好奇心に猫は鳴く


 バッツは好奇心が旺盛だ。
旅人の性なのか、生来の性格から来るものなのかは、スコールには判らない。
スコールが認識している常識の中で、旅人と呼べるようなものは具体的な職業には当たらない、と言う印象があった。
貴賤を言う訳ではないが、行商人や大道芸人と言われた方が、職業として成り立っているように思う。
言い方を変えて、冒険家、と呼ぶのであれば、まだ判らないでもない。
ただし、そう言う人は根無し草の旅路を行く訳ではなく、標高の高い山を制覇するとか、敢えて困難なルートを利用して、前人未到の偉業を成し遂げようとする人を指すから、やはりバッツのような“旅人”とは定義が異なる気がする。

 そもそも、スコールの認識として、旅をするのにチョコボ一匹の背に乗って大地を駆け行く、と言う光景が思い浮かばない。
スコールの場合、遠出と言えば電車や車と言った公共交通機関の利用が当たり前であり、海上を行く船も、オール漕ぎや帆船ではなく、機械やコンピューター仕掛けで動くものが普通だった。
チョコボはいるにはいたと思うが、絶滅危惧種だったような気がする。
乗った記憶はあったものの、それもかなりの僻地での話で、人里の付近で見掛ける事は滅多にない。
これらはバッツが標準としている認識とは著しい差があるので、やはり、“旅人”と言うものについてスコールが想像を巡らせるには、想像力の差は否めない。
人は、自分の知らないものについて、想像する事は出来ないのだ。

 知らないものに出会った時、人が見せる行動は様々である。
スコールの場合、先ずは警戒心が生まれる。
幼い頃から傭兵として訓練されてきたのだから、無理もないだろう。
知らないもの、知らなかった情報と言うものは、状況に予測不能な可能性を与えるから、自身の生存確率を1%でも上げるには、そうした不確定要素は出来る限り避け、遭遇したならば可能な限り不測の事態に反応出来るように警戒するものだ。
この感覚は、軍属であったクラウドやセシルにも見られるもので、何かと反りの合わないウォーリア・オブ・ライトも同様の見解が得られた。
幼いながらに機知に飛んだルーネスも、正体の判らないものには迂闊に近付くべきではない、と言う意識を、当然のものとして持っている。
彼らに限らず、この世界に召喚された多くの戦士は、大なり小なり差はあるとは言え、秩序も混沌も関係なく、そうした行動意識を持っていた。

 対してバッツの場合、警戒心は漏れず持ってはいるものの、それ以上に好奇心が上回る場合も少なくない。
その好奇心の裏側には、判らないものを判らないままで放置するよりも、早期に正体を見極める為と言う理由もある───バッツが自分で言っていた事なので、スコールにはどうも言い訳染みているように聞こえるのだが───が、それにしても、好奇心を優先しすぎやしないだろうか、と思う事は少なくない。
動物的な勘なのか、一人旅を長く続けた経験則か、超えてはならない一線と言うものを踏む事は不思議と無いのだが、それにしても子供染みた行動が多い。
緊急事態には大概の事は自己処理で済ませているのが幸いだろうか。
その緊急事態に度々巻き込まれているスコールとジタンにとっては、堪ったものではないのだが、それでも彼を憎めないのがまた悔しい。
あっけらかんとした顔で「いやー、悪い悪い」と言う彼の背中を、ジタンと共に蹴った事は、一度や二度ではないけれど。

 こうしたバッツの好奇心は、この世界で過ごす日々の中で、度々お目にかかる事が出来る。
殆どは歪の見回りをしている時や、混沌の大陸方面の斥候の道中での事だが、偶に秩序の聖域でも発露される。

 聖域には女神の力を借りて用意された屋敷が建てられており、秩序の戦士達の拠点となっている。
各人に一つずつ用意された私室には、それぞれの趣味趣向品が持ち込まれている事もあり、その中には、各人の世界から紛れ込んだのであろう物も置かれていた。
スコールの部屋にあるトリプル・トライアドや、『月刊武器』と言った雑誌類がそれである。

