握り締める、小さな手


 いつものように兄と姉と手を繋いでガーデンに登校したスコールを待っていたのは、三日前に高等部の教室前で見た男の子だった。


「今日一日、皆と一緒にお勉強する、ティーダ君です。ティーダ君はザナルカンドと言う街からバラムに来たばかりなので、判らない事も多いと思うので、皆、教えてあげてね」
「はーい」


 先生の言葉に、子供達の声が重なった。
スコールも小さな声で返事をして、「よろしくおねがいします」とぺこりと頭を下げる男の子を見る。

 男の子の名前は、ティーダと言った。
北国にあるザナルカンドと言うとても大きな街から、このバラムの島にやって来て、父と一緒にガーデンの寮で過ごしている。
特技はボール投げで、好きな授業は体育。
好きな食べ物は焼き肉で、苦手な食べ物はニンジンとピーマンとブロッコリーと───とにかく、野菜色々。

 ティーダは、クラスで学級委員をしている女の子の隣に座った。
一時間目が始まり、女の子が教科書を見せてあげている。
その様子を、周りの子供達が気になって仕方がないと言う表情でちらちらと伺い、お調子者の男の子は早く話しかけて堪らないのか、うずうずと落ち付きがない。
女の子達は、ザナルカンドから来たんだって、ザナルカンドってどこ、大きな街ってことは都会かなぁ、とひそひそと話をしている。

 スコールは、斜め後ろからティーダを見ていた。
体育以外の授業は苦手なのか、ティーダは難しい顔をして教科書を睨んでいた。
その横顔を見詰めるスコールの脳裏には、三日前、高等部の教室前でレオンに無邪気に話しかけていたティーダの姿が思い出されている。


(お兄ちゃんのこと、知ってるのかな?)


 聞いてみようか。
でも、突然聞いたら迷惑かな。
そんな事を考えている間に一時間目は終わり、授業合間の5分の休憩時間になった。
ティーダはあっと言う間にクラスの子供達に囲まれ、めいめい賑やかなその輪の中に、内気なスコールが入り込む事は出来なかった。





 初等部の昼食は、遠足等の特別な行事がない限り、給食が提供される事になっている。
作っているのは食堂の人達で、毎日栄養士が確りと計画した献立が作られており、四時間目の授業の終わり頃になると、各教室の横にワゴンで運ばれてくる。
その為、空腹を抱えた子供達は、皆給食の匂いに釣られてしまい、授業そっちのけで昼休憩を待ち侘びるようになる。

 スコールのクラスは、授業の間は決まった席で過ごすように決められているが、昼休憩は教室内であれば好きな場所に移動して良い事になっている。
だから昼休憩になると、仲の良い子と一緒に昼食を食べようと、大移動が始まるのが常だった。

 周囲の子供達が大移動を始める中、スコールは教室の窓際の隅に机を移動させていた。
賑やかな事を眺めるのは好きだけれど、その輪に加わる事が得意ではないスコールは、大抵、こうして一人静かな昼食を過ごす。
時々、クラスメイトが声をかけてくれ、一緒に食べようと誘ってくれた時には輪の中に加わらせて貰うのだが、引っ込み思案なスコールは、自ら誰かに声をかける事が出来ない。
今日は皆それぞれに過ごしているようで、スコールに声をかける生徒はいなかった。

 席場所を確保したスコールは、教室の前に並んでいる生徒達の列に加わった。
列の向こうでは、給食当番の生徒達が立っており、列に並んだ生徒達に順番にパンやスープを配っている。
スコールもパンとサラダ、ニンジンのスープ、煮魚の和え物を受け取って、自分の席へと戻った。


(ニンジン……)


 千切りのオレンジ色が浮かんだコンソメスープを見詰め、スコールはむぅと唇を尖らせた。
スプーンを手に取ってスープを掬い、くん、と鼻を鳴らしてみる。

 嫌いなものを先に食べるか、後に残すか。
後に残すと、他のものを食べ終わった後、凄く憂鬱な気分になってしまう。
でも今直ぐ食べる気にはならないし……とスコールがぐるぐると迷っていると、


「ねえ。一緒に食べてもいい?」


 かけられた声にスコールが顔を上げると、太陽のようにきらきらと輝く髪と、海のように真っ青な宝石があった。
ティーダである。


「……え…」
「ダメ?」


 思わぬ事に固まっているスコールに、ティーダは首を傾げて言った。
それに対し、慌ててスコールが首を横に振ると、ティーダは嬉しそうに給食を乗せたトレイをスコールの机に置いた。

 近くにあった席から椅子を借りて座るティーダを、スコールはじっと見詰める。


(なんで?)


