抗う猫、一匹 4


 後生大事に握り締めていた鎖を、取り上げられる。
返せ、と零れかけた言葉を、スコールは寸での所で飲み込んだ。

 奪われた鎖と、見下ろす碧眼をじっと睨む蒼灰色を、クラウドはいつもと変わらない、薄い笑みを浮かべた表情で見下ろしている。
ちゃり、と彼の手の中で取り上げられた鎖が音を鳴らす。
クラウドが自分の顎をくい、と上げて促すのを見て、スコールはぎり、と唇を噛んだまま、喉を晒すように仰け反らせ、隷属の証である首輪を見せる。
クラウドは首輪に一本の鎖を引っ掛けると、ぐっと鎖を引っ張ってスコールを自分の足下へと引き寄せた。


「っ……!」


 前足を縺れさせるように姿勢を崩したスコールは、クラウドの足下に跪くように倒れ込んだ。

 クラウドはベッドの上に腰を下ろし、無言でスコールに“するべき事”を催促する。
スコールは唇を噛んで起き上がり、クラウドの足の間に体を割り込ませ、ズボンのジッパーを下げた。
鼻を突く据えたような匂いで、眉間に皺が寄るのは、最早条件反射のようなものだ。

 ずるり、と取り出した性器は、頭を下へと草臥れさせている。
スコールは息を詰めたまま、舌先で亀頭の先端をぴちゃぴちゃと舐めながら、軟体動物のような触感の竿を両手で持ち上げて支える。


「ん…っふぁ……ん…」


 亀頭の形をなぞるように舌で舐めた後、スコールは戦慄く唇を開けて、男の中心部を咥内へと招き入れた。
喉奥から競り上がって来る吐き気を堪える。

 ぬるぬると、生温い感触が舌の上を滑る。
舐めているのは自分の方なのだが、手の中で歪な脈動を感じる所為だろうか、蛞蝓のような生き物に侵入されているような気がする。
生物が持つ器官の一部だと思えば、これも生き物である事は変わらないが、そういう事ではなく────“これ”そのものが生き物の一つであるかのような違和感が拭えない。

 口の中で、舌先で窪みを探して、なぞる。
据えたような匂いを嗅ぐのが嫌で、スコールはずっと息を詰めていた。
酸素不足の苦しさで、頭の芯がぼやけて行くような気がして、スコールはペニスから口を離す。


「んっ…は…あっ……!」
「休むな。手を動かせ」


 呼吸を整えようとするスコールに、クラウドは言った。
スコールは苦々しく顔を顰めながら、竿を握る手を上下に動かす。

 ぬちっ、ぬちゅっ、と手の中で粘つく肉の塊。
少しずつ頭を持ち上げて行くそれに、スコールはもう一度顔を近付けた。
支え起こしたペニスの裏筋に舌を押し当てて、根本から上へとゆっくりと舐めながら、指先でカリの膨らみを柔らかく握る。

 むくむくと質量を増して行く手の中の生き物が、昨夜、自分の中に潜り込んでいたのかと思うと、悍ましくて仕方がない。
それ以上に、これが兄を凌辱していたのだと思うと、何度となく噛み付きたい衝動に囚われる。


「咥えろ」


 頭上から降って来た言葉に従って、スコールはもう一度ペニスを口の中へと入れた。

 頭を前後に動かして、咥内で肉棒を扱く。
けれども、レオンがしていたように喉奥まで咥えるには至れず、スコールの奉仕は口先だけの拙いものにしかならない。
生理的な嫌悪感でそれ以上の奉仕を無意識に拒絶していたスコールだったが、ちゃり、と鳴った金属の音に、頭の上の黒い耳がピンと立った。
スコールは眉根を寄せ、半ば無理やりにペニスを喉の入り口まで咥え込む。


「んんっ…!」
「また手が止まってる」
「…っふ、ぐ……!」


 スコールは口の中でペニスを舐め転がしながら、収まり切らない竿を手で扱く。

 クラウドの手がスコールの頭を掴み、スコールの頭の角度を変えた。
ぐぬっ、と突き入れられたペニスの亀頭が、スコールの頬を内側から押し上げて膨らませている。
咥内を強引に広げられる感覚に眉根を寄せながら、スコールは懸命に舌を動かし、咥内を蹂躙する肉棒を追う。

 息を詰めている所為で飲み込めない唾液が口の中に溜まり、ペニスに絡み付く。
ずるずるとした質感が舌に押し付けられているような気がする。


「ちゃんとしゃぶれよ」


 手を抜くな、と言う言葉が聞こえたような気がして、スコールの肩が強張る。

 ペニスを咥えたまま、スコールは少しの間静止して、呼吸を整えた。
咥内に溜まった唾液を僅かに飲み込むと、喉奥を饐えたものが落ちて行くのが判って、スコールは反射的な嘔吐感ごともう一度飲み下す。


