幽冥、流転 1


 何処で生まれたとか、何処で拾われたとか、何処でどう、とか。
そういう事は考えるだけ無駄で、ただただその日その日を食い繋ぐように、這い蹲るようにして生きていくしかなかった。
だから、きっと綺麗だっただろう故郷の景色や、晴れ渡る空の広さや、何処までも吹き抜けて行く透明な風なんてものを、記憶の奥底に埋もれて取り出せなくなってしまったのは、自然な事だったのだろう。

 思い出なんてものは、生きていくのに必ずしも必要なものではないらしい。
それよりも、酸素であるとか、食べ物であるとか、そう言うものを求める方が余程建設的だ。
そして、それらを手に入れる為の手段を考える方が、褪せた遠い記憶に手を伸ばすより、余程現実的で最良な思考であった。

 だが、思い出がなくとも、やはり縋るものはあった方が良いらしい。
ただ無意味に生きながらえるよりは、明確な目的や、欲求するものがある方が、より生きる事に執着し、生きる為の思考も巡り易くなる。
いつか死ぬ為に生きるより、生きて果たしたい目的があって、その為に生き延びる方が良い────と思うのは、生に執着すべきと言う生物の本能的な思考が都合良く作り出した理屈なのかも知れない。
しかし、そう言った思考がある以上、やはり生きる目的やそれによる欲求は、ないよりはあった方が良い、のだろう。

 レオンにとっての生きる目的や、生きる為に必要な欲求は、弟であるスコールだった。
生まれ育った故郷も、空の青も、何もかも忘れた彼にとって、ずっと傍らにいる弟の存在だけが自分の存在意義であった。
彼の為に生きて、彼の為に生きる手段を行使し、求めるものは彼と共に生きる道だけ。
それさえあれば、後は何もいらなかった。

 弟であるスコールにとっても、それは同じ事だ。
故郷の情景や、壁のない何処までも続く広い大地など、いつの間にか思い出す事すらも忘れてしまった。
スコールが頭の中に留めている事と言ったら、毎日顔を合わせて同じ時間を生きる兄の事だけで、彼の為ならばどんな事でも出来ると思う。
兄が求める事なら何でも叶えたいし、そうする事で彼が喜んでくれるのなら、それ以外は何もいらない。
自分が命を投げ出すことで兄が喜ぶのならそうしたし、自分が生き続ける事で兄が喜ぶから、今も彼は兄と共に生きる道を歩き続けている。

 いらないのだ、何も。
レオンはスコールが、スコールはレオンがいれば、それで良い。
後は何もいらない。

 だから、二人一緒に生きて行けるのならば、どんな事でも出来るのだ。




 がやがや、ざわざわと、行き交う無数の人々の雑音が飛び交う。
人々は壁に並べられた籠や檻の中を覗きながら、囁き合い、潜めき合い、手前勝手な感想を好きに零しながら、其処に閉じ込められたものを眺めて通り過ぎて行く。
檻に閉じ込められたものは、無数の眼球が己を見詰めては興味を失っていくのを見据えながら、吼え、嘶き、睨み、媚び、威嚇する。
だが、如何に檻の中で吼えたとて、媚びたとて、そんなものは檻の外にいる者にとっては、大した意味のあるものではなく、単なる見世物の一役でしかない。
しかし、彼らはそうする事で、飼い主から餌を与えられるのだ。
吼え、嘶き、睨み、媚び、威嚇する事で、檻の外にいる者達を満足させ、飼い主を満足させるのが、彼らの生きる術なのだ。

 檻の中の生き物の形は、様々だ。
街中で普通に見かけるような猫かと思えば、尾が一本多い。
これもまた当たり前に見かけるような鳥かと思えば、足が一本多い。
何処にでもいるような犬かと思えば、眼が一つ足りない。
歪な形で繋がったもの、別たれたもの、多い、足りない、欠けている、余りがある────そんなものがずらりと並んでいる。

 それらを眺めながら順路に沿って進んでいた列が、途中で二つに分裂した。
一つはそのまま順路の通りに、もう一つは係員に誘導されて別の順路へ。
誘導された列は、奥の重々しい扉の微かに開かれた隙間から、暗がりの部屋へと消えて行く。

