抗う猫、一匹 2


 クラウドが寝室のドアを開けた時、スコールは裸身で床の上に座り込んでいた。
苦虫を噛み潰した表情で、青灰色が睨むのを見て、クラウドは薄い唇を笑みの形に歪ませる。

 クラウドはベッド横のシェルフ上に置いていた鎖を手に取った。
しゃらり、と二つの銀色がそれぞれに鎖を垂らす。
スコールはぎり、と歯を噛んで、固く目を閉じて頭を持ち上げた。
白い喉を囲う皮の首輪が差し出されると、クラウドは皮の上に光る銀色の金具に、鎖を一つ嵌めて繋いだ。
支配者に飼われていると言う現実から逃げるかのように、スコールはじっと目を閉じたまま、頭を下げる。
ちゃり、と喉元で鳴る金属音に、スコールは床に爪を立てて、噛み付きたい衝動を抑えた。

 ぐん、と鎖が引っ張られ、スコールの躯を力任せに持ち上げる。
姿勢を崩したスコールは、クラウドの脚元に頽れるように倒れ込んだ。


「ほら」


 降って来た声は、言葉少なく、しかし明確な意図を持ってスコールを促す。

 床に這い蹲った格好で、スコールは拳を握り締めた。
メスで体を刻まれるより、正体不明の劇薬で体内を焼かれるより、屈辱的に思えてならない。
それはきっと、選択肢のない状態で与えられる苦痛と、自ら選んで屈服する道を選ばなければならないと言う差の所為だろう。
他に生きる術がない以上、どちらも他に選べる選択肢がないのも同然であるが、選ぶ余地があったかのように見えるのが、スコールには酷く癪に障る。

 のろのろと起き上がるスコールを、クラウドはじっと見下ろしている。
ベッドに腰を下ろしたクラウドの傍に四つ這いで近付いて、スコールは固まった。
そのまま、いつまでも硬直していそうなスコールに焦れたか、


「判る筈だろう?毎日見ていたんだから」


 挑発するような声が降って来て、スコールは頭の芯が沸騰するのを感じた。

 厭が応にも見せつけられていた、兄の姿が脳裏に浮かぶ。
彼は、大丈夫だから、平気だからと、何度も何度も言っていたけれど、スコールにはそうは見えなかった。
泣きそうな顔で、汚物を自ら咥内に含んでしゃぶる様を、弟に具に見つめられて、彼はどんなに苦しんでいただろう。
“弟”として生み出されたスコールを守る為だけに、“兄”となったレオンは、自分の身を犠牲にする事を躊躇わない。
だが、そうして代わりとなった彼が、苦しまない訳ではないのだ。
そしてレオンは、何よりも、自分自身が傷付く姿を弟に見せる事を嫌った。
代わりとなった自分が苦しめば、庇われたスコールが酷く心を軋ませる事を理解していたから、レオンは自分がどれだけ酷い事をされても、スコールの前では笑って見せていた。
────それさえ、この世界に来てから、出来なくなっていたのだ。

 忘れられない。
忘れられる訳がない。
だから、兄が何をしていたのかも、思い出せる。

 スコールは噛んでいた唇を解いて、碧眼を見上げた。


「……俺が、あんたの…性欲処理、を、すれば…レオンは、しなくて、良いんだよな」
「そうだな。お前がちゃんと出来れば。レオンが退院するまでは」
「………」


 じり、とスコールは開かれたクラウドの足の狭間に身を寄せた。
どくどくと心臓が早鐘を打ち、スコールは喉奥から何かせり上がってくるような気がしたが、それを無理やり飲み込んで、もう一度口を開く。


「じゃあ……レオンが戻って来た後も、俺があんたの相手をすれば、レオンはあんたの相手をしなくて良いのか」


 スコールの言葉に、クラウドは片眉を潜めた。
じ、と見下ろす碧眼を、食い入るように見詰め返してやれば、クラウドはやがてその表情を笑みに変え、


「今までレオンがやって来た事を、お前が全部やるって?」


 出来るのか?とでも言わんばかりの支配者の表情に、スコールは何も言わない代わりに、じっと見詰め返す事で答えとした。
それを受けたクラウドは、そうだな、と顎に手を当て、焦らすように考える素振りをして見せ、


「判った。お前がレオンの分まで働けば、レオンにはもう手を出さない。レオンともそう言う約束をしたからな。お前は駄目だって言うのは不公平だ。だが、レオンが退院するまでにかかる費用もあるから、その分、お前の方が負担はかかると思うぞ。それでも良いなら、約束してやる」


 今後のレオンとスコールの生活の面倒と、これから数日間のレオンの入院費。
どれだけクラウドの相手をすれば、埋め合わせが出来るのか、人間社会の事情を知らないスコールに判る筈もない。
だから、こんな約束をした所で、クラウドが「満足しなかった」と言えば、レオンに再び魔手が伸びる。
────しかし。
クラウドは、レオンと「スコールに手を出さない」と言う約束をして以来、初日を除けば、スコールに行為を強要させる事はなかった。
レオンが意識を飛ばした後、時折物足りなさそうな表情を浮かべる事はあったが、それでもスコールを犯そうとはしなかった。
律儀に約束を守っていたのか、単に明らかに抵抗するであろうスコールを相手にするのが面倒だったのか、それはスコールには判らない。
だが、こうして約束だけでもして置けば、少しでも兄を守る事が出来る筈だ。

 レオンが傷付かないのなら、レオンを守る為なら、なんでもする、なんでも出来る。
スコールは自分自身に言い聞かせるように、胸中で何度も言葉を繰り返した。


(ずっと守ってくれたから)


 スコールが生まれた時から、試験管の中にいた時から、レオンは“兄”として、スコールを守ってくれていた。
培養液の中で、ガラス越しに初めて手を合わせた時、嬉しそうに笑ったレオンの顔を覚えている。
培養液がなくなって、立ち方さえ知らないスコールを抱き締めて、“兄”だと言ったレオンの顔を覚えている。
そうした記憶は、全て大切な宝物のように、スコールの頭の中にはっきりと残っていて、消える事はない。

 あの笑顔を守れるのなら、優しく抱き締めてくれる兄を助ける事が出来るのなら。
それ以上の事は、何も、望まない。


(もう子供じゃないから)