「ん、ぷっ…!んぢゅっ…!」


 ぢゅっ、ぢゅるっ、と水音を啜る音が鳴る。
竿に纏わりついた自身の唾液を舐め取りながら、スコールは思考を棄てるように、一心不乱にペニスに奉仕する。

 スコールの頭を捕えるように掴んでいたクラウドの手が、ダークブラウンの髪を撫でるように滑る。
下りた手の指先がが形の歪んだスコールの頬に触れて、くく、とクラウドが喉で笑った。
昏い碧眼には、目尻を尖らせてペニスを咥える猫の姿が映り込んでいる。
スコールは其処にある己の顔を見たくなくて、目線を落とし、ペニスをしゃぶる。

 ちゅぷ、ちゅぷ、と淫音が空気を震わせる傍ら、息苦しさで少しずつ乱れて行くスコールの呼気が聞こえ始める。


「んっ、う、ふっ…!はぷ、ん、んぐぅ…っ」


 ちゅぷ、ぢゅうっ、ちゅ、ぷちゅっ。

 舌尖を刺激する苦い感覚や、生暖かい凹凸の感触を、出来るだけ意識の外に追い出すように努めながら、スコールはペニスをしゃぶり続けた。
猫特有のざらりとした舌で撫でられる竿が、口の中だけでも判る程、固く張り詰めて行く。
そして亀頭の先端の窪みから、てろり、と何かが溢れ出して来たのが判った。


「んぐっ…!」
「放すな」
「んんんっ!」


 溢れ出したものが何であるのか、半ば本能的に悟ったスコールは、咄嗟にクラウドの股間から顔を放そうとした。
しかし、スコールが逃げるよりも一瞬早く、クラウドの手がスコールの頭を押さえつける。

 どくっ、どくん、と咥内で男根が脈打ったかと思うと、────びゅるるっ!と粘液のようなものが口の中にぶちまけられた。


「おっ、んごっ!んぁおおっ!」


 生理的か、本能的か、その両方か、恐怖と嫌悪でスコールの体がビクビクと跳ねる。
威嚇するように支配者を睨み付けていた眦に、大粒の涙が浮かんでいた。

 ぐじゅぐじゅとしたものが口の中に溜まっている。
それを一刻も早く吐き出したくて堪らないのに、見下ろす碧はそれを赦そうとしなかった。
含み切れなくなった液体が口の端から溢れ出し、スコールの顎を伝って床に落ちる。

 クラウドはスコールの頭を押さえ付けたまま、命令した。


「飲め」


 その言葉にスコールは目を見開いた。

 口の中にあるものを、こんなものを────精液を飲めと。
嫌だ、と頭上の男を睨み付けても、男は薄い笑みを梳いたまま、スコールを解放しない。
スコールが咥内の精液を全て飲み干すまで、放すつもりはないのだろう。


「出来るだろう。レオンもやったんだからな」
「……っ」


 スコールの脳裏に、今の自分と同じように咥内に射精され、それを飲み込む兄の姿が浮かぶ。
あの時スコールは、見ているだけで喉奥からおぞましいものが競り上がって来るような気がした。
だが、レオンがした事を、自分が同じように出来なければ、レオンの代わりにはなれない。

 体が拒絶反応を示しているのを無視して、スコールは喉を開いた。
どろりとしたものが食堂器官を流れ落ちて来る。


「う、う……ぐ、がっはあっ!」


 無理やり飲み込もうとしていたものが、一気に逆流してくるのを感じて、スコールは頭を振った。
仕方なくクラウドが頭を押さえつけていた手を緩めると、スコールはその手を振り払い、床に蹲って咳き込む。


「げほっ、うぇっ、えっ、ごほっ…!っあ…っは、げほっ、ごほっ…!」


 吐き出したものが床を汚し、つんと鼻に突く匂いを漂わせる。
眉を潜め、苦悶に表情を歪めて咽るスコールを見おろし、クラウドは溜息を一つ。


「まあ良いか。レオンも最初は飲めてなかったしな。大目に見てやる」
「……っは…う…えほっ、けほっ…!はっ…はぁっ…!」


 感謝しろよ、とでも言いたげな尊大な態度と言葉に腸が煮える。
しかし、スコールがそれをぶつける事は出来ない。

 ちゃり、と金属音が鳴って、スコールの首に繋がれた鎖が引っ張られる。


「うっ……!」
「ほら、続き。ちゃんと掃除しろ」


 無理やり顔を上げさせられたスコールの眼前に、白濁と唾液塗れのペニスが突き付けられる。
ぐり、と頬骨を押すようにペニスを押し付けられて、スコールは反射的に頭を振って逃げた。