 暗がりの部屋は、広く、天井も高く、並べられた檻もそれに見合って幅を広げていた。
その檻の中には、眺める者達と同じ形をしたもの────人間が閉じ込められている。
それらは、今まで観覧者が見ていた歪な生き物達とは違い、どれも見目美しいものであった。
時に腕が、足が、皮膚が、欠けている箇所もあるものの、総じて観覧者を見上げる表は美麗であった。
完全な美の中の不完全が、何処か禁忌か背徳を思い起こさせる。

 暗がりの部屋の中は、明らかに異質の空間であった。
にも関わらず、踏み込んだ観覧者達は、誰一人としてその異質に気付かない。
部屋の中は、まるでそれが正常であるかのように、今までの世界とは異なる空気を孕み、踏み入れた者達を飲み込み、取り込んで行く。

 観覧者達は、係員に誘導されるがままに、部屋の奥へ奥へと進んで行く。
沢山の檻に囲まれた道を、檻の中から虚ろな眼で手を伸ばす、綺麗な異端者達に心を奪われながら。

 部屋の中心位置に辿り着いた所で、係員は観覧者達に自由を言い渡した。
数十分の時間制限を設けた中で、檻を好きに見回って良いと言うのだ。
観覧者達は色めき立ち、散り散りになって、心を奪った異端者達の下へ近付いて行く。
異端者達は首を繋ぐ鎖を鳴らしながら、手を伸ばし、禁忌の聖域に迷い込んだ者達を誘引するかのように肢体を揺らして見せた。

 暗く、静寂のみに包まれていた部屋の中で、少しずつ、熱を孕んだ声が反響し始める。
異端者達は、観覧者達の意識を少しでも我が下へと集めようとするかのように、肢体を淫靡にくねらせ、媚びるように舌を伸ばし、唾を飲んで見詰める観覧者をじっと見つめる。
観覧者達は、あれが、いやあれが、と己の趣向を満たす者を指しては、舌なめずりをしていた。

 ────そして、最奥にある一つ大きな檻の中でも、また、淫靡な光景が広がっていた。


「ん、ふっ…ふぁっ…うぅん……」
「あ、ん…ふっ、うっ…あぁんっ……」


 多くの檻が一人の異端者を閉じ込めている中で、その檻だけが二人の異端者を内包している。
濃褐色の髪、深い海の底を思わせる青灰色の瞳、暗がりの部屋の中で映える白い肌。
他の異端者の殆どに見られるような、欠けているらしい所もなく、整った面立ちに、手足もすらりと長く、白い肌には傷一つなく、正に完璧な美であると誰かが感嘆の吐息を漏らした。

 その二人の美しき異端者は、人二人が横たわれば余分な隙間などなくなるような檻の中で、体を重ね合っていた。
長い髪の、心なしか体格の良い方が上になり、細身の方を自身の体の下に寝かせている。
衣服を身に付けていない二人の肌は、しっとりと汗を滲ませ、濃褐色の髪が頬や額、首筋や背中に張り付いて、白い肌を浮き立たせた。
重ね合わせて開いた足の間から、白い肌の中で桜色に色付いた雄の象徴があった。

 重なり合った異端者達は、どちらも雄────男であった。
彼らはその性の象徴である性器を、互いに擦り付けるように重ね合わせ、ゆらゆらと悩ましく腰を揺らめかせていた。


「あっ…はっ、…あぁっ……レオ、ンん…っ」


 組み敷かれた、髪の短い細身の少年が綴ったのは、己を見下ろす青年の名だった。
青年はその声に呼応するように、少年の顔に己の顔を近付け、零れた唾液に濡れて光る唇を重ね合わせる。


「ん、ん……」
「ふ…んぁ…む……」
「っは…あ……スコール…ぅん…」


 青年が紡いだ名に、少年がうっとりと幸せそうに笑みを浮かべる。
白い頬がほんのりと赤らんでいる所為か、その笑みは酷く性的で、しかし無邪気な子供のように見えた。

 青年の名はレオン。
少年の名はスコール。
そんなプレートが檻の縁にかけられて、彼らが正真正銘血の繋がった兄弟である事を説明していたが、二人にとってそんな事はどうでも良かった。
彼らは己を見詰める無数の眼がある事すら気付いていないかのように、世界を目の前の存在だけで埋め尽くし、背を這い上がってくる緩やかな快感に身を任す。