 レオンはいつまでも、スコールの事を幼子のように扱う。
けれど、今のスコールは、ただ庇護を求める事しか知らない子供ではない。
大切だと思うものの為に、力になりたいと思うし、兄を傷付ける者がいるのなら、牙を爪を尖らせて突き立てる事も厭わない。

 現実は、そんな事が出来る程、単純で容易くはなかった。
だからせめて、兄を傷付けようとするものから、兄を守りたい。
幼い頃から、体を張って自分を守り続けてくれていた、兄のように。

 スコールは目の前のジッパーの口を開けて緩めると、下着の下から男の性器を取り出した。
その大きさと、グロテスクな色と形に、スコールの顔が引き攣る。
思わず目を背けたくなったが、ちゃり、と男の手元で鎖の音が鳴るのを聞いて、寸での所で耐えた。

 両手で竿を包むと、どくどくと掌に脈が伝わってくる。
生暖かくて、まるで生き物のようで、気持ちが悪い。
これと同じ器官が自分にも存在している事は判っていたが、スコールは何か明確な目的意識を持ってそれに触れた事はなかった────一ヶ月前、目の前の男に無理やり触らされた時以外は。

 包んだ両手を上下に動かして、竿を扱く。
力加減がよく判らなかったが、握られると痛いものである事は知っていたから、潰さないようにとだけ努める事にした。
しかし、幾らやっても、ペニスはこれと言った変化を見せない。


「口も使え」


 クラウドの言葉に、スコールは恐る恐る口を開いた。
そうしてどうするのかは判っている、覚えている。
一ヶ月前に生まれて初めて味わった、吸えた匂いやおぞましい味が思い出されて、本能が拒絶するように体が固まりそうになるのを無理やり動かし、ペニスの亀頭を口の中に入れた。


「ん…ぐ…っ…」


 ツンとした匂いが鼻を突くのが嫌で、息を詰める。
そのまま頭を前後に動かしていると、咥内の質量が僅かに膨らんだような気がした。

 口の中で怖々と舌を動かし、亀頭の裏側を舐め、竿を両手で扱く。
スコールは、延々とその行動を繰り返していた。
それは途中までは刺激となってクラウドの雄が反応を表していたものの、やはり単調な感は否めず、クラウドは溜息のようなものを一つ吐き出した。
それを聞きとめたスコールの耳が、ぴくり、と頭の上で跳ねる。


「んぶっ……!」


 亀頭の裏側をちろちろと舌先で舐めていたスコールだったが、意を決したように動きが大胆なものになる。
裏側を辿り、亀頭の先端に舌を押し付けて擦る。
竿を扱く手の動きも早くなり、裏筋を指先が這って、尖った爪先が悪戯をするように微かに掠った。


「ふ、は…っ」


 それでもペニスは中々変化の兆しを見せない。
先にスコールが息苦しさに耐え兼ね、ペニスから口を離した。


「っは、けほっ…う…っ」
「終わりか?」
「……っ」


 必死に清潔な酸素を欲しがって咽るスコールを見て、クラウドは言った。
スコールはぎり、と歯を噛んで、首を横に振る。
本音を言えば止めたいけれど、それは赦されないから、耐えてもう一度ペニスに顔を近付ける。

 今度は亀頭の先端を手で柔らかく握って、竿に舌を這わせた。


「っは…んあ……は、ふ…ぅっ…」


 ぴちゃ、ぴちゃ、とたどたどしい舌遣いで、スコールはペニスを愛撫する。
竿に、亀頭にもまとわりついた唾液が、グロテスクな陰茎の表面をぬとぬとと滑り光らせて、更におぞましい光景を作っているような気がする。

 ペニスは少しずつ、上を向き始めていた。
両手で支えて持ち上げなくても、反り返って裏筋が見えるようになって、スコールは両手を離そうとした。
しかし、それを咎めるように、男の手元で鎖の音が鳴る。
ただ金属がぶつかって鳴るだけの音に、酷く怯えている自分が情けなくなって、視界がぐにゃりと歪む。

 目尻に涙を浮かべながら、必死に奉仕する猫の姿に、クラウドはうっそりとした笑みを浮かべた。
鎖を片手に握ったまま、空いていた手で濃茶色の髪の隙間から生えている耳をくすぐると、青灰色がじろりと睨む。
噛み付かんばかりの形相であったが、クラウドは平静としたままであった。


「そんなチマチマしたのじゃ駄目だな。初めてじゃないんだから、もう少し判ると思ったんだが。まあ、それも一ヶ月前の話じゃ無理もないか?」


 そう言って、クラウドの手がスコールの頭を掴む。


「ふ…んぐぅっ!」


 ぐぷっ!とスコールの喉奥にペニスが突き入れられた。
喉を押されて吐き気を催すスコールだが、クラウドは構わずにスコールの頭を前後に揺さぶった。
ぬぷっ、ぐぽっ、と咥内を性器が激しく出入りして、スコールは息苦しさと気持ちの悪さに吐き気を覚えていた。


「う、う…っ!ふっ、ぐっ、」
「喉が締まるのが良いな」
「んんっ、んっ、うぅう…っ!っは、ぐっ!」


 頭を振ってクラウドの手を払い除け、口の中のものを吐き出して逃げようとする。
しかし、首輪に繋がれた鎖に強く引っ張られ、膝立ちの格好で無理やり吊り上げられ、スコールは首輪を掴んで爪を立てる。
首輪を外そうと、がりがりと喉元を引っ掻くスコールに、クラウドは溜息を吐いて鎖から手を離した。


「あっ…!っは、が…げほっ、げほっ…!」
「やっぱりレオンと違って、いまいち物覚えが悪いな」


 兄の名前を聞いて、スコールははっと息を飲んだ。
恐る恐る男を見上げれば、彼は此方を見てはおらず、明後日の方向を向いて何かを考える素振りをしている。

 まずい。
失敗した。
また失敗した。
スコールはそう思った。

 幼い頃からそうだった。
痛くて苦しいばかりの実験で、自分が泣けば兄が身代わりになるのが決まっていたから、彼に辛い思いをさせたくなくて、耐えようと思った。
けれど、耐えても耐えても実験が終わる事はなく、最後には必ず兄を呼んで、意識を手放す。
次に目を覚ました時には、自分よりも痛ましい姿で笑う兄がいて、耐える事に失敗したのだと知る。

