従う猫、一匹 1


 環境として、恵まれているのか、そうでないのかと言われたら、“恵まれている”と言って良いのだろうと、レオンは思う。
食べ物は勿論の事、雨露を凌げる屋根があって、冷たい風から守ってくれる壁があって、外敵に怯える心配もない。
自由と言う程に伸び伸びとした生活が出来る訳ではないけれど、よく判らない薬を打たれたり、電流を浴びせられたり、眠る事も許されずに苦しむ事もない。
何より、弟と離れ離れにされる事もなく、二人で身を寄せ合って生きて行く事も出来る。

 けれど、これが“幸せ”なのかと言われると、レオンは答えられない。

 人間達が願うような、“普通の幸せ”等と言うものが、獣人として生み出された自分達に存在しているとは思っていない。
人権も何も保障されていない自分達は、持ち主の好きに扱われ、飽きれば捨てられるか、廃棄処分されるか。
命が潰えた時にこそ、獣人の幸せと言う名の安楽が訪れると言ったのは、誰だっただろうか。
何かで読んだのか、見聞きしたのか、レオンには判然としない。
どちらにせよ、ああ、確かにそうだな、と思った事だけは記憶に鮮やかであった。

 レオンにとっての幸せは、弟のスコールと一緒に過ごす事だった。
スコールが泣いたり悲しんだりすれば、レオンも酷く心が痛むし、スコールが笑みを零せば、レオンにはそれが至高の喜びになる。
だから、彼がいつか壊れてしまう日が来る事が怖かった。
その恐怖に耐えられなくなって、弟と二人、身一つで生まれ育った真っ白な地獄を飛び出した。
何処に行く宛もないままで。

 初めて訪れた人の街で、ただふらふらと歩き回って、立ち上がる気力もなくなって────これで終わりなんだな、と思った。
その時、終わって行く事への恐怖や寂しさはなく、腕の中で抱き締めていた弟が、苦しげな表情をしていなかった事だけで胸が満たされるような気がしていた。
壊れて何も映さなくなった青灰色を見なくて済んだ……それだけで十分だったのだ。

 けれど、終わりは其処にはなく、次に目覚めた時には、柔らかな布に包まれていた。
通りがかりの人間の男に拾われて、病院で手当てを受け、弟も其処に入院した。
男は、獣人である自分達に甲斐甲斐しく世話を焼き、本やデータの知識しかなかったレオンにあれこれと色々な事を教えた。
約一ヶ月を男の下で世話を焼かれ、ようやく入院していた弟と再会すると、男はレオンもスコールも自分が面倒を見ると言った。
何処にも行く所がなかった獣人の二人にとって、男の言葉はとても有難いものだった。

 それから更に数週間の後、スコールが退院し、兄弟揃って男の家に厄介になる事になった。
獣人であるが故、社会的地位を持たない二人は、男の荷物になるしかない。
それはあまりにも心苦しかったから、家事手伝いなり、生活の中で出来る事は引き受け受けようとレオンは決めた。
スコールも、今はまだレオンにくっついているだけだけれど、追々覚えて行く事が出来るだろう。
頭の良い子だから、やるべき事、出来る事は直ぐに覚えて行ける筈だ。

 ……“幸せ”になれるのだと、レオンは思っていた。
獣人の多くが、望んでも簡単に掴む事が出来ない、“普通の幸せ”を。
何よりも大切な、弟と一緒に。

 ────けれど、現実は何処までも冷酷で、獣人達に優しくない。





 ぴちゃ、ちゅぷ、と陰湿な音が鳴る。
その隙間に、ちゃり、ちり、と小さな金属音。
夜のマンションの一室で、カーテンを閉じ、電気も点けず、暗闇に閉ざされた世界の中で。

 口の中に広がる苦い味と、鼻を突くすえた匂い。
何度舐めても、何度嗅いでも慣れる気がしないそれらに、レオンは餌付きたくなるのを必死に堪えていた。


「ん、ぐ……ふっ…」
「大分マシな舌遣いになって来たな」


 レオンのダークブラウンの髪を掴んで、己の股間へと押し付けている男────クラウド・ストライフ。
今から約二ヶ月前、生まれ育った施設を逃げ出し、街の片隅で行き倒れていたレオンとスコールを拾い、世話を焼いていた男。
素朴な雰囲気と、柔らかい碧眼を持った、金髪の青年。