「あっ、はっ…レオン、レオン…もっと……」


 スコールがレオンの首に腕を回し、体を密着させ、重なり合った陰茎を擦り合わせる。
ふる、とレオンの肩が微かに震え、レオンは熱を孕んだ瞳でスコールを見詰め、右手でそっと二人の中心部を覆し、柔らかい力で包み込んで上下に扱き始めた。


「ん、あっ、あっ…レオ、ン、レオン…っ」


 与えられる刺激に、スコールの腰がひくひくと戦慄く。


「スコール…お前も……な…?」
「ん、んっ……ふっ…」
「ほら……教えただろ…?」


 レオンの舌がスコールの首筋をなぞる。
ひくん、とスコールが息を飲んで喉を逸らせ、レオンは露わになったその喉に噛み付くように、緩く歯を立てた。
まるで吸血鬼が深窓の令嬢の血を求めるかのように、赤い舌がスコールの喉仏を撫でて行く。

 陰茎を擦っていたレオンの手が離れると、スコールは「あぁ…」と切なげな吐息を漏らした。
ふるふると解放を嫌がるように首を横に振るスコールに、レオンは柔らかく微笑みかけ、透明な雫を浮かせた眦に口付ける。


「ほら……大丈夫。俺と同じようにすればいい」
「あっ…ふ…ぅん……」


 レオンの手に促され、スコールの手が二人の中心部へと添えられる。
そのまま、レオンはスコールの手ごと雄を包み込み、上下に動かしてやる。


「あっ、あっ、」
「ふ、う…スコールの、手……温かい……んんっ」


 スコールの瞳が虚空を彷徨い、レオンの顔が光悦に染まる。

 レオンの手が離れても、スコールは手淫を続けていた。
そうする事で、目の前にある兄が喜んでくれると覚えているから。


「う、んん…っ!あっ、ふ…スコール、スコール…ぅ…」
「はっ、あっ…レオン…レオン、きもち、いい…?感じる…?」
「うん…んっ、ふ……気持ち良い…スコールの手、いい……ん、」
「ん、ん、……むぅ…ん」


 どちらともなく唇を重ね合い、舌を絡ませて貪り合う。
ちゅく、ちゅぷ、と唾液の交じり合う音が鳴って、赤い舌の間から、銀糸が垂れて床に落ちる。

 スコールの手の動きが早くなって行く。
それに連れて、二人の息も性急に上がって行った。


「ふぁ、あっ、あっ!レオン、レオン…レオンもっ…レオンも、触ってぇ……!」
「あ、んっ!ふ、スコール…!スコール、ん、あっ、あっ!」


 スコールとレオンと、それぞれの手で二人の中心部を包み込んで、手淫する。
二人の細く引き締まった腰が揺れ、ヒクヒクと痙攣するように震えて、先走りの蜜が雄の先端から零れて行く。


「はっ、あっ…!レオン、レオンの、手…あっ…!」
「スコール…ん、あ、あ、はっ…!あぁ…!」


 ぞくん、ぞくん、と下肢から背中を、脳髄へと昇って行く、逆らい難い甘く強い衝動。
舌を伸ばして喘ぐスコールの、熱に溺れた表情に、レオンの雄が膨らんで行く。

 は、とレオンは熱の篭った吐息を吐いて、スコールの唇に己のそれを重ねた。
そのまま手淫を早めて行けば、スコールの体がピクッピクッと跳ねて震え、


「んっ、んっ!う、んぅん……っ!」


 ビクン、とスコールの体が一際大きく震えて、蜜液が迸る。
射精の瞬間、スコールの体が強張り、ペニスを包む手が握られる。


「うぅんっ…!!」


 スコールの時と同じように、レオンの体がビクン、と震えて、二人の腹が精液で汚される。

 ぞく、ぞくん、と射精の名残のように背中を奔る感覚に、レオンとスコールはうっとりと光悦の瞳で空を仰ぐ。
重ね合わせていた唇が離れると、とろりと唾液が口端から溢れて、喉を伝う。

