従う猫、一匹 3


 夕暮れすら過ぎた時間に、寝室の扉が開く瞬間が、スコールは嫌いだった。
その感覚は、施設にいた頃、兄と二人で過ごしていた部屋に白衣の人間達が入って来た時と似ている。

 人間達が来ると、その時何をしていても、無理やり兄と引き離されて、痛くて苦しい事をされる。
兄はいつも自分の名前を呼んで手を伸ばしてくれるけれど、それは分厚いガラスの向こうにある光景で、スコールがどんなに手を伸ばしても、重ね合わせる事は出来なかった。
それが悲しくて泣くと、兄は益々痛くて苦しい顔をして、大粒の雫を零すから、スコールは痛いのも苦しいのも我慢しようと思った。
痛い顔をしなければ、苦しいと思わなければ、兄が悲しむ事もないと思ったから、痛くないと、苦しくないと思うようにした。
けれど、延々と繰り返される激痛に耐えられなくて、頭が真っ白になった後はどうだったのか、ほとんど覚えていない。
ただ、意識を飛ばして、次に目覚めた時、真っ白な部屋の中で自分を抱き締めて泣き腫らした顔をした兄を見て、また我慢に失敗したのだと知った。

 白衣の人間達に連れて行かれる度、また兄を泣かせてしまうのだと思ったら、彼らについて行きたくないと思った。
けれど、自分が行かなければ、兄が連れて行かれる。
兄が受ける実験は、スコールが施されるものよりもずっと凄惨だった。
胃が灼けるような薬だとか、眼を剥くほどの強い電気だとか、────麻酔もなしに皮膚を裂かれた事もある。
その時、人間達は無表情で、スコールは自分達が“モルモット”である事の意味を知った。

 人間達の研究欲をただ満たす為だけの道具、其処には情も何もない、彼らが望むデータを収集する為だけに生かされている実験体。
けれど、自分も兄も、道具ではない。
無機物ではない。
思考もするし、感情もある。
痛いと思う、苦しいと思う、悲しいと思う、憎いと思う。
でも、そんな“モルモット”の感情も、白衣の人間達にとっては、データの一つでしかなく、彼らは二匹の猫が互いに寄り添い合うように過ごす姿すらも、逐一データに残して解析していた。
何処からそうした感情が生まれるのか、脳からか、それは人間としてか動物としてか、或いはもっと別の何かからなのか。
反抗するのなら、それは人間で言う反抗期なのか、自分自身への危険信号に対する動物の本能か。
脳の中まで覗かれて、電気信号がどうの回路がどうの、そもそも脳の作りは人間なのか動物に近いのか、延々と彼らは調べ続ける。
其処に、二匹の猫の思考感情の内容など、関係のない話だった。

 スコールがどんなに嫌がっても、どんなに我慢しても、兄がどれだけ涙を堪えていても、関係ない。
人間達は人間達の、自分達の欲求を満たす為だけに兄弟を生かす。
────……この小さな世界でも。





 扉が開く前に、二匹の猫は生まれたままの姿になる。
そうして待っていろと言われたからだ。
部屋の中は適温に保たれている為、肌寒さを感じる事もなかったが、レオンもスコールも、普段の生活は人間と同じものだ。
衣服を着て、肌を隠し、二本脚で立って歩く。
だから裸身で過ごすのはこの時だけで、決して慣れている事だとか、当然と思っている訳ではなかったから────試験管の中で過ごしていた頃は、そうではなかったけれど────、こうして過ごす事には抵抗があるし、心許なく感じる。

 けれど従わなければならない。
従わなければ居場所を失い、行く宛もなく彷徨い歩き続けるか、連れ戻されて壊されるか。
どちらも嫌なら、此処にしがみ付きたいのであれば、命令には従うしかない。

 リビングとの隔たりの扉が開いて、金髪の男が現れる。
碧眼が、フローリングの床に座り込んでいる二匹の猫を見た。


「首、出せ」


 首輪を示すように、自分の首をこつこつと指で突きながらクラウドは言った。

 レオンが頭を上げて、差し出すように首を見せる。
日焼けのない白い首に、緋色の革製の首輪。
スコールも、躊躇いながら、兄の手を握りなら同じように喉を逸らして、首輪を見せる。
クラウドはその首輪に銀色の鎖を繋いで、白い肌に緋色と銀色が映えるのを見て、満足げに笑う。

