湯けむり温泉獅子の受難 2


 夕飯を終えた後、レオンはスコールが持ってきたトレーディングカードの対戦ゲームに付き合っていた。
あまり趣味を持たないスコールだが、カードゲームにだけは執心があるらしく、カードを収集する程の入れ込みようだ。
レオンもそんなスコールに付き合って対戦する事が多いので、ルールは勿論、スコールが考える戦略も把握している。

 部屋は二間が続きとなる作りになっていて、夕食に使っていた部屋と、奥にもう一部屋がある。
その部屋に、二人がカードゲームに熱中している間に、仲居達が布団を敷いておいてくれた。
ちなみにその部屋の向こうには、小さな縁側があり、其処に設置されているマッサージ椅子は、夕食後の風呂上がりからクラウドが占拠している。

 カードゲームの勝負回数が2ケタになった所で、レオンはカードを集め直しているスコールに言った。


「スコール、そろそろ寝ようか」
「え?でも、まだ……あ、」


 部屋の欄間にかけられていた古びた時計の短針は、既に一番高い位置を越えて、12と1の真ん中を指している。
カードゲームにすっかり夢中になっていたので、スコールは今の今まで気付いていなかったのだ。

 スコールはやや渋々とした表情を浮かべはしたものの、今日一日の長時間の移動で疲れているのは確かなのだ。
それに、この温泉旅行は明日からもまだ続くのだから、急いたように遊ぶ必要もない。
カードゲームは、また明日にすればいい。


「クラウド、俺達はもう寝るぞ」


 レオンが縁側にいるクラウドに声をかける。
と、クラウドはマッサージ機のスイッチを切って、寝室へと入って来た。


「早くないか」
「そうでもない。12時は過ぎてる」
「そうか。じゃあ、もういいか」


 言って、クラウドは三つ並べられた布団の真ん中に胡坐をかいて座った。
当たり前のように真ん中を陣取るクラウドに、レオンが眉根を寄せる。


「……お前は端に行け」
「何処で寝るかは俺の自由だろ。それとも、レオンも真ん中がいいのか?じゃあ俺と一緒に寝」
「いいから端に行けっ!」


 平静とした顔で当然の事のように同衾を迫る男を、レオンは長い脚で蹴り飛ばした。
そのままごろごろと転がって端の布団を通り越し、畳の上で目を回す男を、スコールもレオンと同じように、冷たい眼差しで見詰めていた。


「全く……スコール、お前も端でいいな?」
「……ん」


 レオンがそう言って指差したのは、クラウドがいる方とは反対側の布団。
スコール、レオン、クラウドの並びで寝ると言う事だ。
スコールはレオンが指差した布団に大人しく入り、掛け布団を被る。
レオンも部屋の電気を消してから布団に横になり、────早々に復帰して転がって来たクラウドをもう一度蹴飛ばした。


「大人しく寝ろ」
「よく寝る為にもちょっと汗かいてから」
「一人でかいてろ」
「折角お前達がいるのに、なんで一人でマスかいてなきゃいけないんだ。しかも浴衣だぞ、浴衣!これで手を出さなきゃ男じゃないだろ!」
「良いから寝ろ。大人しく寝ろ。さもないと、俺の手で永眠させるぞ」
「えっレオン手コキしてくれ」
「さっさと寝ろって言ってるだろ!!」


 ごすっ!とクラウドの頭部から鈍い音が鳴った。
頭から煙を立たせて撃沈した男を、レオンはもう一蹴りして自分の縄張りから追い出す。

 これでやっと静かになった。
呟いて、レオンとスコールは目を閉じた。





 チコッ、チコッ、とごくごく小さな時計の針が動く音だけが静かな部屋の中で響いている。
それは、普段ならば大して気にならない、聞こえもしなかっただろう程の、とても小さな音であった。

 だと言うのに、スコールにはそれがやけに大きく聞こえる気がしてならない。

 スコールは、閉じていた瞼をゆっくりと開けた。
すると、思っていたよりもはっきりと、暗い部屋の天井板を見る事が出来た。
郊外にある所為で、夜でも明るいであろう街の明かりは届かないのだが、お陰で月明かりを遮るような高いビルもない。
遮光ではないらしいカーテンの向こうから、ぼんやりと、青白い光が差し込んでいた。

 三人揃って寝床についてから、かれこれ一時間は経っているのだが、スコールは一向に眠れる気がしなかった。
睡魔がない───訳ではないと思うのだけれど、どうにも落ち着かないのだ。
恐らく、環境の変化の所為だろう。


(……レオンは……寝てる…?)