「嫌、だ……っ」
「ん?」
「……う……」


 意思を確かめるように見下ろす碧に、スコールは唇を噛んだ。
じい、と見下ろす瞳は、どうする事が正しいのか問い質しているように見えて、スコールがその答えを知っている事を理解している。

 引き結ばれていたスコールの唇が解け、赤い舌が覗く。
微かに震えながら差し出された舌が、ぴちゃり、と濡れそぼった男根を撫でた。
ざらざらとした猫の舌がペニスの形をなぞり、亀頭や竿に纏わりついた白濁を舐め取って行く。


「んっ…ふ…んはぁっ……」


 舌を伸ばして開いた唇の隙間から、熱を篭らせたような呼吸が零れる。
吐いた息がペニスの表面を微かにくすぐる度、ぴく、ぴく、とスコールの目の前で生き物のようなそれが動いていた。

 上から下までしとどに濡れそぼったペニスを、スコールは根本から上へ撫で上げるように舐める。
伝い落ちて行く白濁液を舌が攫う度、赤い舌にねとりと滑る白濁が映えて、クラウドの視界を楽しませていた。


「はっ、はふっ…!ん、ちゅ…ぷ、あむ、んぅ」


 ちゅく、ちゅぅ、ぢゅるっ……と舌を転がしながら啜る音。
眉根を寄せ、目尻に涙を浮かべながら、必死でペニスを綺麗にしようとするスコール。

 ごつごつと凹凸の目立つクラウドの手が、スコールの髪を撫でて、頭の上に映えた耳に触れた。
掠められた感触を嫌うように、耳がぴくぴくと動く。
スコールの意思と言うよりも、反射反応のように動くその耳を、クラウドの指が摘まむ。


「んぅうっ」
「此処も感じるのか?」
「んっ、んっ…!んんっ!」


 くに、くに、とクラウドの指がスコールの耳を弄ぶ。

 耳をくすぐられる事は、スコールにとって決して嫌な事ではなかった───ただし、それは相手が兄である事が絶対前提となる。
尻尾を絡めたり、頬を寄せ合って相手の体温を感じる事と同じように、スコールはレオンに耳元をくすぐられる事が好きだった。
レオンもそれを覚えていて、スコールが泣き止まない時、耳元をくすぐったり、鼻先で押してあやしていた。
時折、急な悪戯心が沸いたレオンに甘噛みされる事もあった。
スコールも同じようにレオンの耳をくすぐったり、甘噛みしてじゃれていた記憶がある。

 あの暗くて狭い世界にいた時には、レオン以外にも何度も触られた。
データの摂取や健康管理に必要なものだと言われても、スコールはレオン以外に触れられる事を嫌がり、いつも暴れて逃げようとしていた。
それ程スコールにとって自分の耳は敏感なものであり、レオン以外に触れられる事は杳として赦されないものであった。

 レオン以外が耳に触れる時、スコールは必ず押さえ付けられていた。
そうでもしなければ、引っ掻き、牙を立ててでも抵抗するからだ。
だが、今は押さえつける腕はない。
それなのにスコールは抵抗する事は赦されず、暴れようとする体を自分の意思で押さえ付けなければならない。


「…んっ、う…っ…!」
「掃除、終わったのか?」
「…うむぅっ…!」


 終わっていないだろう、と言わんばかりに、クラウドはスコールの口にペニスを突き入れる。
耳をくすぐられながら、続けろ、と言われ、スコールは耳元を捏ねるように弄られる感覚に肩を震わせながら、名残の蜜を溢れさせている亀頭を舐める。

 クラウドの指が三角の耳の根本を撫でる度、スコールの体が微かに震える。
クラウドは、明らかにその反応を楽しんでいた。


「んっ、んぅっ…っふ、うん……っ」


 ぴちゃ、ぴちゃ、と舌を鳴らしながら、スコールの白く細い肩がぴくぴくと跳ねている。

 クラウドの指が耳の内側を撫でた。
びくん、とスコールの体が震え、耳が逃げるように外を向いて伏せられる。


「ん、ぢゅ…っ」
「ああ、掃除はもう良いぞ」
「ぷぁっ…!」


 鎖を引っ張られ、スコールの頭が強引にクラウドの股間から離された。
スコールは鼻先にこびり付いたように漂う匂いに顔を顰め、ごしごしと手の甲で顔を拭う。

 束の間とは言え、ようやくの解放に、スコールははあ、はあ、と呼吸を整えようとする。
その濡れた口端から、とろりとした粘液が溢れて落ちて行く。
同時に嫌悪感に顔を顰めた猫の頬が、微かに赤らんでいるのを見て、クラウドは笑みを深めた。