 スコールと同等レベルの文明の発達が見られるティーダやクラウドの部屋にも、雑誌類は多く置いてあった。
スコールの場合は月刊武器くらいしか置いていないが、ティーダはスポーツ雑誌とファッション雑誌、クラウドはバイク雑誌を中心に他様々なものを持ち込んでいるらしい。
どれも自分が一度は目を通した雑誌ばかりで、目新しい記事がある訳でもなく、参考にした所で生かす術もないのだが、暇を持て余した時の読み物としては役に立っていた。

 この“雑誌”と言うものは、様々な内容が記された書物である。
『月刊武器』は主に武器類を紹介している雑誌だが、その発行には多様な費用と手間がかかっており、大量生産して一冊当たりのコストを下げ、大量頒布する事で費用の回収と利益を上げている。
印刷代は、本の仕様によって安価なものから高価なものまで様々であるが、その際に負担せねばならない費用を僅かでも軽減する手段として、広告スペースを設ける方法がある。
雑誌を作るにあたり、一定の費用を負担してくれるスポンサーを募り、そのスポンサーが売りたい商品の広告を雑誌に載せる、と言うものだ。
それには雑誌のカテゴリとは全く関係のないものが載せられる事も少なくない。
雑誌によってある程度の購買層を前提とした商品を広告に載せる傾向はあるが、意外な点から購入者が増える事もある為、認知度を拡げる目的もあって、雑誌の広告ページと言うのは、企業にとって強ち馬鹿には出来ないものであった。

 そんな広告ページの中には、明らかに性的な扇動を目的とした代物もあったりする。
それは仄めかす程度であったり、露骨であったり、時にはふざけていたりと様々だ。
中には、ファッション雑誌である筈なのにアダルトグッズを堂々と広告ページに載せていたり、出演しているモデル達が子供が玩具で遊ぶような、冗談半分でグッズを使用している場面が載せられている事もあった。
そう言う事に抵抗を覚えない───少々偏見的な言い方であるが───者が主な購買層なのかも知れない。
人によっては不快に思うような広告が載せられる場合もあるが、余りにもそれが顕著な場合は、読者からクレームが来る事もあった。
広告業も匙加減が難しい所だ。
こう言うものを逐一持ち出して、若者の性の乱れが、と喚いている大人がいたな、とスコールは朧な記憶を思い出していた。

 スコールが持っている雑誌にも、こうした広告ページは僅かではあるが挟まっている。
ティーダやクラウドが持っている雑誌も同様だ。
別にそれを見てどうこうしたいとは、スコールは思っていない。
そもそも広告ページは邪魔だと思うタイプだ。
武器だけを眺めてのんびりとしている時に、名前も知らないモデルが、変な構え方をしているのを見ると、眉間に皺が寄る。
バトルなんてした事がないであろうモデルに、バトルの定義に則った形を求めても意味がない事は判っているが、そう言うのを見るとスコールは興覚めしてしまうのだ。
だから広告ページをじろじろと眺める事もないし、広告を目的とした企画ページなんてものも、殆ど見る事はなかった。

 だから、知らなかったのだ。
その中に、彼の好奇心を刺激するような物があるなんて。




 風呂上りのスコールを部屋で待っていたのは、バッツだった。
鍵はかけた筈なのに、と思うのはいつしか止めた。
バッツの手腕を持ってすれば、閂施錠などと言うものは、殆ど意味のないものなのだろう。
とは言え、勝手に自分の部屋に他人が上がり込むと言うのは、スコールには中々許容し難いのも事実───と思いきや、案外とスコールはこうした事態に慣れていた。
なんだか以前にも、こうやっていつの間にか部屋の中に入り込まれていたような気がする。
幸い、バッツにしろジタンにしろティーダにしろ、勝手に室内を漁るような真似はしていないので、単純に出入りだけなら(荒らさなければと言う前提はあるが)好きにさせている。

