蔦遊び


 これは、憂慮すべき事なのだろう。
歪な形をした自分の影を見下ろしながら、クラウドは思った。

 自分自身の闇との決着を着ける為に、闇の力を行使している内、己の中に内包する闇の気配が強くなっている事は、自覚していた。
事情を知っている───何処まで本気と思われているかは些か怪しい所があるが───男からは、度々「気を付けろ」と釘を刺されているが、何処にいるかも判らないあの男を追う為にも、他のワールドを行き来する事が出来る闇の力を使わない手はない。
元々、あの男と決着を着ける為ならば、如何なる代償も厭わない覚悟は出来ているのだ。
その結果、最終的に闇に飲まれる事があるとしても、その前にあの男と決着を着ける事が出来れば、十分だ。

 が、闇に飲まれてしまったら、二度と彼に逢えない事も確かで、それだけは未練のように頭の隅に残っている。
だから一応、無闇矢鱈に闇の力を行使する事はないよう、考慮はしているつもりだった。

 だが────


「………」


 歪な形に揺れる足元の影を見下ろしながら、クラウドは其処に意識を集中させてみた。
すると、地面に平面になって伸びていた影の中から、ぽこり、と水泡が浮かぶように膨らみが生まれる。
更に意識を集中させていくと、水泡が徐々に上へと伸びて行き、まるで植物の蔓のように細く長く成長した。

 意図的に影から意識を切り離すと、蔓は水が落ちるように、溶けるように影へと戻って行く。
影はまだ歪に揺れていた。
もう一度意識を集中させると、先と全く同じように水泡が生まれ、するすると成長して蔓を伸ばしていく。

 何処まで伸びるか試してみよう、と延々と蔓を伸ばしていたクラウドだったが、長さが3メートルにもなろうかと言う所で、足元の影が大きく脈打つようにぶれた。
どくん、どくん、と脈動するように揺れる影を見下ろしつつ、蔓を伸ばす事にも集中していると、影が奇妙な形に蠢いた。
今度はなんだ、と思っていると、影が酷く不気味な形状に変化したので、これにはクラウドも目を剥いた。
自分が影と同じ、酷く不気味な形の生物に変幻してしまったのかと思ったからだ。
だが、思わず確かめた自分の手足の形、触れた貌の輪郭は、いつもの自分と何ら変わりない。
その事にホッとしつつ、流石に遊び過ぎか、と今更ながら薄らとした危機感を抱き始めた所で、地面に平面に伸びていた影が、ぼこり、と盛り上がった───立体的に。


「……!」


 これには流石に、クラウドもたじろいだ。
これは自分の影、蔓が自分の意思のままに動いていた事もあって、てっきり自分の思考の外で動く事があるとは思ってもいなかったからだ。

 盛り上がった影は、直前に地面に移り込んでいた影と同じ、何とも不気味な形状をして、ゆっくりとその身を起こして行く。
沢山の蔓を持った奇妙な影に、クラウドは背に負っていた大剣に手を伸ばした。
完全にクラウドの意思を離れた醜悪な影が、主である筈のクラウドに牙を剥かないとも限らない。
自分の分身───と言うには、形が余りにも違い過ぎてしまっているが───とも言える、己の影を斬らんと言う行為に、些か不安が過ぎらない訳ではないが、その程度の事を怯えて闇の力を行使している訳ではないのだ。

 しかし、影はその姿を完全に立体のものとして安定させた後、微動だにしなくなってしまった。
しばし訝しむ顔で異形の影を見詰めていたクラウドであったが、背中の剣に手をかけたままの姿勢で、少しだけ意識を集中させてみる。
すると、異形の影の頭部───と思しき上半身───から、一本の蔓がするすると伸びて来て、クラウドの眼前でぴたりと止まる。
そのまま、上に、下に、横に、と念じてみると、真っ黒な蔓の影は、クラウドの思うが儘に動いて見せた。

 一頻り影の動きを確かめた後、クラウドは戦闘態勢を解いた。
動くな、と念じた後で、硬直したよくに動かなくなった影に、左手を伸ばしてみる。
影は完全に物理的な立体物として其処に存在しており、ぺたぺたと触れる事が出来た。
体温も手触りもない、ただ“物としての存在感”しか其処には感じられなかったが、どうやらこの影は、個体として明確にこの世に存在しているようだ。

 クラウドが自分の足下を見下ろしてみると、影はきちんと存在していた。
いつもの影と違うのは、地面の表面をなぞっているのは、膝から下までで、其処から上は異形の姿となって立体化していると言う事。
それを見て、やはりこの影は自分自身が作り出した影である事を知る。

 ────何故、唐突に、自分の影がこのような力を持ったのか、クラウドには判らない。
影からは濃い闇の気配のみが漂っている為、十中八九、己が行使している闇の力が齎した恩恵なのだろうが、それ以外の事は全く理解の外であった。