「足開いて、ちんこ見せてみろ」
「……う…ぐ…」


 支配者の命令に、スコールは忌々しげに睨み付けたが、言われた通りにクラウドの前で足を開いて見せる。
クラウドのそれと違い、色も薄くつるりとしたスコールのペニスが露わになる。
その有様を見て、クラウドはくく、と喉で笑う。


「勃ち始めてるな。ちんこしゃぶって興奮したか」
「誰、が、…そんな事…」
「ああ、じゃあこっちか」


 クラウドの手が伸びて、スコールの頭の上の耳を摘む。
くに、くに、と僅かに肉厚な根本を捏ねられて、スコールはぴりぴりとした感覚が首筋から背中を走るのを感じて、身を竦めた。


「んっ、うっ…!ふぅんっ…!」
「耳で感じて勃たせるとはな。そう言えば、昨日は尻で感じてイったようだったし、お前、才能あるんじゃないか?」


 言葉ばかりは褒めているように聞こえるが、向けられる視線は明らかに侮蔑を含んでいる。
スコールは噛み付きたくなる衝動を抑えて、耳を遊ぶ男にされるがまま、じっとしていた。

 一頻りスコールの耳を弄んだ後、クラウドはベッドを立ち、スコールの前に片膝をつける。
耳を弄っていたクラウドの手が、スコールの恥部へと伸ばされ、つぅ、と指先が緩く勃ち上がったペニスの竿を撫でる。
手淫で触れられる時と比べ、何処かもどかしげな感覚に襲われて、スコールは鼻にかかる吐息を噛んで殺す。

 くく、とクラウドが喉を笑わせ、ペニスを辿る指がスコールの会陰をくすぐる。
ぞくん、としたものが下肢を襲ったのを感じて、スコールは息を飲んだ。
指が更に下って行くと、指先が慎ましく閉じた蕾に辿り着き、つぷ…と先端が挿入される。


「っ……!」


 昨夜感じたばかりの違和感と同じものが這い上がって来て、スコールは身を固くした。
侵入に抵抗しようと閉じる穴に構わず、クラウドは押し込むように指を突き入れた。


「あ…ぃっ……!」
「力を抜けって教えただろう」
「ひっ、ぐぅっ!んぅうっ…!」


 クラウドの言葉に、スコールは床に爪を立てて首を横に振る。
出来ない、と言葉なく訴えるスコールに、クラウドの瞳から笑みが消える。

 ぐりゅぅ、とアナルに埋められた指が肉壁を押し上げ、スコールの唇から悲鳴が上がった。


「ひぎっ、いうぅっ!」
「痛いのは嫌だって言ってただろ?」
「う、う、ふーっ…!ぎぃいっ!」


 じたばたと赤子が駄々を捏ねるように、スコールの足が床を蹴る。
目の前の苦痛から逃れたがって遮二無二暴れようとするスコールに、クラウドは舌打ちした。
いつものスコールならば、それだけで飼い主の不興を買うまいと暴れるのを止める筈だったが、昨夜の恐怖を思い出したスコールは半ば錯乱状態に陥ってしまっていた。


「嫌、や、あっ、うあっ!」


 ずるっと挿入されていた指が引き抜かれ、ぬぽっ!空気を含んだ音が鳴る。

 咥えさせられていた異物がなくなっても、無理やり広げられた下肢の違和感が消えず、スコールは蹲ってカタカタと体を震わせていた。
耳を寝かせて尻尾を丸める姿は、小動物が怯えているものと変わりない。
しかし、それを目にしたクラウドの瞳は、冷ややかになるばかりだった。

 クラウドはスコールの首に繋がれた鎖を強い力で引いた。
ぐんっ、と呼吸を詰めて首を持ち上げられて、スコールは息苦しさで眉根を寄せる。
かと思うと、体を吊り上げていた鎖が撓み、スコールは床に倒れ込んだ。


「っふ…う、あっ!」


 正常な呼吸を取り戻そうとするスコールだったが、それを待たずに両腕を掴まれ、床の上に仰向けに縫い付けられた。
クラウドは片手でスコールの腕を頭上へと纏め留めると、スコールの足を開かせ、淫部に反り返ったペニスを押し当てる。
どくどくと脈打つグロテスクな肉塊が、ぐにぃ、と閉じたアナルを押し広げようとしているのを感じて、スコールは目を瞠った。