 陰茎に添えていた二人の手に、どろりと蜜液が纏わりついている。
スコールがその手を徐にレオンの頬に添えれば、交じりあった二人の精液が白い頬を汚し、スコールは誘われるように顔を近付け、白濁を舐め取った。
ふる、とレオンの長い睫が震えて、眼を閉じ、レオンの唇がスコールの額に押し当てられる。

 力の緩んだスコールの足の間に、レオンは体を入れて、達したばかりの性器をスコールの下肢に当てた。
ひくん、とスコールの太腿が跳ねて、スコールは自ら招き入れるかのように、足を左右に大きく開かせて行く。


「レオン…ん、ん……っ」


 一度達した直後だと言うのに、レオンのペニスは膨らんだままだ。
その先端をスコールの秘孔に宛がい、口をなぞるように擦り付けると、スコールは冷たい床に爪を立て、耐えるようにもどかしげな声を漏らす。


「スコール……欲しい…?」
「ん、ぅん……レオンの、欲しい…早く、入れ、て……」


 仔猫が甘えるような声で、スコールはレオンに縋り付いた。
白魚のような脚がレオンの腰に絡み付く。

 どちらともなく唇を重ね合わせて、ちゅぷ、ちゅ、と淫水音が鳴る。
啄むように離れては触れるその隙間に、悩ましい、熱を孕んだ吐息が漏れて、二人の体温を上げて行く。
レオンがスコールの腰を支えるように抱き寄せると、押し当てていた雄が、スコールの秘孔口を拡げて行き、


「んっ、あっ、ああぁあっ……!」


 甘い悲鳴が、潤んだ唇から溢れ出して行く。
レオンの桜色の唇からもまた、恍惚とした音が漏れた。
ぐにゅぐにゅと内部に脾肉が絡み付いてくる感覚に、レオンの腰が戦慄く。


「あっ…はっ…!ああっ…スコールぅ……!」
「レオ、レオン、レオンのっ…入ってぇ……!」


 挿入が深くなって行く毎に、スコールの足がヒクッヒクッと跳ねて、見る者の目を楽しませる。
観覧者達のあちこちで、ごくり、と生唾を飲む気配があった。

 ────が、


「皆様。制限時間一杯となりましたので、此方へお集まり下さい」


 淫靡にして何処か神聖な儀式の最中であったかのような空気を割いて、係員の声が届く。
人々は酔いしれていた名残に後ろ髪を引かれながら、渋々と係員の下へと集まって行った。

 ちら、と一人の観覧者が檻を振り返れば、其処には既に暗幕のように分厚いカーテンが降りている。
しかし、その向こうの仄かな灯りがぼんやりとシルエットを映し出し、重なり合う影が悩ましくその肢体を揺らめかせている。
耳を欹てれば、暗幕に遮られた二人の声がくぐもったものになって届いた。


「ああっ、んっあっ…!ひん…!」
「あっ、ん…!だめ、きつい……んあっ…!」
「だって、ぇ…!ひぅん…っ!そこ、きもちいぃ、のぉ…っ…」


 あと五分、いや一分でも良い、もう一度見せて欲しい。
彼らに心を奪われた観覧者達は、皆そんな思考に囚われていた。

 係員はそんな観覧者達をぐるりと見渡し、


「それでは次の順路へと参ります────前に、皆様にお知らせが御座います。明日、午後零時に、この館にてオークションを行います。申し訳ありませんが、一見の方は御入札出来ませんので、ご了承ください。ご紹介者様の同伴であれば、御入札は可能となりますので、お気に召しました商品が御座いましたら、お誘い合わせの上、どうぞご来場ください」


 次の順路は此方になります……と促す係員に誘導されて、観覧者達は動き出す。
それを追うように、あちこちの檻から、白く清幽な細い腕が伸び、遠退く者達を捉まえようと彷徨い揺れた。





 温かな湯になど、随分長い間触れていない。
体を清めるのは、真冬であっても、極寒の地であっても、冷え切った冷水しかない。
夏であればそれも心地良いのだが、そうそう都合の良い気温の場所に身を置ける訳ではなかった。
興行地は一団の座長に当たる男の一存で決まり、その地に耐えられないと最初に予想されるものは、最中の面倒費諸々を嫌って然るべき場所に預けられるか、運が悪ければ旅路の中で打ち捨てられるか。
檻に入れられ、見世物とされる者達は、座長の男の一存で命を切り捨てられる為、こぞって彼に気に入られようと躍起になった。
そうしなければ、満足に餌すら与えられないのだ。
だから彼に気に入られさえすれば、温かな毛布も、生きる為に必要な栄養も、十分に与えて貰えるのだ。

