この世界の為に出来ること 4


 アーロンがバラムに到着したのは、ジェクトがレオンに連絡してから三日後の事だ。
バラムとベベルの距離を考えると、限りなく早い到着だったと言って良いだろう。
ジェクトから連絡を貰ったアーロンが、その日の内にベベルを発った事は、想像に難くなかった。

 ティーダは保護者代理の不意打ちの登場に些か緊張した表情を浮かべたが、レオンとエルオーネはほっと安堵した。
普段、子供達だけでもやって行けると思っていても、やはり、大人が常に家にいてくれると言うだけで、随分と安心感は変わる。

 アーロンには今回のストーカー事件が解決するまで、レオン達の家に居候して貰う事になった。
彼は、子供達がガーデンにいっている間の留守を守り、夜もレオンが帰って来るまで、エルオーネと共に眠らずに待っている。
家には客を泊められる余分な部屋がないので、アーロンにはリビングのソファを使って貰っているのだが、それも警備の意味では功を奏していると言って良い。
食事はレオンとエルオーネが朝の内に昼食分を作り置きし、夜はエルオーネ、スコール、ティーダと揃って食べている。
不審な物音がすれば、直ぐに彼が確認してくれるので、エルオーネも矢鱈と怯える事はなくなった。
睡眠不足はまだ解消されたとは言い難いが、些細な事で目を覚ます回数は減っている。

 アーロンのお陰で、エルオーネの不安は大分和らいだ。
レオンも、アルバイト中に妹弟達の心配をしなくて良い───気掛かりなのは変わらないが───ので、随分と楽に過ごせるようになった。
兄姉が自然に過ごせるようになれば、弟達も次第に落ち着いて来る。
レオンは遅蒔きながら、周囲に相談して良かったと思うようになった。

 一日の授業が終わった後、レオンは学園長室で待っている妹弟を迎えに行く。
四人揃っての下校は、レオンの授業時間の関係と、買い物をして行く為に遅くなり勝ちだったが、弟達は嬉しそうだった。
菓子を欲しがるティーダとスコールをそれとなく宥め、今日明日の食料を買い込み、エルオーネがスコールと、レオンがティーダと手を繋いで、夕暮れの帰路を行く。


「今日ね、体育でね、跳び箱跳んだんだ。四段跳べたよ!」
「凄いじゃないか。ティーダは跳び箱、得意か?」
「うん!」
「スコールはどうだった?」
「………んぅ……」
「ふふ、また今度頑張ろうね」
「…うん」


 嬉しそうに今日の授業について語るティーダと、反対に剥れた表情を浮かべるスコール。
スコールは決して運動神経は悪くないが、勢いをつけて対象に突進しなければならない跳び箱は、寸前で恐怖心が先立つようで、どうしても踏切前で足が止まってしまうらしい。
周りの皆が出来るのに、自分だけ出来ない事が恥ずかしいようで、克服しようと頑張っているようだが、まだまだ実りそうにない。

 家の近くまで来ると、レオンと手を繋いでいたティーダが「あっ」と声を漏らした。
青が見ている方向を見ると、家の門前にアーロンが立っていた。

 アーロンは辺りを見回すように首を巡らせており、帰って来た四人に気付くと、心なしか強張っていた肩を緩める。


「ただいま、アーロンさん」
「ただいま!」
「ああ」


 レオンとティーダの帰宅の挨拶に、アーロンからの返事は簡素なものである。

 鍵のかかっていた玄関を開けて、レオン達が入った後、最後にアーロンが入る。
閉じた玄関にもう一度鍵をかけて、レオンは開かない事を確認してから、ドアから離れた。
その間に、エルオーネ達は鞄をテーブルに置き、洗面所に向かう。

 レオンがキッチンで手を洗い、買い物袋の中身を片付けていると、アーロンが「少し良いか」と言って入って来た。


「なんですか?アーロンさん」
「…ガーデンの方は変わりないか」
「はい。……手紙の方も、相変わらずで。シド先生達が校内巡回の回数を増やしてくれているので、枚数は減ったんですけど」


 エルオーネへの不気味な手紙は、一日一枚が見付かるようになった。
発見場所は教室のエルオーネの席なのだが、シドやエッジの警戒のお陰か、そのタイミングがかなり限定されるようになった。
以前は早朝と移動教室の後に置かれていたのだが、現在は移動教室となる授業の後で、その際、隣接しているクラスも移動教室で無人となる。


(エルと同じクラスの人間なら、教室が無人になるタイミングを狙わなくても、手紙を置く事が出来る……今の状態でそんな事をすれば、目立つだろうけど。でも、隣の教室も無人になる時に置かれてるって事は、其処のクラスの生徒が……?)


