堕ちる、熔ける、嗤う。 2


 デリングシティに複数存在するジャンクショップの中でも、スコールが利用するのは、人気のない路地の片隅にある店だった。
人嫌いの店主が経営する店で、気に入った客の気に入った武器しか預かってくれない。
その分、腕も良く、使用者の癖に合わせて調整を施してくれると言う、実に生粋の職人気質の店であった。

 スコールはその店にガンブレードを預け、一時間後に引き取りに行く事を約束した。
時計を確認すると、午後五時を過ぎた所であった。

 デリングシティは高い高層ビルに囲まれており、日当たりの悪い場所が多い。
この為、バラムならまだ夕刻と言う時間でも、高層物の所為で光が届かなくなり、夜のように暗がりになってしまう。
代わりにあちこちの街灯が点灯し始めるが、住宅街から外れると、その数も減る。
ビルとビルの隙間など、ゴミと酔っ払いの人影の区別がつかない程に暗かった。

 路地を抜けて大通りに出ると、沢山の車が行き交い、人工灯が道を照らしている。
暗がりに慣れた目が微かに痛みを訴える。


(…適当に時間を潰すか)


 猫手で目を擦りながら、スコールはふらりと歩き出した。
シルバー系を売っているアクセサリーショップはなかったか、といつだったか歩いた道を行く宛も決めずに進んでいると、


「其処のあんた。スコール・レオンハートだな?」


 フルネームで呼ばれて、スコールは顔を顰めた。
面倒臭い、と言う感情がありありと浮かんでいる。

 振り返ると、ガルバディア将校の軍服に身を包んだ男がいる。
ヘルメットの下から、見た所30代頃と思しき顔が見えていた。

 本人確認の言葉に、スコールは是とも否とも言わなかった。
沈黙していると、男はしげしげとスコールの顔を眺めた後、


「やっぱりそうだ。一度見た事があったんだよ、あんたの事は」
「……どうも」


 気のない声を返すと、男はごしごしとボトムで右手を拭いて、スコールへと差し出した。

 魔女戦争の英雄だの、“伝説のSeeD”だのと言う大層な謳い文句の所為か、スコールにはファンが存在する。
スコール自身はそんなものが自分に着くと言う事自体が異常事態なのだが、戦争を終えた後、頻繁にこうした人々がスコールに握手だのサインだのを求めて来るので、段々とあしらい方も覚えて来た。
サインはともかく、握手だけなら直ぐに終わるし、一度握れば相手は満足して解放してくれる。

 だからスコールも、目の前の男の差し出した手に答えて、右手を差し出した。
すると、男はがっしりと両手でスコールの手を捕まえる。


「いやあ、会いたかっただよ。あんたにはお礼をしないといけないから」
「お礼?」


 覚えのない事だ、とスコールが眉根を寄せると、男はにこにこと笑みを絶やさず、確りとスコールの手を握り締め、


「ああ。お礼参りって奴だよ」
「────っ!?」


 ぎり、と痛いほどに右手を握られて、スコールの肩が強張った。
右腕を捻り取られる前に、自由な左腕で男の腕を掴み、ジャンクションした力で男の腕を打ち払おうとした。

 しかし、横から伸びて来た、スコールよりも遥かに太い腕が、スコールの両腕を捕まえる。
見れば、ガルバディア軍の青い軍服を来た、熊のような巨漢の兵士が立っていた。


「何────」
「おっと!」


 何をする、と声を荒げようとしたスコールの口を、男の手が塞ぐ。
手の中に隠されていた布の塊が、スコールの口の中に突き入れられた。


「ふ、ぐ…!」
「行くぞ」
「んん……!」


 将校に促され、巨漢の兵士はスコールを懐に隠すように抱えて歩き出す。
二メートルを越す巨漢の所為で、スコールの足は地面から浮いていた。
大きな手が片手でスコールの両腕を纏めて掴んでおり、口に入れられた布の所為で、スコールは声を出す事も暴れる事も叶わない。

 誰か気付いてはいないのかと、決して人通りの少なくない周囲を見回そうとするが、巨漢の兵士の体が陰になって何も見えない。
と言う事は、周囲からもスコールの存在は確認できないと言う事だ。


(くそ!)


