堕ちる、熔ける、嗤う。 3-1


 抑圧された本能を暴き出すかのように、鋭利な刃物で腹を綺麗に裂かれ、腸を引き摺り出されたような気分だった。
それが比喩でなく事実であったなら、こんなにもプライドを傷付けられる事はなかっただろう───代わりに死が絶対であったとしても。

 傭兵と言う職業である以上、死と言うものは、ごく一般的な生活を営んでいる人間達よりも、遥かに身近にあると言って良い。
戦場に身を置いている時は勿論、バラムガーデンで学んでいる時も、それは同じ事だ。
訓練施設でアルケオダイノスに襲われ、命を落とす生徒と言うのも、毎年幾人か数を数える。
SeeDの実地試験で、魔物や敵兵に襲撃される者もいる。
それらを何処か他人事のように眺めている者も少なくはないが、年に一度の慰霊祭で、いた筈の人間がいなくなったと言う現実を見ると、俄かに冷水を浴びた気分になる。

 死を恐れている者は、傭兵にはなれない。
しかし、死を恐れなくば、生きて帰る事は出来ない。
傭兵であるスコールにとって、現実の死は何よりも忌避すべき事である。
それはプライドや意地の矜持等よりも、余程忘れてはならない事は、判っていた筈だった。

 それでも、死んだ方がマシだ、と思ったのだ。
忘れてしまいたかった、後少しで忘れる事も出来ていたかも知れない過去を掘り返され、一瞬の放心の隙を突かれた。
戦場であれば確実に死んでいたであろうミスだが、スコールにはそれを後悔する暇もなかった。
手足の自由を奪われただけでなく、衣服を肌蹴られ、肌の上を気持ちの悪いものが這い回った。
プライドを捨てて抵抗を止め、気持ちの悪いものが飽きてしまうのを待ったが、その諦念すら別のものに塗り潰されてしまった。

 小さなビンに入った液体が、酷く恐ろしいものに見えた。
過去の自分を壊したのも、それと同じものだったからだ。
二度と見たくないと思っていたものに再び邂逅し、またもスコールは壊された。
文字通り、完膚無きまでに。
プライドも、意地も、諦めも、死を望む思考さえも奪われて、強制された享楽に堕落した。

 いっそ夢なら良かったと、何度考えたか知れない。
その度に己が壊された瞬間の事を無理やり思い起こされて、気持ちの悪いものに取り付かれて、身動きが出来なくなる。
いっそ舌を噛み切ってしまおうかとも思うのに、いつものように声をかけて来る仲間の貌を見ると、それが出来なくなる。

 中途半端に残った理性と現実が、スコールを内側から壊して行く。
壊れた場所から沁み込んでくるものが、辛うじて此岸に留まる自分の足下を、引き摺ろうとしているのが判った。





 今日一日の予定と打ち合わせを終え、訓練作戦が開始されるまでの間、スコールはゼルと雑談をしていた。
喋っているのは大抵ゼルの方で、スコールは合間に僅かな相槌を入れる程度で、積極的に喋る事はない。
ゼルの話は特に決まりや傾向がある訳ではなく、出立前にバラムの街で聞いた噂話であったり、昨夜、就寝前に他のSeeD達から聞いた話であったり、ふと思い出した、或いは気になったと打ち合わせした内容の再確認であったりする。
序に、物知りゼルが顔を出し、どこそこに何々があって、と雑学を披露する事もあった。

 ガルバディア側からの要請で計画された、月の魔物に対する今回の訓練作戦は、今の所順調に進んでいた。
一度や二度ではない確執を持つバラムガーデンSeeDとガルバディア軍であるが、表だって衝突やトラブルは起きていない。
お互いへの陰口や愚痴は其処此処で零れていたが、ガルバディア側は先の魔女戦争への後ろめたさと、依頼と言う形で救助を求めた立場故か、SeeD側はガルバディア側のそうした余所余所しい態度と、現役軍人と半学生と言う差───中には、先の戦争で直接ガルバディア兵と戦ったと言う経験もあってか───所為か、露骨に火種を振り撒く者はいなかった。