「なっ、ひっ、嫌、嫌だ!や、あ、」
「っ……!」
「─────っ!!!」


 ぐりゅんっ!と、クラウドのペニスが一気に根本まで挿入された。

昨晩の比ではない痛みと圧迫感に仰け反る。


「……あ…がっ……っあ……!」
「く……やはり、きついな……っ」


 目を見開き、はくはくと音なく唇を開閉させるスコール。
それを見下ろすクラウドの表情も、僅かに苦悶に歪んでいる。
しかし、下肢の違和感と痛みの恐怖に苛まれ、眦に涙を浮かべて意識を彷徨わせる猫を見下ろす碧眼には、明らかな愉悦の感情が灯っていた。

 ぎちぎちと、拒絶を示す肉壁が侵入者を締め殺そうとしている。
クラウドはそれを振り切るように、腰を引いて、ずるり、と肉棒を後退させた。
内壁をぞりゅぞりゅと撫でられる感覚に、スコールは内臓を引き摺り出されているような気がして、悲鳴を上げる。


「やぁっ、あっ、あぁああっ!」
「───ふっ、くっ」
「ひぎゃうっ!」


 カリ首を入口に引っ掛けていた所から、また一息で最奥まで貫かれる。
ぐりゅ、ずりゅっ、と体内で肉棒が前後に動くのを感じながら、スコールは空を蹴り、


「いや、あ、あ、あぁあっ!レ、オン、レオン、助け、て、」


 この場にいない兄に助けを求めて、スコールは叫ぶ。
しかし、その声は薄暗い部屋の中に反響するばかりで、救いをくれる手が差し伸べられる事はなく、スコールを絶望に落とすだけだった。


「いあっ、あっ、あっ!いた、い、いぃっ!ひぎっ、いっ、うぅんっ…!」


 クラウドが体を揺する度に、直腸を押し上げられる。
スコールの口から零れる声は、突き上げの衝撃による反射的なものに過ぎない。

 下肢から上って来るのは、明らかな痛みだけ。
肉壁をペニスに擦られる度に、肉に纏わりついた脾肉が引っ張られ、擦られ抉られる感覚が痛い。
昨夜、男を受け入れさせられた時も痛かったが、あの時よりもずっと痛いような気がした。

 内臓から競り上がって来る衝撃に、スコールはこのまま内臓が引き摺り出されるか、或いは潰されてぐちゃぐちゃになってしまうのではないかと思う。
途端、言いようのない恐怖感に襲われて、スコールの顔から血の気が引いた。
スコールの上に馬乗りになったクラウドは、蒼白になったスコールを見て、


「痛いのは嫌なんだろう?」
「ひっ、いっ…!いや、ぁ……!」
「だったら大人しくしてるんだな。こういう方が、好きなら、別だがっ…!」
「ひぃぃんっ!」


 ずりゅりゅっ!とペニスが脾肉を抉り、ずちゅっ!と秘奥を強く突き上げられ、スコールの体が跳ねる。

 男根は根本までずっぽりと深く埋められた状態で、動きを止めた。
違和感と恐怖と痛みだけに支配されたスコールは、暴れる事も目の前の男を振り払う事も忘れ、身を固くして震えている。
クラウドはそんなスコールの顎を捉えると、くん、と持ち上げ、青灰色を自分へと向けさせる。


「判ったか?」


 痛いのが嫌なら、大人しくしていろ。
兄を助けたいのなら、逆らうな。

 見下ろす碧眼の言葉なき命令を、スコールは正しく理解した。
恐怖で忘れかけていた悔しさが蘇って、スコールは唇を噛む。
しかし、スコールが出来る事はそれだけで、雫の滲んだ眦で、小さく頷くしかなかった。


「よし」


 スコールの両腕を捕えていた、クラウドの手が離れる。
自由になったスコールの腕は、床に落ちたままだらりと動かなかった。
それを見たクラウドの口元が満足げに弧に歪む。

 クラウドは腕を伸ばしてベッドの上から何かを取ると、腰を引いて、スコールの体内に埋めていたペニスを引いて行く。
ずるぅ……と内壁を撫でながら下がって行くペニスに、スコールの躯が無意識に強張る。


「んっ、う、…んんっ…!」


 ビクッ、ビクン、と細い四肢が震えた。

 ペニスの膨らみが穴の入り口に引っ掛かって、止まる。
そのまま出て行けば良かったのに、とスコールは思うが、それは叶えられない。


「ちゃんと反省したから、此処からは優しくしてやる」


 そう言って、クラウドは手の中のもの傾けた。
ひやりとしたものが淫部に落ちて来たのを感じて、スコールの躯が跳ねる。


「ひ、んっ…!冷た…っ!」


 淫部を伝い落ちて行くそれは、ローションだ。
クラウドは垂らしたローションを塗り広げると、手に纏わりついたそれで己の肉棒を扱く。
それから、ペニスを咥え込んだままのアナルの縁に指を当てると、ぐにぃ……と指先で脾肉を伸ばして広げた。