 この部屋は彼の持ち物で、彼は此処の支配者だった。
甲斐甲斐しく世話をして、拾った獣人を手懐けて、警戒心が完全になくなっていた二人を鎖に繋いで、所有物にした。
この閉ざされた世界から出て行きたかったら、彼に捨てられるしか方法はない。
けれどそれは、行き場を持たないレオン達にとって、死を突き付けられるも同然だった。

 選択肢を他に持たないレオンとスコールは、支配者の命令に従う以外に、生きる道はない。
捨てられて、万一にでもあの施設へと連れ戻されれば、レオンは拷問同然の実験をされ、スコールはいつか心が壊れるまで苦しみを味わう事になるだろう。
弟に、兄に、もうあんな苦しい思いはさせたくない。
そう思ったら、例え此処が支配された世界でも、この世界を捨てる事は出来なくなった。

 だからレオンは、今日も支配者の命令のままに、男の欲望を口に入れる。


「う……ぢゅ…ん、んん……」


 太い亀頭を口一杯に含んで、咥内で舌を転がして舐めしゃぶる。
息苦しさで眉根を寄せるレオンを、クラウドは仄昏い笑みを浮かべて見下ろしていた。

 カリの窪みを舌先で舐めてなぞりながら、レオンはペニスの下にぶら下がる陰嚢を揉んで刺激する。
咥内で肉の塊がぴくん、ぴくん、と反応しているのが判った。


「喉まで入れろ」
「う、ぐ……んぉ…っ」
「ほら、もっとだ」


 口を限界まで大きく開き、ペニスを奥へと招き入れるレオンだったが、直ぐに息苦しさで詰まってしまう。
けれど、クラウドはそれでは足りないとばかりに、レオンの頭を押さえて喉奥まで己の男根を突き入れた。


「ふ、ふぅっ…ん、お、…ぁふっ…!」


 膝立ちの躯を支える足が震える。
頽れそうになるのを必死で堪えながら、レオンは頭を前後に動かして、ペニスに奉仕を始めた。

 喉奥まで肉棒を招き入れる度、餌付きそうになる。
胃液ごと吐き出したいのを耐えて、レオンは出来るだけ鼻につく匂いを吸い込まないように、息を詰めていた。
そうすると、息苦しさで喉奥が閉じ、まるでペニスを締め付けているかのように男を喜ばせた。


「ふっ、ふっ…んっんおっ…、ぐ、ふ、んぁ、」


 ぐぷっ、ぬぷっ、と端整な男の顔立ちが、ペニスを咥える事で歪んでいた。
レオンが苦しさを訴えるように、ペニスを咥えたままで視線だけで男を見上げれば、まるで媚びているかのような顔になる。

 事実、レオンは早くこの地獄のような時間に終わって欲しかった。
その理由は、己の我慢が限界である事もあるけれど、何よりも、直ぐ傍らから突き刺さるように向けられる視線が、レオンには耐えられないのだ。
実の弟の前で、猥褻な行為を無心で行っている自分が、酷く汚い生き物に思えてならないから。


「なんだ、もう降参か?」


 じゃあ、と碧眼がスコールへと向けられるのを見て、レオンは息を飲んだ。


「ん…んぷっ、ふっ…ん、く、ぢゅっ…!」
「っ……」
「ふぁ、ふ、んん……!っは、んぁ…!」


 緩んでいた奉仕の手を再開させる。
含んでいた亀頭から口を放すと、レオンは勃起したペニスの裏筋を舌で愛撫し、唾液で濡れそぼった亀頭を手で包んで、きゅう、と緩く握った。
ペニスの尿道口を親指の腹で刺激しながら、レオンはペニスの根本からカリまで丹念に舐め上げる。


「んぁ、ちゅ…んぷ……ふっ、ふぁ、んぉ…ん、ふ」
「ほら、……そろそろイくぞ。咥えろ」
「んぐっ……!」


 クラウドの言葉に従って、レオンはもう一度亀頭を口に含んだ。
怒張したそれが口の中を支配して、ドクドクと脈打っている。
生き物の欲望が塗り固められたような生々しさを感じて、レオンは眉を潜めた。