 シドの校内巡回と、エッジが見張を買って出ているとは言え、彼等もエルオーネの教室に四六時中張り付いている訳ではない。
シドは他の場所も見回らなければならないし、エッジは授業がある。
犯人が隣近所のクラスの生徒なら、授業時間と休憩時間が切り替わる直前を狙えば、十分犯行は可能だ。
隣接したクラスが無人の状態なら、忘れ物をしたと言って慌てて戻った生徒が間違って入室しても、───同じ人物が何度も目撃されると言う不自然さがなければ───怪しまれる事はないだろう。

 思案するレオンの傍らで、アーロンが一つ咳払いをする。
レオンは自分の思考に沈んでいた事に気付いて、慌てて頭を振った。


「えっと……その、家の方は、どうでした?」
「……その事だが」


 アーロンの重い声に、レオンの眉間に皺が寄せられる。


「夕方、家の周りを歩き回る人影があった。俺がいると気付いているのか、敷地内までは入って来ていない。生憎、此方からは顔を見る事は出来なかった」
「夕方……」
「今から一時間は前の話だ」
「…それなら、中等部の授業が終わる頃ですね」


 アーロンが玄関前でレオン達の帰宅を待っていたのは、これが理由だったのだ。
ポスト内を漁って現行犯逮捕になる可能性も避け、敷地内まで入っていないなら不法侵入にもならない。
しかし、兄弟の帰宅時に明らかに不審な影があったとなれば、エルオーネがまた怯えてしまうだろう。
だが、アーロンが家の前で自身の存在を主張すれば、少なくとも兄弟が帰って来る玄関付近に不審な影がうろつく事はない。

 彼女の安全を確保する為には、隠さずに話して警戒させた方が良いのだろうが、限界近くまで追い詰められていた彼女が、今はようやく安心して過ごせるようになったのだ。
また怖がらせてしまうのは、レオンの望む事ではなかった。


「有難う御座います、アーロンさん。エルには、この事は秘密にして下さい」
「ああ。お前の事だ、そう言うだろうと思った」
「……有難う御座います」


 察しの良い大人に、レオンは眉尻を下げて苦笑した。

 食料を詰めた冷蔵庫の蓋を閉じて、レオンは出して置いた今晩の食材を調理棚に並べる。
キャベツを包丁でざくざくと切っていると、


「不審者の事だがな。遠目に見ただけだから、確かな事は言えないが、随分と小柄に見えた」
「小柄……?」
「目測だが、エルオーネと同じ程度だろう」


 エルオーネは、まだ幼いスコールやティーダよりは背が高いが、平均で言うと小柄だ。
女の子らしく細く長い手足に、肩幅も小さく、首も細い。
成長期のピークを迎え、日に日に女性らしい体つきになって行くエルオーネの身長は、まだゆっくりと伸びてはいるものの、いつかは弟達に抜かれてしまいそうだった。
クラスで背の順に並ぶと、初等部の頃は中ほどだったのが、最近は前に近くなっているらしい。

 そんなエルオーネと同程度に小柄───その言葉を聞いて、レオンは想像していた顔も知らない犯人像が、根本から覆されるのを感じた。


(……女子……?)


