堕ちる、熔ける、嗤う。 2-2


「なっ…何を……!」


 スコールが引き攣った声を上げている間に、するり、と腰に留められていたベルトが抜かれる。
ズボンのウエストが緩んで、下着ごと力任せに引っ張られたそれがブーツを履いた足下に絡み付く。


「ひっ!」
「おいおい、随分白いな。足も細いし」
「ちんこもあんまり使ってないみたいだな。被ってるし。指揮官様ってのはモテるんじゃないのか?」
「このっ…!触るな!」


 べたべたと尻を触って来る悍ましい手に、スコールは暴れようとしたが、腕は押さえつけられ、足下はズボンが拘束具のように邪魔をする。

 露わにされた臀部に視線が集まってくるのを感じて、スコールは歯を噛んだ。
テーブルに頭を押さえつけられ、下半身を裸にされて覗き込まれている等、屈辱以外の何者でもない。
無遠慮に触って来る沢山の手は、尻たぶを摘んで谷間の窄まりを広げたり、脚の間で垂れている雄に触れたりと、好き放題にしていた。


「う、ぐ…うぅっ……」
「そう怖い顔しないで、もっと嬉しそうな顔しろよ。コレみたいにさ」


 これ、と言って将校は、写真をスコールの前に見せつける。
其処に映っているものを見たくなくて、スコールは顔を背けた。


「見ろよ、ケツ穴がヒクヒクしてるぜ」
「なんだかんだ言って興奮してるんじゃないか?」
「指揮官様は見られて興奮するタイプか」
「ちんこは萎えてるけどなー。ほらほら、勃たせてみろよ」


 くにゅっ、くにゅっ、と睾丸を揉まれて、スコールの体が微かに震えた。
零れかけた音を喉奥で飲み込み、息を止めて耐え忍ぶ。


「どうも反応が鈍いな」
「気分が乗ってないんだろ」
「指揮官様は何処を弄られるのが好きなんだ?」
「言えよ、そうすりゃ気持ち良くしてやるからさ」


 背後の男達が何を言っても、スコールは唇を噛んだまま、黙していた。
下手に反抗したり、反応すれば、反って彼等を調子づかせる事になる。
彼らはスコールが抗う姿を見て嘲りたいのだから、わざわざそれに応じてやる必要はない、とスコールは一切の無視を決め込んでいた。
反応がなければ、詰まらないと思った彼等が飽きて、立ち去る事も考えられる。

 しかし、兵士達は執拗にスコールの下半身を撫で回し、尻たぶを揉み、薄く色付いた菊座を指で突いて遊ぶ。
足の付け根や太腿、ペニスの根本をくすぐられる度、否応なくスコールの躯は震えた。


「っ…うっ……く…っ……!」


 皮膚を食い破らんばかりの力で、スコールは唇を噛んでいた。
それでも微かに吐息が漏れて、身体が震える。
この震えは気持ちが悪いから、触れる手が悍ましいから、それだけだと言うのに、耐えようとするスコールを見下ろす男達は、勝手に都合の良いように解釈する。


「ケツ穴、中の方もキレーな色してるじゃないか。狭そうだし。ちんこ使ってないようだから、こっち専門かと思ってたんだが」
「久しぶりなのかも知れないぜ。何せ指揮官様、お忙しいようだから」
「突っ込ませないで、部下のちんこ踏んで遊んでるのかもな。何せ指揮官様だ、なんでも命令し放題だろ」
「Sだねぇ。写真を見た感じじゃ、ドMっぽいけど」


 穴の入り口を摘んで、ぐにぃ、と穴が形を歪めて広げられる。
拡げられた其処に空気が入り込んで来て、スコールはふるりと体を震わせた。

 誰かの指が入口に宛がわれて、スコールは息を飲む。


「い、や…だ……っ…!」


 体中を拒絶反応で強張らせるスコール。
秘孔口も当然閉まり、侵入しようとしていた指の力を完全に拒む。


「このっ」
「いぎっ、いっ…!ぐぅうっ…!」
「好きなんだろうが。大人しく咥えろよ」
「……っ!」


 ぐいぐいと秘孔に指を押し当てられて、スコールは嫌だ、と首を横に振った。
誰が好き好んでそんなものを突っ込まれたいと思うのか。
スコールはそう思うが、指はそんな事はお構いなしで、無理やり中に入ろうとしている。