 ぎゅう、とペニスの根本を絞るように握って、口一杯に頬張ったペニスを吸い上げた。
ぢゅるるるるっ!と音が鳴る程に強く吸えば、ビクン、ドクン、とペニスが大きく震え、


「んぶっ、ふぐぅうぅっ……!!」


 どろりとした粘液がレオンの喉に叩き付けられて、くぐもった悲鳴が堪え切れずに響いた。
それを耳にしたスコールが息を詰め、ぎゅう、と唇を噛んで、目尻に溜めた涙が一筋、頬を伝う。

 咥内を犯すものを、レオンは喉奥から吐き出したい衝動を堪えながら飲み下す。


「んぐっ、ぐ、う……んん、ぅ……っ」


 ごきゅ、とレオンの喉が鳴るのを見て、スコールが口元を押さえた。
吐き出したいのは、見ているスコールも同じなのだ。


「う、ふ…」
「口開けろ」
「……んぁ……っ」


 口を閉じたまま、呼吸を荒げていたレオンに、クラウドが命じる。
その通りにレオンが口を開くと、ねとりとした粘液が唇に纏わりついて糸を引き、赤い舌の上で白濁がてらてらと光っていた。


「あ、は……は…あふ、…っは……」
「まだ残ってる。ちゃんと飲め」
「う……ん、ぐ、……んくっ……!」


 舌に残った蜜液まで飲み干せと言うクラウドに、レオンは唇を噛む。
けれど、文句の一つでも言おうものなら、─────そう思ったら、言われた通りにするしかない。

 閉じた口の中で、粘つく精液に唾液を絡めて、もう一度飲み込む。
何度かそれを繰り返して、レオンは口を開いた。


「……ま、そんなもんか」


 満足してはいないが、赦してやる。
そんな表情で言うクラウドに、レオンは耐えていた咳を吐いた。


「げほっ、げほっ…ふ、…げほっ…!」
「レオン、」


 背中を撫でる手があって、顔を上げると、泣き出しそうな表情で見下ろしてくる青灰色がある。
大丈夫、とダークブラウンの髪を撫でると、スコールは頭を押し付けるようにして、レオンの頬に擦り寄った。
口端から落ちる白濁とした液体を舐めようとするスコールだったが、レオンの方が顔を反らす。


「平気、だから。気にするな」


 口端を手の甲で拭って行ったレオンだが、スコールはゆるゆると首を横に振る。
平気になんか見えない。
しかし、レオンは頑としてスコールの労わる行為を受け取ろうとはしなかった。

 気遣ってくれる弟の気持ちは何よりも嬉しいものだけれど、今この場において、それに甘えてしまう訳にはいかない。
こんな汚い事をするのは、自分だけで十分だと思うから。
……それでスコールが泣き出しそうな顔をしているのだと判っていても、これだけは譲れない。

 口の中に残るえぐみを堪えながら、レオンは呼吸を整える。
肩の揺れが収まるのを見計らって、クラウドがレオンの首から垂れる鎖を引く。


「っ……!」


 首輪が喉に食い込んで、レオンは顔を顰めた。


「のんびりしてないで、ケツ向けろ」
「………」


 レオンは噛み付きたい衝動を殺して、支配者の言葉に従う。
鎖が緩むのを待って、レオンはクラウドに背を向け、四つ這いの格好を取った。
一糸纏わぬレオンの躯を隠してくれるものはなく、その為、レオンの淫部を一目から守ってくれるものもない。
腰を突き出す形で、羞恥心に身を震わせるレオンの肌には汗が滲み、火照りを示すかのように赤らんでいた。

 クラウドの手がレオンの引き締まった尻を撫でる。
凸凹とした感触のある硬い皮膚が這う感触に、レオンは肩を揺らした。


「っう……く、ふ…っ」


 ゆったりと臀部の形を撫でられて、鼻にかかった吐息が漏れる。
それを聞いたクラウドが、くく、と笑う気配があった。


「一週間、毎日咥えてるから、此処も覚えて来たみたいだな」
「んっ……!」


 つ、とクラウドの手が双丘の溝をなぞって、ヒクヒクと伸縮する穴口に辿り着いた。
ピクン、とレオンが体を震わせる。


「物欲しそうにしてるぞ、此処」
「……っ…!」
「違うって?」


 頭を振って否定するレオンに、どうだかな、とクラウドが鼻で笑った。
指先でぐにぐにと穴口の肉を押して遊ばれ、その度、レオンのアナルは甘い疼きを体内へと分泌させる。

 指先でアナルの周りをくすぐるように遊んだ後、────にゅぷっ!と人差し指がアナルの中へと挿入された。


「っう……!」


 がりり、とレオンの爪がフローリングの床を削る。
人よりも猫寄りに尖りのある爪で、平らだったフローリングには小さな傷が走った。
それを目にしたクラウドの碧眼に冷たい光が宿り、アナルに埋めた指が更に奥へと突き入れられる。