 濡れた髪をタオルで拭きながらドアを開けたスコールに、バッツは「よっ」と片手を挙げて挨拶した。
その逆の手には、スコールの世界のものと思しき、ファッション雑誌がある。
バッツは少し前から、各人の世界の雑誌や書物に散見される衣装や装備の違いと言うものに興味を示していた。
所変われば品変わる、と言うのを旅人である彼は重々知っているのだが、世界が違って変わる品もあれば同じ品もあると言う事にも気付いてから、そうしたものを探し回るのが楽しいらしい。
お陰で最近のバッツは、ティーダやジタンが賑やかにしている時でも、書物に没頭している事があった。
今日もそんな一日を過ごしたバッツは、最後にスコールの持っている雑誌に目を付けたらしい。
挨拶を済ませて本に視線を戻したバッツの横顔は、存外と真面目な雰囲気を醸し出している。


(……邪魔はしない方が良いな)


 じっと静かに読書に耽るバッツ。
なんだか見慣れなくて少し落ち着かなくなりそうだが、反面、彼らしくない静けさは、スコールにとっても邪魔にならない。
バッツが座っているのはベッドの端なので、スコールが寝転んでもお互いにスペースを取り合う事もあるまい。

 スコールは髪を吹き終わると、タオルを椅子の背凭れに放って、ベッドヘッドの明かりをつけた。
部屋の電気を消すと、目元が暗くなったバッツが「おっ」と声を上げる。
ベッドヘッドの明かりはついているが、ベッドの足元の方に座っていたバッツの場所までは届いていないのだ。


「スコール〜」
「……こっちに来て良い」


 ベッドヘッドに近付いて良いと言うスコールに、「さんきゅ!」とバッツはいそいそと移動する。


「読み終わったら、消して帰れよ」
「うん。ありがとな」


 部屋で読め、と追い出されない事に、バッツは嬉しそうに笑う。
スコールはそれから目を逸らすように、壁に向かって体を丸め、毛布に包まった。

 眠るには頭の上の明かりが少々煩わしかったが、部屋全体が明るいよりは良い。
体も今日一日の疲れで適度に怠いので、目を閉じていれば、直に眠ってしまえそうだ。
背後のバッツの存在も、こう静かなら大して気にはなるまい。

 ぱら、ぱら、とページを捲る音がする。
それ以外には、時折、スコールが身動ぎしてシーツの滑る音がする位で、本当に静かなものだ。
ふとスコールは、背後に座っている男は本当にバッツなのだろうか、と思った。
空気を読めないようでいて、全体の空気を把握する事に長けているバッツは、その時々の自分がするべき行動と言うものを弁えている節がある。
子供のような言動さえも、時折、全て計算尽くの行動なのではないか、と思える時もある程だ。
そう言う時、スコールは、こいつは本当にバッツなのか、と思ってしまう事がある。

 スコールは肩越しにバッツを見た。
見えるのは赤茶色の髪だけで、背中を向けている彼の表情は見えない。
出来るだけ音を立てないように静かに寝返りを打って、体をバッツの方へと向けてみる。
光の陰から、微かに彼の目元が見えた。
バッツはじっと本へと目を落としており、見つめるスコールの視線には気付いていないようで、振り返る様子もない。

 本を読んでいるバッツの表情は、真剣そのものだ。
そんなにも彼が夢中になるような事柄が、あのファッション雑誌に書いてあっただろうか。
スコールにとっては有り触れた普通の内容だが、生きてきた常識が違うバッツには、新しい発見か、若しくは彼ならではの観点があるのかも知れない。
だが同時に、旅人として世界各地を放浪していたと言うのなら、今更目新しい発見と言うのも、中々ないのではないだろうか。
”旅人”と言う概念すら曖昧にしか想像出来ないスコールは、そんな風にも思う。

 ───と、そんな事を考えて、じっと彼の目元を見つめていた時だった。
ふ、とその瞳が動いて、肩越しにスコールを見る。
褐色と蒼が交じり合って、スコールは一瞬、バッツが自分を見ている事にすら気付かなかった。
それ程までに、スコールはバッツの真剣な瞳に心を奪われていたのである。