 学生傭兵に援護される事について、スコール達が初めに懸念したガルバディア軍の反発も、月の魔物を直接目の前にしてからは杞憂になりつつある。
ジャンクションと言うドーピングを用いてとは言え、SeeDはほぼ生身で月の魔物と渡り合う。
それに対し、ガルバディア軍は大型兵器を用いてようやくと言う体であった。
大型兵器は数が限られる上、先の戦争の煽りもあって、使用する際には多大な制限が設けられている。
それでは出動命令が下ってから動き出すまでのロスが酷く、大型故に複雑な地形になる場所では使えない。
生身で戦う状況を前提とし、兵士一人一人に月の魔物への対処法を熟知させなければならないのだ。
学生傭兵から戦場のいろはを教わる事について、始めは少なからず反発を臭わせていたガルバディア軍であるが、最近ではSeeDの援護姿勢に顔を顰める者は減っている。
各個人での摩擦は少なからずあるものの、それは訓練作戦に支障のないレベルで留まっていた。

 ガルバディア軍が使用する武器について、誰かから聞いたのか、自分で調べたのか、雑学を披露していたゼルだったが、それも尽きると、また次の話題に移る。
スコールは腕の時計を定期的に確認して時間を確かめつつ、適当に相槌を打っていた。


「───にしてもなぁ。いつまでSeeD服着てなきゃならねえんだろ」
「……何だ、今更」


 溜息交じりのゼルの言葉に、スコールは眉根を寄せた。
ゼルはSeeD服の詰襟を摘まんで、首と襟の隙間を広げる。


「いや、な。SeeD服って、着ると身が引き締まる気がするし、あれだけSeeDになりたいと思ってようやくなれて着てるから、嫌いじゃないんだけどさ。あんまり長く着っ放しだと、段々息苦しくなって来るんだよ」
「…否定はしないな」
「だろ?」


 SeeD服は、SeeDにとって制服であり、場面によっては礼服の役目もこなす。
魔物の討伐等の任務なら服装は殆ど自由で通じるが、要人警護等の任務や、ドレスコードが指定される場の警備となると、SeeD服の着用が義務付けられる事も多い。
着用していても戦闘可能なように、一般的な礼服よりも伸縮に強い生地を使用しているので、見た目に反して窮屈さは少ない。
が、そうした場面で着用される事や、身が引き締まると言う気分が長く続くとなると、ゼルの言う通り、精神的な部分で息苦しさを感じるようにもなるものであった。

 バラムガーデンに在籍する生徒の多くにとって、SeeD服は憧れの対象だ。
特に最近は、スコールが指揮官として着用する場面が増えた事もあり、そうした傾向はより一層強くなっている。
スコールもSeeDになる事は自身にとって大きな指標の一つであったし、初めて着用した時は、それなりに気持ちが高揚したものである。
ゼルも同様で、平時とは違う堅苦しさに些か肩を強張らせつつも、嬉しそうに、くすぐったそうにSeeD服を着た事を喜んでいた。
が、魔女戦争後は、人手不足と“月の涙”の影響による依頼の増加により、例年よりもSeeD服を着る機会が増えており、人によっては正しく仕事着と呼べる扱いだ。
指揮官と言う立場に就任されたスコールも同様で、襟詰を緩められる時を待ち侘びている事も多い。

 何より、やはりSeeD服は定められた制服であり、既存の規格と言うものは設定されている。
それぞれが重視する事柄───例えばゼルの場合は、自分が徒手空拳を武器としている点から、専ら動き易さを追求している───で決めた私服と違い、人によっては、若干の勝手の悪さは否めない所があった。

 それでも、今回の依頼が終わるまでは、SeeD服から私服に着替える訳には行かない。


「合同訓練だし、ガルバディア軍は全員軍服だし、こっちもあんまりラフな格好する訳には行かないから仕方ないけど。早く着替えて楽になりたいぜ」
「……同感だ」


 言葉少なに頷くスコールに、ゼルは心なしか嬉しそうに笑う。
今回の長期間に置ける合同訓練に対し、疲れを感じているのは自分だけではないと思えたからだ。
加えて、スコールが少なからず自分に気を許してくれているのが判るのが、また嬉しかった。
指揮官として、良くも悪くも気を張り続けなければならないスコールが、幼馴染で仲間である自分の前では、本音を零してくれるから。

 むず痒くなった鼻頭を掻いていたゼルだったが、ふと、スコールの額に汗が滲んでいる事に気付く。
今日の訓練で利用するエリアは、ガルバディア領にあるディンゴー砂漠だ。
嘗てスコール達が捕えられたD地区収容所からそう離れてはおらず、砂の丘陵の向こうに、薄らとその影を捉える事が出来る。
苦い記憶のある場所だが、それについては今、特に気に留めなかった。
それより、汗の原因になりそうな事と言ったら、砂漠特有の太陽による熱だ。