「あっ!う、んんっ……ぐ…ふ…!」
「爪、立てるなよ。何回目だ?言ったら判る筈だろ?お前は」
「んっ、んっ…!く……ふ…う、」


 ぐりゅっ、ぐにゅっ、ぐりゅっ!と指でアナルを抉り広げられて、レオンは息苦しさと圧迫への嫌悪感を、唇を噛んで耐えた。

 息を詰めて声を殺すレオンの姿に、スコールが顔を寄せて、宥めるように頬を舐める。
耐える為に閉じていた瞼を持ち上げれば、不安げな表情を浮かべている弟がいた。
大丈夫、と音のない声で囁くと、スコールも唇を噛んで俯く。

 淫部の内を押し広げていた指が、レオンの敏感な箇所を掠めた。
ビクン、とレオンの背が大きくしなって反り返る。
床に爪を立てて息を殺し、声を出すまいと耐えるレオンを見て、クラウドがレオンの鎖を引っ張る。


「っんぐ、あっ!」
「レオン!」


 鎖で引き上げられる形で上半身を持ち上げられたレオンに、スコールが悲鳴に近い声で名を呼んだ。
じっとしていろ、とレオンが睨むと、スコールが竦み上がったようにがち、と固まる。

 肩下まで伸ばされたダークブラウンの髪の隙間から、首の後ろに吐息がかけられる。
ねと、と生温かなものが這う感触がして、


「声、我慢するな。全部出せ」
「……っ…な、」
「もう痛くないだろ?毎日あれだけ解してやってるし、咥えてるからな。それに、お前がいつまでも痛がる顔してたら、スコールが怖がるだろ?」
「……スコール、に、は、……」
「判ってるよ。手はつけない。お前が二人分働けば、な」


 ───レオンとスコールは、クラウドの手の中で生かされている。
それは無償のものではなく、生活の面倒を見る代わりに、クラウドの性欲処理をすると言うのが条件だった。

 レオンはその条件を飲み、代わりに、此方からも一つ条件を出した。
性処理の相手をするのは自分だけ、スコールには手を出さないで欲しいと言う事。
スコールが働く分は、レオンが背負う。
それで、スコールはクラウドの性処理の道具となる事なく、一人外の世界に放り出される事なく、兄と離れ離れになる事もなく、此処に住む事を赦される。
それが、レオンがクラウドに示した条件。

 いや、条件と言う程に拘束力のあるものではない。
その条件が有効とされているのは、レオンが自分自身の掲示した条件を遵守できた時のみで、守れなかったとクラウドが判断すれば、無効化される。
だからレオンは、その条件を守る為に、クラウドの命令に従い、責め苦に耐え続ける。

 苦虫を噛み潰す表情で見上げるレオンに、クラウドはうっそりと笑みを梳き、


「手はつけないけど、性教育は必要だろう。誰のお陰で自分が不自由のない生活をしているのかって事も、ちゃんと判らせておかないと、将来、我儘に育つぞ」


 ぐちゅ、とレオンの秘穴に埋められた指が増える。
ぞくん、とした衝動に、レオンは躊躇いながら口を開く。


「っは…あ……!あっ!」


 秘部に埋められた指が、内壁を押し広げ、爪を当てて内部を掻き回す度、レオンの躯がビクン、ビクン、と跳ねる。


「あっ、あっ、…ん…くぅん…っ」


 クラウドの指に内壁を突き上げられる度、レオンの喉から苦悶と甘露の含んだ声が漏れる。
羞恥と屈辱と、体内に燻る熱に翻弄されて、赤らんだ顔で喘ぐレオンから、スコールが目を逸らす。
それを見付けたクラウドが、スコールの首輪から伸びる鎖を引いた。