 止むを得ない、とスコールは掴まれた手の中に魔力を集める。
────が、


「サイレス」
「……っ!」


 将校の唱えた魔法で、スコールが集めた魔力が霧散する。
状態異常耐性のジャンクションに、コンフュとバーサクをセットしていた事が災いした。

 武器がなくとも、魔法が使えなくとも、戦う術はある────筈だった。
だが、明らかな体格差で完全にスコールを抑え込んでいる巨漢の男を、自分の力だけで振り払う事は、スコールには難しかった。
ジャンクションで強化されている筈の腕力も、まるで通じない。

 将校は、部下であろう巨漢の男を連れ、薄暗く狭い路地を進んで行った。
人の気配が遠退いて行く事に気付いて、スコールは遮二無二暴れるが、太く大きな巨漢の手はびくともしない。

 人気がなくなっていく傍ら、ぞろぞろと足音が増えて行く事には気付く。
スコールの脳裏に、カーウェイ大佐から聞いた暴行事件の話が思い出された。
油断した、と思う傍ら、リノアを連れて来ていなくて良かった、と密かに安堵する。

 辿り着いたのは、埃臭い路地の行き止まりだった。
巨漢の男が乱暴にスコールを放り投げる。


「っ……!げほっ、う…ぐ!」


 地面を転がり、体が自由になったスコールは、真っ先に口の中に押し込められていた布を吐き出した。
唾液でべとべとになった塊が地面を転がる。

 咳き込むスコールの視界に、ずらりと並ぶ人の足があった。
眦を吊り上げて顔を上げれば、ガルバディアの将校・兵士服に身を包んだ男達がにやにやと賤しい笑みを浮かべて見下ろしている。


「久しぶりだな、SeeDのスコール・レオンハート君。こんな所で会えるとは」
「っつっても、お前は俺達の事なんか覚えてないだろうけどな」


 男達の言葉に、そうだな、覚えてない、とスコールは胸中で呟いた。

 彼らの口ぶりからして、恐らくスコールと対峙した事があるようだったが、それがドールのSeeD実地試験なのか、D地区収容所なのか、ガルバディアガーデンとの交戦の時なのか、はたまた最近の任務なのか、スコールにはまるで判らない。
敵の顔など、特に重要な人物でない限り、一々覚えていなかったし、興味もないのだから、当然の事だ。

 地面に膝を付いて、沈黙したまま睨むスコールを、男達は取り囲んだ。
薄暗がりに並ぶ男達の、ヘルメットの隙間から覗く貌が、無性に不気味に見える。


「お前は覚えてなくても、俺達はお前をよく覚えてるぜ。散々痛い目に遭わされたからな」
「カーウェイと結託して、魔女戦争の英雄になったんだってな。お陰で俺達は日陰者にされちまった」
「お陰で俺は減給されてよ」
「俺なんか降格された」
「クビ寸前だ」
「お前の所為で」


 口々に続く“お前の所為で”と言う言葉に、逆恨みも良い所だ、とスコールは思う。
いつ何処で彼らと逢ったのか思い出せないので、
スコールには彼らの事情だのと言うものは判らないが、興味もない。
ただ自分のミスや実力の無さを棚上げし、魔女戦争の終結と共に瓦解した軍部の過去の栄光を棄てる事も出来ず、今現在あちこちで求められている有能な人材───例えばSeeDのような───を妬んでいるように見える。
結局の所は、自分達の素行の悪さと実力不足が、ツケとなって今の自分達に回って来ているだけだろうに。


(数は五人…いや、六人……暴行、されるか。それで済むなら楽だが、意味もないのに痛いのは御免だな)


 意味があっても御免だが、と胸中で独り言を呟きながら、スコールは現状打破の方法を考える。

 相手は複数、武器は無い、サイレスの所為で魔法もG.Fも使えない。
無手でこの状況を切り抜けようにも、多勢に無勢である事、力技では悔しくも到底敵わない巨漢がいる事。
路地の奥まで連れて来られたので、大声を上げた所で、大通りまでは届くまい。
万が一の時、救助を要請する為の通信機は持っているが、男達に囲まれた状況では使えない。
少なくとも、彼らの隙を見て、逃げ道を掴まない事には話にならない。

 手詰まり、と言う言葉が最も相応しい状況に、スコールは口の中で舌を打った。
最初に掴まった時、躊躇せずに魔法を使えば良かった。
だが、今更悔やんでも仕方がない。


(少しの間、耐えるしかないか)


 男達は、逆恨みのお礼参りと、鬱憤晴らしがしたいだけだ。
下手に抵抗すれば、逆上させて余計に痛い目を見る事になり兼ねない。

 彼らの気が済んだら、カーウェイ邸に帰る前に、サイレスを治して、傷を治そう。
痕をつけて帰ったりしたら、きっとリノアが心配する。
しかし、手形でも靴痕でも、ナイフの類であっても、何か一つでも残っていれば、暴行事件の犯人を捕まえる手助けとなるかも知れない。