 が、現象に関する理性的な理屈に、クラウドは興味がない。
そんなものよりも、自分の思うままに動く立体的な異形の影に、むくむくと悪戯心にも似た感情が刺激される。


「……面白そうだな」


 独り言を呟いて、クラウドは「戻れ」と影に命じた。
影はゆらゆらと幾本かの蔓を蠢かせた後、重油のようにどろりと溶けて、地面へと落ちて行く。
影はしばらく異形の形のまま、まごまごと蠢いていたが、数秒の内にゆらゆらと不安定に形を揺らめかせた後、クラウドのシルエットと遜色のない形へと戻って行った。




 奇妙なハートレスが出現している、とユフィから報告を受けて、レオンは溜息を吐いた。
今まで確認させているハートレスだけでも対処が大変だと言うのに、新種が現れたとなると、レオンの頭痛の種が増えるのは間違いない。
ノーバディへの対策もまともに整っていない内から、新たな脅威が増える等、厄介な話であった。

 しかし、ユフィからはもう一つ、奇妙な報告を受けていた。
新種と思しきそのハートレスは、レイディアントガーデンの街中に突如として現れたが、街人を襲う事はないと言う。
まるで蔓のように長く伸びた蝕腕で、人々を捕まえる事はあるものの、その後は何もする事なく解放するらしい。
現行のハートレスが人を襲う時のように、怪我をした、心を奪われた、と言う事例は報告されていない。
人々から情報を得ようと話を聞いて回っても、皆ユフィと同じような事を口にするだけで、実質的な被害・損害はほぼゼロだ。
唯一の報告事例と言ったら、その大きさに驚いた老人が腰を抜かし、点灯した弾みで足を擦りむいた程度のもの。
新種のハートレスが直接何某かをした───と言う訳ではない。

 だが、目立った被害が報告されないとは言え、無害だから放って置いて良いとは言えない。
ハートレスによる被害は毎日のように報告されているし、そうした同族の動きを見て、いつ同じように牙を剥いて来るか判らないのだ。
どちらかと言えば、無害の内に対処・駆逐してしまう方が、街の安息を保つ為にも最善である。

 新種と思しきハートレスは、夜の街で、一人で出歩いている者をターゲットにしている。
今までのハートレスは、心を持つ人間が付近を通れば、それが一人であろうが複数であろうが、本能の衝動のように襲い掛かって来ていた。
それが凡その時間、ターゲットの周辺情報を見極めた上で襲いかかっているとなると、今までのものに比べ知恵を持っていると言う事になる。
こうしたハートレスが増えない為にも、早期に手を打たねばなるまい、とレオンとシドの意見は合致した。

 その日から、レオンは夜毎、一人で街を巡回する事にした。
街にはシドが設置した監視カメラがあるが、新種のハートレスが現れる場所は、決まってカメラの死角になる場所だった。
元より、監視カメラに対象物が映ったタイミングで現場に向かうのでは手遅れになる為、レオン達は監視カメラに頼らない方法を選ばざるを得なかった。
ただでさえ睡眠不足の日々が続くレオンには厳しい話だが、街の復興・安全の為にも、誰かが骨を折らねばならない事だ。
女性であるユフィやエアリスに夜の街をパトロールさせる訳にも行かないし、シドは機械の修繕や防御プログラムの構築等で忙しい。
機械修繕にはレオンも手を貸しているのだが、専門の技術者ではない為、手を貸せる所には限界がある。
それよりも自らの体を動かす方が向いている訳だから、鉢は自然とレオンに回ってくるものであった。

 せめてもう一人男手があれば───と思いつつ、レオンは夜の街を歩く。
新種のハートレスの目撃情報は、街のあちこちで飛び交っていて一貫性がない為、凡その見当すら儘ならない。
効率の悪さと、自分だけで毎夜街をパトロールしなければならない疲労で、少しばかり愚痴っぽい本音が漏れるのは致し方あるまい。

 もう一人の男手、と考えて、真っ先に思い浮かぶのは、金髪の男。
彼が何か目的を以て方々を放浪している事は判っているが、この街は彼にとっても大切な故郷である筈。
自分の目的に邁進するのは悪い事とは言わないが、月に一度くらいは此方に戻って来てくれれば、少しはレオンの手も楽になる。
日頃、街の為ならば尽力する心でいるレオンだが、そんなレオンも人の子である。
溜まる疲労と、二進も三進もいかない環境で、次々舞い込んでくる問題の解決に奔走されていれば、多少なり事情が判っていて仕方ないと思っている事でも、若干頭に来るのも無理はあるまい。
全くあの男は、と、ふらりと戻って来てはふらりと消える年下の男に苛立ちを覚えつつ、屋根の上から飛び掛かって来た小さなハートレスを振り返らずに斬り捨てた。

 ギギッ、ギギッ、と軋んだ鳴き声(恐らく)を漏らしながら、冷たい地面の上で消えて行くハートレスを見下ろしながら、レオンは溜息を漏らす。


(街に入り込んだハートレスを退治するのは構わないが、今の目当てはこいつらじゃないからな……)