「うっ……!」
「ちゃんと見てろ。お前の為でもあるんだぞ。なあ、レオン」
「ひっ、あっ、…は、ぁあっ…!ん、うぅ……っ!」


 下肢から競り上がってくる感覚に声を上げながら、レオンはスコールから顔を背ける。
途端、咎めるようにクラウドの長い指が根本まで強く穿たれた。


「っああ!」


 ビクン!とレオンの躯が仰け反り、がくがくと肩が震える。


「は…ぁっ、あっ…んん…っは…あっ、」
「感じてる顔、ちゃんと見せてやれ。気持ち良いって判るように」
「…ん、う……ふっ…うぅ……」


 顎を捉えられて、スコールの方へと向けられる。
スコールは反抗するように引かれた鎖を掴み、じっと此方を────クラウドを睨んでいる。

 ぐりゅぅっ、とレオンの内部で指が深い位置でえぐるように回転した。


「ひっあぁあっ!」
「そろそろイイ所行くか?」
「ふっ…ん、んん…や、あ……っ!」


 イイ所────前立腺の事だと、レオンは既に記憶していた。
クラウドに飼われる立場となってからの一週間、レオンはほぼ毎日、前立腺への刺激を与えられていた。

 前立腺を攻められると、あっと言う間に頭の中が白く塗りつぶされてしまい、何も判らなくなってしまう。
思考も蕩け、体は熱だけに溺れて、羞恥も屈辱もどろどろに溶けて流される。
その所為で、弟の前で何度はしたない顔を晒したのだろうか。


「や、あ…!は、あっ、あっ…!」
「尻の穴、俺の指を締め付けてるぞ。期待してるみたいだな」
「ち、がう…違うぅ……っあっ、んぁっ、ああっ!」


 ゆるゆると首を横に振るレオンだったが、アナルに埋めた指をぐぽっぐぽっと出し入れされて、引き締まった腰が痙攣するように震える。
激しく淫部を掻き回され、レオンの脾肉がクラウドの指をきゅうきゅうと締め付けていた。


「ん、ぅんっ!く、ふ、…あっ、あぁっ…!」
「ほら、此処だ」
「ひっ、んぁああぁっ!!」


 クラウドの指が、膨らんだ内壁を掠めて、レオンの躯がビクッ、ビクン!と大きく跳ね上がる。

 声色の変わったレオンの悲鳴に、スコールは耳を塞ぎたくなった。
こうなった後の兄の姿を、この一週間でスコールも否応なく覚えさせられているのだ。
その上、今まではレオンが必死に声を堪えていた為に、幾らか押し殺されていた快感が、今日はそれも許されない。


「はっ、あっ、や、やあっ!ひ…く…うぅ、ん…ああっ!」
「……っ」
「ふ、う……あっ、ん、んぁっ…!は、あ、あ…!」


 ぐちゅ、ぐりゅ、ぐちゅ、と秘奥を掻き回される音が響いている。
スコールが唇を噛んでレオンを伺えば、整った眉根を寄せ、口端から涎を垂らして喘ぐ兄の姿がある。
聞こえる声と兄のあられもない姿から逃げるように、スコールは膝を抱いて顔を埋めた。


「見ろって言ってるだろ」
「………!」


 ふるふると頭を振って拒否するスコールに、クラウドは溜息を一つ。


「ほら。お前が甘やかすからだぞ」
「んっあ…!あ、ふ…う、……ぐ、ぅ……!」


 青灰色の瞳が背後の男をじろりと睨む。
涙を滲ませ、劣情に飲み込まれながらも、まだ理性を手放そうとしないレオンに、クラウドは先のスコールに対した時と同じように、息を吐く。


「────あぅっ!」


 ずりゅん!とクラウドの指がレオンのアナルから引き抜かれ、内壁を擦られる感覚にレオンが背を仰け反らせた。

 レオンの首を引き上げていた鎖が緩む。
じゃらん、と金属の連なる音が鳴って、それと共にレオンが床に倒れ伏せた。


「っあ…は……あ、あ……」


 ひくん、ひくん、と腰を震わせて悶えるような声を漏らすレオンに、スコールが顔を上げる。


「レオン、」
「…っあ……」


 弟の呼ぶ声に、ピクッ、とレオンの躯が怯えるように震えた。
視界の端に、四つ這いになって近付いて来る弟の手が映った。
レオンが恐る恐る顔を上げれば、暗がりの中で、青灰色が鮮やかに映える。

