湯けむり温泉獅子の受難 1


 普段、仕事人間と言われても差し支えない程のレオンが、珍しく休みを取った。
それは、当人が別段休もうと思って取った休暇ではなく、貯まりに貯まった有給休暇を消化させるようにと、上から半ば命令的に訴えられたからである。
休んだ所で、特別何処かに行く予定もないレオンであったが、上からの命令ならば仕方がない。
無理に何処かに向かわずとも、家でのんびり過ごすだけでも良いだろうと思い、言われた通りに休暇の申請を済ませた。

 そのタイミングでスコールの学校も長期休暇に入ったのだが、レオンもスコール同様、出不精な性質である。
世間一般も長期休暇=バカンスシーズンとあって、何処に出かけても人ごみだらけだ。
基本的に他者の気配を嫌うスコールと、のんびり過ごしたいレオンの二人が、旅行の計画など立てる筈もなかった。

 ────のだが、レオンが休暇に入った当日、最寄のスーパーで行われていた籤引きをした事により、予定が変わった。
気紛れで引いた籤引きが、無欲の勝利とでも言うのか、二等の温泉旅行チケットを引き当てた。
チケットに記されていた温泉宿は、聞いた事もないような無名なものだったのだが、インターネットで確認すると、隠れ家的な旅館であると言う。
それなら人の気配もそう多くはないだろうと、急遽、温泉旅行が計画される事となった。





 電車を乗り継ぎ、最寄りの駅からはタクシーを使って、ようやく到着した旅館は、小ぢんまりとしたものだった。
タクシーを降り、数日分の着替えを入れた荷物を運転手の手を借りながら下ろして貰っている間、スコールはほう、と息を吐いて旅館を見上げた。


「古い、けど……」
「趣があるな」


 言葉を繋げたレオンに、スコールは振り返らずに頷いた。
ほら、と差し出された鞄を受け取る。


「先に入って、チェックインしておいてくれ。俺の名前で予約を入れてある」
「判った」


 レオンに促されて、スコールは旅館の玄関を開けた。
受付に向かうと、ふくよかな頬に皺を作った、柔らかな雰囲気の仲居が微笑みかける。


「ようこそ、いらっしゃいました。ご予約の方ですか?」
「はい。レオンって名前で……大人3人」
「少々お待ち下さい」


 確認の為に帳簿を捲るのをスコールが見ていると、玄関の扉に取り付けられたベルが音を鳴らした。
振り返れば、姉であるレオンと、その後ろに金髪頭を逆立てた男が立っている。
男はきょろきょろと辺りを見回していたが、レオンはそんな彼を置く形で、受付を待っているスコールの下に歩み寄った。

 レオンとスコールが顔を見合わせていると、受付の仲居が顔を上げる。


「レオン・レオンハート様、女性2名、男性1名で宜しいですか?」
「はい」
「福引懸賞で当選された方ですね。チケットはお持ちですか?」
「はい」
「────はい、ありがとうございます。お部屋へご案内致します」


 レオンが取り出したチケットを確認して、仲居がぺこりと頭を下げると、受付の奥の部屋から二名の男性仲居が現れた。
彼らに荷物を持って貰うと、手ぶらになったレオンは、ロビーを見回していた男に声をかける。


「クラウド、行くぞ」
「ん」


 金髪碧眼の男の名は、クラウド・ストライフ。
レオンと同じ会社に勤める後輩で、レオンハート姉妹とは懇意の仲である。
極端にマイペースな男で、レオンとスコールに対して痘痕も笑窪と言わんばかりにベタ惚れしている。
今回の温泉旅行を聞き付けた彼は、「女二人で旅行なんて危ないだろう。俺が虫よけになってやる」と言って、強引について来た。
姉妹としては、折角の家族旅行に水を差されたような気はしたものの、クラウドは腕力も体力もあるし、女二人で旅行すると何かと面倒事がついて来るのも事実である。
多少のトラブルなど、自分達でなんとか出来る自信はあるのだが、厄介事が避けられるならその方が良いと、同行を許可した。

 案内された部屋は、広々とした和室で、クラウドは早速その真ん中に大の字に転がった。
生来乗り物酔いの酷い体質での電車とタクシーでの長時間移動、歩いている時も三人分の着替えが詰まった大荷物を抱えて貰っていたので、レオンもこれは咎めなかった。
それよりも、とレオンは部屋の中を見回している妹を見て、