 この時点でレオンは、“妹についたストーカー”と言う観点から、勝手に犯人を“男”として想像していた事に気付いた。
どうして彼女がストーカーに遭わなければならなかったのか、エッジとロックを交えて何度か考えたが、結局、どれも想像の域は出ていない。
その想像の中で、可能性として一番に考えられたのは、エルオーネに好意を持った者が、それに気付かないか、或いは行動した末に報われなかった結果、身勝手な逆恨みで彼女に嫌がらせをしていると言うものだった。
平時、エルオーネが他人に恨まれる様な性格をしていない事を知っているだけに、彼女が人に恨まれる過程から想像してみた所、こうした想像に行き着いたのだ。

 レオンは、エルオーネの周りにいる女子生徒の顔を、覚えているだけ思い浮かべた。
その少女達は皆、エルオーネの友人だから、皆が彼女を見て笑っている。
何度考えてみても、エルオーネが同性の人間から恨まれる様な理由は、思い付かなかった。

 思考の海の中、混乱で動きを止めたレオンを余所に、アーロンがキッチンを出て行く。
入れ代わりに入って来たのは、エルオーネとスコールだった。


「あれ?レオン、どうしたの?」
「……あ……いや、なんでもない」


 妹の声に我に返ったレオンは、慌てて表情を繕って言った。
兄の様子にエルオーネは首を傾げたが、キャベツを刻む手が再開されると、それ以上問う事はなかった。

 リビングの方では、ティーダが早速ゲームで遊んでいる音がする。
アーロンが「宿題は」と問うと、ティーダはコントローラーを手に「もう終わったー」と言った。
スコールとエルオーネも同様で、三人は学園長室でレオンを待っている間に、課題を終わらせているらしい。

 エプロンを身に付けているエルオーネの隣で、スコールがそわそわとしている。
最近、スコールはレオン達がキッチンに入ると、一緒になってキッチンで過ごす事が増えた。
お手伝いしたい、と言い出したスコールは、構って欲しいのもあるのだろうが、最近エルオーネの様子が可笑しかった事が気掛かりなのだろう、何か力になりたいと思っているのだ。
────強面を苦手に思っているアーロンから、少し離れていたいと言う気持ちも、否定は出来ないが。

 刻み終わったキャベツを鍋に入れ、火にかけて菜箸で焦げないように掻き回しながら、レオンは言った。


「今日は俺のアルバイトもないから、ゆっくりで良いからな」


 ストーカー事件の顛末をマスターに説明して以来、レオンのアルバイトの時間は少なくなっている。
アーロンが来て一先ず安心はしたものの、やはり家族の事が心配だろうと、マスターが気を遣ってくれたのだ。

 だが、夕飯の準備を始めるには、少々遅い時間である事も確かで、


「ティーダがお腹空いたって言ってたの。早くしないと、摘まみ食いしに来ちゃうよ」
「ああ、それもそうか。なら急がないとな」
「僕もお腹空いた」
「判った判った」


 エプロンの端を引っ張って催促する弟に、レオンはくすくすと笑って、濃茶色の髪をくしゃりと撫でる。
お皿出すの手伝って、と言う姉の声に、嬉しそうに駆け寄る弟を見ながら、レオンは鍋の中のキャベツに塩を振った。





 ロックから、先輩に頼んでいた小型カメラが出来たと言う話が挙がり、レオンは昼休憩を利用して、カメラの受け取りと礼を兼ね、エッジと共にガーデン寮へ向かった。
バラムで家住まいをしているレオンは、余り寮には近付かないので、少し物珍しい気持ちで周りを見ながら歩いて行く。

 ロックに教えられた先輩の部屋番号の前で足を止め、ノックをする。
程無く、中から先に入っていたロックの声が聞こえ、ドアが開かれた。


「お、ちゃんと来れたな。入って良いぞ、許可は出てるから」
「ああ。失礼します」
「しまーす」


 ロックに促され、ドアの敷居を跨ぐ。

 ガーデン寮の内部は、生徒二名のルームシェアが基本となっていたのだが、入寮生の増加と要望に伴い、施設の増築と共に様々な部屋が用意されるようになった。基本的には、共同となる大部屋を挟んで左右に二部屋ずつ個人部屋が設置されている部屋が多く、プライベートを保持しつつ共同生活が送られるようになっている。
二人分のスペースを確保した広めの部屋もあり、其方は大抵、兄弟姉妹など身内と共に入寮している生徒が宛がわれる事が多かった。
個人部屋の中は、ベッドとクローゼット、本棚の他、システムキッチンとユニットバスが誂られている。