「起こしちゃったか?」


 バッツがそう声をかけた事で、スコールはやっと彼が自分を見ている事に気付いた。
はっと我に返って、スコールはやや時間をかけて彼の言葉を理解した後、いいや、と首を横に振る。


「まだ寝ていなかった」
「寝れない?」
「…そう言う訳でもないが、まだ然程眠くはない」


 体の疲れは否めないまでも、起きているのが辛いと言う程ではなかった。
そう言うと、そっか、と言ってバッツは体ごとスコールへ向き直った。


「じゃあさ、ちょっと付き合ってくれるか?」
「……こんな時間にか?」
「こんな時間だからだよ」


 何処かに出かけるのか、と首を傾げるスコールに、バッツはにかっと歯を見せて笑う。


「これ、一回試してみたいなって思ってさ」
「試す……?」


 何を、と問うスコールに、バッツが見せたのは、今まで彼が読んでいたファッション雑誌だった。
開かれたページには、『企画コーナー』の文字が大きく印字されており、趣旨説明を見ると、どうやら読者の体験談を元に、出演者が同じ事を試してみると言う内容だった。
スコールの目が判り易く胡乱になった。
こう言うものは、大抵、碌でもないか、どうでも良いものなんだよな、と思いつつ、今回の企画のタイトルを見てみると、


『潮吹きってこんなにキモチイイ!?一回吹いたらヤミツキで止まらな〜い!』


 スコールは絶句した。
若い購読層───それも年齢で言えばまだ二十に至らない者も含む───向けのファッション雑誌の企画コーナーに、こんなものが採用されていようとは。

 確かにこの雑誌を読む者は、性的な事に興味が尽きない、或いはそれを覚えて間もない年齢であろう。
そう言う者を捕まえ、定期購読者を増やす目的でも、エロスを意識した企画コーナーが作られるのは判らないでもない。
しかし、こうまで露骨な内容が編集を通って良いのだろうか。
記事の中では裸らしい裸はなく、服を着たまま性交時のポーズのみを掲載しているが、書き散らされた文面は露骨に性を煽っている。
こんな企画のページが、袋綴じでも何でもない状態で販売されているのを見たら、「若者の性が乱れている!」等と言い出す大人が出てくるのも無理のない話か。

 そんなページを爛々と目を輝かせて見せてくるバッツに、スコールはくらりと目眩を覚えた。
彼が如何にも真面目そうな顔をして、こんなエロ企画を読んでいたと言うショックも大きい。
どうせならもっと別の、怪しい売り文句を書いたコスメ用品にでも興味を持ってくれた方がマシだった。


「あんたな……」
「スコールはした事あるか?この潮吹きって奴」
「ある訳ないだろ!」


 堪らずスコールは起き上がってバッツの顔を枕で殴る。
羽毛の枕でばふばふと殴った所で大して痛くもなく、バッツは全く動じない様子で続ける。


「じゃあ一回試してみよう。凄く気持ち良いって言ってるしさ」
「絶対に嫌だ。そもそも、それは女がするものじゃ……」
「いや、男も出来るんだって。此処にやり方書いてある」


 そう言ってバッツが指差したのは、企画コーナーの端隅の記事だった。
番外編と銘打って『女ばっかり気持ちイイのズルイ!オレたちだって気持ちよくなりたーい!』と、如何にもバカバカしいタイトルが綴られている。
ご丁寧に手順まで記述されており、『これで君も潮吹きニスト!』と言う、意味の判らない煽りまで書かれていた。

 掲載された読者からの投稿にも、潮吹きは気持ちが良いだの、もう止められないだの、癖になっちゃうだのと書いてある。
スコールが絶対に目を通さない、通しても馬鹿のする事だとさっさと閉じてしまうような内容だ。
見ていられない、とスコールは雑誌をバッツの腕ごと押し退かして遠避けた。