「スコール、温泉の方、見てみるか?」
「家族風呂…だったよな?」
「ああ。大浴場もあるらしいが、それは明日で良いだろう。今日はこっちでのんびりしよう」


 レオンの言葉に、スコールは素直に頷いて、上着を脱いでハンガーにかける。
同じようにレオンもジャケットをハンガーにかけてから、スコールを伴って浴場の方へ向かう。

 人が3人から4人は入れるであろう、広めの脱衣所を抜けて、先ずは室内に作られた風呂場へ。
檜で作られた浴槽には、なみなみと湯が張られ、手を浸してみると、湯の柔らかさがよく判った。


「気持ち良さそうだな。長風呂しそうだ」
「ああ。湯当たりしないように気を付けないとな」


 普段は滅多に長風呂などしない二人だが、それは勉強であったり仕事であったり、やる事が詰まっているからだ。
けれど、旅行に来ている今は、急ぐ事がある訳でもない。
仕事用のデータや何やらは家に置いて来ているし、スコールも最低限の筆記用具と課題は持って来ているものの、数日分をサボっても問題ない程度には既に済ませている。
のんびり、湯あたりする手前くらいまで湯船に浸かっても良いだろう。

 室内温泉から一枚戸で仕切られている外へと出れば、白い湯煙が二人を出迎える。
風が吹いて湯気が飛ぶと、小さな山水庭園の中に、石造りの温泉が一つ。
郊外にある旅館とあって、景色を遮る板壁などもなく、山の麓の街を見下ろす事も出来る。


「中々良いな」


 レオンの言葉に、スコールが頷く。
互いに顔を見合わせれば、それぞれの口元が緩んでいるのが判った。


「早速入るか?夕飯までもう少し時間があるし、長い時間座りっ放しでお前も疲れただろ」
「俺は……別に。でも、折角だから。レオンは?」
「そうだな……馬鹿が静かにしている間に、ゆっくり入るか」


 馬鹿────とは、同行者の男の事だ。
彼の同行はある意味では心強いものではあったが、別の視点で言えば、非常に厄介なものだった。

 レオンとスコールの姉妹が……彼の毒牙にかかってしまったのは、今から数か月前の事。
つまりクラウドは、レオンとスコールの間で二股をかけて、それぞれに手を出したのである。
そのような経緯があるのに、今日こうしてクラウドを伴っての温泉旅行となったのは、クラウドが真剣に、二人を「愛している」と言ったからだ。
レオンとスコールも、口では何を言おうと、クラウドを恨んだり嫌ったりと言う事はなかった。
度々発情してはセクハラ的行為をする男に、その都度制裁を加えてはいるものの、彼の言葉が嘘であるとも思えない。
常識的に考えて可笑しい状況だろう、と、この数か月の間に二人のどちらかが離れようとした事もあったが、そうするといち早く察したクラウドが引き留めるのだ。
そしてレオンもスコールも、二人互いに離れる事を受け入れる事も出来ず、─────クラウドに流される形で、三人での“お付き合い”が続いている。

 こうした経緯があってのクラウドの同行である。
虫よけと言う役目も確かに果たしてくれている(姉妹二人で街を歩いていると、直ぐに何某かに声をかけられるのだ。明らかなナンパ目的で。これが男一人が一緒にいるだけで格段に減る)のだが、姉妹の平和な時間を毎回ぶち壊しにしてくれるのも、クラウドなのだ。
日常生活で何かとセクハラ行為を行う男は、今回の旅行中でも変化はあるまい。
事実、既に長時間の移動の間に、クラウドは電車の中で居眠りをした二人の胸に触ったり、尻を撫でたりと言った狼藉を連発している。
やっぱり連れて来るんじゃなかった、とレオンが考えたのは一度や二度ではない。

 そんなセクハラ魔人は、現在は部屋の方でごろごろとしている。
最寄駅から旅館までのタクシー移動の所為で、乗り物酔いの名残もあるのだろう、今は動き回る気力はないようだ。
ならば、姉妹の平和は今だけ。