 レオン達が初めて入った部屋の中───ベッド等の家具が二つずつ並べられているので、どうやら誰かと相部屋生活をしているらしい───は、整然としながらも、沢山の物で溢れていた。
それらの殆どは機械や電子コンピューターで、この部屋の主が自分で作り上げたものだと言う。
幾つかはガーデン祭の時、大学部の作品展示などで見た覚えがあった。
その部屋のカーペット床に座り、手許で小さな機械を弄っているのが、大学部一年に在籍しており、ロックの友人であり、今回の事件に当たってカメラを製作してくれたエドガー・ロニであった。

 エドガーは見事なブロンドの髪をバックにし、後ろ髪を小さなリボンで結んでいる。
エドガーはロックが戻って来た事に気付くと、機械に落していた視線を上げ、初めて顔を合わせた後輩達を見付け、「やっ」と手を上げて気さくな挨拶をする。


「えーと……そっちの茶髪の方がレオンで良かったかな」
「そうそう。銀髪の方がエッジな」


 先輩と後輩と言う間柄ながら、ロックとエドガーの会話はフランクなものだった。
付き合いが長いのかな、と思いつつ、レオンはぺこりと頭を下げる。


「初めまして。この度は貴重なお時間を頂いてしまって、すみません」
「ああ、良いって良いって。そう言う堅苦しいのも無くて良い。ロックからの頼みだし、何より、女性が困っていると聞けば、黙っている訳には行かないからな」


 固い口調のレオンに対し、エドガーは笑いながら言った。
それから、手に持っていた小さな物───カメラを差し出す。


「ほら、これが頼まれてた物だ。目立たないように小さくした分、グラフィックチップが足りなくて録れる画は多少粗くなったが、十分だろう。使い方はロックに説明してあるから、そっちから聞いてくれ」
「って言っても、最低限の取り付けと動かし方しか聞いてないけど」
「それだけ判れば十分だろう。他に色々やろうと思えば出来ない事はないが───そっちについても説明しようか?ああ、ひょっとしてスペックについて聞きたいのか?それなら」
「いや、要らない」


 きらきらと子供のように目を輝かせ始めたエドガーに、ロックがきっぱりと断る。
エドガーは判り易く、残念そうに「そうか…」と言って、本棚の上に置いていた長方形のハードディスクを取り出す。


「8GB分のHDDだ。画像が粗いし、音声も捨てた分、容量もそんなに食わないだろうから、24時間回しても十分録れる筈だ。カメラのバッテリーも満タンにしたから、三日位は保つ。学園長の許可は得ているとは聞いたが、盗撮と同じ事をしているのは変わりないし、内容を確認したら、証拠以外は直ぐ消すようにな」
「はい」


 エルオーネの教室にカメラを取り付ける事については、レオンが既にシドとイデアから許可を貰っている。
事件の性質上、他の生徒に気付かれては意味がない為、盗撮になる事も含め、説明してあった。
シドとイデアは、事件が未だ解決の糸口を見付けられていない事に胸を痛め、愛する子供達の為にと特別に許可を出してくれたのだ。

 動作確認と作業確認を兼ねて、ロックがカメラとHDDを繋ぐ。
更にエドガーがHDDをテレビに繋ぐと、テレビにレオンとエッジの顔が映った。


「おお、撮れてる撮れてる」
「へー、すげぇな。これ、マジで先輩の手作りなのか?」


 手の中に簡単に収まる小さなカメラを見ながら、エッジが感心した。
エドガーはもうちょっと綺麗に映るようにしたかったんだが、と呟きつつ、


「設計と組み立てたのは俺だ。部品はザナルカンドから調達。やっぱりあそこは良いな、色んな部品が格安で手に入る。輸送費が高いのが難点だが」


 言いながら、エドガーはテレビに繋いだHDDのコードを抜く。
砂嵐を映すテレビの電源を切って、エドガーはくるりと向き直ると、カメラをエアクッションに包んでいるロックの隣へ腰を下ろす。