 壁を向いていた体を転がせて、スコールは隣で眠る姉を見た。
寝息すら聞こえない程に静かに眠っている姉と、……その向こうの気配も静かなので、同行者の男も恐らく眠っているのだろう。
起きているのは自分だけと言う事だ。


(………)


 眠ろう、眠ろう、と何度も試みたのだが、中々意識は夢へと旅立ってはくれなかった。
このまま朝を迎えてしまうかも知れない。
明日、何処かに観光に行くような予定もないので、朝になってから寝てしまっても良いだろうが、それでレオンに心配をかけたくはなかった。

 どうすれば眠れるだろうか。
環境の変化で少しばかり緊張してしまっているだけだろうから、それを誤魔化せばきっと眠れる筈。
でも、どうすれば誤魔化せるだろうか。

 しばらく考えた後で、スコールは眠る姉の顔を見た。
子供じゃないんだから───としばし逡巡したものの、スコールは結局、のそのそと布団から這い出て、眠る姉の布団の中にそっと潜り込もうとし、


「……スコール…?」
「!」


 小さく聞こえた名を呼ぶ声に、スコールはぴたっとフリーズした。
中途半端に布団を捲った状態で静止したスコールに、ぼんやりとした青灰色が向けられる。


「…どうした…?」
「え、……い、や……」
「眠れない、か?」


 上半身を起こして此方を見て言ったレオンに、スコールは赤い顔を俯かせて口を噤む。
恥ずかしそうに押し黙ってしまった妹を見て、レオンが小さく笑う。


「一緒に寝るか?」
「………」
「ほら。おいで」


 小さな子供を誘うようなレオンの言葉に、スコールは微かに唇を尖らせたが、少しの間を開けた後、もぞもぞとレオンの布団の中に入る。
それなりに体格が良いレオンと、レオン程ではないが背の高いスコールだから、密着しないと布団から食み出てしまう。
スコールは微かにレオンと隙間を空けて横になろうとしたが、レオンの方がそんな彼女を抱き寄せて、ぴったりと密着させる。


「枕が変わると眠れないからな、お前は」
「……」


 レオンの胸に寄せた頬を膨らませるスコール。
そんな気配を察して、レオンがくすくすと小さく笑った。
それを受けたスコールが益々拗ねたような顔をしたのだが、姉の肌から香る柔らかな匂いに、その表情も直ぐに揺らいだ。

 心なしか、遠慮するように強張っていた妹の体から、緊張が解けて行くのを腕に感じて、レオンも一つ息を吐く。
甘えるように擦り寄ってくる少女の頭を撫でて、おやすみ、と小さく囁いた。





 三人が泊まっている旅館は、山の中にある。
麓の町もそれ程大きなものではなく、有名なものと言えばこの土地で湧き上がる温泉くらいのもので、他に観光的な催し物も殆どないと言う。
お陰で、世間がバカンスシーズン真っ盛りでも、この地を訪れるのは、のんびりと過ごしたいと言う人が殆どだ。
そうしたひっそりと、のんびりとした土地の中でも、更に離れた所にある旅館なので、夜になれば宿泊している客と、明日の朝の用意に追われる従業員以外に物音を立てるものはいない。
他にいるとすれば、山の中で餌を探し回る動物くらいのものだ。

 だから此処で過ごす夜は、とても静かなものなのだろうと、レオンは思っていた。
─────しかし、


「ん……」


 息苦しさのような、重苦しさのような、そんな違和感を感じて、レオンの意識はぼんやりと浮上を始めた。
伸ばしていた腕が重い事や、胸に触れる人肌を、一瞬なんだろうと疑問に思ったが、妹が自分の布団に入っている事を思い出した。
ならば息苦しさもその所為だろうかと思ったが、


「んぅ……」


 直ぐ傍から聞こえてきた妹の声も、レオン同様、苦しそうな吐息が混じっている。
自分だけなら、寝惚けているのだろうと気にせずもう一度眠ろうとする所だったのだが、スコールが魘されているなら、放って置く訳には行かない。