「そんな下らないもの、真に受ける奴があるか。ふざけてないで、さっさと寝ろよ」
「下らないかどうかは、やってみなくちゃ判らないだろ?」
「……」


 至極真剣な顔をして言うバッツ。
そう言う台詞は、もっと違う場面で聞きたかった、とスコールは思った。

 深々と溜息を吐くスコールを横目に、バッツは雑誌をぽいと投げた。
空になった手がスコールの頬を撫でて、バッツの顔が近付いてくる。
今の流れで受け入れる訳にはいかない、とスコールはバッツの顔を両手で押し退けた。


「ぶっ」
「帰れ」
「良いじゃん。一回だけ」
「何が良いんだ、何が!」


 尚も顔を近付けて来ようとするバッツを、スコールは腕の力で押し返そうとする。
しかし、ガンブレードや両手剣はいざ知らず、バスターソードすら片手で振り回すバッツに、スコールが腕力で敵う筈もなかった。
顔を押していた腕を掴まれ、ベッドへと縫い止められる。
直ぐに足でバッツの腹を蹴るスコールだったが、予測済みだったのだろう、腹筋に力を入れてガードされてしまった。
この、とスコールは苦い顔で睨むが、バッツはにっかりと笑って、唇を重ねる。


「んぅ……っ!」


 侵入を拒んで真一文字に噤まれたスコールの唇を、生暖かいものが這う。
下唇の形をなぞるそれがくすぐったい。
スコールはふるふると首を横に振って拒否を示すが、両腕を捕まえる手に一層の力が籠るのみであった。

 鼻での呼吸を忘れ、息苦しくなってきたスコールの口元が緩むと、すかさずバッツの舌が滑り込む。
逃げる舌を絡め取られると、ちゅく、と言う音が耳の奥で鳴った。
バッツの舌先で、舌の奥をくすぐるように舐められて、ぞくぞくとしたものがスコールの首の後ろを駆け抜ける。


「んん……っ」


 息苦しさも増して、スコールの眉間に深い谷が浮かぶ。
バッツは咥内の天井を一舐めして、スコールの唇を解放した。
ぞくん、とした感覚に襲われた後、スコールは赤らんだ顔で、はあ、はあ、とリズムの細かい呼吸を繰り返す。
それが少し落ち着いてくると、涙の浮かんだ目尻にキスが落ちて、また唇が塞がれた。


「う、ん……んっ……!」
「ん……」
「…ふ、ぅ……っ」


 咥内を撫で回されて、スコールの体がピクッ、ピクッ、と反応を示す。
明らかに官能を拾い始めたと判る様子に、バッツの目が悪戯さを増した。

 身長の割に存外と大きな手が、スコールの両手首を一まとめにし、頭上へ縫い付ける。
開いた右手がスコールの頬を撫で、首筋を辿った。
喉仏の当たりをソフトタッチの指先でなぞられ、「んんぅっ」とくぐもった声が零れる。
指はそのままスコールの襟元まで下りていき、浮き上がった鎖骨を撫で、更に下へ。
シャツの上を撫でてヘソの位置まで下りてくると、やわやわと薄い腹筋を揉むように触られた。
ただ撫でられているだけなのに、腹の奥や下腹部にじわじわと熱が生まれてくるのを感じて、スコールの足がもぞもぞと落ち着きなく身動ぎする。

 シャツの裾が捲られて、バッツの手が中へと入ってくる。
スコールは口付けを強引に振り解いて、バッツの名を呼んだ。


「バッツ!」
「んー?」


 明らかに怒気を含んだスコールの呼ぶ声にも、バッツはまるで動じない。
シャツが胸の上まで捲り上げられ、少し荒れたバッツの手が、スコールの肌を撫で回している。
その手は時折胸の頂を掠めて行き、其処が僅かずつ固く膨らんで行くのを楽しんでいるようだった。