 だが、スコールは頑なにそれを拒否した。
唇を噛み、悲鳴も押し殺して全身に力を入れたまま硬直したスコールに、兵士は舌打ちしてアナルから指を離す。


「ちっ。随分ガードが堅いな」
「お前が強引なんだよ」
「強姦に強引もクソもあるか」
「まーそりゃそうだけど。これじゃこっちもノらないな。どうします?」


 スコールを押さえつけたまま、一人の兵士が将校に訊ねた。
将校は、少しの間苦しげに息を殺して唇を噛むスコールを眺めると、


「一回イかせてやれ。そうすりゃちょっとは緊張も解れるだろ」


 気遣っているような口振りで言った将校の言葉を、スコールは聞いていなかった。

 テーブルに押し付けられていたスコールの頭が、ぐいっと持ち上げられる。
髪を引っ張られる痛みに顔を顰めていると、腰を抱かれて後ろに下がらされた。
足下でダマになっているズボンが邪魔になって、蹈鞴を踏むと、踵が何かに躓いた。
倒れるかと思いきや、冷たいもの───パイプ椅子の上に座らされて、臀部から直接伝わる冷気にスコールの体が震える。

 背中に押し付けられていた腕が、パイプ椅子の背凭れの裏側へと回される。
肩を押さえつけられ、身動きが取れなくなったスコールの腕に、冷たい鎖が巻き付けられた。
それはスコールの胴体へと回されて、スコールはパイプ椅子に縛り付けて固定される事となる。


「んっ、う…っ……うあっ!」


 パイプ椅子のひんやりとした感触に唇を噛んでいたスコールだったが、後ろから伸びて来た手に両足を大きく割られて、思わず声を上げた。
隠すもののない下肢が、萎えたままの雄が、周囲を取り囲む男達の前に露わにされる。


「止めろ!この…見るなっ、触るなあっ!」


 頭を下げたままのペニスに、兵士の手が纏わりつく。
亀頭や竿をくすぐるように指先で撫で回されて、スコールは頭を振って、触るな、と繰り返し叫ぶ。

 将校がスコールの前で膝を曲げて、じろじろと陰部を眺める。


「くう……っ」


 スコールは頬を朱色に染めて、眉根を寄せ、眼前の光景を認識するまいと目を閉じた。
何をされるのか判らない、この状況下で目を閉じるなど愚の骨頂だが、辱めを受けている自分の有様を具に認識する事も、スコールには出来なかった。

 将校がスコールの膝を押して、脚を限界まで開かせる。
頭を垂れたペニスに視線が集まり、羞恥心に耐えるように、スコールの太腿がふるふると震えた。


「なあ、指揮官様よ。あんた、オナニーはやってんのか?」
「……く…っ……」
「どうも仕事が忙しいみたいで、御無沙汰のようだし、大分溜まってるんじゃないか。ちょっと抜いてやるよ」
「っ……触るな!」


 太腿を抑えていた背後の手が、スコールの雄を包み込んだ。
顔を顰めて暴れようとするスコールだが、膝は大きく開かれて押さえつけられたまま、背凭れに縛り付けられた腕も動かせない。

 雄を包んだ手が上下に動き、竿を擦って刺激する。
竿の裏筋を指先が狙ったように押し、爪を立てて擦られる感覚に、スコールの体が戦慄いた。


「うっ、んっ…!うぅっ…!」


 ペニスを刺激されれば、否応なく反応してしまうのが、人間の雄の躯と言うものだった。
それでも反応するまいとスコールは唇を噛むが、そうして耐える姿が、取り囲む男達を調子付かせてしまう。