 なんで此処なんだろう。
なんで僕なんだろう。
スコールは考えていた。

 授業の間の休憩時間も、沢山の生徒に囲まれていたティーダは、給食も一緒に食べようと沢山のグループから誘われていた。
スコールは、昨日、ティーダがレオンに話しかけていた事から、話をしてみたい───と思っていたのだが、持ち前の引っ込み思案が邪魔をして、声をかける事が出来なかった。
そんなスコールをティーダは見る事もなく、クラスメイトに囲まれて楽しそうに過ごしていたので、昼も皆とお喋りしながら過ごすものだとばかり思っていたのに。

 スコールと向き合って、ティーダは「いただきまーす」と手を合わせた。
ティーダはスプーンを手に取ると、ニンジンの入ったスープを見てむぅと唇を尖らせる。
スコールはそんなティーダをじっと見詰め、


「……ニンジン、きらい?」


 小さな声で訊ねたスコールに、ティーダが顔を上げる。
ティーダはぱちり、と瞬き一つした後で、大袈裟に顔を顰めた。


「ダイッキライ。苦いし、まずいし、おいしくないし」


 べえ、と舌を出して言ったティーダに、スコールがくすりと笑う。


「僕も、ニンジン、きらい」
「おいしくないよな」
「うん」


 スコールがティーダの言葉に頷くと、ティーダがにっかりと笑った。
小さな共通点が親近感になって、二人の心を繋げていく。
 
 ゆっくりとしたスピードで食事を進めて行くスコールに対し、ティーダの食べる速度は早かった。
ぱくぱくと、口の中を飲み込み切らない内に次の食べ物が口の中に入る。
スコールは、喉に詰まったりしないのかなあ、と思いながら、マイペースに食事を続けていた。

 スコールがパンを半分に千切り、もぐもぐとよく噛みながら食べていると、スープを飲み干したティーダが切り出した。


「あのさ」


 ティーダの声にスコールが顔を上げると、ティーダの青色とぶつかった。
なあに、とスコールが首を傾げる。


「えっと……名前、スコール?」


 あってる?と訊ねるティーダに、スコールは目を丸くしたまま頷いた。
どうして知ってるの───と思った後で、三日前に逢った時にエルオーネがスコールの事を紹介していた事を思い出す。
あの時、スコールはいつもの人見知りが発揮されていて、ティーダとは碌に目を合わせる事もしなかった。

 あの時、きちんと自己紹介をしなかったから、今度はちゃんと自己紹介をしなければ。


「ん、うん。スコール。んっと……よろしく、ね」
「うん。よろしく、スコール!」


 もじもじと小さな声で精一杯の自己紹介をしたスコールに、ティーダは真夏の太陽のように眩しい笑顔で言った。

 ティーダはぱくりと煮魚を口に入れて、もぐもぐと噛んで飲み込む。
スコールも煮魚を解して、ぱくりと口の中に入れた。


「バラムの魚っておいしいな。色もキレイだし」
「うん。ザナルカンドの魚も、おいしい?」
「うん。食べた事、ある?」


 ふるふる、とスコールは首を横に振る。
生まれも育ちもバラムの島であるスコールにとって、魚と言ったら、バラム島の近海で獲れるものばかりだった。
他国の魚は、輸入物として市場や鮮魚店に並ぶ事はあるが、レオンがそれらを余り買わないので、スコールは異国の魚の味を知らない。

 ティーダはスプーンでニンジンを左右に避けて、スープだけを掬って口に含んだ。
コンソメスープの香ばしい味が口一杯に広がる。


「んぐ……ザナルカンドのは、おいしいけど、なんか…すぐお腹一杯になる」
「…そうなの?」
「うん。こう…なんだっけ。いもたれ?って言う奴」
「お腹がぱんぱんになる奴?」
「うん」