 レオンとスコールは、一座の稼ぎ頭的な存在であった。
いつから自分達がこの一座に連れられているのか、二人は最早覚えていなかったが、気付いた時にはこの生活が当たり前になっていた。
見世物になる事に抵抗感を覚えていたのは最初だけで、スコールが栄養失調で危険な状態になった時から、レオンはプライドを捨てた。
座長に媚びて機嫌を取り、従い、餌を貰う。
そうして弟が生きてくれるなら、自分の傍にいてくれるなら、後は何もいらなかった。
そしてスコールもまた、レオンが過度の疲労と精神的ストレスで倒れた日から、人間である事への拘りを捨てた。
兄がしていたように座長に甘え、懐き、餌を貰って兄と分け合った。
寒い夜に熱を分け合うようにまぐわい合えば、それを見た座長が良い客寄せになると言い、人前で肌を重ね合わせる事を命令した。
それで生きて行く事が出来るのならば、拒否する理由などなく、何より、重ね合わせた肌の熱が溶け合って行くのは心地良くて堪らない。
そうして、多くの異端者達が観覧者達に自分を見てと縋る中、二人の世界に没頭するように体を重ね合う兄弟の様は人気を呼び、噂が噂を呼んで、客足を増やして行った。

 興行が続く間、兄弟は毎日体を重ね合った。
誰が自分を見ていようと、どんな目で見詰めていようと、彼らにはどうでも良かった。
二人で過ごす日々が続けば、別たれる事がなければ、それで良い。

 決められた日付の決められた時間に行われるオークションの後、檻の中の人影が減っている事には気付いていた。
誰かに買われ、この薄暗い部屋から出る事を赦されたのだろうと思った。
多くの者はその解放を求めて観覧者達に気に入られようと手を伸ばすのだが、レオンとスコールには、それすらもどうでも良い話であった。
二人で一緒にいられなくなるのなら、この閉ざされた薄暗い部屋の中にいる方が良い。
座長も、レオンとスコールを別々にするよりも、同じ檻に入れている方が金になる事を理解していた。
だから彼がレオンとスコールの、どちらか片方だけでも売る事はない────そう、兄弟も考えていた。

 しかし。


「────んあぁっ!」


 座長の太く黒ずんだ、グロテスクなペニスがレオンの秘孔を貫いた。
ビクン、ビクン、とレオンの体が跳ね、ベッドシーツを握る手に力が篭る。

 男に貫かれ、犯されるレオンと重なり合っているのは、スコールだ。
痛みと快楽で震えるレオンの躯に縋るスコールのアナルに、座長の指が宛がわれ、ぬぷぅ……と内壁を拡げて行く。


「あっ、ひっ…!あああっ…!」
「ん、あ……あっ、はぁん……!」


 座長が腰を振ってレオンの秘孔を突き上げ、四つ這いになったスコールのアナルを掻き回すように指を抜き差しする。
レオンとスコールは、柔らかなベッドの上で、飼い主の望むがままに痴態を晒し、甘い喘ぎ声を鳴らしていた。


「ひ、あはっ…!んぁ…おっき、ぃ…あぁっ……!」
「あっ、あっ、あっ…!あ、そこ、だめぇ…!爪、当てないで…ああんっ!」
「や、あ…!拡がって…っ、だめ、苦し……ひぃんっ!ああっ!」


 レオンが腰を揺らめかせ、悶えるように頭を振る。
逃げようとずり上がって行く腰を、叱るようにピシャンと叩けば、ビクッと震えて淫部が咥え込んだペニスを締め付けた。

 座長の指がスコールの淫部の奥に辿り着き、内壁を尖った爪の先端がコリコリと掠めるように刺激を与える。
ヒクヒクと脾肉が蠢いて指に絡み付き、ビラビラとした天井が指の形を確かめるように吸い付く。
それを振り切るように指先で円を描けば、スコールは背を仰け反らせて悲鳴を上げた。