 クラウドは、二人の鎖の端を自分の手首に巻き付けて、ベッドの縁に座った。
レオンが四つ這いでそれに付き従って近付き、クラウドの足の間に体を入れて、ジーンズのベルトを外し、ジッパーを下ろす。
スコールはそれを────兄を従事させるクラウドをじっと睨んで、その場から動かない。

 取り出したペニスは、まだ頭を下げていた。
風呂に入ってくれたお陰で、汗や体臭はあまり目立たなかったが、そんなものは気休めにもならない。
レオンは眉を顰めながら、両手でペニスを支え立たせ、亀頭の膨らみに舌を這わせた。


「んぷっ……ふ…ん……っ」


 レオンは息を詰めながら、亀頭の周りを丹念に舐め回す。
右手で竿を扱きながら、窪みを舌先で撫でてやる。


「ふ、ちゅ……んく、ん…んっ……」
「咥えろ」
「……ぁっ…ふ……ぐぅ…っ」


 支配者の命令のまま、口を開けて、ペニスを頬張る。
まだ勃起していないとは言え、長く太い男のペニスを根本まで口に含むのは苦しい。
代わりに根本を両手で緩く握りながら擦り、先端は口の中で舌を転がしながら舐めしゃぶる。

 ちゅ、ぢゅっ、ちゅる、と卑猥な音がするのを聞いて、スコールが俯いた。
痛いほどに握り締めていた手が震える。
そんな気配に、レオンは泣きたくなるのを堪えながら、見下ろす男の機嫌を伺うように、ペニスを咥えたままで上目を向ける。


「ん……ふ…んんっ、ん……ん、ん…」
「裏側もだ」
「……っは……んちゅ、んぁ、あ…っ」


 咥えていた先端から口を放して、持ち上げたペニスの裏筋を舌で辿る。
ねっとりと、赤い舌が撫で上げるのを見下ろしながら、クラウドの口元が笑みに歪む。


「今日は、少し面白い事をしてやろうと思ってるんだ」
「ふ、ん……っ…?」


 れろ……と赤い舌をペニスの竿に這わせながら、レオンがクラウドを見上げた。
続けろ、と言われた通りにはするものの、これから何をされるのか、男の考えが読めず、レオンの蒼灰色の瞳に不安が過ぎる。


「いつも同じことの繰り返しだからな。少しは新しい事をして刺激を与えて与えてやらないと、退屈だって反抗されても困る」
「はっ…ふ、ふぅん……ん、ちゅ、ぷ……っ」


 そんな事はしない。
下手にこの男の機嫌を損ねたりして、自分達には何も良い事はないのだから。
それは支配者もよくよく判っている事だろう。

 だからこれからされる事は、この男の自己満足、欲望を満たす為の気紛れに過ぎない。

 何をされても構わない、とレオンは思った。
弟と離れ離れになる事がなければ、弟が壊される事がなければ、自分はどんな目に遭っても耐えられる。
けれど、血を見るような事だけは、スコールが泣いてしまうから嫌だ、と胸中で音にせずに願う。


「ふく……ん、ぇう……」


 ペニスは、レオンが支えずとも天を突く程に固く反り返っていた。
支えに当てていた手を放し、根本を舌で刺激しながら、ペニスのカリを親指の腹でなぞる。
舌は根本から先端までを舐るように辿って、亀頭の裏の凹みを舌先でくすぐるように遊んでやった。


「っ……」
「ん、ぷぁ……はぁっ…」
「本当に…物覚えの良い奴だな」


 心なしか、クラウドの声に苦しげな気配があった。
カリの裏側の凹みは、クラウドが弱い部分だ。
其処と、裏筋を指の爪先で擦って同時に刺激してやると、ピクッ、ピクッ、と耐えるように震える。