 重苦しさを誤魔化すように身を捩って、スコールの顔を覗き込むと、前髪が汗で額に張り付いている。
そっと拭ってやると、スコールが縋るようにレオンに身を寄せて来る。


「スコー、ル……んっ…!」


 ぞくん、としたものが背中を駆け抜けたのを感じて、レオンは小さく身を震わせた。


「う、んん……」
「…ふ、ぁ……」


 何かが足下から這い上がってくるような気がする。
それから逃れようと、レオンはもぞもぞと足を動かした。
しかし、寝惚けている事を差し引いても、足は思ったように動いてくれなかった。


(なんだ……?)
「ん……っ」


 茫洋と天井を見上げたレオンの傍らで、スコールがふるりと体を震わせる。
横目に彼女を見ると、長い睫がふるりと震えて、ぼんやりとした青灰色が顔を覗かせた。


「んぅ…?」
「……スコー、ル…」
「れおん……」


 目を開けはしたものの、まだ睡魔の方が強いのだろう。
覚醒を嫌がるように、スコールはレオンの首に腕を巻き付かせて抱き着き、目を閉じる。
そのまま、また眠れるだろうか、とぼんやりと見守っていると、スコールがぴくん、と肩を震わせた。


「ん、や……」
「スコール……?」
「んん……っ」


 ぴくん、ぴくっ、とスコールの体が小刻みに震える。
何処か怯えたように縋り付いて来る妹に、スコールも自分と同じ違和感を感じているのだろうか、とレオンは眉根を寄せた。

 すす、と何かが腰を這う感覚がする。
体が思うように動かない上、重苦しさが増して来た気がして、レオンは息を飲んだ。
這う感覚が腰から腹へと移動する。
浴衣の帯紐が緩んで、袷が肌蹴ているのだろう、ひんやりとした空気が肌を滑るのが判った。


「う、ん……やぁ……」


 ぎゅ、とスコールがしがみ付いて来る。
それを宥めようとして、レオンは胸元まで這い上がって来た正体不明の感覚に、思わず身を固くした。
その緊張が伝わったのか、スコールもまた身を震わせてレオンに縋った。

 はらり、と浴衣が肌蹴られ、胸元を這う感覚がより明瞭なものとなる。
足元は相変わらず、ろくに動いてくれず、出来る事と言ったら腰を捻って身動ぎする程度。
スコールが離れてくれれば、枕にしていた腕が自由になるのだが、全身で縋ってくる妹に「離れろ」と言うのも可哀想な気がして出来てなかった。

 緊張感と、正体不明の見えない何かに体を拘束されていると言う事態に、二人の体はどんどん強張って行く。

 柔らかな双丘を押し上げられて、揉むように負荷がかかる。
スコールもまた、捲れた浴衣の裾から滑り込んだものに、太腿の付け根を執拗に愛撫されていた。
スコールがシーツを蹴るように足を動かしていたが、それが余計に侵入者の行為を調子づかせていると、彼女は気付けない。


「あっ…!」
「……!」


 スコールの内股を撫でていたものが、レオンの胸を揉みしだいていたものが、それぞれの敏感な場所に触れた。
恐怖に交じって甘い声を上げたスコールに、レオンも息を飲んで、零れかけた音を飲み込む。


「う、んん…っ」
「んぁ…っ……は、くぅ…」
「レ、オン……や……っ」
「はぁっ……あ、あっ…!」


 きゅ、と乳首を摘まれ、レオンの躯がピクン、と跳ねる。
汗ばんで湿ったスコールのショーツのクロッチが押し上げられた。
更には腹の上に何かが這い、熱の篭った吐息のような、生暖かい風が当たる。
這うものはまるでナメクジのようにねっとりとしていて、肉のような奇妙な弾力があった。
まるで巨大な爬虫類に伸し掛かられているような気がして、二人の背が戦慄く。


「やぁ……!」
「ん、く……」


 悲鳴と、泣き声の混じったスコールの声に、レオンは思わぬ事態への緊張と恐怖で閉じていた目を開けた。
縋るスコールを抱き締めて頭を撫でてやると、子供が甘えるように頬を寄せて来る。

 ────そんな彼女の頭の向こうに、ゆらゆらと揺れる金色を見付けた。


「……………スコール、ちょっと……」
「や……!」
「すまない、少しだけだから」


 押し離そうとするレオンに、スコールがいやいやと首を横に振って縋って来る。
レオンは、汗を滲ませたスコールの額にキスをした。
泣き出しそうな顔で縋るスコールに、レオンが小さく笑いかけてやると、レオンの首に回されていた彼女の腕から力が抜けた。