「浴衣は……部屋か。取って来るから、先に入っていると良い」
「ああ」


 レオンは、スコールを脱衣所に残し、同行者が転がっている部屋に戻って押入れを開けた。
綺麗に畳まれ、竹籠に収められていた浴衣を取り出すと、それを見たクラウドが顔を上げる。


「風呂か」
「ああ。……覗くなよ」
「……もの凄く見たいけど今動く気にならない」
「それは良い事だ」


 堂々と覗き宣言をした男の事は気にせず、レオンは脱衣所へと戻る。
浴衣を籠に置いて、旅汗に汚れたシャツを脱ぐ。
ブラジャーを外すと、たわわに実った豊満な谷間が揺れた。
長い髪はトップで団子のようにまとめて結ぶ。

 肌を洗う為のタオルを一枚持って、レオンは室内浴室への扉を開ける。
シャワーを出しながら体を洗い、汗を流すと、室外へと出る。


「どうだ?スコール」


 岩風呂に浸かり、縁に頬杖をついて景色を眺めていたスコールに声をかける。
顔を上げたスコールは、姉の姿を確認して微かに頬を緩めたが、直ぐに青灰色が不満そうな色を灯した。

 スコールの視線に首を傾げつつ、レオンも湯船に足を下ろす。
湯の温度は少々熱めであったが、室内温泉と同様、柔らかは肌触りだった。
軽く体に湯を浴びせて慣らしてから、湯船の中に身を浸す。


「ふう……」


 湯の中に深く身を沈めれば、長時間移動であちこち固くなっていた体の筋肉が解されていくのが実感できた。
日々仕事に追われている所為で、睡眠時間が減ってしまい、それが肌荒れの症状として現れるようになっていたのだが、此処の温泉には美肌効果もあるらしい。
温泉など滅多に来れない(来ないと言った方が正しいか)のだから、この休暇の間は存分に堪能しなければ。

 一つ長く吐息を吐いて、もう一度全身の強張りが解けて行くのを感じていたレオンだったが、ふと傍らから向けられる視線が気になって、目を向けた。
すると案の定、じぃ、と此方を見詰めている青灰色とぶつかる。


「どうした?」
「………」


 無言で見詰めて────睨んでくるスコールに、レオンは先と同じように首を傾げた。
青灰色の見詰める先を追うように、レオンが視線を落とすと、其処には自分でも確かに大きい、と思う程に育ってしまった胸がある。


「…………」
「…………」


 レオンの胸は、平均的な大きさを遥かに越え、俗に“巨乳”と呼ばれるような大きさである。
同僚の女性達からは、度々羨ましいと言われるのだが、レオンにとっては邪魔なものだった。
服も中々好みのものが見付からない。
上背があり、それなりに肉付きも良い為、昨今のスレンダーありきのような服だと、胸部が苦しくなるばかりだった。
何より、大きい分だけ重みもある所為で、肩凝りなんてほぼ慢性状態だし、ブラジャーも中々サイズの合うものが見付からない。
────と言う事を同僚たちに愚痴ると、殆どの友人からは「贅沢な悩み」と言われ、同調してくれるのは同じ悩みを抱えるティファ位のものであった。

 そんな姉に対し、スコールの胸は慎ましやかなものであった。
片手で覆える程の膨らみはあるものの、最近の若者の発育の良さを思うと、控えめと言えるだろうか。
その上、身近にいる比較対象───実姉であるレオン───を見れば、尚の事彼女は自分の成長に不安を覚えるのも無理はない。

 なんとも気まずい雰囲気になっているような気がして、レオンは頭上を仰ぐ。
竹を編んで組まれた天井に、湯気がゆらゆらと立ち上って消える。


「…………」


 突き刺さるような視線は消えない。
隠した方が良いだろうか、と思ったが、今更だし、それもそれでわざとらしい気がした。
レオンはしばし沈黙し、どうしたものか思考を彷徨わせた後、


「これから、だろう。まだ17歳なんだから」
「……レオンは…俺くらいの時、もう大きかった、…気がする」
「……そうでもないさ」
「………」


 自分の胸に手を当てて俯くスコールは、自分が“貧乳”である事が相当なコンプレックスであるらしい。
実姉のレオンもそうだが、義姉であるエルオーネも相応に育っているので、余計にスコールは気にするのだろう。