 ク、とクラウドが一瞬息を飲みこむのが聞こえた。
直後、鎖が引かれてペニスを口から離される。


「っは……!う、けほっ…!」


 初めてクラウドに行為を強制されてから、今まで、最初の射精は必ず口淫で行われた。
だから今日もそうなのだろうとばかり思っていたから、この行動にはレオンが目を瞠る。

 息苦しさから解放されて、唇を無防備に半開きにさせているレオンを見下ろし、クラウドが「後ろを向け」と顎で示す。
言葉がなくともそれが判るようになった自分に嫌悪を抱きながら、レオンは命令されるがままに男に背中を向ける。
四つ這いになって腰を高く上げる格好を取れば、まるで淫部を差し出しているかのようで────現実、その通りであった。


「解してやる」
「……っ」


 とろ……と冷たく粘ついたものが臀部を伝う。
双丘を辿るようにして落ちて行くそれが、まるで生き物のようで、レオンはおぞましさに顔を顰めた。


「ふっ…ぅ……!」
「その内、自分で解せるようになって欲しいもんだな。俺の手間が省けるし、お前もその方が楽に気持ち良くなれる」


 ゆったりと肌を撫でるように男の手が這う。
やがてそれは双丘を割り、閉じた秘部に辿り着く。

 どろりとした粘着液を纏わせたクラウドの指が、レオンの秘孔を押し開く。


「っ……あ……!」
「声、出せって言っただろう」
「ひっ…!」


 ぐりゅっ!とアナルに埋められた指が内壁を抉り、レオンの躯が強張って跳ねる。

 レオンは背後の男を睨んだ。
見下ろす碧眼が笑みを含んでいるのが判る。
けれど、レオンは一度唇を噛み、戦慄かせながら薄い色の唇を開いた。


「…っは……んっ、あっ…!く、う、ぁっ…!」


 埋められた指が、ローションの助けを借りながら、更に奥へと侵入して行く。
異物感と圧迫感に、喉から競り上がってくる嘔吐の感覚を殺しながら、レオンは床に爪を立てて耐える。

 少しずつ侵入を深くしていく指が、内壁をしつこいほどに撫でる。
ぬるぬるとした感覚が付随して行くのが気持ちが悪い。
噛んだ唇がぷつりと穴を開けて、鉄臭い味が舌先に触れた。


「…う、あ……はっ……あっ!」


 ぬりゅ、ぐにゅ、と内部で指が蠢いている。


「ふ、…く、……あぁっ!」


 ぐりゅっ!と秘部を突き上げられて、レオンは悲鳴を上げた。

 挿入された指が二本に増えて、レオンの秘部を押し広げる。
違和感に抵抗しようとする自身の体を、レオンは意識して呼吸する事で緩めて行った。


「ん、…ぅ……っは……!」
「ほら、此処だ」
「────ひぅっ!」


 内部の僅かに膨らんでいる場所────前立腺の裏側を爪先で擦られて、レオンの躯が強張って跳ねた。
その反応を煽るように、クラウドの指が同じ場所を執拗に刺激して来る。


「や、あっ…は、あ!う……ん、ぁっ…!」


 指が内壁を擦る度、ヒクン、ヒクン、とレオンの腰が震える。
誤魔化しきれない嫌悪感で躯が強張り、侵入している指を締め付けてしまう。
ぐにゅ…と指に絡み付く肉壁の感触に、クラウドがくつくつと喉を鳴らした。


「解れやすくなったな。躯が覚えて来たか」
「……っ……」


 ぎり、とレオンは唇を噛んだ。

 ほぼ毎日、支配者の手によって体を開かれる内、負担は言うまでもない事だが、その負担を軽減しようと体は変化を始めていた。
殆ど痛みしか感じられなかった性交が、前立腺への刺激を与えられずとも、痛み以外のものを得るようになり、レオンの陰茎が起立する。
感じる痛みが和らいできたのは、そうしなければ体が傷付くばかりで、生存する為の本能的な体質変化だ。
けれど、それが支配者に従属して行く証のようで、レオンは嫌だった。

 内部を圧迫していた指が引き抜かれ、レオンはぞくぞくとしたものが背中を奔る感覚に声を上げた。


「ひっ、あっあぁっ!」


 自分のものとは思えないような悲鳴に、レオンは泣き出したい気分だった。
悲鳴も叫びも、繰り返される実験の中で何度も上げた事があったけれど、こんな声は出した事がない。