 レオンの腰が持ち上げられて、ヒクヒクと伸縮していたアナルに、ドクドクと脈打つものが宛がわれる。
ぐり、と先端を押し付けられて、レオンが息を殺していると、


「声、出せよ。ちゃんと」
「……っ─────あぁぁっ!!」


 ずにゅうううっ、と媚肉を広げながら押し入ってくる、怒張した肉の凶器。
目を見開いて天井を仰ぐレオンに構わず、クラウドは腰を奥まで推し進めようとする。


「あっあぐっ、ひっ、いっ…!」
「もう慣れたから、痛くないだろ?」
「ひ、い、痛っ…!いぐっ、う、う…っ!」


 クラウドの言葉に、レオンは床に齧り付いて首を横に振る。
この一週間、ほぼ毎晩のように男を受け入れさせられているとは言え、レオンが行為に慣れる事はなかった。
体への負担は勿論の事、何より、この行為への嫌悪感は強くなる一方だ。

 ぎち……とレオンのアナルは、其処を蹂躙する生き物を拒絶しようとするように肉が閉じている。
締め付けているのも確かであったが、それは痛いほどの締め付けで、クラウドは眉根を寄せた。


「お前がそんな調子だから、スコールがいつまでも反抗的なんだろ」
「はっ…ぐ…う、うぅ……」
「……仕様のない奴らだな。まあいい。前の飼い主のツケだとでも思うさ」


 レオンとスコールに“前の飼い主”などいない。
二人は生まれた時からモルモットとして獣人の研究施設で育てられ、生体実験を繰り返されてきた。
そうした獣人は珍しいものではない。

 獣人の多くの人生は、大きく二つに分けられる。
モルモットとしてレオン達のように生体実験を受けながら、研究対象として生きながらえるか、金持ち達の享楽の一環として、飼われて生きるか。
クラウドは、レオンとスコールを、後者として生きて来たものと思っている。
レオンが殊更に性行為に対し拒絶感を見せるのも、前の飼い主が碌な扱いをしなかった為だと考えていた。

 痛みと嫌悪を必死で堪えるレオンだったが、本能的な拒絶感だけは誤魔化せない。
このままでいれば、支配者の不興を買うだけだと判っているけれど、どうしても躯の強張りは解けなかった。

 ぐ、とクラウドが腰を引こうとすると、ペニスのカリが肉壁を引っ掛けて擦る。
ビクン、とレオンの腰が跳ね、きゅうううう、とペニスを食い千切らんばかりに締め付けた。


「っ痛……おい、緩めろ」
「ふ…ぐ、無理……っあ、う……!」
「レオン……」


 クラウドの言葉に、ゆるゆると首を横に振るレオンに、スコールが顔を寄せた。
先の白濁液が未だに名残を残す顔に、スコールの舌が這う。

 兄の肌から臭う鼻を突く臭いに、スコールが顔を顰めるのが判った。
しなくていい、大丈夫だから、とレオンは言ったが、スコールは聞かない。
宥めるように、労わるように、繰り返しスコールはレオンの額を頬を舐めて、頭の上にある耳の裏側も舐めて。


「う、ん……ス、コール……ぅ…」
「ん……」


 耳を舐めるスコールの首筋が、レオンの目の前にあった。
苦しそうに喉が震えている。
レオンがそっと舌を伸ばして掠めると、ぴくん、とスコールの体が小さく震えたのが判った。


「スコール、」
「んん……レオン、レオ、ン……」
「ふ、ぅ……」


 互いを慰め合うように、レオンはスコールの、スコールはレオンの肌を舐める。
脳がヒトに近い発達をしていても、動物的本能は強く残っているのか、普通に触れ合うよりも、こうしている方が気持ちが落ち着くのだ。

 動物の視点で言えば、猫が二匹でじゃれ合っているだけ。
けれど、彼らの姿形は、部分的な動物的特徴を除けば、ほぼ人間のそれと変わりない。
二匹の猫の交じり合う様を見詰める男が、唇を笑みの形に歪める。


「そう言えば、まだ試してなかったな」


 背後から聞こえた声に二人が振り向くと同時に、レオンは下肢を襲った痛みに悲鳴を上げた。


「ふぎゃっ!」
「やめろ!」


 尻尾を掴み持ち上げられる痛みに、レオンが身を震わせる。
スコールが噛み付くようにクラウドに向かって叫ぶが、クラウドはレオンの尾を離そうとしない。


「痛いか?」
「…い、ぐ……ひぃ……っ!」
「────フーッ!!」
「…スコール…!」


 毛を逆立てて牙を見せるスコールに、レオンは慌てて手を伸ばし、自分の体の下へと抑え込んだ。
なんで、と青灰色が睨むようにレオンを見上げたが、レオンはスコールを逃がさない。