 今レオンが探しているのは、新種のハートレスだ。
これを見付け出し、駆除しなければ、レオンは明日の夜もパトロールに出なければならない。
お陰で、此処一週間は頗る寝不足で、日中にシドと話をしている時にも、ふらりと寝落ちてしまいそうになる。
ユフィ達は「昼間の事は私達に任せてよ」と言ってくれるので、彼女達の好意には甘えさせて貰っているが、少女達だけでは心配の種が尽きないのも事実。
クレイモアも日に日に強化され、弱いハートレスやノーバディなら駆除できる程になったが、ハートレス・ノーバディもそれらに対応できる個体が現れ始めている為、いたちごっこは今後も続くだろう。
レオン自身がこの事態にグロッキーにならない内に、心配の種は摘んで、安全を取り戻さねばならない。

 その為にも、目当ての新種には早く出現して欲しいのだが、パトロールを始めてから一週間、レオンは未だにその姿の片鱗すら捕えられない。
ユフィの報告だけではなく、街の住人からも目撃・被害報告が寄せられているから、見間違いではない筈なのだが────


(ひょっとして、襲う人間の特徴を識別しているのか?抵抗しそうにない人間、弱そうな人間……そう言う奴を選んで襲っているのなら、俺じゃ囮にはならないかも知れないな。とは言え、こんな深夜にユフィやエアリスを外に出すと言うのは……)


 仮に、手にしたガンブレードや、襲いかかる同族を一撃に屠る場面を、新種のハートレスが見ていて、レオンは襲うに適した個体ではないと認識していたら、このままレオンがパトロールを続けても、空回りするだけだ。
其処まで考えて、いや、とレオンは眉根を寄せる。


(目撃・襲撃されたのは、女子供だけじゃなかった。体格の良い男もつい最近襲われていたし……)


 では、武器か?と右手の愛剣を見下ろして考えるが、それも直ぐに否定した。
工事現場から帰宅途中のガテン系の男が、手にツルハシを持った状態で襲われた報告がある。
そして新種のハートレスは、ツルハシやシャベル等の武器として使えそうなものを取り上げるのだと言う。

 何が人間にとって抵抗する術となるのか、新種のハートレスは理解しているらしい。
その反面、新種のハートレスは、“襲ってくる”割には大人しく、襲撃した人間に怪我を負わせる事はない。

 妙な話だ、と思いつつ、レオンは突き当りの角を曲がった。
主に人々が居住している路地から一つ逸れた為、辺りは光源が激減し、視界は酷く薄暗い。
レオンは右手のガンブレードを握る手に力を籠め、周囲の気配に注意を配りながら、薄暗い路地裏を進み始めた────直後。

 暗闇の向こうから、猛スピードで迫ってくる気配を感じ取って、レオンは後方に飛び退いた。


(なんだ……!?)


 レオンがいた地面に、黒く細長いものがぶつかって、角度を変えた。
肉迫する気配に、レオンは反射的にガンブレードを振るう。
すぱり、と酷く柔らかいものが斬れた感触があった。

 右脚が地面に着いた瞬間、何かが足首に巻き付いた。
しまった、と思う暇もなく、足下を掬い上げるように吊り上げられて、バランスを崩して背中から倒れそうになる。
そのまま地面とぶつかるかと思ったが、衝撃が訪れる事はなく、代わりに身体は浮遊感に見舞われた。

 ちゃりん、と首にかけていたネックレスが小さな音を鳴らし、レオンの眼前で揺れる。
レオンは、上下逆さまの体勢で、宙吊りにされていた。


「く……!」


 屈辱的な状況に、レオンは舌を打って、ガンブレードを振り被った。
足下に絡まるそれを斬り落とそうとしたレオンだったが、その手首に何かが巻き付き、絡め取られる。
ぎしり、と強い力で拘束されて、レオンは骨が軋む痛みに顔を顰めた。

 ずるり、ずるり、と何かを引き摺る様な音が、暗闇の向こうから近付いて来る。
レオンは腕を捉えるものを振り解こうと躍起になったが、宙吊り逆さまにされている今の状況では、腕の力だけで拘束を振り解かなければならず、それで振り解ける程にかかる圧力は優しくなかった。
レオンが四苦八苦している内に、引き摺る音は更に近くなって行き、暗闇の中で更に濃い闇色のその姿を、レオンの前に曝け出す。


「……!」


 その姿は、異形且つ醜悪であった。
暗闇にも勝る闇色の体躯は、レオンが見慣れたハートレスと同じだが、その形状は今まで見た事のないものをしている。
生まれて間もない小さなハートレスでさえ、頭部と四肢を確認できる形をしているのに、目の前のそれには、頭部も四肢もない。
魔法を操るハートレスには、頭と体だけで手足がないものも在るが、それとも違う。
レオンの目から確認できるのは、ぱっくりと開いた大きな口と、それを覆うように生えた無数の蔓のような触手。
その口を持った上半分を支えるように、下半分には更に無数の蔓が垂れており、まるで蛸の足のように地面を張って、その身を運んでいる。

 余りにも異質なその形状に、一瞬息を飲んだレオンであったが、直ぐに頭は冷静に戻った。
ユフィや街の人々から聞いた、新種と思しきハートレスの外見の特徴の一致、襲いかかって来ては拘束するのみでそれ以上の事はして来ない。
取り敢えず、此処までは報告の通りだ。