 床の上に蹲って、レオンは肩で荒い呼吸を繰り返した。
下肢の違和感は消えてくれない。
どろりとしたものが秘孔から零れ出してくるのを感じて、レオンは腕に噛み付いて声を殺す。
しかし、髪を鷲掴みに引っ張られ、痛みに顔を顰めた。


「う……!」
「折角良い声が出るようになったんだ。もっと聞かせろ」
「ひ……ぅ…!」


 痛みではない疼きを訴えるアナルに、熱の塊が宛がわれた。
嫌だ、と言う弱者の呟きを、支配者が聞き留めてくれる訳がないと、レオンも判っていた。


「あっ、ぐ…あ、んんんっ!」


 ぬりゅぅ……と穴口を拡げて行く肉塊。
丹念に塗られたローションが潤滑剤になってくれるお陰で、痛みらしい痛みは殆ど感じられない。
それが反ってレオンの矜持を切り刻んで行く。


「ん、ぅ…あっ、あ……!」


 カリの太い部分が埋まり、内壁を押し広げて進む。
ゆっくりと最奥まで進んで行く異物に、レオンは喉まで登って来た吐き気を堪えながら、意識して息を吐き出す。

 まるで形を確かめさせるかのように、ペニスはゆっくりと奥へと進んで行く。
いつもなら既に一度射精しているのだが、今日はまだ一度も出していない所為か、常よりも大きく感じられる。


「自分で奥まで入れろ」
「う……ふ、んんっ…!」


 言われるがまま、レオンは腰を揺らめかせて、肉棒を自ら壁に擦り付ける。
ゆらゆらと悩ましく揺れる細腰を見下ろして、クラウドはうっそりと笑みを浮かべた。
その様子を、スコールは涙を浮かべて睨んでいる。

 ペニスの先端が行き止まりの壁に当たって、レオンは息を飲んだ。
四つ這いの格好で、上半身を支える腕が震え、頬を伝った汗雫が床に落ちる。


「入ったか?」
「ん、あっ……ぅ……」


 背後の男の言葉に、レオンは小さく頷いた。
ペニスはまだ幾らか余裕を残していたが、レオンの淫部にはこれ以上は入らない。

 じゃら、と金属の鳴る音がした。
引かれる力に逆らわずに上体を起こすと、背中から回された腕に閉じ込められる。
レオンが薄らと目を開けると、鮮やかな金色と碧眼が直ぐ近くで見詰めていた。


「こっちは、まだ触ってないよな」
「……?」


 初めて抱かれた日から今日まで、もう暴かれていない場所などない────レオンはそう思っていた。
けれど、レオンが施設で与えられた性知識はごくごく最低限のもので、男同士で性交が可能だと言う事も、アナルセックスも、フェラチオも、オナニーも、クラウドによって覚えさせられたものだ。
まだこれ以上何かされるのだろうか、とレオンの蒼灰色の光が揺れて、不安な心を垣間見せる。


「言っただろう。面白い事…新しい事をしてやるって。いつまでも同じことばかりしていたらマンネリになるからな。それじゃつまらないだろ」


 腹の上をゆっくりとクラウドの手が這い、上ってくる。
胼胝のような凹凸のある手が肌を滑って行く感覚に、ぞくん、とレオンの躯が震え、秘部に埋められたペニスを締め付ける。


「ん、んっ……」
「期待してるのか?どんな事をされるんだろうって?」
「……っ」


 ふるふる、とレオンは首を横に振った。
そんなレオンを揶揄うように、首の後ろに生暖かい舌が這う。


「や────いぅっ!」


 おぞましさに吐息を漏らした途端、胸部からの痛みがレオンを襲った。
何が、と顰めた表情で自分の体を見下ろすと、胸の突起をぎりぎりと強く摘ままれている。


「乳首も弄られた事なかったみたいだな」
「ん、う…痛っ……!」


 左右の乳首を親指と人差し指で摘まみ上げられて、レオンは痛みに顔を顰めた。


「レオン!」
「っ……平気、だから…っ動くな…!」
「……っ」


 尾を立たせて今にも飛び掛からんとするスコールを、レオンは睨んだ。
スコールは納得行かないと言う表情でレオンを見詰めながら、兄に言われるまま、肩を戦慄かせて唇を噛む。