「やっあっああっ!あん、やっ、やぁん!」
「スコール、スコール……あっ、ひぃん!あんっ、あっ、あっ!や、あ、奥っ、ごつごつしちゃ…あっ、ああっ!」
「や、レオン、あぁん!くるっ、来ちゃうっ!中、ゴシゴシされてっ、ぞくぞくするの来るぅっ!」


 スコールが全身を強張らせて、レオンに縋り付く。
ぎゅ、と肩を掴むスコールの手に力が篭り、レオンの皮膚に爪を立てた。
がりり、と引っ掻く痛みにレオンが微かに顔を顰めたが、それも直ぐに、淫部を突き上げる快感に浚われて溶ける。


「あっ、イくっ!イくぅっ!」
「ふ、ひぃんっ!俺も…あっ、あっ!や、イくうぅっ!」


 ビクッ、ビクン!と二人の躯が強く戦慄いて、甲高い悲鳴と共に、熱が吐き出される。
そして強い締め付けを感じた男の太いペニスからも、レオンの体内へと、精液が注ぎ込まれた。


「あはっ、あっ、ああぁっ…!ひぃん…!んぁ……あっ…」


 限界まで左右に開かれていたレオンの太腿が震える。
ごぷっびゅくっ、と吐き出された蜜液が、許容量を超えて、雄を咥え込んだ淫部の隙間から、ごぽりと溢れ出した。

 ずりゅ……と太いペニスがレオンの内壁を擦りながら、引き抜かれて行く。
スコールは力の入らない体を起こし、己の体の下で悶えるように肢体をくねらせるレオンを見詰めていた。


「レオン……んんっ!」


 ほぅ、と淫悦の吐息を漏らしたスコールの下肢で、埋められたままの指が壁を拡げる。
二本、三本と増やされた指がスコールの脾肉を遊ぶように掻き乱し、スコールは背中を上ってくるぞくぞくとした快感に打ち震えた。


「ひっ、ひぃうっ…!らめ、イった、ばっかり…あっ、ああっ、ふぁあっ…!」


 絶頂直後で感極まったばかりの躯は、与えられる快感に過敏に反応してしまう。

 がくがくと体を震わせて喘ぐスコールを眺めながら、座長は放心したようにシーツの波に身を沈めているレオンの太腿をゆっくりと撫で上げた。
それだけで、ひくん、とレオンの躯が震えて、男の欲望に塗れた下肢が切なげに揺れる。


「う、んん……」


 もどかしげに吐息を飲み込むレオンに、座長は劣情の篭る眼差しを向けながら、口を開いた。


「レオン。話がある」
「っは……ん……?」


 茫洋と、成人しているのに何処か幼さを残した青灰色が、飼い主である男を見上げる。
その視界の中には、座長によって与えられる快感に打ち震える弟の姿がある。


「あっ、ひぃん…!やっ、あっ、ああっ…!」
「ふ、ぅ……んんっ…」
「レオンっ…あっ、あっ…!やぁん…!」


 兄に見つめられている事が羞恥心を煽るのか、スコールは赤らんだ肌を隠すように、自身の躯を抱き締める。
レオンは起き上がって弟に体を寄せ、持て余す熱を分け合うように、汗の滲んだ肌を重ねる。

 淫靡な熱に酔い痴れる兄弟を眺めながら、座長は言った。


「明日の競売にな、お前達を商品として出す事になった」
「え……?」


 飼い主の男の言葉に、ぼんやりと熱に浸っていたレオンの瞳に、理性の光が戻る。
快感に飲まれて、助けを求めるようにしがみ付いて来る弟の体を抱き締めて、レオンは縋るように座長の男を見上げる。


「どうし、て……?俺達は、オークションにはかけないって…」


 レオンとスコールは、一座の稼ぎ頭だ。
オークションにかけて売ってしまえば、売り上げはそれきりになってしまう。
商品として手をかける手間を差し引いても、長く稼ぐのであれば、このまま手元に置いておく方が利がある。

 何よりレオンは、競売にかけられて、兄弟別々に引き取られてしまうのが嫌だった。
二人別々にされてしまう位なら、永らえて来た命を捨ててしまった方が遥かにマシだと思う程に。