 此処でも、また、失敗するのか。
自分の代わりに傷付く兄を、また、守れないのか。


「……っ!」
「ん?」


 スコールは急くようにクラウドの足の間に体を滑り込ませると、己の唾液でぬらぬらと艶めかしく光るペニスを口に咥えた。


「んっ、…ん、んっ…!」


 亀頭の膨らみを舌で丹念に撫でながら、頭を前後に動かす。
竿の根本を柔らかく包んで、頭の動きと同じように動かして、刺激する。

 ペニスから口を離すと、一度呼吸を整え直して、亀頭の先端にねっとりと舌を這わせる。
苦味に思わず眉根が寄った。
気持ちの悪さに耐えながら、カリ首を舐めて、竿を横から舐めて辿る。
手で竿を立たせると、ペニスの裏筋の窪みに唇を押し当てる。
少しだけ口を開いて、人間のそれよりも尖りのある歯牙を宛がうと、ぴくり、とペニスが微かに震えた。


「噛んでみるか?」


 挑発するような声に、それが出来たらどんなに良いか、とスコールは思う。
兄を苛んだ悪魔の凶器を、食い千切って捨ててやれば、どれだけ────けれど、それは赦されない。

 顎に力を入れないように意識して、わざと尖った歯を当てる。
くく、と頭上で笑いを殺す声がして、スコールは眉間の皺を深くした。


(馬鹿にしてる)


 クラウドは、スコールが抵抗したくても出来ない事をよく理解している。
兄のレオンがそうであったように、スコールが、彼を守る為に、彼と一緒にいる為に、怒りも悔しさも飲み込んで、従うしかないと判っている事を、知っている。

 歯を竿に緩く当てたまま、舌で竿を舐める。
じゅる、ちゅぷ、と濡れた音が薄暗い部屋の中で反響していた。

 覚束ないながらも、刺激を与えている内に、ペニスは質量を増し、スコールの咥内には入りきらない程になった。
舐め続けていた所為で、閉じられなくなったスコールの口端からは、とろとろと唾液が伝い落ちている。


「はっ、ふ…ふ、ぐっ…んんっ…!」


 呼吸すら儘ならない程に大きくなった陰茎が、口を、喉の奥を圧迫して、スコールは息が出来なくなっていた。
鼻で息をしろ、とクラウドは言ったが、吸えた匂いを嗅ぐのが嫌で堪らなかった。

 息苦しさと酸素不足で、意識が朦朧とし始めた頃、ぐいっと首輪が引っ張られて、ペニスから離された。


「うぶっ…!ぷ、ふ、あっ、はっ…!」


 解放されたスコールの咥内から、溜まっていた唾液がぼたぼたと落ちて床を汚す。
それを見下ろして、スコールは泣きたい気持ちを殺すように、床に爪を立てていた。

 じゃら、と鎖の鳴る音に顔を上げると、ベッドの上から見下ろす碧眼とぶつかる。


「四つ這いになって尻を向けろ」
「……っ」


 命令の言葉に、スコールは歯を噛みながら従った。
四足になってクラウドに背中を向け、腰を高くして尻を突き出す格好になる。

 とろり、と冷たい物が臀部に落ちて来るのを感じて、スコールの躯がびくりと跳ねた。


「う、う……っ」


 ぬらぬらとした粘着性を持ったその液体と思しきものが、ローションと呼ばれるものであると、スコールは覚えていた。
毎晩繰り返される兄への凌辱の際、クラウドが決まってこれを使っていたからだ。

 皮の厚い大きな手が、なだらかな双丘の狭間に触れる。
ローションの助けを借りて、つぅ……と指先が狭間を撫で下り、慎ましく閉じた蕾に触れた。


「んぅ…!」


 指先が穴の周りをなぞる感覚に、スコールはぞくりと悪寒を感じて身を竦めた。
一ヶ月前、其処を初めて触れられ、暴かれた時の痛みの記憶が蘇る。

 触れる手を振り払い、逃げ出したくなる気持ちを、スコールは唇を噛んで耐えた。
逃げれば不興を買う、そうなったら兄がまた酷い目に、もしかしたら傍にいる事さえも出来なくなるかも知れない。
それこそ、スコールには、地獄に放り出されるようなものだった。

 ふーっ、ふーっ……と、息を殺して、本能的に湧き上がる衝動を押し殺す猫の姿に、クラウドは笑みを深め、


「強がりも我慢も良いが、果たしていつまで持つかな」


 問い掛けているような、独り言のような、曖昧なトーンで呟いて、クラウドはスコールの菊座に人差し指を当てた。
ぬぷ、と指先が穴を押し広げる。


「う…うぅうーっ!」


 ビクッ、ビクッ、とスコールの躯が跳ね、穴が侵入を拒むように強い力で閉じようとする。
スコールは額を床に擦り付け、フローリングに爪を立ててがりがりと引っ掻いてもがく。


「息をしろよ。そうすれば楽になる。教えただろう」
「ふぐっ、あ、あーっ!うぁあああっ!」


 クラウドの言葉は、半ば錯乱状態になって泣き叫ぶスコールにいは、聞こえていなかった。

 一ヶ月前は、何も判らなかったから、とにかく痛くて苦しいのが嫌で、支配者の言葉に従った。
そうして幾らか痛みは治まってくれたが、これはまだ悪夢の始まりに過ぎず、楽になった後に更なる苦痛が待っている。
それを思い出してしまったスコールは、クラウドの言葉に大人しく従う事が出来ず、かと言って逃げ出す事も出来ず、恐怖と理性の板挟みになって泣き叫ぶしかなかった。


「や、うあ、痛…!いや、だ、やだ、レオン、レオン!あぁあああっ!」
「レオンならいないぞ」
「やだ、嫌だ、嫌あああっ!」


 助けを求めて兄の名を呼ぶ猫に、クラウドは無慈悲な現実を突き付ける。

 事実、スコールがどんなに呼んでも、求める兄の姿は此処にはない。
そんな事は判っているのに、スコールは兄を求めずにはいられない。
自分が辛い思いをしている時、痛くて苦しい時、助けてくれたのは、いつも彼だったのだ。
だから───呼べば彼が代わりに傷付くと判っていても───スコールは兄の名を呼んでしまう。