 レオンが腕で体を支えて上半身を浮かし起こすと、密着し合っていた姉妹二人の体の上で、もぞもぞと動く影がある。
大きさで言えば丁度人一人と言った具合で、特徴的なのは逆立った金色だ。
レオンは徐に腕を伸ばすと、自分の腹の上で蠢いている金色を鷲掴んで引っ張る。


「あだだだだだだだだ痛い痛い痛いレオン痛いマジで痛い」
「やっぱりお前か……!」


 暗闇の中から聞こえた、影が発した聞き覚えのある声に、レオンの米神に青筋が浮かぶ。
レオンの傍らで完全に委縮していたスコールも、恐る恐る、自分達に伸し掛かっているものへと振り返る。

 其処には、今回の旅行の同行者である男の姿があった。


「……クラウド……?」
「うん、おはよいだだだだ痛い痛いレオン痛いって言ってる髪抜ける禿げる」


 スコールの呼ぶ声に、のんびりとした声で返事をしたクラウドだったが、レオンにこれでもかと言わんばかりに髪を引っ張られて必死の抗議を上げる。
しかしレオンは髪を掴む手を緩めようとはしない。


「お前は一体何をしている」
「何って、寝苦しそうだったから楽にしてやろうと思って。汗掻いてたし」
「ほう。成程な。それで?」
「二人とも、帯きつめに結んでただろ。それをちょっと緩めて」
「で?」
「前も緩めて、そしたら帯緩めてたもんだから下の方も崩れて」
「それから?」
「…………肌蹴た浴衣で汗滲ませて寝てるのってエロいよな」
「言いたい事はそれだけか」


 碧眼を見据える青灰色に、物騒な光が灯る。
あ、やばい、とクラウドが感じた時には既に遅く、レオンの両手がクラウドの浴衣の襟を掴んでいた。

 レオンが体を引き倒すのに合わせて、クラウドの身体が浮き上がり、勢いよく宙を舞う。
ばぁん!と大きな音が鳴り響き、続いて襖ごとクラウドの身体が畳の床に落ちた。
夜の平穏な旅館には似つかわしくない騒音に、スコールの顔から血の気が引いて蒼くなる。


「レオン!此処、旅館だぞ!」
「………しまった、」


 頭に血が上った所為で、つい家にいる時と同じ感覚で制裁を加えてしまった。
仲居が駆けこんで来たら誤魔化さなければ、と思いつつ、レオンは布団から身を起こし、立ち上がると、倒れた襖の上で引っ繰り返っている男を見る。


「一日目くらいは大人しく寝てくれるんじゃないかと思っていたんだが、無駄な期待だったな」
「レオン、おっぱい見えてる」
「見るな」


 引っ繰り返ったままで見上げているクラウドの顔を踏みつけて、レオンは浴衣の前を引っ張って胸元を隠す。


「どうやら俺もまだまだ認識が甘かったようだ。お前にそんな期待をするだけ無駄だって事がよく判った」
「いやいや。まだ何もしてないぞ、俺。おっぱいとパンツ触っただけで」
「十分万死に値する」


 ぐぐぐぐ……とレオンが体重をかけてクラウドの顔面を踏む。
と、がしり、とクラウドの手がレオンの足首を掴んで、自身が起き上る力に任せて引き寄せた。
片足立ちになって、踏む足に体重をかけていたレオンがバランスを崩し、尻餅をつく。

 レオンが床に座り込んで顔を顰め、強かに打った尻を撫でていると、掴まれていた足がまた持ち上げられて、浴衣の袷が開かれる。
黒レースのシンプルなショーツが露わになって、レオンは慌てて浴衣でそれを隠そうとする。


「馬鹿、離せ!」
「レオンの下着は色っぽいな。誘ってるのか?ああ、スコールのも可愛かったぞ。白のレースっていいよな」
「……!!」


 クラウドの言葉に、スコールが真っ赤になって浴衣で下肢を隠す。
先程の悪戯の間に見られたのだろう。
沸騰しそうな程に赤くなったスコールの目尻に滲む雫を見て、レオンの堪忍袋の尾が切れた。

 ぱちり、とクラウドが一つ瞬きをした直後、彼の体は横から襲った衝撃に撃ち抜かれた。
レオンの長い脚に手加減なしで蹴られては、頑丈さに定評のあるクラウドも流石にそれなりのダメージになるらしい。
再度畳の上に倒れたクラウドに、レオンは直ぐには近付かず、部屋の隅に置いていたキャリーバッグを開けた。