 熱帯気候であるバラムと、亜寒帯気候であるザナルカンドでは、生息する生き物の生態も違う。
当然、食用とされる魚も大きく差が出るものなのだが、漁業に親しんでいる訳でもない幼いスコールとティーダには、その理屈もまだよく判らなかった。

 バラムのと違うんだ、とスコールは口の中の魚を食みながら思う。
味が違うのなら、色も違うのかなぁ、と皿の上の煮魚を見詰めていると、


「スコール。スコールって、レオンのおとーと?」


 不意に聞こえた名前に、スコールはぱちりと瞬きを一つ。
ティーダの言葉を頭の中で反芻して、うん、と小さく頷く。


「レオン、は、お兄ちゃん」
「だよな。やっぱりそうなんだ」


 兄の名前をはっきりと自分で口にする事に、新鮮な気持ちを感じながら、スコールは言った。
それを聞いたティーダが、安心したように笑う。


「ん…と…ティーダ君、は」
「ティーダで良いよ。オレもスコールって呼ぶから」
「う、うん」


 呼び捨てにして良いなんて、孤児院にいた時に一緒にいた子供達以来ではないだろうか。
そんな事を考えながら、スコールはもう一度口を開く。


「ティーダ、は、お兄ちゃんの事、知ってるの?」
「うん」


 サラダのグリーンピースをフォークで除けながら、ティーダは頷く。


「ここ(ガーデン)のこと案内して貰ったし。この前も、迎えに来てくれたし」
「迎え……?」
「いいなあ、スコール。オレもあんな兄ちゃん欲しい。そしたら、父さんがいない時でも、兄ちゃんがずっと一緒にいてくれるのに」


 ───なんの話だろう、とスコールは首を傾げた。
ティーダは、フォークを噛みながら苦いものを食べた時の表情を浮かべている。
先程まで爛々と輝いていた海の青が、まるで雨の日の海のように暗く沈んでいるように見えた。

 ティーダはスープ皿に残った人参を、つんつん、と突いている。
どうしたの、と聞いても良いのだろうか。
スコールはじっとティーダを見詰めて考えていたが、結局、問い掛ける事は出来なかった。
何処か重苦しい空気を感じながら、スープからニンジンを掬い上げ、しばし見詰めた後、意を決してぱくりと口の中に入れる。
それを見たティーダが、驚いたように目を丸くしていた。


「んぅーっ…!」


 口の中のニンジンの味に、スコールの眉根がきゅうう、と寄せられる。
うーうーと唸りながら、スコールは口の中にあるものをなるべく意識しないように───そう考えている時点で、余計に意識しているのだが───顎を動かし、まだ大きさが幾らも縮まらない内に、思い切ってごくんと飲み込んだ。


「ぷはっ」
「………」


 ようやく嫌いなニンジンから解放されたスコールは、安堵の息を吐くと、パンを千切って口の中に入れた。
ニンジンを噛んでいた時とは違い、此方はもぐもぐとよく噛んでから飲み込む。
その様子を見ていたティーダが、まじまじとスコールの顔を覗き込みながら訊ねた。


「ニンジン、嫌いじゃないの?」
「…きらい」
「食べたじゃん」


 嫌いなのに食べれるの、と言う表情を浮かべて見詰めるティーダに、スコールはむぅと唇を尖らせ、


「嫌いだけど……えいようあるから、食べないとダメって、お姉ちゃんが」
「お姉ちゃん?スコール、姉ちゃんもいるの?」


 うん、とスコールは頷いた。
そんなスコールに、ティーダは少しの間考えるように沈黙した後、


「この間、一緒にいた人?」
「うん」


 三日前にティーダがスコール達と会った時、傍にいた一人の女子生徒。
スコールが姉と慕い、レオンが妹と呼ぶ、エルオーネである。

 スコールに兄だけではなく、姉もいると聞いたティーダは、机に突っ伏して「いいなあ」と呟いた。


「オレも、兄ちゃんと姉ちゃん、欲しい」
「え…と……」
「スコール、いいなあ」


 羨ましい、と全身で訴えるティーダに、スコールはおろおろと戸惑う。

 スコールが、レオンやエルオーネの弟である事を羨ましいと言われたのは、これが初めてではない。
同じ孤児院で育ったゼルやセルフィ、アーヴァインは、格好良くて頭の良いレオンが実の兄である事、実の兄と一緒に孤児院にいるスコールの事を、度々羨ましがっていた。
キスティスも、エルオーネのような優しくて確り者の姉がいる事を羨ましいと言っていたし、サイファーもエルオーネに一番に大切にされているスコールに妬いていた。
だが、その気持ちを直接ぶつけられても、スコールにはどうして良いのか判らない。