 普段、殆どこれと言って意識していない感覚器官であるが、尻尾は猫にとって重要なものである。
それを力任せに引っ張られれば、痛くない訳がない。
尻尾を掴まれて全身を強張らせ、アナルに埋められたペニスも強く締め付けるレオンをしばらく眺めた後、クラウドは尻尾から手を放した。


「っあ……!」
「レオン」
「…う、ん……」


 心配そうに呼ぶ弟に、大丈夫、と頷く。
ぎゅう、とスコールが全身で縋るように抱き着いて来るのを受け入れた。

 クラウドはそんな二人を眺めながら、ゆらゆらと揺れるレオンの尻尾の付け根に触れる。
先に与えられた痛みへの警戒心のあって、レオンの躯がまた強張った。


「安心しろ。もう引っ張ったりしない。ちょっと試すだけだ」


 試すって、何を。
嫌な予感しか浮かばなくて、レオンは問う事が出来なかった。

 クラウドの手は、尻尾の毛並を堪能するように、ゆったりと毛の流れに沿って根元から先端へと撫でて行く。
先端の丸まった所を緩く握られて、揉むように遊ばれる感覚が嫌で、レオンは尾をクラウドから逃がすように揺らした。


「感じるか?」
「……ふ、……」


 どう答えて良いのか判らなくて、レオンは目を逸らした。
クラウドは特に咎める事もせず、それまでと逆に、先端から根本へと手を滑らせた。

 なぞる手が根本へ近付いてくるごとに、奇妙な感覚がレオンを支配して行く。
じわじわと、ゆっくりとした速度で広がって行くそれに、知らずレオンの息が上がって行った。


「ふっ…う、うぅ……」
「感じてるだろ?」


 レオンはゆるゆると首を横に振るが、


「嘘吐け。判り易いんだよ、お前達は」


 きゅ、と尻尾の付け根が握られる。
痛みを覚える程ではない、けれども平静ではいられない感覚に、レオンの躯が跳ね上がる。


「や…ぁっ…!」
「こうしたら、どうなる?」


 言って、根本を緩く握っていたクラウドの手が、上下に動き出した。
扱くように刺激されて、レオンの躯がピクッ、ピクン、と跳ねる。


「あっ、あっ…やっ、あっ……!」
「レオン、レオン、」
「ひっ、ふ…う、んんっ!あっ、あっ…は……ああっ…!」
「もう、やだ、やめろ。やめろ、レオン、やめろ」


 抱き込まれる形で下敷きにされている所為で、スコールはレオンの痴態を間近で見せつけられていた。
熱に浚われた瞳を彷徨わせ、開きっぱなしの口端からは唾液が零れ、────そんな兄の姿に、スコールは泣きたい気分だった。

 レオンは、縋り付いて来るスコールの髪に唇を埋めて、スコールの耳の後ろを舐めた。


「レオン、」
「……大、丈夫、…すぐ、…終わる、から……」
「嫌だ。もう、やだ…レオン、」
「だから…ごめん、な……っああっ!」


 ぐちゅんっ!とレオンのアナルが最奥まで突き上げられる。


「あぐっ!あ……っ!」
「良い感じに緩んだな。イイコだ、スコール」
「………!?」


 秘奥に埋められた肉の感触に躯を震わせるレオンと、光悦の表情を浮かべるクラウドと、スコールは二人を見て息を飲む。
クラウドは激しく腰を打ち付けながら、クク、と笑う。


「お前のお陰で、レオンも大分緊張が解れたようだな。大分楽に動けるようになった」
「ひっ、あっ、んあっ!う、く…あう、あっ!くぅん……!」


 ずんっ、ずんっと秘奥を突き上げられて、レオンの口からはあられもない悲鳴が溢れ出す。
クラウドは腰を大きく動かして、レオンのアナルの入り口から最奥までをぐちゅぐちゅと卑猥な音を響かせながら攻め立てる。