 思案していると、将校服の男が膝を降り、スコールの顔を覗き込んできた。


「遠目に見ても思ったが、中々綺麗な顔してるじゃないか。モテるんだろうなあ、え?」
「………」


 挑発するように、小馬鹿にする口調で言った将校を、スコールは冷たい目で睨み返す。
全く下らない連中だ、と胸中で溜息を吐く。


(どうしてこの手の連中は、考える事が皆一緒なんだ?)


 逆恨み、妬み、弱者に対して暴力を振るって発散。
スコールは、ガルバディア軍に捕虜として捕らえられた時の事を思い出していた。

 取り敢えず、殴るなら殴るで、さっさと終わらせて欲しい。
不快な男達の傍にいる事さえも煩わしくなって、スコールがそう思っていると、


「おい、あれ使おうぜ」
「あれって、あれですか?」
「きっと最高の屈辱になるぞ」


 将校の言葉に、部下と思しき男達は、一度驚いたような反応を下が、煽る台詞にまたにやにやとし始めた。

 巨漢の男の手が伸びた。
咄嗟に逃げようとするスコールだったが、反対側から伸びて来た腕に行く手を阻まれる。
もがいている間に巨漢の腕がスコールの肩を掴み、地面へと引き倒した。


「っ……!!」


 暴れようとするスコールの腕を、太く大きな手が掴み、頭上で一纏めに押さえつける。


「この……離せ!」


 叫ぶスコールだったが、巨漢の男は口も聞こうとしない。
しかし、暗闇の中で薄らと浮かび上がる彼の顔は、醜悪と間では言わないまでも歪な形をしており、脂の下がった目許が酷く不気味に見えた。


「ほーら、口開けな」


 そう言って、将校がスコールの眼前に見せたのは、透明な液体の入った小さなビン。
一見するとただの水のように見えるが、彼らの口振りからして、到底真っ当なものではないだろう。
スコールは口を噤んで、ビンから顔を背けた。

 ちっ、と舌打ちが聞こえて、スコールの顎を革手袋の指が捉える。
無理やり上向かされて、口を開けそうになり、スコールは唇を噛んで耐えた。


「おら、飲めよ。天国見えるぞ」
「下手に抵抗しないで飲んだ方が楽だぜ。上手くハマれば、最高の気分になれる」
「……っ…!」


 常套に考えて、ドラッグの類。
誰が飲むか、と決して口を開くまいとするスコールだったが、


「鼻摘まんでやれよ。そうしたら嫌でも口開けるだろ」


 将校の命令に、一人の男がスコールの鼻を摘まんだ。
呼吸の一切が出来なくなって、スコールは眉間の皺を深くする。

 こんな所で、こんな形で死にたくはない。
しかし、口を開けば正体不明の薬物を無理やり飲まされる。
息苦しさから本能的に解放されたくて、じたばたと脚が暴れた。
それも無理やり押さえつけられ、悶える事すら出来ない状態で、スコールは意識が遠退き始めている事を自覚していた。


(駄目、だ)


 死。
それだけは、受け入れる事は出来ない。

 は、とスコールの唇が開いて、酸素を求める。
その一瞬を見逃さず、将校はビンの口をスコールの口に押し付けた。


「んぐ……っ!」


 傾けられたビンから、液体が流れ込んでくる。
飲用を嫌って頭を仰け反らせようとするスコールだったが、将校はビンを離そうとしない。
鼻を摘まむ手も離れず、スコールが液体を飲み込むまで解放するつもりはないようだった。

 死を忌避しようとする本能が、喉を開き、液体を受け入れようとする。
この液体が何の薬かは判らないが、スコールを貶めようとしている物である事は確か。
だが、それでも飲み干さなければ、窒息死してしまい兼ねない。


「んっ、んぐっ…!う、うぅっ……!」


 喉を通って行く正体不明の液体に、言い知れない不気味さと恐怖を感じて、スコールは固く目を閉じる。
こんな状況で目を閉じるなど、絶対にしてはならない事だと判っているのに。