「レオン、助け、て、レオン、れおん、」
「あいつの代わりをするんだろう?」
「ひぐぅっ…!」


 ずぷっ!と秘孔の中に指が突き入れられて、内壁を押した。
びくん、とスコールの躯が跳ねて、膝が震える。
黒い尾が股下に潜り込んで、縮こまるように丸くなった。


「い、ぎ…っ!う、ん、うぅう…っ!」
「お前が自分でやるって言ったんだ。レオンの分までやるってな」
「ふっ、ふぐっ、うっ、」


 ぐりゅ、ぐりゅ、と秘孔内で指が蠢いて、内壁を引っ掻くように掻き回される。
スコールの眦から、痛みにか、悔しさにか、ぼろぼろと大粒の涙が溢れ出す。
それを優しく撫でて拭い取ってくれる兄は、此処にはいない。

 レオンの代わりに。
今まで自分の代わりに傷付いて来たレオンの、代わりに。
レオンを傷付けていたものを、全部自分が引き受ければ、レオンはもう傷付く事はない。
スコールはそう信じていた。

 けれど、それよりも先に、自分の心が折れてしまいそうでならない。
助けたいと思っている筈の兄に、助けを求めてしまう位に。


「レ、オン…、レオン、レオン…!っふ、う…うぁ…!」


 縋るものを探すように、スコールの手が彷徨う。
しかし、どれだけ手探りに探してみても、求めるものは此処にはない。


「あ、あ…うぁああああ……」


 彷徨っていたスコールの手が床に落ちて、絶望を孕んだ声が響く。

 肩を震わせて泣き出したスコールに、クラウドは溜息を吐いた。
仕様のない、と呟いて、淫部に埋めていた指を引き抜くと、スコールの首輪に繋がれた鎖を引っ張り上げる。


「うぁ、」


 一瞬の息苦しさに、スコールは顔を顰めた。

 ベッドから降りて、床に胡坐を掻いたクラウドの膝上に乗せられる。
膝裏を掬い上げるように持ち上げられて、足を大きく左右に開かされた。
股の間で尻尾がふるふると小刻みに震えて丸まっている。


「抵抗するのも泣くのも別に構わないんだが、このまま突っ込んだら、本当に俺のを食い千切りそうだからな。もう一度、楽になれる方法を教えてやる」
「……いら、な…い……」
「足、閉じるなよ。そのままの格好でいろ」


 スコールの訴えなど、クラウドは最初から聞いていない。
辛うじて吐き出した抵抗の言葉を無視して、クラウドは命令した。

 スコールは悔しさに歯噛みしながら、言われた通り、背中をクラウドに預けて、足を開いて淫部を晒した格好を保つ。
すらりと伸びた白い脚を、クラウドの手がゆったりと撫でる。
掌がふとももの内側を撫でると、スコールの躯にぞくりとしたものが奔って、息を詰める。


「よく思い出せよ。前にした時、痛い事ばかりじゃなかっただろう?」


 耳元で囁く声に、スコールは首を横に振った。
覚えているのは痛みと息苦しさと、気持ちが悪かったと言う事だけ。
あれから一ヶ月の間、レオンが傷付けられていく姿を見せつけられていたから、尚の事、スコールにとって“性欲処理”とは苦痛を伴うものとして認識されていた。

 やれやれ───と背後で聞こえた溜息に、スコールが身を固くしていると、


「───あっ!」


 きゅう、とスコールのペニスが緩く握られて、スコールの躯が跳ねた。
目を丸くするスコールの反応に構わず、クラウドはペニスを包んだまま、上下に扱いて刺激を与える。


「いっ、ひっ!や、離し、離せっ!」
「そんなに怯えるな。別にこれは痛い事じゃない。痛くして欲しいなら、暴れていても構わないが」


 どっちが良い、と囁かれて、スコールは唇を噛む。
痛いのも、苦しいのも、嫌いだ。
ならば、大人しくしているしかない。

 暴れるのを止め、大人しくなったスコールに、クラウドは「それで良い」と言った。
褒められているのかも知れなかったが、スコールには揶揄されているようにしか聞こえない。

 クラウドの手の中で、刺激を与えられたペニスが膨らんでいく。


「うっ、んっ…んっ…!」


 ぴくっ、ぴくっ、とスコールの躯が小さく跳ねて、白い肌が汗ばみ、ほんのりと赤みが滲んで行く。

 先端の穴に爪を立てられて、スコールは息を詰めた。
強張った体を見下ろして、クラウドはうっそりと笑みを浮かべ、爪先で亀頭の先端を擦ってやる。


「ひっ、いっ…!う、んんっ!」


 先端を掠められる度、スコールの躯が痙攣したように震える。
ぞくぞくとしたものが背中を這い上がってくる感覚に、スコールは拒否するように頭を振った。


「ほら、どうだ?」
「うっ、う…!や、だ…嫌だ……っ!」


 痛みなど感じる事はないけれど、這い上がってくる正体不明の感覚が恐ろしくて、スコールは吐き出すように嫌だと訴える。

 クラウドはスコールの肉棒に刺激を与え続けながら、やれやれ、と溜息を零す。


「やっぱり甘やかすのは良くないな。半端に知識がついたか」
「ひっ、ひぅっ…!ん、っん…!うぅう…っ」


 ぐるぐるとスコールの喉が鳴る。
威嚇の意思を臭わせる音であったが、スコールの内情を示す黒く細い尻尾は、相変わらず股の間で丸められている。

 クラウドはスコールの手首を捉まえた。
突然の事に、びくりと怯えるように震えた細い腕を引っ張れば、スコールは大人しく従う。


「どうもお前は俺が嫌いみたいだからな。今日は自分で此処を触れ。そうすれば気持ち良くなれるだろ」
「…ないっ…ならない……!」
「なるさ。前にも一度、気持ち良くなってるんだからな」


 囁かれた言葉に、スコールは、一ヶ月前にも同じように自分で性器に触れた事を思い出した。
あの時、背中を昇って来た正体不明の感覚は、今クラウドに亀頭を弄られた時のものと同じだったような気がする。
いや、それよりももっと強くて、大きくて、逆らい難い衝動があったような。

 ほら───と、クラウドはスコールの手をペニスへと導く。
指先に触れた肉棒は、ひくひくと震えていて、緩く頭を持ち上げていた。

 スコールは、固まったまま、動けなくなっていた。
そんなスコールに焦れたのか、クラウドの手がまたスコールを導く。
手を重ね合わせて、強引にスコールの手でペニスを包ませる。