 クラウドがのろのろと起き上がる。


「レオン、今のけっこーキたぞ」
「その割には元気そうだな、お前は」
「そりゃそうだ。こんな美味しいシチュエーションで大人しく寝るなんて無理だ」
「そうか。だが、俺達は平和な夜を過ごしたいんだ」


 言って、レオンがクラウドの目の前に立つ。
威圧するように見下ろす彼女の手で、じゃらり、と金属的な音が鳴った。


「?レオン────」


 何を持ってるんだ、とクラウドが問うよりも前に、かちゃん、と言う音がクラウドの首下で鳴った。
なんだこれ、とクラウドが首に手を当てていると、ぐいっと何かに引っ張られる。


「え。おいレオン。ちょっと待ってくれ、なんだこれ」
「見れば判るだろう。首輪とリードだ」


 レオンが掲げて見せた手には、クラウドの首に嵌められた金属製の輪と繋がった鎖が握られている。
ちょっと待て、とクラウドの止める声を聞かず、レオンは鎖の端を床の間の床柱に括り付けた。


「何するんだ、レオン」
「見ての通りだ。俺達の安眠の為、お前はこっちで寝ろ。このままで、だ」


 そう言って、これで安心だとばかりに背を向けるレオンに、クラウドがにやりと口の形を歪める。

 腕力には自信があるクラウドだ。
その力は怪力や剛力と言う範囲を超えており、その気になれば岩壁一つに穴を開けると言う所業も造作もない事であった。
そんなクラウドを首輪一つで制御出来る筈もないと、付き合いの長いレオンが知らない筈がないのに────やっぱり甘いな、とクラウドは思った。

 首輪は、クラウドの首の太さにきっりと合わせられており、指を入れる隙間もないので、力任せに外すのは難しいだろう。
しかし、鎖一本程度なら簡単に引き千切れる。
仕事中に度々それをやってレオンに叱られているクラウドだが、そんな事は気にせず、首から伸びる鎖を両手に握って力任せに引っ張った。

 ─────が。


「…………ん?」


 クラウドが何度鎖を引き千切ろうと力を籠めても、鎖はびくともしない。
がしゃっ、がちゃっ、と繰り返し鎖を壊そうとするクラウドに、スコールと一緒に襖を直していたレオンが振り返り、


「そいつはセフィロスとザックスと、父さんに頼んで作らせた特注だ。万力級のお前の馬鹿力でも壊れないように、とな」
「…………」
「首輪も同じ材質だし、鍵は俺が持っている。先に言っておくが、其処の柱を壊しでもしたら、弁償代をお前の財布から出して、お前は即刻追い出すぞ。それともう一つペナルティだ、会社に戻ったらティファにお前の問題行動を全部話す」
「チクリはずるいぞ!」
「お前が大人しくしていれば良いだけの話だ」


 がじがじと悔しそうに鎖を噛むクラウドを一瞥し、レオンはスコールの肩を押して敷居を跨ぐ。


「怖がらせて悪かったな、スコール」
「別に…あんたが謝るような事じゃない」
「いや……俺があいつの同行を赦さなかったら、こうはならなかっただろうからな……」
「そしたら二人とも大変なことになってたぞ、絶対。俺のお陰で余計な虫がつかないで此処まで来れたんだろ」
「お前が一番余計な虫なんだ」


 割り込んできたクラウドを睨んで言い放つレオンだが、クラウドは不思議そうに首を傾げるばかりだ。
クラウドのこうした一面は、いつもの事であるとは言え、こうまで自分の行動を反省しない所を見ると、苛立ちを通り越して疲労を感じるレオンである。

 痛みを覚える米神に指を当てていると、労わるようにスコールの手がレオンの手に重なった。


「もう寝よう、レオン」
「……そうだな」


 見詰める青灰色に、レオンも柔らかい笑みを浮かべて頷いた。
寝室に入って襖を閉めると、一枚戸の向こうから男の喚く声が聞こえたが、二人の耳には既に聞こえていない。

 三つ並んだ布団の真ん中にレオンが腰を下ろすと、スコールがしばしそれを見詰めた後で、レオンの傍らに横になる。
スコール、とレオンが妹のと名を呼ぶと、スコールは俯せになって顔を隠してしまった。
そんな少女にレオンは小さく笑みを零し、今度こそ、二人揃って夢の世界へと旅立ったのだった。





夜這い失敗。
スコールが誰これレベルの甘えっ子ですみません。仲良しレオスコ好きなんです。