 こく、こくん、とスコールの喉が動くのを、兵士達は見下ろしていた。
やがてビンの中身が空になって、ようやくスコールは呼吸を赦された。


「あっ…は…!は、ぁっ…!」


 薄い胸を上下させ、スコールは必死に肺へ酸素を送り込む。
閉じられた瞼の端に、薄らと雫が滲み、日焼けをしない白い肌が息苦しさで紅潮していた。

 額に汗を滲ませ、肩を震わせて呼吸するスコールの姿に、誰かがごくり、と喉を鳴らした。
お前、と誰かがそれを揶揄う。
しかし、荒い呼吸を繰り返す目の前の少年は、“英雄”と言う呼び名が厳めしく思えるほど、艶を放っている。


「っは…うぇっ…何、の…薬……っ」
「直ぐに判るさ。即効性だからな」


 くく、と笑みを含んで言った将校を、スコールは睨む。
が、それが出来たのは一瞬の事。


「─────っ」


 どくん、と、スコールの躯の中で何かが大きく鼓動を打った。
まるで心臓が跳ね上がったかのような動悸に、スコールは目を瞠る。


「……っあ……!?」
「お、来たか」
「結構あっさり効きましたね。“伝説のSeeD”なんて言うから、薬物も効かないのかと思ってたんですが」


 どくん、どくん、どくん、と鼓動が逸る。
スコールは、全身の毛穴から多量の汗が噴き出して来るのを感じていた。

 体の中が熱い。
まるで、体内を流れる血流が沸騰しているかのようだった。
視界がぐるぐると、アルコールでも煽った後のように回り始め、見下ろす男達の顔が、絵の具を油で溶かしたかのように歪んで行く。
喉の奥から、体の奥から熱いものが溢れ出してくる。
息を吐けば、それさえも熱く、喉が灼けるようにヒリついていた。


「あ、あ…!あ、つい…ぃっ!」


 内臓から焼き殺されるのではないかと思う程、熱い。
スコールは身を捩って熱から逃げようとするが、男達はスコールの両手両足を地面に縫い付け、悶えるスコールを笑いながら見詰めている。


「う、あ…!熱い、熱……!」
「暑い?そりゃあ大変だな。涼しくしてやろう」


 視線を宙に彷徨わせ、息も絶え絶えに喘ぐスコールに、将校は昏い笑みを浮かべてそう言うと、スコールのジャケットの前を広げ、白いシャツに手をかけた。
掴んだシャツを力任せに引き千切る。
ビィイイイ…!と布地が破けて行く音に、スコールの意識が現実に帰った。


「何を……っ!?」
「なんだ、こいつ。細いな、生白いし、女みてえ」
「ジャンクションってのは恐ろしいな。こんなのでも、一瞬で怪力になれるんだろ?」
「やめ、ろ…見るな、触るなっ!」


 胸や腹、腰をべたべたと触りながら口々に言う男達に、スコールはあらん限りの力を振り絞って暴れた。
脚を抑える男達を蹴り飛ばし、胸を撫でていた将校の腹を蹴り上げる。
しかし、腕は相変わらず、巨漢の男に確りと捕まえられており、振り払えない。

 蹴り飛ばされた男達がのろのろと起き上がる。


「足癖の悪い奴だな。ちゃんと押さえとけよ」
「細い癖に、馬鹿力なんですよ。でも、あいつには敵わないみたいですけど」
「そりゃあ良かった。うちで一番のデカブツだからな。あいつを連れて来て良かったよ」


 ぞろぞろともう一度集まってくる男達の気配に、スコールは戦慄した。
早く逃げなければ、一体何をされるか。
しかし、どれだけ身を捩ってみても、両腕を掴む太い手はびくともせず、スコールを地面に縫い付けている。

 部下であろう兵士達が、スコールの両足をそれぞれ二人がかりで押さえ込む。
将校がスコールの傍らにしゃがみ、卑しい笑みを口元に浮かべ、スコールの腹に指を這わした。
途端、ピリリッと電気を流したような衝撃がスコールの躯を貫く。


「うぁあっ!!」


 ビクッ、ビクッ、とスコールの躯が大きく跳ねた。
それを見た男達が、ヒュウ、と口笛を吹く。


「すげえな。見たか、今の反応」
「敏感っすねえ」
「経験アリだったりして」
「ああ、有り得ますね。こんな面なら、俺もイケそう」
「なんだ、お前そっち系か」
「違いますけど。なんかねえ」


 頭上で交わされる会話を、スコールは聞いていなかった。
そんなものよりも、今、自分の躯を襲ったものは一体何なのか。
嘗て拷問をされた時、体に電流を浴びせられた事があったが、それとは違う。
痛みのようなものは感じなかったし、このじくじくとした余韻のようなものは一体。