「スコール。お前、熱中症か何かなってる?」
「……いや」
「そうなのか?でも、汗が凄いぜ」
「……暑いだけだ」
「まあ、確かに暑いけど。お前、そんなに汗っ掻きだったっけ?」


 問うゼルであったが、スコールはそれ以上答えなかった。
そっぽを向くように顔を背けたスコールに、ゼルは早々に言及を諦める。
気を取り直して時計を確認した所で、ゼルは作戦開始まで一時間を切っている事に気付いた。


「俺、ちょっと皆を見回って、一通り準備できてるか確認してくるよ」
「ああ」
「お前は水分取って、涼しい所で待機してろよ。始まる前から指揮官がへばってたら、やっぱり格好付かないからな」
「……ああ」


 スコールの短い返事を聞いて、じゃあな、と手を挙げて、ゼルは駆け出した。

 あっと言う間に遠くなる小柄な影を見送った後、スコールは額に手を当て、長く息を吐いた。
人知らず詰めていた呼吸が俄かに楽になったが、同時に体の力が抜けて、ぞくん、としたものが背中を奔る。
震えそうになる体を唇を噛んで堪え、スコールは揺れそうになる足元を確りと踏むように意識して、歩き出した。

 目の前で話をしていたゼルがいなくなっても、辺りにはまだ人の気配がある。
数日に渡る砂漠の訓練の為に張ったテントの中にも、SeeDかガルバディア兵かは判らないが、誰かが滞留しているのが判った。
それらを出来るだけ意識しないように、意識していると表に出ないように努めて、スコールは足を動かす。
その度に、自身の体に走る歪な感触に眉を潜めながら。

 ぐりゅ、と抉られる感覚に襲われて、スコールの足が止まる。
噴き出した脂汗を拭う余裕もなく、スコールは自身の体を襲う違和感が収まるのを待った。


「……っ……ん…っ!」


 零れそうになる音を、喉奥で押し殺す。
縋るものを求めるように手が彷徨って、スコールは胸元を鷲掴んだ。
ぎりぎりと爪が食い込んで、スコールはその場に蹲る。

 は、は……と短く静かな呼吸を繰り返していた時だった。
さくり、と視界の端で細かな砂を踏む音がして、スコールの視界に影が落ちる。
凸凹としたシルエットは、SeeD服のものではなく、今回の訓練任務で合同で行動している、ガルバディア兵のものだ。


「どうかしましたか、指揮官殿」


 気を遣う言葉に、スコールは何でもない、と小さな声で言った。
しかし、ガルバディア兵はそんなスコールに構わず、震える方を掴んでスコールを立ち上がらせる。


「何でもない事ないでしょう。近くのテントまでお連れしますよ」
「待……っ」


 必要ない、と言おうとする暇も無く、スコールは腕を肩に回され、腰を抱かれる。
細い腰を支える腕が、捕まえるように力を籠めているように感じられて、スコールは逃げを打った。
が、碌に力の入らない体では、回された腕を振り払う事も出来ず、ガルバディア兵に促されるままに、足を動かす事しか出来なかった。

 肩を押されたスコールが辿り着いたのは、テントではなかった。
集合するように張られた複数のテントの隙間で、食糧や弾薬の在庫でも入っているのだろう木箱が詰まれている。
スコールはその一つに上半身を乗せて、ヒクッヒクッと躯を震わせていた。
時折、ビクン、とスコールの躯が強く跳ねて、声にならない悲鳴が喉を突く。


「っあ……!」


 砂の感触を感じる薄いシートの上で、スコールは膝を擦り合わせた。
体を隠すように丸くなったスコールの腕は、自身の股間に延びており、其処にあるものを庇うように掌で緩く掴んでいる。


「あ、あっ…ぐ…!」
「作戦開始まで後一時間、か」


 背後から聞こえた声にスコールが顔を上げれば、ガルバディア兵が二人、にやにやと笑っている。
目深のヘルメットの所為で、兵の顔ははっきりとは見えなかったが、忌まわしい事に、スコールはその声をはっきりと記憶していた。

 一人の兵士がスコールに近付き、自身を抱き締めるスコールの腕を掴んだ。
手首に痕が残る程の強さで掴み上げられて、スコールは顔を顰め、手を振り払おうと腕を捻る。


「離せっ……!」
「なんだ、意外と元気じゃねえか」


 兵士はチッと舌打ちして、スコールの肩を木箱に押し付けた。
太陽の熱で焼けた木板がじりじりと頬を灼くのを感じて、スコールは顔を顰める。
その隙に、カチャカチャとベルトのバックルが音を鳴らし、下腹部の締め付けが緩んだ。