 ぎゅう、と乳首を抓られて、漏れかかった悲鳴を飲み込む。
はくはくと酸素を求める魚のように口を開閉させて天井を仰ぐレオンの喉で、クラウドの舌が遊ぶ。


「痛いか?」
「…当たり、前……っあ!」


 きゅ、ともう一度乳首を抓られて、レオンの躯がビクンと跳ねる。


「最初だけだ。直に感じるようになる」
「……っ」


 そんな事にはならない、と首を横に振るレオンに、クラウドがククッと喉で笑みを零した。


「さて、どうかな。こっちはもう気持ち良くなっただろう?」
「───んあっ!」


 ぐちゅっ!とペニスがレオンの内壁を抉り、甲高い声が溢れた。
毎日犯され、掻き回され、男の欲望を注がれた淫部は、それだけでヒクヒクと痙攣を始め、男を誘うように内壁を絡めて行く。
意思を無視して男を欲しがるように反応する躯に引き摺られるように、レオンの腰も震えていた。


「や、あ……あっ、あっ、」
「ほら。感じるだろ?」
「う、ぁぐ、ん……ふっ、んんっ!」


 クラウドが腰を動かす度、レオンの躯が突き上げに合わせて跳ねて踊る。
膝立ちの足がガクガクと震え、支える力などとっくに失われている。

 クラウドが摘まんでいた乳首を解放すると、赤く色づいた蕾がツンと自己主張していた。
膨らんだ蕾の乳輪をなぞられて、ぴくん、とレオンの躯が小さく反応するのを、クラウドは見逃さなかった。


「今のは、感じたか?」


 囁く声に、レオンはもう一度首を横に振った。
噛んだ唇が戦慄いているのを見て、クラウドはその濡れた唇に指を這わす。


「舐めろ」
「……っは…んぁ……」


 レオンが小さく唇を開くと、隙間に指が挿入された。
息苦しさに喘ぎながら、レオンは男の指に舌を絡めてしゃぶる。

 クラウドは、指を咥えさせた手はそのままに、逆の手でレオンの腰を抱き込んだ。
そのまま後ろから下肢を突き上げられて、レオンは眉根を寄せながら、必死で奉仕を続けた。


「んふっ、ふ、んっ…!ぐ、ん、んむっ……ぅっ…!」
「舌出せ」
「…ふ、……あ、あっ…あ…!」


 支配者の命令通りに従い、舌を伸ばせば、否応なく口が開かれ、喘ぎ声が漏れる。
ぐちゅっぐちゅっ、とアナルを掻き回す音が聞こえる度に、レオンの喉から殺せなくなった艶の篭った声が溢れ出した。

 舌を伸ばし、喘ぎ、男に言われるままに奉仕する兄の姿を見て、スコールは爪が喰い込まんばかりの力で両の手を握り締めていた。
彼には、支配者に怒りをぶつける権利も、兄を助ける事も許されていない。
許されているのは、兄が自分の代わりに支配者の蹂躙を甘んじて受け入れ、痛みに喘ぐ様を見ている事だけ。


「ん、ぐ、…っふ、ふぅっ……!」
「スコールが見てるぞ」
「んんんっ……!」
「っ……全く、弟の事になると、必死だな」
「あ────あああっ!」


 先端まで引き抜かれたペニスが、一気に秘奥へと埋められて、レオンは背を仰け反らせて声を上げた。
苦悶に満ちた声に、スコールがびくっと肩を竦ませる。

 ────ぐぷっ、ずちゅっ、ぐりゅっ!ぬぷっ!
呼吸すら奪うような激しい律動に攻められて、自分と同じ色の、他の何物にも耐え難い弟の眼に見つめられて、レオンの瞳から大粒の雫が溢れ出した。