「バッツ!止めろ!あんな事、絶対やらないからな!」
「大丈夫、大丈夫。痛い事とかはしないから」
「信用できるか!あんなもの真に受けて、んっ!」


 喚くスコールの言葉を遮ったのは、スコールの胸を摘まむバッツの指先。
膨らんだ蕾を親指と人差し指で挟んで、捏ねるように愛撫して快感の種を巻く。


「バッ…ツ……っ」
「一回だけだから」
「嫌だ……っ!」
「出来なかったらそれで良いし。そしたら、もう二度としようなんて言わないから」


 試してみたいだけだから、と言うバッツに、スコールの眉間の皺は深くなって行く。
胸からじわりじわりと広がっていく感覚に、スコールは唇を噛みながら言った。


「そんな、に…したいなら……っ、あんたが、すれば……っ」
「おれが潮吹きしたい訳じゃないし。スコールがしてるのが見たいんだよ」
「あんた、の、自己…満足、に……んんっ…!巻き込む、な……あっ…!」
「大丈夫、出来ても出来なくても、スコールの事はちゃんと気持ち良くしてやるからさ」


 その言葉は、慰めなのか、宥めなのか。
いずれにしても的がずれている、と睨むスコールだったが、バッツはこれも気にしなかった。
子猫を宥めるようにバッツの舌がスコールの目尻を舐めて、頬にキスが落とされる。
胸に置かれた手は相変わらず悪戯をしていて、コリコリと固くなった乳首に爪先を当てて遊んでいた。


「う…ん…っ!くぅ……っ」
「手、離していいか?」


 未だスコールの両手首を戒めている、バッツの手。
そろそろと解かれると、スコールは枕の端を握り締めた。
殴ってやっても良かったが、もう抵抗するのも面倒だったし、バッツの好きなようにさせた方が余計な疲労を生まないで済む。
断じて、潮吹きの実験対象にされる事を許した訳ではないので、事が終わったら一発殴ってやる位には考えているが。

 スコールが仕方がない、と自分の我儘を許してくれた事は、バッツにも理解できた。
ありがとな、と嬉しそうに耳元で囁かれ、かかる吐息にスコールの肩がピクッと震える。


「ん……っ」
「む」
「あっ……!」


 耳元の吐息に唇を噛んでいたスコールを横目に、バッツは柔らかな耳朶に甘く歯を当てた。
固いものが鍛えようのない場所を捉えて、反射的にスコールの体が縮こまる。
それを、怖くない、とあやすように、バッツは噛んだ耳朶をそっと舐めた。

 耳元でぴちゃり、ぴちゃり、と水音がするのを聞きながら、スコールは両の胸をまさぐられるのを感じていた。
既に固くなっていた左側の乳首が、人差し指の腹でクリクリと圧し潰される。
触られていなかった右側は、刺激を貰っていないにも関わらず、ぷっくりと膨らんでいた。
それを摘まんでクイッ、クイッ、と引っ張られ、伸びきった所から離される瞬間の刺激に、頭上で枕を握るスコールの両手に力が籠る。


「ふ…う……っ、んっ……」


 引き結んだ唇から零れるスコールの声には、甘味が含まれている。
バッツはその事に気分を良くしながら、胸を弄っていた手を下していく。
臍の真横を通る時、ピクッ、と薄い腹筋が震えたのが判った。

 バッツの手がスコールの下着の中で潜り込んでいく。
バッツが触れたスコールの中心部は、既に頭を持ち上げており、じっとりとした汗を滲ませていた。
それを片手で包み込んで、竿を万遍なく上下に扱いてやれば、スコールは頭を仰け反らせて、はくはくと唇を戦慄かせる。


「は…っ…!あ…っ、あ……!」


 ぎゅう、と枕を握る手が僅かに白む。
引き締まった太腿が震えた。
膝を押して足を開くように促すと、スコールは僅かに抵抗する素振りを見せたものの、亀頭の天辺を指先でグリグリと苛めてやれば、