「ひ、」


 生暖かい自分の手が、どくどくと脈を打っているペニスに触れている。
気持ち悪い、と思うと同時に、ぞくんとしたものがスコールの下肢から沸き起こった。


「オナニーだ。前にも教えただろ。レオンがしていたのと同じようにすれば良い」


 囁かれた名を聞いて、スコールの脳裏に、支配者の命令に従う兄の姿が浮かぶ。

 クラウドは、気紛れにレオンに自慰の命令を出していた。
レオンは命令に従い、クラウドに見せつけるように足を開き、自身のペニスを扱く。
時には「性教育だ」と言うクラウドの気紛れで、傍観を強制されているスコールを前にして、行われる事もあった。
自慰行為は、最初は緩慢としたものから始まって、レオンの呼気が上がるにつれ、大胆なものへと変わって行く。
先端からとろりとした蜜が溢れ出す頃、レオンの表情も熱に染まったものへと変貌し、最後には悩ましい喘ぎ声を上げながら、果てる。
射精する事を赦されず、絶頂間際まで高められた状態で、クラウドのペニスへ奉仕をする事もある。
高められた状態で留められている時、レオンは酷く狂おしげな吐息を漏らし、縋るような目でクラウドを見ていた。
強い理性で、クラウドに従いながらも、スコールを気遣うように「大丈夫」と繰り返すレオンが、その言葉さえも忘れてしまうのは、そんな時だった。

 兄を狂わせてしまう行為は、スコールにとって、恐怖でしかない。
だが、出来なければ支配者の不興を買うだろう。
スコールは震える手で、自身の中心部をゆるゆると扱き始めた。


「…っ、…ん…っ…!」


 手の中でペニスが擦られる度、下肢から何かが這い上がってくるような気がする。
自分がしている事と、湧き上がってくる正体不明の感覚への恐怖を、唇を噛んで押し殺す。


「んっ、んっ…!う、うぅ…ふ……っ!」


 手を上下に動かす度に、ぞく、ぞくん、と背中が震える。


「ちんこの先っぽ、爪立ててみろ」
「………っっ!」


 言われた通りに亀頭の先端に爪を当てる。
それだけで、電流を流されたかのように、ビクン!とスコールの足が跳ね上がる。


「声も出した方が楽になるぞ」
「ふ……あっ、あ…!」


 顎に手を添えられて、唇を指先でなぞられる。


「声を出せ。レオンも、ちゃんと声を出していただろう?」


 レオンもしていた。
レオンと同じようにすれば良い。
クラウドは、繰り返しそんな言葉を使っていた。
そうすれば、スコールは兄の事を思い出し、彼を守る為にと従順に従う。

 硬く引き結ばれていたスコールの唇が、緩む。
唇の隙間にクラウドの指が滑り込んで、スコールの舌を指先が摘まんだ。


「んぁっ…!」


 無理やり口を開けられて、舌を外へと引き出される。


「手が止まってるぞ」
「んぁっ…あっ、あ……はっ…!」


 口を開かれ、舌を伸ばされた状態で、スコールは雄への刺激を再開させた。
息を止める事が出来なくなって、はっ、はっ、と断続的な呼吸が室内に響く。

 ペニスを包む手に、ぬるぬるとした感触が現れ始めた。
気持ち悪い、と眉根を寄せていると、


「どうだ?気持ち良くなって来たか?」


 問う男に、スコールは舌を摘ままれたまま、小さく首を横に振った。
「ふぅん?」と含みを持った声が聞こえ、


「ちんこ、どうなってる?」
「ふ、あ…ろ、ぅ……?」
「さっきよりも硬くなってないか」


 硬く───なって、いる。
掌に伝わる触感が、最初に触れていた時と違う事に、スコールは気付いた。


「先っぽから何か出てないか」


 言われてスコールが下肢を見れば、尿道の穴からとろりと白いものが零れ出している。


「ら、に……あっ、ふ…ふぅうっ…!」
「気持ちが良いと出るものだ。前にも教えたぞ」
「知ぁ、な、ひ…ぃ…」


 ぬるぬるとした感触が嫌で、雄を扱く手を止めようとすると、咎めるように摘ままれた舌に爪を当てられる。
ぴり、とした痛みが舌先に走って、スコールは再び手を動かし始めた。


「いつまでも擦ってばっかりじゃイけないぞ」
「う、う…んっ…」
「フェラしてた時と同じようにすればいい。先っぽと、裏の凹んでる所があるだろう?其処を刺激すればいい」
「う、う……!」


 言われるがまま、亀頭の先端と、竿の裏筋に指を当てて擦る。
途端、ぞくぞくとしたものが急速に増えて行くような感覚がして、スコールの口から零れる吐息に熱が篭る。


「ふっ、はっ…!は、あ、あ…っ!───ああっ!」


 加減が判らず、ぐりゅっ、とペニスの先端の穴を指の腹で抉ると、痺れのようなものが下腹部に響く。


「良い反応だ。そのまま同じように続けろ」
「はっ、あっ!う、ふぅっ、んぅううっ!」


 先走りの蜜を溢れさせる穴に、ぐりぐりと指を押し付ける。
ひくっびくっ、とスコールの腹が震え、足先がピンと強張った。

 舌を摘まんでいたクラウドの指が離れても、スコールはもう口を閉じようとはしなかった。
出来なかったと言うのが正しい。


「あっ、はっ、あっ…!ふ、ん、あぁ、あっ、」


 ペニスの先端を抉り、裏筋を擦る度に、ぞくぞくと沸き起こるものが、スコールの思考を蕩けさせていく。
抗う意思を見せていた青灰色の瞳は、困惑と情欲が綯交ぜになり、頼りない光を揺らめかせている。


「気持ちいいか?スコール」
「ふあっ、あっ、あっ…!は、あ…わ、かんな、いぃ……っ!」
「判らなくても止めないって事は、気に入ったって事で良いな」
「はぅっ、あっあうっ!ひっ、んっ、んっ、ふぁあっ!」


 いつ終わるのか───そもそも終わらせてくれるのか───判らない自慰行為。
早く終わってくれ、と胸中で祈りながら、その為に何をすれば良いのか、スコールには判らなかった。