 レオンは、そんなスコールの頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
レオンを真似るようにして、高校生になってから伸ばすようになった、ダークブラウンの髪は、今はレオンと同じように団子にして結い上げられている。


「胸の大きさなんか、気にしなくても大丈夫だ。スコールは今のままでも、十分可愛いぞ」
「…可愛くない」
「可愛いさ。そうして気にしている所も含めてな。お前はそれで十分魅力的だよ」


 細い体を抱き寄せて囁くと、スコールが赤い顔でレオンの肩に頬を寄せた。
が、胸に当たる柔らかな感触に気付いて、スコールの整った眉が力一杯潜められてしまう。

 ぐっとスコールに肩を押されて、レオンは妹を解放する。
目の前の妹が、赤い顔で頬を膨らませている事に気付いて、再三、首を傾げた。
スコールはそんな姉からふいっと顔を逸らして、岩風呂の縁に腕と顎を乗せる。


「そんな胸で言われても、嬉しくない」
「胸…って……」


 レオンの方も、好きでこうなった訳ではないのだが。
しかし、思春期の真っ最中で、人一倍周囲からの視線を気にするスコールである。
周囲に(比較対象はやはり姉二人だが)比べて遅れているように感じられる今、これから伸びしろがあると言われても、それが今直ぐ反映する訳ではないから、悔しさで卑屈な態度になってしまうのだ。

 膨れ面になってしまった妹に、レオンはどうしたものか、と頭を掻いた。
こうした遣り取りは初めてではないので、暫くすればスコールの機嫌も直るだろうが、それまで妹と一つも口を利けないのは寂しい。

 どうするかな、としばし考えた後で、レオンの小さな悪戯心が疼いた。
湯波を立たせながら、風呂の縁に寄り掛かっているスコールに近付くと、気配には気付いているのだろうが、少女は頑として振り返ろうとしない。


「スコール、知ってるか?」
「……何が」
「胸を大きくする方法」


 ぴく、とスコールの頭が揺れる。
意地っ張りでも、こういう隠しきれない素直な所があるから、可愛らしい。

 レオンはスコールの背中に身を寄せると、スコールを自分の腕の中へと抱き込み、彼女の胸を柔らかく揉み始めた。


「あっ、なっ、レオっ」
「暴れるなよ」
「無理言うな!って言うか、あんた、何してっ」
「見ての通りだ」


 レオンがやわやわと手を握り開きしてやれば、スコールの柔らかな肉がレオンの手の形に歪む。


「や、んっ……!」


 姉の手で、ふにふにと優しく胸を揉まれて、スコールのピンク色の唇から、甘さを含んだ声が漏れる。
レオンはそんな彼女の耳に唇を寄せると、ふ、と吐息を吹きかけてやれば、妹の細い肩がビクッと跳ねたのが判った。


「ん、ん……っ」
「揉めば大きくなるって、聞いた事ないか?あれ、強ち嘘でもないんだぞ」
「で、も…それ、嘘って……ん、皆が……あっ、」
「……誰に聞いたんだ、それ」
「クラスの……んんっ」


 レオンの指がスコールの胸の頂きに触れる。
淡く色付いたその周囲を指でなぞり、親指と人差し指で軽く摘まむ。
ぴりっとした小さな痛みにスコールが身を固くしたのが判った。


「ただ揉むだけじゃ駄目なんだ。ちゃんとやり方があるんだよ」
「…んくっ…!」
「リンパマッサージとか、乳腺を刺激するとか、な。女性ホルモンが分泌されるように刺激を与えてやれば……」


 レオンは左手でスコールの左胸を揉みながら、右手で彼女の薄い腹を撫でてやる。
スコールの手が咎めるようにレオンの腕を掴んだが、レオンは構わずに愛撫を続けた。


「ほら、此処……尖って来た」
「やっ…!」


 ツン、と膨らんだ乳首の先端を摘まんで転がすと、ふるふるとスコールの体が小刻みに震える。
耐えるように唇を噛む少女の耳に、ねっとりと舌を這わせてやった。


「あっ…ふ、んん……っ!」
「お前は成長期だし。これからまた大きくなるだろうから、焦らなくても良いんだ。それでも、早く大きくしたいのなら、」


 ハスキーな声がスコールの鼓膜を揺らし、温泉による効果とは別の意味で、体が熱くなって行くのが判る。
声を殺して零れる吐息に、甘えるような色が混じり始めていた。
そんな妹を愛おしく思いながら、レオンはスコールの両の乳房を掌で包んでこねるように揉みしだく。