 机の下で、ばたばたとティーダの足が暴れている。
その所為で机がガタガタと音を鳴らして揺れて、スコールは残っている給食が零れないかとハラハラしていた。

 ティーダはのろのろと体を起こすと、サラダ皿に残ったグリーンピースを突きながら呟いた。


「イデア先生、ママ先生になってくれたし。レオンも、オレの兄ちゃんになってくれないかな……」


 ティーダの声は独り言のように小さかったが、スコールの耳には確りと届いていた。
淋しさを滲ませるティーダの声に、スコールは持っていたスプーンを机に置いて、机から乗り出した。

 スコールの伸ばした手が、ティーダの金色の髪をくしゃりと撫でる。
ぱち、とティーダの瞼が瞬いて、スコールを見上げた。
見られている事に気付いたスコールが、ぎくっと慌てて手を引っ込める。


「……」
「……え、う…」
「…………」
「………」


 じっと見詰める瞳に圧されたように、スコールはすとん、と椅子に座り直した。
悪い事をしてしまったかも知れない、と俯くスコールを、ティーダは丸い瞳で見つめ、


「…へへ」


 頬を赤らめ、にぱぁ、と笑って見せたティーダに、今度はスコールが目を丸くする。
青灰色の澄んだ丸い瞳が、ぱちぱちと二度三度と瞼の裏に隠れた後、スコールはほっとしたように小さく笑った。



 五時間目の授業を終えたスコールは、鞄の中に教科書やノートを詰め込み、帰宅する準備をしていた。
忘れ物がないか、何度も確かめ、スコールは鞄を肩に提げる。

 教室を出たスコールは、同様に授業が終わっている筈のエルオーネの下に急ぐのが習慣だった。
ガーデンに入学してから二年が経つが、スコールが一人でガーデンと家を往復した事はない。
バスに乗る方法も、バス停から家までの道順も覚えているけれど、一人で出歩くのはまだ怖い。
お使いとして、一人で外に出掛ける事もあったが、やはり出来るだけ兄や姉と一緒にいたい、とスコールは思う。

 廊下は、授業を終えた初等部の生徒で溢れていた。
高等部の教室の方向は静かなもので、まだ授業が続いているのだと言うのがよく判る。


(お兄ちゃん、一緒に帰れたら良いのになぁ……)


 廊下の分かれ道で立ち止まり、高等部生の教室の方向を見詰めて、スコールは思った。

 ガーデンが出来た時、スコールは幼年クラス、エルオーネは初等部、レオンは中等部生で、その時からそれぞれ授業時間はバラバラで、帰宅開始時間も異なっていた。
しかし、まだ5歳であったスコールや、9歳だったエルオーネを二人だけで帰す事は不安があった為、スコールとエルオーネはレオンの授業終了時間までガーデン内で過ごしていた。
レオンの授業終了の時間も、今ほど遅くはなかったので、彼の帰宅開始時間を待っていても、それ程苦ではなかった。
しかし、高等部生は中等部生よりも更に授業時間が長い為、冬の時期などは陽が随分と傾くまで終わらない。
夕飯の買い物をして帰るとなると尚更で、レオンが夕方からアルバイトを初めた事もあり、生活の効率を考えた末、スコールとエルオーネは陽が高い内にバラムへ帰る事に決めたのだ。

 遅くに帰る事が危ない事も、買い物が遅くなれば夕飯も遅くなるものだと言う事も、スコールは判っている。
慌ただしく買い物をして、夕飯を作って、アルバイトに行って───と忙しない兄を見ていると、大変だなぁ、とスコールも思う。
レオンに無理をさせない為にも、自分とエルオーネは、先に帰って買い物を済ませて置く方が良い。