「やめっ…!」
「何言ってんです、此処ビクビクさせてる癖に」
「───ひぃうっ!」


 ぎゅうっ、と下着の上から自身の急所を握り潰されて、スコールは引き攣った悲鳴を上げた。
堪らず上がった自分の声に気付き、慌てて手で口を隠す。

 スコールが硬直したのを良い事に、兵士はスコールの股間を揉むように強弱をつけて握り始めた。
むにゅっ、くにゅっ、と秘部を刺激されて、スコールの太腿がヒクッ、ヒクッ、と痙攣する。


「う、ぐ…んっ…!や、めろ……んんっ…!」
「やめろだぁ?そんな偉そうな事言える立場じゃないでしょう?」


 そう言ってもう一人の兵士が、スコールの眼前に小さな機械を見せる。
掌に収まるサイズの小さなそれは、マイクの仕込まれた小型のレコーダーだった。
スコールの顔が蒼褪め、嫌だ、と小さく頭を振る。
兵士はそんなスコールの表情を見下ろしながら、レコーダーの再生スイッチを押した。


『はひっ、ひぃっ!ひぃいんらめっ、やっ、あぁあっひっ、ひぃいっ!』
『あぁっ、ああぁっ!ひっ、ひっ、あぁああんっ
「や、やめろ、やめろっ!」


 小さなスピーカーから聞こえて来たのは、悲鳴と艶の入り交じった嬌声だった。
まるで女のような甘ったるい声だが、それは正真正銘、スコール自身の声だった。
一週間前、SeeDとガルバディア軍の合同訓練作戦が始まった日に録音された、スコールにとってあるまじき痴態を記録したものだ。

 あの日の記憶が、悪い夢であったなら。
誰にも知られないまま、いつか忘れて、忘れた事さえ忘れてしまえたなら。
何度そう思ったか知れないスコールだったが、記録に残されている上、記憶を呼び起こすように聞かされる声に、願いは脆く崩れ去る。


『あぁあああっ!イくっイくっ……!出るぅぅぁああぁぁあっ
「……っ!!」


 記録された音声がいつの瞬間のものなのか、スコールには判然としない。
ただ、その声が紛れもなく自分の出したものだと言う事だけは判っていた。

 蒼褪めていた以上に、羞恥と屈辱で真っ赤になって唇を噛むスコールを見て、兵士は脂の下がった目で笑いながら、レコーダーの再生を切った。
くつくつと喉を笑わせながら、兵士はレコーダーを手の中で遊ばせる。
その小さな機械を壊してしまいたいと何度目か知れず思うが、その感情のままに行動を起こす事は出来なかった。
何故なら、あれ一つを壊した所で意味がない事も、壊せば尚更事態は望まぬ方向へと転がるのが判り切っていたからだ。


「う…く……うぅっ……」


 未だ股間を揉まれる感覚に、スコールは肩を震わせながら耐え続ける。
まかり間違っても、録音されているような声は出すまいと、スコールは薄皮膚が破れる程に強く唇を噛んでいた。

 スコールが抵抗を諦めたのを見て、二人の兵士は満足げに嗤う。


「そんじゃ、ちゃっちゃと済ませますか」
「作戦一時間前だしな。遅刻しないようにしないと」


 だったら最初からするな、と喉まで出かかった言葉を、スコールは寸での所で飲み込んだ。

 下着がずり下ろされて、ズボンと一緒に膝に引っ掛かって絡まる。
じりじりと痛い程の熱を孕んだ日射が、白く引き締まった臀部を照らすのを見て、ひゅう、と口笛が鳴った。
尻のラインを確かめるように撫でる指に、スコールは喉の奥で息を飲み込む。


「さぁて、今日はどんな具合だ?」


 谷間の間で慎ましく閉じている蕾に、指先が触れる。
ビクッ、とスコールの腰が震えて、スコールは体の反応を抑え込もうと、木箱に額を押し付けた。

 くぷ……と指がスコールのアナルの口を押し開き、中へと潜り込んで行く。
何度経験しても慣れない───慣れたくもない───異物感に、スコールの眉間に深い皺が浮かぶ。
侵入者を拒むように、直腸の壁が指を追い出そうと道を閉じ、ぎちぎちと指を締め付ける。
腰の戦慄きと連動するように、ヒクヒクと伸縮を繰り返す入口を、無遠慮に覗き込む視線を感じて、スコールは顔から火が出そうだった。