(こいつが例の新種か)


 ならば、これ以上の事は───今の所は───して来ない筈。
ずるり、ずるり、と足を引き摺りながら近付いて来る異形のハートレスは、レオンにそこはかとない不安感と不気味さを押し付けてくるが、レオンはもう取り乱してはいなかった。
報告によれば、異形のハートレスは、捕えた者が抵抗しようとしまいと、しばらくすると解放するとの事。
ならば、可惜に体力を消費しないように勤めて、拘束が緩んだら脱出、隙を見て一瞬で屠れば───と頭の中で今後の算段を立てていたレオンだったが、


「やっと出て来たか、レオン」


 不意に聞こえた声に、レオンは我が耳を疑った。
宙吊り逆さまの格好のまま、レオンがきょろきょろと声の主の姿を探すと、それは異形のハートレスの向こうから、ゆっくりと姿を現した。

 闇色に生える黄色の髪、硝子玉のような不思議な虹彩を宿した碧の瞳───クラウド・ストライフ。
彼は愛用の大剣を背中に背負ったまま、眼前の異形のハートレスを警戒する様子もなく、その傍らを横切って、宙吊りにされているレオンの下へと近付いて行く。


「もっと早く出て来いよ。待ち草臥れた」
「……どう言う意味だ」
「そのままだ」


 憮然とした表情のクラウドの言葉に、レオンが眉根を寄せて問うと、クラウドはあっけらかんとした表情で答えた。


「ずっとあんたが出て来るのを待ってたんだ。その為に、街の連中にこいつを絡ませてた」


 こいつ、と言ってクラウドが指差したのは、レオンを捉えたまま動きを止めた異形のハートレス。
クラウドの言葉に、益々レオンの眉間に皺が寄せられる。


「……クラウド。お前はそのハートレスの事を知っているのか?」
「ハートレス?……ああ、確かにそう言う風に見えるか」


 クラウドは、背後に佇んでいた異形のハートレスを見上げ、今初めて“それ”が“ハートレス”である事に気付いたかのように言った。
それからクラウドは、動かなくなったハートレスの蛸のような足をぽんぽんと叩き、


「こいつはハートレスじゃない」
「何?」
「まあ、だったら何だって言われると、俺もはっきりとはわからないんだが、そうだな───俺の力で作り出した、俺の影みたいなものだ」
「影……?」


 レオンの視線が、逆さまになっているクラウドの顔から、彼の足下へと向けられる。
其処にある筈のクラウドの影は、暗闇の中に紛れていて、確かめる事が出来なかった。

 この異形のハートレス(違うらしいが、では何と呼べと言うのか)がクラウドの影だと、その言葉の真偽については、後で考える事にして、レオンは深々と溜息を吐いた。
今のクラウドの発言が本当なら、クラウドは闇の力を行使して、この異形のハートレスを作り出したと言う事だ。
常日頃から他のワールドを行き来する為、止みの力を行使しているクラウドにとっては、新しい力を手に入れた程度の事かも知れないが、逆に言えば闇への影響力が強くなっていると言う事───クラウド自身が更に闇に近付いている事の証左とも言える。


「お前、あまり力を使い過ぎるな。増して、俺を呼び出す為だけに、こんな訳の判らない力を何度も使うんじゃない。街の人達まで不安にさせて……」
「街の連中を襲ったのは確かだが、怪我はさせてない」
「こんな気持ちの悪い奴が出てきただけで、街の人達には十分脅威だ。……おい、いい加減にこの体勢を止めさせろ。頭に血が上る。そいつがお前が作り出したものなら、お前の言う事位は聞くんだろう?」


 レオンがクラウドを睨むと、クラウドは異形のハートレスを見上げた。
異形のハートレスから伸びた真っ黒な蔓が、宙吊りにされているレオンの胴体へと巻き付き、持ち上げる。
ようやく天地が正しい姿勢に戻されて、レオンは頭に上っていた血が落ちて行くのを感じて、ふぅ、と一つ息を吐く。
───が、手足に巻き付いた真っ黒な蔓はそのままで、レオンは眉根を寄せる。


「クラウド、何がしたくてこんな真似をしたのか知らないが、とにかくこいつを離せ。俺に用事があって呼び出したかったのなら、もうそいつの役目は終わりだろう」


 そいつ───異形の影を顎で指して、レオンは言った。

 こんな手段で拘束されなくとも、レオンはクラウドから逃げるつもりはないのだ。
だからいい加減に、腕を、足を拘束する蔓を解いて欲しい。
獲物の逃亡、抵抗を警戒してか、骨が痛む程に食い込む蔓に、レオンは辟易していた。
逃亡の意思さえない事を示すように、ガンブレードを握っていた手からも力を抜けば、程無く拘束も終わるだろうと思った。