「あっ、あっ…や、あ……!」


 排泄口を覗かれようとしているのが判って、スコールはふるふると首を横に振った。
しかし、薄く笑みを梳いた碧眼が己を見下ろしている事に気付き、唇を噛んで目を閉じる。

 押し広げられたアナルとペニスの隙間から、とろりとしたものが滑り込んでくる。
ぬる……とした感触が内壁の入り口を撫でるのを感じて、スコールの喉から甘い音が零れた。

 淫部に垂らしたローションを内部へと塗り込むように、クラウドのペニスが律動を始める。
抵抗によって拒まれていた先程とは違い、ぬりゅっ、ぬりゅっ、と滑る肉棒がスコールに内壁を撫でて行く。


「んっ、んっ…!う、んくぅっ…!」


 体がどれだけ男を拒もうとしても、ローションの助けによって、肉壁は難無くペニスを受け入れてしまう。
冷たかった筈の液体は、次第に体温と馴染んで生温くなり、肉棒の熱と同化して、スコールのアナルを開くように促す。

 ずにゅうぅ…と深くまで挿入された男根に、淫肉がまとわりついて、その形をまざまざとスコールに伝えて来る。


「あ、う……んんっ!」


 最奥にゆっくりと、持ち上げるように亀頭の先端を押し付けられて、スコールの躯が仰け反った。
がり、と爪が床を削る。

 は、は、と喘ぐように短い呼吸を繰り返すスコールを、クラウドはくく、と笑いながら見下ろし、


「さっきと違って、痛くないだろ?」
「んっ、う……っ」


 ふるふる、とスコールが首を横に振る。
脾肉を引っ張られた時の、火傷するような引き攣る痛みはなくなったが、異物を押し付けられた違和感の苦しさは変わらない。

 クラウドはスコールの腰を両手で掴み、ゆっくりと自身の腰を引いた。
ぬらぬらと内壁を撫ぜられて、スコールは唇を噛み、いやいやをするように首を振った。
そんなスコールに構う事なく、クラウドはスコールの淫部を突き上げる。


「────ひぐぅっ!」


 ずんっ!と深い場所を突かれて、ビクン!とスコールの躯が強張る。
クラウドはスコールの呼吸が戻るのを待たず、律動を再開し、ペニスの角度を変えながら内部を掻き回すように攻め立てる。


「あっ、うっ、んんっ!んぐっ…う、う…っ!」
「声は我慢するなよ。───ああ、そうだ。丁度良い物があったな」


 唇を噛んで漏れる声を殺そうとするスコールに、クラウドはベッド上に放置していた鎖を手に取った。
性行為を始める前、スコールが抱き締めていた、レオンの為に残された鎖だ。

 クラウドはスコールの頭を片手で押さえると、逆の手でスコールの顎を掴み、強引に口を開けた。
獣特有の尖った牙が覗く口に鎖が宛がわれ、スコールの頭に巻き付けられる。
鎖で猿轡をしようとしている事に気付き、スコールは巻き付けられた鎖を噛み千切ろうとする。


「んぐぅっ!」
「止めた方が良い。牙が折れるかも知れないぞ?」
「ぐっ、ぐぅっ…!んんっ!」


 ぎぎ、と鎖に牙を立てるスコールだが、堅い感触が返って来るだけで、びくともしない。
舌の表面に冷たい金属が触れて、鉄臭い味を感じてスコールは顔を顰めた。

 両腕を拘束するものはないから、解こうと思えば解けるだろう。
しかし、見下ろす支配者がそれを赦すとは思えない。
何より、これ以上この男の不興を買えば、また痛い思いをするのは目に見えているし、病院にいる兄の事を見限られてしまうかも知れない。

 スコールはぎり、と鎖を噛んだ後、顎の力を抜いた。
良い子だ、と褒める声が聞こえたが、スコールは見下ろす男から視線を逸らして男を拒否する。
クラウドはスコールを咎める事なく、ぐりゅっ、ぐちゅっ、と卑猥な音を立てながら、腰を打ち続けた。


「あっ、はっ、あっ…!あぅ、あっ、んぁっ…!」


 鎖轡で口を閉じられなくなった所為で、否応なく声が漏れる。
呼吸を殺せなくなった事で、少しずつスコールの躯の緊張は解れ始めたが、それはスコールにとって何の慰めにもならなかった。

 ペニスが前後に動いて脾肉を弄ぶ度に、スコールは下肢から甘い痺れが沸き上がって来るのを感じた。
痛みがなくなった分、更に顕著に感じられるようになったそれに、スコールの思考は少しずつ融解を始める。
開いたままの唇の端から、飲み込めなかった唾液が溢れて伝い落ちる。