 どくどくと心臓の逸りが更に高まって行く。
無様な声を二度と揚げたくなくて、唇を噛んだ────けれど。


「くぅううっ!」


 悪戯に皮膚の上を這う指に、また同じ感覚に襲われる。

 この熱さは何。
この衝動は何。
一体何の薬を飲まされた。
男達を問い詰める言葉さえ、スコールはまともに紡ぐ事が出来なくなっていた。


「や、め…触るな、あ、あぁあっ!」
「おいおい。これだけでそんなに感じてたら、この先持たないぞ」


 将校が腹を撫でる度、悲鳴を上げるスコールに、男達はくつくつと笑いながら言う。
この先って、まだ何かあるのか、とスコールは息を切らしながら思う。

 するり、と将校の指がスコールの肌を撫でる。
びくん、とスコールの躯が跳ねたが、声は出さなかった。
血が流れるほどに強く唇を噛んで耐えるスコールに、男達は楽しそうに「その調子、その調子」等と嘯く。

 将校の指は、スコールの肉の薄い胸板を辿ると、その頂きで淡色が膨らんで主張しているのを見付け、


「そらっ!」
「────んぁあああっ!!」


 ぎゅう、と痛い程に乳首を摘まれ、スコールは一際高い悲鳴を上げる。
その反応に気を良くした将校は、乳首を指で挟んでコリコリと転がして刺激する。
それだけで、スコールの躯は面白いようにビクビクと跳ねた。


「あっ、あっ、ひっ!何っ、ああっ!」
「こいつの乳首、勃起してるぜ。ほれ、コリコリって」
「やあ、あ、んんっ!う、あっ!」


 体を弓形に撓らせ、頭を振って嫌悪を訴えるスコールだが、助けてくれるものはいない。


「勃起してるって事は、気持ち良いって事っすね」
「そうだな」
「ふざ、け…ひんっ!」


 男達の言葉を否定しようと口を開けば、乳首を強く抓られて、悲鳴にとって代わられる。

 将校が指先で乳首を押し潰すと、スコールは胸からじんじんとした疼きが起こるのを感じた。
嫌だ、と唇を噛んで胸中で叫ぶ。
指が離れると、潰された乳首が押し出されるようにぷくんと起き上って膨らんだ。
その光景に、おお、と興奮するような声が降って来て、スコールの羞恥心を煽る。


「やめ、ろ……んんっ!」


 乳首をもう一度摘まれ、零れかけた悲鳴をスコールは飲み込んだ。
耐えるスコールを嘲笑うように、将校はもう一つの乳首にも手を伸ばし、二つ同時に摘まみ上げる。


「うぅんんっ!」


 ビクン、ビクン、とスコールの躯が跳ねる。
息を殺し、くぐもった悲鳴を上げるスコールを見て、将校は歪んだ笑みを浮かべる。


「ほら、両方弄ってやるよ」
「んっ、うっ…!ふ、くぅう…っ!」
「相当感じる筈だぜ。そういう薬だからな」


 そういう薬────つまり、性的欲求を強制的に起こすものか、或いは交感神経を鋭敏にさせるものか。
俗に“媚薬”と呼ばれる類のもの、と言う事だろう。

 やる事成す事が低俗過ぎる。
しかし、スコールにそれを嗤う余裕はなかった。
薬が本当に“媚薬”の類であるかはともかくとして、その薬の所為で己の躯に明らかな変異が起きているのは確かだ。


「見てみろ。こいつの乳首、ビンビンになってるぜ」
「乳首伸びちゃってんじゃないすか」
「もっと弄ってぇ〜って?」
「じゃ、ご希望に応えてやるか」


 ぎゃははは、と耳障りの悪い笑い声がして、スコールの乳首を攻める手が激しさを増す。
引っ張るように摘まんで持ち上げたかと思うと、親指で先端をぐりぐりと乳頭の縁をなぞられる。
無理やり引っ張られたりなどすれば、痛い筈なのに、何故か痛みらしい痛みは感じない。
あるのは、ぞくぞくと這い上がってくる疼きだけで、それはスコールの躯中に伝達されて行く。


「うっ、うっ、んんっ!っは、あっ!く…うぅんっ…!」


 唇を噛んで耐えるスコールだったが、酸素を求めて微かに口を開く度、悲鳴が喉をついて出る。
爪先でコリコリと乳頭の先端を擦られて、スコールは宙を仰いではくはくと唇を戦慄かせた。