「あっ、ひぃん…!そこ、だめ…つまんじゃ…あっ、ああっ…!」


 凍り付いたレオンに縋り、悦楽に喘ぐスコールの声だけが、場違いに甘く響く。


「今日の観覧で、お前達を酷く気に入ったと言う方がいてな。この辺りの有力者で、お前達を欲しいと言う。流石に無視する訳には行かん」
「…俺、達…を……?」


 俺達────レオンとスコールと、つまり、二人を。
鸚鵡返しに呟くレオンに、座長は頷き、スコールの淫部の最奥を突き上げる。


「ひぃんっ!」


 強張った悲鳴を上げたスコールに、レオンがビクッと肩を跳ねさせた。
首に腕を絡めて縋るスコールを、宥めるように抱き締めてやる。


「あっひぅっ…ん、あ、あ…ひろがって、ぇ…あっ…!」
「お前達は二人で一つの商品の扱いだ。仮に買われたとしても、買われる先は同じと言う事だ」
「……本当に…」
「買われるまでは、な。その先は、私の知る所ではない。欲を言えば、このままお前達は此処で可愛がっていてやりたいんだが」


 そう言って、座長はレオンの顎を捉えて上向かせる。


「まあ、お前達は十分稼いてくれたし、夜の相手も楽しませて貰った。そろそろ自由にしてやっても良いだろう」
「…ふ、んん……っ」


 レオンの唇を座長の親指がなぞり、薄く開いた隙間から咥内へと侵入する。
指と唇の隙間に吐息を漏らしながら、レオンは男の指に舌を絡める。


「此処にいるのも、いい加減に飽きただろう?」
「ん、…そ、な……こと……」
「スコールはどうだ?」
「はっ、あっ……ああっ……レオ、ン…レオン、ああっ…!」


 座長の問いに、スコールは答える事が出来ない。
ぐちゅぐちゅと絶えず淫部を掻き回され、脾肉はその刺激を喜ぶように痙攣している。

 スコール、とレオンが答えを促すように名を呼ぶ。
熱に浮かされた虚ろな瞳が兄を捉え、甘えるようにスコールはレオンに擦り寄った。


「スコール、お前はどうだ。此処にいるのも飽きただろう。そろそろ自由になりたいとは思わないか」


 レオンに甘えるスコールに、座長がもう一度問うと、スコールはふるふると首を横に振って、


「ここ…ここが、いい……レオンと、一緒に…いられるのが、いい……」


 自由でも不自由でも、スコールにはどうでも良いのだ。
大切なのはレオンと一緒にいられる事だけ。


「スコー、ル、」
「ん、ん……ふぅん……」


 キスをねだるように顔を寄せるスコールだったが、レオンの咥内には座長の指があった。
スコールは微かに拗ねるような顔を見せた後、座長の指に舌を這わす。
まとわりつくレオンの唾液に、自分の唾液を絡めながら、スコールは夢中になってしゃぶる。


「レオンと一緒に自由になれるのに、此処にいたいのか?」
「んっ……うぅんっ!」


 ぐちゅう…!と淫部の最奥を抉られて、スコールが背を撓らせてくぐもった喘ぎを上げる。


「あっ、ひっ、ぅうん…!ふ、ん……くふっ…ふぅっ…!」
「はっ、あっ…んぁ、あ……」


 座長は、スコールの淫部を犯しながら、レオンの歯列や舌裏をゆったりと撫でて凌辱する。
激しく、緩やかな官能に流されながら喘ぐ二人に、座長はもう一度答えを促す。


「自由になりたくはないのか?」


 ちゅぷ……とレオンの咥内を犯していた指が逃げて行く。
それを追うように、レオンが舌を伸ばして、座長を縋る眼で見上げた。


「俺は…俺達は、あんたに…あんたに全部、教わった、から……」


 生きて行く為に何が必要なのか、必要なものを得る為に何をすべきか。
レオンとスコールは、座長の手で全て教えられ、彼によって染められてきた。
故郷を追い出される形で失い、座長の下で生きる事を余儀なくされてから、彼に気に入られる為に彼の言葉の通りに従った。

 無垢で純粋で、汚れを知らなかった二人の兄弟に、悦楽と官能を教えたのは、他でもないこの男だ。
生きて行く為に、男に気に入られる為に言われるままに従う兄弟を、男は自分の好むままに染め上げ、躾て行った。