「あっ!」
「俺がいつでも揉んでやるから、な?」


 びくん、と跳ねたスコールの体が逃げを打つように身を捻ったが、レオンはそれでも彼女を離さない。
ばちゃばちゃと水飛沫が経つのも構わずに、レオンは尚もスコールの胸に刺激を与え続けた。


「レオ、ン…!や、ん、…あっ…!」
「可愛いな……スコールの胸。あいつに触らせるなんて勿体ない事、するんじゃなかったな」


 部屋でごろごろとしている男に軽く殺意を覚えつつ、レオンは自分の手の中に収まっている妹の乳房を、彼女の肩口から見下ろした。
ツンと膨らんだ乳頭を指の腹で押すと、乳首は潰れてしまったが、指を離せば直ぐにぷくんと膨らんだ。
自己主張の強い其処を抓み、こりこりと転がして苛めると、スコールの体がビクッ、ビクッ、と反応を返す。

 甘い吐息を零したスコールが、ふるふると嫌がるように首を横に振る。
その幼い仕草が益々可愛く見えて、レオンはスコールの胸を揉みながら、彼女の露わにされた項に唇を寄せた。


「ん……っ」
「スコール……」
「う、ん……あ、っ……ふぁ……」


 もじもじと湯の中で腰を揺らすスコールの姿に、レオンの吐息にも艶が篭り始めていた。
スコールの乳房が自分の手の形に、そのままに歪に形を変えるのが、無性に愛おしくて。
いや、たった一人の血を分けた妹が、自分の手によって染まって行くのが、その全てが愛おしくて堪らない。


「スコール」
「…レ、オン……」


 姉の呼ぶ声に、スコールがぼんやりとした瞳で振り返る。
背にしていた姉の顔を間近に見て、レオンの蒼灰色の熱が伝染するように、スコールの瞳にも熱が灯る。

 そのまま、誘われるように、ゆっくりと二人の顔が近付いて、─────ガサリ、と茂みの鳴る音。


「!」


 レオンは素早くスコールを背に庇い、湯船の中で浮いていた風呂桶を掴んで振り被った。
手首のスナップを利かせて勢い良く投げられた桶は、そこそこ広さのあった山水の端の茂みに飛び込んだ。
ガサガサッ!と先と同じ茂みの鳴る音がした後で、風呂場にはまた静寂が戻る。

 脊髄反射で思わず取ってしまった行動だった。
投げた風呂桶がどうなったのか、レオンにも判らない。
が、結果については後で判るだろうと考える事にし、一つ溜息を漏らして湯船に浸かり直す。


「レオン…?」
「ん?」
「………いや……」


 なんでもない、と言ったスコールは、明らかに疑わしげな表情を浮かべてはいたものの、結局何も言わなかった。
レオンもそれに甘え、余計な事は言わない事にし、先程の行動の勢いの所為だろう、解けかけていた髪を結い直す。

 長い髪をアップにして結ぶ訳だから、両腕は頭の上に持って行く。
そうなると、レオンの脇や懐はがら空きだ。
スコールはじぃ、と湯の中で浮いているものを見詰め、


「スコール?」


 ぴと、と背中にくっついた妹に、髪を結い直したレオンが首を傾げていると、


「っ!?」


 むにゅ、と背中から前へと回されたスコールの手の指が、レオンの胸を掴むように沈む。
思いもよらない妹の行動に、レオンは目を丸くした。


「おい、スコール!何を」
「仕返し」
「っ……!」


 きゅう、とスコールの指がレオンの乳首を摘まむ。


「こら、スコール…!」
「さっきレオンも俺にやった」
「んっ……あ!」


 スコールはレオンの背中にぴったりと密着したまま、レオンの胸を先の姉の手付きを真似るようにして揉みしだく。

 大きくハリのある、けれども柔らかいレオンの乳房が、スコールの指の動きに合わせて歪む。
レオン同様、スコールも女性にしては高身長になる為、掌も相応に大き目だ。
けれども、その手は白く嫋やかで、女性特有の丸みもあり、また発展途上の少女らしく幼さもある。
そんな妹の手が、自分の胸に────