「相変わらず締め付けすげーな」
「ちょっと解さないと入らないか?」
「そうだなー」
「……っっ!」


 スコールの中で、埋められた指が動き出す。
関節を曲げ、壁縁を擽るように指先で擦られ、スコールの躯が震えた。


「ちょぉっと力抜いてくれませんかねぇ?」
「……んぅっ…!」


 秘部の中を掻き回されながら、会陰を押され、スコールは鼻にかかった声を漏らす。
太腿と膝を擦り合わせるスコールだったが、剥き出しにされた陰部は隠せる筈もなく、男達に好きに蹂躙されるしかなかった。

 締め付けが解けないままにも関わらず、兵士は指を激しく抜き差しし始めた。
ぬちっ、みちっ、と絡み付く肉壁を強引にふり解きながら、閉じた道をずんずんと突き上げる。
前後に激しく出入りする異物の感触に、スコールは身を縮こまらせて、聲を殺して耐え続けた。


「っ…ふっ…ぐっ……!うぅっ……!」


 閉じた道の奥を強く突かれる度に、殺し切れない苦悶の音が零れる。
しっかりと着込んだSeeD服の中で、汗ばんだ躯が蒸れ始めているのが判った。
後でインナーだけでも着替えないと、作戦訓練の時に気持ち悪くなってしまう───と、酷く冷静にこの後の事を考えている自分が、この環境に慣れ切ってしまったように思えて、スコールは心の底から嫌悪した。

 木箱に爪を立て、悔しさを殺すしかないスコールの胸中等、抑えつける男達にはまるで関係ない。
彼等は自分の欲望を満たす事だけが目的で、スコールの都合などどうでも良いのだ。

 間接一つと半分が精々だった指の侵入は、次第に深くなり、根本まで挿入が可能になった。
肉壁は相変わらずみっちりと絡み付いて指を締め付けているが、耕されるように繰り返し突かれる内に、奥への道を開いてしまっている。
づぷっ、と根本まで一気に挿入されて、スコールの背が撓る。
ぶるぶると震える躯を見下ろしながら、兵士は指をぐるぐると回転させ、狭い道を更に広げようとしていた。


「う、く……ふぅっ…ん、うぅ……!」
「そろそろかな〜。ってか、時間がないから、もう良いよな」
「────んぅっ…!」


 ぐちゅぐちゅと秘部を掻き回していた指が、ずるっ!と唐突に抜けた。
肉ヒダを最奥から入口へと引き摺られる感覚に、スコールは上がり掛けた悲鳴を噛んで飲み込む。

 スコールのアナルは、ほんのりと赤く色付き、入口を開け閉めを繰り返している。
兵士が人差し指と中指で孔を挟み、皮膚を引っ張ってやると、くぱぁ、と口が広がった。
熱の篭った其処に、ひゅうひゅうと外気が滑り込んで、スコールの躯が震える。


「おー、今日も良い感じじゃねえか」
「…や……見る、な…あ…っ」
「ケツ穴ヒクヒクさせちゃって、指揮官殿はエロいねぇ」


 広げられた穴を隠そうと身を捩るスコールだったが、股間の陰嚢をぎゅうっと握られて、痛みに躯が強張った。


「…う、う……」


 顔を顰めるスコールに構わず、男達は自分のベルトを緩め、下肢を寛げた。
ぼろりと顔を見せた男達のペニスは、グロテスクな色と形で、頭を天に向けている。

 戦場に身を置いた兵士が、昂ぶりから生理現象を起こす事は珍しいものではなく、それを治める為に同性で性交に及ぶと言う話もざらであった。
まだ若い新兵が、合意か否かに関わらず、そうした野獣の餌食になるのも、聞く話だ。
だが、それがこんな形で自分に向けられる事になろうとは、スコールとて思いもしていなかった。
剰え、拒否権も主導権も完全に奪われ、好き放題に凌辱される事になろう等と、考えた事もなかった。

 一物がスコールのアナルに押し付けられ、どくどくと伝わる脈動に、スコールの腰は無意識に逃げを打った。
その細腰を両手で確りと掴まれ、固定される。
ぐぅっ、と狭い孔を押し広げられる感覚に、嫌だ、と叫びそうになるのを堪えて、スコールは来るであろう痛みに耐えるべく、歯を食いしばった。