 レオンは、男の蜜液に濡れた太腿を擦り合わせて、潤んだ瞳で男を見詰める。


「俺は、あんたと…あんたの所にいたい。このままで、いい。スコールと一緒に、此処で…あんたに抱かれていたいんだ……」


 弟を抱いて、頼れるのはただ一人だけだと縋るように身を寄せるレオンに、座長は髭を蓄えた口元に優越の笑みを浮かべる。
スコールレオンに抱き締められたまま、甘えるように座長の膝に手を乗せる。
見目の美しい、愛玩していた二人の少年と青年にそう言われて、悪い気のする男はいないだろう。

 男の手がレオンの頬を撫で、鱈子のように分厚い唇が、レオンの色の薄い唇を食むように貪った。
じゅぷ、じゅる、と唾液を注ぎ込まれる音がして、レオンの肩がピク、ヒクン、と震える。
座長は、ちゅぷ……とわざと音を鳴らしてレオンを解放すると、そのままスコールへと口付けた。
兄に施した時と同じように、唾液を絡めて小さな唇を貪れば、息苦しげな吐息が零れて聞こえる。
歯列をなぞられ、ぞくぞくとした感覚が背を這ってくるのを、スコールは男にしがみついて耐えた。


「んっ、ぷっ…ふ、ふぅん……は…っ!」


 解放されると、スコールは苦しげに喘ぎ、足りなくなった酸素を取り込もうと天井を仰いで唇を開閉させる。
レオンが震えるスコールの耳朶に舌を這わせると、彼の腕の中で、ひくん、とスコールが身を竦ませた。


「やっ、ん…レオン……」
「ん、ふ……ぁむ…」
「んむぅ……ちゅ、ふ…っ」


 口端に零れた唾液を舐め取るように、レオンは啄むようにスコールの唇を吸う。
スコールも応えるように唇を開いて、レオンの舌を招き入れ、己のそれと絡めて貪る。
座長は、時折覗く赤い舌が、二人の下肢と同じように濡れて光るのを眺めながら、兄弟の細い腰を抱き寄せた。


「私もお前達を手放したくはない」
「あ、ん……っ」
「んん……っ」


 ゆったりと男の手がレオンとスコールの臀部を撫でる。
こぽり、と蜜を溢れさせる二人の秘孔に指が這い、くぷ……と、ヒクヒクと疼く穴の中に埋められた。


「あっ、ああっ…や、ぁん…!」
「は、ぅん……ああ…ん、もっと…んんっ…」
「しかし、お偉いさんの命令を無視する訳にもいかないからな。この街で商売が出来なくなるのは痛い」
「奥、に、もっと…いれてぇっ……!」
「ふぁ、う……あぁんっ…!」
「出来るだけ、お前達には悪い思いはさせないようにしよう。お前達は本当に良い子だったからな」
「あっ、あっ、…そこ、擦ってぇ…!」
「ん、気持ち、い……いいよぉ……っ!」
「ひんっ、ひっ、あぁっ…!イくっ、また…またイっちゃうぅ…っ!」
「だめ、だめぇっ…!ひぅっ、あっ、出ちゃ……あぁあっ!」


 ビクッ、ビクッ!と体を震わせ、己の腕の中で絶頂を迎える二人を、座長は熱を孕んだ眼で見詰める。
強張った体が弛緩し、身を委ねるように寄り掛かる二人に、座長は秘部に埋めていた指を抜き、兄弟のダークブラウンの髪を撫でてやる。


「だが、その前に────最後の仕事だ。ほら、判るな?」


 促されて、レオンとスコールが男の下肢を見れば、二人分の体液と蜜に塗れた男根がある。
それが自分の体を貫き、犯し、支配していたのだと思うだけで、レオンは秘部が疼くのを感じてしまう。
スコールも同じように腰を揺らめかせ、白濁に濡れそぼった太腿を擦り合わせる。

 レオンが体を屈めて、男の下肢に顔を寄せる。
膨らみ、黒々としたペニスを手で支えるように掬い、ねっとりと舌を這わせる。
スコールも兄に倣うようにして、四つ這いになってレオンと共にペニスに舌を寄せた。

 ─────全ては、二人で生きて行く為に。
二人で共に生きる明日が、壊されないように。