「我慢しないで声出せよ」
「そうそう。さっきみたいな声聞かせろよ」
「…ふ、く……っ、こと、わ、る……っ!」


 スコールが声を上げれば上げるだけ、男達を楽しませる事になる。
誰が好き好んで、彼らの欲望を満たすような事をするものか。
ぎろり、と青灰色が鋭い眼光で男達を睨む。

 ────ぎゅうっ!と左右の乳首が強く抓り上げられ、電流のような迸りがスコールの全身を襲う。


「ひあぁあぁあっ!!」


 ビクッ、ビクンッ!とスコールの躯が悲鳴と共に跳ねる。
将校はスコールの乳首を強く抓り上げたまま、コリコリと爪を立てて先端を擦って弄び始めた。


「やっ、あっあっあっ!ん、離、し、ひぅうんっ!」
「離して欲しいか?」
「ん、んっ…!く……離せ、と、言ってる────んあっ!」


 ピンッ、と左右の乳首が弾かれ、それを最後に、男の手が離れる。
絶え間なく襲っていた感覚が唐突に途絶えて、スコールはぐったりと四肢を弛緩させ、はあ、はあ、と艶の篭った吐息を繰り返す。

 スコールが呼吸を落ち着かせる間、男達は手を出してこなかった。
拘束されたスコールの姿をじっと眺め、にやにやと賤しい笑みを浮かべている。
見るな、とスコールは言ったが、その声は酷くか細くなっていた。


(……あ……っ?)


 ようやく呼吸のリズムが整ってきた頃に、スコールは、じく…としたものが体内から湧き上がってくる事に気付いた。
それはまるで、ナメクジが血管の中を這っているかのような感覚。
気持ちが悪い筈のその感覚は、ゆっくりと、じっとりと、スコールの神経を辿るように広がっていく。

 じくじくとした疼きが特に酷かったのは、将校に散々弄られた乳首だった。
ぷっくりと膨らんだその先端が、ヒクヒクと震えているような気がする。
まるで、物足りない、とでも訴えているかのように。


(そんな筈、ない…!)


 あんな気持ちの悪い思いは、二度としたくない────そう思っている筈なのに、ぼんやりと開いた瞳で自身の胸を見下ろし、腫れたように赤く色付いた蕾を見た途端、こくり、と喉が鳴った。


「なんだ。大人しくなったな」
「今の内に逃げないのか?」
「それとも、もっとして欲しくなったか?」
「離せって言ったのはお前だろ?」


 スコールの両足を押さえつけたまま、青い制服の兵士達が口々に言った。
その声に、そうだ、逃げないと、と意識が現実へと戻るが、躯はすっかり力を失い、暴れる事すら忘れたように動かない。
巨漢の男に捉まえられたままの腕も、振り払おうともがく事さえしなくなった。


「逃げないなら続けるぞ」
「…嫌、だ……」
「でもお前、逃げないじゃないか」
「物欲しそうな顔してるしな」
「そ、んなの…してな……いぃいんっ!」


 ぎゅう、とまた左右の乳首を摘まんで抓られる。
ビクン!と背を仰け反らせて悲鳴を上げるスコールに、男達がくつくつと嗤う。


「よく言うぜ、こんなに感じてる癖して」
「ほれほれ。コネコネされるの気持ち良いだろ?」
「やあっ、あっ、あ、んんっ!っは、は、あ…あっ!」


 親指と人差し指、更に中指まで使って、捏ね回されるように乳首を刺激され、スコールは息を殺すのを忘れ、声を上げた。
その間、先程あんなにも感じていた、じくじくとした疼きは感じられず、


(な、んで……っ)


 これではまるで、待ち侘びていたかのようではないか。
そんな思考が、スコールを打ちのめす。


「や、嫌、だ…!あっ、んっ!ああ、や、あっ、あっ、」


 ひくん、ひくん、と全身が戦慄き、体中の血管が一気に拡がって行くような感覚。

 押さえつけられ、動けない体を強張らせるスコールの胸に、将校は顔を寄せた。
ぢゅうっ、と言う音と共に乳首に吸い付かれ、スコールは喉を反らせて喘ぐ。


「やぁああっ!やめ、離せ、気持ち悪、い、んぁあっ!」


 ぢゅるっ、ぢゅうっ、と唾液を啜る音が響く。
その度、乳首を激しく啜られて、ぬるぬるとした舌が這い、指とは違う官能をスコールに与える。


「ひっ、ひっ…!やめ、ろ…やめろぉお…っ!」


 掠れた声で訴えるスコールに、将校はちゅぽ、とわざとらしく音を立てて乳首から口を離した。


「悪い悪い。痛かったか」
「ち、がう…きもち、わる…うぅんっ…!」


 ねとぉ…と将校の舌がスコールの乳首を撫で、ふるり、とスコールの躯が震える。


「気持ち悪い、ねえ」


 にやにやと、脂の下がった笑みを浮かべながら、将校が言った。
将校が手で合図らしきものを示すと、地面に押さえつけられていたスコールの足が持ち上げられ、左右に大きく広げられる。


