなかったが、力を抜け、と言う命令である事は判った。
意識して呼吸を繰り返し、体の力を抜くように努力してみるが、指がほんの少しでも動くのを感じる度、反射的に全身が緊張する。

 クラウドが一つ溜息を吐いて、淫部に埋めた人差し指と中指を左右に開かせる。
ぐぱ、と内部が強引に押し広げられる感覚がして、レオンは目を瞠る。


「あ…や……っ!」
「レオ、」
「…う、ぐ…ふぅっ……!へ、いき、だ…からっ…」


 泣きそうな顔で見下ろしてくるスコールに、レオンは掠れた声で言った。
全然そんな風に見えない、とスコールは首を横に振る。

 ぐりゅ、ぐりゅ、と内壁を広げた指が動き出して、レオンの内部を掻き回す。


「ひっ、ぐっ…うぁ、うっ…痛…んんっ!」


 痛みに上がりそうになる悲鳴は、スコールの顔を見て、無理やり飲み込んだ。
叫べばスコールが不安になる、スコールが泣いてしまう。
自分が耐え切れなかったら、次にこの痛みを押し付けられるのはスコールなのだ。
そうさせない為にも、自分が耐え切らなければならない。

 しかし、レオンがどれだけ努力しようとしても、脊髄反射的な拒否反応は抑えられない。
クラウドがどれだけ指で内部を掻き混ぜても、精液の潤滑剤は然程役には立たず、滑らかにはなりそうになかった。


「────妙なもんだな。お前ら、金持ちどもの相手してたんじゃないのか?それとも、二人でレズプレイでもして見られてたとか?」
「はっ、うっ…」
「レ…?何……?」
「……なん、でもっ…ないから……っあ!」


 意味が判らない、と首を傾げるスコールに、気にしなくて良いと言おうとして、最後まで言葉が続かない。
散々アナルの中を掻き回していた指が、締まる肉壁を強引に振り解くようにして引き抜かれた。

 両足の膝を掴まれて持ち上げられ、クラウドの肩に乗せられる。
此処まで来て何をされるのか判らない程、レオンは性知識に対して無知ではなかった。
ただ、それが自分がする事になるとは思っていなかったし、増してこんな形で、こんな役で経験するとは考えた事もなかったが。

 先程まで指が埋められていた秘孔に、堅く反り返った陰茎の先端が宛がわれる。
どくどくと脈打つ熱の塊に、レオンが喉を引き攣らせていると、ぬるりとしたものが穴口に落ちて来た。


「な、冷た……っ!何…!?」
「ローションだ。このまま突っ込んでもイケそうにないからな。良かったな、俺が優しくて」


 クラウドは、ぬるぬるとした液体をペニス全体に纏わせると、同じものをレオンのアナルの口に塗りつけた。
冷たくぬめる感触に、レオンが背筋を震わせる。


「う、あっ…ん…!」
「これ以上は解れそうにないから、このまま挿れるぞ」
「な……待、」


 腹を括ったつもりでも、やはり恐怖心は消えない。
せめて覚悟を決める時間が欲しくて、クラウドを止めようとするレオンだったが、支配対象の心情など、支配者が配慮してくれる訳もなく。

 ぬりゅぅうううう……!と指などとは比べ物にならない、太く大きなものが秘穴を押し広げて入って来る。
圧迫感、嫌悪感、吐き気───何もかもが一挙に襲ってきて、レオンは声にならない悲鳴を上げた。


「………あ、がっ…!」
「く……やっぱりキツいか……っ」
「ひ、いぃ……う……!」


 床に立てた爪が、がりがりとフローリングを削る。
息を詰めて苦悶に表情を歪めるレオンに、スコールがクラウドに縋り付いた。


「も、もういいだろ!レオンにこれ以上酷いことするな!」
「じゃあ、お前が続きをやるか?」
「え……」


 クラウドの言葉に、スコールが息を飲んで身を固くする。
レオンの今の表情を見れば、彼がどれだけ苦痛を感じているのかは判る。
でもこれ以上は……と唇を噛むスコールだったが、レオンに腕を掴まれて引き寄せられ、強く抱き締められる。


「レオン、」
「いい、から」
「良くない!」
「平気だから、お前は…しなくて、いいから。な……?」


 額に汗を滲ませながら、弱々しく笑いかけるレオンに、スコールは何も言えなくなった。
くしゃり、と柔らかなダークブランの髪を撫でてあやすと、レオンの痛みを労わろうとするように、スコールがレオンの目尻を舐める。
心なしか、痛みが和らいだような気がして、レオンは目を細めた。