 湧き上がる、この正体不明の衝動は、どうすればなくなるのだろう。
自慰行為は前にも一度強制されたが、その時はどうやって終わったのだったか。
レオンはどんな風にしていたのか。
毎日のように見せられていた兄の痴態を、スコールは必死に思い出そうとしていた。


「あ、あ、あ!レ、オン、レオン、レオン、」
「自分の兄貴をオカズにしてるのか?」
「ふあっ、レオン、レオンん…!あっ、あっ、レオ、レオン…っ!」


 おかず、とはなんだろう。
単に食事について話をしている訳ではないのは判ったが、スコールに言葉の意味を尋ねるような余裕はなかった。

 スコールはただ、兄に助けを求めていた。
判らない事を教えてくれるのも、怖いものから守ってくれるのも、いつもレオンだった。
今この場に彼はいないのだと、絶望と共に突き付けられた現実を理解していても、やはりスコールには彼しか頼れるものはない。
だから、記憶の中の兄に助けを求めて、彼が毎晩どんな風にしていたのかを必死に思い出す。


「はっ、あっ…!あ、う…イ、くの…イく、うぅ…!」
「イく?もう自分でイけるのか」


 呑み込みが早いな、と笑みを含んだ男の言葉に、スコールは違う、と首を横に振った。


「はっ、あっ…!イく、の、イくの、わからな…っ!来るのに、来てるのにっ、いっ、あっあっ!あぁあ…!」


 気持ち良かったら出るものが沢山出れば、きっと解放される。
スコールは、記憶の中の淫靡な光景から、それを思い出していた。
しかし、ペニスからはとろとろと先走りの蜜が溢れて行くばかりで、熱の奔流は未だに体内で燻ったまま、じりじりとスコールを内側から焦がして行く。

 夢中───と言うよりも、必死になって竿を扱き、亀頭の先端を指でぐりぐりと刺激しているスコールに、ああ成る程、とクラウドは得心した。
躯を強張らせ、湧き上がる言いようのない衝動に逆らう事も出来ず、かと言って先に進める事もなく、苦悶と熱の篭った表情を浮かべるスコールに、クラウドは昏い笑みを浮かべ、


「そう言えば、前は俺がイかせてやったんだったな。此処まで自分でやるのは、初めてのようなものだったか。手伝ってやろう」


 クラウドの手が、スコールの手を退かし、反り返ったペニスを握る。
びくん、とスコールの躯が跳ねた。


「や、あっ!あっあっ、やめ、あっ」


 竿を激しく扱かれて、スコールは喉を反らせて喘ぎ泣く。
ぞくん、ぞくん、と背中を奔る甘い痺れに、スコールは頭の中が白熱して行くのを感じた。


「ひっ、はっ…ああ!う、やぁっあっ!な、んでぇ…ひぃうっ!」


 クラウドがしている事は、自分がしていた事と同じなのに、感じるものが違う。
自分がしていた時よりも、湧き上がってくる衝動で、理性も意思も全て押し流されて行くような気がする。

 スコールの声が高く、悲鳴のような色を帯びて行く。
怯えを示すように、スコールの手がクラウドの腕にしがみ付く。


「ふぁ、あ、や!あっ、ああっ、あぁああっ!」
「ほら、精液が出て来たぞ」
「ひっ、ひうっ、んっんっ!あっひ、ひいぃいんっ!」


 一際高い声を上げながら、がくがくと全身を震わせ、解放を訴えるように縋るスコールに、クラウドはくく、と喉で笑う。
ペニスの裏筋に爪を立てて掠め辿り、カリ首の凹みをぐりっ…!と指で抉った瞬間、


「ふあっ、あっ、来るっ!イ、くの、来るううっ!」


 慟哭のように響くスコールの声と共に、びゅるるっ!とスコールのペニスから精液が吐き出され、スコールの太腿とクラウドの手を汚す。

 スコールの躯は強張ったまま、ヒクッヒクッと痙攣したように震えている。
瞳は茫洋とし、虚空を見上げて彷徨っていた。


「あっ…あ……」


 ひくっ、ひくっ、と四肢を震わせ、意味のない音を零すスコールを見て、クラウドは満足げな表情を浮かべる。

 クラウドが抱えていた膝を解放すると、スコールはくったりとクラウドの胸に寄り掛かった。
ちゃり、と首下で鎖の音が鳴っても、怯える様子も、睨む様子も見せない。
放心状態となっているスコールを、クラウドは自身の膝上から下ろすと、背中を押して四つ這いにさせた。

 頭を下げ、床に膝を立たせて、腰を高く掲げているスコール。
尾骨の上から生えている黒い尻尾までもが、力を失ったように項垂れていた。
その尻尾の陰から覗く慎ましやかに閉じている蕾に、クラウドの指が伸ばされ、


「んぅっ…!」


 くぷ…と人差し指の先が埋められて、スコールの喉からくぐもった声が漏れる。
いや、と言う小さな声が漏れたが、それは最早支配者の耳に届くような大きさではなかった。

 埋められた指は、徐々に深い場所へ潜り込んでいき、閉じられていた内壁を拓いて行く。


「んあ…あっ…あっ…」


 這い上がってくる異物感に、スコールは弱々しく首を横に振った。
しかし、拒絶を示す意志とは裏腹に、スコールのアナルはぬぷぬぷとクラウドの指を飲み込んで行く。


「まだ少しきついが……さっきよりは大分マシになったな」
「あ、う……んんっ!」


 ずるり、と淫部を弄っていた指が引き抜かれ、内壁をなぞり連れて行かれる感覚に、スコールは短い悲鳴を上げた。

 床に這い蹲り、荒い呼吸を繰り返しているスコールのアナルに、生暖かい塊が押し付けられる。
その正体をスコールが確かめる暇もなく、それはぐち…と脾肉を押し広げながら、スコールの体内へと侵入してきた。


「ひっ、いっ…!あ……!」


 指とは比べ物にならない程の圧迫感と異物感、おぞましさ、そして一ヶ月前にも同じものを味わった恐怖を思い出して、スコールは息を詰めた。
ひくん、と詰まった呼吸に連動するように、アナルの脾肉が蠢いて、クラウドのペニスを締め付ける。
しかし、すっかり力の抜け切った躯は、それ以上の抵抗を示す事が出来ず、ゆっくりと肉を広げられて侵入者に暴かれて行った。