「ふあっ、あっ♡あぁ…っ!」


 びりびりとした電流のような痺れに、スコールの体が震えて力が抜ける。
その隙にバッツはスコールの膝を割って、開いた足の間に自分の体を入れた。

 バッツはスコールの尻を膝に乗せて、下半身の位置を高くさせる。
スコールの背中がベッドから僅かに浮き、バッツに下腹部を差し出す格好にされて、頬に朱が混じる。
しかし、スコールが羞恥心に囚われている暇はなかった。
勃起したペニスをバッツに扱かれ続けて、ぞくぞくとした快感が絶えず腰回りを襲い、じわじわと昇ってくる射精感に上半身を捩って悶える。


「う、あふっ、ああ…っ!バ、ッツぅ…っ!」
「我慢しないでイって良いぜ、スコール。それから潮吹きらしいから」
「はっ、ひっ♡んぁ…っ、あ、あ、ああ…っ!」


 バッツはスコールの雄を扱きながら、空いている手でスコールの会陰をくすぐった。
ビクン、とスコールの体が一際大きく跳ねるのを見ながら、ペニスの裏側の根本を親指と人差し指で挟む。
皺の集まっている根本を爪先で擦られ、スコールは足先を縮こまらせながら、いやいやと頭を振った。


「んっ、んぅっ!う、ふぅんっ♡や、め……っ」
「こっちの方がイき易いかな」
「ひぅんっ♡」


 ペニスより下の位置で、ヒクヒクと震えていたスコールのアナルに、バッツの指が潜り込む。
先端を難無く咥え込んだ其処を、バッツは指を回転させて肉壁を擦りながら、奥へと侵入を深めていく。


「ふぁ、あ、あ…!バ…あっ、ふぅ…っ♡」


 縋るように締め付ける媚肉の感触を楽しみながら、バッツはスコールの中を犯して行く。
時折、虫が這うように指の関節を曲げ伸ばしして、肉床を撫でてやれば、スコールの腰がビクンッ、ビクンッ、と跳ねる。


「ああっ、んぅ……っ♡ふ、くぅっ…!」
「スコールのちんこ、イきそうだ」
「う、う♡んっ、んっ…!ふ、うぅ……っ!」


 バッツの言う通り、スコールのペニスは大きく膨らんでおり、先端から先走りの蜜が溢れ出している。
直ぐ其処まで来ている射精感に、まだ自分を預けるに至らないスコールは、枕を抱えるように手繰り寄せて、顔を埋めた。
顔が見えないよ、とバッツは言ったが、スコールに応じる余裕はない。

 ペニスを扱いていたバッツの手が、亀頭を包むように握って、細かく食指を動かしながら亀頭を揉み込む。
入口まで来ている劣情を絞り出そうとしているのだ。


「ふっ、ふぅうっ♡バッ、ん♡んんーっ♡」


 枕に爪を立ててくぐもった喘ぎ声を上げるスコール。
もう少し、とバッツは確信した。
その”少し”をこじ開けるのも、バッツにとっては容易い事だ。

 アナルの中に入れた指が、根本まで入った。
中程を少し通り過ぎた所まで入った指を曲げて、指先で肉壁を押し引っ掻くように、ぐるぐると円を描く。
くちゅくちゅと言う音が響き始めると、スコールの体が一際強く戦慄き、


「うっ、んっ!んんぅうううううっ♡」


 ビクンッ、ビクンッ、と下腹部を痙攣させながら、スコールは射精した。
亀頭を包んでいたバッツの手の中に、びしゃっ、と白濁液が叩きつけられる。

 絶頂した体は、それまで以上に敏感になっている。
その体を、バッツは続けて苛め始めた。


「あっ♡やっ♡バ、バッツ、待っ♡ひぃっ♡」


 射精の煽りで僅かに痙攣するように震えている内肉を、バッツの指が掻き回している。
スコールの精液で滑った掌が、萎えたペニスをまた握り、上下に扱き始めた。
いつもなら僅かな休息を与えられる筈のタイミングだっただけに、局部から襲う快感の連続に、スコールは目を白黒させて喘ぐ。