「ひっ、ふ、ふぅっ、ああっ!ん、ん、や、ああっ、ああぁっ!」
「レオ、ン」
「う、ぅあっ!あ、ん……んぁあっ!」


 弟の呼ぶ声に、一瞬息を詰めるレオンだったが、ぐりゅん!とペニスが円を描くように動いて、肉壁を抉られる。


「声出せって言っただろ」
「ふっ、待っ…待って…くれ、…あっ、んあっ!や、あっ、あぐっ、うぅっ…!」


 レオンの請う声など、聞こえていないかのように、クラウドは腰を動かし続ける。
逃げを打つように身を捻るレオンの腰を掴んで固定し、より奥へとペニスを突き立てた。


「ひぃあぁっ!」
「レオ、」
「ほら、前立腺だ」
「やっ、あっ、ああっ!は、…ん、ああっ!や、あぁああっ!」


 甲高い声を上げて啼くレオンの口端から零れた唾液が、下敷きになっているスコールの顔へ糸を引いて落ちる。


「ふっ、ふぁっ、…あっ、んあっ…!ひ、ぃ…あ、ふぁあっ!」


 突き上げられ、抉られて、揺さぶられ、レオンの躯は劣情に浚われていく。
頭の中が白濁として行くのを感じながら、レオンは己の下にいるスコールを潰してしまわないように、スコールの顔の横に手をついて体を支える。
しかし、激しい突き上げに翻弄される躯は、限界を訴えつつあった。


「ひっ、やっ、あっ!待、待ってくれ、スコール、スコール、が、」
「見てるって?自分で其処にいさせてるんだろ。丁度良いじゃないか、よく見せてやれよ」
「や、あっ……!ん、く、…ああっ!」
「ほら、スコール。よく見てろよ」
「う、う、……」
「んっ、んっ…!く、ふ、ぅ……」


 ぐるぐると喉を鳴らすスコールを、レオンは覆い被さって抱き締めた。

 耳元から聞こえる、スコールの威嚇の声。
誰の為に、どうしてスコールが怒っているのか、判らないレオンではなかったけれど、今は堪えて貰うしかない。

 ずりゅぅうう…とペニスがアナルから引き抜かれて行く感覚に、レオンの腰がふるふると戦慄く。
カリが穴口に引っ掛かるようにして止まり、───ぐぢゅんっ!と秘奥へと突き入れられる。


「─────あ、あ…!」


 目を見開いて全身を強張らせるレオンに、スコールが抱き着く。
兄が壊れてしまう事がないように。


「レオン、レオン、」
「ひ…あっ、あっ、んっ!あんっ、はっ、ああっ!」


 ぐちゅっずちゅっ、と淫猥な音が響いて、皮膚のぶつかり合う音がする。
しがみ付いて来るスコールを抱き返して、レオンは突き上げられるままに喘ぎ声を上げた。

 アナルの中でペニスが大きく脈を打ち、より一層激しい律動になって行く。
ラストスパートに入るように、穴口から最奥まで、大きく腰を動かしながら、クラウドの額にも汗が滲み、


「────く、っ、」
「ふ、あっ、あっ!や、ああっ!ひ、い……あ、ああぁあぁあっ!」


 ビクッ、ビクン!とレオンの体内でペニスが脈動を打って、熱くどろりとしたものが秘奥へと叩き付けられる。
拒絶と快感と板挟みにされたレオンの躯が、痙攣するように大きく跳ね、青灰色は虚空を彷徨って熱に浚われる。
全身を強張らせたレオンのアナルは強く閉じて、精液を絞り出さんとするかのようにきゅうきゅうとペニスを締め付ける。

 びゅる、びゅるるっ……!と欲望が己の外も内も犯して行くのを感じながら、レオンは脳の芯がぼんやりと霞んで行くのを感じていた。
────けれど、唇を噛んで、意識が飛びそうになるのを現実に引き留める。


「……っは…あ…はぁっ……は……」


 がくん、と体を支えていた腕と膝が崩れて、スコールの上に覆い被さる。


「レオン、レオン」
「……ん……だい、じょう、ぶ……」


 ふるふるとスコールが首を横に振る。
しかし、そう言わなければ、背後の男が何をするか。

 じゃらっ、と金属の音が鳴って、首が引っ張られる。
抵抗する力を持たないレオンは、弟と離されて、支配者の下へ連れ去られた。


「続き、出来るな?」


 ────朦朧とした意識の中で、レオンは小さく頷いた。