「ほらほら、久しぶりなんだろ?素直に感じとけよ」
「それとも、ケツ穴じゃないと勃ちません、とか?」


 親指がカリ首の凹みを押して、ぐりぐりと爪を当てて来る。
ひくっ、ひくっ、とスコールの体が震え、包む手に力が篭ると、ぎくっとスコールの体が強張った。


「安心しな、潰したりはしないからさ」
「ふ、く……う…」


 宥めるように耳元で囁かれ、じゅる、と生温いものがスコールの耳朶をなぞる。
気持ち悪い、と眉根を寄せるスコールだったが、陰茎を弄る感覚に浚われ、熱の篭った吐息が漏れてしまう。
それを見た男達が、にやにやと口元を緩ませた。


「段々感じて来たみたいだな」
「耳が弱いのか?」
「やっ…!ひ、ぃっ…!」


 じゅるり、ともう一度耳朶を舐められて、スコールの肩がビクッと跳ねる。
頭を振って振り払おうとするスコールを眺めながら、背後の男は手淫を激しくさせて行く。


「うっ、うくっ…!ひ、ぐぅっ…!」
「ん?何?イくって?」
「……っ!」


 くつくつと揶揄うように笑みを含んだ言葉に、スコールは違う、と首を横に振った。
しかし、そんなスコールの意思とは裏腹に、ペニスは少しずつ頭を持ち上げ始めていた。


(嫌だ…!嫌だ!また、こんなの、なんて……!)


 三ヶ月前のあの日も、性器を散々に弄られて、無理やり果てさせられてしまった。
それからは薬も飲まされ、尻穴を滅茶苦茶に掻き回され、何時間にも渡って凌辱された。
意思を無視し、無理やり絶頂させられるのが、どれ程悔しいか。
あんな思いは二度としたくない────そう思っているのに、スコールの躯は抵抗すら許されず、男達の悍ましい手を甘受するしかない。

 手淫に耐えていたペニスに、新たな手が加わった。
竿を扱き続ける手はそのままに、新たなそれは先端を集中的に苛め始める。
亀頭口に引っ掛かっていた薄皮が摘まれ、引っ張られると、スコールは痛みに顔を顰めた。


「いぃっ…!あ、痛っ…!」
「頭が出て来てるから、真性じゃあないみたいだな」
「ひっ、引っ張るな…っ、触るなあぁっ……!」


 包皮を捲るように引っ張られて、スコールは歯を噛んで頭を逸らす。
手淫の手が薄皮を引っ張り、亀頭が包皮から出たり引っ込んだりと繰り返した。
皮が捲れては擦れる感覚に、スコールは腰から下にびりびりと甘い痺れが走るのを感じて、目を見開いて天井を仰ぐ。


「あっ、あぐっ、あぁっ!痛、ひっ、んっ!」
「皮オナはやった事はないみたいだな。痛いばっかじゃイけないだろうから───ほら、こっち」
「ふぐっ、うぅうっ!」


 皮を遊んでいた指が、今度は剥き出しの亀頭を虐め始める。
先端の穴をぐりぐりと掘るように抉られて、スコールの体がビクッ、ビクッ、と跳ねた。
縛られた腕がもがいて、ガチャガチャと鎖がパイプ椅子の背凭れに当たって音を立てる。

 陰茎の頭は完全に上を向いていた。
指先でぐりぐりと弄られ続けていた先端から、とろりと蜜液が溢れ出し、亀頭の膨らみを垂れ落ちて行く。
それを更に助長させるように、親指の腹で先端を、人差し指で亀頭の裏を扱かれ、竿の裏筋をごしごしと刺激されて、スコールはぞくぞくとしたものが腹の奥から競り上がってくるのを感じた。


「ひっ、いっ、うぅっ…!んうぅうっ!」


 痛い程に歯を食いしばって耐えようとするスコールだったが、身体の反射反応には、どう足掻いても逆らえなかった。
ビクン、ビクン、と一際大きくスコールの躯が痙攣すると、指で押し潰された亀頭の先端から、びゅるっ!と精液が噴き出す。