 ───が、レオンの予想に反して、拘束する蔓の数は増えた。
異形のハートレスからするすると伸びて来た真っ黒な蔓が、レオンの両腕を捕まえ、頭上でまとめて縛る。


「おい!」


 何を考えている、とレオンが声を荒げると、クラウドはゆっくりとレオンに近付きながら言った。


「良い格好だな、レオン」
「……!?」


 何処か小馬鹿にしたようなクラウドの声に、レオンは目を瞠った。

 コツ、コツ、とブーツの底が硬い音を鳴らしながら近付いて来る。
レオンを見詰める碧眼は、いつものように茫洋としていたが、その眼の奥には物騒な気配が滲んでいた。
それは、レオンだけが知る、褥の中で見る“雄”の気配だった。


「……クラウド。お前、何を考えている?」


 眉根を寄せ、金糸の男を睨んで問う。
と、男はにんまりとした笑みを浮かべて、レオンの前で足を止めた。

 するり、とクラウドの手がレオンの頬を撫で、首筋を辿る。
喉仏の形を確かめるように、指先でゆったりと薄皮を撫でた後、クラウドはレオンの鎖骨を掠めて、シャツの襟縁に指先を引っ掛けた。


「あんたの事だ、結構溜まってるだろ?俺も久しぶりだし」
「……こんな所でする気か?こんなふざけた真似までして」


 ぎしり、とレオンの頭上で、拘束された腕が蔓を軋ませる。

 性的刺激については、確かに、無沙汰ではある。
特にこの一週間は、毎日徹夜で街をパトロールしていて、朝方から昼にかけて休んで、目覚めればシドと話し合いをして……と言う日々が続いていたので、事故処理すら儘ならなかった。
だから、あけっぴろげて言うならば、クラウドがやりたいと言うのならば、レオンも吝かではなかった。
しかし、こんな街中、路地裏で、異形のハートレスに拘束されて性交する事まで寛容する気にはならない。

 クラウドは右手をひらひらと挙げた。
すると、クラウドの背後で大人しくしていた異形のハートレスが蠢き始め、しゅるしゅると長い蔓を伸ばしてきた。
うねうねと動く蔓は、まるで軟体動物の蝕腕のように見えて、レオンは肩眉を潜める。
そんなレオンを見て、クラウドはにんまりと笑い、


「そんな怖い顔するなよ。あんた、こう言うの、意外と嫌いじゃないだろ?」
「お前と一緒にするな、変態」


 レオンは、露出趣味もなければ、SM染みた緊縛プレイを好む趣向もない。
クラウドと肉体関係を持ってから、確かに道具を用いたセックスも経験したが、それは全てクラウドの趣味だ。

 ───と、レオンは思っているのだが、クラウドは「いや?」と言って、


「あんた、自分じゃ全く気付いてないようだが、結構マゾなんだぞ。縛るとケツ穴もよく締まるし、バイブとか一回咥えたら中々離さないし。その間、あんた、どんな顔してると思う?何言ってると思う?」
「知るか!とにかく、これを離せ!さもないと、本気で斬るぞ」


 耳元から囁かれる男の言葉を掻き消すように、レオンは声を荒げて言った。
眼前の男を射殺さんばかりの眼光で睨んでやれば、本気でレオンが怒る前兆と察して、クラウドは平謝りするようにレオンに縋るのがパターンであった。

 しかし、クラウドは益々笑みを深め、レオンの首下に顔を近付ける。
つ、と生温いものがレオンの首筋をなぞる。


「クラウド!」
「汗の匂いがする。態度の割には、焦ってるみたいだな」
「この……っ!」


 懲りない様子のクラウドに、レオンは蹴りの一発でも喰らわせてやろうかともがいたが、足にもハートレスの蔓が巻き付いている。
膝の裏を捕まえて固定されては、足を曲げて持ち上げる事も出来ない。

 クラウドはレオンの鎖骨に舌を這わせながら、白いシャツをたくし上げた。
ズボンの中に入れていたシャツ裾が捲れて、レオンの白い肌が露わになり、其処からクラウドの手が滑り込む。
ひんやりとした男の手が皮膚を撫でる感触に、ひくん、とレオンの肩が震える。


「やめ、ろ……っ」
「嫌だ」
「んっ……!」


 クラウドの手がレオンの胸板を愛撫し、膨らんだ蕾を何度か掠める。
その膨らみを潰すように、指の腹でくにくにと押されて、レオンは身を捩った。


「や、め……うんっ…!」


 きゅっ、と親指と人差し指で乳首を摘まれ、びくんっ、とレオンの体が震える。
ぎしり、と頭上で腕を拘束する蔓が軋む。

 するすると伸びて来た蔓が、レオンのシャツの裾を持ち上げる。
首下までシャツの裾が捲り上げられると、レオンの胸部が露わになり、クラウドに摘まれた乳首がピンク色に色付いているのも見える。
クラウドは乳首を摘んだまま、コリコリと転がすように刺激を与えた。


「んっ、ん…っ!く…や、ぅ……っ」


 ひくっ、ひくっ、と体を震わせながら、レオンは唇を噛んで音を殺す。
眉根を寄せ、微かに赤らんだ頬を隠すように、眼前の男から目を逸らすレオンに、クラウドは更に調子づいて行く。