「んぁっ、あっ…あぐっ…!は、ぐぅっ…!」
「こっちも弄ってやらないとな」
「ふ、はぁうっ!」


 クラウドの手がスコールの反り返ったペニスを包み、上下に扱く。
びくっ、びくっ、とスコールの躯が顕著な反応を示して、青灰色の瞳に頼りない光で揺れた。


「んぁっ、や、やぁっ!あっ、あっ、あっ、」


 頭を振って拒絶を示そうとするスコールだが、クラウドは手淫を止めようとしない。
カリ首を指先でぐりぐりと掘り返すように弄られて、スコールの細い足がビクビクと戦慄いた。

 アナルへ埋められたペニスが、肉壁の上部を押し上げる。


「んぐぅっ!」
「ああ、此処だったな」


 目を見開いて喉を逸らし、悲鳴を上げたスコールの反応に、クラウドが満足げな笑みを浮かべる。

 クラウドはスコールへの手淫を続けながら、左手でスコールの右脚を掴んで肩に乗せる。
体をくの字に曲げるように折り畳まれ、スコールは息苦しさに眉根を寄せた。
覆い被さるようにクラウドが伸し掛かれば、ずぷずぷとクラウドの自重を受け止めるように、ペニスが奥深くへと沈められていく。


「んぁっ、あ、ふぅうっ!」
「暴れるなよ」
「んっ、んんっ!あ、ぐ……あうんっ!」


 反射的に抵抗しようとするスコールに言い付けて、クラウドは根本まで埋めていたペニスをずるりと引き抜く。
カリ首が穴口を広げたかと思うと、再びペニスが内部を深くへと貫く。

 ぬぽっ、ぐぽっ、ぬぼっ、と卑猥な音を立てながら、肉棒がスコールのアナルを出入りする。
秘奥を何度も突き上げ、かと思うと悪戯に前立腺を攻められて、スコールの躯は肉棒に弄ばれるように、その動きに翻弄されて悶え跳ねる。


「はっ、ひっ!んあ、あっ、あっ!ん…うぅんっ!」


 辛うじて声を殺そうとすれば、咎めるように手淫の手がスコールのペニスを握った。

 スコールが喘ぐ度、赤い舌が口の中で彷徨い、鉄錆を這う。
苦味しか感じられないそれを振り払いたくても、見下ろす碧眼が許してくれない。
躯は四肢の全てがクラウドを満足させる為の道具と化し、
呼吸さえも管理されているような気がして、スコールは自分が完全に男の所有物でしかない事を感じていた。

 悔しい。
悔しくて堪らない。
思考はそれで染まっている────筈なのに、スコールは体の内側からふつふつと沸き上がるものに戸惑いを覚えていた。


「ふ、あっ、あっ…!も、やあ、あっ…!」


 繰り返し手淫で刺激されたペニスから、痛みに似たものを感じて、スコールは頭を振った。


「どうした?イきそうなのか?」
「んっ、んぐぅっ!あ、う…!ふあっあっ、あっ、」
「そうなんだな?」


 ぐりっ!とクラウドの親指がスコールのペニスの鈴口を強く擦る。


「んぁあっ!」


 強い刺激を受けて、ぴゅるっ!と先走りの蜜が噴き出した。
蜜液はそれだけでは留まらず、スコールがひくひくと躯を戦慄かせる度、とろりと白濁の液が亀頭の先端から溢れ出す。

 ぞくぞくとした、熱のような悪寒のようなものが背中を奔る感覚に、スコールの青灰色の瞳が宙に彷徨う。
ずにゅっ、とペニスが動いて、スコールの腰が震える。
ひくひくと痙攣するように動く内壁に、クラウドは壁の上部に竿を擦りつけながら秘奥を突き上げる。


「ひっあっ、あっ!んあ、う、ぐぅっ、うあぅっ!」
「良い締め付けだ」
「あふっ、うっ、うぅっ!」


 食い千切らんばかりの締め付けの中で、ローションの滑りを借りたペニスが抽出を繰り返す。
ぬりゅっにゅぽっ、と言う音が響き、揺さぶられるスコールの呼気が次第に上がって行く。
眉間に寄せられた深い皺は、最早苦悶ではなく、体内を暴れる熱に苛まれてのものに摩り替わっていた。

 クラウドの律動は激しさを増して行き、肌を打ち付ける音が室内に響く。
抱え上げられたスコールの足が爪先まで強張り、ビクビクと跳ねて、限界を訴えていた。

 ずんっ、ずぷっ、と直腸の入り口を突き上げられて、スコールの口からはあられもない声ばかりが溢れ出す。
同時に手淫を施されて、スコールは下肢全体がびりびりと痺れて行くのを感じていた。