「あっ、あっ、んん…!ふ、ぅ……や、だ…ぁ……っ」


 ビクッ、ビクッ、とスコールの指先が跳ねて、爪が床を削る。
立てた膝がじりじりと逃げを求めるかのように動くのを見下ろして、クラウドはくくっと笑う。


「ケツ振ってるようにしか見えないな」
「あ、う…う、」


 肉棒を咥えたまま、解放を求めてゆらゆらと蠢く細い腰。
それは支配者の視覚趣向を満たす為にしかならず、スコールは己の体内で熱の塊が幾許が大きく膨らむのを感じた。

 腰が揺らめく動きに合せて、黒く細い尾が揺れる。
クラウドは徐に手を伸ばして、それを捕まえた。


「ふうっ…!」


 びくん、とスコールの躯が跳ねて、雫を浮かべた青灰色が肩越しに振り返る。
怯えと憎しみの入り交じった猫の貌を見下ろしながら、クラウドは細い腰を捉まえ、一気に雄を突き入れた。


「んぐぅうっ!」


 突き犯された衝撃と、喉奥までせり上がって来た吐き気を堪えたスコールだったが、尾を力任せに引っ張られる痛みに襲われて、お思わず声を上げる。


「いあっ、あっ!痛…あぁあっ!」
「そうやって声を出しておいた方が楽だって、前にも教えただろ。レオンも声を出していたの、見ていただろう?」
「はっ、あっ…!痛、離せ、え…っ!」
「なら、ちゃんと声を出せ。息を詰めると返って苦しくなる。締めはそっちの方が良くなるが────」


 最奥の壁を押していたペニスが、ゆっくりと下がって行く。
ぬりゅぅう…とペニスの一際大きな部分が内壁を広げながら擦って行く感覚に、スコールの噛んでいた唇から力が抜けて行く。
それを見て、クラウドはスコールの尻尾を解放した。


「うあ…あっ、あっ……!」
「よし。良いぞ、緩んできた」
「ふ、あっ」


 太い部分を残して抜けていた肉棒が、また奥へと挿入される。
ずにゅっ、と深くなった侵入を、脾肉がヒクヒクと蠢きながら迎え入れる。

 一度絶頂を迎えた所為で、心的な状態を除けば、スコールの躯は弛緩されている状態に近かった。
詰めた呼吸の所為で辛うじて強張っていた四肢の筋肉は、呼吸のリズムを取り戻すと共に、また緩和へと向かう。
伴うように、ペニスの侵入を固く拒んでいたアナルの内も緩んで行く。

 クラウドは、ぬらぬらとした壁が纏わりついて来るのを感じながら、腰を前後に動かし始めた。
ぬりゅっ、ぬぢゅっ、と粘ついた音が暗がりの部屋の中で響く。


「んっ、んっ…!ふ、あっ…あっ、あっ…!」
「どうだ?痛いばかりじゃないだろう?」
「う、うっ…あっ、ん…!ふぅっ……!」


 確かに、声を、呼吸を留めないようになってからは、痛みらしい痛みは緩和された。
しかし、それがスコールにとって慰めになる事はなく、痛みの代わりに再度浮かび始めた正体不明の感覚が、スコールの思考を戸惑いへと導いていく。


「例えば、この辺りとかどうだ?」


 そう言って、クラウドは腰を一度引くと、上壁を狙って突きいれた。
ぐりゅっ!と押し上げられたその一点から、スコールは電流が迸るような感覚に襲われる。


「ひうっぁぁあんっ!」


 甲高い悲鳴が響いて、スコールの躯が強張る。
目を白黒とさせるスコールに構わず、クラウドは同じ場所を何度も何度も突き上げた。


「ひっ、ひうっ、あうっ!あっ、あっ、あっ!」


 ずんっずんっと突き上げられる度、解けたスコールの口からあられもない声が響く。
何度も繰り返されるその刺激に、腹の奥にじくじくとした違和感を訴え始める。
それは先刻、必死でオナニーをしていた時、“イく”に達する事が出来なくて、焼き切れそうなもどかしさに苛まれていた時にも感じていたものだった。


「あっ、やっ、嫌っ!嫌だ、あっ、あっ!」
「前立腺だ、覚えてるか?レオンも此処を弄ってやったら、気持ち良さそうにしてただろう。此処なら、お前も気持ち良いだろ?」


 ────前立腺。
微かに聞き覚えのある単語であったが、スコールにはそれを確りと思い出す余裕はなかった。

 じくじくとした違和感が、腹の奥だけではなく、体の全体に拡がって行くような気がする。
それはスコールの脳髄にまで到達し、目の前が明滅するようにブレるのを感じて、スコールは言いようのない恐怖を感じた。
しかし、恐怖以上に逆らい難い“何か”が迫る。


「んやっ、あっ!んっ!気持ち、悪、い、っ…!」
「違うぞ、スコール」
「ひきゅうっ!」


 ぐりゅっ!と前立腺を押し潰すように突き上げられて、動物染みた悲鳴が漏れた。
前立腺を押し上げられたまま、スコールはヒクヒクと下肢を戦慄かせ、恐怖と正体不明の感覚に打ち震える。

 首輪に繋がれた鎖が引かれて、スコールの首を圧迫する。
息苦しさに顔を顰めるスコールの耳元にクラウドが顔を近付け、囁いた。


「気持ち良い、だ。言ってみろ」
「う…ぅ……っ」


 クラウドの言葉に、スコールは首を横に振った。
直後、ずるり、と雄が引き抜かれて行き、ぐちゅっ!と前立腺を突き上げられる。


「んぁあんっ!」
「言ってみろ」


 低い声音で囁かれ、スコールは無意識に体を震わせた。
この男の機嫌を損ねる訳には行かない。
また耐える事に失敗して、レオンに辛い思いをさせない為にも、支配者の言葉には従わなければならないのだ。