「─────〜〜〜〜っっ…!!」


 がくっ、がくっ、がくっ、とスコールの膝が震え、スコールは喉まで出かかった声を必死で飲み込む。
息が出来なくて酸欠で死ぬような気がしたが、情けない声を出す位なら、死んだ方がマシだと本気で思っていた。

 何も映さない目を瞠り、四肢を強張らせて絶頂したスコールを見て、兵士達が嗤う。


「おおっ、イったイった。出たぞ〜」
「結構我慢したな」
「意外と少ないぞ。本イキじゃないんじゃないか?」
「だろうな。見ろ、まだビンビンに立ってるぜ」


 天を突いたままのスコールのペニスを弄り遊びながら、ガルバディア兵は囃し立てた。
スコールの股間は自身の愛液で濡れそぼり、パイプ椅子のクッションの上に液溜りを作っていた。


「あ…あ……」


 呆然自失として天井を仰いでいたスコールの眦に、透明な滴が浮かぶ。
それを見た将校が、くつくつと笑った。


「おいおい、泣く事ぁないだろう。折角気持ち良くなったんだから、もっと良い顔しろよ」
「…ふ、…っく……この……っ!」


 馬鹿にしている将校の言葉に、スコールは涙の滲んだ瞳で睨み付けた。
しかし、じゅる、と背後の男に耳朶をなぞられて、喉が痙攣したように引き攣った悲鳴が漏れる。

 ぴちゃぴちゃと耳元で鳴る淫音に顔を顰めながら、スコールは辺りを囲む兵士達を見上げた。


「もう…良いだろ……、離せよ……!」


 息も絶え絶えに、スコールは解放を求めた。
三ヶ月前のあの出来事は、二度と起きて欲しくなかったのに、同じように押さえつけられて無理やり射精された。
あの日さながらの事がこれから起こるのなら、スコールの精神は耐えられない。


「これ以上の暴行は、軍法会議ものだ。カーウェイ大佐にも、お前達の悪癖を報告する。それが嫌なら、さっさと離せ」
「……カーウェイ大佐、ねぇ……」


 ガルバディア軍の現最高司令であるカーウェイの名に、兵士の何人かは慄いたように半歩下がった。
しかし、将校は考えるように顎に手を遣ると、口元に笑みを透いて、スコールのペニスを握る。


「ひぅっ……!」


 絶頂して間もない其処は、敏感になっていた。
触れられただけで腰から下に電気が走る感覚に襲われて、スコールは肩を縮める。

 将校はスコールの陰茎を激しく扱きながら、どうするかなぁ、とのんびりした口調で呟いた。


「確かに、カーウェイに報告されるのは厄介だなぁ」
「ひっ、あっ、あぁっ…!んっ、だったら…、早く……っ!」
「でも、どうやって報告する気だ?囲まれてちんこシコシコされてイっちゃいましたってか?」
「ん、く…っ、そんなの…何と、でも……っ」


 彼等を懲罰する為の手段なら、幾らでも都合が付けられる。
文書偽造でも良いし、証拠を出せと言われたら、それも作れば良い。
其処までせずとも、SeeDの指揮官であるスコールがガルバディア兵に私刑を食らったと言う噂でも流れれば、カーウェイ大佐は放って置かないだろう。
現在のガルバディア軍の悪質さは、カーウェイにとって目の上の瘤も同然。
これ以上、ガルバディア軍、引いてはガルバディア政府の信用を落とさない為にも、罰則処分に動き出すのは想像に難くない。

 声を殺し、鼻にかかった呼吸を繰り返すスコールに、将校はそりゃあ困るなあ、と呟く。
まるで他人事のような将校の声に、スコールま眉を潜めて、ペニスを弄り続ける男を睨んだ。