「で、ロック。例の報酬については、ちゃんと言ってくれたよな」


 エドガーの言葉に、ぴたり、とロックの手が止まる。
明らかに動揺しているロックに、エドガーの目がすうと細くなり、筋肉質な腕がロックの首をホールドした。


「おいおい、まさか話してないとかじゃないよな?」
「………」
「定期試験が終わった後とは言え、それなりに大変だったんだぞ?別に難しい事を頼んだ訳じゃないだろう。ほんの少しで良いんだ」
「……その“少し”で色々事件起こすだろ、いつも」
「人聞きの悪い言い方をするなよ。俺は挨拶して周ってるだけだ」


 ぼそぼそと声を潜めて話をしているロックとエドガーに、レオンとエッジは顔を見合わせる。

 報酬云々と言うのは、カメラ作製の依頼の対価の話であろうとは予測出来た。
となれば、レオンが話を聞き流す訳には行かない。
そもそも、事件解決の為にエドガーを頼ったのはレオンであり、ロックは知り合いであるからと伝手になってくれただけなのだから。


「あの、先輩。カメラのお礼の事なんですが」
「あっ、バカ!」
「え?」
「おお。いいね、話が早くて助かる!」


 レオンの言葉にロックが思わずと言った反応をした傍らで、エドガーが溌剌とした表情で食い付いた。
きらきらとした顔を寄せられて、レオンは体を退かせつつ、最初に理をしておく。


「ええと、その……金銭に関しては、うちはあまり余裕がないので、厳しいのですが……」
「そんな事は良いんだ。機械は俺が好きで触っているものだし、今回のカメラ作りも良い勉強にさせて貰った」
「太っ腹だな、あんた」


 カメラ作製に関して金銭的な負担は全く気にしていないと言うエドガーに、エッジが益々感心したように言う。
素直に尊敬の目で見上げる後輩に、エドガーはウィンクして見せる。


「でも、そうすると、お礼は……」
「その事だが、君はロックから何か聞いてないか?」
「?」


 確認するエドガーに、レオンはことんと首を傾げる。
先程の遣り取りからして、ロックは既にエドガーが求める対価について知っているようだが、レオンは彼から何も聞いていない。
家族の安全の為、見ず知らずの人間に協力を仰いだのだから、その相手に礼をするのは吝かではなかった。
エッジやロックにもいつか礼をしなければ、と思っているのだから、エドガーにだけ何もしないと言う訳には行かない───とレオンが考えているのは知っているだろうに、ロックがエドガーの言う対価について何も知らせていないと言うのは、どういう事だろうか。

 思案するレオンの肩を、がしっ、とエドガーの手が掴む。
精悍な顔立ちがずいと近付けられて、レオンは反射的に首を引っ込めて距離を保った。
そんなレオンに構わず、エドガーはきらきらとした貌で言った。


「今回の事件が解決したら、君の妹に逢わせてくれ」
「………はい?」


 思いも寄らなかった先輩の言葉に、レオンは蒼灰色の瞳を丸くする。
床に座ったエッジも同様の表情を浮かべており、ロックだけが「あーあ……」と溜息を吐いている。


「出来れば、一緒にお茶でも出来ればと思うが、今回は事が事だからな。其処まで我儘は言わない。面識のない人間と、大切な妹を二人きりにさせるなど、俺が君の立場でも反対するだろう。だから、一目でだけでいい良い、君の妹に逢わせてくれないか」
「……はあ……え?」
「大丈夫だ、俺は君の妹に何かしようとは思っていない。勿論、いかがわしい事だって一切考えていない」
「………」
「疑っているか?それも無理はない。俺も気持ちは判るから、俺が君の妹と逢う時は、君も同席してくれ。その方が彼女も安心するだろう」
「……は、あ…」
「ロックに聞いたが、可愛い子だって言うじゃないか。それなら尚更、挨拶だけでもしておかないと、失礼になるって言うものだ」
「………えーと……?」
「あんた、何言ってんだ?」


 混乱で言葉を失っているレオンに代わり、先に復帰したエッジが胡乱な眼でエドガーを見上げて言った。
報酬の話だよ、とけろりとした貌で言うエドガーの前で、レオンはしばらくの間、フリーズしたまま動けなかった。