「……き、もち、……」
「聞こえない」
「ひ、う……あぁんっ!」


 ずりゅぅ…と引き抜かれたペニスが、また穿たれる。
スコールは頭の芯がぼやけてくるのを感じながら、震える唇で命じられた言葉を紡いだ。


「きも、ち…、い、い……」
「もう一度」
「っは……きもち、いい、っ…!」


 自分の耳でもはっきりと聞き取れる声量で、スコールは言った。
途端、じくじくとした腹の奥の疼きが、酷く甘ったるい疼きになったような気がして、


「そうか。気持ち良いか」


 耳元で囁かれた言葉に、スコールは首を横に振る。
しかし、始まった律動に体を揺さぶられる度、零れる声にもまた奇妙な甘さが含まれているように聞こえた。


「ひっ、あっ、あっ!んあっ、あうぅ…っ!」
「これは気持ちの良いものなんだ。だからそんなに嫌がるなよ」
「んっ、んあっ!っは…やだ、あっ…!んっ、んっ!」
「レオンの分までするんだろ?だったら、ちゃんと覚えておいた方が楽になる」


 囁かれた兄の名に、スコールは閉じていた瞳を開く。
ぎゅう、と噛んだ唇が、ゆるゆると解かれて、律動に合せて声が漏れる。


「ふっ、あっ…!あっ、んっ、んあっ…、ふ…うあぁんっ…!」


 前立腺を突き上げられ、刺激のままに声を上げている内に、腹の奥でじくじくと疼いていたものが、体中に行き渡って行くような気がした。
まるで血液の循環のように、呼吸を、声をする度に、疼きが広がって行く。

 ぬりゅっ、ぬりゅっ、とクラウドのペニスの動きに合せるように、スコールの呼気が上がって行く。
同時に、ヒクヒクと蠢く内壁が、スコールの疼きを男に伝えるかのように、クラウドのペニスに絡み付いて行く。


「あ、う…あっ、んっ…!レ、オン…あっ、あっ…!んっ…!」


 ぞくぞくとしたものに支配されて行く体が、自分のものではないような気がして、スコールは助けを求めるように兄を呼んだ。
脳裏に淫部を犯され、あられもない姿で乱れ来る兄の姿が過ぎって、レオンもこうだったのか、と何処か他人事のような思考が働いた。

 きゅうぅ、と絡み付いて締め付ける内壁に、クラウドの眉根が潜められるが、床に縋るように俯せになったスコールがそれに気付く事はない。
ぐぷっぐちゅっ、ぐちゅっ、と律動のリズムが早くなり、スコールの呼吸がまた乱された。


「ふ、あっ、あ!んっ、あっ、うぅんっ!」
「っは…く……!」
「あっ、あっ、はっ、ひんっ!ひっ、うっ、あぁっ、ああぁっ」


 ぬぽっ、ぬぼっ!とペニスが激しくスコールの淫部を出入りする。
秘穴を擦られ、抉られ、押し広げられていく感覚に、スコールは正体不明の疼きが更に高まって行くのを感じ、


「や、あ、イくっ!イくの、イくの来るっ!」
「ケツ穴だけでイくか。射精はなさそうだが……っ、いい締まりだっ…!」
「や、あ!あ、頭、壊れるっ…!また変になるうぅうっ…!!」


 ビクッビクッ!とスコールの躯が痙攣するように大きく跳ねて、クラウドのペニスを強く締め付ける。


「くっ……出すぞ、スコール!ちゃんと飲めよっ!」
「ふあっ、あっ!やぁあああっ!」


 どくり、と体内で体積を増したペニスから、どろりとした熱いものが吐き出され、スコールの直腸へと注がれていく。
びゅくん、びゅるるっ!と叩き付けるように放出されていくのを感じながら、スコールの躯も二度目の昂ぶりへと追い詰められる。

 男の欲望をその身に受け入れながら、ビクン、ビクン、と戦慄かせるスコールに、クラウドはうっそりとした笑みを浮かべた。


「ドライでイったみたいだな」
「ひっ、は……あ……っ?」


 クラウドの言葉の意味が判らず、スコールは茫洋とした瞳で辛うじて声を漏らす。
だがその表情は、自身の躯と同様、蕩け切ったように弛緩しており、口端からは唾液が溢れて床に水溜りを作っている。

 クラウドがゆっくりと腰を引いて、ずるぅ……とペニスがスコールの体内から抜き去られて行く。
一際強い締め付けの後、緩んでいた内壁が、擦られる感覚に誘われたように、ひくん、と微かに蠢いた。
まるで物欲しげに縋り付いて来る内壁に、クラウドは誘われる自分を自覚しつつ、ペニスを最後まで抜き去る。


「……ふ、あ……」


 かくん、とスコールの膝が崩れて、床に落ちた。
栓を失ったスコールのアナルから、こぽり、と白濁液が溢れ出す。


「起きろ、スコール。こっちを向け」


 命令の言葉に、スコールはのろのろと起き上った。
下半身にはまるで力が入らず、腕の力だけで体を運んで、クラウドの方へと向き直る。

 ずい、と眼前に突き付けられたものから、スコールは思わず目を反らそうとして、寸での所で耐える。
目の前のクラウドのペニスは、挿入される前と同じ────いや、それ以上の大きさに膨らんで勃起したままになっていた。
白濁液に塗れた性器は、粘ついた白い液体とのコントラストの所為か、最初に見た時よりも気持ちが悪いものに見える。
クラウドはそれを自分の手で包み込むと、上下に扱いて刺激を与え、


「……っく!」
「っ!!」


 びゅるっ、びゅくっ、とペニスの先端から吐き出された精液が、スコールの顔を汚す。
思わず目を反らしたスコールだったが、クラウドは構わずにスコールの髪や頬に精液をかける。

 鼻を突くような据えた匂いに、スコールは吐き気を催した。
ぐ、と喉奥に詰まった嗚咽感を、無理やり飲み込んで殺す。


「は……ま、今日はこんな所か」


 気が済むまで射精したのか、クラウドはそう言って立ち上がった。


「二度目と言っても、殆ど初めてのようなものだし。俺も今日は疲れた」
「……終わ、った……?」
「ああ。今日の所は、な」


 言って、クラウドはスコールの鎖を引く。
持ち上げられて呼吸の苦しさに顔を顰めるスコールに、クラウドは顔を近付けた。


「明日からちゃんと頑張れよ、スコール。レオンの分までするんだろ?」


 薄らと笑う男の碧色の中に、スコールはぽつんと座り込んでいる自分を見つける。
その瞳がいつも見ていた兄は、此処にはいない。
寂しいの悲しいのか、安堵したのか、自分でもよく判らないまま、スコールは意識が暗闇に溶けて行くのを感じていた。