「あっ、っは…!ひ、う…、う、んんっ!ぅ、あ、あ、」
「こっちも弄って、覚えさせてやらないとな」


 腰を抱いていた腕が動いて、レオンの胸を滑り、膨らんだ乳首を摘まむ。


「ひ……!」
「さっきより優しく触ってやったつもりなんだが?」
「い、う…!んん…!」


 何処が、とレオンは訴えかけて、それを飲み込んだ。
下手な事を言って不興を買うよりは、このまま耐えている方が良いと思ったからだ。

 眉根を寄せて息を噤んで耐えるレオンを見て、クラウドはふぅん、と目を細めた。
レオンの舌先で遊んでいた指が離れ、レオンの下肢へと下りて行く。
行き付いたのは、微かに頭を起こそうとしている、レオンのペニス。


「ふ…あ、や……触る、なぁっ……!」


 唾液を絡ませた指がレオンのペニスを根元から先端までなぞり、絡めるように竿を包んで扱き始めた。
ピクン、ピクン、と小さく震えて反応を返すペニスに、可愛いもんだな、とクラウドが囁いたのが聞こえて、レオンの顔が熱くなる。

 クラウドは左手でレオンの乳首を抓み、捏ねるように転がしながら、右手でペニスに手淫しながら、腰を打ち付けている。
明らかな痛みと快感と、淫部の奥を突き上げられる慣れてしまった感覚に、レオンは虚ろな瞳で天井を仰いだ。


「あ、ぐ、うっ…ふ、ふぁ、や……あ、あっ!」


 ぐちゅっ!ぐりゅっ、ずちゅっ、ぬぢゅっ…!


「う、ん、痛……!や、あ!ひっ…!」


 乳首を抓まれ、爪先で先端を擦られる度、痛みを感じてレオンは顔を顰めた。
クラウドの指が乳首で遊び続けている内、其処はほんの少し触れられるだけで痛みを感じるようになっていた。


「腫れてるみたいに膨らんでるぞ」
「う……ん、あっ、や、……う、くぅ、んんっ!」
「ああ、腫れてるのはこっちもか」
「あぁっ…!!」


 ぎゅう……!とペニスの先端の膨らみを握られて、艶の篭った悲鳴が漏れる。


「イきそうなんだろう?ケツ穴の方も俺のちんこに食いついて離さないじゃないか」
「やっ、あっ、ああっ…!うんっ、んあっ…!ひ、ふぅ…っ!」


 ぐぷっぐちゅっ、ぬちゅっ、ずちゅっ。
秘孔を押し広げるペニスが更に大きくなったような気がして、レオンは「無理」と首を横に振った。
しかしクラウドはそんなレオンの訴えを無視し、律動を早めてレオンを昂ぶりへと追い詰めていく。


「ひっ、ひぅっ…!や、あ、あ!やめ、もう…っ!」


 立てた膝が震え、絶頂が近付く感覚に支配されて、ヒクヒクとレオンの太腿が痙攣する。
アナルの奥をぐりぐりとペニスの先端でしつこい程に抉られて、レオンは白目を剥いて悲鳴を上げた。


「あっ、あっ!や、ひ…い、スコー、ル、見るな、あっ、見、」


 怒りを、屈辱を滲ませて歯噛みする青灰色に、レオンは涙を滲ませて叫んだ。
彼が見ているのが、己の背中で哂う男であると判っていても、その眼が向けられているのはレオンも同じ事。

 スコールが見ている。
スコールに見られている。
だらしなく喘いで、この行為に快感を得ている自分の姿を。


「嫌…や、あ……ひっ、」
「────く……!」
「うっ、んひっ、あぁああ……っ!!」


 ビクッビクッ!とレオンの躯が大きく跳ねて、ペニスから白濁液が溢れ出す。
同時にアナルが強く閉じて、クラウドのペニスから熱を絞り出すように締め付けた。
びゅるっ、びゅるるっ…!と秘奥へと注がれる精液の熱さに、レオンの躯が震えあがった。


「あっ、あっ…ふ、あぁ……っ」


 熱の名残に酔ったように、虚ろな瞳で悩ましい声を漏らすレオンに、クラウドは気を良くしたように笑う。
とろとろと蜜を零し続けるレオンのペニスの先端を見て、それを強く握って蜜を絞り出せば、また甘い声が上がった。

 クラウドの指が、ゆったりとレオンの胸の上をなぞる。
ふるりと震える肩を見て、碧眼が満足そうに笑みを浮かべた。