「じゃあ、これはどういう事だ?ん?」
「んんっ…!」


 将校の手が、ボトム越しにスコールの中心部を撫でる。
其処はテントを張ったかのように膨らんでおり、スコールの躯が昂っている事を何よりも顕著に表していた。

 ボトムの上から将校の手がスコールの淫部を握り、やわやわと揉みしだく。
それだけで、スコールの下肢からは力が抜け、甘い声が彼の口から溢れ出す。


「っは、あっ、あっ…!」
「これでも気持ち悪かったって?」
「ん、は…っ…!きも、ち、わる、い…っ」


 はっきりとした声で、スコールは嫌悪を口にした。

 将校がぐにぐにと淫部を握って遊ぶ。
更には、足を抑えていた男達も手を伸ばし、スコールの胸や腹、布越しに太腿を撫で始めた。


「や、あ……!」
「なんだ、このベルト。邪魔だな」
「外せるか?」
「やめっ…触るなって、言って……あっ、あっ…!」
「面倒だ。こいつで行きましょう」


 こいつ、と言って一人の兵士が取り出したのは、軍用ナイフ。
刃毀れの見えるそれは、到底まともに管理されてはいないようだったが、それでも凶器である。
それがスコールのベルトの一本に引っ掛けられ、ぶちり、と強引に切断した。

 ぶちり、ぶちり、と革製のベルトが切られると、次にナイフはスコールの股間へと宛がわれた。
刃先の尖りが下肢に当てられるのを感じて、スコールはぎくりと顔を引き攣らせる。


「動くなよ〜」
「下手に暴れると、大事なとこにザクッと行くぜ」


 ぷつ、と股間の布地に穴が開いた。
スコールは唇を噛んで、暴れたい衝動を堪える。
男達の言う通り、この状況で暴れる事は、自身の身に危険を及ぼさせる行為でしかない。

 股間からゆっくりと持ち上げられた刃は、ビ、ビ、と裂く音を鳴らしながら、全部の中程までを裂いた。
更に兵士は、手首のスナップだけでナイフを振るい、スコールのボトムスの前をズタズタに切り裂いていく。
僅かでも間違えれば、其処に収められているスコールの中心部にも刃が届く為、スコールは息を殺してじっとしているしかなかった。

 切り裂かれたボトムスは、最早衣服としては使えない。
それを、兵士達は更に、手で引っ張ってビリビリに破り捨てた。


「パンツも破っちまえよ」


 誰かのそんな声が聞こえて、スコールは叫んだ。


「止めろ!お前達、それ以上したら────あぅっ!」


 脅しの言葉でも吐こうかと言うスコールの言葉は、最後まで続かずに悲鳴に取って替えられた。
誰のものか判らない手が、スコールの乳首を捏ね回す。


「あっ、ひっ、ひぃんっ!」
「それ以上したら、なんだよ。僕の恥ずかしいとこ見えちゃうからやめてって?」
「は、あっ、あっ…!んんっ…胸、触る、なぁ…っ!」
「乳首で感じてる奴が、今更恥ずかしいも何もないよなぁ」
「感じ、て、なんか…あぁあっ…!」


 反論の言葉は、胸を弄る手に全て浚われてしまう。

 ボトムと同様、下着もビリビリと破り捨てられ、布切れの残骸が散らばり、スコールの下肢が外気に晒される。
露わになったスコールのペニスは、持ち上げられてもいないのに、頭を上に擡げていた。
そんな自分の躯の変貌に、スコールは目を見開いて絶句する。


「あ…あ……」


 判っている。
これは薬の所為だ。
強制的に飲まされたものの所為であって、決してスコール自身が性的興奮などに見舞われている訳ではない。
だが、頭ではそう思っていても、現実に自分の躯の有様を見せつけられると、信じたくないと言う気持ちが膨らんでいく。