 シャツを蔓が捲り上げたまま、クラウドの手が左右の乳首を摘んで、二つ同時にコリコリと転がす。
頭上で拘束された手が強い力で握られ、薄く開いたレオンの唇から、は、と小さく息が漏れた。
胸部から与えられる刺激に、レオンの体は僅かずつではあるが、確かに熱を孕み始めていた。
その所為か、触れる外気がより一層冷たく感じられて、ふるり、とレオンの体が戦慄く。


「寒い?」
「……っあ…!」


 問い掛けに、当たり前だ、と言おうとして、乳首を引っ張られて甲高い声しか出なかった。

 クラウドの舌がレオンの喉を撫でる。
レオンは頭を振ってそれを振り払おうとしたが、しゅるり、と喉に巻き付いた蔓がそれを遮った。
息が出来ない程ではないが、微かに蔓が食い込む程度の強さで締め付けられて、レオンは一瞬窒息の恐怖を垣間見た気がした。


「便利だろ?俺の思う通りに動くんだ」
「……ふ…ぅ……っ」
「人間の手みたいに、結構器用な事も出来る」


 そう言って、クラウドは背後の異形のハートレスに目配せした。
すると、ハートレスの下半身が動き出して、ずるり、ずるり、と距離を近付けてくる。

 十分な距離に近付いたのか、ハートレスは立ち止まると、身体を支える足の蔓を持ち上げ、レオンに近付けてきた。
蔓はレオンの腕、腰、足に巻き付いて、レオンの動きを封じ、更に別の蔓がレオンの腰を撫でる。


「お、い……っ!」
「ん?」
「…く…もう…やめろ……っ!こんな、事、しなくても……セックス、なら…帰ってから、して、やる…から……っ!」


 自分から性行為を促すような言葉を吐く事には抵抗があったが、このまま街の中で、異形のハートレスに拘束されながらの性行為に比べれば、自分の家で貪られた方がマシだ。
だから悪ふざけは此処までにしろ、とレオンは言ったのだが、


「あんたの家でセックスするのも、嫌いじゃないけど。偶にはこう言うシチュエーションでするのも悪くないぞ。マゾのあんたには尚更な」
「誰がマゾだ……っんん!」


 きゅう、と乳首を摘まれて、レオンは背中を丸めて縮こまった。
しかし、体に巻き付いた蔓に引っ張られて、幾らも身体を隠す事も出来ない。

 喉を撫でていたクラウドの舌が下がって、レオンの胸を舐める。
ねっとりとナメクジのようなものが這って、レオンは唇を噛んで、ぞくぞくとした感覚に耐えた。
体を微かに震わせながら、緩やかな快感に耐えるレオンを見上げたクラウドは、つんと膨らんだ乳首に舌を這わす。
くに、と乳頭を穿るように尖らせた舌先で抉られて、レオンが眉根を寄せた直後、はぶっ、とクラウドは色付いた乳首に吸い付いた。


「んあっ…!や、う……ひっ…!」


 ちゅっ、ちゅぅっ、と音が聞こえる程に強く吸い付くクラウドに、レオンはゆるゆると頭を振った。
クラウドはそんな彼に構わず、ぐりぐりと舌先を乳頭に圧し当てながら、レオンの右の乳首を啜る。
左の胸には掌で愛撫を施しながら、悪戯に乳首に指を掠めては押し潰して遊んでいた。


「んっ、んんっ…!ク、クラウ、ド…!ふ、ぅ…っ」
「んぷ……ふ、んぢゅっ」
「っは、う…!やめ、や…あぁっ!」


 食んでいた乳首に歯が当てられ、柔らかく噛まれて、レオンは思わず声を上げた。

 狭く薄暗い路地裏に反響する自分の声を聞いて、レオンの顔に朱色が上る。
この辺りは住宅街になっていて、街に戻って来た人々が多く居住している区域になっている。
時刻は既に深夜に回っている為、殆どの人は眠っている筈だが、起きている人が皆無とは限らない。
大きな声を出してしまえば目覚める人もいるだろうし、若しかしたら、此処まで様子を見に来る人もいるかも知れない。
それだけは、とレオンは強く唇を噛もうとするが、


「口、閉じるなよ」
「あっ、ぐぅっ!」


 カリッ、と乳首を噛まれたと同時に、微かに隙間が出来たレオンの唇へ、狙ったように蔓が滑り込んで来た。
蔓はレオンの口を一杯に広がらせており、歯を当てても噛み切れそうにない。


「ふぐ、んん…!ふぁ、う…っ!」


 ちゅう、ちゅうっ…!とレオンの乳首を啜りながら、クラウドの手がレオンの腰へと下りて行く。
武骨な凹凸のある手が、巻き付いた蔓の隙間からレオンの腰を擽り、更に下へと下りて行く。