 しかし、ぐりゅっ!と淫部を抉られる痛みに、また顔を顰める。


「………っ!」
「良い感じに解れたな。このまま置くまで挿れるぞ」
「…うっ……んんんっ!」


 クラウドの手がレオンの腰を掴み、引き寄せると、肉棒が内壁を押し開いて行き、奥へ奥へと深く挿入されていく。
レオンは唇を噛んで異物感に耐え、意識して呼吸するように努めた。

 ぬるぬるとした感覚が秘孔内部から感じられて、恐らく、ローションとやらなのだろうとレオンにも判った。
痛みも圧迫感も変わらないものの、潤滑剤のお陰で内部が千切られるような感覚はない。
それが良い事なのか、そうでない事なのかは、考えないようにした。


「ひ、は…う、うぅっ……ん、ん、」
「まだ入るぞ」
「ひ…っく……もう、無理……ああっ!」


 緩く頭を振った直後、ずんっ!と強く突き上げられた。
ごつ、とペニスの先端が内部の奥壁にぶつかる。


「これで全部だ」
「……はっ…あ…う……」


 虚ろな目で視線を彷徨わせるレオンを、スコールが慰めるように頬を寄せて鳴いた。
しかし、今のレオンにはそれに対し、スコールを安心させてやるような余力も残っていない。

 レオンの意識が整うのを待たず、クラウドは腰を打ち付け始めた。
ローションの滑りを借りて、ぐちゅっ、ぬぢっ、と言う音を鳴らしながら、ペニスがアナルの中で出入りする。


「…うっ、…んっ、んっ…う…痛、ぅっ…あぐっ、」


 苦悶の声がレオンの喉から漏れて、スコールが益々泣きそうな顔でレオンにすり寄った。
ざら、とスコールがレオンの顔を舐める度に、レオンはあらぬ姿を弟に晒している事を自覚して、居た堪れなくなる。

 ぬりゅっ、にゅぷっ、と何度もペニスが出入りするにつれ、アナルの口が少しずつ解れ始めていた。
レオンはスコールの舌の動きに促されるようにして、強張っていた体の力を抜いて行く。
そうする事で圧迫感も少なくなり、痛みも小さくなって行くような気がした。


「は、う…ふっ、…んぐっ、んっ……う、ぁ…」
「ふ、ははっ…いい調子だな。緩んできた」


 動き易くなった、とクラウドが小さく笑って、律動のリズムを早めて行く。


「んっ、…ふっ、ふぅっ…く、うっ……!」
「どうした?まだ気持ち良くならないか?」
「う、う…っく、ふ…なる、訳…ないっ……!」


 尻の穴の中を抉られるなんて、気持ちが悪いだけだ。
顔を顰めるレオンの言葉に、クラウドはふぅん、と気のない声を漏らすと、レオンの腰を掴んで高く掲げさせた。


「っあ…!」


 体を折り畳むように足を押されると、クラウドが上から覆い被さってくる。
ぐりゅ、と秘部内でペニスが角度を変えて穿たれ、内壁を強く押し上げた。
そのままクラウドは上から押し潰すように攻め立てる。


「うっ、うぐっ、…ん、くっ、」
「どうやらお前達の前の飼い主、相当下手だったみたいだな」


 ちゃんと気持ち良くしてやらないなんて、だから逃げられたりするんだ────クラウドの呟きを否定するのは、もう諦めた。
好きに思われていれば良い、自分はただ黙ってこの行為が早く終わる事を願うだけ。

 そう思っていたら、


「─────っ!」


 淫部を攻めるペニスが、ある一点を抉った瞬間、レオンの背に電流が走ったように大きく跳ねた。


「お、此処か?」
「───ひ、あっ!あぐっ、んっ、あっ!」


 同じ場所を突き上げられる度、自分の物とは思えない、甲高い声が喉をついて溢れる。
抱えられた足がビクッビクッと意思と関係なく跳ね上がって、痛みや圧迫感が遠退き、違う感覚に支配されていくのが判った。

 様子の変わった兄を見て、スコールが戸惑うようにクラウドを見上げた。
不安げに兄の様子について無言で問うスコールに、クラウドは薄らと笑みを浮かべ、


「気持ち良いんだよ。こういう声が出る時は、な」
「ひっ、違…あっ、う、あぐっ、んんっ!…ん、あっ、あっ、」


 突き上げられる度に、ぞくん、ぞくん、と背中に正体不明の感覚が駆け抜けて、脳髄を犯して行く。
自慰をしている時、射精感が高まって行く時の感覚に似ているような気もしたが、あれよりももっと強烈だった。
頭の芯がぼやける所か、スパークするように激しく明滅し、体の中がドロドロに解かされていきそうな程熱くなる。