 そんなスコールの絶望的な表情を見て、男達は対照的に興奮したように息を荒くしていた。


「見ろよ、勃起してやがる」
「これでよく気持ち悪いって言えたモンですね」
「おい、こら。これでも感じてないって言えるのか?」
「今にもイきそうな位パンパンじゃないか」


 ぴくん、ぴくん、と小刻みに震えるペニスに、男達の手が這う。
それだけで、スコールは下肢から背中へ、ぞくぞくとしたものが迸るのを感じて唇を噛んだ。


「んぅっ、んふぅううっ…!!」


 ビクッビクッ、ビクッ、とスコールの躯が跳ねて強張る。
その様子を見下ろしながら、男達はスコールのペニスの竿を擦り、亀頭の裏や先端を指先で擦って弄ぶ。


「ひっ、ひふっ…!んうっ、んんっ、」
「イきたいんだろ?イかせてやるよ」
「ふ、ふーっ!ふんぅっ!う、うっ、うぅっ、」
「ほーら、ちんぽの先っちょから気持ちイイのが出てるぜぇ」
「うくぅううんっ!」


 ぐりぐりと爪先で尿道の入り口を刺激され、スコールは腰を浮かせてくぐもった悲鳴を上げる。
腕と足を拘束されている所為で、腰を捩らせ、頭を振る程度しか、スコールの抵抗は赦されない。
その程度でスコールが男達から逃げられる筈もなく、彼らは卑下た笑いを浮かべながら、スコールの肉棒を刺激し続けた。


「んっ、んあっ、あっ!や、あ…!ひっ、ひぎっ…!イ、あ、あ、」


 ペニスからとろとろと先走りの蜜が溢れだし、スコールのペニスと男達の手を汚して行く。
ピクッ、ピクッ、と震えるペニスは、痛い程に張り詰めており、あと少しで射精してしまう事が伺えた。

 にやぁ、と男達が不穏な笑みを浮かべるのを、スコールは見ていなかった。
直ぐ其処まで、寸前まで迫っている昂ぶりに、身を捩らせて切ない声を上げるしか出来ない。
竿を包まれて上下に手淫を施され、先走りの蜜を絡ませた指で尿道口を突かれ、亀頭の裏を爪で引っ掻かれ────むくむくと膨らんでいくスコールの雄が弾けるまで、然程時間はかからなかった。


「ひ、ひぃぅっ!やめ、や、あ、あ、ああーーーーっ!!」


 ビクッ、ビクッ、ビクッ、とスコールの躯が大きく波打ち、ペニスから精液が飛び散った。
しかし、精を吐き出しても、スコールのペニスは萎える事はなく、鋭敏になった肉棒を男達は休ませる事なく攻め立てる。


「んあっ、あっ!やあぁっ!やめ、やめろっ、やめ───ああぁあっ!」


 もがくスコールの声に構わず、将校はペニスの裏筋を指先で押しながら上下に扱く。


「どうだ?オナニーなんかより、ずっと気持ち良いだろ?」
「ひっ、ひぃっあああっ!あっ、あっ、やめっ、嫌だ、あああっ…!」
「気持ち良いに決まってるよなぁ。またイきそうだもんな」
「違、違う…っ!イきた、くな、…!イきた、く、なんかっ、イ、イキっ、あっ、あっ、んぁあああああっ!」


 スコールの嫌悪感と意思に反し、躯は絶えず襲い続ける官能に従順であった。
射精を促すようにペニスの先端の括れを擦られた途端、スコールは甲高い悲鳴を上げて、二度目の射精を放つ。


「はひっ、はっ、あっ!も、もうっ…触る、な、あっ、あっ!」
「そら、このまま三回目だ!」
「やめっ、嫌っ…嫌、だっ…!もう、イかなっ…!」
「大丈夫、大丈夫。ちんこ勃起してるし、もう出てるし。まだまだ幾らでもイかせてやるよ!」


 誰のものか判らない手が、スコールのペニスを包み込み、全体を扱いて刺激する。
皮の手袋のざらざらとした摩擦に、スコールのペニスはまた膨らみ始め、


「あっ、ああっ!離せ、離し、や、イくっ!イきたく、な…ん、あぁあーーーーーっっ!!」


 ビクン、ビクン!びゅるるるるっ!

 自身の意思と訴えを無視して、スコールの躯は三度目の絶頂を迎えていた。
吐き出した精液がスコールの腹を汚し、どろりと肌を伝い落ちて地面に溜まる。