 クラウドの手が、ズボンの上からレオンの形の良い臀部を撫でる。
レオンは頭上で拘束された腕を捩じって、拘束を解こうとするが、やはり叶わなかった。
そんなレオンの抵抗など気にする事もなく、クラウドの手はレオンの臀部を、太腿を辿り、足の付け根を探る。
後ろばかりを弄っていた手が前に回り、フロントに触れると、其処は微かにテントを作っていた。


「やっぱり興奮してるじゃないか」
「……っ」


 じろり、とレオンがクラウドを睨む。
口の中に侵入した蔓に歯を立て、ふーっ、ふーっ、と息を漏らすレオンの様子は、まるで威嚇する獣だ。
────そうしたレオンの表情を崩す事に、クラウドが至上の興奮を覚える事を、彼は知らない。

 クラウドの手がもう一度レオンの胸を愛撫する。
胸板を揉むように指が微かに食い込んで、親指で乳首を押し潰す。
潰れた乳首をぐりぐりと押されて、レオンの躯がビクッ、ビクッ、と震える。


「んっ、んっ…!う、ふ、う……っ?」


 かちゃ、かちゃ、と言う金属の音が聞こえて、レオンは眉根を寄せた。
視線だけを下へと落としてみると、クラウドの背後から伸びて来た蔓が、レオンの腰のベルトを外そうとしている。
細い蔓は器用にバックル下の留め具を外し、レオンの腰を覆うように通っているベルトを解いて行く。


「んぐっ、ふっ、はぐぅっ!」
「そんなに急かすな」
「んんんっ!」


 じたばたと遮二無二暴れ始めたレオンに、クラウドはくつくつと笑って言った。
まるでレオンが先の行為を急かしているかのように。
そんなクラウドの言葉に、レオンは冗談じゃない、そんな訳があるか、と抗議するが、言葉は舌を押さえ付ける蔓の所為でまともに形にならない。

 レオンの腰のベルトが外されると、フロントジッパーも下げられた。
蔓は更にレオンのズボンのサイドを掴んで、ぐいぐいと引き摺り下ろそうとする。
足を拘束する蔓が、レオンの足を誘導するように関節を動かして、ズボンは下着ごとするすると落とされて行く。


「んっ、ふぐぅっ!うぅっ……!」


 冷たい外気が下部に触れて、レオンは腰を震わせた。
巻き付いた蔓がレオンの足を持ち上げて、大きくM字に開かせる。
そうすると、反り返ったレオンの雄の形が露わになり、それを見たクラウドがにんまりと意地の悪い笑みを浮かべた。

 クラウドはレオンの右の乳首を摘んで遊びながら、左手の人差し指でレオンのペニスを根元から先端までゆったりとなぞる。


「勃ってるぞ。これでも興奮してないって言うのか?」
「ふ、ぐ……う……!」


 じろり、と青灰色が碧眼を睨む。
白い頬は微かに朱色を帯びて、瞳の奥にも羞恥心があったが、それよりも強気な光を失わない眼差しに、クラウドもまた笑みを深める。

 ひんやりとした外気に触れていた肉棒が、熱を持った手に包み込まれる。
亀頭のエラの裏側の凹みを穿るようにぐりぐりと親指で押されて、レオンはひくん、と喉を逸らした。


「乳首もちんこも固くなってる。この分だと、相当溜まってるみたいだな。直ぐにイきそうだ」
「んぁっ…!はぐ、ぅ…!」


 レオンの雄を包んだクラウドの手が、上下に動く。
熱い手に一物を扱かれて、宙に浮いたレオンの腰が震え、汗ばんだ太腿がビクビクと強張る。
体が宙に浮いている所為で、レオンは身を捩る事さえ儘ならなかった。

 クラウドの舌が胸元でぴちゃぴちゃと音を鳴らしている。
わざとか、と思う程に聞こえる音に、レオンの顔が赤らんだ。
そんな年上の恋人を眺めながら、クラウドはレオンの雄を扱き、乳首を甘噛みする。


「は、ぅっ…!うぅん……っ!」


 雄のエラをなぞるようにクラウドの指が遊び、裏筋を擽る。
レオンは己の中心部で急激に熱が高まって行くのを感じていた。

 大きく広げられた足を暴れさせる事も出来ず、引き締まった腰を辛うじて揺らめかせるレオン。
雄はクラウドの手によって、むくむくと質量を増して行く。
膨らんだペニスの先端からは、とろりとした蜜液が溢れ出し、クラウドの手に伝い落ちて行く。


「ん、ん…!あふっ…!」
「ほら。ちんこも、あんたの顔も、蕩けて来てる。気持ち良いんだろ?」
「う……ふっ、あっ…!」


 ちゅうっ、と乳首を吸われて、ビクン!とレオンの躯が跳ねた。
頭上で拘束された腕は、何度も蔓を解こうとしていたのに、徐々に力を失いつつある。

 だが、このまま流されてしまったら、目の前の男を更に調子づかせる事になる。
なんとかしないと、と霞んだ思考で必死に打開策を考えるレオンだったが、そんな彼の胸中も、クラウドには予想の範疇。
レオンの更なる抵抗を封じるように、ぎしり、と頭上の腕を拘束する蔓に力が篭り、蔓に持ち上げられたレオンの躯がくの字に折り畳まれる。