「ふ、あ、はっ…!あっ、あっ、うぅ、んぁ…!」
「ほら、此処から何か出そうな時は、何て言うんだった?」


 つう、とクラウドの指がスコールの竿を撫でれば、ひくん、とスコールの躯が震え、肉壁がクラウドのペニスを締め付ける。

 ぐちゅっ、ぐりゅっ!ずちゅっ!と激しくなる律動の中で、スコールは熱に浮かされた眼を彷徨わせながら叫ぶ。


「っは、あっひふっ!い、う、いきゅ、うぅうっ!」


 鎖の所為でろくに舌が動かせず、まともな言葉が出て来ない。
それでも、悶えるように髪を振り乱しながら叫ぶスコールの姿を見て、体内に埋められたものが質量を増し、


「んぐっうっ!お、ひぃいっ!んごっ、おっ、ふぐぅんっ!」


 膨らんだ肉棒の熱さと激しさに、スコールは目を瞠る。
押し広げられていたアナルが限界まで拡げられるのを感じ、下肢が強張る。
その癖、ペニスが秘奥を抉る度、スコールの腰から下は力が抜け落ちてしまい、ずんずんと攻め立てる男を拒む事すら出来ない。


「はひっ、ひっ、いふっ、い、くぅっ!んぐ、う、うあうぅっ!」
「良いぞ、出せ。気持ち良い事なんだから、素直に従えば良い」
「や、あふっ!あっ、あっ、あぁうんっ!」


 びくっ、びくっとスコールの体が跳ね、青灰色の瞳が白目を虚空を彷徨い白目を剥く。
細い肢体ががくがくと震え、轡と首の鎖がかちゃかちゃと金属音を鳴らした。

 きゅうううう、とアナルを責めるクラウドの肉棒が強く締め付けられる。
その締め付けを振り払うように、クラウドは大きく腰をグライドさせ、埋めたペニスを抜ける直前まで下がらせる。


「はひぃいいいっ…!」


 ぬりゅりゅりゅぅっ!と一息で抜けて行くペニス。
スコールは、滑るペニスに内壁を最奥から入口までなぞられる感覚に甘い悲鳴を上げ、────ずぷんっ!と再び秘奥を貫かれて、躯を弓形に大きく逸らせた。


「んあぅうんぅっ!!」


 ずぐっ!と秘奥の壁を突き上げられた直後、電流のような衝撃位がスコールの躯を迸る。
ぎゅう、とクラウドが手淫の手を握り締めれば、躯の端々がピンと伸ばされ強張ったと同時に、スコールの反り返ったペニスから搾るように白濁液が勢いよく吐き出された。

 射精に伴い、スコールのアナルが強く閉じて、クラウドのペニスにぴったりと絡み付いた。
甘ったるく艶めかしい熱を帯びた肉壁の締め付けに、クラウドのペニスがどくん、どくん、と脈打ち、クラウドが息を詰めた後、びゅるるるっ!とスコールの直腸へと精液が注がれる。


「んごぉっ、おっ、あふぅううっ!!」


 どろりとした粘着質な液体が己の内側を汚して行く感覚に、スコールは目を見開いて悶え打つ。

 一度迸りが収まると、クラウドはスコールの秘奥を亀頭の先端でぐりぐりと押し上げた。
絶頂直後の敏感な躯への刺激に、スコールは腰が砕けて行くような感覚を感じて、悩ましい声を上げる。


「あ、う、んぉおっ…!」
「もう少し擦るか」


 呟いたクラウドのペニスが、スコールの肉壁をごりごりと擦る。
注ぎ込まれた精液が掻き回されて、ぐちゅ、ぐちょっ、と艶めかしい音を立てた。
音を嫌がってスコールの躯が強張り、ペニスを追い出そうとアナルを閉じれば、反ってクラウドを締め付けて喜ばせるだけ。


「中出しが気に入ったのか?」


 揶揄うように嗤ったクラウドの男根が、ぐにぃ、とペニスの奥に押し付けられる。
締め付ける内壁は、クラウドにとってまるで精液を絞り出して欲しがっているように思えた。
その期待に応えてやるかのように、どぷり、と濃い蜜液がもう一度スコールの体内へと注がれる。

 内側を汚されたのは、咥内に射精された事を除けば、これで三回目だった。
顔や躯に精液を注がれる以上の汚辱に、スコールの眦から一滴の涙が零れ落ちる。

 轡にされていた鎖が解かれ、ずるり、と体内からペニスが抜けて行くのを感じて、ようやく解放されるのだと判った。
呼吸が自由になり、伸し掛かる男がいなくなって、スコールは床の上に蹲る。
咥えるものが失くなった秘孔から、男の欲望が溢れ出していた。