「だか、ら…は、早く……離……あぁっ!」


 ぎゅう、と陰茎の根本を強く握られて、スコールは悲鳴を上げた。
びくっ、びくっ、とスコールの躯が震え、呼吸が逸る。

 将校は雄の根本を握り締めたまま、亀頭の裏の凹みをぐりぐりと抉った。


「ひっ、ひっ…!い、うぅんっ…!」
「そういや指揮官様は、大佐のお嬢さんと、随分仲が良いみたいですなぁ?」
「……っ……!」


 不意に聞こえた単語に、スコールは眉根を寄せた。

 カーウェイ大佐のお嬢さん────他でもない、リノアの事だ。
スコールの瞳に剣呑さが灯り、兵士達を睨み付ける。


「リノアに何を────んんっ!」


 吼えるスコールの声は、最後まで続かなかった。
ペニスの裏筋に浮き上がった血管を指で辿られ、擽られて、ぞくぞくとしたものがスコールの背中を奔る。


「別に何もしてないし、するつもりもないさ。だけど、あんたら、親公認の仲なんだろ?この時も、お嬢さんの護衛って名目でデリングシティに来て、デートしてたそうじゃないか。こんな事があった後で、よく平気な面して彼女の前に出れるモンだなぁ」


 兵士の一人がスコールの眼前に写真を見せ付ける。
哀れな肉人形と化した自分の姿と、その後に必死で平静を装って彼女の前に立っていた自分を思い出して、スコールは唇を噛む。


「そんで、あんた、この時の事は誰にも言ってないんだろ?人事異動も何もないし、カーウェイも俺達に何も言って来ない。って事は、お嬢さんもカーウェイの奴も、あんたがこんな情けないアヘ顔さらしてケツ穴掘られてた事は知らない訳だ」


 将校の言う通りだ。
スコールは、あの日の出来事は一生心の内に秘め、時間とともに忘れて、なかった事にするつもりだった。
リノアやカーウェイは勿論、幼馴染の仲間達にも、誰にも話すつもりはなかったし、それはこれからも変わらないだろう。

 でも、と将校は愉しげに笑って、スコールの雄に手淫を施しながら言う。


「この写真を見たら、お嬢さんは何て言うかねえ」
「……!」
「カーウェイもな。お嬢さんと仲良くしてるとばっかり思ってる男が、こんな事を“趣味で”やってるなんて知ったら」


 趣味なんかじゃない。
そう言おうとしたスコールの口からは、下腹部から上って来る感覚の所為で、喘ぎ声しか出て来なかった。


「お前が嘘をでっち上げてでも俺達をしょっ引くって言うんなら、こっちも同じやり方で応えてやるよ。お前は“趣味”で男に足開いて、ケツ穴掘られて善がりまくって、金貰ってる淫売だって、大佐にも、ついでにバラムガーデンにも写真ばら撒いて教えてやる」
「ひっ、ふっ、ふざっ…!ふざっ、け、る…あぁっ!」
「ふざけてねえよ。本気だぜ。ついでに、今この場の写真も撮ってやろうか?指揮官様が股開いて、ちんこ勃起させて泣いてる所も一緒にばら撒いてやるぜ」


 ────三ヶ月前の出来事と、今回と。
事件を白日の下に晒されて、公的に痛手を被るのはガルバディア軍だが、それ以上にスコールの痴態がガルバディアとバラムガーデンに知れ渡る事になる。
そうなる事が耐えられないと思ったから、スコールはあの出来事を秘密にしていたのに。
増して、絶対に知られたくないリノアにあの出来事を───それも尾鰭背鰭の噂をつけて───聞かれたら、スコールは金輪際、彼女と逢う事は出来ないだろう。

 蒼白になって行くスコールの顔色を見て、ガルバディア兵達は薄暗い笑みを浮かべていた。
指揮官と言う大層な役職についていても、やはりまだ発展途上の子供。
先回りして逃げ道をなくし、落とし込んでしまえば、簡単に身動きが取れなくなってしまう。
加えて、スコールの頭の回転が早い事も、彼を嵌め込む理由の一つだった。
何をすれば何が起きるのか、最悪の事態を容易く想像出来てしまうが故に、抵抗する事が無意味であり、もっと悪い事態を招く事が判ってしまう。


「判ったら大人しく従うんだな、指揮官様?」


 真っ青になって絶句しているスコールを見て、将校は言った。
絶望に染まった青灰色の瞳から、彼の心情を零すかのように、透明な滴が流れ落ちる。