 レオンのペニスを扱く手を止めないまま、もう一本のクラウドの手が、曝け出されたレオンの太腿を撫でる。
ひくん、と逃げを打つようにレオンの膝が震えたが、蔓の所為で足を閉じる事は出来ない。
クラウドは太腿を舐めるように撫で、とろとろと蜜を溢れさせる雄の下───慎ましく閉じた秘穴に指を這わせる。


「ふぅんっ…!」


 びくん、とレオンの頭が揺れる。
レオンは、咥内に侵入した蔓に食い千切らんばかりに噛み付いて、ひくひくと震える躯を誤魔化そうとした。
しかし、その程度の抵抗で、彼の身体を知り尽くした男の目が誤魔化せる筈もない。


「期待してるのか?」
「……っ…」
「そう焦るなよ。先ず、ちゃんと解さないとな」


 クラウドがそう言うと、新たな蔓がレオンの腰と太腿に巻き付いた。
ぐっと躯が持ち上げられて、陰部を差し出すように突き出す格好にされる。
ひくん、ひくん、と伸縮するアナルを見て、クラウドはくつくつと笑い、指先で穴の縁を辿る。


「あ、ふっ……!」


 今までクラウドによって散々開発された場所だ。
レオンの意思を無視して、躯はその先の官能の虜になっており、触れられるだけで緩やかな快感を感じ取ってしまう。

 つぷっ、とクラウドの指がレオンのアナルに潜り込む。
ビクン、とレオンの躯が跳ねて、肉壁がクラウドの指に絡み付いて締め付けた。
同時に、クラウドの手に包まれたレオンの雄が膨らみを増す。


「は、はふっ…はぐぅうっ……♡」


 第一関節まで挿入された指が、ぐるぐると穴口を撫で回し、肉壁を抉り拡げて行く。
受け入れる為の器官ではない筈の其処が、ゆっくりと、確実に作り変えられて行く感覚に、レオンの躯が愉悦に震える。

 つぷり、ともう一本指が挿入される。
びくん、とレオンが体を震わせるのに構わず、クラウドは二本の指を左右に広げた。


「い、あっ…!」
「レオンの中、物欲しそうにヒクついてるぞ」
「んぁ、う…あぁっ…!やふぇ、ぇ……!」


 クラウドは身を屈め、広げたレオンのアナルの中を覗き込んでいた。
あらぬ場所を他人に覗き込まれると言う屈辱に、レオンは眦に雫を浮かべて頭を振った。

 蕩け始めた貌をしながら、まだ理性の残るレオンの蒼の瞳。
クラウドはそれを見て、にんまりと笑みを浮かべると、背後の異形のハートレスをちらりと見遣る。
心得たように、ハートレスの大きな口が笑うように動いて、新たな蔓が生まれる。
するすると成長して長く細くなって行く蔓は、クラウドの体を避けて、吊り上げられたレオンの躯へと近付いて行き、────にゅぶっ、とレオンの秘孔にその頭を埋めた。


「んぐぅっ!」


 穴口を広げられたアナルの中に潜り込んだ蔓は、道の半分近くまで侵入していた。
指よりも僅かに太さのある侵入物に、レオンは圧迫感と嫌悪感を襲われて、拒否反応を示すように、ビクッ、ビクッ、とレオンの躯が跳ねる。

 淫部に埋められた蔓が、肉壁を抉るように暴れ始める。
丸みと硬さのある蔓の先端が、ぐりぐりとレオンの秘孔内を弄り、肉壁をノックするようにうねる。


「うっ、うっ!んぅっ!ふぐぅうんっ…!」
「苦しいか?大丈夫だ、直ぐに気持ち良くなる」
「はふっ、はぅうんっ!」


 クラウドの手がレオンのペニスを扱き、裏筋に爪が立てられる。
裏筋の根本から首の凹みまでをくまなく撫でられ、擦られて、レオンは腹筋を逸らして激しく首を振った。


「あふっ、ふぅっ…!ふぅう……っ!」


 蔓を噛んだレオンの口端から、飲み込めなかった唾液が零れ出している。
ひくん、ひくん、と腿の筋肉を震わせながら、眼を虚空に彷徨わせるレオンの意識は、明らかに官能に流されつつある。

 クラウドの手の中で、レオンの雄は限界近くまで膨らんでいた。
痛いほどに張り詰める中心部に悶えるように、レオンは動かない躯を捩らせて、頭上の拳を震えながら握り締めている。
駄目だ、と繰り返すように、レオンの口の奥で、ふぅ、ふぅ、と言う篭った呼吸が零れていた。
そんなレオンの顔を見ながら、クラウドはぎゅぅっ、とレオンのペニスの根本を握った。


「んぐっ…!」


 急所への不意の締め付けに、びくん、とレオンの躯が反り返ると同時に、アナルに挿入されていた蔓が奥深くへと侵入する。


「んあぅうぅっっ♡」


 陰奥を突き上げられて、レオンの躯が更に反り返り、びゅくんっ、と蜜液が弾けて飛び散った。