「あっ、んあっ、はっ!ひっ…あうっ、あっ、あぁっ…!」
「前立腺って言うんだ。性感帯って言う訳でもないが、結構クるだろ?此処を攻められると、男も女みたいにアンアン啼いてしまうものらしいんだが、本当みたいだな」
「はっ、ひぅっ、…やめ、やっ!あっ、あっ、んくっ、あう!」


 否定も拒否も、まともに声に出す事が出来ない。
喉をついて出て来るのは、あられもない喘ぎ声ばかりだった。

 クラウドがレオンの淫奥を突き上げる度に、アナルが窄まってクラウドのペニスを締め付ける。
きゅうきゅうと締め付ける内壁を振り解くように、クラウドは腰を大きくスライドさせて、入り口から秘奥の壁を万遍なく擦りながら欲望を穿つ。
ぐちゅっ、ずちゅっ、ぐりゅっ、ぬぶっ!と激しく攻め続けられ、前立腺をその度に押し潰されて、レオンは前後不覚の状態に陥り、半ば恐慌状態になっていた。


「や、だっ、あっ!あうっ、あっ、ひっ、んぁっ!」
「災難だったな、下手な奴に飼われて。これからは俺がちゃんと教えてやるよ。良かったな?」
「ひっ、ひいっ…!嫌、あっ!う、ん、んあっあっ、」


 ───ずちゅっ、ずちゅっ、ぐちゅっ、ずちゅっ!
クラウドが更に激しく腰を動かして、ぱんっぱんっと皮膚がぶつかりあう音が響く。


「うっ、あっ、あ…、や、ひっ…!」
「流石にまだアナルだけじゃイけないか。下手な奴の所にいたんじゃ、仕方ないだろうな。俺がきっちり教えてやるから、ちゃんと覚えろよ」
「は、はぁあっ!」


 アナルを攻め続けながら、クラウドはレオンのペニスに手を添えた。
一度クラウドに絶頂に誘われて以降、切なく震えつつも半勃ちにすら至っていなかったレオンの中心部は、クラウドが軽く擦ってやる事でもう一度頭を持ち上げた。


「は、やっ、嫌だ!んっ、やめっ、ひぐぅうううっ…!」


 突き上げる一方だったクラウドのペニスが、ぐりゅぐりゅとレオンの淫部を掻き回すように円を描く。
喉奥から胃液を押し出されそうな感覚に耐えていると、レオンは前部からの刺激にまた声を上げた。


「あっ、あう、ぐ……んっ、んぁっ!やめ、熱、熱いっ…!」


 頭を振って離してくれと訴えても、クラウドは人の悪い笑みを浮かべているだけで、攻める手を休めようとはしない。
寧ろ、迫るレオンの昂ぶりを一層煽るように、前立腺を攻めながら、レオンのペニスの亀頭筋を爪で擦って弄ぶ。


「や、あっ!出る、うぅっ……!」
「イくって言え。そうしたらイかせてやる」
「ひ、ひぃっ、…う、あ、あ、あ、」


 ずちゅっ、ぐちゅっ、ずんっ、ずちゅっ、ぐりゅっ!

 内部の壁を亀頭のカリが擦って広げる度に、言いようのない感覚が膨れ上がって行って、逆らい難くなって行く。
従順になる以外でこの甘美な地獄が終わる事はないだろう。

 ぺろ、と瞼の上をざらついたものが舐めた。
目を開けてみれば、青灰色がじっと此方を見詰めていて、


「ひっ、はっ、…や、スコール、見るな、見るな、」
「レオン、」
「イく…もうっ…!もう、イ……んっくぅうううっっ!」


 ビクッビクッとレオンの腰が跳ね、背を大きく弓なりに反らせると、レオンは押し寄せる波に負けて絶頂を迎える。
びゅくっ、びゅるるっ!と吐き出された精液がレオンの腹を汚した。

 同時にアナルが強く締まり、埋められた男の欲望を強く締め付け、


「くっ……出るっ!」
「ひぃっ、ひ、ああっ、あっああぁぁぁっっ!!」


 どくっ、どぷっ、と体内へと精液を叩きつけられ、どくどくと注ぎ込まれる感覚に、レオンは全身を震わせた。