 と、判ってはいるのだけれど、やっぱり皆一緒が良い、とスコールは思う。
最近は、中々レオンと一緒に帰る事が出来なくなってしまったから、尚更。

 むぅ、と唇を尖らせて、高等部の教室の方向を見詰めていたスコール。
その肩を、ぽんっと叩いた子供がいた。


「スコール!」
「ふあっ?」


 びくっと小さな体を飛び上がらせたスコールの後ろで、けらけらと笑う声がする。
振り返ると、無邪気に笑うティーダがいた。


「ティーダ……びっくりさせないでよ」
「びっくりなんてさせてないよ。フツーに声かけただけだし。スコールがぼーっとしてたんだろ」
「……んぅ…」


 確かに、ぼんやりとはしていたけれど。
後ろからいきなり大きな声と共に背中を押されたら、誰でも驚くものではないだろうか。
スコールはそう思うのだが、ティーダは違うのだろうか。

 首を傾げるスコールに構わず、ティーダは尋ねた。


「スコール、もう帰るの?」
「ん……お姉ちゃんの所行って、一緒に帰る」
「今すぐ?すぐ帰らないと駄目?」


 食い下がるように問うティーダに、スコールはぱちりと瞬きを一つ。

 今直ぐ帰らなければ駄目、と言う程に時間に追われている訳ではない。
早い内に帰宅して、買い物に行くと言う用事はあるけれど、冬と春の間である今、真冬の時のように殊更急ぐ事もないだろう。
レオンの授業が終わって、帰って来るまでに買い物を済ませておけば良い。


「今すぐ…じゃなくても、だいじょうぶ、だけど…」


 でも、お姉ちゃんが待ってるから、と言おうとしたスコールの手を、ティーダの手が握る。


「じゃあ、もうちょっと遊ぼ。一緒に遊ぼう」


 スコールは、自分の手をぎゅっと握るその手が、ぽかぽかと暖かく感じられた。
大好きなレオンやエルオーネ、イデアやシドとよく似た、でも彼らよりもほんの少し熱く感じられる、そんな暖かさ。

 遊ぼう、と言うティーダは笑っている。
笑っている筈なのだけれど、スコールは何故か、その笑顔が酷く淋しそうにしているように見えた。

 どうしよう、とスコールが黙って佇んでいると、ぱたぱたと駆けてくる一人の女子生徒が近付いてきた。


「スコール!」


 呼ぶ声にスコールが顔を上げると、姉の姿があった。


「お姉ちゃん」


 大好きな姉を見付けたスコールの瞳が、きらきらと輝く。
それを見たティーダが振り返り、


「あ。この間の」
「あら。えーっと、ティーダ君だよね」
「うん」


 直ぐにティーダの名前を思い出したエルオーネに、ティーダも嬉しそうに破顔して頷く。
「こんにちは」と笑って挨拶をしたしたエルオーネに、ティーダも「こんにちは!」と元気な声で挨拶を返す。

 エルオーネは、ティーダの手に握られたスコールの手を見た。


「スコール、ティーダ君とお友達になったんだ」
「う…うん」
「うん!」


 姉の言葉にほんのりと頬を赤らめて頷いたスコールと、嬉しそうにこっくりと大きく頷くティーダ。
そんな二人に、エルオーネも嬉しそうに頬を緩める。

 エルオーネの手が、ぽんぽんとスコールの濃茶色の髪を撫でる。
スコールが眩しそうに目を細めるのを、ティーダがじっと見ていた。


「…スコール、帰る?」


 ティーダの言葉に、スコールとエルオーネの視線が向けられた。
じい、とスコールを見詰める海の青は、スコールが見た笑顔と同じで、何処か淋しい色を灯している。

 スコールはエルオーネを見上げた。
エルオーネは、自分を見上げる弟の視線に気付いて、言葉以上にお喋りな瞳の声を聞き、くすりと笑う。


「冷蔵庫の中、昨日の残り物があるし。他にも何かあったと思うし。今日はお買い物、行かなくて良いね」
「じゃあ」
「レオンの授業が終わるまで、もうちょっとガーデンにいても平気だよ」


 エルオーネの言葉に、スコールだけでなく、ティーダの目も嬉しそうに輝いた。


「やった、やった!」
「あ、わ、わ、」


 ティーダがスコールの手を握ったまま、ぴょんぴょんとジャンプする。
それと一緒に万歳もするものだから、スコールの手も一緒に万歳される。
スコールはおろおろとした表情を浮かべていたが、ティーダの手を振り払う事はせず、どこかくすぐったそうに頬を赤らめていた。