「ス、コール……こらっ、やめ…」
「嫌だ」
「あっ!…や、あん……!」


 左右の乳首を摘ままれて転がされ、レオンの躯がビクン、と跳ねる。
背中にスコールの頬が寄せられて、火照った背筋に彼女の吐息がかかるのが判った。


「胸、揉んだら…大きくなるって」
「ん、んん……っ、…ふ、ぁ」
「レオンも、そうだったのか?…クラウド、に」


 レオンがスコールに愛撫したように、スコールの指がレオンの胸の頂きを押し、乳輪の形をなぞるように撫でる。


「こういうの、されて……大きくなった?」
「んっ…あ……!」


 スコールの吐息が、レオンの項にかかる。
ぴくん、とレオンの躯が跳ねるのを見て、スコールは姉の背でこっそりと笑みを浮かべる。


「ずるいな、クラウド……」
「あ……、ふ…スコール、……んん…」
「俺も…レオンに……」


 ────スコールの言葉は、それ以上続かなかった。
レオンの胸を揉んでいた彼女の手が止まって、レオンは上がった吐息を落着けるように努める。
数秒の間を置いてからレオンが背中を振り返ると、背にくっついた妹は俯いていて、


「スコール?」


 さり気無く自分の胸からスコールの手を離させて、レオンは体ごとスコールへと向き直った。
スコールは特に嫌がる様子もなかったが、落としていた目線の先に、姉の大きな胸が映ったのを見て、顰めた顔を持ち上げる。


「…………」
「どうした?」
「……別に!」
「スコ────」


 ぽすん、とスコールが抱き着いて来た。
柔らかな胸の谷間にスコールの顔が埋まっていて、まるで母に甘えたがる幼子のように見える。
末っ子であった所為か、スコールの甘え癖は中々抜けず、それは17歳になった今でも変わらない。
判り易く甘える事こそ減ったものの、傍にいるのがレオンや義姉だけの時なら、少しだけ素直になる。

 ぎゅう、と抱き着いて来るスコールを、そっと抱き締め返して、母譲りの柔らかな髪を撫でる。
柔らかな膨らみに顔を埋めた妹が、ずるい、と呟いたのが聞こえた。





 のんびりとした入浴を終えて、紅梅色の浴衣に着替えたレオンとスコールが部屋に戻ると、夕餉の為の支度が整えられていた。
地元で採れる山菜と、牛肉や豚肉などを使用した、贅沢な食事である。

 レオン達が部屋に戻った時には、仲居が鍋の用意や細かい注文、料理の説明を終えた後で、クラウドが夕飯の到着を待っている所だった。
クラウドも楽な格好になりたかったのだろう、移動中に着ていた服は部屋の隅に投げられ、浴衣姿になっている。
だがそれよりも、スコールは目について仕方がないものがあった。


「……どうしたんだ?その頭と…鼻詰めのティッシュは……」


 頭頂部にでかでかと膨らんでいるタンコブと、童顔と揶揄されるものの整っていると言って良いであろう顔の真ん中に詰められた、小さく丸められたティッシュ。
ティッシュには微かに赤い色が滲んでいるので、鼻血の処置である事は判ったが、何故彼が鼻血なんて出しているのかがスコールには判らない。

 心配と言うよりも、そんな井出達で常と変らない無表情でいる事が不気味で問うたスコールに、クラウドは相変わらず表情を変えずに答えた。


「夢の世界の入り口を探してた」
「は?」
「そしたらスナイパーに撃たれて」
「……意味不明だ」
「スコール、阿呆は構わなくて良い」


 夕飯が来たぞ、とレオンが言えば、スコールはちらちらとクラウドを気にしつつも、大人しく食卓の席に着いた。
レオンもその隣に並んで座り、クラウドが二人の正面になる所へ腰を落ち着けた。

 時折、碧眼がじぃと見詰めるのを感じつつ、後でこいつは沈めておこう、と心に決めるレオンだった。





おっぱい揉み合う女体化レオスコが書きたかった!
そして残念なクラウドで申し訳ない。彼はずっとこんな調子です。