「バ、バッツ、はなっ♡はなしっ♡んひぅっ!」
「イった後が潮吹きし易いんだってさ」
「あ、あ♡や、だぁっ♡し、扱く、なぁっああ♡」


 射精の後で弛緩しかっている体は、与えられる快感に対して、無防備になっていた。
ぬるぬるとした精液を塗るように扱かれるペニスは、あっという間に固さを取り戻して行き、バッツの手の中で膨らみ始めている。
指を咥え込んだ秘部は、きゅんきゅんとした締め付けを生みながらも、柔らかい。
二本目の指を挿入すれば、スコールは「ふぅんっ♡」と甘い悲鳴を上げて、それを受け入れた。
二本の指で内肉を挟み捏ねるように苛められ、スコールの脚がビクッビクッと跳ねて、バッツの体を太腿で挟む。


「バッ、バッツ、やっ♡ひっ、はうっ、ううんっ♡」
「ちんこビクビクしてるな。またイきそう?」


 バッツの言葉に首を横に振るスコールだったが、射精感は直ぐ其処まで来ている。
イったばっかりなのに、とスコールは自分の体の浅ましさに泣きたくなった。
そんなスコールを気に留めず、バッツはスコールを再び高みまで昇らせていく。


「はっ、やっ、バッツ♡バッツ、ぅ♡や、めぇ…っ!」


 下唇を噛んで、襲ってくる快感に耐えるスコールだが、暴れる事も出来ない体では、碌に我慢する事も出来ない。
また亀頭を包まれ、指をカリ首の凹みに押し付けて揉まれると、声にならない声で喘ぐしかなかった。
尿道口から、ぴゅくっ、ぴゅるっ、と我慢しきれなかった精液が少しずつ吹き出している。
ペニスを汚すその白をバッツの指が拭い取って、ぬちゃぬちゃと音を立てながら、ペニス全体にそれを塗り込んでいく。


「んぅ、うっ、うぅうっ♡」
「ケツの方、もう少し強い方が良いかな」
「ひぃっ♡あっ、あっ♡やめ、や、離しっいぃ♡」


 アナルの奥をグニグニと圧し潰すように指を押し付けられて、スコールは目を剥いた。
秘孔がきゅうっと締まるのを、指が解すように内肉を捏ねる。
スコールの尻の中では、奥が切なく疼き、指では足りない、太いものを求めていた。


「バ、バッツ、もういい、もういいから…っ!あっ、あぁああっ♡」
「待って、もうちょっと」
「やぁ、やだっ、バッツぅっ!もう、ひゃめっ♡ふ♡ああっ♡」


 スコールの訴えを無視して、バッツは恋人を責める手を激しくさせる。
 スコールは力の入らない足を精一杯に暴れさせるが、傍目には悶え捩りながらシーツを弱々しく蹴っている程度だ。
何せ、下半身に碌な力を入れられない。
今迂闊に体に力を入れて暴れたら、募り溜まったものが一気に吹き出してしまいそうなのだから無理もない。

 覚束無い抵抗など、大した効果もなく、スコールの息は余計に上がって行くばかり。
暴れていた足は段々と動けなくなり、太腿がビクビクと痙攣しているだけ。
そうして無防備に晒された淫部を攻められ続け、スコールの喘ぎ声は段々と大きくなって行く。
指を咥えた肉壁も細かく震えて蠢き、スコールの二度目の絶頂が近い事を知らしめている。


「バッツ♡バッツぅっ♡らめっ、ひぅっ♡また、またイっ…あぁ♡」
「良いよ、イって。そしたらもっと吹き易くなるかも」
「や、や、ふく…っ♡ふくのや、やぁああああああっ♡♡」


 潮吹きなんてしたくない、と言うスコールの言葉は、まともな形にならないまま、一際甲高い喘ぎ声に取って変わられた。
ビクッ、ビクッ、ビクッ、と全身を震わせ痙攣させるスコールのペニスから、ぴゅうううっ!と勢いよく透明な飛沫が弾け飛んだ。